0181◎安楽集 巻上
釈*道綽撰
一 総標【総説】
【1】 ◎^この ¬安楽集¼ 一部のうちに、 総じて十二の大門あり。 みな経論を引きて証明して、 信を勧め往くことを求めしむ。
◎此0573ノ¬安楽集¼一部之内ニ、総ジテ有リ↢十二ノ大門↡。皆引キテ↢経論ヲ↡証明シテ、勧メ↠信ヲ求メシム↠往クコトヲ。
二 別釈
Ⅰ【第一大門】
ⅰ 標
【2】 ^いま先づ第一の大門のうちにつきて、 文義衆しといへども、 略して九門を作りて*料簡し、 しかる後に文に造らん。
今先ヅ就キテ↢第一ノ大門ノ内ニ↡、文義雖モ↠衆シト、略シテ作リテ↢九門ヲ↡料簡シ、然ル後ニ造ラム↠文ニ。
二 Ⅰ ⅱ 列
a 教興所由
^第一に▽*教興の所由を明かして、 *時に約し機に被らしめて勧めて浄土に帰せしむ。
第一ニ明シテ↢教興ノ所由ヲ↡、約シ↠時ニ被ラシメテ↠機ニ勧メテ帰セシム↢浄土ニ↡。
二 Ⅰ ⅱ b 説聴方軌
^第二に▽*諸部の大乗によりて*説聴の方軌を顕す。
第二ニ拠リテ↢諸部ノ大乗ニ↡顕ス↢説聴ノ方軌ヲ↡。
二 Ⅰ ⅱ c 発心久近
^第三に▽大乗の聖教によりて、 もろもろの衆生の*発心の久近、 *供仏の多少を明かして、 *時会の聴衆をして力め励みて発心せしめんと欲す。
第三ニ拠リテ↢大乗ノ聖教ニ↡、明シテ↢諸ノ衆生ノ発心ノ久近、供仏ノ多小ヲ↡、欲ス↠使メムト↢時会ノ聴衆ヲシテ力メ励ミテ発心セ↡。
二 Ⅰ ⅱ d 宗旨不同
^第四に▽諸経の*宗旨の不同を弁ず。
第四ニ弁ズ↢諸経ノ宗旨ノ不同ヲ↡。
二 Ⅰ ⅱ e 諸経得名
^第五に諸経の得名おのおの異なることを明かす。 ¬*涅槃¼・「*般若経」 等のごときは法につきて名となす。 おのづから喩へにつくことあり、 あるいは事につくことあり、 また時につき、 処につくことあり。 この例一にあらず。 いまこの ¬*観経¼ は人法につきて名となす。 「仏」 はこれ人の0182名、 「説観無量寿」 はこれ法の名なり。
第五ニ明ス↢諸経ノ得名各ノ異ナルコトヲ↡。如キハ↢¬涅槃¼・¬般若経¼等ノ↡就キテ↠法ニ為ス↠名ト。自ラ有リ↠*就クコト↠喩ニ、或イハ有リ↠就クコト↠事ニ、亦有リ↢就キ↠時ニ就クコト↟処ニ。此ノ例非ズ↠一ニ。今此ノ¬観経ハ¼就キテ↢人法ニ↡為ス↠名ト。「仏ハ」是人ノ名、「説*観无量寿ハ」是法ノ名*也。
二 Ⅰ ⅱ f 説人差別
^▼第六に説人の差別を料簡す。 諸経の起説五種を過ぎず。 一には仏の自説、 二には*聖弟子の説、 三には*諸天の説、 四には*神仙の説、 五には*変化の説なり。 この ¬観経¼ は、 五種の説のなか、 世尊の自説なり。
第六ニ料↢簡ス説人ノ差別ヲ↡。諸経ノ起説不↠過ギ↢五種ヲ↡。一ニ者仏ノ自説、二ニ者聖弟子ノ説、三ニ*者諸天ノ説、四ニ者神仙ノ説、五ニ者変化ノ説ナリ。此ノ¬観経¼者、五種ノ説ノ中、世尊ノ自説ナリ。
二 Ⅰ ⅱ g 三身三土
^第七に▽略して*真・応の二身を明かし、 ならびに真・応の二土を弁ず。
第七ニ略シテ明ス↢真・応ノ二身ヲ、并ニ弁ズ↢真・応ノ二土ヲ↡。
二 Ⅰ ⅱ h 凡聖通往
^第八に▽弥陀の浄国は位上下を該ね、 ▼*凡聖通じて往くことを顕す。
第八ニ顕ス↧弥陀ノ浄国ハ位該0574ネ↢上下ヲ↡、凡聖通ジテ往クコトヲ↥。
二 Ⅰ ⅱ i 三界摂不
^第九に▽弥陀の浄国の*三界の摂と不摂とを明かす。
第九ニ明ス↣弥陀ノ浄国ノ三界ノ摂ト与ヲ↢不摂↡也。
二 Ⅰ ⅲ 釈
a【教興所由】
イ 標〔約時被機〕
【3】 ^第一大門のなか、 △*教興の所由を明かして、 時に約し機に被らしめて勧めて浄土に帰せしむとは、
第一大門ノ中、明シテ↢教興ノ所由ヲ↡、約シ↠時ニ被ラシメテ↠機ニ勧メテ帰セシムト↢浄土ニ↡者、
二 Ⅰ ⅲ a ロ 釈
(一)総示
(Ⅰ)述意
^▼もし教、 時機に*赴けば、 修しやすく悟りやすし。 ▼もし機と教と時と乖けば、 修しがたく入りがたし。
若シ教赴ケバ↢時機ニ↡、易ク↠修シ易シ↠悟リ。若シ機ト教ト時ト乖ケバ、難ク↠修シ難シ↠入リ。
二 Ⅰ ⅲ a ロ (一)(Ⅱ)引証
(ⅰ)正法念経
^▼このゆゑに ▼*¬*正法念経¼ にのたまはく、
是ノ故ニ¬正法念経ニ¼云ク、
^「行者一心に道を求むる時、 つねにまさに時と方便とを観察すべし。
もし時を得ず、 方便なくは、 これを名づけて失となし利と名づけず。
「行者一心ニ求ムル↠道ヲ時 | *常ニ当ニシ↣観↢察ス時ト方便トヲ↡ |
若シ不↠得↠時ヲ、无クハ↢方便↡ | 是ヲ名ケテ為シ↠失ト不↠名ケ↠利ト |
^◆なんとなれば、
何トナレバ者
^もし湿へる木を攅りてもつて火を求めんに、 火得べからず、 時にあらざるがゆゑなり。
0183もし乾きたる薪を折りてもつて火を覓めんに、 火得べからず、 智なきがゆゑなり」 と。
如攅リテ↢湿ヘル木ヲ↡以テ求メムニ↠火ヲ | 火不↠可カラ↠得、非ザルガ↠時ニ故ナリ |
若シ折リテ↢乾キタル薪ヲ↡以テ覓メムニ↠*火ヲ | *火不↠可カラ↠得、无キガ↠智故ナリト」
|
二 Ⅰ ⅲ a ロ (一)(Ⅱ)(ⅱ)大集経1〔五箇五百年〕
^◆このゆゑに ¬*大集月蔵経¼ (意) にのたまはく、 「^▼仏滅度の後の第一の五百年には、 わがもろもろの弟子、 慧を学ぶこと堅固なることを得ん。
是ノ故ニ¬大集月蔵経ニ¼云ク、「仏滅度ノ後ノ第一ノ五百年ニハ、我ガ諸ノ弟子学ブコト↠*慧ヲ得ム↢*堅固ナルコトヲ↡。
^◆第二の五百年には、 定を学ぶこと堅固なることを得ん。
第二ノ五百年ニハ、学ブコト↠定ヲ得ム↢堅固ナルコトヲ↡。
^◆第三の五百年には、 多聞・読誦を学ぶこと堅固なることを得ん。
第三ノ五百年ニハ、学ブコト↢多聞・*読誦ヲ↡得ム↢堅固ナルコトヲ↡。
^▽第四の五百年には、 塔寺を造立し福を修し懴悔すること堅固なることを得ん。
第四ノ五百年ニハ、造↢立シ塔寺ヲ↡修シ↠福ヲ懴悔スルコト得ム↢堅固ナルコトヲ↡。
^▼第五の五百年には、 *白法隠滞して多く*諍訟あらん。 微しき善法ありて堅固なることを得ん」 と。
第五ノ五百年ニハ、白法隠滞シテ多ク有ラム↢*諍訟↡。微シク有リテ↢善法↡得ムト↢堅固ナルコトヲ↡。」
二 Ⅰ ⅲ a ロ (一)(Ⅱ)(ⅲ)大集経2
^▼またかの ¬経¼ (大集経・意) にのたまはく、 「^諸仏の世に出でたまふに、 四種の法ありて衆生を度したまふ。 なんらをか四となす。
又彼ノ¬経ニ¼云ク、「諸仏ノ出デタマフニ↠世ニ有リテ↢四種ノ法↡度シタマフ↢衆生ヲ↡。何等ヲカ為ス↠四ト。
^▽一には口に十二部経を説く。 すなはちこれ*法施をもつて衆生を度したまふ。
一ニ者口ニ説ク↢十二部経ヲ↡。即チ是法施ヲモテ度シタマフ↢衆生ヲ↡。
^▽二には諸仏如来には無量の光明・相好まします。 一切衆生ただよく心を繋けて観察すれば、 益を獲ざるはなし。 これすなはち身業をもつて衆生を度したまふ。
二ニ者諸仏如来ニハ有ス↢无量ノ光明・相好↡。一切衆生但能ク繋ケテ↠心ヲ観察スレバ、無シ↠不ルハ↠獲↠益ヲ。是即チ身業ヲモテ度シタマフ↢衆生ヲ↡。
^◆三には無量の徳用・神通道力・種々の変化まします。 すなはちこれ神通力をもつて衆生を度したまふ。
三ニ者有ス↢无量ノ徳*用・神通道力・種種ノ変化↡。即チ是神通力ヲモテ度シタマフ↢衆生ヲ↡。
^◆四には諸仏如来には無量の名号まします。 もしは*総、 もしは*別なり。 それ衆生ありて心を繋けて称念すれば、 障を除0184き益を獲て、 みな仏前に生ぜざるはなし。 すなはちこれ名号をもつて衆生を度したまふ」 と。
四ニ者諸仏如来ニハ有ス↢无量ノ名号↡。若シハ総若シハ別ナリ。其レ有リテ↢衆生↡繋ケテ↠心ヲ称念スレバ、莫シ↠不ルハ↣除キ↠障ヲ獲テ↠益ヲ皆生ゼ↢仏前ニ↡。即チ是名号ヲモテ度0575タマフト↢衆生ヲ↡。」
二 Ⅰ ⅲ a ロ (一)(Ⅲ)結示
(ⅰ)正しく上文を結す
^▼いまの時の衆生を計るに、 すなはち仏世を去りたまひて後の△第四の五百年に当れり。 まさしくこれ懴悔し福を修し、 仏の名号を称すべき時なり。 ▲もし一念阿弥陀仏を称すれば、 すなはちよく八十億劫の生死の罪を除却す。 一念すでにしかなり。 いはんや常念を修せんをや。 すなはちこれつねに懴悔する人なり。
計ルニ↢今ノ時ノ衆生ヲ↡、即チ当レリ↢仏去リタマヒテ↠世ヲ後ノ第四ノ五百年ニ↡。正シク是懴悔シ修シ↠福ヲ、応キ↠称ス↢仏ノ名号ヲ↡*時ナリ。若シ一念称スレバ↢阿弥陀仏ヲ↡、即チ能ク除↢却ス八十億劫ノ生死之罪ヲ↡。一念既ニ爾ナリ。況ヤ修セムヲヤ↢常念ヲ↡。即チ是恒ニ懴悔スル人也。
二 Ⅰ ⅲ a ロ (一)(Ⅲ)(ⅱ)其の兼正を論ず
^またもし聖 (*釈尊) を去ること近ければ、 すなはち前のもの定を修し慧を修するはこれその正学なり、 後のものはこれ兼なり。 もし聖を去ることすでに遠ければ、 すなはち後のもの名を称するはこれ正にして、 前のものはこれ兼なり。 なんの意ぞしかるとならば、 ▽まことに衆生、 聖を去ること遥遠にして、 *機解浮浅暗鈍なるによるがゆゑなり。
*又若シ去ルコト↠聖ヲ近ケレバ、*即チ前ノ者修シ↠定ヲ修スルハ↠*慧ヲ是*其ノ正学ナリ、後ノ者ハ是兼ナリ。如去ルコト↠聖ヲ已ニ遠ケレバ、則チ後ノ者称スルハ↠名ヲ是正ニシテ、前ノ者ハ是兼ナリ。何ノ意ゾ然ルトナラバ者、寔ニ由ルガ↢衆生去ルコト↠聖ヲ遥遠ニシテ、機解浮浅暗鈍ナルニ↡故也。
二 Ⅰ ⅲ a ロ (二)正しく今教興を明す
(Ⅰ)先づ本経の興起を明す
^ここをもつて*韋提大士、 みづからおよび末世の五濁の衆生の輪廻多劫にしていたづらに痛焼を受くるを*哀愍するがゆゑに、 よくかりに苦の縁に遇ひて▲*出路を諮開す。 しかれば大聖 (釈尊) 弘慈をもつて勧めて極楽に帰せしむ。
是ヲ以テ韋提*大士、自ラ為及哀↣愍スルガ*末世ノ五濁ノ衆生ノ輪廻多劫ニシテ徒ニ受クルヲ↢痛焼ヲ↡故ニ、能ク*仮ニ遇ヒテ↢苦ノ縁ニ↡諮↢開ス出*路ヲ↡。然バ大聖*弘慈ヲモテ勧メテ帰セシム↢極楽ニ↡。
二 Ⅰ ⅲ a ロ (二)(Ⅱ)次に今集の教興を叙す
^もし*ここにおいて*進趣せんと欲せば、 *勝果階ひがたし。 ただ浄土の一門のみありて、 *情をもつて悕ひて趣入すべし。 もし*衆典を披き尋ねんと欲せば、 勧むるところいよいよ多し。 つひにもつて▼*真言を0185採り集めて助けて*往益を修せしむ。 なんとなれば、 前に生ずるものは後を導き、 後に去かんものは前を訪ひ、 連続無窮にして願はくは休止せざらしめんと欲す。 無辺の生死海を尽さんがためのゆゑなり。
若シ欲セバ↢於テ↠斯ニ進*趣セムト↡、勝果難シ↠階ヒ。唯有リテ↢浄土ノ一門ノミ↡、可シ↢以テ↠情ヲ悕ヒテ趣入ス↡。若シ欲セバ↣*披キ↢*尋ネムト衆典ヲ↡、勧ムル処弥ヨ多シ。遂ニ以テ採リ↢集メテ真言ヲ↡助ケテ修セシム↢往益ヲ↡。何トナレバ者欲ス↠使メムト↣前ニ生ズル者ハ導キ↠後ヲ、後ニ去カム者ハ*昉ヒ↠前ヲ、連続无窮ニシテ願クハ不ラ↢*休止セ↡。為ノ↠尽サムガ↢无辺ノ生死海ヲ↡故ナリ。
二 Ⅰ ⅲ b【説聴方軌】
イ 標章
【4】 ^第二に△諸部の大乗によりて説聴の方軌を明かすとは、 ▼なかに六あり。
第二ニ拠リテ↢諸部ノ大乗ニ↡明スト↢説聴ノ方軌ヲ↡者、於テ↠中ニ有↠リ六。
二 Ⅰ ⅲ b ロ 引釈
(一)先づ方軌を示す
(Ⅰ)正しく方軌を示す
1. 大集経
^第一に ▼¬*大集経¼ (意) にのたまはく、 「説法のものにおいては医王の想をなし、 抜苦の想をなせ。 説くところの法には*甘露の想をなし、 *醍醐の想をなせ。 それ法を聴くものは*増長勝解の想をなし、 愈病の想をなせ。 もしよくかくのごとく説くもの、 聴くものは、 みな仏法を紹隆するに堪へたり、 つねに仏前に生ず」 と。
第一ニ¬大集経ニ¼云ク、「於テハ↢説法ノ者ニ↡作シ↢医王ノ想ヲ↡、作セ↢抜苦ノ想ヲ↡。所↠説ク之法ニハ作シ↢甘露ノ想ヲ↡、作セ↢醍醐ノ想ヲ↡。其レ聴ク↠法ヲ者ハ作シ↢増長勝解ノ想ヲ↡、作セ↢愈病ノ想ヲ↡。若シ能ク如ク↠是クノ説ク者聴ク者ハ、皆堪ヘタリ↣紹↢隆スルニ仏法ヲ↡、常ニ生ズト↢仏前ニ↡。」
2. 大智度論 一
^第二に ¬*大智度論¼ にいはく、
第二ニ¬大智度*論ニ¼云ク、
^「聴くものは*端視して*渇飲のごとくせよ。 一心に*語議のなかに入り、
法を聞きて踊躍し心に悲喜す。 かくのごとき人にために説くべし」 と。
「聴ク者ハ端視シテ如クセヨ↢渇飲ノ↡ | 一心0576ニ入リ↢於語議ノ中ニ↡ |
聞キテ↠法ヲ踊躍シ心ニ悲喜ス | 如キ↠是クノ之人ニ応シト↢為ニ説ク↡。」 |
二 Ⅰ ⅲ b ロ (一)(Ⅱ)其の益を挙げて示す
3. 大智度論 二
^第三にかの ¬論¼ (大智度論・意) にまたいはく、 「二種の人ありて、 福を得ること無量無辺なり。 なんらをか二となす。 一には楽みて法を説く人、 二には楽みて法を聴く人なり。
第三ニ彼ノ¬*論ニ¼又云、「有リテ↢二種ノ人↡、得ルコト↠福ヲ*无量无辺ナリ。何等ヲカ為ス↠二ト。一ニ者楽ミテ説ク↠*法ヲ人、二ニ者楽ミテ聴ク↠法ヲ人ナリ。
^このゆゑに*阿難、 仏にまうしてまうさく、 ª*舎利弗・*目連なに0186をもつてか得るところの智慧・神通、 *聖弟子のなかにおいてもつとも殊勝なりとなすº と。
是ノ故ニ阿難白シテ↠仏ニ言ク、舎利*弗・目連何ヲ以テカ所ノ↠得ル智*慧・神通、於テ↢聖弟子ノ中ニ↡最モ為スト↢殊勝ナリト↡。
^仏、 阿難に告げたまはく、 ªこの二人は、 *因中の時において、 *法の因縁のために千里を難しとせず。 このゆゑに今日もつとも殊勝なりとなすº」 と。
仏告ゲタマハク↢阿難ニ↡、此之二人ハ於テ↢因中ノ時ニ↡、為ニ↢法ノ因縁ノ↡千里ヲ不↠難シトセ。是ノ故ニ今日最モ為スト↢殊勝ナリト↡。」
二 Ⅰ ⅲ b ロ (二)宿因に約して明す
(Ⅰ)宿善の有無を明す
4. 大経(下) 一
^第四に ¬*無量寿大経¼ (下) にのたまはく、
第四ニ¬無量寿大経ニ¼云ク、
^「▲もし人善本なければ、 この経を聞くことを得ず。
清浄に戒を有てるもの、 すなはち正法を聞くことを獲」 と。
「若シ人无ケレバ↢善本↡ | 不↠得↠*聞クコトヲ↢此ノ経ヲ↡ |
清浄ニ有テル↠戒ヲ者 | 乃チ獲ト↠聞クコトヲ↢正法ヲ↡」
|
5. 大経(下) 二
^第五ごにのたまはく (大経・下意)、
第五ニ云ク、
^「▲曽更むかし世せ尊そんを見みたてまつるもの、 すなはちよくこの事じを信しんず。
▲億おくの如来にょらいに奉事ぶじして、 ▲楽このみてかくのごとき教きょうを聞きく」 と。
「*曽更 ムカシ 見タテマツルモノ↢世尊ヲ↡ | 則チ能ク信ズ↢此ノ事ヲ↡ |
奉↢事シテ*億ノ如来ニ↡ | 楽コノミテ聞クト↢如キ↠是クノ教ヲ↡」 |
二 Ⅰ ⅲ b ロ (二)(Ⅱ)双て其の善悪を示す
6. 平等覚経
^第だい六ろくに ¬*無む量りょう清浄しょうじょう覚がく経きょう¼ (四・意) にのたまはく、 「▲善ぜん男なん子し・善ぜん女人にょにん、 浄じょう土どの法門ほうもんを説とくを聞ききて、 心しんに悲喜ひきを生しょうじて身みの毛け為竪いよだちて抜ぬけ出いづるがごとくなるものは、 まさに知しるべし、 この人ひとは*過去かこ宿命しゅくみょうにすでに仏道ぶつどうをなせるなり。
第*六ニ¬無量清浄覚経ニ¼云ク、「善男子・善女人、聞キテ↠説クヲ↢浄土ノ法門ヲ↡、心ニ生ジテ↢悲喜ヲ↡身ノ毛為イヨ*竪ダチテ如クナル↢抜ケ出ヅルガ↡者ハ、当ニシ↠知ル、此ノ人ハ過去宿命ニ已ニ作セル↢仏*道ヲ↡也。
^◆もしまた人ひとありて浄じょう土どの法門ほうもんを開ひらくを聞ききて、 すべて信しんを生しょうぜざるものは、 まさに知しるべし、 この人ひとははじめて三さん悪道まくどうより来きたりて、 *殃おう咎ぐいまだ尽つきず。 これ0187がために*信向しんこうなきのみ。 われ説とく、 ªこの人ひとはいまだ解げ脱だつを得うべからずº」 と。
若シ復有リテ↠人聞キテ↠開クヲ↢浄土ノ法門ヲ↡、都テ不ル↠*生ゼ↠信ヲ者ハ、当ニシ↠知ル、此ノ人ハ始テ従リ↢三悪道↡来リテ、殃咎未ダ↠尽キ。為ニ↠此ガ无キ↢信向↡耳。我説ク、此ノ人ハ未ダト↠可カラ↠得↢解脱ヲ↡也。」
^このゆゑに ¬無む量りょう寿じゅ大だい経きょう¼ (下) にのたまはく、
是ノ故ニ¬無量寿大経ニ¼云ク、
^「▲憍慢きょうまんと弊へいと懈け怠だいとは、 もつてこの法ほうを信しんずること難かたし」 と。
「憍慢ト*弊ト懈怠トハ | 難シト↣以テ信ズルコト↢此ノ法ヲ↡。」 |
二 Ⅰ ⅲ c【発心久近】
イ 標章
【5】 ^第だい三さんに△大だい乗じょうの聖教しょうぎょうによりて、 衆しゅ生じょうの発心ほっしんの久く近ごん、 供く仏ぶつの多た少しょうを明あかすとは、
第三ニ拠リテ↢大乗ノ聖教ニ↡、明スト↢衆生ノ発心ノ久近、供仏ノ多少ヲ↡者、
二 Ⅰ ⅲ c ロ 正釈
(一)引経
^¬涅ね槃はん経ぎょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「仏ぶつ、 *迦か葉しょう菩ぼ薩さつに告つげたまはく、
如シ↢¬涅槃経ニ¼云フガ↡。「仏告ゲタマハク↢迦葉菩薩ニ↡、
^ª▽もし衆しゅ生じょうありて、 *熙き連れん半はん恒ごう河が沙しゃ等とうの諸仏しょぶつの所みもとにおいて菩ぼ提だい心しんを発おこせば、 しかして後のちにすなはちよく悪あく世せのなかにおいて、 この大だい乗じょう経きょう典てんを聞ききて誹ひ謗ほうを生しょうぜず。
若シ有リテ↢衆生↡、於テ↢*熙連半恒河沙等ノ諸仏ノ所ニ↡発0577セバ↢菩提心ヲ↡、然シテ後ニ乃チ能ク於テ↢悪世ノ中ニ↡聞キテ↢是ノ大乗経典ヲ↡不↠生ゼ↢誹謗ヲ↡。
^◇もし一いち恒ごう河が沙しゃ等とうの仏ぶつの所みもとにおいて菩ぼ提だい心しんを発おこすことあれば、 しかして後のちにすなはちよく悪あく世せのなかにおいて経きょうを聞ききて誹ひ謗ほうを起おこさず、 深ふかく*愛あい楽ぎょうを生しょうず。
若シ有レバ↧於テ↢一恒河沙等ノ仏ノ所ニ↡発スコト↦菩提心ヲ↥、然シテ後ニ乃チ能ク於テ↢悪世ノ中ニ↡聞キテ↠経ヲ不↠起サ↢誹謗ヲ↡、深ク生ズ↢愛楽ヲ↡。
^もし二に恒ごう河が沙しゃ等とうの仏ぶつの所みもとにおいて菩ぼ提だい心しんを発おこすことあれば、 しかして後のちにすなはちよく悪あく世せのなかにおいてこの法ほうを謗ほうぜず、 正しょう解げし信しん楽ぎょうし受じゅ持じし読誦どくじゅす。
若s有レバ↧於テ↢二恒河沙等ノ仏ノ所ニ↡発スコト↦菩提心ヲ↥、然シテ後ニ*乃チ能ク於テ↢悪世ノ中ニ↡不↠謗ゼ↢是ノ法ヲ↡、正解シ信楽シ受持シ読誦ス。
^▼もし三さん恒ごう河が沙しゃ等とうの仏ぶつの所みもとにおいて菩ぼ提だい心しんを発おこすことあれば、 しかして後のちにすなはちよく悪あく世せのなかにおいてこの法ほうを謗ほうぜず、 経きょう巻かんを書写しょしゃし、 人ひとのために説とくといへども、 いまだ深じん義ぎを解さとらずº」 と。
若シ有レバ↧於テ↢三恒河沙等ノ仏ノ所ニ↡発スコト↦菩提心ヲ↥、然シテ後ニ乃チ能ク於テ↢悪世ノ中ニ↡不↠*謗ゼ↢是ノ法ヲ↡、書↢写シ経巻ヲ↡、雖モ↢為ニ↠人ノ説クト↡、未ダト↠解ラ↢深義ヲ↡。」
二 Ⅰ ⅲ c ロ (二)釈成
(Ⅰ)正述
^なにをもつてのゆゑにかくのごとき教量きょうりょうを須もちゐるとならば、 今日こんにち坐下ざげにして経きょうを聞きくものは、 曽むかしすでに発心ほっしんして多た仏ぶつを0188供く養ようせることを彰あらわさんがためなり。 また大だい乗じょう経きょうの威い力りき不可ふか思議しぎなることを顕あらわす。
何ヲ以テノ故ニ須ヰルトナラバ↢如キ↠此クノ教量ヲ↡者、為↠彰サムガ↣今日座下ニシテ聞ク↠経ヲ者ハ、曽ムカシ已ニ発心シテ供↢養スルコトヲ多仏ヲ↡也。又顕ス↢大乗経之威力不可思議ナルコトヲ↡。
二 Ⅰ ⅲ c ロ (二)(Ⅱ)引証
^このゆゑに ¬経きょう¼ (涅槃経・意) にのたまはく、 「もし衆しゅ生じょうありてこの経きょう典てんを聞きけば、 億おく百ひゃく千劫せんごうにも悪道あくどうに堕だせず。 なにをもつてのゆゑに。 この妙みょう経きょう典てんの流布るふするところの処ところ、 まさに知しるべし、 その地じはすなはちこれ金剛こんごうなり。 このなかの諸人しょにんまた金剛こんごうのごとし」 と。
是ノ故ニ¬経ニ¼云ク、「若シ有リテ↢衆生↡聞ケバ↢是ノ経典ヲ↡、億百千劫ニモ不↠堕セ↢悪道ニ↡。何ヲ以テノ故ニ。是ノ妙経典ノ所ノ↢流布スル↡処、当ニシ↠知ル、其ノ地ハ即チ是金剛ナリ。是ノ中ノ諸人亦如シト↢金剛ノ↡。」
二 Ⅰ ⅲ c ロ (二)(Ⅲ)結
^ゆゑに知しりぬ、 経きょうを聞ききて信しんを生しょうずるものはみな不可ふか思議しぎの利り益やくを獲うるなり。
故ニ知リヌ聞キテ↠経ヲ*生ズル↠信ヲ者ハ皆獲ル↢不可思議ノ利益ヲ↡也。
二 Ⅰ ⅲ d【宗旨不同】
イ 標章
【6】 ^△第だい四しに次つぎに諸しょ経きょうの宗しゅう旨しの不ふ同どうを弁べんずとは、
第四ニ次ニ弁ズト↢諸経ノ宗旨ノ不同ヲ↡者、
二 Ⅰ ⅲ d ロ 正釈
(一)諸経の列を挙ぐ
^もし ¬涅ね槃はん経ぎょう¼ によらば仏ぶっ性しょうを宗しゅうとなす。 ▼もし ¬*維ゆい摩ま経ぎょう¼ によらば*不可ふか思議しぎ解げ脱だつを宗しゅうとなす。 ▼もし 「*般若はんにゃ経きょう」 によらば*空くう慧えを宗しゅうとなす。 もし ¬大集だいじっ経きょう¼ によらば陀羅尼だらにを宗しゅうとなす。
若シ依ラバ↢¬涅槃経ニ¼↡仏性ヲ為ス↠宗ト。若シ依ラバ↢¬維摩経ニ¼↡不可思議解脱ヲ為ス↠宗ト。若シ依ラバ↢¬般若経ニ¼↡*空*慧ヲ為ス↠宗ト。若シ依ラバ↢¬大集経ニ¼↡陀羅尼ヲ為ス↠宗ト。
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)今経の宗を定む
(Ⅰ)正しく今宗を定む
^▼いまこの ¬観かん経ぎょう¼ は観仏かんぶつ三昧ざんまいをもつて宗しゅうとなす。 もし所観しょかんを論ろんずれば依え正しょう二に報ほうに過すぎず。 ▽下しもに諸観しょかんによりて弁べんずるところのごとし。
今此ノ¬観経ハ¼以テ↢観仏三昧ヲ↡為ス↠宗ト。若シ論ズレバ↢所観ヲ↡不↠過ギ↢依正二報ニ↡。如シ↧下ニ依リテ↢諸観ニ↡所ノ↞弁ズル。
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)他経に寄せて顕す
(ⅰ)其の文を出す
(a)標
^もし ¬*観仏かんぶつ三昧ざんまい経きょう¼ (意) によらばのたまはく、 「^仏ぶつ、 *父ちちの王おうに告つげたまはく、 ª諸仏しょぶつの出しゅっ世せに三種さんしゅの益やくあり。
若シ依ラバ↢¬観仏三昧経ニ¼↡云ク、「仏告ゲタマハク↢父ノ王ニ↡、諸仏ノ出世ニ有0578リ↢三種ノ益↡。
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)釈
(イ)口業化
^△一いちには口くちに十じゅう二に部ぶ経きょうを説ときたまふ。 法ほう施せの利り益やくなり。 よく衆しゅ生じょうの無む明みょうの暗あん障しょうを除のぞき、 智慧ちえの眼まなこを開ひらきて諸仏しょぶつの前みまえに生しょうじて早はやく*無む上じょう菩ぼ提だいを得えしむ。
一ニ*者口ニ説キタマフ↢十二部経ヲ↡。法施ノ利益ナリ。能ク除キ↢衆生ノ無明ノ暗障ヲ↡、開キテ↢智*慧ノ眼ヲ↡生ジテ↢諸仏ノ前ニ↡早ク得シム↢無上菩提ヲ↡。
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ロ)身業化
^△二にには諸仏しょぶつ如来にょらいに身相しんそう・光こう明みょう、 無む量りょうの妙みょう好こうまします。 もし衆しゅ生じょうありて称しょう念ねんし観察かんざつすれ0189ば、 もしは*総相そうそう、 もしは*別相べっそう、 仏身ぶっしんの現在げんざい・過去かこを問とふことなく、 みなよく衆しゅ生じょうの四し重じゅう・五ご逆ぎゃくを除滅じょめつして永ながく三さん途ずに背そむき、 意こころの*所しょ楽ぎょうに随したがひてつねに浄じょう土どに生しょうじ、 すなはち成じょう仏ぶつに至いたる。
二ニ者諸仏如来ニ有ス↢身相光明、无量ノ妙好↡。若シ有リテ↢衆生↡称念シ観察スレバ、若シハ総相、若シハ別相、无ク↠*問フコト↢仏身ノ現在・過去ヲ↡、皆能ク除↢滅シテ衆生ノ四重・五逆ヲ↡永ク背キ↢三途ニ↡、随ヒテ↢意ノ所楽ニ↡常ニ生ジ↢浄土ニ↡、乃チ至ル↢成仏ニ↡。
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ハ)念仏三昧
[一]法説
^三さんには▼父ちちの王おうを勧すすめて念仏ねんぶつ三昧ざんまいを行ぎょうぜしめたまふº と。
三ニ者令メタマフト↧勧メテ↢父ノ王ヲ↡行ゼ↦念仏三昧ヲ↥。
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ハ)[二]喩顕
[Ⅰ]喩
^◆父ちちの王おう、 仏ぶつにまうさく、 ª*仏ぶつ地じの果か徳とく、 真如しんにょ実相じっそう第一だいいち義ぎ空くうなり。 なにによりてか弟子でしをしてこれを行ぎょうぜしめざるº と。
父ノ王白サク↠仏ニ、仏地ノ果徳、真如実相第一義空ナリ。何ニ因リテカ不ルト↠遣メ↢弟子ヲシテ行ゼ↟之ヲ。
^◆仏ぶつ、 父ちちの王おうに告つげたまはく、 ª諸仏しょぶつの果か徳とくには無む量りょう深じん妙みょうの境きょう界がい・神通じんずう・解げ脱だつまします。 これ凡ぼん夫ぶ所しょ行ぎょうの境きょう界がいにあらざるがゆゑに、 父ちちの王おうを勧すすめて念仏ねんぶつ三昧ざんまいを行ぎょうぜしめたてまつるº と。
仏告ゲタマハク↢父ノ王ニ↡、諸仏ノ果徳ニハ有ス↢无量深妙ノ境界・神通・解脱↡。非ザルガ↢是凡夫所行ノ境界ニ↡故ニ、勧メテ↢父ノ王ヲ↡行ゼシメタテマツルト↢念仏三昧ヲ↡。
^◆父ちちの王おう、 仏ぶつにまうさく、 ª念仏ねんぶつの功こうその状かたちいかんº と。
父ノ王白サク↠仏ニ、念仏之功其ノ状云何ント。
^◆仏ぶつ、 父ちちの王おうに告つげたまはく、 ª▼↓*伊い蘭らん林りんの方ほう四し十じゅう由ゆ旬じゅんなるに、 一いっ科かの*牛頭ごず↓栴檀せんだんあり。 根こん芽げありといへども、 なほいまだ土つちを出いでず。 その伊い蘭らん林りんはただ臭くさくして香こうばしきことなし。 もしその華菓けかを噉くらふことあれば、 狂きょうを発おこして死しす。 後のちの時ときに栴檀せんだんの根こん芽げやうやく生長しょうちょうして↓わづかに樹じゅとならんと欲ほっするに、 香こう気け昌盛しょうじょうにしてつひによくこの林はやしを改変がいへんして、 あまねくみな香こう美みならしむ。 衆しゅ生じょう見みるものみな*希有けうの心しんを生しょうずるがごとしº と。
*仏告ゲタマハク↢父ノ王ニ↡、如シト↧伊蘭林ノ方四十由旬ナルニ、有リ↢一科ノ牛頭*栴檀↡、雖モ↠有リト↢根*牙↡、猶未ダ↠*出デ↠土ヲ、其ノ伊蘭林ハ唯臭クシテ无シ↠香バシキコト、若シ有レバ↠*噉クラフコト↢其ノ花菓ヲ↡、発シテ↠狂ヲ而死ス、後ノ時ニ*栴檀ノ根*牙漸漸ヤウヤク生長テ纔ニ*欲スルニ↠成ラムト↠樹ト、香気昌盛ニシテ遂ニ能ク改↢変シテ此ノ林ヲ↡、普ク皆香美ナラシム、衆生見ル者皆生ズルガ↦希有ノ心ヲ↥。
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ハ)[二][Ⅱ]合法
[ⅰ]世尊自合
^◆仏ぶつ、 父ちちの王おうに告つげたまはく、 ª一切いっさい衆しゅ生じょう生しょう死じのなかにありて念仏ねんぶつの心しんもまたかくのごとし。 ただよく念ねんを繋かけて止やまざれば、 さだめて仏前ぶつぜんに0190生しょうず。 一ひとたび往おう生じょうを得うれば、 すなはちよく一切いっさいの諸悪しょあくを改変がいへんして大だい慈悲じひを成じょうずること、 かの香樹こうじゅの伊い蘭らん林りんを改あらたむるがごとしº」 と。
仏告ゲタマハク↢父ノ王ニ↡、一切衆生在リテ↢生死ノ中ニ↡念仏之心モ亦復如シ↠是クノ。但能ク繋ケテ↠念ヲ不レバ↠止マ、定メテ生ズ↢仏前ニ↡。一タビ得レバ↢往生ヲ↡、即チ*能ク改↢変シテ一切ノ諸悪ヲ↡成ズルコト↢大慈悲ヲ↡、如シト↣彼ノ香樹ノ改ムルガ↢伊蘭林ヲ↡。」
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ハ)[二][Ⅱ][ⅱ]集主重釈
^◆いふところの 「↑伊い蘭らん林りん」 とは、 衆しゅ生じょうの身みのうちの三毒さんどく・三さん障しょう、 無む辺へんの重じゅう罪ざいに喩たとふ。 「↑栴檀せんだん」 といふは、 衆しゅ生じょうの念仏ねんぶつの心しんに喩たとふ。 「↑わづかに樹じゅとならんと欲ほっす」 とは、 いはく、 一切いっさい衆しゅ生じょうただよく念ねんを積つみて断たえざれば、 *業道ごうどう成じょう弁べんするなりと。
所ノ↠言フ「伊蘭林ト」者、喩フ↢衆生ノ身ノ内ノ三毒・三障、无辺ノ重罪ニ↡。言フ↢「*栴檀ト」↡者、喩フ↢衆生ノ念仏之0579心ニ↡。「纔ニ欲スト↠成ラムト↠樹ト」者、謂ク一切衆生但能ク積ミテ↠念ヲ不レバ↠断エ、業道成辨スル也ト。
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)問答を設く
(a)問
^◆問とひていはく、 一切いっさい衆しゅ生じょうの念仏ねんぶつの功こうを計はかりてまた一切いっさいに応おうじて知しるべし。 なにによりてか一念いちねんの力ちからよく一切いっさいの諸しょ障しょうを断たつこと、 一いちの香樹こうじゅの四し十じゅう由ゆ旬じゅんの伊い蘭らん林りんを改あらためてことごとく香こう美みならしむるがごとくなるや。
問ヒテ*曰ク、計リテ↢一*切衆生ノ念仏之功ヲ↡亦*応ジテ↢*一切ニ↡可シ↠知ル。何ニ因リテカ一念之力能ク断ツコト↢一切ノ諸障ヲ↡、如クナル↧一ノ香樹ノ改メテ↢四十由旬ノ伊蘭林ヲ↡悉ク使ムルガ↦香美ナラ↥也。
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)答
(イ)略答
^◆答こたへていはく、 *諸しょ部ぶの大だい乗じょうによりて念仏ねんぶつ三昧ざんまいの*功く能のうの不可ふか思議しぎなることを顕あらわさん。
答ヘテ曰ク、依リテ↢諸部ノ大乗ニ↡顕サム↢念仏三昧ノ功能ノ不可思議ナルコトヲ↡也。
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)広引
[一]獅絃断余譬
^◆なんとなれば、 ¬*華け厳ごん経ぎょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「^▼たとへば人ひとありて獅子ししの筋すじを用もちゐて、 もつて琴ことの絃げんとなして、 音おん声じょう一ひとたび奏そうするに、 一切いっさいの余よの絃げんことごとくみな断だん壊えするがごとし。 もし人ひと菩ぼ提だい心しんのなかに念仏ねんぶつ三昧ざんまいを行ぎょうずれば、 一切いっさいの煩悩ぼんのう、 一切いっさいの諸しょ障しょうことごとくみな断滅だんめつす。
何トナレバ者如シ↢¬花厳経ニ¼云フガ↡。「譬ヘバ如シ↧有リテ↠人用ヰテ↢師子ノ筋ヲ↡、以テ為シテ↢琴ノ絃ト↡、音声一タビ奏スルニ、一切ノ余ノ絃悉ク皆断壊スルガ↥。若シ人菩提心ノ中ニ行ズレバ↢念仏三昧ヲ↡者、一切ノ煩悩、一切ノ諸障悉ク皆断滅ス。
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[二]獅乳消余譬
^▼また人ひとありて牛ご・羊よう・驢馬ろめ、 一切いっさいのもろもろの乳ちちを搆しぼり取とりて一いっ器きのなかに置おくに、 もし獅子ししの乳ちち一渧いったいを持もちてこれを投なぐるに、 ただちに過すぎて難はばかりなし。 一切いっさいの諸しょ乳にゅうことごとくみな破壊はえして、 変へんじて清しょう0191水すいとなるがごとし。 もし人ひとただよく菩ぼ提だい心しんのなかに念仏ねんぶつ三昧ざんまいを行ぎょうずれば、 一切いっさいの悪あく魔ま・諸しょ障しょうただちに過すぎて難はばかりなし」 と。
亦如シ↧有リテ↠人搆リ↢取リテ牛・羊・驢馬、一切ノ諸ノ乳ヲ↡置クニ↢一器ノ中ニ↡、若シ持チテ↢師子ノ乳一渧ヲ↡投グルニ↠之ヲ、直ニ過ギテ无シ↠難ハバカリ、一切ノ諸乳悉ク皆破壊シテ、変ジテ為ルガ↦清水ト↥。若シ人但能ク菩提心ノ中ニ行ズレバ↢念仏三昧ヲ↡者、一切ノ悪魔・諸障直ニ過ギテ无シト↠難ハバカリ。」
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[三]翳薬隠遊譬
^◆またかの ¬経きょう¼ (華厳経・意) にのたまはく、 「^たとへば人ひとありて*翳身えいしん薬やくを持もちて処々しょしょに遊ゆ行ぎょうするに、 一切いっさいの余よ人にんこの人ひとを見みざるがごとし。 もしよく菩ぼ提だい心しんのなかに念仏ねんぶつ三昧ざんまいを行ぎょうずれば、 一切いっさいの悪神あくじん、 一切いっさいの諸しょ障しょうこの人ひとを見みず。 所詣しょげいの処ところに随したがひてよく*遮しゃ障しょうすることなし。
*又彼ノ¬経ニ¼云ク、「譬ヘバ如シ↧有リテ↠人持チテ↢翳身薬ヲ↡処処ニ遊行スルニ、一切ノ余人不ルガ↞見↢是ノ人ヲ↡。若シ能ク菩提心ノ中ニ行ズレバ↢念仏三昧ヲ↡者、一切ノ悪神・一切ノ諸障不↠見↢是ノ人ヲ↡。随ヒテ↢所詣ノ処ニ↡无シ↢能ク遮障スルコト↡也。
二 Ⅰ ⅲ d ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ハ)結示
^◆なんがゆゑぞよくしかるとならば、 この念仏ねんぶつ三昧ざんまいはすなはちこれ一切いっさいの三昧さんまいのなかの王おうなるがゆゑなり」 と。
何ガ故ゾ能ク爾ルトナラバ、此ノ念仏三昧ハ即チ是一切ノ三昧ノ中ノ王ナルガ故也ト。」
二 Ⅰ ⅲ g【三身三土】
イ 標章
【7】 ^第七だいしちに△略りゃくして三身さんしん三さん土どの義ぎを明あかすとは、
第七ニ略シテ明ストハ↢三身三土ノ義ヲ↡、
二 Ⅰ ⅲ e ロ 正釈
(一)正しく宗義を立つ〔報身報土〕
^▼問とひていはく、 いま現在げんざいの阿あ弥陀みだ仏ぶつはこれいづれの身しんぞ、 極楽ごくらくの国くにはこれいづれの土どぞ。
問ヒテ曰ク、今現在ノ阿弥陀仏ハ是何ノ身ゾ、極楽之国ハ是何ノ土ゾ。
^答こたへていはく、 ▼現在げんざいの弥陀みだはこれ報仏ほうぶつ、 極楽ごくらく宝ほう荘しょう厳ごん国こくはこれ報ほう土どなり。
答ヘテ曰ク、現在ノ弥陀ハ是報仏、極楽宝荘厳国ハ是*報土ナリ。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)旧解を破会す
(Ⅰ)正しく謬解を破す
(ⅰ)牒古略破
^◆しかるに*古こ旧きゅうあひ伝つたへて、 みな阿あ弥陀みだ仏ぶつはこれ化け身しん、 土どもまたこれ化土けどなりといへり。 これを大失だいしつとなす。
然ルニ古旧相0580伝ヘテ、皆云ヘリ↢阿弥陀仏ハ是化身、土モ亦是化*土ナリト↡。此ヲ為ス↢大失ト↡也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅰ)(ⅱ)反質而難
^もししからば、 穢土えどもまた化け身しんの所しょ居ご、 浄じょう土どもまた化け身しんの所しょ居ごならば、 いぶかし、 如来にょらいの報身ほうじんはさらにいづれの土どによるや。
若シ爾ラバ者、穢土モ亦化身ノ所居、浄土モ亦化身ノ所居ナラバ者、未審イブカシ、如来ノ報身ハ更ニ依ル↢何ノ土ニ↡也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅰ)(ⅲ)経を引きて証成す
(a)略引して義を定む
^▼いま ¬*大だい乗じょう同どう性しょう経きょう¼ によりて報ほう化け・浄じょう穢えを弁べん定じょうせば、 ¬経きょう¼ (同・意) にのたまはく、 「浄じょう土どのなかに仏ぶつとなりたまへるはことご0192とくこれ報身ほうじんなり、 穢土えどのなかに仏ぶつとなりたまへるはことごとくこれ化け身しんなり」 と。
今依リテ↢¬大乗同性経ニ¼↡辨↢定セバ報化・浄穢ヲ↡者、¬経ニ¼云ク、「浄土ノ中ニ成リタマヘル↠仏ト者、悉ク是報身ナリ、穢土ノ中ニ成リタマヘル↠仏ト者、悉ク是化身ナリト。」
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅰ)(ⅲ)(b)広引して理を申ぶ
(イ)報
^◆かの ¬経きょう¼ (大乗同性経・意) にのたまはく、 「▼阿あ弥陀みだ如来にょらい・蓮れん華げ開かい敷ふ星王しょうおう如来にょらい・竜りゅう主しゅ如来にょらい・宝徳ほうとく如来にょらい等とうのもろもろの如来にょらい、 清浄しょうじょうの*仏刹ぶっせつにして現げんに*道どうを得えたまへるもの、 まさに道どうを得えたまふべきもの、 かくのごとき一切いっさいはみなこれ報身ほうじんの仏ぶつなり。
彼ノ¬経ニ¼云ク、「阿弥陀如来・蓮花開敷星王如来・竜*主如来・宝徳如来等ノ諸ノ如来、清浄ノ仏刹ニシテ現ニ得タマヘル↠道ヲ者、当ニキ↠得タマフ↠道ヲ者、如キ↠是クノ一切ハ皆是報身ノ仏也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅰ)(ⅲ)(b)(ロ)化
^◆何者なにものか如来にょらいの化け身しん。 なほ今日こんにちの踊歩ゆぶ如来にょらい・魔恐怖まくふ如来にょらいのごとき、 かくのごとき等らの一切いっさいの如来にょらいの、 *穢え濁じょく世せのなかにして現げんに仏ぶつとなりたまへるもの、 まさに仏ぶつとなりたまふべきもののごとし。 兜と率そつより下くだり、 乃ない至し一切いっさいの正しょう法ぼう・一切いっさいの像法ぞうぼう・一切いっさいの末法まっぽうを*住じゅう持じす。 かくのごとき化事けじみなこれ化け身しんの仏ぶつなり。
何者カ如来ノ化身。*由ナホ如キ↢今日ノ踊*歩如来・魔恐怖如来ノ↡、如キ↠是クノ等ノ一切ノ如*来ノ、穢濁世ノ中ニシテ*如シ↢現ニ成リタマヘル↠仏ト者、当ニキ↠成リタマフ↠仏ト者ノ↡。従リ↢兜率↡下リ、乃至住↢持ス一切ノ正法・一切ノ像法・一切ノ*末法ヲ↡。如キ↠是クノ化事皆是化身ノ仏也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅰ)(ⅲ)(b)(ハ)法
^何者なにものか如来にょらいの法身ほっしん。 如来にょらいの真しん法身ほっしんとは、 色しきなく形ぎょうなく、 現げんなく着じゃくなく、 見みるべからず、 言説ごんせつなく、 住じゅう処しょなく、 生しょうなく滅めつなし。 これを真しん法身ほっしんの義ぎと名なづく」 と。
何者カ如来ノ法身。如来ノ真法身ト者、无ク↠色无ク↠形、无ク↠現无ク↠著、不↠可カラ↠見ル、无ク↢言説↡、无ク↢住処↡、无ク↠生无シ↠滅。是ヲ名クト↢真法身ノ義ト↡也。」
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)広く妨難を通ず
(ⅰ)授記経難
(a)難〔報身隠没相〕
^問とひていはく、 如来にょらいの報身ほうじんは常住じょうじゅうなり。 いかんぞ ¬*観音かんのん授じゅ記き経きょう¼ (意) に、 「▼阿あ弥陀みだ仏ぶつ*入にゅう涅ね槃はんの後のち、 観かん世ぜ音おん菩ぼ薩さつ*次ついで仏処ぶっしょを補ふす」 とのたまふや。
問ヒテ曰ク、如来ノ報身ハ常住ナリ。云何ゾ¬観音授記経ニ¼云フ↣「阿弥陀仏入涅槃ノ後、観*世音菩薩次ギテ補スト↢仏処ヲ↡」也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)通
(イ)略示
^答こたへていはく、 ▼これはこれ報身ほうじん、 *隠没おんもつの相そうを示じ現げんす。 滅めつ度どにはあらず。
答ヘテ曰ク、此ハ是報身、示↢現ス隠没ノ相ヲ↡。非ズ↢滅度ニハ↡也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ロ)広明
[一]経を引きて証と為す
^かの ¬経きょう¼ (観音授記経・意) にのたまはく、 「阿あ弥陀みだ仏ぶつ入にゅう涅ね槃はんの後のち、 また深厚じんこう善根ぜんごんの衆しゅ生じょうありて、 還かえりて見みること故もとのごとし」 と。 すなはちその証しょうなり。
彼ノ¬経ニ¼*云ク、「阿弥陀仏入涅槃ノ後、復有リテ↢深厚善根ノ衆生↡、還リテ見ルコト如シト↠故モトノ。」即チ其ノ証也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ロ)[二]論を引きて経と合す
^また ¬*宝ほう性しょう論ろん¼ (意) に0193いはく、
又¬宝性論ニ¼云ク、
^「報身ほうじんに五ご種しゅの相そうまします。 *説法せっぽうとおよび*可か見けんと、
*諸業しょごうの休く息そくせざると、 および*休く息そく隠没おんもつと、
*不ふ実体じったいを示じ現げんするとなり」 と。
すなはちその証しょうなり。
「報身ニ有ス↢五種ノ相↡ | 説法ト及ビ可見ト |
0581諸業ノ不ルト↢休息セ↡ | 及ビ休息隠没ト |
示↢現スルトナリト不実体ヲ↡。」 |
即チ其ノ証也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)上の反質に就いて難ず
(a)問
^▼問とひていはく、 *釈しゃ迦か如来にょらいの報身ほうじん・報ほう土どはいづれの方ほうにかましますや。
問ヒテ曰ク、釈迦如来ノ報身・報土ハ在ス↢何ノ方ニカ↡也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)通
^答こたへていはく、 ¬涅ね槃はん経ぎょう¼ (意) にのたまはく、 「西方さいほうここを去さること四し十じゅう二に恒ごう河が沙しゃの仏ぶつ土どに世せ界かいあり、 名なづけて*無む勝しょうといふ。 かの土どのあらゆる荘しょう厳ごんまた西方さいほう極楽ごくらく世せ界かいのごとし。 等ひとしくして異ことなることあることなし。 われかの土どにおいて世よに出しゅつ現げんす。 衆しゅ生じょうを化けせんがためのゆゑに、 来きたりてこの娑しゃ婆ば国こく土どにあり。 ただわれのみこの土どに出いづるにあらず、 一切いっさいの如来にょらいもまたかくのごとし」 と。 すなはちその証しょうなり。
答ヘテ曰ク、¬涅槃経ニ¼云ク、「西方去ルコト↠此ヲ四十二恒河沙ノ仏土ニ有リ↢世界↡、名ケテ曰フ↢无勝ト↡。彼ノ土ノ所有ル荘厳亦如シ↢西方極楽世界ノ↡。等シクシテ无シ↠有ルコト↠異ナルコト。我於テ↢彼ノ土ニ↡出↢現ス於世ニ↡。為ノ↠化セムガ↢衆生ヲ↡故ニ、来リテ在リ↢此ノ娑婆国土ニ↡。*但非ズ↣我ノミ出ヅルニ↢此ノ土ニ↡、一切ノ如来モ亦復如シト↠是クノ。」即チ其ノ証也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅲ)鼓音経難
(a)難
^問とひていはく、 ¬*鼓く音おん経ぎょう¼ (意) にのたまはく、 「阿あ弥陀みだ仏ぶつに父母ぶもあり」 と。 あきらかに知しりぬ、 これ報仏ほうぶつ・報ほう土どにあらずや。
問ヒテ曰ク、¬鼓音経ニ¼云ク、「阿弥陀仏ニ有リト↢父*母↡。」明カニ知リヌ非ズ↢是報仏・報土ニ↡也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅲ)(b)通
(イ)正通
^答こたへていはく、 なんぢはただ名なを聞ききて経きょうの旨むねを究きわめ尋たずねずしてこの疑うたがいを致いたす。 これを*毫毛ごうもうに錯あやまりてこれを千せん0194里りに失しっすといふべし。 しかれども阿あ弥陀みだ仏ぶつまた三身さんしんを具そなへたまへり。 極楽ごくらくに出しゅつ現げんしたまふはすなはちこれ報身ほうじんなり。 いま父母ぶもありといふは、 これ穢土えどのなかに示じ現げんしたまへる化け身しんの父母ぶもなり。 また釈しゃ迦か如来にょらい、 浄じょう土どのなかにしてその報仏ほうぶつを成じょうじ、 この方ほうに応来おうらいして父母ぶもありと示しめしてその*化け仏ぶつを成じょうじたまふがごとし。 阿あ弥陀みだ仏ぶつもまたかくのごとし。
答ヘテ曰ク、*子ナンヂハ但聞キテ↠名ヲ不シテ↣究メ↢尋ネ経ノ旨ヲ↡*致ス↢此ノ疑ヲ↡。可シ↠謂フ↧錯リテ↢之ヲ毫毛ニ↡失スト↦之ヲ千里ニ↥。然レドモ阿弥陀仏亦具ヘタマヘリ↢三身ヲ↡。極楽ニ出現シタマフ者即チ是報身ナリ。今言フ↠有リト↢父母↡者、是穢土ノ中ニ示現シタマヘル化身ノ父母也。亦如シ↧釈迦如来、浄土ノ*中ニシテ成ジ↢其ノ報仏ヲ↡、応↢来シテ此ノ方ニ↡示シテ↠有リト↢父母↡成ジタマフガ↦其ノ化仏ヲ↥。阿弥陀仏モ亦復如シ↠是クノ。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅲ)(b)(ロ)引証
^また ¬*鼓く音声おんじょう経きょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「▼その時とき阿あ弥陀みだ仏ぶつ、 声しょう聞もん衆しゅと倶ともなり。 国くにを*清しょう泰たいと号なづく。 聖しょう王おうの所しょ住じゅうなり。 その城しろは*縦じゅう広こう十じゅう千せん由ゆ旬じゅんなり。 ◆阿あ弥陀みだ仏ぶつの父ちちはこれ転輪てんりん聖じょう王おうなり。 王おうを月がつ上じょうと名なづけ、 母ははを殊しゅ勝みょう妙みょう顔げんと名なづく。 魔ま王おうを無む勝しょうと名なづけ、 *仏ぶっ子しを月がつ明みょうと名なづけ、 *提だい婆ば達だっ多たを寂じゃくと名なづけ、 *給きゅう侍じの弟子でしを無垢むく称しょうと名なづく」 と。
又如シ↢¬鼓音*声経ニ¼云フガ↡。「爾ノ時阿弥陀仏、与↢声聞衆↡倶ナリ。国ヲ号ク↢清泰ト↡。聖王ノ所住ナリ。其ノ城ハ縦広十千由旬ナリ。阿弥陀仏ノ父ハ是転輪聖王ナリ。王ヲ名ケ↢月上ト↡、母ヲ名ク↢殊勝妙顔ト↡。魔王ヲ名ケ↢无勝ト↡、仏子ヲ名ケ↢月明ト↡、提婆達多ヲ名ケ↠*寂ト↡、給侍ノ弟子ヲ名クト↢无垢称ト↡。」
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅲ)(b)(ハ)結示
^また上じょう来らいに引ひくところはならびにこれ化け身しんの相そうなり。 もしこれ浄じょう土どならば、 あに*輪王りんのうおよび城しろ・女人にょにん等とうあらんや。 これすなはち文もん義ぎ*炳然へいねんなり、 なんぞ分別ふんべつを待またんや。 みなよく尋たずね究きわめずして、 名なに迷まよひて執しゅうを生しょうぜしむることを致いたす。
又上来ニ所ハ↠引ク並ニ是化身之相ナリ。若シ是浄土ナラバ、豈ニ有ラム↢輪王及ビ城・女人等↡也。此即チ文義炳然ナリ、*何ゾ*待タムヤ↢分別ヲ↡。*皆0582不シテ↢善ク尋ネ究メ↡、致ス↠使ムルコトヲ↢迷テ↠名ニ生ゼ↟執ヲ也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅳ)隠顕を以て成壊の難を例す
(a)難
^問とひていはく、 もし報身ほうじんに隠没おんもつ休く息そくの相そうましまさば、 また浄じょう土どに成じょう壊えの事じあるべきや。
問ヒテ曰ク、若シ報身ニ有ラバ↢隠没休息ノ相↡者、亦可キヤ↣浄土ニ有ル↢成壊ノ事↡。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅳ)(b)通
(イ)略示
^答こたへていはく、 かくのごとき難なんは、 古いにしえよりいまに将いたりて義ぎまた通つうじがたし。 しかりといへども、 いまあへて経きょうを引ひきて証しょうとなさん。 義ぎまた知しるべし0195。 たとへば仏身ぶっしんは常住じょうじゅうなれども、 衆しゅ生じょう涅ね槃はんありと見みるがごとし。 浄じょう土どもまたしかなり。 体たいは成じょう壊えにあらざれども、 衆しゅ生じょうの所見しょけんに随したがひて成じょうあり壊えあり。
答ヘテ曰ク、如キ↠斯クノ難者、自リ↠古イニシヘ将リテ↠今ニ義亦難シ↠通ジ。雖モ↠然リト今敢テ引キテ↠経ヲ為サム↠証ト。義亦可シ↠知ル。譬ヘバ如シ↢仏身ハ常住ナレドモ、衆生見ルガ↟有リト↢涅槃↡。浄土モ亦爾ナリ。体ハ非ザレドモ↢成壊ニ↡、随ヒテ↢衆生ノ所見ニ↡有リ↠成有リ↠壊。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅳ)(b)(ロ)引証
[一]経
^¬華け厳ごん経ぎょう¼ にのたまふがごとし。
如シ↢¬華厳経ニ¼云フガ↡。
^「なほ*導どう師しに種々しゅじゅ無む量りょうの色しきを見みるがごとく、
衆しゅ生じょうの*心しん行ぎょうに随したがひて、 仏刹ぶっせつを見みることもまたしかなり」 と。
「由ナホ如ク↠見ルガ↢*導師ニ | 種種无量ノ色ヲ↡ |
随ヒテ↢衆生ノ心行ニ↡ | 見ルコトモ↢仏刹ヲ↡亦然ナリト」 |
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅳ)(b)(ロ)[二]論
^このゆゑに ¬*浄じょう土ど論ろん¼ にいはく、
是ノ故ニ¬浄土*論ニ¼云ク、
^「*一質いちぜつ成じょうぜざるがゆゑに、 浄じょう穢え*虧き盈ようあり。
*異い質ぜつ成じょうぜざるがゆゑに、 *原もとを捜さぐればすなはち冥みょう一いちなり。
*無む質ぜつ成じょうぜざるがゆゑに、 縁えん起ぎすればすなはち*万まん形ぎょうなり」 と。
「一質不ルガ↠成ゼ故ニ | 浄穢有リ↢虧盈↡ |
異質不ルガ↠成ゼ故ニ | 捜レバ↠*原ヲ*則チ冥一ナリ |
无質不ルガ↠成ゼ故ニ | 縁起スレバ則チ万形ナリト」 |
二 Ⅰ ⅲ e ロ (二)(Ⅱ)(ⅳ)(b)(ハ)結釈
^ゆゑに知しりぬ、 もし法ほっ性しょうの浄じょう土どによらばすなはち清濁しょうじょくを論ろんぜず、 もし*報ほう化けの大だい悲ひによらばすなはち浄じょう穢えなきにあらず。
故ニ知リヌ若シ拠ラバ↢法性ノ浄土ニ↡則チ不↠論ゼ↢清濁ヲ↡、若シ拠ラバ↢報化ノ大悲ニ↡則チ非ズ↠无キニ↢浄穢↡也。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (三)因みに汎く報化を明す
(Ⅰ)正しく不同を明す
^また汎ひろく仏ぶつ土どを明あかして機き感かんの不ふ同どうに対たいするに、 その三種さんしゅの差別しゃべつあり。
又汎ク明シテ↢仏土ヲ↡対スルニ↢機感ノ不同ニ↡、有リ↢其ノ三種ノ差別↡。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (三)(Ⅰ)(ⅰ)従真垂報
^一いちには*真しんより報ほうを垂たるるを名なづけて報ほう土どとなす。 なほ日光にっこうの四し天てん下げを照てらすがごとし。 法身ほっしんは日ひのごとく、 報ほう化けは光ひかりのごとし。
一ニ者従リ↠真垂ルルヲ↠報ヲ名ケテ為ス↢報土ト↡。猶如シ↣日光ノ照スガ↢四天下ヲ↡。法身ハ如ク↠日ノ、報化ハ如シ↠光ノ。
二 Ⅰ ⅲ e ロ (三)(Ⅰ)(ⅱ)無而忽有
^二にには*無而むに忽こつ有うなる、 これを名なづけて化けとなす。
二ニ者无而忽有ナル、名ケテ↠之ヲ為ス↠化ト。
^すなはち ¬*四し分律ぶんりつ¼ (意) にのたまふがごとし。 「*定じょう光こう如来にょらい提だい婆ば城じょうを化けして、 抜提ばつだい城じょうとあひ近ちかくして、 と0196もに親婚しんこんをなして往来おうらいす。 後のちの時ときに忽然こつねんと火ひを化けして焼却しょうきゃくす。 もろもろの衆しゅ生じょうをしてこの無む常じょうを覩みしめて、 厭えんを生しょうじて仏道ぶつどうに帰き向こうせしめざるはなし」 と。
即チ如シ↢¬四分律ニ¼云フガ↡。「*定光如来化シテ↢提婆城ヲ↡、与↢抜提城↡相近クシテ、共ニ為シテ↢親婚ヲ↡往来ス。後ノ時ニ忽然ト化シテ↠火ヲ焼*却ス。令メテ↣諸ノ*衆生ヲシテ覩↢此ノ無常ヲ↡、莫シト↠不ルハ↣生ジテ↠厭ヲ帰↢向セシメ仏道ニ↡也。」
^このゆゑに ¬経きょう¼ (維摩経・意) にのたまはく、
是ノ故ニ¬経ニ¼云ク、
^「あるいは*劫こう火かの焼やきて、 天てん地ちみな*洞然どうねんたるを現げんじ、
衆しゅ生じょうの*常じょう想そうあるものをして、 あきらかに無む常じょうを知しらしめ、
「或イハ現ジ↢劫火ノ焼キテ | 天地皆洞然タルヲ↡ |
衆生ノ有ルモノヲシテ↢常想↡ | 照カニ令メ↠知ラ↢无常ヲ↡ |
^あるいは貧乏びんぼうを済すくはんがために、 現げんに*無む尽じん蔵そうを立たてて、
縁えんに随したがひて広ひろく開導かいどうして、 菩ぼ提だい心しんを発おこさしむ」 と。
或イハ為ニ↠済ハムガ↢貧乏ヲ↡ | 現ニ立テテ↢无尽蔵ヲ↡ |
随ヒテ↠縁ニ広ク開導シテ | 令ムト↠発サ↢菩提心ヲ↡」 |
二 Ⅰ ⅲ e ロ (三)(Ⅰ)(ⅲ)隠穢顕浄
^三さんには穢えを隠かくし浄じょうを顕あらわす。 ¬維ゆい摩ま経ぎょう¼ (意) のごとし。 「▲仏ぶつ、 足あしの指ゆびをもつて地じを按あんじたまふに、 *三千さんぜんの刹せつ土ど厳ごん浄じょうならざるはなし」 と。
三ニ者隠シ↠穢ヲ顕ス↠浄ヲ。如シ↢¬維摩経ノ¼↡。「仏以テ↢足ノ指ヲ↡按ジタマフニ↠地ヲ、三千0583ノ刹土莫シト↠不ルハ↢厳浄ナラ↡。」
二 Ⅰ ⅲ e ロ (三)(Ⅱ)宗義に結帰す
^いまこの無む量りょう寿じゅ国こくは、 すなはちこれ真しんより報ほうを垂たるる国くになり。 なにをもつてか知しることを得うる。 ¬観音かんのん授じゅ記き経きょう¼ (意) によるにのたまはく、 「未み来らいに観音かんのん成じょう仏ぶつして阿あ弥陀みだ仏ぶつの処ところに替かわりたまふ」 と。 ゆゑに知しりぬ、 これ報ほうなり。
今此ノ无量寿国ハ、即チ是従リ↠真垂ルル↠報ヲ国也。何ヲ以テカ得ル↠知コトヲ。依ルニ↢¬観音授記経ニ¼↡云ク、「未来ニ観音成仏シテ*替リタマフト↢阿弥陀仏ノ処ニ↡。」故ニ知リヌ是報也。
二 Ⅰ ⅲ h【凡聖通往】
イ 標章
【8】 ^第八だいはちに△弥陀みだの浄じょう国こくは位くらい上じょう下げを該かね、 凡ぼん聖しょう通つうじて往ゆくことを明あかすとは、
第八ニ明スト↧弥陀ノ浄国ハ位該ネ↢上下ヲ↡、凡聖通ジテ往クコトヲ↥者、
二 Ⅰ ⅲ f ロ 正釈
(一)略述
(Ⅰ)前を牒し双べ明す
^いまこの無む量りょう寿じゅ国こくはこれその*報ほうの浄じょう土どなり。 仏願ぶつがんによるがゆゑにすなはち上じょう下げを該通がいつうして、 凡ぼん夫ぶの善ぜんをして*ならびに往おう生じょうを得えしむることを致いたす。 上かみを該かぬるに0197よるがゆゑに、 *天親てんじん・*龍りゅう樹じゅおよび上じょう地じの菩ぼ薩さつまたみな生しょうず。
今此ノ无量寿国ハ是其ノ報ノ浄土ナリ。由ルガ↢仏願ニ↡故ニ乃チ該↢通シテ上下ヲ↡、致ス↠令ムルコトヲ↣凡夫之善ヲシテ並ニ得↢往生ヲ↡。由ルガ↠該ヌルニ↠上ヲ故ニ、天親・龍樹及ビ上地ノ菩薩亦皆生ズ也。
二 Ⅰ ⅲ f ロ (一)(Ⅱ)偏に該上を証す
^このゆゑに ¬*大だい経きょう¼ (下・意) にのたまはく、 「▲弥み勒ろく菩ぼ薩さつ、 仏ぶつに問とひたてまつる。 ªいまだ知しらず、 この界さかいにいくばくの不ふ退たいの菩ぼ薩さつありてか、 かの国くにに生しょうずることを得うるº と。 ◆仏ぶつのたまはく、 ªこの娑しゃ婆ば世せ界かいに六ろく十じゅう七しち億おくの不ふ退たいの菩ぼ薩さつありて、 みなまさに往おう生じょうすべしº」 と。 もし広ひろく引ひかんと欲ほっせば、 余よ方ほうもみなしかなり。
是ノ故ニ¬大経ニ¼云ク、「弥勒菩薩問ヒタテマツル↠仏ニ。未ダ↠知ラ、此ノ界ニ有リテカ↢幾許ノ不退ノ菩薩↡得ルト↠生ズルコトヲ↢彼ノ国ニ↡。仏言ク、此ノ*娑婆世界ニ有リテ↢六十七億ノ不退ノ菩薩↡、皆当ニシト↢往生ス↡。」若シ欲セバ↢広ク引カムト↡、余方モ皆爾ナリ。
二 Ⅰ ⅲ f ロ (二)広釈
(Ⅰ)問
^問とひていはく、 弥陀みだの浄じょう国こくすでに位くらい上じょう下げを該かね、 凡ぼん聖しょうを問とふことなくみな通つうじて往ゆくといはば、 いまだ知しらず、 ただ*無む相そうを修しゅして生しょうずることを得うや、 はた凡ぼん夫ぶの*有う相そうもまた生しょうずることを得うや。
問ヒテ曰ク、弥陀ノ浄国既ニ云ハバ↧位該ネ↢上下ヲ↡、无ク↠*問フコト↢凡聖ヲ↡皆通ジテ*往クト↥者、未ダ↠知ラ、唯修シテ↢无相ヲ↡得ヤ↠生ズルコトヲ、為当 ハタ 凡夫ノ有*相モ亦得↠生ズルコトヲ也。
二 Ⅰ ⅲ f ロ (二)(Ⅱ)答
(ⅰ)有相の得生を明す
(a)正釈
^答こたへていはく、 凡ぼん夫ぶは智ち浅あさくして多おおく相そうによりて求もとむるに、 決けっして往おう生じょうを得う。 しかるに*相しょう善ぜんは力ちから微みなるをもつて、 ただ*相そう土どに生しょうじてただ報ほう化けの仏ぶつを覩みる。
答ヘテ曰ク、凡夫ハ*智浅クシテ多ク依リテ↠*相ニ求ムルニ、決シテ得↢往生ヲ↡。然ルニ以テ↢相善ハ力微ナルヲ↡、但生ジテ↢相土ニ↡唯覩ル↢*報化ノ仏ヲ↡也。
二 Ⅰ ⅲ f ロ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)引証
^このゆゑに ¬観仏かんぶつ三昧ざんまい経きょう¼ の 「菩ぼ薩さつ本ほん行ぎょう品ぼん」 (意) にのたまはく、 「^*文殊もんじゅ師利しり、 仏ぶつにまうしてまうさく、 ªまさに知しるべし、 われ過去かこ無む量りょう劫数こうしゅに凡ぼん夫ぶたりし時ときを念おもふに、 かの世よに仏ぶつましましき、 宝ほう威い徳とく上じょう王おう如来にょらいと名なづく。 かの仏ぶつ出いでたまひし時とき、 いまと異ことなることなし。 かの仏ぶつまた長たけ*丈じょう六ろく、 身み紫し金こん色じきにして三さん乗じょうの法ほうを説ときたまふこと*釈しゃ迦か文もんのごとし。
是ノ故ニ¬観仏三昧経ノ¼「菩薩本行品ニ」云ク、「文殊師利白シテ↠仏ニ言ク、当ニシ↠知ル、我念フニ↧過去無量劫数ニ為リシ↢凡夫↡時ヲ↥、彼ノ世ニ有シキ↠仏、名ク↢宝威徳上王如来ト↡。彼ノ仏出デタマヒシ時、与↠今无シ↠異ナルコト。彼ノ仏亦長丈六、身紫金色ニシテ説キタマフコト↢三乗ノ法ヲ↡如シ↢釈迦文ノ↡。
^その時ときかの国くにに大だい長ちょう者じゃあり、 一切いっさい施せと名なづく。 長ちょう者じゃに子こあり、 名なづけて戒かい護ごといふ0198。 子こ母も胎たいにありし時とき、 母はは敬きょう信しんをもつてのゆゑにあらかじめその子このために三さん帰依きえを受うく。 子こすでに生しょうじをはりて年とし八歳はっさいに至いたるに、 父母ぶも、 仏ぶつを家いえに請しょうじて供く養ようしたてまつる。
爾ノ時彼ノ国ニ有リ↢大長者↡、名ク↢一切施0584ト↡。長者ニ有リ↠子、名ケテ曰フ↢戒護ト↡。子在リシ↢母胎ニ↡時、母以テノ↢敬信ヲ↡故ニ預メ為ニ↢其ノ子ノ↡受ク↢三帰依ヲ↡。子既ニ生ジ已リテ年至ルニ↢八歳ニ↡、父母請ジテ↢仏ヲ於家ニ↡供養シタテマツル。
^童どう子じ、 仏ぶつを見みたてまつりて、 仏ぶつのために礼らいをなす。 仏ぶつを敬うやまふ心しん重おもくして、 目めしばらくも捨すてず。 一ひとたび仏ぶつを見みたてまつるがゆゑに、 すなはち百ひゃく万億まんおく那由他なゆた劫こうの生しょう死じの罪つみを除じょ却きゃくすることを得う。 これより以後いごつねに浄じょう土どに生しょうじてすなはち百ひゃく億おく那由他なゆた恒ごう河が沙しゃの仏ぶつに値ち遇ぐうしたてまつることを得えたり。 このもろもろの世せ尊そんまた相好そうごうをもつて衆しゅ生じょうを*度ど脱だつしたまふ。
童子見タテマツリテ↠仏ヲ、為ニ↠仏ノ作ス↠礼ヲ。敬フ↠仏ヲ心重クシテ、目不↢暫モ捨テ↡。一タビ見タテマツルガ↠仏ヲ故ニ、*即チ得↣除↢却スルコトヲ百万億那由他劫ノ生死之罪ヲ↡。従リ↠是以後常ニ生ジテ↢浄土ニ↡即チ得タリ↣値↢遇シタテマツルコトヲ百億那由他恒河沙ノ仏ニ↡。是ノ諸ノ世尊亦以テ↢相好ヲ↡度↢脱シタマフ衆生ヲ↡。
^その時とき童どう子じ、 一々いちいちに親したしく侍つかへて、 あひだに空むなしく欠かくることなし。 礼拝らいはいし供く養ようし合がっ掌しょうして仏ぶつを観みたてまつる。 因縁いんねん力りきをもつてのゆゑに、 また百ひゃく万まん阿あ僧そう祇ぎの仏ぶつに値ち遇ぐうしたてまつることを得う。 かの諸仏しょぶつ等とうもまた色身しきしん相好そうごうをもつて衆しゅ生じょうを*化度けどしたまふ。
爾ノ時童子一一ニ親ク侍ヘテ、間ニ无シ↢空シク欠クルコト↡。礼拝シ供養シ合掌シテ観タテマツル↠仏ヲ。*以テノ↢因縁力ヲ↡故ニ、復得↣値↢遇シタテマツルコトヲ百万阿僧祇ノ仏ニ↡。彼ノ諸仏等モ亦以テ↢色身相好ヲ↡化↢度シタマフ衆生ヲ↡。
^これより以後いごすなはち百ひゃく千億せんおくの念仏ねんぶつ三昧ざんまい門もんを得え、 また阿あ僧そう祇ぎの*陀羅尼だらに門もんを得えたり。 すでにこれを得えをはりて、 諸仏しょぶつ現前げんぜんしてすなはちために無む相そうの法ほうを説ときたまふ。 須しゅ臾ゆのあひだに*首しゅ楞りょう厳ごん三昧ざんまいを得う。
従リ↠是以後即チ得↢百千億ノ念仏三昧門ヲ↡、復得タリ↢阿僧祇ノ陀羅尼門ヲ↡。既ニ得↠此ヲ已リテ、諸仏現前シテ乃チ為ニ説キタマフ↢无相ノ法ヲ↡。須臾之間ニ得↢首楞厳三昧ヲ↡。
^時ときにかの童どう子じただ三さん帰きを受うけて一ひとたび仏ぶつを礼らいするがゆゑに、 あきらかに仏身ぶっしんを観かんじて心しんに疲ひ厭えんなし。 この因縁いんねんによりて無む数しゅの仏ぶつに値あふ。 いかにいはんや念ねんを繋かけて具ぐ足そくし思し惟ゆいして仏ぶつの色身しきしんを観かんぜんをや。 時とき0199にかの童どう子じあに異人ことひとならんや。 これわが身みなりº と。
時ニ彼ノ童子但受ケテ↢三帰ヲ↡一タビ礼スルガ↠仏ヲ故ニ、諦ニ観ジテ↢仏身ヲ↡心ニ无シ↢疲厭↡。由リテ↢此ノ因縁ニ↡値フ↢无数ノ仏ニ↡。何ニ況ヤ繋ケテ↠念ヲ具足シ思惟シテ観ゼムヲヤ↢仏ノ色身ヲ↡。時ニ彼ノ童子豈ニ異人ナラム乎。是我ガ身也ト。
^その時とき世せ尊そん、 文殊もんじゅを讃ほめてのたまはく、 ª善よきかな善よきかな、 なんぢ一ひとたび仏ぶつを礼らいするをもつてのゆゑに、 無む数しゅの諸仏しょぶつに値あふことを得えたり。 いかにいはんや未み来らいのわがもろもろの弟子でし、 ねんごろに仏ぶつを観かんずるもの、 ねんごろに仏ぶつを念ねんずるものをやº と。
爾ノ時世尊讃メテ↢文殊ヲ↡言ク、善哉善哉、汝以テノ↢一タビ礼スルヲ↟仏ヲ故ニ、得タリ↠値フコトヲ↢无数ノ諸仏ニ↡。何ニ況ヤ未来ノ我ガ諸ノ弟子、懃ニ観ズル↠仏ヲ者、懃ニ念ズル↠仏ヲ者ヲヤト。
^仏ぶつ、 *阿あ難なんに勅ちょくしたまはく、 ªなんぢ文殊もんじゅ師利しりの語ごを持たもちて、 あまねく大衆だいしゅおよび未み来らい世せの衆しゅ生じょうに告つげよ。 もしはよく仏ぶつを礼らいするもの、 もしはよく仏ぶつを念ねんずるもの、 もしはよく仏ぶつを観かんずるものは、 まさに知しるべし、 この人ひとは文殊もんじゅ師利しりと等ひとしくして異ことなることあることなし。 捨身しゃしんして、 他世たせに、 文殊もんじゅ師利しり等とうのもろもろの菩ぼ薩さつ、 その和わ上じょうとなるº」 と。
仏勅シタマハク↢阿難ニ↡、汝持チテ↢文殊師利ノ語ヲ↡、*遍ク告ゲヨ↢大衆及ビ未来世ノ衆生ニ↡。若シハ能ク礼スル↠仏ヲ者、若シハ能ク念ズル↠仏ヲ者、若シハ能ク観ズル↠仏ヲ者ハ、当ニシ↠知ル、此ノ人ハ与↢文殊師利↡等シクシテ无シ↠有0585ルコト↠異ナルコト。捨身シテ他世ニ、文殊師利等ノ諸ノ菩薩為ルト↢其ノ和上ト↡。」
二 Ⅰ ⅲ f ロ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(c)結成
^この文もんをもつて証しょうす。 ゆゑに知しりぬ、 浄じょう土どは相そう土どに該通がいつうせり、 往おう生じょうすること謬あやまらず。
以テ↢此ノ文ヲ↡証ス。故ニ知リヌ浄土ハ該↢通セリ相*土ニ↡、往生スルコト不↠謬ラ。
二 Ⅰ ⅲ f ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)無相の得生を明す
(a)正釈
^もし*無む相そう離り念ねんを体たいとなすと知しりて、 しかも*縁えんのなかに往ゆくことを求もとむるものは、 多おおくは*上じょう輩はいの生しょうなるべし。
若シ知リテ↢无相*離念ヲ為スト↟体ト、而モ縁ノ中ニ求ムル↠往クコトヲ者ハ、多クハ*応シ↢上輩ノ生ナル↡也。
二 Ⅰ ⅲ f ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)引証
^このゆゑに天親てんじん菩ぼ薩さつの ¬論ろん¼ (*論註・下意) にいはく、 「▲もしよく*二に十じゅう九く種しゅの荘しょう厳ごん清浄しょうじょうを観かんずれば、 すなはち略りゃくして一法いっぽっ句くに入いる。 ▲一法いっぽっ句くとはいはく、 清浄しょうじょう句くなり。 清浄しょうじょう句くとはすなはちこれ智慧ちえ無為むい法身ほっしんなるがゆゑなり。
是ノ故ニ天親菩薩ノ¬論ニ¼云ク、「若シ能ク観ズレバ↢二十九種ノ荘厳清浄ヲ↡、即チ略シテ入ル↢一法句ニ↡。一法句ト者謂ク清浄句ナリ。清浄句ト者即チ是智恵无為法身ナルガ故ナリ。
^▲なんがゆゑぞすべからく広こう略りゃく相そう入にゅうすべきとならば、 ただ諸仏しょぶつ・菩ぼ薩さつに二に種しゅの法身ほっしんまします。 一いちには法ほっ性しょう法身ほっしん、 二に0200には方便ほうべん法身ほっしんなり。 法ほっ性しょう法身ほっしんによるがゆゑに方便ほうべん法身ほっしんを生しょうず。 方便ほうべん法身ほっしんによるがゆゑに法ほっ性しょう法身ほっしんを顕けん出しゅつす。 この二に種しゅの法身ほっしんは異いにして分わかつべからず。 一いちにして同どうずべからず。 このゆゑに広こう略りゃく相そう入にゅうす。
何ガ故ゾ須クキトナラバ↢広略相入ス↡者、但諸仏・菩薩ニ有ス↢二種ノ法身↡。一ニ者法性法身、二ニ者方便法身ナリ。由ルガ↢法性法身ニ↡*故ニ生ズ↢方便法身ヲ↡。由ルガ↢方便法身ニ↡故ニ顕↢出ス法性法身ヲ↡。此ノ二種ノ法身ハ異ニシテ*而不↠可カラ↠分ツ。一ニシテ*而不↠可カラ↠同ズ。是ノ故ニ広略相入ス。
^▲菩ぼ薩さつもし広こう略りゃく相そう入にゅうを知しらざれば、 すなはち自利じり利他りたすることあたはざるなり。 ▲無為むい法身ほっしんとはすなはち法ほっ性しょう身しんなり。 法ほっ性しょう寂じゃく滅めつなるがゆゑに、 すなはち法身ほっしんは無む相そうなり。 ◆法身ほっしん無む相そうなるがゆゑに、 すなはちよく相そうならざるはなし。 このゆゑに相好そうごう荘しょう厳ごんすなはちこれ法身ほっしんなり。 ◆法身ほっしんは無知むちなるがゆゑに、 すなはちよく知しらざるはなし。 このゆゑに一切いっさい種しゅ智ちはすなはちこれ真実しんじつの智慧ちえなり。
菩薩若シ不レバ↠知ラ↢広略相入ヲ↡、則チ不ルナリ↠能ハ↢自利利他スルコト↡。无為法身ト者即チ法性身也。法性寂滅ナルガ故ニ、即チ法身ハ无相也。法身无*相ナルガ故ニ、則チ能ク无シ↠不ルハ↠相ナラ。是ノ故ニ相好荘厳即チ是法身也。法身ハ无知ナルガ故ニ、則チ能ク无シ↠不ルハ↠知ラ。是ノ故ニ一切種智ハ即チ是真実ノ智恵也。
^▲縁えんにつきて*総別そうべつ二句にくを観かんずることを知しるといへども、 ▲実相じっそうにあらざるはなし。 ▲実相じっそうを知しるをもつてのゆゑに、 すなはち三界さんがいの衆しゅ生じょうの虚こ妄もうの相そうを知しる。 三界さんがいの衆しゅ生じょうの虚こ妄もうを知しるをもつてのゆゑに、 すなはち真実しんじつの慈悲じひを起おこす。 真実しんじつの慈悲じひを知しるをもつてのゆゑに、 すなはち真実しんじつの帰依きえを起おこす」 と。
雖モ↠*知ルト↣就キテ↠縁ニ観ズルコトヲ↢総別二句ヲ↡、莫シ↠非ザルハ↢実相ニ↡也。以テノ↠知ルヲ↢実相ヲ↡故ニ、即チ知ル↢三界ノ衆生ノ虚妄ノ相ヲ↡也。以テノ↠知ルヲ↢三界ノ衆生ノ虚妄ヲ↡故ニ、即チ起ス↢真実ノ慈悲ヲ↡也。以テノ↠知ルヲ↢真実ノ慈悲ヲ↡故ニ、即チ起スト↢真実ノ帰依ヲ↡也。」
二 Ⅰ ⅲ f ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(c)結成
^いまの行ぎょう者じゃ*緇素しそを問とふことなく、 ただよく生しょう・無む生しょうを知しりて二に諦たいに違いせざるものは、 多おおく上じょう輩はいの生しょうに*落在らくざいすべし。
今之行者无ク↠問フコト↢緇素ヲ↡、但能ク知リテ↢生・无生ヲ↡不ル↠違セ↢二諦ニ↡者ハ、多ク応シ↣落↢在ス上輩ノ生ニ↡也。
二 Ⅰ ⅲ i【三界摂不】
イ 標章
【9】 ^第だい九くに△弥陀みだの浄じょう国こくの三界さんがいの摂しょうと不ふ摂しょうとを明あかすとは、
第0586九ニ明ストハ↣弥陀ノ浄国ノ三界ノ摂ト与ヲ↢不摂↡、
二 Ⅰ ⅲ g ロ 正釈
(一)問
^▲問とひていはく、 安楽あんらく国こく土どは三界さんがいのなかにおいて、 いづれの界かいの所しょ摂しょうぞ。
問ヒテ曰ク、安楽国土ハ於テ↢三界ノ中ニ↡、何ノ界ノ所摂ゾ。
二 Ⅰ ⅲ g ロ (二)答
(Ⅰ)浄穢相対して摂不を弁ず
(ⅰ)相対
^答こたへていはく、 浄じょう土どは勝しょう妙みょう0201にして体たい世せ間けんを出いでたり。 ▲この三界さんがいはすなはちこれ生しょう死じの凡ぼん夫ぶの闇宅あんたくなり。 また苦く楽らく少すこしき殊ことにし、 *修短しゅたん異ことなることありといへども、 すべてこれを観かんずるに有漏うろの*長じょう津しんにあらざるはなし。 *倚い伏ぶく相そう乗じょうして循じゅん環かん無む際さいなり。 *雑ざっ生しょうの触受そくじゅ、 四し倒とう長ながく溝かかはる。 かつは因いんかつは果か、 虚偽こぎ相そう習じゅうせり。 深ふかく厭いとふべし。
答ヘテ曰ク、浄土ハ勝妙ニシテ体出デタリ↢世間ヲ↡。此ノ三界者乃チ是生死ノ凡夫之闇宅ナリ。雖モ↢復苦楽少シク殊ニシ修短有リト↟異ナルコト、統如 スベテ 観ズルニ↠之ヲ莫シ↠非ザルハ↢有漏之長津ニ↡。倚伏相乗シテ循環無際ナリ。雑生ノ触受、四倒長ク*溝カカハル。且ツハ因且ツハ果、虚偽相*習セリ。深ク可シ↠厭フ也。
二 Ⅰ ⅲ g ロ (二)(Ⅰ)(ⅱ)結示
^このゆゑに浄じょう土どは三界さんがいの摂しょうにあらず。
是ノ故ニ浄土ハ非ズ↢三界ノ摂ニ↡。
二 Ⅰ ⅲ g ロ (二)(Ⅱ)正しく浄土に就いて不摂を明す
(ⅰ)居処に約して明す
^また ▲¬智度ちど論ろん¼ (意) によるにいはく、 「浄じょう土どの果か報ほうは欲よくなきがゆゑに欲界よくかいにあらず、 地居じこのゆゑに色界しきかいにあらず、 形ぎょう色しきあるがゆゑに無む色界しきかいにあらず、 地居じこといふといへども精勝しょうしょう妙みょう絶ぜつなり」 と。
又依ルニ↢¬智度論ニ¼↡云ク、「浄土ノ果報ハ无キガ↠欲故ニ非ズ↢欲界ニ↡、地居ノ故ニ非ズ↢色界ニ↡、有ルガ↢形色↡故ニ非ズ↢无色界ニ↡、雖モ↠言フト↢地居ト↡精勝妙*絶。ナリト」
二 Ⅰ ⅲ g ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)総じて二種世間に約して明す
^このゆゑに天親てんじんの ¬論ろん¼ (*浄土論) にいはく、
是ノ故ニ天親ノ¬論ニ¼云ク、
^「▲かの世せ界かいの相そうを観かんずるに、 三界さんがいの道どうに勝しょう過がせり。
◆究く竟きょうして虚こ空くうのごとく、 広大こうだいにして辺際へんざいなし」 と。
「観ズルニ↢彼ノ世界ノ相ヲ↡ | 勝↢過セリ三界ノ道ニ↡ |
究竟シテ如ク↢虚空ノ↡ | 広大ニシテ无シト↢辺際↡」 |
二 Ⅰ ⅲ g ロ (二)(Ⅱ)(ⅲ)別して噐界清浄に約して明す
^このゆゑに ¬大だい経きょうの讃さん¼ (*讃阿弥陀仏偈) にいはく、
是ノ故ニ¬大経ノ讃ニ¼云ク、
^「▲妙みょう土ど広大こうだいにして数限しゅげんを超こゆ。 自じ然ねんの七宝しっぽうをもつて合ごう成じょうするところなり。
仏ぶつの本願ほんがん力りきより荘しょう厳ごん起おこる。 清浄しょうじょう大だい摂しょう受じゅを稽首けいしゅしたてまつる。
「妙土広大ニシテ超ユ↢数限ヲ↡ | 自然ノ七宝ヲモテ所ナリ↢合成スル↡ |
仏ノ本願力ヨリ荘厳*起ル | 稽↢首シタテマツル清浄大摂受ヲ↡ |
^◆世せ界かい光耀こうようすること妙たえにして殊絶しゅぜつす。 適ちゃく悦えつ晏安えんあんとして四時しじなし。
自利じり利他りたの力ちから円満えんまんしたまふ。 方便ほうべん巧ぎょう荘しょう厳ごんを帰き命みょうしたてまつる」 と。
世界光耀スルコト妙ニシテ殊絶ス | 適悦晏安トシテ无シ↢四時↡ |
自利利他ノ力円満シタマフ | 帰↢命シタテマツルト方便*巧荘厳ヲ↡」 |
二 Ⅱ【第二大門】
ⅰ 標列
【020210】^第だい二に大門だいもんのなかに三番さんばんの料りょう簡けんあり。 第だい一いちに↓*発ほつ菩ぼ提だい心しんを明あかし、 第だい二にに↓異い見けん邪じゃ執しゅうを破はし、 第だい三さんに↓広ひろく問答もんどうを施ほどこして、 疑ぎ情じょうを*釈しゃく去こす。
第二大門ノ中ニ有リ↢三番ノ料簡↡。第一ニ明シ↢発菩提心ヲ↡、第二ニ破シ↢異見邪執ヲ↡、第三ニ広ク施シテ↢問答ヲ↡、釈↢去ス疑情ヲ↡。
二 Ⅱ ⅱ釈
a 発菩提心【菩提心義】
イ 標列
【11】^初はじめの↑発ほつ菩ぼ提だい心しんにつきて、 うちに四し番ばんあり。 一いちには↓菩ぼ提だい心しんの*功く用ゆうを出いだし、 二にには↓菩ぼ提だいの名みょう体たいを出いだし、 三さんには↓発心ほっしん異ことなることあることを顕あらわし、 四しには↓問答もんどう解げ釈しゃくす。
就キテ↢初ノ発菩提心ニ↡、内ニ有リ↢四番↡。一ニハ*出シ↢菩提心ノ功用ヲ↡、二ニハ出シ↢菩提ノ名体ヲ↡、三ニハ顕シ↢発心有ルコトヲ↟異ナルコト、四ニハ問答解釈ス。
二 Ⅱ ⅱ a ロ 随釈
(一)菩提心功用
(Ⅰ)経証
^第だい一いちに↑菩ぼ提だい心しんの功く用ゆうを出いだすとは、 ▼*¬大だい経きょう¼ にのたまはく、 「▲おほよそ浄じょう土どに往おう生じょうせんと欲ほっせば、 かならずすべからく菩ぼ提だい心しんを発おこすを源みなもととなすべし」 と。
第0587一ニ出スト↢菩提心ノ功用ヲ↡者、¬大経ニ¼云ク、「凡ソ欲セバ↣往↢生セムト浄土ニ↡、要ズ須クシト↧発スヲ↢菩提心ヲ↡為ス↞*源ト。」
二 Ⅱ ⅱ a ロ (一)(Ⅱ)正嘆
(ⅰ)名徳を示す
^◆いかんとなれば、 「菩ぼ提だい」 といふはすなはちこれ*無む上じょう仏道ぶつどうの名ななり。
云何トナレバ菩提トイフ者乃チ是无上仏道之名也。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (一)(Ⅱ)(ⅱ)功能を明す
^◆もし心しんを発おこし仏ぶつに作ならんと欲ほっすれば、 ▼この心しん広大こうだいにして法界ほうかいに▼遍へん周しゅうせり。 ▼この心しん究く竟きょうして等ひとしきこと虚こ空くうのごとし。 ▼この心しん長じょう遠おんにして未み来らい際さいを尽つくす。 この心しんあまねくつぶさに二に乗じょうの障さわりを離はなる。
若シ欲スレ↢発シ↠心ヲ作ラムト↟仏ニ者、此ノ心広大ニシテ遍↢周セリ法界ニ↡。此ノ心究竟シテ等シキコト若シ↢虚空ノ↡。此ノ心長遠ニシテ尽ス↢未来際ヲ↡。此ノ心普ク備ニ離ル↢二乗ノ障ヲ↡。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (一)(Ⅱ)(ⅲ)力用を明す
(a)法説
^◆もしよく一ひとたびこの心しんを発おこせば、 無始むし生しょう死じの*有う輪りんを傾かたむく。 あらゆる功く徳どくを菩ぼ提だいに回え向こうすれば、 みなよく遠とおく仏ぶっ果かに詣いたるまで失滅しつめつあることなし。
若シ能ク一タビ発セバ↢此ノ心ヲ↡、傾ク↢无始生死ノ有*淪ヲ↡。所有ル功徳ヲ廻↢向スレバ菩提ニ↡、皆能ク遠ク詣ルマデ↢仏果ニ↡无シ↠有ルコト↢失滅↡。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (一)(Ⅱ)(ⅲ)(b)喩説
^たとへば華はなを*五ご浄じょうに寄よすれば風日ふうにちにも萎しぼまず、 水みずを*霊りょう河がに附ふすれば*世せ旱かんにも竭つくることなきがごとし。
譬ヘバ如シ↧寄スレバ↢花ヲ五浄ニ↡風日ニモ不↠萎マ、附スレバ↢水ヲ*霊河ニ↡世*旱ニモ无キガ↞*竭クルコト。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (二)菩提名体
(Ⅰ)標列
^第だい二にに↑菩ぼ提だいの名みょう体たいを出いだすとは、 しかるに菩ぼ提だいに三種さんしゅあり。 一いちには↓法身ほっしんの菩ぼ提だい、 二に0203には↓報身ほうじんの菩ぼ提だい、 三さんには↓化け身しんの菩ぼ提だいなり。
第二ニ出スト↢菩提ノ名体ヲ↡者、然ルニ菩提ニ有リ↢三種↡。一ニ者法身ノ菩提、二ニ者報身ノ菩提、三ニ者化身ノ菩提也。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (二)(Ⅱ)釈
(ⅰ)法身菩提
^↑法身ほっしんの菩ぼ提だいといふは、 いはゆる真如しんにょ実相じっそう第一だいいち義ぎ空くうなり。 *自じ性しょう清浄しょうじょうにして、 体たい*穢え染ぜんなし。 理り、 *天真てんしんに出いでて*修しゅ成じょうを仮からざるを名なづけて法身ほっしんとなす。 仏道ぶつどうの体本たいほんを名なづけて菩ぼ提だいといふ。
言フ↢法身ノ菩提ト↡者、所謂ル真如実相第一義空ナリ。自性清浄ニシテ体无シ↢穢染↡。理出デテ↢天真ニ↡不ルヲ↠仮ラ↢修成ヲ↡名ケテ為ス↢法身ト↡。仏道ノ体本ヲ名ケテ曰フ↢菩提ト↡。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)報身菩提
^↑報身ほうじんの菩ぼ提だいといふは、 つぶさに万まん行ぎょうを修しゅしてよく報仏ほうぶつの果かを感かんず。 果かの因いんに酬むくゆるをもつて名なづけて報身ほうじんといふ。 *円通えんずう無礙むげなるを名なづけて菩ぼ提だいといふ。
言フ↢報身ノ菩提ト↡者、備ニ修シテ↢万行ヲ↡能ク感ズ↢報仏之果ヲ↡。以テ↢果ノ酬ユルヲ↟因ニ名ケテ曰フ↢報身ト↡。円通无礙ナルヲ名ケテ曰フ↢菩提ト↡。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (二)(Ⅱ)(ⅲ)化身菩提
^↑化け身しんの菩ぼ提だいといふは、 いはく、 報ほうより*用ゆうを起おこして、 よく*万まん機きに趣おもむくを名なづけて化け身しんとなす。 *益物やくもつ円通えんずうするを名なづけて菩ぼ提だいといふ。
*言フ↢化身ノ菩提ト↡者、謂ク従リ↠報起シテ↠用ヲ、能ク*趣クヲ↢万機ニ↡名ケテ為ス↢化身ト↡。益物円通スルヲ名ケテ曰フ↢菩提ト↡。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (三)発心有異
(Ⅰ)先づ常途に約して釈す
(ⅰ)標
^第だい三さんに↑発心ほっしんに異ことなることあることを顕あらわすとは、 いまいはく、 行ぎょう者じゃ因いんを修しゅし心しんを発おこすにその三種さんしゅを具ぐせり。
第三ニ顕スト↢発心ニ有ルコトヲ↟異ナルコト者、今謂ク行者修シ↠因ヲ発スニ↠心ヲ具セリ↢其ノ三種ヲ↡。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (三)(Ⅰ)(ⅱ)釈
(a)法
^一いちには、 かならずすべからく有無うむもとよりこのかた自じ性しょう清浄しょうじょうなりと識達しきだつすべし。
一ニ者要ズ須クシ↣識↢達ス有无従リ↠本已来タ自性清浄ナリト↡。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (三)(Ⅰ)(ⅱ)(b)報
^二にには、 万まん行ぎょうを縁修えんしゅす。 八万はちまん四し千せんの諸しょ*波羅はら蜜みつ門もん等とうなり。
二ニ者縁↢修ス万行ヲ↡。八万四千ノ諸波羅蜜門0588等ナリ。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (三)(Ⅰ)(ⅱ)(c)化
^三さんには、 大だい慈悲じひを本ほんとなしてつねに*運うん度どせんと擬ぎするを懐かいとなす。
三ニ者大慈悲ヲ為シテ↠本ト恒ニ擬スルヲ↢運度セムト↡*為ス↠懐ト。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (三)(Ⅰ)(ⅲ)結
^この三因さんいんはよく大だい菩ぼ提だいと相応そうおうす。 ゆゑに発ほつ菩ぼ提だい心しんと名なづく。
此之三因ハ能ク与↢大菩提↡相応ス。故ニ名ク↢発菩提心ト↡。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (三)(Ⅱ)正しく随自に約して明す
(ⅰ)引証
^また ▼¬浄じょう土ど論ろん¼ (論註・下意) によるにいはく、 「▲いま発ほつ菩ぼ提だい心しんといふは、 まさしくこれ願がん作さ仏ぶつ心しんなり。 願がん作さ仏ぶつ心しんとは、 すなはちこれ度ど衆しゅ生じょう心しんなり。 度ど衆しゅ生じょう心しんとは、 すなはち衆しゅ生じょうを摂取せっしゅして有う仏ぶつの国こく土どに生しょうぜしむる心しんなり。
又拠ルニ↢¬浄土論ニ¼↡云ク、「今言フ↢発菩提心ト↡者正シク是願作仏心ナリ。願作仏心ト者即チ是度衆生心ナリ。度衆生心ト者即チ摂↢取シテ衆生ヲ↡生ゼシムル↢有仏ノ国土ニ↡心ナリ。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (三)(Ⅱ)(ⅱ)結勧
^▲いますでに浄じょう土どに生しょうぜんと願がんず。 ゆ0204ゑに先まづすべからく菩ぼ提だい心しんを発おこすべし」 と。
今既ニ願ズ↠生ゼムト↢浄土ニ↡。故ニ先ヅ須クシト↠発ス↢菩提心ヲ↡也。」
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)問答解釈
(Ⅰ)標
^第だい四しに↑問答もんどう解げ釈しゃくすとは、
第*四ニ問答解釈スト*者、
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)釈
(ⅰ)先づ常途に就きて問答す
(a)問
^問とひていはく、 もしつぶさに万まん行ぎょうを修しゅしてよく菩ぼ提だいを感かんじ成じょう仏ぶつを得うといはば、 なんがゆゑぞ ¬*諸法しょほう無む行ぎょう経きょう¼ に、
「もし人ひと菩ぼ提だいを求もとめば、 すなはち菩ぼ提だいあることなし。
この人ひと菩ぼ提だいを遠とおざかること、 なほ天てんと地じとのごとし」
とのたまへるや。
問ヒテ曰ク、若シ備ニ修シテ↢万行ヲ↡能ク感ジ↢菩提ヲ↡得トイハバ↢成仏ヲ↡者、何ガ故ゾ¬諸法无行経ニ¼云ヘルヤ↧
「若シ人求メバ↢菩提ヲ↡ | 即チ無シ↠有ルコト↢菩提↡ |
是ノ人遠ザカルコト↢菩提ヲ↡ | 猶如シト↦天ト与ノ↞地」 |
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅰ)(b)答
(イ)先づ来難の経旨を解す
[一]正明
^答こたへていはく、 菩ぼ提だいの正しょう体たいは、 理り求もとむるに無む相そうなり。 いま相そうをなして求もとむ。 理り実じつに当あたらず。 ゆゑに人ひと遠とおざかると名なづく。
答ヘテ曰ク、菩提ノ正体ハ、理*求ムルニ无相ナリ。今作シテ↠相ヲ求ム。不↠当ラ↢理実ニ↡。故ニ名ク↢*人遠ザカルト↡也。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二]引証
^このゆゑに*経きょうにのたまはく、 「菩ぼ提だいは心しんをもつて得うべからず、 身しんをもつて得うべからず」 と。
是ノ故ニ¬経ニ¼言ク、菩提者不↠可カラ↢以テ↠心ヲ得↡、不ト↠可カラ↢以テ↠身ヲ得↡也。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ロ)今二諦に順ずる修を明す
[一]正明
^いまいはく、 行ぎょう者じゃ修しゅ行ぎょうして往ゆきて求もとむるを知しるといへども、 *了々りょうりょうに理り体たい求もとむることなきことを識しき知ちして、 なほ*仮け名みょうを壊えせず。 このゆゑにつぶさに万まん行ぎょうを修しゅす。 ゆゑによく感かんず。
今謂ク、行者雖モ↠知ルト↢修行シテ往キテ求ムルヲ↡、了了ニ識↢*知シテ理体无キコトヲ↟求ムルコト、仍ナホ不↠壊セ↢仮名ヲ↡。是ノ故ニ備ニ修ス↢万行ヲ↡。故ニ能ク感ズ也。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ロ)[二]引証
[Ⅰ]論所偈
^このゆゑに *¬大だい智度ちど論ろん¼ にいはく、
是ノ故ニ¬大智度論ニ¼云ク、
^「▲もし人ひと般若はんにゃを見みるも、 これすなはち縛ばくせられたりとなす。
もし般若はんにゃを見みざるも、 これまた縛ばくせられたりとなす。
「若シ人見ルモ↢般若ヲ↡ | 是則チ為ス↠被レタリト↠縛セ |
若シ不ルモ↠見↢般若ヲ↡ | 是亦為ス↠被レタリト↠縛セ |
◆もし人ひと般若はんにゃを見みるも、 これすなはち解げ脱だつとなす。
もし般若はんにゃを見みざるも、 これまた解げ脱だつとなす」 と。
若シ人見ルモ↢般若ヲ↡ | 是則チ為ス↢解脱ト↡ |
若シ不ルモ↠見↢般若ヲ↡ | 是亦為スト↢解脱ト↡」 |
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ロ)[二][Ⅱ]論主自解
^*龍りゅう0205樹じゅ菩ぼ薩さつの釈しゃくにいはく、 「▲このなかに*四句しくを離はなれざるを*縛ばくとなし、 四句しくを離はなるるを*解げとなす」 と。
龍樹菩薩ノ釈ニ曰ク、是ノ中ニ不ルヲ↠離レ↢四句ヲ↡者為シ↠縛ト、離ルルヲ↢四句ヲ↡者為スト↠解ト。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ハ)結して二諦に準ずるを明す
^いま菩ぼ提だいを体さとるに、 ただよくかくのごとく修しゅ行ぎょうすれば、 すなはちこれ不ふ行ぎょうにして行ぎょうなり。 不ふ行ぎょうにして行ぎょうなれば、 二に諦たいの大道だいどう理りに違いせず。
今*体サトルニ↢菩提ヲ↡但能ク如ク↠此クノ修行スレバ、即チ是不行ニシテ而行ナリ。不行ニシテ而行ナレバ者、不↠違セ↢二諦ノ大道理ニ↡也。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)正しく随自に約して解釈す
(a)引証
(イ)標
^また天親てんじんの ¬浄じょう土ど論ろん¼ (論註・下意) によるにいはく、 「おほよそ発心ほっしんして無む上じょう菩ぼ提だいに会えせんと欲ほっせば、 その二義にぎあり。
又依ルニ↢天親ノ¬浄土論ニ¼↡云ク、「凡ソ欲セバ↣発心シテ会セムト↢无上菩提ニ↡者、有リ↢其0589ノ二義↡。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)列
^▲一いちには、 先まづすべからく三種さんしゅの菩ぼ提だい門もんと相そう違いする法ほうを離はなるべし。 ▲二にには、 すべからく三種さんしゅの菩ぼ提だい門もんに順じゅんずる法ほうを知しるべし。
一ニ*者先ヅ須クシ↠離ル↧三種ノ与↢菩提門↡相違スル法ヲ↥。二ニ者須クシ↠知ル↧三種ノ順ズル↢菩提門ニ↡法ヲ↥。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ハ)釈
[一]本論に依りて違門を明す
[Ⅰ]智慧門
^なんらをか三さんとなす。 ▲一いちには智慧ちえ門もんによりて自じ楽らくを求もとめず。 我が心しんをもつて自じ身しんに貪とん着じゃくすることを遠おん離りするがゆゑなり。
何等ヲカ為ス↠三ト。一ニ者依リテ↢智慧門ニ↡不↠求メ↢自楽ヲ↡。遠↣離スルガ我*心ヲモテ貪↢着スルコトヲ自身ニ↡故ナリ。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ハ)[一][Ⅱ]慈悲門
^▲二にには慈悲じひ門もんによりて一切いっさい衆しゅ生じょうの苦くを抜ぬく。 衆しゅ生じょうを安やすんずることなき心しんを遠おん離りするがゆゑなり。
二ニ者依リテ↢慈悲門ニ↡抜ク↢一切衆生ノ苦ヲ↡。遠↧離スルガ无キ↠安ズルコト↢衆生ヲ↡心ヲ↥故ナリ。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ハ)[一][Ⅲ]方便門
^▲三さんには方便ほうべん門もんによりて一切いっさい衆しゅ生じょうを憐愍れんみんする心しんなり。 自じ身しんを恭く敬ぎょうし供く養ようする心しんを遠おん離りするがゆゑなり。
三ニ者依リテ↢方便門ニ↡憐↢愍スル一切衆生ヲ↡心ナリ。遠↧離スルガ恭↢敬シ供↣養スル自身ヲ↡心ヲ↥故ナリ。
^▲これを三種さんしゅの菩ぼ提だい門もん相そう違いの法ほうを遠おん離りすと名なづく。
是ヲ名ク↣遠↢離スト三種ノ菩提門相違ノ法ヲ↡。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ハ)[二]本末を合引して順門を明す
[Ⅰ]結前生後
^◆菩ぼ提だい門もんに順じゅんずるとは、 ◆菩ぼ薩さつはかくのごとき三種さんしゅの菩ぼ提だい門もん相そう違いの法ほうを遠おん離りして、 すなはち三種さんしゅの菩ぼ提だい門もんに随ずい順じゅんする法ほうを得う。 なんらをか三さんとなす。
順ズルト↢菩提門ニ↡者、菩薩ハ遠↢離シテ如キ↠是クノ三種ノ菩提*門相違ノ法ヲ↡、*即チ得↧三種ノ随↢順スル菩提門ニ↡法ヲ↥。何等ヲカ為ス↠三ト。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ハ)[二][Ⅱ]出三種門
[ⅰ]無染清浄心
^◆一いちには無む染ぜん清浄しょうじょう心しんなり。 自じ身しんのために諸楽しょらくを求もとめざるがゆゑなり。 ◆菩ぼ提だいはこれ無む染ぜん清浄しょうじょうの処ところなり。 もし自じ身しんのために楽らくを求もとむれば、 すなはち菩ぼ提だい門もんに違いせり。 このゆゑに無む染ぜん清浄しょうじょう心しんはこれ0206菩ぼ提だい門もんに順じゅんずるなり。
一ニ者无染清浄心ナリ。不ルガ↧為ニ↢自身ノ↡求メ↦諸楽ヲ↥故ナリ。菩提ハ是无染清浄ノ処ナリ。若シ為ニ↢自身ノ↡求ムレバ↠楽ヲ、即チ違セリ↢菩提門ニ↡。是ノ故ニ无染清浄心ハ是順ズルナリ↢菩提門ニ↡。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ハ)[二][Ⅱ][ⅱ]安清浄心
^◆二にには安あん清浄しょうじょう心しんなり。 一切いっさい衆しゅ生じょうの苦くを抜ぬかんがためのゆゑなり。 ◆菩ぼ提だいは一切いっさい衆しゅ生じょうを安穏あんのんにする清浄しょうじょう処しょなり。 もし心しんをなして、 一切いっさい衆しゅ生じょうを抜ぬきて生しょう死じの苦くを離はなれしめざれば、 すなはち菩ぼ提だいに違いす。 このゆゑに一切いっさい衆しゅ生じょうの苦くを抜ぬくはこれ菩ぼ提だい門もんに順じゅんずるなり。
二ニ者安清浄心ナリ。為ノ↠抜カムガ↢一切衆生ノ苦ヲ↡故ナリ。菩提ハ安↢*隠ニスル一切衆生ヲ↡清浄処ナリ。若シ不レバ↧作シテ↠心ヲ抜キテ↢一切衆生ヲ↡離レシメ↦生死ノ苦ヲ↥、即便チ違ス↢菩提ニ↡。是ノ故ニ抜クハ↢一切衆生ノ苦ヲ↡是順ズルナリ↢菩提門ニ↡。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ハ)[二][Ⅱ][ⅲ]楽清浄心
^◆三さんには楽らく清浄しょうじょう心なり。 一切いっさい衆しゅ生じょうをして大だい菩ぼ提だいを得えしめんと欲ほっするがゆゑなり。 衆しゅ生じょうを摂取せっしゅしてかの国こく土どに生しょうぜしむるがゆゑなり。 ◆菩ぼ提だいはこれ畢ひっ竟きょう常じょう楽らくの処ところなり。 もし一切いっさい衆しゅ生じょうをして畢ひっ竟きょう常じょう楽らくを得えしめざれば、 すなはち菩ぼ提だい門もんに違いす。 この畢ひっ竟きょう常じょう楽らくはなにによりてか得うる。 かならず大だい義ぎ門もんによる。 大だい義ぎ門もんといふは、 いはく、 かの安楽あんらく仏国ぶっこくこれなり。
三ニ者楽清浄心ナリ。欲スルガ↠令メムト↣一切衆生ヲシテ得↢大菩提ヲ↡故ナリ。摂↢取シテ衆生ヲ↡生ゼシムルガ↢彼ノ国土ニ↡故ナリ。菩提ハ是畢竟常楽ノ処ナリ。若シ不レバ↠令メ↣一切衆生ヲシテ得↢畢竟常楽ヲ↡者、則チ違ス↢菩提門ニ↡。此ノ畢竟常楽ハ依リテカ↠何ニ而得ル。要ズ依ル↢大義門ニ↡。大義門トイフ者、謂ク彼ノ安楽仏国是也。
二 Ⅱ ⅱ a ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(b)結勧
^ゆゑに一心いっしんに専せん至ししてかの国くにに生しょうぜんと願がんぜしむ。 早はやく無む上じょう菩ぼ提だいに会えせしめんと欲ほっすればなり」 と。
故ニ令ム↢一心ニ専至シテ願ゼ↟生ゼムト↢彼ノ国ニ↡。欲スレバ↠*使メムト↣早ク会セ↢无上菩提ニ↡也ト。」
二 Ⅱ ⅱ b【破異見邪執】
イ 標
【12】^第だい二にに↑異い見けん邪じゃ執しゅうを破はすることを明あかすとは、 なかにつきてその九く番ばんあり。
第0590二ニ明スト↠破スルコトヲ↢異見邪執ヲ↡者、就キテ↠中ニ有リ↢其ノ九*番↡。
二 Ⅱ ⅱ b ロ 列
^第だい一いちには↓大だい乗じょうの無む相そうを妄もう計けする異い見けん偏へん執じゅうを破はす。
第一ニハ*破ス↧妄↢計スル大乗ノ无相ヲ↡異見偏執ヲ↥。
^第だい二にには↓菩ぼ薩さつの*愛見あいけんの大だい悲ひを*会え通つうす。
第二ニハ会↢通ス菩薩ノ愛見ノ大悲ヲ↡。
^第だい三さんには↓心しん外げに法ほうなしと繋けいするを破はす。
第三ニハ破ス↠繋スルヲ↢心外ニ无シト↟法。
^第だい四しには↓*穢え国こくに生しょうぜんと願がんじて、 浄じょう土どに往おう生じょうせんと願がんぜざるを破はす。
第四ニハ破ス↧願ジテ↠生ゼムト↢穢国ニ↡、不ルヲ↞願ゼ↣往↢生セムト浄土ニ↡。
^第だい五ごには↓もし浄じょう土どに生しょうずれば、 多おおく喜よろこびて楽らくに着じゃくすといふを破はす。
第五ニハ破ス↧若シ生ズレバ↢浄土ニ↡、多ク喜ビテ著ストイフヲ↞楽ニ。
^第六だいろくには↓浄じょう土どに生しょうぜんと求もとむるは非ひなり、 これ小しょう乗じょう0207なりといふを破はす。
第六ニハ破ス↧求ムルハ↠生ゼムト↢浄土ニ↡非ナリ、是小乗ナリトイフヲ↥。
^第七だいしちには↓兜と率そつに生しょうぜんと求もとめて、 浄じょう土どに帰きせざれと勧すすむるを破はす。
第七ニハ破ス↧求メテ↠生ゼムト↢兜率ニ↡、勧ムルヲ↞不レト↠帰セ↢浄土ニ↡。
^第八だいはちには↓もし十方じっぽうの浄じょう土どに生しょうぜんと求もとめんよりは、 西にしに帰きするにしかずといふを会え通つうす。
第八ニハ会↧通ス若シ求メムヨリハ↠生ゼムト↢十方ノ浄土ニ↡、不トイフヲ↞如カ↠帰スルニ↠西ニ。
^第だい九くには↓*別べつ時意じいを料りょう簡けんす。
第九ニハ料↢簡ス別時之意ヲ↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ 正釈
(一)破無相妄執
(Ⅰ)標
【13】^第だい一いちに↑大だい乗じょう無む相そうの妄もう執しゅうを破はすとは、 なかにつきて二にあり。 一いちには↓*総そう生しょう起きなり。 後代こうだいの学者がくしゃをしてあきらかに是非ぜひを識しりて邪じゃを去さり正しょうに向むかはしめんと欲ほっす。 第だい二にには↓広ひろく*繋け情じょうにつきて正しょうを顕あらわしてこれを破はす。
第一ニ破スト↢大乗无相ノ妄執ヲ↡者、就キテ↠中ニ有リ↠二。一ニハ総生起ナリ。欲ス↠令メムト↧後代ノ学者ヲシテ明カニ識リテ↢是非ヲ↡去リ↠*邪ヲ向ハ↞正ニ。第二ニハ広ク就キテ↢繋*情ニ↡顕シテ↠正ヲ破ス↠之ヲ。
^一いちに↑総そう生しょう起きとは、 しかるに大だい乗じょうの深蔵じんぞうは*名みょう義ぎ塵沙じんしゃなり。 このゆゑに ¬涅ね槃はん経ぎょう¼ (意) にのたまはく、 「▲一いち名みょうに無む量りょうの義ぎあり、 一いち義ぎに無む量りょうの名なあり」 と。 かならずすべからくあまねく*衆典しゅてんを審つまびらかにして、 まさに*部旨ぶしを暁あきらむべし。 小乗しょうじょうと俗書ぞくしょとの文もんを案あんじて義ぎを畢おわるがごときにあらず。
一ニ総生起ト者、然ルニ大乗ノ深蔵ハ名義塵沙ナリ。是ノ故ニ¬涅槃経ニ¼云ク、「一名ニ无量ノ義アリ、一義ニ无量ノ名アリト。」要ズ須クシ↧遍ク審カニシテ↢衆典ヲ↡、方ニ暁アキラム↦部旨ヲ↥。非ズ↠如キニ↢小乗ト俗書トノ*案ジテ↠文ヲ畢ルガ↟義ヲ。
^なんの意こころかすべからくしかるべき。 ただ*浄じょう土どは幽廓ゆうかくにして経きょう論ろん*隠顕おんけんす。 凡ぼん情じょうをして種々しゅじゅに*図ず度だくせしむることを致いたす。 おそらくは*諂てん語ご刁々ちょうちょうに渉わたりて、 *百ひゃく盲もう偏へん執じゅうし雑乱ぞうらん無知むちにして往おう生じょうを*妨ぼう礙げすることを。 いましばらく少状しょうじょうを挙あげて一々いちいちこれを破はせん。
何ノ*意カ須クキ↠然ル。但浄土ハ幽廓ニシテ経論隠顕ス。致ス↠令ムルコトヲ↢凡情ヲシテ種々ニ図度セ↡。恐クハ渉リテ↢*諂語*刁刁ニ↡、百盲偏執シ雑乱无知ニシテ妨↢礙スルコトヲ往生ヲ↡。今且ク挙ゲテ↢少状ヲ↡一一破セム↠之ヲ。
^↑第だい一いちに大だい乗じょうの無む相そうを妄もう計けするを破はすとは、
第一ニ破スト↣妄↢計スルヲ大乗ノ无相ヲ↡者、
二 Ⅱ ⅱ b ハ (一)(Ⅱ)正釈
(ⅰ)内の妄計無相を破す
(a)問
^問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「大だい乗じょうは無む相そうなり、 彼此ひしを念ねんずることなかれ。 もし浄じょう土どに生しょうぜんと願がんず0208れば、 すなはちこれ*取相しゅそうなり、 *うたた縛ばくを増ます。 なにをもつてかこれを求もとむる」 と。
問ヒテ曰ク、或イハ有リテ↠人言ク、大乗ハ无相ナリ、勿レ↠念ズルコト↢彼此ヲ↡。若シ願ズレバ↠生ゼムト↢浄土ニ↡、便チ是取相ナリ、転タ*増ス↠縛ヲ。何ヲ用テカ求ムルト↠之ヲ。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(b)答
(イ)正答
^答こたへていはく、 かくのごとき*計けいはまさに謂おもふにしからず。 なんとなれば、 一切いっさい諸仏しょぶつの説法せっぽうはかならず二に縁えんを具ぐす。 一いちには法ほっ性しょうの実じつ理りによる。 二ににはすべからくその二に諦たいに順じゅんずべし。 かれは、 大だい乗じょうは無む念ねんなり、 ただ法ほっ性しょうによると計けいして、 しかも*縁えん求ぐを謗そしり無なみす。 すなはちこれ二に諦たいに順じゅんぜず。 かくのごとき見けんは、 *滅空めっくうの所しょ収しゅうに堕だす。
答ヘテ曰ク、如キ↠此クノ計者将ニ謂フニ不↠然ラ。何トナレバ者一切諸仏ノ説法ハ要ズ具ス↢二縁ヲ↡。一ニハ依ル↢法性ノ実理ニ↡。二ニハ須クシ↠順ズ↢其ノ二諦ニ↡。彼ハ計シテ↣大乗ハ无0591念ナリ、但依ルト↢法性ニ↡、然モ謗リ↢无ナミス縁求ヲ↡。即チ是不↠順ゼ↢二諦ニ↡。如キ↠此クノ見者、堕ス↢滅空ノ所収ニ↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ロ)経証
[一]無上依経
^このゆゑに ¬*無む上じょう依え経きょう¼ (意) にのたまはく、 「仏ぶつ、 阿あ難なんに告つげたまはく、 ª▼一切いっさいの衆しゅ生じょうもし*我が見けんを起おこすこと須しゅ弥み山せんのごとくならんも、 われ懼おそれざるところなり。 なにをもつてのゆゑに。 この人ひとはいまだすなはち出しゅつ離りを得えずといへども、 つねに因いん果がを壊えせず、 果か報ほうを失うしなはざるがゆゑなり。 もし*空見くうけんを起おこすこと芥子けしのごとくなるも、 われすなはち許ゆるさず。 なにをもつてのゆゑに。 この見けんは因いん果がを破やぶり喪うしなひて多おおく悪道あくどうに堕だす。 未み来らいの生しょう処じょかならずわが化けに背そむくº」 と。
是ノ故ニ¬無上依経ニ¼云ク、「仏告ゲタマハク↢阿難ニ↡、一切ノ衆生若シ起スコト↢我見ヲ↡如クナラムモ↢須弥山ノ↡、我所ナリ↠不ル↠懼レ。何ヲ以テノ故ニ。此ノ人ハ雖モ↠*未ダト↣即チ得↢出離ヲ↡、常ニ不↠壊セ↢因果ヲ↡、不ルガ↠*失ハ↢果報ヲ↡故ナリ。若シ起スコト↢空見ヲ↡如クナルモ↢芥子ノ↡、我即チ不↠*許サ。何ヲ以テノ故ニ。此ノ見者破リ↢喪ヒテ因果ヲ↡多ク堕ス↢悪道ニ↡。未来ノ生処必ズ背クト↢我ガ化ニ↡。」
二 Ⅱ ⅱ b ハ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ロ)[二]維摩経1
^いま行ぎょう者じゃに勧すすむ。 理り、 無む生しょうなりといへども、 しかも二に諦たいの道どう理り縁えん求ぐなきにあらざれば、 一切いっさい往おう生じょうを得う。 このゆゑに ¬維ゆい摩ま経ぎょう¼ (意) にのたまはく、
今勧ム↢行者ニ↡。理雖モ↢无生ナリト↡、然モ二諦ノ道理非ザレバ↠无キニ↢縁求↡、一切得↢往生ヲ↡也。是ノ故ニ¬維摩経ニ¼云ク、
^「▼諸仏しょぶつの国くにとおよび衆しゅ生じょうとは、 空くうなりと観かんずといへども、
0209しかもつねに浄じょう土どを修しゅして、 もろもろの*群ぐん生じょうを教きょう化けす」 と。
「雖モ↠観ズト↧諸仏ノ国ト | 及ビ与ハ↢衆生↡空ナリト↥ |
而モ常ニ修シテ↢浄土ヲ↡ | 教↢化スト諸ノ群生ヲ↡」 |
二 Ⅱ ⅱ b ハ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ロ)[三]維摩経2
^またかの ¬経きょう¼ (維摩経) にのたまはく、 「*無作むさを行ぎょうずといへども*受身じゅしんを現げんず。 これ菩ぼ薩さつの行ぎょうなり。 *無起むきを行ぎょうずといへども、 一切いっさいの善ぜん行ぎょうを起おこす。 これ菩ぼ薩さつの行ぎょうなり」 と。 これその真しん証しょうなり。
又彼ノ¬経ニ¼云ク、「雖モ↠行ズト↢无作ヲ↡而現ズ↢受身ヲ↡。是菩薩ノ行ナリ。雖モ↠行ズト↢无起ヲ↡而起ス↢一切ノ善行ヲ↡。是菩薩ノ行ナリト。」是其ノ真証也。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)外の不護戒相を破す
(a)問
^問とひていはく、 いま世せ間けんに人ひとありて、 大だい乗じょうの*無む相そうを行ぎょうじてまた彼此ひしを存ぞんぜず、 まつたく戒相かいそうを護まもらず。 この事じいかん。
問ヒテ曰ク、*今世間ニ有リテ↠人、行ジテ↢大乗ノ无相ヲ↡亦不↠*存ゼ↢彼此ヲ↡、全ク不↠護ラ↢戒相ヲ↡。是ノ事云何ン。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)(b)答
^答こたへていはく、 かくのごとき計けいは害がいをなすことますますはなはだし。 なんとなれば、 ¬*大だい方等ほうどう経きょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「仏ぶつ、 優婆うば塞そくのために戒かいを制せいす。 ª寡婦かふ・処女しょにょの家いえ、 *沽こ酒しゅ家け・藍染らんぜん家け・押おう油ゆ家け・熟じゅく皮ひ家けに至いたることを得えざれ、 ことごとく往来おうらいすることを得えざれº と。 阿あ難なん、 仏ぶつにまうしてまうさく、 ª世せ尊そん、 なんらの人ひとのためにか、 かくのごとき戒かいを制せいしたまふº と。
答ヘテ曰ク、如キ↠此クノ計者為スコト↠害ヲ滋マスマス甚ダシ。何トナレバ者如シ↢¬大方等経ニ¼云フガ↡。「仏為ニ↢優婆塞ノ↡制ス↠戒ヲ。不レ↠得↠至ルコトヲ↢寡婦・処女ノ家、沽酒家・藍染家・押油家・熟皮家ニ↡、悉ク不レト↠得↢往来スルコトヲ↡。阿難*白シテ↠仏ニ言ク、世尊、為ニカ↢何等ノ人ノ↡制シタマフト↢如キ↠斯クノ戒ヲ↡。
^仏ぶつ、 阿あ難なんに告つげたまはく、 ª行ぎょう者じゃに二種しゅあり。 一いちには*在ざい世せ人にんの行ぎょう、 二にには出しゅっ世せ人にんの行ぎょうなり。 出しゅっ世せ人にんには、 われ上かみの事じを制せいせず。 在ざい世せ人にんには、 われいまこれを制せいす。 なにをもつてのゆゑに。 一切いっさい衆しゅ生じょうはことごとくこれわが子こなり。 仏ぶつはこれ一切いっさい衆しゅ生じょうの父母ぶもなり。 *遮制しゃせい約勒やくろくすれば、 早はやく世せ間けんを出いでて涅ね槃はんを得うるがゆゑなりº」 と。
仏告ゲタマハク↢阿難ニ↡、行*者ニ有リ↢二種↡。一ニ者在世人ノ行、二ニ者出世人ノ行ナリ。*出世人ニ者吾不↠制セ↢上ノ事ヲ↡。在世人ニ者吾今制ス↠之ヲ。何ヲ以テノ故ニ。一切衆生ハ悉ク是吾ガ子ナリ。仏ハ是一切衆生ノ父母ナリ。遮0592制約勒スレバ、早ク出デテ↢世間ヲ↡得ルガ↢涅槃ヲ↡故ナリト。」
二 Ⅱ ⅱ b ハ (二)会通愛見大悲
(Ⅰ)標
【021014】^第だい二にに菩ぼ薩さつの↑愛見あいけんの大だい悲ひを会え通つうすとは、
第二ニ会↢通スト菩薩ノ愛見ノ大悲ヲ↡者、
二 Ⅱ ⅱ b ハ (二)(Ⅱ)釈
(ⅰ)問
^問とひていはく、 大だい乗じょうの聖教しょうぎょうによるに、 「菩ぼ薩さつもろもろの衆しゅ生じょうにおいて、 もし愛見あいけんの大だい悲ひを起おこさばすなはち捨しゃ離りすべし」 と。 いま衆しゅ生じょうを勧すすめてともに浄じょう土どに生しょうぜしむるは、 あに*愛染あいぜん取相しゅそうにあらずや。 いかんぞその*塵累じんるいを勉まぬかれんや。
問ヒテ曰ク、依ルニ↢大乗ノ聖教ニ↡、菩薩於テ↢諸ノ衆生ニ↡、若シ起サバ↢愛見ノ大悲ヲ↡即チ応シト↢捨離ス↡。今勧メテ↢衆生ヲ↡共ニ生ゼシムルハ↢浄土ニ↡、豈ニ非ズヤ↢愛染取相ニ↡。若為 イカン ゾ*勉マヌカレム↢其ノ塵累ヲ↡也。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)答
(a)悲智双行に約して会す
(イ)二種目を列す
^答こたへていはく、 菩ぼ薩さつの行ぎょう法ほう功く用ゆうに二にあり。 なんとなれば、 一いちには*空くう慧え般若はんにゃを証さとる。 二にには大だい悲ひを具ぐす。
答ヘテ曰ク、菩薩ノ行法功用ニ有リ↠二。何トナレバ者一ニハ証ル↢空恵*般若ヲ↡。二ニハ具ス↢大悲ヲ↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)其の功用を明す
^一いちには空くう慧え般若はんにゃを修しゅする力ちからをもつてのゆゑに、 六道ろくどう生しょう死じに入いるといへども、 *塵染じんぜんのために繋つながれず。 二にには大だい悲ひをもつて衆しゅ生じょうを念ねんずるがゆゑに涅ね槃はんに住じゅうせず。
一ニハ以テノ↧修スル↢空*慧*般若ヲ↡力ヲ↥故ニ、雖モ↠入ルト↢六道生死ニ↡、不↧為ニ↢塵染ノ↡所↞繋ガ。二ニハ以テ↢大悲ヲ↡念ズルガ↢衆生ヲ↡故ニ不↠住セ↢涅槃ニ↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ハ)二諦に約して解す
^菩ぼ薩さつ、 二に諦たいに処しょすといへども、 つねによく妙みょうに有無うむを捨すて、 取捨しゅしゃ、 *中ちゅうを得えて大道だいどう理りに違いせず。
菩薩雖モ↠処スト↢二諦ニ↡、常ニ能ク妙ニ捨テ↢有无ヲ↡、取捨得テ↠中ヲ不↠違セ↢大道理ニ↡也。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)引証
^このゆゑに ¬維ゆい摩ま経ぎょう¼ にのたまはく、 「たとへば人ひとありて空くう地じにおいて宮く舎しゃを造ぞう立りゅうせんと欲ほっせば、 意こころに随したがひて礙さわりなきも、 もし虚こ空くうにおいてはつひに成じょうずることあたはざるがごとし。 菩ぼ薩さつもまたかくのごとし。 *衆しゅ生じょうを成じょう就じゅせんと欲ほっするがためのゆゑに仏国ぶっこくを取とらんと願がんず。 仏国ぶっこくを取とらんと願がんずるは、 空くうにおいてするにはあらず」 と。
是ノ故ニ¬維摩経ニ¼云ク、「譬ヘバ如シ↩有リテ↠人欲セバ↧於テ↢空地ニ↡造↦立セムト宮舎ヲ↥、随ヒテ↠意ニ无キモ↠礙、若シ於テハ↢虚空ニ↡終ニ不ルガ↝能ハ↠成ズルコト。菩薩モ亦如シ↠是クノ。為ノ↠欲スルガ↣成↢就セムト衆生ヲ↡故ニ願ズ↠取ラムト↢仏国ヲ↡。願ズル↠取ラムト↢仏国ヲ↡者非ズト↠於テスルニハ↠空ニ也。」
二 Ⅱ ⅱ b ハ (三)破繋心外無法
(Ⅰ)標
【15】^第だい三さんに↑心しん外げに法ほうなしと繋けいするを破はすとは、
第三ニ破スト↠繋スルヲ↢心外ニ无シト↟法者、
二 Ⅱ ⅱ b ハ (三)(Ⅱ)釈
(ⅰ)先づ二科を列す
^なかにつきて二にあり。 一いちには↓計け情じょうを破はし、 二にには↓問答もんどう解げ釈しゃくす。
就キテ↠中ニ有リ↠二。一ニハ破シ↢計情ヲ↡、二ニハ問答解釈ス。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (三)(Ⅱ)(ⅱ)次に問答して明す
(a)繋情を破す
(イ)問
^0211↑問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「*所観しょかんの浄境じょうきょうは内心ないしんに約就やくじゅすれば浄じょう土ど融ゆ通ずうす。 心しん浄きよければすなはち是ぜなり。 心しん外げに法ほうなし。 なんぞ西にしに入いるを須もちゐんや」 と。
問ヒテ曰ク、或イハ有リテ↠人言ク、所観ノ浄境ハ約↢就スレバ内心ニ↡浄土融*通ス。心浄ケレバ即チ是ナリ。心外ニ无シ↠法。何ゾ須ヰムヤ↢西ニ入ルヲ↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (三)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)答
^答こたへていはく、 ただ法ほっ性しょうの浄じょう土どは、 理り、 *虚こ融ゆうに処しょし、 体たい、 *偏局へんごくなし。 ▽これすなはち無む生しょうの生しょうにして、 *上じょう士じのみ入いるに堪たへたり。
答ヘテ曰ク、但法性ノ浄土ハ、理処シ↢虚融ニ↡、体无シ↢偏局↡。此乃チ无生之生ニシテ、上士ノミ堪ヘタリ↠入ルニ。
^このゆゑに ¬*無字むじ宝ほう篋きょう経きょう¼ (意) にのたまはく、 「善ぜん男なん子しまた一法いっぽうあり、 これ仏ぶつの覚さとるところなり。 いはゆる諸法しょほうは不去ふこ不ふ来らい・無む因いん無む縁えん・無む生しょう無む滅めつ・無思むし無む不思ふし・無む増ぞう無む減げんなり。 仏ぶつ、 *羅睺羅らごらに告つげてのたまはく、 ªなんぢいまわがこの所説しょせつの正しょう法ぼう義ぎを受じゅ持じするやいなやº と。
是ノ故ニ¬无字宝篋経ニ¼云ク、「善男子、復有リ↢一法↡、是仏ノ所ナリ↠覚ル。所謂ル諸法ハ不去不来・无因无縁・无生无滅・无思*无不思・无増无減ナリ。仏告ゲテ↢羅0593睺羅ニ↡言ク、汝今受↢持スルヤ我ガ此ノ所説ノ正法義ヲ↡不ヤト。
^その時とき十方じっぽうに九く億おくの菩ぼ薩さつありて、 すなはち仏ぶつにまうしてまうさく、 ªわれらみなよくこの法門ほうもんを持じして、 まさに衆しゅ生じょうのために流る通ずうして絶たえざらしむべしº と。
爾ノ時十方ニ有リテ↢九億ノ菩薩↡、即チ白シテ↠仏ニ言ク、我等皆能ク持シテ↢此ノ法門ヲ↡、当ニシト↧為ニ↢衆生ノ↡流通シテ不ラシム↞絶エ。
^世せ尊そん答こたへてのたまはく、 ªこれを善ぜん男なん子し等とうすなはち両りょう肩けんに菩ぼ提だいを荷か担たんすとなす。 かの人ひとすなはち*不ふ断だん弁才べんざいを得え、 よく清浄しょうじょうなる諸仏しょぶつの世せ界かいを得う。 命終みょうじゅうの時ときにすなはち現げんに阿あ弥陀みだ仏ぶつ、 もろもろの聖しょう衆じゅとその人ひとの前まえに住じゅうしたまふを見みたてまつることを得えて往おう生じょうを得うº」 と。
世尊答ヘテ言ク、是ヲ善男子等則チ為ス↣両肩ニ荷↢担スト菩*提ヲ↡。彼ノ人即チ得↢不断弁才ヲ↡、得↢善ク清浄ナル諸仏ノ世界ヲ↡。命終之時ニ即チ得テ↫現ニ見タテマツルコトヲ↪阿弥陀仏与↢諸ノ聖衆↡住シタマフヲ↩其ノ人ノ前ニ↨得ト↢往生ヲ↡也。」
^おのづから中ちゅう・下げの輩はいあり。 いまだ*相そうを破はすることあたはざれども、 かならず*信仏しんぶつの因縁いんねんによりて浄じょう土どに生しょうぜんと求もとむ。 かの国くにに至いたるといへども、 還かえりて相そう土どに居こす。
自ラ有リ↢中・下之輩↡。未ダレドモ↠能ハ↠破スルコト↠相ヲ、要ズ依リテ↢信仏ノ因縁ニ↡求ム↠生ゼムト↢浄土ニ↡。雖モ↠至ルト↢彼ノ国ニ↡、還リテ居ス↢相土ニ↡。
^またい0212はく、 もし*縁えんを摂せっして本ほんに従したがへば、 すなはちこれ心しん外げに法ほうなし。 もし二に諦たいを分わかちて義ぎを明あかさば、 浄じょう土どはこれ心しん外げの法ほうなることを妨さまたぐることなし。
又云ク、若シ摂シテ↠縁ヲ従ヘバ↠本ニ、即チ是心外ニ无シ↠法。若シ分チテ↢二諦ヲ↡明サバ↠義ヲ、浄土ハ无シ↠妨グルコト↢是心外ノ法ナルコトヲ↡也。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (三)(Ⅱ)(ⅱ)(b)問答解釈
(イ)問
^二にに↑問答もんどう解釈げしゃくすとは、
二ニ問答解釈ストハ、
^問とひていはく、 向さきに 「△無む生しょうの生しょうはただ上じょう士じのみよく入いる、 中ちゅう・下げは堪たへず」 といふは、 はたただちに人ひとをもつて法ほうに約やくしてかくのごとき判はんをなすや、 はたまた聖教しょうぎょうありて来きたし証しょうすや。
問ヒテ曰ク、向ニ言フ↢无生之生ハ唯上士ノミ能ク入ル、中・下ハ不ト↟堪ヘ者、為当 ハタ 直ニ将テ↠人ヲ約シテ↠法ニ作スヤ↢如キ↠此クノ判ヲ↡、為当 ハタ 亦有リテ↢聖教↡来シ証スヤ。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (三)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)答
[一]引証
^答こたへていはく、 ¬*智度ちど論ろん¼ (意) によるにいはく、 「*新しん発ぽっ意ちの菩ぼ薩さつは*機解きげ軟なん弱にゃくにして発心ほっしんすといふといへども、 多おおく浄じょう土どに生しょうぜんと願がんず。
答ヘテ曰ク、依ルニ↢¬智度論ニ¼↡云ク、「新発意ノ菩薩ハ機解軟弱ニシテ雖モ↠言フト↢発心スト↡、多ク願ズ↠生ゼムト↢浄土ニ↡。
^なんの意こころぞしかるとならば、 たとへば嬰よう児にのもし父母ぶもの恩養おんように近ちかづかざれば、 あるいは坑あなに堕おち井いに落おち火か蛇じゃ等とうの難なんあり、 あるいは乳ちちに乏ともしくして死しす。 かならず父母ぶもの摩ま洗せん養育よういくするを仮かりて、 まさに長ちょう大だいしてよく家け業ごうを紹じょう継けいすべきがごとし。
何ノ意ゾ然ルトナラバ者、譬ヘバ如シ↫嬰児ノ若シ不レバ↠近ヅカ↢父母ノ恩養ニ↡、或イハ堕チ↠坑ニ落チ↠井ニ火蛇等ノ難アリ、或イハ乏シクシテ↠乳ニ而死ス、要ズ仮リテ↢父母ノ摩洗養育スルヲ↡、方ニ可キガ↪長大シテ能ク紹↩継ス家業ヲ↨。
^菩ぼ薩さつもまたしかなり。 もしよく菩ぼ提だい心しんを発おこして、 多おおく浄じょう土どに生しょうぜんと願がんずれば、 諸仏しょぶつに親近しんごんしたてまつりて法身ほっしんを増ぞう長じょうし、 まさによく菩ぼ薩さつの家け業ごうを匡こう紹じょうし十方じっぽうに*済運さいうんす。 この益やくのためのゆゑに多おおく生しょうぜんと願がんず」 と。
菩薩モ亦爾ナリ。若シ能ク発シテ↢菩提心ヲ↡、多ク願ズレバ↠生ゼムト↢浄土ニ↡、親↢近シタテマツリテ諸仏ニ↡増↢長シ法身ヲ↡、*方ニ能ク匡↢*紹シ菩薩ノ家業ヲ↡十方ヲ済運ス。為ノ↢斯ノ益ノ↡故ニ多ク願ズト↠生ゼムト也。」
^またかの ¬論ろん¼ (大智度論・意) にいはく、 「たとへば鳥ちょう子しの翅し翮かくいまだならざるをば、 逼せめて高たかく翔かけしむべからず。 先まづすべからく林はやしによりて樹じゅを伝つたはしむべし。 羽はね成なり力ちからありてまさに林はやしを捨すて空そらに遊あそぶべきがごとし0213。 新しん発ぽっ意ちの菩ぼ薩さつもまたしかなり。 先まづすべからく願がんに乗じょうじて仏前ぶつぜんに生しょうずることを求もとめ、 法身ほっしん成長じょうちょうして感かんに随したがひて益やくに赴おもむくべし。
又彼ノ¬論ニ¼云ク、「譬ヘバ如シ↧鳥子ノ翅翮未ダルヲバ↠成ラ、不↠可カラ↣逼メテ令ム↢高ク翔ケ↡、先ヅ須クシ↢依リテ↠林ニ*伝ハシム↟樹ヲ、羽0594成リ有リテ↠力方ニ可キガ↦捨テ↠林ヲ遊ブ↞空ニ。新発意ノ菩薩モ亦爾ナリ。先ヅ須クシ↧乗ジテ↠願ニ求メ↠生ズルコトヲ↢仏前ニ↡、法身成長シテ随ヒテ↠感ニ*赴ク↞益ニ。
^また阿あ難なん、 仏ぶつにまうしてまうさく、 ªこの*無む相そうの波羅はら蜜みつは、 いづれの処ところにありてか説ときたまふº と。 仏ぶつのたまはく、 ªかくのごとき法門ほうもんは、 *阿毘あび跋ばっ致ち地じのなかにありて説とく。 なにをもつてのゆゑに。 新しん発ぽっ意ちの菩ぼ薩さつありてこの無む相そう波羅はら蜜門みつもんを聞きかば、 あらゆる清浄しょうじょうの善根ぜんごんことごとくまさに滅没めつもつすべしº」 と。
又阿難白シテ↠仏ニ*言ク、此ノ无相ノ波羅蜜ハ、在リテカ↢何ノ処ニ↡説キタマフト。*仏言ク、如キ↠此クノ法門ハ、在リテ↢阿毘跋致地ノ中ニ↡説ク。何ヲ以テノ故ニ。有リテ↢新発意ノ菩薩↡聞カバ↢此ノ无相波羅蜜門ヲ↡、所有ル清浄ノ善根悉ク当ニシト↢滅没ス↡也。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (三)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[二]結
^またただかの国くにに至いたりぬれば、 すなはち一切いっさいの事じ畢おわりぬ。 なにをもつてかこの深浅じんせんの理りを諍あらそはんや。
又来 マタ 但至リヌレバ↢彼ノ国ニ↡、即チ一切ノ事畢リヌ。何ヲ用テカ諍ハム↢此ノ深浅ノ理ヲ↡也。」
二 Ⅱ ⅱ b ハ (四)破穢土願生
(Ⅰ)標
【16】^第だい四しに↑穢土えどに生しょうぜんと願がんじて、 浄じょう土どに生しょうぜんと願がんぜざるを破はすとは、
第四ニ破スト↧願ジテ↠生ゼムト↢穢土ニ↡、不ルヲ↞願ゼ↠生ゼムト↢浄土ニ↡者、
二 Ⅱ ⅱ b ハ (四)(Ⅱ)釈
(ⅰ)問
^問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「穢え国こくに生しょうじて衆しゅ生じょうを教きょう化けせんと願がんじて浄じょう土どに往おう生じょうすることを願がんぜず」 と。 この事じいかん。
問ヒテ曰ク、或イハ有リテ↠人言ク、願ジテ↧生ジテ↢穢*国ニ↡教↦化セムト衆生ヲ↥不ト↠願ゼ↣往↢生スルコトヲ浄土ニ↡。是ノ事云何ン。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (四)(Ⅱ)(ⅱ)答
(a)正しく機差を簡示す
(イ)穢に処すに堪ふ機を明す
^答こたへていはく、 これ人ひとにまた一いちの徒ともがらあり。 何者なにものぞ。 もし身み不ふ退たいに居こして以去いこなれば、 雑悪ぞうあくの衆しゅ生じょうを化けせんがためのゆゑに、 よく染ぜんに処しょすれども染ぜんせず、 悪あくに逢あへども変へんぜず。 ▼*鵝が鴨おうの水みずに入いれども、 水みずの湿うるおすことあたはざるがごとし。 かくのごとき人等にんとうよく穢えに処しょして苦くを抜ぬくに堪たへたり。
答ヘテ曰ク、此レ人ニ亦有リ↢一ノ徒↡。何者ゾ。若シ身居シテ↢不退ニ↡已去ナレバ、為ノ↠化セムガ↢雑悪ノ衆生ヲ↡故ニ、能ク処スレドモ↠染ニ不↠染セ、逢ヘドモ↠悪ニ不↠変ゼ。如シ↢鵝鴨ノ入レドモ↠水ニ、水ノ不ルガ↟能ハ↠湿スコト。如キ↠此クノ人等堪ヘタリ↢能ク処シテ↠穢ニ抜クニ↟苦ヲ。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)須く浄を願ずべき機を明す
[一]正明
^もしこれ実じつの凡ぼん夫ぶならば、 ただおそらくは自じ行ぎょういまだ立たたず、 苦くに逢あはばすなはち変へんじ、 かれを済すくはんと欲ほっせばあひともに没もっしな0214ん。 ▼鶏にわとりを逼せめて水みずに入いらしむるがごとし。 あによく湿うるおはざらんや。
若シ是実ノ凡夫ナラバ者、唯恐クハ自行未ダ↠立タ、逢ハバ↠苦ニ即チ変ジ、欲セバ↠済ハムト↠彼ヲ者、相与倶 トモ ニ没シナム。如↢似 ゴト シ逼メテ↠鶏ヲ入ラシムルガ↟水ニ。豈ニ能ク不ラムヤ↠湿ハ。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)[二]引証
[Ⅰ]仏意不許
^このゆゑに ¬智度ちど論ろん¼ (意) にいはく、 「もし凡ぼん夫ぶ発心ほっしんしてすなはち穢土えどにありて衆しゅ生じょうを抜済ばっさいせんと願がんずるをば、 *聖しょう意い許ゆるしたまはず」 と。
是ノ故ニ¬智度論ニ¼云ク、「若シ凡夫発心シテ即チ願ズルヲバ↧在リテ↢穢土ニ↡抜↦済セムト衆生ヲ↥者、聖意不ト↠許シタマハ。」
二 Ⅱ ⅱ b ハ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)[二][Ⅱ]論主喩釈
[ⅰ]喩
^なんの意こころぞしかるとならば、 龍りゅう樹じゅ菩ぼ薩さつ釈しゃくしていはく (大智度論・意)、 「▼たとへば四し十じゅう里りの氷こおりに、 もし一人いちにんありて一いっ升しょうの熱湯ねっとうをもつてこれを投とうずれば、 *当とう時じは少すこしき減げんずるに似如にたれども、 もし夜よるを経へて明あけに至いたれば、 すなはち余よのものよりも高たかきがごとし。
何ノ意ゾ然ルトナラバ者、龍樹菩薩釈シテ云ク、「譬ヘバ如シ↧四十里ノ氷ニ、如モシ有リテ↢一人↡以テ↢一升ノ熱湯ヲ↡投ズレバ↠之ニ、当時ハ似↢ニ*如タレドモ少シク減ズルニ↡、若シ経テ↠夜ヲ至レバ↠明ニ、乃チ高キガ↦於余ノ者ヨリモ↥。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)[二][Ⅱ][ⅱ]合
^◆凡ぼん夫ぶここにありて発心ほっしんして苦くを救すくふも、 またかくのごとし。 *貪瞋とんじんの境きょう界がい*違い順じゅん多おおきをもつてのゆゑに、 みづから煩悩ぼんのうを起おこして、 返かえりて悪道あくどうに堕だするがゆゑなり」 と。
凡夫在リテ↠此ニ発心シテ救フモ↠苦ヲ、亦復如シ↠是クノ。以テノ↢貪瞋ノ境界違順多キヲ↡故ニ、自ラ起シテ↢煩悩ヲ↡、返リテ*堕スルガ↢悪0595道ニ↡故也ト。」
二 Ⅱ ⅱ b ハ (五)破浄土着楽
(Ⅰ)標
【17】^第だい五ごに↑もし浄じょう土どに生しょうずれば、 多おおく喜よろこびて楽らくに着じゃくすといふを破はすとは、
第五ニ破スト↧若シ生ズレバ↢浄土ニ↡、多ク喜ビテ著ストイフヲ↞楽ニ者、
二 Ⅱ ⅱ b ハ (五)(Ⅱ)釈
(ⅰ)問
^問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「浄じょう土どのなかにはただ楽らく事じのみありて、 多おおく喜よろこびて楽らくに着じゃくして修道しゅどうを妨廃ぼうはいす。 なんぞ往おう生じょうを願がんずるを須もちゐんや」 と。
問ヒテ曰ク、或イハ有リテ↠人言ク、浄土之中ニハ唯有リテ↢楽事ノミ↡、多ク喜ビテ著シテ↠楽ニ妨↢癈ス修道ヲ↡。何ゾ須ヰム↠願ズルヲ↢往生ヲ↡也ト。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (五)(Ⅱ)(ⅱ)答
(a)道理破
^答こたへていはく、 すでに浄じょう土どといふ、 衆しゅ穢えあることなし。 もし楽らくに着じゃくすといはば、 すなはちこれ*貪愛とんないの煩悩ぼんのうなり。 なんぞ名なづけて浄じょうとなさん。
答ヘテ曰ク、既ニ云フ↢浄土ト↡、无シ↠有ルコト↢衆穢↡。若シ言ハバ↠著スト↠*楽ニ、便チ是貪愛ノ煩悩ナリ。何ゾ名ケテ為サム↠浄ト。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (五)(Ⅱ)(ⅱ)(b)経証
(イ)身業無礙
^このゆゑに ¬大だい経きょう¼ (下・意) にのたまはく、 「▲かの国くにの人天にんでんは、 往来おうらい進しん止し、 情こころに繋かくるところなし」 と。
是ノ故ニ¬大経ニ¼云ク、「彼ノ国ノ人天ハ、往来進止、情ニ无シト↠所↠繋クル。」
二 Ⅱ ⅱ b ハ (五)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)其の本源を示す
^また四し十じゅう八はち願がんにのたまはく (大経・上意)、 「▲十方じっぽうの人天にんでん、 わが国くにに来らい至しし0215て、 もし想念そうねんを起おこして身みを貪とん計げせば、 正しょう覚がくを取とらじ」 (第十願) と。
又四十*八願ニ云ク、「十方ノ*人天来↢至シテ我ガ国ニ↡、若シ起シテ↢*想念ヲ↡貪↢計セバ身ヲ↡者、不ト↠取ラ↢正覚ヲ↡。」
二 Ⅱ ⅱ b ハ (五)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ハ)意業平等
^¬大だい経きょう¼ (下・意) にまたのたまはく、 「▲かの国くにの人天にんでん適ちゃく莫まくするところなし」 と。
¬大経ニ¼又云ク、「彼ノ国ノ人天无シト↠所↢*適莫スル↡。」
二 Ⅱ ⅱ b ハ (五)(Ⅱ)(ⅱ)(c)結破
^なんぞ着じゃく楽らくの理りあらんや。
何ゾ有ラム↢著楽之理↡也。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (六)破求生浄土非
(Ⅰ)標
【18】^第六だいろくに↑浄じょう土どに生しょうぜんと求もとむるは非ひなり、 これ小乗しょうじょうなりといふを破はすとは、
第六ニ破ストハ↧求ムルハ↠生ゼムト↢浄土ニ↡非ナリ、是小乗ナリトイフヲ↥、
二 Ⅱ ⅱ b ハ (六)(Ⅱ)釈
(ⅰ)問
^問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「浄じょう土どに生しょうぜんと求もとむるはすなはちこれ小乗しょうじょうなり。 なんぞこれを修しゅするを須もちゐんや」 と。
問ヒテ曰ク、或イハ有リテ↠人言ク、求ムルハ↠生ゼムト↢浄土ニ↡便チ是小乗ナリ。何ゾ須ヰムヤト↠修スルヲ↠之ヲ。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (六)(Ⅱ)(ⅱ)答
^答こたへていはく、 これまたしからず。 なにをもつてのゆゑに。 ただ小乗しょうじょうの教きょうには一向いっこうに浄じょう土どに生しょうずることを明あかさざるがゆゑなり。
答ヘテ曰ク、此*亦不↠然ラ。何ヲ以テノ故ニ。但小乗之教ニハ一向ニ不ルガ↠明サ↠生ズルコトヲ↢浄土ニ↡故也。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (七)会通兜率願生
(Ⅰ)標
【19】^第七だいしちに↑兜と率そつに生しょうぜんと願がんずることと、 浄じょう土どに帰きするを勧すすむることとを会え通つうすとは、
第七ニ会↧通スト願ズルコトト↠生ゼムト↢兜率ニ↡、勧ムルコトトヲ↞帰スルヲ↢浄土ニ↡者、
二 Ⅱ ⅱ b ハ (七)(Ⅱ)釈
(ⅰ)問
^問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「兜と率そつに生しょうぜんと願がんじて、 *西にしに帰きすることを願がんぜず」 と。 この事じいかん。
問ヒテ曰ク、或イハ有リテ↠人言ク、願ジテ↠生ゼムト↢兜率ニ↡、不ト↠願ゼ↠帰スルコトヲ↠西ニ。是ノ事云何ン。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (七)(Ⅱ)(ⅱ)答
(a)略答
^答こたへていはく、 この義ぎ類るいせず。 少しょう分ぶんは同おなじきに似にたれども、 体たいによれば大おおきに別べつなり。 その四し種しゅあり。
答ヘテ曰ク、此ノ義不↠類セ。少分ハ似タレドモ↠同ジキニ、*拠レバ↠体ニ大ニ別ナリ。*有リ↢其ノ四種↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (七)(Ⅱ)(ⅱ)(b)広明
(イ)先づ兜率の劣を出す
[一]火宅退所の劣
^なんとなれば、 一いちには*弥み勒ろく世せ尊そん、 その天衆てんしゅのために不ふ退たいの法輪ほうりんを転てんず。 法ほうを聞ききて信しんを生しょうずるものは益やくを獲う。 名なづけて信同しんどうとなす。 楽らくに着じゃくして信しんなきもの、 その数かず一いちにあらず。 また兜と率そつに生しょうずといへども、 位くらいこれ*退処たいしょなり。 このゆゑに ¬経きょう¼ (*法0216華経) にのたまはく、 「▼三界さんがいは安やすきことなし、 なほ*火か宅たくのごとし」 と。
何トナレバ者一ニハ弥勒世尊、為ニ↢*其ノ天衆ノ↡転ズ↢不退ノ法輪ヲ↡。聞キテ↠法ヲ生ズル↠信ヲ者ハ獲↠益ヲ。名ケテ為ス↢信同ト↡。著シテ↠楽ニ无キ↠信者、其ノ数非ズ↠一ニ。又来 マタ 雖モ↠*生ズト↢兜率ニ↡、位是退処ナリ。是ノ故ニ¬経0596ニ¼云ク、「三界ハ无シ↠安キコト、猶如シト↢火宅ノ↡。」
二 Ⅱ ⅱ b ハ (七)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[二]寿命限り有るの劣
^二にには兜と率そつに往おう生じょうしてまさに寿じゅ命みょうを得うること四し千歳せんざいなり。 命終みょうじゅうの後のち*退落たいらくを免まぬかれず。
二ニハ往↢生シテ兜率ニ↡*正ニ得ルコト↢寿*命ヲ↡四千歳ナリ。命終之後不↠免カレ↢退落ヲ↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (七)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[三]境唯欲を増すの劣
^三さんには兜と率そつ天てん上じょうには水すい・鳥ちょう・樹林じゅりん*和わ鳴みょう哀あい雅げなることありといへども、 ただ諸天しょてんの生しょう楽らくのために縁えんたり。 五ご欲よくに順したがひて*聖しょう道どうを資たすけず。
三ニハ兜率天上ニハ雖モ↠有リト↢水・鳥・樹林和鳴哀雅ナルコト↡、但*与ニ↢諸天ノ生楽ノ↡為リ↠縁。順ヒテ↢於五欲ニ↡不↠資ケ↢聖道ヲ↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (七)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)西方の勝を反顕す
[一]位
^もし弥陀みだ浄じょう国こくに向むかはば、 一ひとたび生しょうずることを得うるものはことごとくこれ阿毘あび跋ばっ致ちなり。 さらに*退人たいにんのそれと雑ぞう居こするものなし。 また位くらいはこれ無漏むろにして、 三界さんがいに出しゅっ過かしてまた輪りん廻ねせず。
若シ向ハバ↢弥陀浄国ニ↡、一タビ得ル↠生ズルコトヲ者ハ悉ク是阿毘跋致ナリ。更ニ无シ↢退人ノ与↠其雑居スルモノ↡。又復位ハ是无漏ニシテ出↢過シテ三界ニ↡不↢復輪廻セ↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (七)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[二]寿命
^その寿じゅ命みょうを論ろんずれば、 すなはち仏ぶつ (阿弥陀仏) と斉ひとし。 *算数さんじゅのよく知しるところにあらず。
論ズレバ↢其ノ寿命ヲ↡即チ与↠仏*斉シ。非ズ↢算数ノ能ク知ルトコロニ↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (七)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[三]境
^それ水すい・鳥ちょう・樹林じゅりんありてみなよく法ほうを説とき、 人ひとをして悟解ごげして無む生しょうを証しょう会えせしむ。
其レ有リテ↢水・鳥・樹林↡皆能ク説キ↠法ヲ、令ム↣人ヲシテ悟解シテ証↢会セ无生ヲ↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (七)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[四]経証
^四しには ¬大だい経きょう¼ によりて、 しばらく一種いっしゅの音楽おんがくをもつて*比ひ校きょうせば、 ¬経きょうの讃さん¼ にいはく (讃阿弥陀仏偈)、
四ニハ拠リテ↢¬大経ニ¼↡、且ク以テ↢一種ノ音楽ヲ↡比挍セバ者、¬経ノ讃ニ¼言ク、
^「▲世よの帝王たいおうより六天ろくてんに至いたるまで、 音楽おんがくうたた妙みょうにして八はち重じゅうあり。
展転てんでんして前さきに勝すぐるること億万おくまん倍ばい、 宝樹ほうじゅの音こえの麗うるわしきこと倍ばいしてまたしかなり。
「従リ↢世ノ帝王↡至ルマデ↢六天ニ↡ | 音楽転タ妙ニシテ有リ↢八重↡ |
展転シテ勝ルルコト↠前ニ億万倍 | 宝樹ノ音ノ麗シキコト倍シテ亦然ナリ |
^◆また自じ然ねんの妙たえなる伎ぎ楽がくあり。 法音ほうおん清しょう和わにして心神しんじんを悦よろこばしめ、
哀婉あいえん雅が亮りょうにして十方じっぽうに超こゆ。 このゆゑに清浄しょうじょう勲くんを稽首けいしゅしたてまつる」 と。
復有リ↢自然ノ妙ナル伎楽↡ | 法音清和ニシテ悦バシメ↢心神ヲ↡ |
哀婉雅*亮ニシテ超ユ↢十方ニ↡ | 是ノ故ニ稽↢首シタテマツルト清浄勲ヲ↡。」 |
二 Ⅱ ⅱ b ハ (八)校量願生十方
(Ⅰ)標
【021720】^第八だいはちに↑十方じっぽうの浄じょう土どに生しょうぜんと願がんぜんよりは、 西方さいほうに帰きするにしかずといふを*校量きょうりょうすとは、
第八ニ*挍↧量スト願ゼムヨリハ↠生ゼムト↢十方ノ浄土ニ↡、不トイフヲ↞如カ↠帰スルニ↢西方ニ↡者、
二 Ⅱ ⅱ b ハ (八)(Ⅱ)釈
(ⅰ)問
^問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「十方じっぽう浄じょう国こくに生しょうぜんと願がんじて、 西方さいほうに帰きせんと願がんぜず」 と。 この義ぎいかん。
問ヒテ曰ク、或イハ有リテ↠人言ク、願ジテ↠生ゼムト↢十方浄国ニ↡、不ト↠願ゼ↠帰セムト↢西*方ニ↡。是ノ義云何ン。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)答
(a)略答
^答こたへていはく、 この義ぎ類るいせず。 なかに三さんあり。
答ヘテ曰ク、此ノ義不↠類セ。於テ↠中ニ有リ↠三。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)(b)広く三意を以て有縁を明す
(イ)偏指専志に約して明す
[一]正明
^なんとなれば、 一いちには十方じっぽう仏国ぶっこくも不ふ浄じょうとなすにはあらず。 しかるに境きょう寛ひろければすなはち心しん昧くらく、 境きょう狭せまければすなはち意こころもつぱらなり。
何トナレバ者一ニハ十方仏国モ非ズ↠為スニハ↢不浄ト↡。然ルニ境寛ケレバ則チ心昧ク、境狭ケレバ則チ意専ラナリ。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[二]引証
^このゆゑに ¬*十方じっぽう随願ずいがん往おう生じょう経きょう¼ (意) にのたまはく、 「普ふ広こう菩ぼ薩さつ、 仏ぶつにまうしてまうさく、 ª世せ尊そん、 十方じっぽうの仏ぶつ土どみな厳ごん浄じょうなりとなす、 なんがゆゑぞ諸しょ経きょうのなかにひとへに西方さいほう阿あ弥陀みだ国こくを歎たんじて往おう生じょうを勧すすめたまふº と。
是ノ故ニ¬十方随願往生経ニ¼云ク、「普広菩薩白シテ↠仏ニ言ク、世尊、十方ノ仏土皆為ス↢厳浄ナリト↡、何ガ故ゾ諸経ノ中ニ偏ニ歎ジテ↢西方阿弥陀国ヲ↡勧メタマフト↢往生ヲ↡也。
^仏ぶつ、 普ふ広こう菩ぼ薩さつに告つげたまはく、 ª一切いっさい衆しゅ生じょう濁じょく乱らんのものは多おおく、 正しょう念ねんのものは少すくなし。 衆しゅ生じょうをして専せん志しあることをあらしめんと欲ほっす。 このゆゑにかの国くにを讃歎さんだんすること*別べつ異いとなすのみ。 もしよく願がんによりて修しゅ行ぎょうすれば、 益やくを獲えざるはなしº」 と。
仏告ゲタマハク↢普広菩薩ニ↡、一切0597衆生濁乱ノ者ハ多ク、正念ノ者ハ少シ。欲ス↠令メムト↢衆生ヲシテ専志有ラ↟在ルコトヲ。是ノ故ニ讃↢歎スルコト彼ノ国ヲ↡為ス↢別異ト↡耳。若シ能ク依リテ↠願ニ*修行スレバ、莫シト↠不ルハ↠獲↠益ヲ。」
二 Ⅱ ⅱ b ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)初門易入に約す
[一]正明
^二にには十方じっぽうの浄じょう土どみなこれ浄じょうにして深浅じんせん知しりがたしといへども、 弥陀みだの浄じょう国こくはすなはちこれ*浄じょう土どの初門しょもんなり。
二ニハ十方ノ浄土雖モ↢皆是浄ニシテ而深浅難シト↟知リ、弥陀ノ浄国ハ乃チ是浄土之初門ナリ。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[二]引証
^なにをもつてか知しることを得うる。 ¬華け厳ごん経ぎょう¼ (意) によるにのたまはく、 「娑しゃ婆ば世せ界かいの一劫いっこうは極楽ごくらく世せ界かいの一日いちにち一いち夜やに当あたる。 極楽ごくらく世せ界かいの一劫いっこうは袈裟けさ幢どう世せ界かいの一日いちにち一いち夜やに当あたる。 かくのごとく優う劣れつあひ望のぞむるに、 すなは0218ち十じゅう阿あ僧そう祇ぎあり」 と。
何ヲ以テカ得ル↠知ルコトヲ。依ルニ↢¬花厳経ニ¼↡云ク、「娑婆世界ノ一劫ハ当ル↢極楽世界ノ一日一夜ニ↡。極楽世界ノ一劫ハ*当ル↢袈*娑幢世界ノ一日一夜ニ↡。如ク↠是クノ優劣相望ムルニ、乃チ有リト↢十阿僧祇↡。」
二 Ⅱ ⅱ b ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[三]結示
^ゆゑに知しりぬ、 浄じょう土どの初門しょもんとなすなり。 このゆゑに諸仏しょぶつひとへに勧すすめたまふ。 ▽余よ方ほうの仏国ぶっこくはすべてかくのごとく丁寧ていねいならず。 このゆゑに有う信しんの徒ともがらは多おおく往おう生じょうを願がんず。
故ニ知リヌ為スナリ↢浄土ノ初門ト↡。是ノ故ニ諸仏偏ニ勧メタマフ也。余方ノ仏国ハ都テ不↢如ク↠此クノ丁寧ナラ↡。是ノ故ニ有信之徒ハ多ク願ズ↢往*生ヲ↡也。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ハ)終処相接に約して示す
[一]上を承けて下を起す
^三さんには弥陀みだの浄じょう国こくはすでにこれ浄じょう土どの初門しょもんなり。 娑しゃ婆ば世せ界かいはすなはち*穢土えどの末処まっしょなり。
三ニハ弥陀ノ浄国ハ既ニ是浄土ノ初門ナリ。娑婆世界ハ*即チ穢土ノ末処ナリ。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ハ)[二]先づ始処を知らしむ
^なにをもつてか知しることを得うる。 ¬*正しょう法ぼう念ねん経ぎょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「ここより東北とうほくに一いち世せ界かいあり、 名なづけて斯訶しかといふ。 土ど田でんにただ三角さんかくの沙石しゃせきのみあり。 一年いちねんに三みたび雨あめふる。 一いち雨うの湿しゅう潤にんすること五ご寸すんを過すぎず。 その土どの衆しゅ生じょう、 ただ*菓子かしを食じきし樹じゅ皮ひを衣ころもとなし、 生しょうを求もとむるに得えず、 死しを求もとむるに得えず。
何ヲ以テカ得ル↠知ルコトヲ。如シ↢¬正法念経ニ¼云フガ↡。「従リ↠此東北ニ有リ↢一世界↡、名ケテ曰フ↢斯訶ト↡。土田ニ唯有リ↢三角ノ沙石ノミ↡。一年ニ三タビ雨ル。一雨ノ湿潤スルコト不↠過ギ↢五寸ヲ↡。其ノ土ノ衆生、唯食シ↢*菓子ヲ↡樹皮ヲ為シ↠衣ト、求ムルニ↠生ヲ不↠得、求ムルニ↠死ヲ不↠得。
^また一いち世せ界かいあり。 一切いっさいの虎こ狼ろう・禽きん獣じゅう、 乃ない至し*蛇蝎じゃかつことごとくみな翅はねありて飛ひ行ぎょうす。 逢あふものあひ噉くらふ。 善悪ぜんあくを*簡えらばず」 と。 ^これあに穢土えどの始し処しょと名なづけざらんや。
復有リ↢一世界↡。一切ノ虎狼・禽獣乃至蛇蝎悉ク皆有リテ↠翅飛行ス。逢フ者相*噉クラフ。不ト↠簡バ↢善悪ヲ↡。」此豈ニ不ラムヤ↠名ケ↢穢土ノ始処ト↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ハ)[三]始を推して終処を知る
^しかるに娑しゃ婆ばの依え報ほうはすなはち*賢げん聖じょうと流たぐいを同おなじくす。 ただこれすなはちこれ穢土えどの終しゅう処しょなり。
然ルニ娑婆ノ依報ハ乃チ与↢賢聖↡同ジクス↠流タグヒヲ。唯此乃チ是穢土ノ終処ナリ。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ハ)[四]有縁の意に結帰す
^安楽あんらく世せ界かいはすでにこれ浄じょう土どの初門しょもんなり。 すなはちこの方ほうと境きょう次ついであひ接せっせり。 往おう生じょうはなはだ便べんなり。 なんぞ去ゆかざらんや。
安楽世界ハ既ニ是浄土ノ初門ナリ。即チ与↢此ノ方↡境次ギテ相接セリ。往生甚ダ便ナリ。何ゾ不ラム↠去カ也。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (九)料簡別時意
(Ⅰ)標
【21】^第だい九くに ¬*摂しょう論ろん¼ とこの ¬経きょう¼ (観経) と相そう違いするによりて、 ↑▼別べつ時意じいの語ごを料りょう簡けんすとは、
第九ニ拠リテ↧¬*摂論ト¼与↢此ノ¬経¼↡相違スルニ↥、料↢簡スト別時意ノ語ヲ↡者、
二 Ⅱ ⅱ b ハ (九)(Ⅱ)釈
(ⅰ)論主の指説を挙ぐ
^いま ¬観かん経ぎょう¼ (意) のなかに、 仏ぶつ、 「▲*下げ品ぼん生しょうの人ひと現げんに重じゅう罪ざいを造つくるも、 ▲命みょう0219終じゅうの時ときに臨のぞみて善ぜん知ぢ識しきに遇あひて十じゅう念ねん成じょう就じゅしてすなはち往おう生じょうを得う」 と説ときたまふ。 ¬摂しょう論ろん¼ にいふによるに、 「仏ぶつの別べつ時意じいの語ごなり」 といふ。
今¬観経ノ¼中ニ、仏説キタマフ↧下品生0598ノ人現ニ造ルモ↢重罪ヲ↡、臨ミテ↢命終ノ時ニ↡遇ヒテ↢善知識ニ↡十念成就シテ即チ得ト↦往生ヲ↥。依ルニ↢¬摂論ニ¼云フニ↡、*噵フ↢仏ノ別時意ノ語ナリト↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (九)(Ⅱ)(ⅱ)謬解を牒して破す
(a)謬解を牒す
(イ)自解
^また古こ来らい*通論つうろんの家いえ多おおくこの文もんを判はんじていはく、 「臨りん終じゅうの十じゅう念ねんはただ往おう生じょうの因いんとなることを得うるも、 いまだすなはち生しょうずることを得えず。
又古来通論之家多ク判ジテ↢此ノ文ヲ↡云ク、臨終ノ十念ハ但得ルモ↠作ルコトヲ↢往生ノ因ト↡、未ダ↢即チ得↟生ズルコトヲ。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (九)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)論証
^なにをもつてか知しることを得うるとならば、 ¬論ろん¼ (摂大乗論釈・意) にいはく、 ª▼一いちの金銭こんせんをもつて千せんの金銭こんせんを貿あがなひ得うるは、 一日いちにちにすなはち得うるにはあらざるがごとしº と。 ゆゑに知しりぬ、 十じゅう念ねん成じょう就じゅは、 ただ因いんとなることを得うるも、 いまだすなはち生しょうずることを得えず。 ゆゑに別べつ時意じいの語ごと名なづく」 と。
何ヲ以テカ得ルトナラナバ↠知ルコトヲ、¬論ニ¼云ク、「如シト↧以テ↢一ノ金銭ヲ↡貿アガナヒ↢得ルハ千ノ金銭ヲ↡、非ザルガ↦一日ニ即チ得ルニハ↥。」故ニ知リヌ十念成就者、但得ルモ↠作ルコトヲ↠因ト、*未ダ↢即チ得↟生ズルコトヲ。故ニ名クト↢別時意ノ語ト↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (九)(Ⅱ)(ⅱ)(b)正しく破斥す
(イ)正破
^かくのごとき解げはまさにいまだしからずとなす。
如キ↠此クノ解者将ニ為ス↠未ダト↠然ラ。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (九)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)破由
^なんとなれば、 おほよそ菩ぼ薩さつの、 論ろんを作つくりて経きょうを釈しゃくすることは、 みな遠とおく仏ぶつ意いを扶たすけて*聖情しょうじょうに契かい会えせんと欲ほっしてなり。 もし論文ろんもんの経きょうに違いすることあらば、 この処ことわりあることなからん。
何トナレバ者凡ソ菩薩ノ作リテ↠論ヲ釈スルコトハ↠経ヲ、皆欲シテナリ↧遠ク扶ケテ↢仏意ヲ↡契↦会セムト聖情ニ↥。若シ有ラバ↢論文ノ違スルコト↟経ニ者、无カラム↠有ルコト↢是ノ処コトワリ↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (九)(Ⅱ)(ⅲ)正義を会通す
(a)先づ常途の説に簡ぶ
^いま別べつ時意じいの語ごを解げせば、 いはく、 仏ぶつの*常じょう途ずの説法せっぽうはみな先因せんいん後果ごかを明あかす。 *理り数しゅ炳然へいねんなり。
今解セバ↢別時意ノ語ヲ↡者、謂ク仏ノ常途ノ説法ハ皆*明ス↢先因後果ヲ↡。理数*炳然ナリ。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (九)(Ⅱ)(ⅲ)(b)正しく今経の説を述ぶ
(イ)随他の顕説を明す
^いまこの △¬経きょう¼ (観経) のなかには、 ただ一いっ生しょう罪つみを造つくりて、 命終みょうじゅうの時ときに臨のぞみて十じゅう念ねん成じょう就じゅしてすなはち往おう生じょうを得うと説ときて、 過去かこの有う因いん無む因いんを論ろんぜざるは、 ただこれ世せ尊そん*当来とうらいの造悪ぞうあくの徒ともがらを*引いん接じょうして、 その臨りん終じゅうに悪あくを捨すて善ぜんに帰きし、 念ねんに乗じょうじて往おう生じょうせしめんとなり。 ここをもつてそ0220の*宿しゅく因いんを隠かくす。 これはこれ世せ尊そん始はじめを隠かくして終おわりを顕あらわし、 因いんを没もっして果かを談だんずるを名なづけて別べつ時意じいの語ごとなす。
今此ノ¬経ノ¼中ニハ、但説キテ↧一生造リテ↠罪ヲ臨ミテ↢命終ノ時ニ↡十念成就シテ即チ得ト↦往生ヲ↥、不ル↠論ゼ↢過去ノ有因无因ヲ↡者、直是世尊引↢接シテ当来ノ造悪之徒ヲ↡、令メムトナリ↢其ノ臨終ニ捨テ↠悪ヲ帰シ↠善ニ、乗ジテ↠念ニ往生セ↡。是ヲ以テ隠ス↢其ノ宿因ヲ↡。此ハ是世尊隠シテ↠始メヲ顕シ↠終リヲ、没シテ↠因ヲ談ズルヲ↠果ヲ名ケテ作ス↢別時意ノ語ト↡。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (九)(Ⅱ)(ⅲ)(b)(ロ)随自の隠説を明す
^なにをもつてかただ十じゅう念ねん成じょう就じゅするは、 みな過去かこの因いんありと知しることを得うる。
何ヲ以テカ得ル↠知ルコトヲ↣但使 タダ 十念成就スルハ、皆有リト↢過*去ノ因↡。
^¬涅ね槃はん経ぎょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「△もし人ひと過去かこにすでにかつて半はん恒ごう河が沙しゃの諸仏しょぶつを供く養ようし、 またすでに発心ほっしんし、 しかうしてよく悪あく世せのなかにおいて大だい乗じょうの経教きょうきょうを説とくを聞きけば、 ただよく謗そしらざるのみ、 いまだ余よの功こうあらず。 ◇もしすでに一いち恒ごう河が沙しゃの諸仏しょぶつを供く養ようし、 およびすでに発心ほっしんして、 しかる後のちに大だい乗じょうの経教きょうきょうを聞きけば、 ただ謗そしらざるのみにあらず、 また愛あい楽ぎょうを加くわふ」 と。
如シ↢¬涅槃経ニ¼云フガ↡。「若シ人過去ニ已ニ曽テ供↢養シ半恒河沙ノ諸仏ヲ↡、復経スデニ発心シ、而シテ能ク於テ↢悪世ノ中ニ↡聞ケバ↠説クヲ↢大乗ノ経教ヲ↡、但能ク不ルノミ↠謗ラ、未ダ↠有ラ↢余ノ功↡。若シ経ニ供↢養シ一恒*河沙ノ諸仏ヲ↡、及ビ経スデニ発心シテ、然ル後ニ聞ケバ↢大乗ノ経教ヲ↡、非ズ↢直不ルノミニ↟謗ラ、復*加フト↢愛楽ヲ↡。」
^この諸しょ経きょうをもつて*来験らいげんするに、 あきらかに知しりぬ、 十じゅう念ねん成じょう就じゅするものはみな過か因いんありて虚むなしからず。 もしかの過去かこに因いんなきものは、 善ぜん知ぢ識しきにすらなほ逢遇あふべからず、 いかにいはんや十じゅう念ねんして成じょう就じゅすべけんや。
以テ↢此ノ諸経ヲ↡来験スルニ、明カニ知リヌ十念成就0599スル者ハ皆有リテ↢過因↡不↠虚シカラ。若シ彼ノ過去ニ无キ↠因者ハ、善知識ニスラ尚不↠可カラ↢逢*遇フ↡、何ニ況ヤ十念シテ而可ケム↢成就ス↡也。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (九)(Ⅱ)(ⅲ)(b)(ハ)顕説論と合すを明す
^¬論ろん¼ (摂大乗論釈) に、 「△一いちの金銭こんせんをもつて千せんの金銭こんせんを貿あがなひ得うるは一日いちにちにすなはち得うるにはあらず」 といふは、 もし*仏ぶつ意いによれば、 衆しゅ生じょうをして多おおく善因ぜんいんを積つみてすなはち念ねんに乗じょうじて往おう生じょうせしめんと欲ほっす。 もし論主ろんじゅ (*無着) に望のぞむれば過か因いんを関とづるに乗じょうず、 理りまた爽たがふことなし。
¬論ニ¼云フ↧、「以テ↢一ノ金銭ヲ↡*貿アガナヒ↢得ルハ千ノ金銭ヲ↡非ズト↦一日ニ即チ得ルニハ↥」者、若シ拠レバ↢仏意ニ↡、欲ス↠令メムト↧衆生ヲシテ多ク積ミテ↢善因ヲ↡*便チ乗ジテ↠念ニ往生セ↥。若シ望ムレバ↢論主ニ↡*乗ズ↠*関トヅルニ↢*過因ヲ↡、理亦无シ↠爽タガフコト。
二 Ⅱ ⅱ b ハ (九)(Ⅱ)(ⅲ)(c)経論の相扶くを結す
^もしこの解げをなさば、 すなはち上かみは仏ぶっ経きょうに順したがひ、 下しもは論ろんの意こころに合あはん。 すなはちこれ経きょう・論ろんあひ扶たすけて往おう生じょうの路みち通つうず。 また0221疑ぎ惑わくすることなかれ。
若シ作サバ↢此ノ解ヲ↡、即チ上ハ順ヒ↢仏経ニ↡、下ハ*合ハム↢論ノ意ニ↡。即チ是経論相扶ケテ往生ノ路通ズ。无カレ↢復疑惑スルコト↡也。
二 Ⅱ ⅱ c【広施問答】
イ 標
【22】^第だい三さんに↑広ひろく問答もんどうを施ほどこして、 疑ぎ情じょうを*釈しゃく去こすることを明あかすとは、
第三ニ明スト↧広ク施シテ↢問答ヲ↡、釈↦去スルコトヲ疑情ヲ↥者、
二 Ⅱ ⅱ c ロ 挙義本
^自下じげは ¬大だい智度ちど論ろん¼ につきて広ひろく問答もんどうを施ほどこす。
自下ハ就キテ↢¬大智*度論ニ¼↡広ク施ス↢問答ヲ↡。
二 Ⅱ ⅱ c ハ 正問答
(一)第一問答〔繋業之義〕
(Ⅰ)問
^▲問とひていはく、 ただ一切いっさい衆しゅ生じょう*曠大こうだい劫こうよりこのかた、 つぶさに有漏うろの業ごうを造つくりて三界さんがいに*繋け属ぞくせり。 いかんが三界さんがいの*繋け業ごうを断だんぜずして、 ただしばらく、 阿あ弥陀みだ仏ぶつを念ねんじてすなはち往おう生じょうを得えて、 すなはち三界さんがいを出いづるといはば、 この繋け業ごうの義ぎまたいかんせんと欲ほっする。
*問ヒテ曰ク、但一切衆生従リ↢曠大劫↡来コノカタ、備ニ造リテ↢有漏之業ヲ↡繋↢属セリ三界ニ↡。云何ガ*不シテ↠断ゼ↢三界ノ繋業ヲ↡、直爾少時 シバラク 念ジテ↢阿弥陀仏ヲ↡即チ得テ↢往生ヲ↡、便チ出ヅルトイハバ↢三界ヲ↡者、此ノ繋業之義復欲スル↢云何セムト↡。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)答
(ⅰ)列
^答こたへていはく、 二に種しゅの解げ釈しゃくあり。 一いちには↓法ほうにつきて来きたし破はす。 二にには↓喩たとへを借かりてもつて顕あらわす。
答ヘテ曰ク、有リ↢二種ノ解釈↡。一ニハ就キテ↠法ニ来シ破ス。二ニハ借リテ↠喩ヲ以テ顕ス。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)釈
(a)就法
^↑法ほうにつくといふは、 諸仏しょぶつ如来にょらいに*不ふ思議しぎ智ち・*大だい乗じょう広こう智ち・*無む等とう無む倫りん最さい上じょう勝しょう智ちまします。 ▲不ふ思議しぎ智ち力りきとは、 よく少しょうをもつて多たとなし、 多たをもつて少しょうとなす。 近ごんをもつて遠おんとなし、 遠おんをもつて近ごんとなす。 軽きょうをもつて重じゅうとなし、 重じゅうをもつて軽きょうとなす。 かくのごとき等らの智ちありて無む量りょう無む辺へん不可ふか思議しぎなり。
言フ↠就クト↠法ニ者、諸仏如来ニ有ス↢不思議智・大乗広智・无等无倫最上勝智↡。不思議智*力ト者、能ク以テ↠少ヲ作シ↠多ト、以テ↠多ヲ作ス↠少ト。以テ↠近ヲ為シ↠遠ト、以ス↠遠ヲ為ス↠近ト。以テ↠軽ヲ為シ↠重ト、以テ↠重ヲ為ス↠軽ト。有リテ↢如キ↠是クノ等ノ智↡无量无辺不可思議ナリ。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)(b)明喩
(イ)標数
^自下じげは第だい二にに七番しちばんあり。 ならびに↑喩たとへを借かりてもつて顕あらわす。
自下ハ第二ニ有リ↢七番↡。並ニ借リテ↠喩ヲ以テ顕ス。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)挙喩
[一]小火燓薪譬
^▲第だい一いちにはたとへば百ひゃっ夫ぷ、 百ひゃく年ねん薪たきぎを聚あつめて積つむこと高たかさ千刃せんじんならんに、 豆まめばかりの火ひをもつて焚やくに、 半日はんにちにすなはち尽つくるがごとし。 あに百ひゃく年ねんの薪たきぎ半日はんにちに尽つきずといふことを得うべけんや。
第一ニハ譬ヘバ如シ↢百夫、百年聚メテ↠薪ヲ*積ムコト高サ千*刃ナラムニ、豆許リノ火ヲモテ焚クニ、半日ニ便チ尽クルガ↡。豈ニ可ケム↠得↠言フコトヲ↢百年之薪半日ニ不ト↟尽キ也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[二]癖者乗船譬
^▲第だい二ににはたとへば癖者へきしゃ他たの船ふねに寄き載さい0222すれば、 風帆ふうはんの勢いきおひによりて一日いちにちに千せん里りに至いたるがごとし。 あに癖者へきしゃいかんぞ一日いちにちに千せん里りに至いたらんといふことを得うべけんや。
第二ニハ譬ヘバ如シ↧癖者寄↢載スレバ他ノ船ニ↡、因0600リテ↢風帆ノ勢ヒニ↡一日ニ至ルガ↦於千里ニ↥。豈ニ可ケム↠得↠言フコトヲ↣癖者云何ゾ一日ニ至ラムト↢千里ニ↡也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[三]貧人卒富譬
^▲第だい三さんにはまた下げ賎せんの貧人びんにん一いちの*瑞物ずいもつを獲えて、 もつて王おうに貢みつぐに、 王おう得うるところを慶よろこびてもろもろの重賞じゅうしょうを加くわふれば、 しばらくのあひだに富貴ふき望のぞみを盈みつるがごとし。 あに数しゅ十じゅう年ねん仕つかへてつぶさに辛勤しんごんを尽つくせども、 上じょうなほ達たっせずして帰かえるものあるをもつて、 かの富貴ふきをいひてこの事じなしといふことを得うべけんや。
第三ニハ亦如シ↧下賎ノ貧人獲テ↢一ノ瑞物ヲ↡而以テ貢グニ↠王ニ、王慶ビテ↠所ヲ↠得ル*加フレバ↢諸ノ重*賞ヲ↡、*斯須シバラク之*項アヒダニ富貴盈ツルガ↞望ミヲ。豈ニ可ケム↠得↠言フコトヲ↪以テ↧数十年仕ヘテ備ニ尽セドモ↢辛懃ヲ↡、*上尚不シテ↠達セ而帰ル者アルヲ↥、*言ヒテ↢彼ノ富貴ヲ↡无シト↩此ノ事↨也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[四]劣夫遊空譬
^▲第だい四しにはなほ劣れっ夫ぷ己こ身しんの力ちからをもつて*驢ろに擲あがりて上のぼらざれども、 もし輪王りんのうの行みゆきに従したがへば、 すなはち虚こ空くうに乗じょうじて飛ひ騰とう自じ在ざいなるがごとし。 あに劣れっ夫ぷの力ちからをもつてかならず虚こ空くうに昇のぼることあたはずといふことを得うべけんや。
第四ニハ猶如シ↧劣夫以テ↢己身ノ力ヲ↡擲リテ↠驢ニ不レドモ↠上ラ、若シ従ヘバ↢輪王ノ行ニ↡、便チ乗ジテ↢虚空ニ↡飛騰自在ナルガ↥。豈ニ可ケム↠*得↧以テ↢劣夫之力ヲ↡*言フコトヲ↦*必ズ不ト↞能ハ↠昇ルコト↢虚空ニ↡也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[五]童子断索譬
^▲第だい五ごにはまた十じゅう囲いの索さくは千せん夫ぷも制せいせざれども、 童どう子じ剣けんを揮ふるへば*儵しゅく爾じとして両りょう分ぶんするがごとし。 あに童どう子じの力ちから、 索さくを断たつことあたはずといふことを得うべけんや。
第五ニハ又如シ↢十囲之索ハ千夫モ不レドモ↠*制セ、童子揮フルヘバ↠剣ヲ*儵爾トシテ*両分スルガ↡。豈ニ可ケム↠得↠言フコトヲ↢童子之力不ト↟能ハ↠断ツコト↠索ヲ也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[六]犀活死魚譬
^▲第六だいろくにはまた*鴆ちん鳥ちょう水みずに入いれば*魚蚌ぎょぼうここに斃たおれてみな死しし、 *犀角さいかく泥でいに触ふるれば死しせるもの還かえりて活いくるがごとし。 あに生命しょうみょう一ひとたび断たゆれば、 生いくべからずといふことを得うべけんや。
第六ニハ又如シ↢*鴆鳥入レバ↠水ニ魚蚌斯ニ斃タフレテ皆死シ、犀角触ルレバ↠泥ニ死セル者還リテ活クルガ↡。豈ニ可ケム↠得↠言フコトヲ↢*生命一タビ断ユレバ、不ト↟可カラ↠生ク也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[七]鵠蘇子安譬
^▲第七だいしちにはまた*黄鵠こうこく 「子し安あん子し安あん」 と喚よぶに、 子し還かえりて活いくるがごとし。 あに墳ふん下げの千齢せんれい決けっして蘇よみがえるるべきことなしといふことを得うべけんや。
第七ニハ亦如シ↧黄鵠喚ブニ↢子安子安ト↡、*子還リテ活クルガ↥。豈ニ可ケム↠得↠言フコトヲ↢墳下ノ千齢決シテ无シト↟可キコト↠甦ル也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)(c)結責
(イ)方便多途を示す
^▲一切いっさいの万法まんぽうはみな自じ力りき・他た力りき、 *自じ摂しょう・*他た摂しょうありて0223、 千開せんかい万閉まんぺい無む量りょう無む辺へんなり。
一切ノ万法ハ皆有リテ↢自力・他力、自摂・他摂↡、千開万閉无量无辺ナリ。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)(c)(ロ)正しく情疑を遮す
^▼なんぢあに*有礙うげの識しきをもつて、 かの*無礙むげの法ほうを疑うたがふことを得えんや。
汝豈ニ得ム↧以テ↢有礙之識ヲ↡、疑フコトヲ↦彼ノ无礙之法ヲ↥乎。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (一)(Ⅱ)(ⅱ)(c)(ハ)結責を覆述す
^◆また*五ごの不ふ思議しぎのなかに、 仏法ぶっぽうもつとも不可ふか思議しぎなり。 なんぢ三界さんがいの繋け業ごうをもつて重おもしとなし、 かの少しょう時じの念仏ねんぶつを疑うたがひて軽かろしとなして、 安楽あんらく国こくに往おう生じょうして正定しょうじょう聚じゅに入いることを得えずといふはこの事じしからず。
又五ノ不思議ノ中ニ、仏法最モ不可思議ナリ。汝以テ↢三界ノ繋業ヲ↡為シ↠重シト、疑ヒテ↢彼ノ少時ノ念仏ヲ↡為シテ↠軽シト、不トイフ↠得↧往↢生シテ安楽国ニ↡入ルコトヲ↦正定聚ニ↥者是ノ事不↠然ラ。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (二)第二問答〔業道如秤〕
(Ⅰ)問
^▲問とひていはく、 *大だい乗じょう経きょうにのたまはく、 「*業道ごうどうは秤はかりのごとし、 重おもき処ところ先まづ牽ひく」 と。 いかんが衆しゅ生じょう*一いち形ぎょうよりこのかた、 あるいは百ひゃく年ねん、 あるいは十じゅう年ねん、 すなはち今日こんにちに至いたるまで、 悪あくとして造つくらざるはなし。 いかんが臨りん終じゅうに善ぜん知ぢ識しきに遇あひて十じゅう念ねん相続そうぞくしてすなはち往おう生じょうを得えん。 もししからば、 ▲*「先牽せんけん」 の義ぎなにをもつてか信しんを取とる。
問ヒテ曰ク、大乗経ニ云ク、「業道ハ如シ↠*秤ノ、重キ処先ヅ牽クト。」云何ガ衆生一形ヨリ已来タ、或イハ百年、或イハ十年、乃チ至ルマデ↢今日ニ↡、无シ↢悪トシテ不ルハ↟造ラ。云何ガ臨終ニ遇ヒテ↢善知識ニ↡十念相0601*続シテ即チ得ム↢往生ヲ↡。若シ爾ラバ者、先牽之義何ヲ以テカ取ル↠信ヲ。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (二)(Ⅱ)答
(ⅰ)牒難
^▲答こたへていはく、 なんぢ一いち形ぎょうの悪業あくごうを重おもしとなして、 下げ品ぼんの人ひとの十じゅう念ねんの善ぜんをもつて、 もつて軽かろしとなすといはば、
答ヘテ曰ク、汝謂ハバ↧一形ノ悪業ヲ為シテ↠重シト、以テ↢下品ノ人ノ十念之善ヲ↡、以テ為スト↞軽シト者、
二 Ⅱ ⅱ c ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)正破
(a)義門を標す
^◆いままさに義ぎをもつて軽きょう重じゅうの義ぎを校量きょうりょうせん。 まさしく心しんに在あり、 縁えんに在あり、 決けつ定じょうに在あり、 時じ節せつの久く近ごん・多た少しょうには在あらざることを明あかす。
今当ニ以テ↠義ヲ挍↢量セム軽重之義ヲ↡者。正シク明ス↧在リ↠心ニ、在リ↠縁ニ、在リ↢決定ニ↡、不ルコトヲ↞在ラ↢時節ノ久近多少ニハ↡也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)随釈
(イ)在心
[一]法挍
^◆いかんが 「心しんに在ある」 とは、 いはく、 かの人ひと罪つみを造つくる時ときは、 みづから*虚こ妄もう顛倒てんどうの心しんに依止えじして生しょうず。 この十じゅう念ねんは、 善ぜん知ぢ識しきの、 *方便ほうべん安あん慰にして*実相じっそうの法ほうを聞きかしむるによりて生しょうず。 一いちは実じつ、 一いちは虚こ、 あにあひ比くらぶることを得えんや。
云何ガ在ルトハ↠心ニ、謂ク彼ノ人造ル↠罪ヲ時ハ、自ラ依↢止シテ虚妄顛倒ノ心ニ↡生ズ。此ノ十念者、依リテ↣善知識ノ、方便安慰シテ聞カシムルニ↢実相ノ法ヲ↡生ズ。一ハ実一ハ虚、豈ニ得ム↢相比ブルコトヲ↡也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[二]喩責
^◆なんとなれば、 たとへば千歳せんざいの闇室あんしつに光ひかりもししばらくも至いた0224れば、 すなはち明みょう朗ろうなるがごとし。 闇やみあに室しつにあること千歳せんざいなるをもつて、 去さらずといふことを得うべけんや。
何トナレバ者譬ヘバ如シ↢千歳ノ闇室ニ光若シ暫モ至レバ、即便チ明朗ナルガ↡。*闇豈ニ可ケム↠得↠*言フコトヲ↢*在ルコト↠室ニ千歳ナルヲモテ而不ト↟去ラ也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[三]経を引きて合す
^このゆゑに ¬*遺日ゆいにち摩尼まに宝ほう経きょう¼ (意) にのたまはく、 「仏ぶつ、 迦か葉しょう菩ぼ薩さつに告つげたまはく、 ª衆しゅ生じょうまた数千しゅせん巨こ億万おくまん劫ごう、 愛欲あいよくのなかにありて、 罪つみのために覆おおはるといへども、 もし仏ぶっ経きょうを聞ききてひとたび善ぜんを念ねんずれば、 罪つみすなはち消しょう尽じんすº」 と。 ▲これを心しんに在あると名なづく。
是ノ故ニ¬遺日摩尼宝経ニ¼云ク、「仏告ゲタマハク↢迦葉菩薩ニ↡、衆生雖モ↧復数千巨億万劫在リテ↢愛欲ノ中ニ↡、為ニ↠罪ノ所ト↞覆ハ、若シ聞キテ↢仏経ヲ↡一反タビ念ズレバ↠善ヲ、罪即チ消尽スト也。」是ヲ名ク↠在ルト↠心ニ。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)在縁
[一]法挍
^◆二ににはいかんが 「縁えんに在ある」 とは、 いはく、 かの人ひと罪つみを造つくる時ときは、 みづから妄想もうぞうに依止えじし、 煩悩ぼんのう果か報ほうの衆しゅ生じょうによりて生しょうず。 いまこの十じゅう念ねんは、 無む上じょうの信心しんじんに依止えじし、 阿あ弥陀みだ如来にょらいの真実しんじつ清浄しょうじょう無む量りょう功く徳どくの名みょう号ごうによりて生しょうず。
二ニハ云何ガ在ルト↠縁ニ者、謂ク彼ノ人造ル↠罪ヲ時ハ、自ラ依↢止シ妄*想ニ↡、依リテ↢煩悩果報ノ*衆生ニ↡生ズ。今此ノ十念者、依↢止シ无上ノ信心ニ↡、依リテ↢阿弥陀如来ノ真実清浄无量功徳ノ名号ニ↡生ズ。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[二]喩責
^◆たとへば人ひとありて毒どくの箭やを被こうむるに、 中あたるところ、 筋すじを徹とおし骨ほねを破やぶる。 もし*滅除めつじょ薬やくの鼓つづみの声こえを聞きけば、 すなはち箭や出いで毒どく除のぞこるがごとし。 ▲あにかの箭や深ふかく毒どくはげしくして鼓つづみの音おん声じょうを聞きけども、 箭やを抜ぬき毒どくを去さることあたはずといふことを得うべけんや。 これを縁えんに在あると名なづく。
譬ヘバ如シ↧有リテ↠人被ルニ↢毒ノ箭ヲ↡、所↠中アタル徹シ↠筋ヲ破ル↠骨ヲ、若シ聞ケバ↢滅除薬ノ鼓ノ声ヲ↡、即チ箭出デ毒除コルガ↥。豈ニ可ケム↠得↠言フコトヲ↧彼ノ箭深ク毒厲ハゲシクシテ聞ケドモ↢鼓ノ音声ヲ↡、不ト↞能ハ↢抜キ↠箭ヲ去ルコト↟毒ヲ也。是ヲ名ク↠在ルト↠縁ニ。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ハ)在決定
[一]正しく随自門に約す
^◆三さんにはいかんが 「決けつ定じょうに在ある」 とは、 かの人ひと罪つみを造つくる時ときは、 みづから*有後うご心しん・*有う間けん心しんに依止えじして生しょうず。 いまこの十じゅう念ねんは無後むご心しん・無む間けん心しんに依止えじして起おこる。 これを決けつ定じょうとなす。
三ニハ云何ガ在ルト↢決定ニ↡者、彼ノ人造ル↠罪ヲ時ハ、自ラ依↢止シテ有*後心・有間心ニ↡生ズ。今此ノ十念者、依↢止シテ无*後心・无間心ニ↡起ル。是ヲ為ス↢決定ト↡。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ハ)[二]因みに論を引きて随他門を明す
[Ⅰ]法
^また ¬智度ちど論ろん¼ (意) にいはく、 「▼一切いっさい衆しゅ生じょう臨りん終じゅうの時とき、 *刀風とうふう形かたちを解とき、 死苦しく来きたり逼せむるに、 大だい怖畏ふいを生しょうず。 このゆゑに善ぜん知ぢ識しきに遇あひて大だい勇ゆう猛みょうを0225発おこして、 心々しんしん相続そうぞくして十じゅう念ねんすれば、 すなはちこれ増ぞう上じょうの善根ぜんごんなるをもつてすなはち往おう生じょうを得う。
又¬智度論ニ¼云ク、「一切衆生臨終之時0602、刀風解キ↠形ヲ、死苦来リ逼ムルニ、生ズ↢大怖畏ヲ↡。是ノ故ニ遇ヒテ↢善知識ニ↡発シテ↢大勇猛ヲ↡、心心相続シテ十念スレバ、即チ是増上ノ善根ナルヲモテ便チ得↢往生ヲ↡。」
二 Ⅱ ⅱ c ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ハ)[二][Ⅱ]喩
^また人ひとありて敵てきに対たいして陣じんを破やぶるに、 一いち形ぎょうの力ちから一いち時じにことごとく用もちゐるがごとし。 その十じゅう念ねんの善ぜんもまたかくのごとし。
又「*如シ↢有リテ↠人対シテ↠敵ニ破ルニ↠陣ヲ、一形之力一時ニ尽ク用ヰルガ↡。其ノ十念之善モ亦如シト↠是クノ也。」
二 Ⅱ ⅱ c ハ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ハ)[二][Ⅲ]反顕
^またもし人ひと臨りん終じゅうの時とき、 一念いちねんの邪見じゃけん、 増ぞう上じょうの悪心あくしんを生しょうずれば、 すなはちよく三界さんがいの福ふくを傾かたむけてすなはち悪道あくどうに入いる」 と。
又「若シ人臨終ノ時、生ズレバ↢一念ノ邪見、増上ノ悪心ヲ↡、即チ能ク傾ケテ↢三界之福ヲ↡即チ入ルト↢悪道ニ↡也。」
二 Ⅱ ⅱ c ハ (三)第三問答〔十念相続〕
(Ⅰ)前を領して問を起す
^▲問とひていはく、 すでに終おわりに垂なんなんとするに十じゅう念ねんの善ぜんよく一いっ生しょうの悪業あくごうを傾かたむけて浄じょう土どに生しょうずることを得うといはば、 いまだ知しらず、 いくばくの時ときをか十じゅう念ねんとなすや。
問ヒテ曰ク、既ニ云ハバ↧*垂ナンナムトスルニ↠終ニ十念之善能ク傾ケテ↢一生ノ悪業ヲ↡得ト↞生ズルコトヲ↢浄土ニ↡者、未ダ↠知ラ、幾ノ時ヲカ為ス↢十念ト↡也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (三)(Ⅱ)答
(ⅰ)時節の念を明す
^◆答こたへていはく、 経きょうに説ときてのたまふがごとし。 百ひゃく一いちの生しょう滅めつ、 一いち刹せつ那なを成じょうず。 六ろく十じゅうの刹せつ那な、 もつて一念いちねんとなす。 これ経きょう論ろんによりて汎ひろく念ねんを解げす。
答ヘテ曰ク、如シ↢経ニ説キテ云フガ↡。百一ノ生滅、成ズ↢一刹那ヲ↡。六十ノ刹那、以テ為スト↢一念ト↡。此依リテ↢経論ニ↡汎ク解ス↠念ヲ也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (三)(Ⅱ)(ⅱ)傍に観念の念を明す
^◆いまの時ときは念ねんを解げするにこの時じ節せつを取とらず。 ▼ただ阿あ弥陀みだ仏ぶつの、 もしは総相そうそう、 もしは別相べっそうを憶念おくねんして、 所縁しょえんに随したがひて観かんじ、 十じゅう念ねんを経ふるに、 他たの念想ねんそう*間雑けんぞうすることなし。 これを十じゅう念ねんと名なづく。
今ノ時ハ解スルニ↠念ヲ不↠取ラ↢此ノ時節ヲ↡。但憶↢念シテ阿弥陀仏ノ若シハ総相若シハ別相ヲ↡、随ヒテ↢所縁ニ↡観ジ、逕ルニ↢於十念ヲ↡、无シ↢他ノ念想間雑スルコト↡。是ヲ名ク↢十念ト↡。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (三)(Ⅱ)(ⅲ)正しく下品の十念を明す
(a)正明
^◆また▲十じゅう念ねん相続そうぞくといふは、 これ聖しょう者じゃの一いちの数かずの名ななるのみ。 ただよく念ねんを積つみ思おもいを凝こらして他事たじを縁えんぜざれば、 業道ごうどうをして成じょう弁べんせしめてすなはち罷やみぬ。 用もちゐざれ。 またいまだ労わずらはしくこれが*頭ず数しゅを記きせず。
又云フ↢十念相続ト↡者、是聖者ノ一ノ数之名ナル耳。但能ク積ミ↠念ヲ凝シテ↠思ヲ不レバ↠縁ゼ↢他事ヲ↡、使メテ↢業道ヲシテ成辨セ↡便チ罷ミヌ。*不レ↠用ヰ。亦未ダ↣労ハシク記セ↢之ガ頭数ヲ↡也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (三)(Ⅱ)(ⅲ)(b)料簡
^◆またいはく、 もし久く行ぎょうの人ひとの念ねんは多おおくこれによるべし、 もし始し行ぎょうの人ひとの念ねんは数かずを記きするも0226また好よし。 これまた聖教しょうぎょうによるなり。
又云フ、若シ久行ノ人ノ念ハ多ク応シ↠依ル↠此ニ、若シ始行ノ人ノ念者記スルモ↠数ヲ亦好シト。此亦依ルナリ↢聖教ニ↡。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (四)第四問答〔計念相状〕
(Ⅰ)問
^また問とひていはく、 いま勧すすめによりて念仏ねんぶつ三昧ざんまいを行ぎょうぜんと欲ほっす。 いまだ知しらず、 計け念ねんの相そう状じょうはなににか似にたる。
又問ヒテ曰ク、今欲ス↣依リテ↠勧メニ行ゼムト↢念仏三昧ヲ↡。未ダ↠知ラ、計念ノ相状ハ何ニカ似タル。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (四)(Ⅱ)答
(ⅰ)喩説
^答こたへていはく、 ▲たとへば人ひとありて*空曠くうこうのはるかなる処ところにおいて、 怨賊おんぞくの刀かたなを抜ぬき勇ゆうを奮ふるひてただちに来きたりて殺ころさんと欲ほっするに値ち遇ぐうす。 この人ひとただちに走はしるに、 一いちの河かわを度わたらんとするを視みる。 いまだ河かわに到いたるに及およばざるに、 すなはちこの念ねんをなす。 「われ河かわの岸きしに至いたらば、 衣ころもを脱ぬぎて渡わたるとやせん、 衣ころもを着きて浮うかぶとやせん。 もし衣ころもを脱ぬぎて渡わたらば、 ただおそらくは暇いとまなからん。 もし衣ころもを着きて浮うかばば、 またおそらくは*首しゅ領りょう全まったくしがたからん」 と。 その時とき、 ただ一心いっしんに河かわを渡わたる方便ほうべんをなすことのみありて、 余よの心想しんそう間雑けんぞうすることなきがごとし。
答ヘテ曰ク、譬ヘバ如シ↧有リテ↠人於テ↢空曠ノ*迥カナル処ニ↡、値↢遇ス怨賊ノ抜キ↠刀ヲ*奮ヒテ↠勇ヲ直ニ来リテ欲スルニ↟*殺サムト、此ノ人径タダチニ走ルニ、視ル↠度ラムトスルヲ↢一ノ河ヲ↡、未ダルニ↠及バ↠到ルニ↠河ニ、即チ作ス↢此ノ念ヲ↡、我至ラバ↢河ノ岸ニ↡、為ム↢脱ギテ↠衣ヲ渡ルトヤ↡、為ム↢著テ↠衣ヲ浮ブトヤ↡、若シ脱ギテ↠衣ヲ渡ラバ、唯恐クハ无カラム↠暇、若シ著0603テ↠衣ヲ浮ババ、復畏クハ首領難カラムト↠全クシ、爾ノ時但有リテ↣一心ニ作スコトノミ↢渡ル↠河ヲ方便ヲ↡、无キガ↦余ノ心想間雑スルコト↥。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (四)(Ⅱ)(ⅱ)合法
^▲行ぎょう者じゃもまたしかなり。 阿あ弥陀みだ仏ぶつを念ねんずる時とき、 またかの人ひとの渡わたることのみを念ねんじて、 念々ねんねんあひ次ついで余よの心想しんそう間雑けんぞうすることなきがごとし。 あるいは仏ぶつの法身ほっしんを念ねんじ、 あるいは仏ぶつの*神力じんりきを念ねんじ、 あるいは仏ぶつの智慧ちえを念ねんじ、 あるいは仏ぶつの*毫相ごうそうを念ねんじ、 あるいは仏ぶつの相好そうごうを念ねんじ、 あるいは仏ぶつの本願ほんがんを念ねんず。 名みなを称しょうすることもまたしかなり。 ただよく専せん至しに相続そうぞくして断たえざれば、 さだめて仏前ぶつぜんに生しょうず。
行者モ亦爾ナリ。念ズル↢阿弥陀仏ヲ↡時、亦如シ↣彼ノ人ノ念ジテ↠渡ルコトノミヲ、念念相次ギテ无キガ↢余ノ心想間雑スルコト↡。或イハ念ジ↢仏ノ法身ヲ↡、或イハ念ジ↢*仏ノ神力ヲ↡、或イハ念ジ↢仏ノ智慧ヲ↡、或イハ念ジ↢仏ノ毫相ヲ↡、或イハ念ジ↢仏ノ相好ヲ↡、或イハ念ズ↢仏ノ本願ヲ↡。称スルコトモ↠名ヲ亦爾ナリ。但能ク専至ニ相続シテ不レバ↠断エ、定メテ生ズ↢仏前ニ↡。
勧励
^いま後代こうだいの学者がくしゃを勧すすむ。 もしその二に諦たいを会えせんと欲ほっ0227せば、 ただ念々ねんねん*不可ふか得とくなりと知しるはすなはちこれ*智慧ちえ門もんにして、 よく*繋け念ねん相続そうぞくして断たえざるはすなはちこれ*功く徳どく門もんなり。
今勧ム↢後代ノ学者ヲ↡。若シ欲セバ↠会セムト↢其ノ二諦ヲ↡、但知ルハ↢念念不可得ナリト↡即チ是智恵門ニシテ而能ク繋念相続シテ不ルハ↠断エ即チ是功徳門ナリ。
経証
^このゆゑに ¬経きょう¼ (維摩経・意) にのたまはく、 「菩ぼ薩さつ*摩訶まか薩さつつねに功く徳どく・智慧ちえをもつて、 もつてその心しんを修しゅす」 と。 ▼もし始し学がくのものは、 いまだ*相そうを破はすることあたはず、 ただよく相そうによりて専せん至しせば、 往おう生じょうせざるはなし。 疑うたがふべからず。
是ノ故ニ¬経ニ¼云ク、「菩薩摩訶薩恒ニ以テ↢功徳・智慧ヲ↡、以テ修スト↢其ノ心ヲ↡。」若シ始学ノ者ハ未ダ↠能ハ↠破スルコト↠相ヲ、但能ク依リテ↠相ニ専至スレバ无シ↠不ルハ↢往生セ↡。不↠須カラ↠疑フ也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (五)第五問答〔臨終修念〕
(Ⅰ)問
^また問とひていはく、 ¬無む量りょう寿じゅ大だい経きょう¼ (上) にのたまはく、 「▲十方じっぽうの衆しゅ生じょう、 心しんを至いたし信しん楽ぎょうして、 わが国くにに生しょうぜんと欲ほっして、 すなはち十じゅう念ねんに至いたるまでせん。 もし生しょうぜずは、 正しょう覚がくを取とらじ」 (第十八願) と。 いま世せ人にんありて、 この聖教しょうぎょうを聞ききて現在げんざいの一いち形ぎょうまつたく意こころをなさず、 臨りん終じゅうの時ときに擬ぎしてまさに修念しゅねんせんと欲ほっす。 この事じいかん。
又問ヒテ曰ク、¬无量寿大経ニ¼云ク、「十方ノ衆生、至シ↠心ヲ信楽シテ、欲シテ↠生ゼムト↢我ガ国ニ↡乃チ至↢十念↡セム。若シ不↠生ゼ者不ト↠取ラ↢正覚ヲ↡。」今有リテ↢世人↡、聞キテ↢此ノ聖教ヲ↡現在ノ一形全ク不↠作サ↠意ヲ、擬シテ↢臨終ノ時ニ↡方ニ欲ス↢修念セムト↡。是ノ事云何ン。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (五)(Ⅱ)答
(ⅰ)業成を習に籍りて示し預修を勧む
(a)心識の散乱を挙げて勧む
^答こたへていはく、 この事じ類るいせず。 なんとなれば、 経きょうに▲十じゅう念ねん相続そうぞくとのたまふは、 難かたからざるに似若にたり。 しかれども▼もろもろの凡ぼん夫ぶの心しんは野馬やめのごとく、 識しきは猿猴えんこうよりも劇はげし。 六塵ろくじんに*馳ち騁ちょうして、 なんぞかつて*停じょう息そくせん。 おのおのすべからくよろしく信心しんじんを発おこして、 あらかじめみづから*剋念こくねんし、 積習しゃくじゅうして*性しょうを成じょうじ、 善根ぜんごんをして堅けん固ごならしむべし。
答ヘテ曰ク、此ノ事不↠類セ。何トナレバ者経ニ云フハ↢十念相続ト↡、似↢ニ若タリ不ルニ↟難カラ。然レドモ諸ノ凡夫ノ心ハ如ク↢野馬ノ↡、識ハ劇シ↢猨猴ヨリモ↡。馳↢騁シテ六塵ニ↡、何ゾ曽テ停息セム。各ノ須クシ↧宜シク*発シテ↢信心ヲ↡、預メ自ラ剋念シ、使ム↦積習シテ成ジ↠性ヲ、善根ヲシテ堅固ナラ↥也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (五)(Ⅱ)(ⅰ)(b)仏語
^◆仏ぶつ、 大王だいおうに告つげたまふがごとし。 「人ひと善ぜん行ぎょうを積つめば、 死しするとき悪念あくねんなし。 ▼樹じゅの先さきより傾かたむけるは倒たおるるに、 かなら0228ず曲まがれるに随したがふがごとし」 (大智度論・意) と。
如シ↣仏告ゲタマフガ↢大王ニ↡。人積メバ↢善行ヲ↡、死ヌルトキ无シ↢悪念↡。如シト↢樹ノ先ヨリ傾ケルハ倒ルルニ必ズ随フガ↟曲レルニ也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (五)(Ⅱ)(ⅰ)(c)死苦の来逼を挙げて勧む
^▼もし刀風とうふう一ひとたび至いたれば、 百ひゃっ苦く身みに湊あつまる。 もし習ならい先さきよりあらずは、 懐え念ねんなんぞ弁べんずべけんや。 おのおのよろしく同どう志し*三さん五ごあらかじめ*言要ごんようを結むすび、 命終みょうじゅうの時ときに臨のぞみてたがひにあひ開かい暁ぎょうして、 ために弥陀みだの名みょう号ごうを称しょうして安楽あんらく国こくに生しょうぜんと願がんじ、 声々しょうしょうあひ次ついで十じゅう念ねんを成じょうぜしむべし。
若シ刀風一タビ至レバ、百苦湊アツマル↠身ニ。若シ習先ヨリ不ハ↠在ラ、懐念何ゾ可ケムヤ↠辨ズ。各ノ宜シクシ↧同志三0604五預メ結ビ↢言要ヲ↡、臨ミテ↢命終ノ時ニ↡迭タガヒニ相開暁シテ、為ニ称シテ↢弥陀ノ名号ヲ↡願ジ↠生ゼムト↢安楽国ニ↡、*声声相次ギテ使ム↞成ゼ↢十念ヲ↡也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (五)(Ⅱ)(ⅱ)勝益を挙げて預修を結勧す
^▼たとへば*蝋印ろういんをもつて泥でいに印いんするに、 印いん壊こわれて文もん成じょうずるがごとし。 ここに命いのち断たゆる時ときは、 すなはちこれ安楽あんら、 く国こくに生しょうずる時ときなり。 一ひとたび正定しょうじょう聚じゅに入いれば、 さらになんの憂うれふるところかあらん。 おのおのよろしくこの大だい利りを量はかるべし。 なんぞあらかじめ剋念こくねんせざらんや。
譬ヘバ如シ↢*臘印ヲモテ印スルニ↠泥ニ、印壊レテ文成ズルガ↡。此ニ命断ユル時ハ、即チ是生ズル↢安楽国ニ↡時ナリ。一タビ入レバ↢正定聚ニ↡、更ニ何ノ所カアラム↠憂フル。各ノ宜シクシ↠量ル↢此ノ*大利ヲ↡。何ゾ不ラム↢預メ剋念セ↡也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (六)第六問答〔無生之生〕
(Ⅰ)問
^▲また問とひていはく、 もろもろの大だい乗じょう経きょう論ろんにみな、 「一切いっさい衆しゅ生じょうは畢ひっ竟きょう無む生しょうにしてなほ虚こ空くうのごとし」 といへり。 いかんぞ天親てんじん・龍りゅう樹じゅ菩ぼ薩さつみな往おう生じょうを願がんずるや。
又問ヒテ曰ク、諸ノ大乗経論ニ皆言ヘリ↣「一切衆生ハ畢竟无生ニシテ猶若シト↢虚空ノ↡。」云何ゾ天親・龍樹菩薩*皆願ズル↢往生ヲ↡也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (六)(Ⅱ)答
(ⅰ)標列
^◆答こたへていはく、 「衆しゅ生じょうは畢ひっ竟きょう無む生しょうにして虚こ空くうのごとし」 といふは、 二に種しゅの義ぎあり。
答ヘテ曰ク、言フ↣衆生ハ畢竟无生ニシテ如シト↢虚空ノ↡者、有リ↢二種ノ義↡。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (六)(Ⅱ)(ⅱ)正釈
(a)妄想生
^◆一いちには凡ぼん夫ぶ人にんの所見しょけんのごときは、 実じつの衆しゅ生じょう、 実じつの生しょう死じ等とうなり。 もし菩ぼ薩さつによらば、 往おう生じょうは畢ひっ竟きょうじて虚こ空くうのごとく兎と角かくのごとし。
一ニ者如キハ↢凡夫人ノ所見ノ↡、実ノ衆生実ノ生死等ナリ。若シ拠ラバ↢菩薩ニ↡、往生ハ畢竟ジテ如ク↢虚空ノ↡如シ↢兎角ノ↡。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (六)(Ⅱ)(ⅱ)(b)因縁生
^◆二ににはいま 「生しょう」 といふはこれ因縁いんねん生しょうなり。 因縁いんねん生しょうなるがゆゑにすなはちこれ仮け名みょうの生しょうなり。 仮け名みょうの生しょうなるがゆゑにすなはちこれ無む生しょうなり。 大道だいどう理りに違いせず。 凡ぼん夫ぶの実じつの衆しゅ生じょう、 実じつの生しょう0229死じありと謂いふがごときにはあらず。
二ニ者今言フ↠生ト者是因縁生ナリ。因縁生ナルガ故ニ即チ是仮名ノ生ナリ。仮名ノ生ナルガ故ニ即チ是无生ナリ。不↠違セ↢大道理ニ↡也。非ズ↠如キニハ↢凡夫ノ謂フガ↟有リト↢実ノ衆生実ノ生死↡也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (七)第七問答〔生何可尽〕
(Ⅰ)問
^▲また問とひていはく、 それ生しょうは有うの本ほんたり、 すなはちこれ衆累しゅるいの元もとなり。 もしこの過とがを知しりて生しょうを捨すて無む生しょうを求もとめば、 脱のがるる期ごあるべし。 いますでに浄じょう土どに生しょうずることを勧すすむ。 すなはちこれ生しょうを棄すてて生しょうを求もとむ。 生しょうなんぞ尽つくべけんや。
又問ヒテ曰ク、夫レ生ハ為リ↢有ノ本↡、乃チ是衆累之元ナリ。若シ知リテ↢此ノ過ヲ↡捨テ↠生ヲ求メバ↢无生ヲ↡者、可シ↠有ル↢脱ルル期↡。今既ニ勧ム↠生ズルコトヲ↢浄土ニ↡。即チ是棄テテ↠生ヲ求ム↠生ヲ。生何ゾ可ケムヤ↠尽ク。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (七)(Ⅱ)答
^答こたへていはく、 ▲しかるにかの浄じょう土どは、 すなはちこれ阿あ弥陀みだ如来にょらいの清浄しょうじょう本願ほんがんの無む生しょうの生しょうなり。 三さん有ぬの衆しゅ生じょうの*愛染あいぜん虚こ妄もうの執着しゅうじゃくの生しょうのごときにはあらず。 ◆なにをもつてのゆゑに。 それ法ほっ性しょう清浄しょうじょうにして畢ひっ竟きょう無む生しょうなればなり。 しかるに生しょうといふは得とく生しょうのものの情こころなるのみと。
答ヘテ曰ク、然ルニ彼ノ浄土ハ、乃チ是阿弥陀如来ノ清浄本願ノ无生之生ナリ。非ズ↠如キニハ↢三有ノ衆生ノ愛染虚妄ノ執著ノ生ノ↡也。何ヲ以テノ故ニ。夫レ法性清浄ニシテ畢竟无生ナレバナリ。而ルニ言フ↠生ト者得生ノ者之情ナル耳ト。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (八)第八問答〔実生願生〕
(Ⅰ)問
(ⅰ)前を踏みて難を起す
^▲また問とひていはく、 △上かみにいふところのごとく、 生しょうは無む生しょうなりと知しるは、 まさに*上じょう品ぼん生しょうのものなるべし。 もししからば*下げ品ぼん生しょうの人ひとの十じゅう念ねんに乗じょうじて往おう生じょうするは、 あに実じつの生しょうを取とるにあらずや。
又問ヒテ曰ク、如ク↢上ニ所ノ↟言フ、知ルハ↢生ハ无生ナリト↡、当ニシ↢上品生ノ者ナル↡。若シ爾ラバ下品生ノ人ノ*乗ジテ↢十念ニ↡往生スル者、豈ニ非ズ↠取ルニ↢実ノ生ヲ↡也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (八)(Ⅰ)(ⅱ)二疑の難を出す
^◆もし実じつの生しょうならば、 すなはち二疑にぎに堕だす。 一いちにはおそらくは往おう生じょうを得えず。 二ににはいはく、 この*相しょう善ぜん、 無む生しょうのために因いんとなることあたはず。
若シ実ノ生ナラバ者、即チ堕ズ↢二疑ニ↡。一ニハ恐0605クハ不↠得↢往生ヲ↡。二ニハ謂ク、此ノ相善不↠能ハ↧与ニ↢无生ノ↡為ルコト↞因ト也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (八)(Ⅱ)答
(ⅰ)標
^答こたへていはく、 釈しゃくするに三番さんばんあり。
答ヘテ曰ク、釈スルニ有リ↢三番↡。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)喩答
(a)浄摩尼珠
^▲一いちにはたとへば浄じょう摩尼まに珠しゅ、 これを濁じょく水すいに置おけば、 珠たまの威い力りきをもつて水みずすなはち澄清ちょうしょうなるがごとし。 もし人ひと無む量りょう生しょう死じの罪ざい濁じょくありといへども、 もし阿あ弥陀みだ如来にょらいの至し極ごく無む生しょう清浄しょうじょうの宝珠ほうしゅの0230名みょう号ごうを聞ききてこれを濁じょく心しんに投とうずれば、 念々ねんねんのうちに罪つみ滅めっし心しん浄きよくして即便すなわち往おう生じょうす。
一ニハ譬ヘバ如シ↧浄摩尼珠、置ケバ↢之ヲ濁水ニ↡、以テ↢珠ノ威*力ヲ↡水即チ*澄清ナルガ↥。若シ人雖モ↠有リト↢无量生死ノ罪濁↡、若シ聞キテ↢阿弥陀如来ノ至極无生ノ清浄ノ宝珠ノ名号ヲ↡投ズレバ↢之ヲ濁心ニ↡、念念之中ニ罪滅シ心浄クシテ即便チ往生ス。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)(b)玄黄帛譬
^◆二にには浄じょう摩尼まに珠しゅを玄黄げんおうの帛はくをもつて裹つつみてこれを水みずに投とうずれば、 水みずすなはち玄黄げんおうにしてもつぱら物ものの色いろのごとくなるがごとし。 かの清浄しょうじょう仏ぶつ土どに、 阿あ弥陀みだ如来にょらいの無む上じょう宝珠ほうしゅの名みょう号ごうまします。 無む量りょうの功く徳どく成じょう就じゅの帛はくをもつて裹つつみてこれを往おう生じょうするところのものの心水しんすいのうちに投とうずるに、 あに生しょうを転てんじて無む生しょうの智ちとなすことあたはざらんや。
二ニハ如シ↧浄摩尼珠ヲ以テ↢玄黄ノ帛ヲ↡*裹ツツミテ投ズレバ↢之ヲ於水ニ↡、水即チ玄黄ニシテ一ラ如クナルガ↦物ノ色ノ↥。彼ノ清浄仏土ニ、有ス↢阿弥陀如来ノ无上宝珠ノ名号↡。以テ↢无量ノ功徳成就ノ帛ヲ↡*裹ツツミテ投ズルニ↧之ヲ所ノ↢往生スル↡者ノ心水之中ニ↥、豈ニ不ラム↠能ハ↣転ジテ↠生ヲ為スコト↢无生ノ智ト↡乎。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (八)(Ⅱ)(ⅱ)(c)氷上燃火
^◆三さんにはまた氷こおりの上うえに火ひを燃たくに、 火ひ猛たけければすなはち氷こおり液とく、 氷こおり液とくればすなはち火ひ滅めっするがごとし。 かの下げ品ぼん往おう生じょうの人ひとは法ほっ性しょう無む生しょうを知しらずといへども、 ただ仏ぶつ名みょうを称しょうする力ちからをもつて往おう生じょうの意こころをなし、 かの土どに生しょうぜんと願がんじて、 すでに無む生しょうの界さかいに至いたる時ときに見けん生しょうの火ひ自じ然ねんに滅めっす。
*三ニハ亦如シ↢氷ノ上ニ燃タクニ↠火ヲ、火猛ケレバ則チ氷液トク、氷液トクレバ則チ火滅ルスガ↡。彼ノ下品往生ノ人ハ雖モ↠不ト↠知ラ↢法性无生ヲ↡、但*以テ↧称スル↢仏名ヲ↡力ヲ↥作シ↢往生ノ意ヲ↡、願ジテ↠生ゼムト↢彼ノ土ニ↡、既ニ至ル↢无生ノ界ニ↡時ニ見生之火*自然ニ而滅ス也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (九)第九問答〔浄穢仮名人〕
(Ⅰ)問
^▲また問とひていはく、 なんの身みによるがゆゑに往おう生じょうを説とくや。
又問ヒテ*曰ク、依ルガ↢何ノ身ニ↡故ニ説ク↢往生ヲ↡也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (九)(Ⅱ)答
^◆答こたへていはく、 この間けんの*仮け名みょう人にんのなかにおいて、 もろもろの行ぎょう門もんを修しゅすれば、 前念ぜんねんは後ご念ねんのために因いんとなる。 穢土えどの仮け名みょう人にんと浄じょう土どの仮け名みょう人にんと決けつ定じょうして一いちなることを得えず、 決けつ定じょうして異いなることを得えず。 前心ぜんしん後ご心しんもまたかくのごとし。 なにをもつてのゆゑに。 もし決けつ定じょうして一いちならばすなはち因いん果がなからん。 もし決けつ定じょうして異いならばすなはち相続そうぞくにあらず。 この義ぎをもつてのゆゑに、 横竪おうじゅ別べつなりといへども、 始し終じゅうこれ0231一いちの行ぎょう者じゃなり。
答ヘテ曰ク、於テ↢此ノ間ノ仮名人ノ中ニ↡、修スレバ↢諸ノ行門ヲ↡、前念ハ与ニ↢後念ノ↡作ル↠因ト。穢土ノ仮名人ト浄土ノ仮名人ト不↠得↢決定シテ一ナルコトヲ↡、不↠得↢決定シテ異ナルコトヲ↡。前*心後*心モ亦如シ↠是クノ。何ヲ以テノ故ニ。若シ決定シテ一ナラバ則チ无カラム↢因果↡。若シ決定シテ異ナラバ*則チ非ズ↢相続ニ↡。以テノ↢是ノ義ヲ↡故ニ横竪雖モ↠別ナリト、始*終是一ノ行者也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (十)第十問答〔名法即非〕
(Ⅰ)問
^▲また問とひていはく、 もし人ひとただよく仏ぶつの名みょう号ごうを称となへてよくもろもろの障さわりを除のぞかば、 もししからば、 たとへば人ひとありて指ゆびをもつて月つきを指さすがごとし。 この指ゆびよく闇やみを破はすべきや。
*又問ヒテ曰ク、若シ人但能ク称ヘテ↢仏ノ名号ヲ↡能ク除カバ↢諸ノ障ヲ↡者、若シ爾ラバ譬ヘバ如シ↢有リテ↠人以テ↠指ヲ指スガ↟月ヲ。此ノ指応キ↢能ク破ス↟闇ヲ也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (十)(Ⅱ)答
(ⅰ)標
^◆答こたへていはく、 ▼諸法しょほう万差まんじゃなり。 一概いちがいすべからず。 なんとなれば、 おのづから*名なの法ほうに即そくするあり、 おのづから名なの法ほうに異いするあり。
答ヘテ曰ク、諸法万差ナリ。不↠可カラ↢一概ス↡。何0606トナレバ者自ラ有リ↢名ノ即スル↟法ニ、自ラ有リ↢名ノ異スル↟法ニ。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (十)(Ⅱ)(ⅱ)釈
(a)名の法に即す
^◆名なの法ほうに即そくするありとは、 諸仏しょぶつ・菩ぼ薩さつの名みょう号ごう、 *禁呪きんじゅの音おん辞じ、 修しゅ多羅たらの章しょう句く等とうのごときこれなり。
有リト↢名ノ即スル↟法ニ者、如キ↢諸仏・菩薩ノ名号、禁呪ノ音辞、修多羅ノ章句等ノ↡是也。
^◆禁呪きんじゅの辞ことばに、 「*日にっ出しゅつ東方とうぼう乍さ赤しゃく乍さ黄おう」 といはんに、 たとひ*酉亥ゆうがいに禁きんを行ぎょうずるも、 患わずらへるものまた愈いゆるがごとし。
如シ↧禁呪ノ*辞ニ曰ハムニ↢「日出東方乍赤乍黄ナリト」↡、仮令 タトヒ 酉亥ニ行ズルモ↠禁ヲ、患ヘル者亦愈ユルガ↥。
^◆また人ひとありて狗いぬの所噛しょこうを被こうむらんに、 虎とらの骨ほねを炙あぶりてこれを熨のせば、 患わずらへるものすなはち愈いゆ。 あるいは時ときに骨ほねなければ、 よく掌たなごころをひろげてこれを磨すり、 口くちのなかに喚よびて 「虎こ来らい虎こ来らい」 といはんに、 患わずらへるものまた愈いゆるがごとし。
又如シ↧有リテ↠人被ラムニ↢狗ノ所噛ヲ↡、炙リテ↢虎ノ骨ヲ↡*慰ノセバ↠之ヲ、患ヘル者即チ愈ユ、或イハ時ニ无ケレバ↠骨、好クヒロゲテ↠掌ヲ*磨リ↠之ヲ、口ノ中ニ喚ビテ言ハムニ↢「虎来虎来ト」↡、患ヘル者亦愈ユルガ↥。
^▲あるいはまた人ひとありて脚転筋こむらがえりを患わずらはんに、 木瓜ぼけの枝えだを炙あぶりてこれを熨のせば、 患わずらへるものすなはち愈いゆ。 あるいは木瓜ぼけなければ、 手てを炙あぶりてこれを磨すりて、 口くちに 「木瓜ぼけ木瓜ぼけ」 と喚よべば、 患わずらへるものまた愈いゆ。 わが身みにその効しるしを得えたり。 なにをもつてのゆゑに。 名なの法ほうに即そくするをもつてのゆゑなり。
或イハ復有リテ↠人患ハムニ↢脚転*筋ヲ↡、炙リテ↢木瓜ノ*枝ヲ↡*慰ノセバ↠之ヲ、患ヘル者即チ愈ユ。或イハ无ケレバ↢木瓜↡、炙リテ↠手ヲ磨リテ↠之ヲ、口ニ喚ベバ↢「木瓜木瓜ト」↡、患ヘル者亦愈ユ。吾ガ身ニ得タリ↢其ノ効シルシヲ↡也。何ヲ以テノ故ニ。以テノ↢名ノ即スルヲ↟法ニ故ナリ。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (十)(Ⅱ)(ⅱ)(b)名の法に異す
^▲名なの法ほうに異いするありとは、 指ゆびをもつて月つきを指さすがごと0232きこれなり。
有リト↢名ノ異スル↟法ニ者、如キ↢以テ↠指ヲ指スガ↟*月ヲ是也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (士)第十一問答【三不三信】
(Ⅰ)問
^また問とひていはく、 ▲もし人ひとただ弥陀みだの名みょう号ごうを称しょう念ねんすれば、 よく十方じっぽうの衆しゅ生じょうの無む明みょうの黒闇こくあんを除のぞきて往おう生じょうを得うといはば、 ◆しかるに衆しゅ生じょうありて名なを称しょうし憶念おくねんすれども、 無む明みょうなほありて所願しょがんを満みてざるはなんの意こころぞ。
又問ヒテ曰ク、若シ人但称↢念スレバ弥陀ノ名号ヲ↡、能ク除キテ↢十方ノ衆生ノ无明ノ黒闇ヲ↡得トイハバ↢往生ヲ↡者、*然ルニ有リテ↢衆生↡称シ↠名ヲ憶念スレドモ而无明猶在リテ不ル↠満テ↢所願ヲ↡者何ノ意ゾ。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (士)(Ⅱ)答
(ⅰ)略示
^◆答こたへていはく、 如実にょじつ修しゅ行ぎょうせず、 *名みょう義ぎと相応そうおうせざるによるがゆゑなり。
答ヘテ曰ク、由ルガ↧不↢如実修行セ↡、与↢名義↡不ルニ↦相応セ↥故也。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (士)(Ⅱ)(ⅱ)広明
(a)二身に約して明す
^◆所以ゆえんはいかん。 いはく、 如来にょらいはこれ*実相じっそう身しん、 これ為い物もつ身しんなりと知しらず。
所以者何ン。謂ク不↠知ラ↢如来ハ是実相身、是為物身ナリト↡。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (士)(Ⅱ)(ⅱ)(b)三信に約して示す
(イ)先づ不相応を明す
^▼*また三種さんしゅの不ふ相応そうおうあり。 ▼一いちには信心しんじん淳あつからず、 存ぞんぜるがごとく亡もうぜるがごとくなるがゆゑなり。 二にには信心しんじん一いちならず、 いはく、 決けつ定じょうなきがゆゑなり。 三さんには信心しんじん相続そうぞくせず、 いはく、 余よ念ねん間へだつるがゆゑなり。 たがひにあひ収摂しゅうしょうす。
復有リ↢三種ノ不相応↡。一ニ者信心不↠淳カラ、若ク↠存セセルガ若クナルガ↠亡ゼルガ故ナリ。二ニ者信心不↠一ナラ、謂ク无キガ↢決定↡故ナリ。三ニ者信心不↢相続セ↡、謂ク余念間ツルガ故ナリ。迭タガヒニ相収摂ス。
二 Ⅱ ⅱ c ハ (士)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)相応を述べて反顕す
^▼もしよく相続そうぞくすればすなはちこれ一心いっしんなり。 ただよく一心いっしんなれば、 すなはちこれ淳じゅん心しんなり。 ▼この三心さんしんを具ぐしてもし生しょうぜずといはば、 この処ことわりあることなからん。
若シ能ク相続スレバ則チ是一心ナリ。但能ク一心ナレバ、即チ是淳*心ナリ。具シテ↢此ノ三心ヲ↡若シ不トイハバ↠生ゼ者、无カラム↠有ルコト↢是ノ処コトワリ↡。
二 Ⅲ【第三大門】
ⅰ 標列
【23】^第三だいさん大門だいもんのなかに四し番ばんの料りょう簡けんあり。 第だい一いちには↓難なん行ぎょう道どう・易い行ぎょう道どうを弁べんず。 第だい二にには↓時じ劫こうの大だい小しょう不ふ同どうを明あかす。 第だい三さんには無始むし世せ劫こうよりこのかた、 この*三界さんがい・五ご道どうに処しょして、 *善悪ぜんあく二に業ごうに乗じょうじて苦く楽らくの両りょう報ほうを受うけ、 ↓輪りん廻ね無む窮ぐうにして生しょうを受うくること無む数しゅなることを明あかす。 第だい四しには↓聖教しょうぎょうをもつて*証成しょうじょうして、 後代こうだいを勧すすめて0233信しんを生しょうじ往ゆくことを求もとめしむ。
第三大門ノ中ニ有リ↢四番ノ料簡↡。第一ニハ*弁ズ↢難行道・易行道ヲ↡。第二ニハ明ス↢時劫ノ大小0607不同ヲ↡。第三ニハ明ス↧従リ↢无始世劫↡已来タ、処シテ↢此ノ三界*五道ニ↡、乗ジテ↢善悪二業ニ↡受ケ↢苦楽ノ両報ヲ↡、輪廻无窮ニシテ受クルコト↠生ヲ无数ナルコトヲ↥。第四ニハ将テ↢聖教ヲ↡証成シテ、勧メテ↢後代ヲ↡*生ジ↠信ヲ求メシム↠往クコトヲ。
二 Ⅲ ⅱ 釈
a【難易二道】
イ 標列
【24】^第だい一いちに↑難なん行ぎょう道どう・易い行ぎょう道どうを弁べんずとは、 なかに二にあり。 一いちには↓二に種しゅの道どうを出いだし、 二にには↓問答もんどう解げ釈しゃくす。
第一ニ弁ズト↢難行道・易行道ヲ↡者、於テ↠中ニ有リ↠二。一ニハ出シ↢二種ノ道ヲ↡、二ニハ問答解釈ス。
二 Ⅲ ⅱ a ロ 正釈
(一)述意
^余よ (道綽) すでにみづから火か界かいに居こして、 実じつに想おもふに怖おそれを懐いだけり。 仰あおぎておもんみれば、 大だい聖しょう (釈尊) *三車さんしゃをもつて招しょう慰いし、 しばらく羊鹿ようろくの運うんは*権かりの息いこいにしていまだ達たっせず。 仏ぶつ、 邪じゃ執しゅうは上じょう求ぐ菩ぼ提だいを障さふと*訶かしたまふ。 たとひ後のちに回え向こうするも、 なほ迂回うえと名なづく。 もしただちに*大車だいしゃに挙あがるも、 またこれ一いち途ずなり。 ただおそらくは現げんに*退たい位いに居こして*嶮径けんけいはるかに長とおきことを。 自じ徳とくいまだ立たたず。 昇しょう進しんすべきこと難かたし。
餘既ニ自ラ居シテ↢火界ニ↡、実ニ想フニ懐ケリ↠怖ヲ。仰ギテ惟レバ、大聖三車ヲモテ招慰シ、且ク羊鹿之運ハ*権ノ息イコヒニシテ未ダ↠達セ。仏訶シタマフ↣*邪執ハ障フト↢上*求菩提ヲ↡。縦ヒ後ニ廻向スルモ、仍ナホ名ク↢迂廻ト↡。若シ径タダチニ*挙ガルモ↢大車ニ↡、亦是一途ナリ。只恐クハ現ニ居シテ↢退位ニ↡嶮径遥ニ長キコトヲ。自徳未ダ↠立タ。難シ↠可キコト↢昇進ス↡。
二 Ⅲ ⅱ a ロ (二)論を引きて正しく二道を弁ず
(Ⅰ)二道を標す
^↑このゆゑに*龍りゅう樹じゅ菩ぼ薩さついはく、 「▲阿毘あび跋ばっ致ちを求もとむるに二に種しゅの道みちあり。 一いちには難行なんぎょう道どう、 二にには易い行ぎょう道どうなり。
是ノ故ニ龍樹菩薩云ク、「求ムルニ↢阿毘跋致ヲ↡有リ↢二種ノ道↡。一ニ者難行道、二ニ者易行道ナリ。
二 Ⅲ ⅱ a ロ (二)(Ⅱ)正しく二道を弁ず
(ⅰ)難行道を明す
^▼ª難なん行ぎょう道どうº といふは、 いはく、 五ご濁じょくの世よ、 無む仏ぶつの時ときにありて阿毘あび跋ばっ致ちを求もとむるを難なんとなす。 この難なんにすなはち多途たずあり。 略りゃくして述のぶるに五ごあり。 ^なんとなれば、 一いちには外げ道どうの相しょう善ぜんは菩ぼ薩さつの法ほうを乱みだる。 二にには声しょう聞もんは自利じりにして大だい慈悲じひを障さふ。 三さんには無顧むこの悪人あくにんは他たの勝しょう徳とくを破やぶる。 四しにはあらゆる*人天にんでんの顛倒てんどうの善ぜん果かは、 人ひとの梵ぼん行ぎょうを壊こぼつ。 五ごにはただ自じ力りきのみありて他た力りきの持たもつなし。 かくのごとき等らの事じ、 目めに触ふるるにみなこれなり。 ^たとへば陸ろく路ろの歩ぶ行ぎょうはすなはち苦くるしきがごとし0234。 ゆゑに難なん行ぎょう道どうといふ。
言フ↢難行道ト↡者、謂ク在リテ↢五濁之世於无仏ノ時ニ↡求ムルニ↢阿毘跋致ヲ↡為ス↠難ト。此ノ難ニ乃チ有リ↢多途↡。略シテ述ブルニ有リ↠五。何トナレバ者一ニ者外道ノ相善ハ乱ル↢菩薩ノ法ヲ↡。二ニ者声聞ハ自利ニシテ障フ↢大慈悲ヲ↡。三ニ者無*顧ノ悪人ハ破ル↢他ノ勝徳ヲ↡。四ニ者所有ル人天ノ顛倒ノ善果ハ、壊コボツ↢人ノ梵行ヲ↡。五ニ者唯有リテ↢自力ノミ↡无シ↢他力ノ持ツ↡。如キ↠斯クノ等ノ事、触ルルニ↠目ニ皆是ナリ。譬ヘバ如シ↢陸路ノ歩行ハ則チ苦シキガ↡。故ニ曰フ↢難行道ト↡。
二 Ⅲ ⅱ a ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)易行道を明す
^▼ª易い行ぎょう道どうº といふは、 いはく、 信仏しんぶつの因縁いんねんをもつて浄じょう土どに生しょうぜんと願がんじて、 心しんを起おこし徳とくを立たて、 もろもろの行ぎょう業ごうを修しゅすれば、 仏願ぶつがん力りきのゆゑに即便すなわち往おう生じょうす。 仏力ぶつりき住じゅう持じするをもつてすなはち大だい乗じょう正定しょうじょうの聚じゅに入いる。 正定しょうじょう聚じゅとはすなはちこれ阿毘あび跋ばっ致ち不ふ退たいの位くらいなり。 ^たとへば水すい路ろに船ふねに乗じょうずればすなはち楽たのしきがごとし。 ゆゑに易い行ぎょう道どうと名なづく」 と。
言フ↢易行道ト↡者、謂ク以テ↢*信仏ノ因縁ヲ↡願ジテ↠生ゼムト↢浄土ニ↡、起シ↠心ヲ立テ↠徳ヲ、修スレバ↢諸ノ行業ヲ↡、仏願力ノ故ニ即便チ往生ス。以テ↢仏力住持スルヲ↡即チ入ル↢大乗正0608定ノ聚ニ↡。正定聚ト者即チ*是阿毘跋致不退ノ位也。譬ヘバ如シ↢水路ニ乗ズレバ↠船ニ則チ楽シキガ↡。故ニ名クト↢易行道ト↡也。」
二 Ⅲ ⅱ a ロ (三)問答解釈
(Ⅰ)問
^↑問とひていはく、 菩ぼ提だいはこれ一いちなり。 修因しゅいんまた不二ふになるべし。 なんがゆゑぞ、 ここにありて因いんを修しゅして仏ぶっ果かに向むかふを名なづけて難なん行ぎょうとなし、 浄じょう土どに往おう生じょうして大だい菩ぼ提だいを期ごするをすなはち易い行ぎょう道どうと名なづくるや。
問ヒテ曰ク、菩*提ハ是一ナリ。修因亦応シ↢不二ナル↡。何ガ故ゾ*在リテ↠此ニ修シテ↠因ヲ向フヲ↢仏*果ニ↡名ケテ為シ↢難行ト↡、往↢生ジテ浄土ニ↡期スルヲ↢大菩提ヲ↡乃チ名クル↢易行道ト↡也。
二 Ⅲ ⅱ a ロ (三)(Ⅱ)答
(ⅰ)二力を列す
^答こたへていはく、 もろもろの大だい乗じょう経きょうに弁べんずるところの一切いっさいの行ぎょう法ほうに、 みな↓自じ力りき・↓他た力りき、 自じ摂しょう・他た摂しょうあり。
答ヘテ曰ク、諸ノ大乗経ニ所ノ↠弁ズル一切ノ行法ニ、皆有リ↢自力・他力、自摂・他摂↡。
二 Ⅲ ⅱ a ロ (三)(Ⅱ)(ⅱ)釈
(a)譬説
(イ)自力
^何者なにものか↑自じ力りき。 ▲たとへば人ひとありて生しょう死じを怖畏ふいして、 発心ほっしん出しゅっ家けして定じょうを修しゅし、 通つうを発おこして四し天てん下げに遊あそぶがごときを名なづけて自じ力りきとなす。
何者カ自力。譬ヘバ如キヲ↧有リテ↠人怖↢畏シテ生死ヲ↡、発心出家シテ修シ↠定ヲ、発シテ↠通ヲ遊ブガ↦四天下ニ↥名ケテ為ス↢自力ト↡。
二 Ⅲ ⅱ a ロ (三)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)他力
^何者なにものか↑他た力りき。 △劣れっ夫ぷありて己こ身しんの力ちからに信まかせて驢ろに擲あがりて上のぼらざれども、 もし輪王りんのうに従したがへばすなはち空くうに乗じょうじて四し天てん下げに遊あそぶがごとし。 すなはち輪王りんのうの威い力りきのゆゑに他た力りきと名なづく。
何者カ他力。如シ↧有リテ↢劣夫↡*信マカセテ↢己身ノ力ニ↡擲アガリテ↠驢ニ不レドモ↠上ラ、若シ従ヘバ↢輪王ニ↡即便チ乗ジテ↠空ニ遊ブガ↦四天下ニ↥。即チ輪王ノ威力ノ故ニ名ク↢他力ト↡。
二 Ⅲ ⅱ a ロ (三)(Ⅱ)(ⅱ)(b)合法
(イ)自力
^衆しゅ生じょうもまたしかなり。 ▼ここにありて*心しんを起おこし行ぎょうを立たて浄じょう土どに生しょうぜんと願がんずるは、 これはこれ自じ力りきなり。
衆生モ亦爾ナリ。在リテ↠此ニ起シ↠心ヲ立テ↠行ヲ願ズルハ↠生ゼムト↢浄土ニ↡、此ハ是自力ナリ。
二 Ⅲ ⅱ a ロ (三)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)他力
[一]正合
^命終みょうじゅうの時ときに臨のぞみて、 阿あ弥陀みだ如来にょらい*光台こうだい迎こう接しょうして、 つひに往おう生じょうを0235得うるをすなはち他た力りきとなす。
臨ミテ↢命終ノ時ニ↡、阿弥陀如来光台迎接シテ、遂ニ得ルヲ↢往生ヲ↡即チ為ス↢他力ト↡。
二 Ⅲ ⅱ a ロ (三)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[二]引証
^ゆゑに ¬大だい経きょう¼ (上・意) にのたまはく、 「▲十方じっぽうの人天にんでん、 わが国くにに生しょうぜんと欲ほっするものはみな▲阿あ弥陀みだ如来にょらいの*大願だいがん業力ごうりきをもつて*増ぞう上じょう縁えんとなさざるはなし」 と。
故ニ¬大経ニ¼云ク、「十方ノ人天欲スル↠生ゼムト↢我ガ国ニ↡者ハ莫シト↠*不ルハ↧皆以テ↢阿弥陀如来ノ大願業力ヲ↡為サ↦増上*縁ト↥也。」
二 Ⅲ ⅱ a ロ (三)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[三]反顕
^もしかくのごとくならずは、 四し十じゅう八はち願がんすなはちこれ*徒と設せつならん。
若シ不ハ↠如クナラ↠是クノ、四十八願便チ是徒設ナラム。
二 Ⅲ ⅱ a ロ (四)結勧
^▲後学こうがくのものに語かたる。 ▼すでに他た力りきの乗じょうずべきあり。 みづからおのが分ぶんを局かぎり、 いたづらに火か宅たくにあることを得えざれ。
語ル↢後学ノ者ニ↡。既ニ有リ↢他力ノ可キ↟乗ズ。不レ↠得↧自ラ局リ↢己ガ分ヲ↡、徒ニ在ルコトヲ↦火宅ニ↥也。
二 Ⅲ ⅱ b【劫之大小】
イ 標
【25】^第だい二にに↑劫こうの大だい小しょうを明あかすとは、
第二ニ明スト↢劫*之大小ヲ↡者、
二 Ⅲ ⅱ b ロ 釈
(一)標列
^¬智度ちど論ろん¼ (意) にいふがごとし。 「劫こうに三種さんしゅあり。 いはく一いちには小しょう、 二にには中ちゅう、 三さんには大だいなり。
如シ↢¬智度論ニ¼云フガ↡。「劫ニ有リ↢三種↡。謂ク一ニハ小、二ニハ中、三ニハ大ナリ。
二 Ⅲ ⅱ b ロ (二)正釈
(Ⅰ)芥子劫
^方ほう四し十じゅう里りのごとき城しろあり、 *高こう下げもまたしかなり。 なかに芥子けしを満みてて、 長寿ちょうじゅの諸天しょてんありて三年さんねんに一いちを去さり、 すなはち芥子けし尽つくるに至いたるを一いち小しょう劫こうと名なづく。 あるいは八はち十じゅう里りの城しろあり、 高こう下げもまたしかなり。 芥子けしをなかに満みてて、 前さきのごとく取とり尽つくすを一いち中ちゅう劫こうと名なづく。 あるいは百ひゃく二に十じゅう里りの城しろあり、 高こう下げもまたしかなり。 芥子けしをなかに満みてて取とり尽つくすこと、 もつぱら前さきの説せつに同おなじきをまさに大劫だいこうと名なづく。
如キ↢方四十里ノ↡城アリ、高下モ亦然ナリ。満テテ↢中ニ芥子ヲ↡、有リテ↢長寿ノ諸天↡三年ニ去リ↠一ヲ、乃チ至ルヲ↢芥子尽クルニ↡名ク↢一小劫ト↡。或イハ八十里ノ城アリ、高下モ亦然ナリ。芥子ヲ満テテ↠中ニ、如ク↠前ノ取0609リ尽スヲ名ク↢一中劫ト↡。或イハ百二十里ノ城アリ、高下モ亦然ナリ。芥子ヲ満テテ↠中ニ取リ尽スコト、一ラ同ジキヲ↢前ノ説ニ↡方ニ名ク↢大劫ト↡。
二 Ⅲ ⅱ b ロ (二)(Ⅱ)磐石劫
^あるいは八はち十じゅう里りの石いしあり、 高こう下げもまたしかなり。 一いちの長ちょう寿じゅの諸天しょてんありて、 三年さんねんに天てん衣えをもつて一ひとたび払はらふ。 天てん衣えの重おもさ*三銖さんじゅなり。 払はらふことをなすこと已やまず、 この石いしすなはち尽つくるを名なづけて中ちゅう劫こうとなす。 その小しょう石せき・大石だいせき前さきの中ちゅう劫こうに類るいす、 知しるべし0236」 と。 労わずらはしくつぶさに述のべず。
或イハ八十里ノ石アリ、高下モ亦然ナリ。有リテ↢*一ノ長寿ノ諸天↡、三年ニ以テ↢天衣ヲ↡一タビ払フ。天衣ノ重サ三銖ナリ。*為スコト↠払フコトヲ不↠已マ、此ノ石乃チ尽クルヲ名ケテ為ス↢中劫ト↡。其ノ小石・大石類ス↢前ノ中劫ニ↡、可シト↠知ル。」不↢労ハシク具ニ述ベ↡。
二 Ⅲ ⅱ c【輪廻無窮】
イ 正明
(一)総標
【26】^↑第三だいさん門もんのなかに五ご番ばんあり。
第三門ノ中ニ有リ↢五番↡。
二 Ⅲ ⅱ c イ (二)釈
(Ⅰ)標〔受身無数〕
^第だい一いちに無始むし劫こうよりこのかたここにありて、 輪りん廻ね無む窮ぐうにして身みを受うくること無む数しゅなることを明あかすとは、
第一ニ明スト↧*従リ↢无始劫↡来コノカタ在リテ↠此ニ、輪廻无窮ニシテ受クルコト↠身ヲ无数ナルコトヲ↥者、
二 Ⅲ ⅱ c イ (二)(Ⅱ)正釈
(ⅰ)正しく受身無数を明す
^¬智度ちど論ろん¼ (意) にいふがごとし。 「人にん中ちゅうにありて、 あるいは張ちょう家けに死しして王おう家けに生しょうじ、 王おう家けに死しして李家りけに生しょうず。 かくのごとく閻えん浮ぶ提だいの界さかいを尽つくして、 あるいはかさねて生しょうじ、 あるいは異家いけに生しょうず。
如シ↢¬智度論ニ¼云フガ↡。「在リテ↢於人中ニ↡、或イハ張家ニ死シテ王家ニ生ジ、王家ニ死シテ李家ニ生ズ。如ク↠是クノ尽シテ↢閻浮提ノ界ヲ↡、或イハ重テ生ジ、或イハ異家ニ生ズ。
^あるいは*南なん閻えん浮ぶ提だいに死しして*西さい拘耶尼くやにに生しょうず。 閻えん浮ぶ提だいのごとく余よの三さん天てん下げもまたかくのごとし。
或イハ南閻浮提ニ死シテ西拘耶尼ニ生ズ。如ク↢閻浮提ノ↡余ノ三天下モ亦如シ↠是クノ。
^四し天てん下げに死しして四し天王てんのう天てんに生しょうずることもまたかくのごとし。 あるいは四し天王てんのう天てんに死しして忉とう利り天てんに生しょうず。 忉とう利り天てんに死しして余よの*上じょう四し天てんに生しょうずることもまたかくのごとし。
*四天下ニ死シテ生ズルコトモ↢四天王天ニ↡亦如シ↠是クノ。或イハ四天王天ニ死シテ忉利天ニ生ズ。忉利天ニ死シテ*生ズルコトモ↢余ノ上四天ニ↡亦如シ↠是クノ。
^色界しきかいに*十じゅう八はち重じゅう天てんあり、 無む色界しきかいに*四し重じゅう天てんあり。 ここに死ししてかしこに生しょうず。 一々いちいちにみなあまねきことまたかくのごとし。
色*界ニ十八重天アリ、无色界ニ有リ↢四重天↡。此ニ死シテ生ズ↠彼ニ。一一ニ皆*遍キコト亦如シ↠是クノ。
^あるいは色界しきかいに死しして阿鼻あび地じ獄ごくに生しょうず。 阿鼻あび地じ獄ごくのなかに死しして余よの*軽きょう繋け地じ獄ごくに生しょうず。 軽きょう繋け地じ獄ごくのなかに死しして畜ちく生しょうのなかに生しょうず。 畜ちく生しょうのなかに死しして餓鬼がき道どうのなかに生しょうず。 餓鬼がき道どうのなかに死ししてあるいは人天にんでんのなかに生しょうず。
或イハ色界ニ死シテ生ズ↢阿鼻地獄ニ↡。阿鼻地獄ノ中ニ死シテ生ズ↢余ノ軽繋地獄ニ↡。軽繋地獄ノ中ニ死シテ生ズ↢畜生ノ中ニ↡。畜生ノ中ニ死シテ生ズ↢餓鬼道ノ中ニ↡。餓鬼道ノ中ニ死シテ或イハ生ズ↢人天ノ中ニ↡。
^かくのごとく六道ろくどうに輪りん廻ねして苦く楽らくの二に報ほうを受うけ、 生しょう死じ窮きわまりなし。 *胎たい生しょうすでにしかなり。 *余よの三さん生しょうもまたかくのごとし」 と。
如ク↠是クノ輪↢廻シテ六道ニ↡受ケ↢苦楽ノ二報ヲ↡、生死无シ↠窮リ。胎生既ニ爾ナリ。余ノ三生モ亦如シト↠是クノ。」
二 Ⅲ ⅱ c イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)引証
(a)昇沈無常の相を示す
^このゆゑに ¬正しょう法ぼう念ねん経ぎょう¼ (意) にの0237たまはく、 「菩ぼ薩さつ化け生しょうしてもろもろの天衆てんしゅに告つげていはく、
是ノ故ニ¬正法念経ニ¼云ク、「菩薩化生ジテ告ゲテ↢諸ノ天衆ニ↡云ク、
^ªおほよそ人ひとこの百ひゃく千せん生しょうを経へて、 楽らくに着じゃくし*放逸ほういつにして道どうを修しゅせず。
*往福おうふくやうやく已おわり尽つき、 還かえりて三さん塗ずに堕だして衆しゅ苦くを受うくることを覚さとらずº」 と。
凡ソ人経テ↢此ノ百千生ヲ↡ | 著シ↠楽ニ放逸ニシテ不↠修0610セ↠道ヲ |
不ト↠覚ラ↧往福*侵ヤウヤク已リ尽キ | 還リテ堕シテ↢三塗ニ↡受クルコトヲ↦衆苦ヲ↥」 |
二 Ⅲ ⅱ c イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)上下可厭の相を示す
^このゆゑに ¬涅ね槃はん経ぎょう¼ にのたまはく、
是ノ故ニ¬涅槃経ニ¼云ク、
^「この身みは苦くの集あつまるところなり。 一切いっさいみな不ふ浄じょうなり。
*扼縛やくばく癰瘡ようそう等とうの根本こんぽんにして、 *義利ぎりあることなし。
上かみ諸天しょてんの身みに至いたるまで、 みなまたかくのごとし」 と。
「此ノ身ハ苦ノ所ナリ↠集ル | 一切皆不浄ナリ |
扼縛癰瘡等ノ | 根本ニシテ、无シ↠*有ルコト↢義利↡ |
上至ルマデ↢諸天ノ身ニ↡ | 皆亦復如シト↠是クノ」 |
二 Ⅲ ⅱ c イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(c)正しく不放逸を勧む
^このゆゑにまたかの ¬経きょう¼ (涅槃経・意) にのたまはく、 「勧すすめて不ふ放逸ほういつを修しゅせしむ。 なにをもつてのゆゑに。 それ放逸ほういつはこれ衆悪しゅあくの本もとなり。 不ふ放逸ほういつはすなはちこれ衆善しゅぜんの源みなもとなり。 日月にちがつ光こうの諸しょ明みょうのなかに最さいなるがごとし。 不ふ放逸ほういつの法ほうもまたかくのごとし。 もろもろの善法ぜんぽうにおいては最さいとなし上じょうとなす。 また須しゅ弥み山王せんのうの、 もろもろの山やまのなかにおいて最さいとなし上じょうとなすがごとし。 不ふ放逸ほういつの法ほうもまたかくのごとし。 もろもろの善法ぜんぽうのなかにおいて最さいとなし上じょうとなす。 なにをもつてのゆゑに。 一切いっさいの悪法あくほうは放逸ほういつより生しょうず。 一切いっさいの善法ぜんぽうは不ふ放逸ほういつを本もととなす」 と。
是ノ故ニ又彼ノ¬経ニ¼云ク、「勧メテ修セシム↢不放逸ヲ↡。何ヲ以テノ故ニ。夫レ放逸者是衆悪之本ナリ。不放逸者乃チ是衆善之*源ナリ。如シ↢日月光ノ諸明ノ中ニ最ナルガ↡。不放逸ノ法モ亦復如シ↠是クノ。於テハ↢諸ノ善法ニ↡為シ↠最ト為ス↠上ト。亦如シ↧須弥山王ノ於テ↢諸ノ山ノ中ニ↡為シ↠最ト為スガ↞上ト。不放逸ノ法モ亦復如シ↠是クノ。於テ↢諸ノ善法ノ*中ニ↡為シ↠最ト為ス↠上ト。何ヲ以テノ故ニ。一切ノ悪法ハ猶ヨリ↢放逸↡而生ズ。一切ノ善法ハ不放逸ヲ為スト↠本ト。」
二 Ⅲ ⅱ c ロ 問答
(一)一劫受身の多少を明す〔身数無際〕
(Ⅰ)問
^0238第だい二にに問とひていはく、 無始むし劫こうよりこのかた六道ろくどうに輪りん廻ねして無む際さいなりといふといへども、 いまだ知しらず、 一劫いっこうのうちにいくばくの身数しんしゅを受うくるを流る転てんといふや。
第二ニ問ヒテ曰ク、雖モ↠*云フト↢无始劫ヨリ来コノカタ六道ニ輪廻シテ无際ナリト↡而未ダ↠知ラ、一劫之中ニ受クルヲ↢幾ノ身数ヲ↡而言フヤ↢流転ト↡。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (一)(Ⅱ)答
(ⅰ)引経
(a)涅槃経1
^答こたへていはく、 ¬涅ね槃はん経ぎょう¼ (意) に説ときたまふがごとし。 「三千さんぜん大千だいせん世せ界かいの草木そうもくを取とりて、 截きりて四し寸すんの*籌ちゅうとなして、 もつて一劫いっこうのうちに受うくるところの身みの父母ぶもの頭ず数しゅを数かぞへんに、 なほおのづから澌つきず」 と。
答ヘテ曰ク、如シ↢¬涅槃経ニ¼説キタマフガ↡。「取リテ↢三千大千世界ノ草木ヲ↡、截リテ為シテ↢四寸ノ籌ト↡、以テ数ヘムニ↢一劫之中ニ所ノ↠受クル身ノ父母ノ頭数ヲ↡、猶*自ラ不ト↠澌キ。」
二 Ⅲ ⅱ c ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(b)涅槃経2
^あるいはのたまはく (涅槃経・意)、 「一劫いっこうのうちに飲のむところの母ははの乳ちちは四し大だい海水かいすいよりも多おおし」 と。
或イハ云ク、「一劫之中ニ所ノ↠飲ム母ノ乳ハ多シト↢於四大海水ヨリモ↡。」
二 Ⅲ ⅱ c ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(c)涅槃経3
^あるいはのたまはく (涅槃経・意)、 「▼一劫いっこうのうちに積つむところの身骨しんこつは*毘富羅びふら山せんのごとし」 と。
或イハ云ク、「一劫之中ニ所ノ↠積ム身骨ハ如シト↢毘富羅山ノ↡。」
二 Ⅲ ⅱ c ロ (一)(Ⅱ)(ⅱ)結勧
^かくのごとく*遠劫おんごうよりこのかた、 いたづらに生しょう死じを受うくること今日こんにちに至いたりて、 なほ凡ぼん夫ぶの身みとなる。 なんぞかつて思し量りょうして傷しょう歎たんして已やまざらんや。
如ク↠是クノ遠劫ヨリ已来タ、徒ニ受クルコト↢生死ヲ↡至リテ↢於今日ニ↡、猶作ル↢凡夫之身ト↡。何ゾ曽テ思量シテ傷歎シテ*不ラムヤ↠已マ。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (二)聖教を引きて証す〔経文来証〕
(Ⅰ)問
^第だい三さんにまた問とひていはく、 すでに曠大こうだい劫こうよりこのかた身みを受うくることを無む数しゅといふは、 はたただちに総そうじて説ときて、 人ひとをして厭えんを生しょうぜしむるや、 はたまた経きょう文もんありて来きたし証しょうするや。
第三ニ又問ヒテ曰ク、既ニ云フ↢曠大劫ヨリ来コノカタ受クルコトヲ↠身ヲ无数ト↡者、為当 ハタ 直爾 タダチ ニ総ジテ説キテ、令ムルヤ↢人ヲシテ生ゼ↟厭ヲ、為当 ハタ 亦有リテ↢経文↡*来シ証スルヤ。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (二)(Ⅱ)答
(ⅰ)正答
^答こたへていはく、 みなこれ聖教しょうぎょうの明みょう文もんあり。
答0611ヘテ曰ク、皆是聖教ノ明文アリ。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)引経
(a)法華経1
^なんとなれば、 ¬法華ほけ経きょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「過去かこ不可ふか説せつの久く遠おん大劫だいこうに仏ぶつの出しゅっ世せまします。 *大通だいつう智ち勝しょう如来にょらいと号ごうしたまふ。 十じゅう六ろくの王おう子じあり。 おのおの法ほう座ざに昇のぼりて衆しゅ生じょうを教きょう化けす。 一々いちいちの王おう子じおのおの六ろっ百ぴゃく万まん億おく那由他なゆた恒ごう河が沙しゃの衆しゅ生じょうを教きょう化けせ0239り」 と。 その仏ぶつの滅めつ度どよりこのかた、 至し極ごく久く遠おんなり。 なほ数かぞへ知しるべからず。
何トナレバ者如シ↢¬法花経ニ¼云フガ↡。「過去不可説ノ久遠大劫ニ有ス↢仏ノ出世↡。号シタマフ↢大通智勝如来ト↡。有リ↢十六ノ王子↡。各ノ昇リテ↢法座ニ↡*教↢化ス衆生ヲ↡。一一ノ王子各各教↢化セリト六百万億那由他恒河沙ノ衆生ヲ↡。」其ノ仏ノ滅度ヨリ已来タ、至極久遠ナリ。猶*不↠可カラ↢数ヘ知ル↡。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)法華経2
^なんとなれば、 ¬経きょう¼ (法華経・意) にのたまはく、 「総そうじて三千さんぜん大千だいせん世せ界かいの大だい地じを取とりて、 磨すりてもつて墨すみとなす。 仏ぶつのたまはく、 ªこの人ひと千せんの国こく土どを過すぎてすなはち一点いってんを下くださん。 大おおきさ*微み塵じんのごとし。 かくのごとく*展転てんでんして、 地じ種しゅの墨すみを尽つくすº と。 仏ぶつのたまはく、 ªこの人ひとの経ふるところの国こく土ど、 もし点てんずると点てんぜざると、 ことごとく末くだきて塵ちりとなし、 一塵いちじんを一劫いっこうとするに、 かの仏ぶつの滅めつ度どよりこのかた、 またこの数かずに過すぎたりº と。 今日こんにちの衆しゅ生じょうは、 すなはちこれかの時ときの十じゅう六ろく王おう子じの座下ざげにして、 かつて教きょう法ぼうを受うけたり」 と。
何トナレバ者¬経ニ¼云ク、「総ジテ取リテ↢三千大千世界ノ大地ヲ↡、磨リテ以テ為ス↠墨ト。仏言ク、是ノ人過ギテ↢千ノ国土ヲ↡乃チ下サム↢一点ヲ↡。大キサ如シ↢微塵ノ↡。如ク↠是クノ展転シテ、尽スト↢地種ノ墨ヲ↡。仏言ク、是ノ人ノ所ノ↠経ル国土、若シ点ズルト不ルト↠点ゼ、尽ク*末クダキテ為シ↠塵ト、一塵ヲ一劫トスルニ、彼ノ仏ノ滅度ヨリ已来タ、復過ギタリ↢是ノ数ニ↡。今日ノ衆生ハ乃チ是彼ノ時ノ十六王子ノ座下ニシテ、曽テ受ケタリト↢*教法ヲ↡。」
二 Ⅲ ⅱ c ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(c)法華経3
^このゆゑに ¬経きょう¼ (法華経) にのたまはく、 「この本ほん因縁いんねんをもつて、 ために ¬法華ほけ経きょう¼ を説ときたまふ」 と。
是ノ故ニ¬経ニ¼云ク、「以テ↢是ノ本因縁ヲ↡、為ニ説キタマフト↢¬法花経ヲ¼↡。」
二 Ⅲ ⅱ c ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(d)涅槃経
^¬涅ね槃はん経ぎょう¼ (意) にまたのたまはく、 「一いちはこれ王おう子じ、 一いちはこれ貧人びんにん、 かくのごとき二に人にんたがひにあひ往反おうへんす」 と。 「王おう子じ」 といふは今日こんにちの釈しゃ迦か如来にょらい、 すなはちこれかの時ときの第だい十じゅう六ろく王おう子じなり。 「貧人びんにん」 といふは今日こんにちの衆しゅ生じょう等とうこれなり。
¬涅槃経ニ¼復云ク、「一ハ是王子、一ハ是貧人、如キ↠是クノ二人互ニ相往反ス。言フ↢王子ト↡者今日ノ釈迦如来、乃チ是彼ノ時ノ第十六王子也。言フ↢貧人ト↡者今日ノ衆生等是ナリト。」
二 Ⅲ ⅱ c ロ (三)悪趣受身偏に多し〔流転悪道〕
(Ⅰ)問
^第だい四しに問とひていはく、 これらの衆しゅ生じょうはすでに流る転てん多た劫こうなりといふ。 しかるに三界さんがいのなかには、 いづれの趣しゅにか身みを受うくること多おおしとなす。
第四ニ問ヒテ曰ク、此等ノ衆生ハ既ニ云フ↢流転多劫ナリト↡。然ルニ三界之中ニハ、何ノ趣ニカ受クルコト↠身ヲ為ス↠多シト。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (三)(Ⅱ)答
(ⅰ)正答
^答こたへていはく、 流る転てんすといふといへども、 しかも三さん悪道まくどうのなかにおいて身みを受うくることひとへに0240多おおし。
答ヘテ曰ク、雖モ↠言フト↢流転スト↡、然モ於テ↢三悪道ノ中ニ↡受クルコト↠身ヲ偏ニ多シ。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (三)(Ⅱ)(ⅱ)引経
^¬経きょう¼ (*十住断結経・意) に説ときてのたまふがごとし。 「虚こ空くうのなかにおいて方円ほうえん*八はっ肘ちゅうを量はかり取とりて、 地じより色しき究く竟きょう天てんに至いたる。 この量りょう内ないにおいてあらゆる可か見けんの衆しゅ生じょうは、 すなはち三千さんぜん大千だいせん世せ界かいの人天にんでんの身みよりも多おおし」 と。 ゆゑに知しりぬ、 悪道あくどうの身み多おおし。
如シ↢¬経ニ¼説キテ云フガ↡。「於テ↢虚空ノ中ニ↡量リ↢取リテ方円八肘ヲ↡、従リ↠地至ル↢於色究竟天ニ↡。於テ↢此ノ量内ニ↡所有ル可見ノ衆生ハ、即チ多シト↢於三千大千世界ノ人天之身ヨリモ↡。」故ニ知リヌ悪道ノ身多0612シ。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (三)(Ⅱ)(ⅲ)由説
^なんがゆゑぞかくのごとしとならば、 ただ悪法あくほうは起おこしやすく、 善心ぜんしんは生しょうじがたきがゆゑなり。 いまの時ときただ現在げんざいの衆しゅ生じょうを看みるに、 もし富ふ貴きを得うれば、 ただ放逸ほういつ・破は戒かいを事こととす。 天てんのなかにはすなはちまた楽らくに着じゃくするもの多おおし。
何ガ故ゾ如クナラバ↠此クノ、*但悪法ハ易ク↠起シ、善心ハ難キガ↠生ジ故也。今ノ時但看ルニ↢現在ノ衆生ヲ↡、若シ得レバ↢富貴ヲ↡、唯事トス↢放逸破*戒ヲ↡。天ノ中ニハ*即チ復著スル↠楽ニ者多シ。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (三)(Ⅱ)(ⅳ)引証
(a)五苦章句経
^このゆゑに ¬経きょう¼ (*五苦章句経・意) にのたまはく、 「衆しゅ生じょうは等ひとしくこれ流る転てんしてつねに三さん悪道まくどうを常つねの家いえとなす。 人天にんでんにはしばらく来きたりてすなはち去さる。 名なづけて客舎かくしゃとなすがゆゑなり」 と。
是ノ故ニ¬経ニ¼云ク、「衆生ハ等シク是流転シテ恒ニ三悪道ヲ為ス↢常ノ家ト↡。人天ニハ暫ク来リテ即チ去ル。名ケテ為スガ↢客舎ト↡故也ト。」
二 Ⅲ ⅱ c ロ (三)(Ⅱ)(ⅳ)(b)大荘厳論
^¬*大だい荘しょう厳ごん論ろん¼ (意) によるに、 「一切いっさい衆しゅ生じょうに勧すすむ、 つねにすべからく*繋け念ねん現前げんぜんすべし」 と。
*依ルニ↢¬大荘厳論ニ¼↡、「勧ム↢一切衆生ニ↡、常ニ須クシト↢繋念現前ス↡。」
^偈げ (同) にいはく、
¬偈ニ¼云ク、
^「▼盛じょう年ねんにして患げんなき時ときは、 *懈け怠だいにして精しょう進じんせず。
もろもろの*事務じむを貪営とんようして、 *施せと*戒かいと*禅ぜんとを修しゅせず。
死しのために呑のまれんとするに臨のぞみて、 まさに悔くいて善ぜんを修しゅすることを求もとむ。
「盛年ニシテ无キ↠患時ハ | 懈怠ニシテ不↢精進セ↡ |
貪↢営シテ衆ノ事務ヲ↡ | 不↠修セ↢施ト戒ト禅トヲ↡ |
臨ミテ↢為ニ↠死ノ所ムトスルニ↟呑マ | 方ニ悔イテ求ムト↠修スルコトヲ↠善ヲ」 |
^智ち者しゃは観察かんざつして、 五ご欲よくの想おもいを除断じょだんすべし。
*精しょう勤ごん習じゅう心しんのものは、 *終しゅう時じに悔け恨こんなし。
0241心しん意いすでに専せん至しなれば、 錯乱さくらんの念ねんあることなし。
「智者ハ応シ↣観察シテ | 除↢断ス五欲ノ想ヲ↡ |
精懃*習心ノ者ハ | *終時ニ無シ↢悔恨↡ |
心意既ニ専至ナレバ | 无シ↠有ルコト↢錯乱ノ念↡ |
^智ち者しゃはねんごろに心しんを投とうずれば、 臨りん終じゅうに意こころ散さんぜず。
習じゅう心しん専せん至しならざれば、 臨りん終じゅうにかならず散乱さんらんす。
心しんもし散乱さんらんする時ときは、 馬うまを調じょうするに*磑がいを用もちゐるがごとくせよ。
もしそれ闘戦とうせんの時ときには、 回え旋せんしてただちに行ゆかず」 と。
智者ハ懃ニ*投ズレバ↠心ヲ | 臨終ニ意不↠散ゼ |
不レバ↢習心専至ナラ↡ | 臨終ニ必ズ散乱ス |
心若シ散乱スル時ハ | 如クセヨ↢調スルニ↠馬ヲ用ヰルガ↠磑ヲ |
若シ其レ闘戦ノ時ニハ | 廻旋シテ不ト↢直ニ行カ↡」 |
二 Ⅲ ⅱ c ロ (四)二門出離の難易を弁ず〔聖浄二門〕
(Ⅰ)問
^第だい五ごにまた▼問とひていはく、 一切いっさい衆しゅ生じょうみな仏ぶっ性しょうあり。 遠劫おんごうよりこのかた多た仏ぶつに値あひたてまつるべし。 なにによりてかいまに至いたるまで、 なほみづから生しょう死じに輪りん廻ねして火か宅たくを出いでざる。
第五ニ又問ヒテ曰ク、一切衆生皆有リ↢仏性↡。遠劫ヨリ以来コノカタ応シ↠値フ↢多仏ニ↡。何ニ因リテカ至ルマデ↠今ニ、仍ナホ自ラ輪↢廻シテ生死ニ↡不ル↠出デ↢*火宅ヲ↡。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (四)(Ⅱ)答
(ⅰ)総じて輪回の相を示す
^◆答こたへていはく、 *大だい乗じょうの聖教しょうぎょうによるに、 まことに二に種しゅの勝しょう法ぼうを得えて、 もつて生しょう死じを*排はらはざるによる。 ここをもつて火か宅たくを出いでず。
答ヘテ曰ク、依ルニ↢大乗ノ聖教ニ↡、良ニ由ル↠不ルニ↧得テ↢二種ノ勝法ヲ↡、以テ排ハ↦生死ヲ↥。是ヲ以テ不↠出デ↢火宅ヲ↡。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)二門を弁ず
(a)標
^◆何者なにものをか二にとなす。 一いちにはいはく聖しょう道どう、 二ににはいはく往おう生じょう浄じょう土どなり。
何者ヲカ為ス↠二ト。一ニハ謂ク聖道、二ニハ謂ク往生浄土ナリ。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(b)釈
(イ)時に約して難易を判ず
[一]聖道の難証を明す
[Ⅰ]由を示す
^▼その聖しょう道どうの一種いっしゅは、 今いまの時とき証しょうしがたし。 一いちには△大だい聖しょう (釈尊) を去さること遥遠ようおんなるによる。 二にには*理りは深ふかく解さとりは微みなるによる。
其ノ聖道ノ一種ハ、今ノ時難シ↠証シ。一ニハ由ル↧*去ルコト↢大聖ヲ↡遥遠ナルニ↥。二ニハ由ル↢理ハ深ク解ハ微ナルニ↡。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[一][Ⅱ]引証
^◆このゆゑに ▼¬*大だい集じゅう月蔵がつぞう経きょう¼ (意) にのたまはく、 「▼わが末法まっぽうの時ときのうちに、 億々おくおくの衆しゅ生じょう、 行ぎょうを起おこし道どうを修しゅすれども、 いまだ一人いちにんとして得うるものあらず」 と。
是ノ故ニ¬大集月蔵経ニ¼云ク、「我ガ*末法ノ時ノ中ニ、億億ノ衆生起シ↠行ヲ修スレドモ↠道ヲ、*未ダト↠有ラ↢一人トシテ得ル者↡。」
二 Ⅲ ⅱ c ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[二]浄土の易往を明す
[Ⅰ]時教相応を明す
^▼当今とうこんは末法まっぽうにして、 現げんにこれ五ご濁じょく悪あく世せなり。 ▼ただ浄じょう土どの一門いちもんのみありて、 通つう入にゅうすべき路みちなり。
当今ハ*末法ニシテ、現ニ是五濁悪世ナリ。唯有リテ↢浄土ノ一門ノミ↡、可キ↢通入ス↡路ナリ。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[二][Ⅱ]引証
^▼このゆゑに *¬大だい経きょう¼ にのたまは0242く、 「▲もし衆しゅ生じょうありて、 たとひ一いっ生しょう悪あくを造つくれども、 ▲命終みょうじゅうの時ときに臨のぞみて、 十じゅう念ねん相続そうぞくしてわが名みょう字じを称しょうせんに、 もし生しょうぜずは正しょう覚がくを取とらじ」 と。
是0613ノ故ニ¬大経ニ¼云ク、「若シ有リテ↢衆生↡、縦令 タトヒ 一生造レドモ↠悪ヲ臨ミテ↢命終ノ時ニ↡、十念相続シテ称セムニ↢我ガ名字ヲ↡、若シ不ハ↠生ゼ者不ト↠取ラ↢正覚ヲ↡。」
二 Ⅲ ⅱ c ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)機に約して堪不を揀ぶ
[一]警して知量せしむ
^▼また一切いっさい衆しゅ生じょうすべてみづから量はからず。
又*復一切衆生都テ不↢自ラ量ラ↡。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[二]正しく堪不を明す
[Ⅰ]不堪五乗を明す
^◆もし大だい乗じょうによらば、 真如しんにょ実相じっそう第一だいいち義ぎ空くう、 かつていまだ心しんを措おかず。 ◆もし小乗しょうじょうを論ろんぜば、 *見諦けんたい修道しゅどうに修しゅ入にゅうし、 すなはち*那な含ごん・羅ら漢かんに至いたるまで、 *五下ごげを断だんじ*五ご上じょうを除のぞくこと、 *道俗どうぞくを問とふことなく、 いまだその分ぶんにあらず。 ◆たとひ人天にんでんの果か報ほうあれども、 みな五ご戒かい・十じゅう善ぜんのためによくこの報ほうを招まねく。 ▼しかるに持たもち得うるものは、 はなはだ希まれなり。
若シ拠ラバ↢大乗ニ↡、真如実相第一義空曽テ未ダ↢措カ↢心ヲ。若シ論ゼバ↢小乗ヲ↡、修↢入シ見諦修道ニ↡、乃チ至ルマデ↢那含・羅漢ニ↡、断ジ↢五下ヲ↡除クコト↢五上ヲ↡、无ク↠問フコト↢道俗ヲ↡、未ダ↠有ラ↢其ノ分ニ↡。*縦ヒ有レドモ↢人天ノ果報↡、皆為ニ↢五戒・十善ノ↡能ク招ク↢此ノ報ヲ↡。然ルニ持チ得ル者ハ甚ダ希ナリ。
二 Ⅲ ⅱ c ロ (四)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)[二][Ⅱ]浄教機に応ずを明す
^▼もし起き悪あく造罪ぞうざいを論ろんぜば、 なんぞ暴風ぼうふう駛雨しうに異ことならんや。 ▼ここをもつて諸仏しょぶつの大だい慈じ、 勧すすめて浄じょう土どに帰きせしめたまふ。 ▼たとひ一いち形ぎょう悪あくを造つくれども、 ただよく意こころを繋かけて専せん精しょうにつねによく念仏ねんぶつすれば、 ▼一切いっさいの諸しょ障しょう自じ然ねんに消しょう除じょして、 さだめて往おう生じょうを得う。 ▼なんぞ思し量りょうせずしてすべて去ゆく心しんなきや。
若シ論ゼバ↢起悪造罪ヲ↡、何ゾ異ナラムヤ↢暴風*駛*雨ニ↡。是ヲ以テ諸仏ノ大慈勧メテ帰セシメタマフ↢浄土ニ↡。縦使 タトヒ 一形造レドモ↠悪ヲ、但能ク繋ケテ↠意ヲ専精ニ常ニ能ク念仏スレバ、一切ノ諸障自然ニ消除シテ、定メテ得↢往生ヲ↡。何ゾ不シテ↢思量セ↡都テ无キ↢去ク心↡也。
二 Ⅲ ⅱ d【引証勧信】
イ 標
【27】^自下じげは第だい四しに↑聖教しょうぎょうを引ひきて証成しょうじょうして、 信しんを勧すすめ生しょうを求もとめしむとは、
自下ハ第四ニ引キテ↢聖教ヲ↡証成シテ勧メ↠信ヲ求メシムト↠生ヲ者、
二 Ⅲ ⅱ d ロ 釈
(一)引証
(Ⅰ)観仏三昧経
^¬観仏かんぶつ三昧ざんまい経きょう¼ (意) によるにのたまはく、 「その時ときに会えのなかに財首ざいしゅ菩ぼ薩さつありて、 仏ぶつにまうしてまうさく、 ª世せ尊そん、 われ過去かこ無む量りょう劫こうを念おもふ時ときに、 仏ぶつましまして世よに出いでたまへり。 また釈しゃ迦か牟尼むに仏ぶつと名なづく。 かの仏ぶつの滅めつ後ごに一いちの王おう子じあり、 名なづ0243けて金幢こんどうといふ。 憍きょう慢まん・邪見じゃけんにして正しょう法ぼうを信しんぜず。
依ルニ↢¬観仏三昧経ニ¼↡云ク、「爾ノ時ニ会ノ*中ニ有リテ↢財首菩薩↡、白シテ↠仏ニ言ク、世尊、我念フ↢過去无量劫ヲ↡時ニ、有シテ↠仏出デタマヘリ↠世ニ。亦名ク↢釈迦牟尼仏ト↡。彼ノ仏ノ滅後ニ有リ↢一ノ王子↡、名ケテ曰フ↢金幢ト↡。憍慢邪見ニシテ不↠信ゼ↢正法ヲ↡。
^*知ち識しきの比丘びくあり、 定じょう自じ在ざいと名なづく。 王おう子じに告つげていはく、 «世よに仏ぶつの像ぞうあり、 きはめて可か愛あいなりとなす。 しばらく塔とうに入いりて、 仏ぶつの形ぎょう像ぞうを観みたてまつるべし» と。 時ときにかの王おう子じ、 善ぜん友ぬの語ごに従したがひて塔とうに入いりて像ぞうを観みたてまつる。 像ぞうの相好そうごうを見みて、 比丘びくにまうさく、 «仏像ぶつぞうすら端厳たんごんなることなほかくのごとし、 いはんや仏ぶつの真身しんしんをや» と。
有リ↢知識ノ比丘↡、名ク↢定自在ト↡。告ゲテ↢王子ニ↡言ク、世ニ有リ↢仏ノ像↡、極テ為ス↢可愛ナリト↡。可シト↣*蹔ク入リテ↠塔ニ観タテマツル↢仏ノ形像ヲ↡。時ニ彼ノ王子従ヒテ↢善友ノ語ニ↡入リテ↠塔ニ観タテマツル↠像ヲ。見テ↢像ノ相好ヲ↡、白シテ↢言ク比丘ニ↡、仏像スラ端厳ナルコト猶尚 ナホ 如シ↠此クノ、況ヤ仏ノ真身ヲヤト。
^比丘びく告つげていはく、 «王おう子じ、 いま仏像ぶつぞうを見みて礼らいすることあたはずは、 まさに "南無なも仏ぶつ" と称しょうすべし» と。 宮くに還かえりて、 念ねんを繋かけて塔とうのなかの像ぞうを念ねんずるに、 すなはち*後夜ごやに夢ゆめに仏像ぶつぞうを見みて、 心しん大おおきに歓かん喜ぎして邪見じゃけんを捨しゃ離りし、 三宝さんぽうに帰依きえす。
比丘告ゲテ言ク、王子、今見テ↢仏像ヲ↡不↠能ハ↠礼スルコト者、当ニシト↠称ス↢南無仏ト↡。還リテ↠宮ニ繋ケテ↠念ヲ念ズルニ↢塔ノ中ノ像ヲ↡、即チ於テ↢後夜ニ↡夢ニ見テ↢仏像ヲ↡、心0614大ニ歓喜シテ捨↢離シ邪見ヲ↡、帰↢依ス三宝ニ↡。
^寿じゅ命みょう終おわるに随したがひて、 前さきに塔とうに入いりて仏ぶつを称しょうする功く徳どくによりて、 すなはち九く百ひゃく億おく那由他なゆたの仏ぶつに値ち遇ぐうすることを得え、 諸仏しょぶつの所みもとにおいてつねにねんごろに精しょう進じんして、 つねに甚深じんじんの念仏ねんぶつ三昧ざんまいを得えたり。 念仏ねんぶつ三昧ざんまいの力ちからのゆゑに、 諸仏しょぶつ現前げんぜんしてみな授じゅ記きを与あたふ。
随ヒテ↢寿命終ルニ↡、由リテ↢前ニ入リテ↠塔ニ称スル↠仏ヲ*功徳ニ↡、即チ得↣値↢遇スルコトヲ九百億那由他ノ仏ニ↡、於テ↢諸仏ノ所ニ↡常ニ懃ニ精進シテ、恒ニ得タリ↢甚深ノ念仏三昧ヲ↡。念仏三昧ノ力ノ故ニ、諸仏現前シテ皆与フ↢授記ヲ↡。
^これよりこのかた百ひゃく万まん阿あ僧そう祇ぎ劫こうに悪道あくどうに堕だせず。 乃ない至し今日こんにち首しゅ楞りょう厳ごん三昧ざんまいを獲ぎゃく得とくせり。 その時ときの王おう子じとは、 いまわれ財首ざいしゅこれなりº と。 ^その時とき会え中ちゅうにすなはち十方じっぽうのもろもろの大だい菩ぼ薩さつあり、 その数かず無む量りょうなり。 おのおの*本縁ほんえんを説とくに、 みな念仏ねんぶつによりて得えたり。
従リ↠是以来コノカタ百万阿僧祇劫ニ不↠堕セ↢悪道ニ↡。乃至今日獲↢得セリ首楞厳三昧ヲ↡。爾ノ時ノ王子ト*者、今我財首是也ト。爾ノ時会中ニ即チ有リ↢十方ノ諸ノ大菩薩↡、其ノ数無量ナリ。各ノ説クニ↢本縁ヲ↡、皆依リテ↢念仏ニ↡得タリ。
^仏ぶつ、 阿あ難なんに告つげたまはく、 ªこの観仏かんぶつ三昧ざんまいは0244、 これ一切いっさい衆しゅ生じょうの犯罪ぼんざいのものの薬くすりなり、 破は戒かいのものの護まもりなり、 失道しつどうのものの導みちびきなり、 *盲もう冥みょうのものの眼まなこなり、 愚痴ぐちのものの慧えなり、 黒闇こくあんのものの灯ともしびなり、 煩悩ぼんのうの賊ぞくのなかの大だい勇ゆう猛みょう将しょうなり、 諸仏しょぶつ世せ尊そんの遊戯ゆげしたまふところの首しゅ楞りょう厳ごん等とうの諸しょ大だい三昧ざんまいのはじめて出生しゅっしょうするところなりº と。
仏告ゲタマハク↢阿難ニ↡、此ノ観仏三昧ハ是一切衆生ノ犯罪ノ者ノ薬ナリ、破戒ノ者ノ護ナリ、失道ノ者ノ導ナリ、*盲冥ノ者ノ眼ナリ、愚痴ノ者ノ恵ナリ、黒闇ノ者ノ灯ナリ、煩悩ノ賊ノ中ノ大勇猛将ナリ、諸仏世尊之所ノ↢遊戯シタマフ↡首楞厳等ノ諸大三昧ノ始テ出生スル処ナリト。
^仏ぶつ、 阿あ難なんに告つげたまはく、 ªなんぢいまよく持たもちて、 つつしみて忘失もうしつすることなかれ。 過か去こ・未み来らい・現在げんざいの三さん世ぜの諸仏しょぶつ、 みなかくのごとき念仏ねんぶつ三昧ざんまいを説ときたまふ。 われと十方じっぽうの諸仏しょぶつおよび*賢劫げんごうの千仏せんぶつとは、 *初しょ発心ほっしんよりみな念仏ねんぶつ三昧ざんまいの力ちからによるがゆゑに一切いっさい種しゅ智ちを得えたりº」 と。
仏告ゲタマハク↢阿難ニ↡、汝今善ク持チテ、慎ミテ勿レ↢*忘失スルコト↡。過去・未来・*現在ノ三世ノ諸仏、皆説キタマフ↢如キ↠是クノ念仏三昧ヲ↡。我ト与ハ↢十方ノ諸仏及ビ賢劫ノ千仏↡、従リ↢初発心↡皆因ルガ↢念仏三昧ノ力ニ↡故ニ得タリト↢一切種智ヲ↡。」
二 Ⅲ ⅱ d ロ (一)(Ⅱ)目連所問経
^▼また ¬*目連もくれん所問しょもん経ぎょう¼ のごとし。 「仏ぶつ、 *目連もくれんに告つげたまはく、 ªたとへば万川ばんせんの長流ちょうりゅうに浮うかべる草木そうもくありて、 前まえは後うしろを顧かえりみず、 後うしろは前まえを顧かえりみず、 すべて大海だいかいに会えするがごとし。 世せ間けんもまたしかなり。 豪ごう貴き・富ふ楽らく自じ在ざいなることありといへども、 ことごとく生しょう老ろう病びょう死しを勉まぬかるることを得えず。 ただ仏ぶっ経きょうを信しんぜざるによりて、 後世ごせに人ひととなれども、 さらにはなはだ*困こん劇ぎゃくして、 *千仏せんぶつの国こく土どに生しょうずることを得うることあたはず。
又如シ↢¬目連所問経ノ¼↡。「仏告ゲタマハク↢目連ニ↡、譬ヘバ如シ↧万川ノ長流ニ有リテ↢浮ベル草*木↡、前ハ不↠顧ミ↠後ヲ、後ハ不↠顧ミ↠前ヲ、都テ会スルガ↦大海ニ↥。世間モ亦爾ナリ。雖モ↠有リト↢豪貴・富楽自在ナルコト↡、悉ク不↠得↠*勉マヌカルルコトヲ↢生・老・病・死ヲ↡。*只由リテ↠不ルニ↠信ゼ↢仏経ヲ↡、後世ニ為レドモ↠人ト、更ニ甚ダ困劇シテ、不↠能ハ↠得ルコト↠生ズルコトヲ↢千仏ノ国土ニ↡。
^▼このゆゑにわれ説とく、 «無む量りょう寿じゅ仏国ぶっこくは往ゆきやすく取とりやすし。 しかるに人ひと修しゅ行ぎょうして往おう生じょうすることあたはず、 かへりて*九く十じゅう五ご種しゅの邪道じゃどうに事つかふ» と。 われこの人ひとを説ときて*無む眼げん人にんと名なづけ、 *無耳むに人にんと名なづく0245º」 と。
是ノ故ニ我説ク、无量寿仏国ハ易ク↠往キ易シ↠取リ。而ルニ人不↠能ハ↢修行シテ往生スルコト↡、*反リテ事ツカフト↢九0615十五種ノ邪道ニ↡。我説キテ↢是ノ人ヲ↡名ケ↢无眼人ト↡、名クト↢无耳人ト↡。」
二 Ⅲ ⅱ d ロ (二)勧信
^◆経教きょうきょうすでにしかなり。 なんぞ難なんを捨すてて易い行ぎょう道どうによらざらんや。
経教既ニ爾ナリ。何ゾ不ラムヤ↣捨テテ↠難ヲ依ラ↢易行道ニ↡*矣。
安楽あんらく集しゅう 巻かん上じょう
延書の底本は高野山寶壽院蔵鎌倉時代刊本ˆ原漢文の底本と同一ˇ。 ただし返点については本派本願寺蔵版によるか。
諸部の大乗 諸種の大乗の経論。
時会の聴衆 現在この会座に参集している人々。
三界の摂と不摂 迷いの境界であるところの
三界さんがいにおさまるか、 おさまらないか。
赴けば 合致すればの意。
正法念経に… 引用の文は ¬正法念経¼ にはない。 鳩く摩羅まら什じゅう訳 ¬座ざ禅ぜん三昧ざんまい経きょう¼ の取意の文。
総・別 総は
如来にょらいの十号を指し、 別は阿弥陀如来や
薬やく師し如来等の個々の名号を指す。
韋提大士 大士は菩薩の意。
道綽どうしゃく禅ぜん師じは
韋い提だい希けを
権ごん化けの菩薩とする。
出路を諮開す (迷いの世界を) 出しゅつ離りする道を尋ねる。
進趣 (さとりに向かって) 修行し進むこと。
情 凡情。 凡ぼん夫ぶの心情。
衆典 数多くの経典。
増長勝解の想 仏法を領りょう解げし、 味わうすぐれた心が成長してゆくこと。
語議 言葉の深い意味内容。
因中の時 (阿羅あら漢かんの) さとりを得るための修行をしている時期。
法の因縁 仏法を聞く機会。
過去宿命 過去世の境界。
熙連半恒河沙 熙連河の砂の数の意。 熙連河は中インドにある河。 釈尊はその西側の沙羅さら林りんで入にゅう滅めつされた。 恒河 (ガンジス河) より小さいので、 ここでは半恒河という。
不可思議解脱 思惟を超えたさとりの境界。
別相 仏身の一部分のすがた。 総相に対す。
仏地の果徳 仏のさとられた徳。
希有の心 不思議なおもい。
諸部の大乗 諸種の大乗経典。
古旧あひ伝へて… 浄じょう影よう寺じ慧え遠おん、
天台てんだい大師
智顗ちぎなどの説を指す。
説法 大乗の通説では法身ほっしんに説法はないが、 報身ほうじんにはそれがある。
可見 衆しゅ生じょうの観見の対象となるということ。 法身は無む色しき無形むぎょうで不可見であるが、 報身は相好そうごう光こう明みょうをそなえているので可見である。
諸業の休息せざる 衆生救済のさまざまなはたらきが決してやまないという意。
休息隠没 衆生の機によっては姿をかくすこともあるという意。
不実体を示現する 不実体は応身おうじんのこと。 報身は応身を示現する本体であるという意。
毫毛に… 毫毛 (細い毛) ほどの小さな誤りから千里にもおよぶ大きな誤りを招くという意。
仏子・給侍の弟子 釈尊に照らし合わせていえば、 仏子は
羅睺羅らごらにあたり、 給侍の弟子は
阿あ難なんにあたる。
導師 仏のこと。
一質・異質・無質 ここでの質は本体の意。
原を… 本源をたずねれば一つに融合するという意。
万形 種々雑多な形となってあらわれるという意。
無而忽有 無であってたちまち現れるという意。
無相 無相の
善根ぜんごん。 すがたかたちを離れた真如法性の理にかなって修める善根。
有相 有相の善根。 具体的なすがたかたちをとる浄土の往生を願って修める善根。
縁のなかに… 浄土の具体的な荘しょう厳ごん相そうを心に認めて往生を願う者。
総別 一いっ法ぽっ句くを総とし、 二十九種の荘しょう厳ごん清浄しょうじょうを別という。
雑生の触受 雑多な生を経て、 さまざまな苦にふれ、 その苦を受けること。
大経にのたまはく… ここでは ¬大経¼ 三輩さんぱい段の意を ¬論註¼ (下) の文によって示されている。
無上仏道 この上ない仏のさとり。
有輪 有は
三有さんぬ (三界) のこと。 迷いの世界である
三界さんがいを回転してきわまるところのない車輪に喩えていう。
五浄 五ご浄居じょうご天てんのこと。 色しき界かい十八天の最上に位置する色しき究竟くきょう天てん・善見ぜんけん天てん・善現ぜんげん天てん・無む熱ねつ天てん・無む煩ぼん天てんを五浄居天という。
霊河 竜のすむ河。
世旱 世のひでり。
自性 本来の性。
修成を仮らざる 修行によって成じたものではないという意。
円通無礙 円まどかなさとりに通達して、 なにものにもさまたげられないこと。
用 (衆しゅ生じょうを利り益やくする) はたらき。
万機に趣く すべての根こん機き (素質能力) に対応する。
益物円通する 物は衆生の意。 衆生を利益することが自由自在であること。
経にのたまはく… 引用の文は ¬維摩経ゆいまぎょう¼ ¬大集だいじつ経きょう¼ の両経にみられる。
大智度論にいはく… 引用は ¬略論りゃくろん安楽あんらく浄じょう土ど義ぎ¼ に引く ¬大だい智度ちど論ろん¼ (龍樹りゅうじゅ菩薩造) 取意の文。
龍樹菩薩の釈にいはく… 引用は ¬略論りゃくろん安楽あんらく浄じょう土ど義ぎ¼ に引く ¬大だい智度ちど論ろん¼ (龍樹りゅうじゅ菩薩造) 取意の文。
四句 四句分別のこと。 存在に関する四種の考察。 「有・無・または有または無・有にあらず無にあらず」 をいう。
総生起 九番の異見邪執を破する由縁。
名義塵沙 名 (名称) と義 (名にあらわされる意味) が無量であること。
衆典 数多くの経典。
部旨 真意。
浄土 ここでは往生浄土の教えの意。
諂語刁々 諂語はいつわりの言葉。 刁々はふらふらと動揺するさま。
計 見解。 考え。
縁求 因縁いんねん生しょうの立場で往生浄土を願い求めること。
滅空の所収 一切のものには実体がないという空くうの道理を偏ってとらえてしまうこと。
無作を行ず 一切諸法は本来空くうであり、 はたらきはないと観ずること。
受身を現ず 衆生済度のために生死の身を受けること。
無起を行ず 一切諸法は本来空であり、 生起することがないと観ずること。
無相を行じ 一切諸法に彼ひ此し差別の相をみないこと。
沽酒家… 沽酒家は酒の販売を職業とする者。 藍染家は染物を職業とする者。 押油家は製油を職業とする者。 熟皮家は皮革加工を職業とする者。 →
補註8
在世人 在俗の人。
遮制約勒 悪をさえぎりとどめるべく誡めること。
愛染取相 分別にとらわれた愛着の心。
中 中道。 両極端を離れた正しいありかた。
衆生を成就せん 衆生にさとりを得させる。
所観の浄境は… 観察かんざつの対象である浄土の環境は、 心におさまっているので浄土とこころは一つにとけあっている。
虚融に処し 無む色しき無形むぎょうであらゆる限定を超えているという意。
偏局なし 法界ほうかいに周遍していて、 十方のうちの一方にかたよるようなことがないという意。
上士 すぐれた聖者。
不断弁才 他人によって断ち切られることのない弁舌の才能。
相 有う相そうの見。 すがたかたちにとらわれた見解。
縁を摂して… 因縁いんねん生しょう差別の立場 (
俗諦ぞくたい) をおさめて、 根本の立場 (
真諦しんたい) についていえばという意。 →
真俗しんぞく二に諦たい
鵝鴨 がちょうとあひる。 ともに水鳥。
西 西方の阿弥陀仏の浄土。
退処 悪趣あくしゅへの退転があるところ。 西方浄土が三界さんがいを超越するのに対し、 兜と率そつはなお三界のうちであるので、 退転がある。
退人 (悪趣へ) 転落してしまう人。
浄土の初門 あらゆる浄土の最初の入り口。
穢土の末処 穢土のおわり尽きるところ。
簡ばず 区別しない。
通論の家 無む着じゃくの ¬摂しょう大だい乗じょう論ろん¼ にもとづく摂論しょうろん学派のこと。
聖情に契会せん 仏のおぼしめしにかなうこと。
理数炳然 道理があきらかであること。
黄鵠… ¬列れつ異い伝でん¼ に出る故事。 子安 (仙人の名) にたすけられた鶴 (黄鵠) が、 子安の死後、 三年間その墓の上でかれを思って鳴きつづけ、 鶴は死んだが子安は蘇って千年の寿命を保ったという。
有礙の識 煩悩にさまたげられた心。
無礙の法 なにものにもさまたげられない法。
大乗経 ¬論註¼ では業道経とする。
先牽の義 業は重い方が先に報いがあらわれるという道理。
虚妄顛倒の… 真実の理にそむいた誤った心をよりどころとして。
方便安慰 いろいろてだてをして教え、 心を安らかにすること。
実相の法 名号には仏のさとられた諸法実相の徳が含まれているので、 仏の名号のことを実相という。
総相 仏身の全体のすがた。
別相 仏身の一部分のすがた。 総相に対す。
空曠のはるかなる処 何もなくて、 どこまでも広がっている場所。
首領全くしがたからん 命を全うすることができないであろう。 ここではおぼれ死ぬであろうの意。
性 (善なる) 性質。
三五 三人でも五人でも。
言要を結び 約束し。
蝋印を… 蝋印を熱い泥土におすと蝋印は壊れるが文字は残る。
愛染虚妄 うそいつわりでとらわれの心。
上品生 ¬観経¼ に説かれる
九く品ぼん往生のうち、 上品上生、 上品中生、 上品下生のものをいう。
名の法に即するあり 名と名によって示されるもの (法) のはたらきとが一体であるという意。
禁呪の音辞 悪やわざわいをとどめるための呪文。
日出東方… 中国に古くから伝わる呪文の一種と考えられる。
酉亥に… 酉亥は午後五時頃から午後十一時頃までのこと。 日の出とは関係のないこの時刻に 「日出…」 の呪文をとなえても、 腫物がひくという意。
権の息… 仮の休息であって、 真のさとりには到達していない。
訶し 誡めるの意。
大車 大だい白びゃく牛ご車しゃ。 大乗の法を喩えたもの。
退位 仏道より退転する可能性のある位。
龍樹菩薩いはく… 引用は ¬易行品¼ の意にもとづく ¬論註¼ (上) の文。
人天の顛倒の善果 人間・天上界に生れる果報は、 善果といっても迷いの境界の中であるので顛倒という。
光台迎接して 光輝く蓮れん華げの台座に迎えとられて。
高下 高さの意。
三銖 銖は重さの単位。 一銖は一両の二十四分の一。 周代の一銖は約 0.67 グラム。
西拘耶尼 須しゅ弥み山せんの西にあるといわれる大陸。 拘耶尼は瞿陀尼ともいう。 →
四し大だい洲しゅう
十八重天 ¬大だい智度ちど論ろん¼ 等の大乗の説では、 色界しきかいに十八の天があるという。
四重天 空くう無む辺へん処しょ天てん・識しき無む辺へん処しょ天てん・無む所しょ有う処しょ天てん・非ひ想そう非ひ非ひ想そう処しょ天てんの四。
軽繋地獄 八大地獄に付属する小地獄 (眷属けんぞく地獄・別処) のこと。
扼縛癰瘡 扼・縛はしばりつけるの意、 癰・瘡ははれものの意で、 ここではこれらを煩悩ぼんのうに喩える。
義利 利り益やく。
籌 計算用の器具。
大通智勝如来 ¬法華ほけ経きょう¼ 「化城けじょう喩ゆ品ぼん」 に出る過去仏。 三千塵点じんでん劫ごうの昔に出世し、 八千劫の間 ¬法華経¼ を説いたという。
八肘 肘は長さの単位。 一肘は人間のひじの長さ。 一尺八寸。
繋念現前 思いをかけて忘れないようにすること。
事務を貪営して 俗事をいとなみ。
磑 馬をつなぎとめる石臼。
排はざる 排除しない。
理は深く解は微なる 教理は深遠であるのに、 衆しゅ生じょうの理解する能力はとぼしい。
大経にのたまはく… 道綽どうしゃく禅ぜん師じが ¬大経¼ の第十八願の文意と ¬観経¼ 下下げげ品ぼんの文意とを合せられた本願取意の文。
千仏の国土 数多くの仏が出現する国土。
底本は◎高野山寶壽院蔵鎌倉時代刊本(上巻)/龍谷大学蔵(写字台旧蔵)寛元三年刊本(下巻)。 Ⓐ高野山寶壽院蔵天永三年書写本、 Ⓑ龍谷大学蔵正平二年書写本、 Ⓒ本派本願寺蔵版¬七祖聖教¼所収本 と対校。 全部校訂 弁→Ⓒ辨
就 Ⓐ従と左傍註記
観 Ⓐになし
也 Ⓐになし
者 Ⓐになし
常 Ⓐになし
火→ⒷⒸ水
慧→Ⓐ恵
堅固→◎Ⓑ固堅
読→Ⓐ讃
諍訟 左Ⓒアラソヒウタフ
用→Ⓐ明(用イと右傍註記)
時→ⒷⒸ時[者]
又→Ⓐ又[近来]
即→Ⓐ時
其 Ⓐになし
大士 Ⓐになし
末→◎未
仮遇→Ⓐ厭離
路→Ⓒ路[豁] Ⓑ豁イと右傍註記
弘→ⒷⒸ加
趣→Ⓑ
披 Ⓐになし
尋→Ⓐ尋[求]
昉→Ⓐ仿→Ⓒ訪
休止→Ⓐ依止
論 Ⓑ初巻ニと右傍註記
論 Ⓑ十一巻メニと右傍註記
无量 Ⓐになし
法人→Ⓐ人法
弗 Ⓐになし
聞 Ⓐになし
曽→Ⓐ曹逕
億→Ⓐ憶
六→Ⓐ六[者]
竪→Ⓐ堅
道→Ⓐ道[因縁]
生 Ⓐになし
弊 Ⓐになし
熈連 Ⓐになし
乃能→能乃
謗→Ⓐ誹
生 Ⓐになし
空→定
者→Ⓑ者[世]
問→Ⓐ間
仏 Ⓐになし
栴→Ⓐ旃
牙→Ⓒ芽
出→Ⓐ生
噉→Ⓐ敢
欲 Ⓐになし
能 Ⓐになし
曰 Ⓐになし
切 Ⓐになし
応 Ⓑイ无と左傍註記
一切 Ⓐになし
又彼経→Ⓐ彼経又
報→報[仏]
土 Ⓐになし
主→Ⓐ鬒王→ⒷⒸ主[王]
由 Ⓐ若と左傍註記
歩→Ⓒ歩[健]
来→Ⓐ来[如]
如 Ⓐになし
末→◎未→Ⓐ滅
世 Ⓐになし
云→Ⓐ曰
但非→Ⓐ非但
母→Ⓐ母[若有父母]
子 Ⓐ汝也と左傍註記
致→Ⓐ致[有](得也専也と左傍註記)
中 Ⓐになし
声 Ⓐになし
寂→Ⓒ寂[意]
何→Ⓐ侍(徒也と左傍註記)
待→Ⓐ待[須也]
皆 Ⓐ猶也と左傍註記
導→Ⓐ道
論 Ⓐ安法師浄土論也と左傍註記
原 Ⓐ群疑論中引此と左傍註記
則 Ⓐ文中作玄字と左傍註記
定→Ⓒ錠
却→Ⓒ郤
衆 Ⓐになし
替→Ⓐ贊
娑→Ⓐ沙
問 Ⓐ蕑イと上欄註記
往→Ⓐ往[生]
相→Ⓐ想
智浅→Ⓐ浅智
報 Ⓐになし
即 Ⓐになし
以 Ⓐになし
遍→Ⓐ適
土→Ⓐ去
離→Ⓐ雑
応 Ⓐ是也と左傍註記
故…身8字 Ⓐになし
而→Ⓐ如
知→Ⓐ智
溝→講(習也と左傍註記)
習 Ⓐ重也と左傍註記
絶→Ⓐ純
起 Ⓐ作也と左傍註記
巧→Ⓐ功徳
出菩提心功用 Ⓐになし
源→Ⓐ原
淪→Ⓐ輪
霊→Ⓐ露
旱→Ⓐ早
竭 左→Ⓐカルヽ
言→Ⓐ三
趣→Ⓐ赴
為→Ⓐ為[情]
四→Ⓐ四[明]
者 Ⓐになし
求无→Ⓐ無求
人 Ⓐになし Ⓑイ无と左傍註記
知→Ⓐ智
体→Ⓒ祈 Ⓑ祈モトメテイと上欄註記
者 Ⓐになし
心→Ⓐ心[不]
門 Ⓐになし
即 Ⓐになし
隠→Ⓒ穏
使→Ⓐ便
番 Ⓐになし
破 Ⓐになし
邪→Ⓐ耶
情→Ⓐ清
案→Ⓐ安
意 Ⓐ故也と左傍註記
諂→Ⓐ調
刁刁→◎Ⓐ刀刀→Ⓑ刀力
増→Ⓐ増[偏]→Ⓒ増[漏] Ⓑ漏イと左傍註記
未→Ⓐ末
失→Ⓐ共
許→Ⓐ計
今世間→Ⓐ世今聞
存→Ⓐ在
白→Ⓐ曰
者 Ⓐになし
出 Ⓐになし
勉→Ⓒ免
般→Ⓐ波
通→Ⓐ遍(通歟と右傍註記)
无 Ⓐになし
提→Ⓐ薩
方→Ⓐ方[便]
紹 Ⓐ正也補也と左傍註記
伝→Ⓐ転
赴→Ⓐ起
言 Ⓐになし
仏 Ⓐになし
国→Ⓐ土
如 Ⓐになし
堕→Ⓐ随
楽 Ⓐになし
八→Ⓐ八[大]
人天→Ⓐ天人
想→Ⓐ相
適莫 Ⓐ喜也 憂と左傍註記
亦→Ⓐ之
拠→Ⓐ処
有 Ⓐになし
其→Ⓐ此
生→Ⓐ上
正→Ⓐ止
命→Ⓐ命[三]
与→Ⓐ去
斉→◎Ⓑ済
亮→Ⓐ高
挍→Ⓐ教
方 Ⓐになし Ⓑイ无と下欄註記
修行→Ⓐ住
当→Ⓐ当[知]
娑→Ⓐ婆(娑歟と右傍註記) Ⓑ裟
生 Ⓐになし
即→Ⓒ即[是]
菓→Ⓐ草
噉→Ⓐ敢
摂 Ⓐになし
噵 Ⓐになし
未→Ⓐ未[得]
明 Ⓐになし
炳→Ⓐ恒
去 Ⓑイ无と左傍註記
河 Ⓐになし
加 Ⓐ重也と左傍註記
遇→Ⓐ過
貿→Ⓐ質
便→Ⓐ使
乗 Ⓐ便也と左傍註記
関→Ⓑ開→Ⓒ閉 Ⓐ許也と左傍註記
過→Ⓒ過[去]
合→Ⓐ令
度 Ⓐになし
問 Ⓐになし
不→Ⓐ不[動]
力者→Ⓐ者力
積→Ⓐ𧂐
刃→Ⓒ仞
加諸 Ⓐ多也 給也と左傍註記
賞→Ⓐ償(裳六と右傍註記)
斯須 Ⓐ須臾也と左傍註記
項→Ⓒ頃
上→Ⓒ上[下] Ⓐになし
言 Ⓐ直也と左傍註記
得→Ⓒ得[言]
言 Ⓒになし
必→Ⓐ女(必歟と右傍註記)
制 Ⓐ裁也断也と左傍註記
儵爾 Ⓐ成也別也と左傍註記
両→Ⓐ多
鴆 Ⓐ毒鳥也と左傍註記
生→Ⓐ往(生歟と右傍註記)→Ⓒ性
子 Ⓒになし Ⓑイ无と左傍註記
秤→Ⓐ称
続→Ⓐ纘
闇 Ⓒになし
言→Ⓒ言[闇]
在→Ⓑ在[闇]
想→Ⓐ想[心]
衆生 Ⓐになし
後→Ⓐ有
後→Ⓐ有々
如 Ⓐになし
垂→Ⓑ乗
不用 Ⓐになし
迥→ⒶⒸ廻
奮→Ⓐ奪
殺→Ⓐ取
仏 Ⓐになし
発→Ⓐ乃(至也と左傍註記)
声 Ⓑイ无と左傍註記
臘→Ⓒ蝋
大利→Ⓐ利大
皆 Ⓐになし
乗 Ⓐになし
力 Ⓐになし
澄→Ⓐ証
裹→Ⓐ裏
三→Ⓐ三[者]
以 Ⓐになし
自 Ⓐになし
曰 Ⓐになし
心 Ⓐになし
則 Ⓐになし
終 Ⓑ望イと下欄にあり
又 Ⓑになし
辞→Ⓐ解
慰→Ⓒ尉
磨→Ⓒ摩
筋→Ⓐ薢
枝→◎ⒶⒷ杖 Ⓑ杖イと左傍註記
月 Ⓑ佛イと右傍註記
然 Ⓐ亦也と左傍註記
心 Ⓐになし
弁→ⒶⒸ辨
五 Ⓐになし
生信→Ⓐ信生
権→◎Ⓑ推→Ⓐ催
邪→Ⓐ耶
求 Ⓐになし
挙→ⒶⒷⒸ攀
顧→Ⓐ領
信→Ⓐ信[解]
是 Ⓐになし
提→Ⓐ薩
在 Ⓐになし
果 Ⓐになし
信→Ⓒ以
不→Ⓐ不[生]
縁→Ⓐ縁[故]
之 Ⓐになし
一 Ⓐになし
為 Ⓐ衣也と左傍註記
従→Ⓑ徒
四→ⒶⒸ[如]四
生 Ⓐになし
界→Ⓒ界[有]
遍 Ⓐになし
侵→Ⓐ浸
有 Ⓒになし
源→Ⓐ原
中 Ⓑイ无と右傍註記
云 Ⓐになし
自 Ⓐ用也と左傍註記
不已→Ⓐ已不
来→Ⓐ未
教 Ⓐになし
不 Ⓐになし
末→◎ⒶⒷ未→Ⓒ抹
教法→Ⓐ法教
但 Ⓐになし
戒→Ⓑ形
即 Ⓐになし
依 Ⓐになし
習→Ⓐ執
終→Ⓐ修
投→Ⓐ捉
火 Ⓐになし
去→Ⓐ玄
末→ⒶⒷ未
未→◎末
末→Ⓐ未
復→Ⓐ傷(思也と左傍註記)
縦→Ⓐ従
駛→◎Ⓒ駃
雨→Ⓐ流
中 Ⓐになし
蹔→Ⓐ繋
功 Ⓐになし
者 Ⓐになし
盲→Ⓐ妄
忘→◎ⒶⒷ妄
現在 Ⓐになし
木→Ⓑ未
勉→Ⓒ免
只→Ⓐ品
反→Ⓐ返
矣 Ⓐになし