◎0997六要鈔 第一
〇 総説
【1】 ◎まさにこの文を釈すに、 おほきに分ちて二となす。 ▽第一に題目を釈し、 ▽第二にまさしく文を解す。
◎将ニニ↠釈↢此ノ文ヲ↡、大ニ分テ為ス↠二ト。第一ニ釈シ↢題目ヲ↡、第二ニ正ク解ス↠文ヲ。
一 釈題目
△初めの中にまた二。 ▽まづ題目を釈し、 ▽次に撰号を解す。
初ノ中ニ又二。先ヅ釈シ↢題目ヲ↡、次ニ解ス↢撰号ヲ↡。
一 Ⅰ 釈題
【2】 △まづ題を釈する中に十一字の内、 *初めの一字と後の三字とは能釈の詞、 *中間の七字は所釈の法なり。
先釈スル↠題ヲ中ニ十一字ノ内、初ノ之一字ト与 トハ↢後ノ三字↡能釈之詞、中間ノ七字ハ所釈之法ナリ。
初めに 「▲顕」 といふは、 ¬広韻¼ にいはく、 「呼典の切、 明著なり。」 ¬玉篇¼ にいはく、 「虚典の切、 明なり。」
初ニ言↠「顕ト」者、¬広韻¼云、「呼典ノ切、明著ナリアラハス。」¬玉篇¼云、「虚典ノ切、明也。」
「▲浄土」 といふは、 弥陀の*報土、 *浄土の言十方に亘るといへども、 意は西方にあり。 諸仏の*刹に超えてもつとも精たるがゆゑに。
言↢「浄土ト」↡者、弥陀ノ報土、浄土之言雖モ↠亘ト↢十方ニ↡、意ハ在リ↢西方ニ↡。超テ↢諸仏ノ刹ニ↡最モ為ガ↠精故ニ。
「▲真実」 といふは、 これ*仮*権に対す。
言↢「真実ト」↡者、是対ス↢仮権ニ↡。
「▲教行証」 とは、 いはゆる次いでのごとく、 所依・所修・所得の法なり。 *霊芝の ¬*弥陀経の義疏¼ にいはく、 「大覚世尊一代の教、 大小殊なりといへども、 教理行果を出でず。 教によりて理を顕し、 理によりて行を起し、 行によりて果を克す。 *四法にこれを収むるに、 鮮きも尽さざることなし。」 以上 教行証と教理行果と、 その義おほきに同じ。 中において、 教行の二種はまつたく同じ。 理はこれ教に摂す。 かの ¬義疏¼ (元照阿弥陀経義疏) にいはく、 「理はすなはち教の体」 と。 すなはちその義なり。 証はすなはち果なり。 果に近遠あり、 近果は往生、 遠果は成仏。 証に分極あり、 分証は往生、 究竟は成仏、 その義同じなり。
「教行証ト」者、所謂如ク↠次ノ、所依・所修・所得ノ法也。霊芝ノ¬弥陀経ノ義疏ニ¼云ク、「大覚世尊一代之教、大小雖↠殊ナリト、不↠出↢教理行果ヲ↡。因テ↠教ニ顕シ↠理ヲ、依テ↠理ニ起シ↠行ヲ、由テ↠行ニ克スハタス↠果ヲ。四法ニ収ニ↠之ヲ、鮮モ無シ↠不コト↠尽サ。」 已上 教行証ト与 ト ↢教理行果↡、其ノ義大ニ同ジ。於テ↠中ニ、教行ノ二種ハ全ク同ジ。理ハ是摂ス↠教ニ。彼ノ¬義疏ニ¼云ク、「理ハ即教オ体ト」。即其ノ義也。証ハ即果也。果ニ有↢近遠↡、近果ハ往生、遠果ハ成仏。証ニ有↢分極↡、分証ハ往生、究竟ハ成仏、其ノ義同ジ也。
「▲文類」 といふは、 ¬広韻¼ にいはく、 「文は*無分の切、 文章なり。 また美なり、 善なり、 兆なり。」 ¬玉篇¼ にいはく、 「*亡文の切、 文章なり。」 「類」 とは、 ¬広韻¼ にいはく、 「力遂の切、 等なり。」 種類あひ似たるなり。 その教行証を明かすところの文を類聚するがゆゑなり。
言「文類0998ト」者、¬広韻ニ¼云ク、「文無分切、文章也。又美也、善也、兆シルシ也。」¬玉篇ニ¼云ク、「亡*文切、文章也。」「類ト」者、¬広韻ニ¼云ク、「力遂切、等也。」種類相似タルナリ。類↧聚スルガ所ノ↠明↢其ノ教行証ヲ↡之文ヲ↥故也。
「▲序」 とは、 いはゆる次・由・述の義、 いまは述序なり。
「序ト」者、所謂次・由・述ノ義、今ハ述序也。
一 Ⅱ 釈撰号
【3】 △次に*撰号を釈す。
次ニ釈↢撰号ヲ↡。
「▲愚禿」 といふは、 「愚」 はこれ惷なり。 智に対し賢に対す。 聖人の徳は智なり、 賢なり。 実には愚惷にあらず。 いま愚といふは、 これ卑謙の詞、 「禿」 は称して姓とす。 第六巻 (化身土巻) の奥の流通の文にいはく、 「▲真宗興隆の大祖*源空法師、 ならびに門徒数輩、 罪科を考へず、 猥りがはしく死罪に坐す。 あるいは僧儀を改めて姓名を賜ひ遠流に処す。 予はその一なり。 しかればすでに*僧にあらず俗にあらず。 このゆゑに禿の字をもつて姓とす。」 以上 これその義なり。
言↢「愚禿ト」↡者、「愚ハ」是惷ヲロカナリ也。対シ↠智ニ対ス↠賢ニ。聖人之徳ハ智也、賢也。実ニハ非ズ↢愚*惷ニ↡。今言↠愚ト者、是卑謙ノ詞、「禿ハ」称シテ為↠姓ト。第六巻ノ奥ノ流通ノ文ニ云ク、「真宗興隆ノ大祖源空法師並門徒数輩、不↠考↢罪科ヲ↡、猥ク坐ス↢死罪ニ↡。或ハ改テ↢僧儀ヲ↡賜ヒ↢姓名ヲ↡処ス↢遠流ニ↡。豫ハ其ノ一也。爾レ者已ニ非ズ↠僧ニ非ズ↠俗ニ。是ノ故ニ以↢禿ノ字ヲ↡為↠姓ト。」 已上 是其ノ義也。
「▲釈」 は*沙門の姓。 ¬*増一阿含経¼ (巻二一苦楽品意) にいはく、 「四河海に入りてまた河の名なし、 *四姓沙門となりてみな釈種と称す。」 以上 ¬*四分律¼ (巻三六意) にいはく、 「四河海に入りてまた河の名なし、 四姓家を出でて同じく釈氏と称す。」 以上 これによりて晋朝弥天の*道安、 釈をもつて姓となして永く後代に伝ふ。 ¬*高僧伝¼ の中にくはしくこの事を判ぜり。 このゆゑにいま 「愚禿釈」 とらいふ。
「釈ハ」沙門ノ姓。¬増一阿含経ニ¼云ク、「四河入テ↠海ニ無シ↢復河ノ名↡、四姓為テ↢沙門ト↡皆称ス↢釈種ト↡。」 已上 ¬四分律ニ¼云ク、「四河入テ↠海イ無シ↢復河オ名↡、四姓出デヽ↠家ヲ同ク称ス↢釈氏ト↡。」 已上 依↠之晋朝弥天ノ道安、以テ↠釈ヲ為シテ↠姓ト永ク伝フ↢後代ニ↡。¬高僧伝ノ¼中ニ委ク判ゼリ↢此ノ事ヲ↡。是ノ故ニ今云↢「愚禿釈ト」等↡。
「▲親鸞」 といふは、 これその諱なり。 俗姓は藤原勘解相公、 有国の卿の後、 皇太后宮の大進*有範の息男なり。 昔山門青蓮の*門跡にして、 その名範宴少納言の公、 後に真門黒谷の門下に入りて、 その名綽空、 仮実あひ兼ぬ。 ▼しかるに*聖徳太子の告命によりて、 改めて善信とのたまふ。 厳師諾あり、 これを仮号となして、 後に実名を称す。 その実名とは、 いま載するところこれなり。 その徳行等、 つぶさに別伝のごとし。
言↢「親鸞ト」↡者、是其ノ諱也。俗姓ハ藤原勘解相公、有国ノ卿ノ後、皇太后宮ノ大進有範ノ之息男也。昔於テ↢山門青蓮ノ門跡ニ↡、其ノ名範宴少納言ノ公、後ニ入テ↢真門黒谷ノ門下ニ↡、其ノ名綽空、仮実相兼ヌ。而ニ依テ↢聖徳太子ノ告命ニ↡、改テ曰フ↢善信ト↡。*厳師有リ↠諾、為シテ↢之0999ヲ仮号ト↡、後ニ称ス↢実名ヲ↡。其ノ実名ト者、今所↠載是ナリ。其ノ徳行等、具ニ如シ↢別伝ノ↡。
「▲述」 とは、 ¬広韻¼ にいはく、 「食聿の切、 著述なり。」 ¬説文¼ 「循なり、 また作なり。」 ¬玉篇¼ にいはく、 「視律の切、 循なり。」 以上 上の訓の中において作の義によらず、 しばらく循の義による。 ゆゑに作といはず、 これ卑謙の義。 ¬*論語¼ の第四述而の篇にいはく、 「子ののたまはく、 述して作せず、 信じて古を好む、 ひそかにわれを老彭に比す。」 ¬註¼ (論語集解) にいはく、 「包氏がいはく、 老彭は殷の賢大夫なり、 好みて古の事を述ぶ、 われ老彭のごとし、 ただしこれを述ぶらくのみなり。」 以上 同 ¬疏¼ (論語集解) にいはく、 「述而とは孔子の行教を明かす。 ただし尭舜を述ぶ。 みづから老彭に比して制作せざるものなり。」 以上
「述ト」者、¬広韻¼云ク、「食聿切、著述也。」¬説文¼「循シタガフ也、又作也。」¬玉篇ニ¼云、「視律切、循也。」 已上 於テ↢上ノ訓ノ中ニ↡不↠依↢作ノ義ニ↡、且ク依ル↢循ノ義ニ↡。故ニ不↠云↠作ト、是卑謙ノ義。¬論語ノ¼第四述而ノ篇ニ云ク、「子ノ曰ク、述テ而不↠作セ、信ジテ而好ム↠古ヲ、窃ニ比ス↢我ヲ於老彭ニ↡。」¬註ニ¼云ク、「包氏ガ曰ク、老彭ハ殷ノ賢大夫也、好テ述ブ↢古ノ事ヲ↡、我レ若シ↢老彭ノ↡矣、但シ述ラクノミ↠之耳也。」 已上 同¬疏ニ¼云ク、「述而ト者明ス↢孔子ノ行教ヲ↡。但シ述ブ↢尭舜ヲ↡。自比シテ↢老彭ニ↡而不↢制作セ↡者也。」 已上
二 正解文
【4】 △第二にまさしく文を解せば、 経論釈義の常の例に準依して、 文を分ちて三とす。 ▽一には序、 すなはち*序分。 ▽二には▲標列より下第六の末に ¬論語¼ の文を引くに至るまで▲は、 これ*正宗分。 ▽三には 「▲竊以」 より下、 終り巻を尽すに至るまでは*流通分なり。
第二ニ正ク解セバ↠文ヲ、准↢依シテ経論釈義ノ常ノ例ニ↡、分テ↠文ヲ為↠三ト。一ニハ序、即序分。二ニハ自↢標列↡下至マデハ↣第六ノ末ニ引ニ↢¬論語ノ¼文ヲ↡、是正宗分。三ニハ自↢「窃以」↡下、終至マデハ↠尽スニ↠巻ヲ流通分也。
二 Ⅰ 序文
【5】 △第一に序分の中において、 文を分ちて五となす。
第一ニ於テ↢序分ノ中ニ↡、分テ↠文ヲ為ス↠五ト。
▽一に文の初めより下 「恵日▲」 といふに至るまでは、 略して弥陀広大の利益を標す。
一従↢文ノ初↡下至マデハ↠言フニ↢「恵日ト」↡、略シテ標ス↢弥陀広大ノ利益ヲ↡。
▽二に 「▲然則」 より下 「闡提▲」 といふに至るまでは、 まづ ¬*観経¼ によりて教興の由を明かし、 ほぼ済凡救苦の大悲を述ぶ。
二従↢「然則」↡下至デハ↠言ニ↢「闡提ト」↡、先依テ↢¬観経ニ¼↡明シ↢教興ノ由ヲ↡、粗述ブ↢済凡救苦ノ大悲ヲ↡。
▽三に 「▲故知」 より下 「崇斯信▲」 に至るまでは、 重ねて名号希奇の勝徳を挙げて、 ことに下機易往の巨益を勧む。
三従↢「故知」↡下至デハ↢「崇斯信ニ」↡、重テ挙テ↢名号希奇ノ勝徳ヲ↡、特ニ勧ム↢下機易往ノ巨益ヲ↡。
▽四に 「▲噫弘誓」 より 「莫遅慮▲」 に至るまでは、 その聞法宿習の縁を顕して人をして随喜せしめ、 その未来*流転の報を悲しみてかたく疑慮を誡しむ。
四従↢「噫弘誓」↡至マデハ↢「莫遅慮ニ」↡、顕シテ↢其ノ聞法宿習之縁ヲ↡令 シメ↢人1000ヲシテ随喜セ↡、悲テ↢其ノ未来流転之報ヲ↡堅ク誡ム↢疑慮ヲ↡。
▽五に 「▲愚禿」 より下は、 三国伝来の師訓を受くることを悦びて、 聞持するところの実あることを演ぶらくのみ。
五従↢「愚禿」↡下ハ、悦テ↠受コトヲ↢三国伝来ノ師訓ヲ↡、演ラク↧所↢聞持↡之有コトヲ↞実耳。
二 Ⅰ ⅰ 略標弥陀広大利益
【6】 △初めの文の中に就きて、 「▲竊以」 といふは、 発端の言。 「▲難思の弘誓」 「▲無礙の光明」 は弥陀の徳を讃ず。 ともにこれ*十二光仏の中の名。 言を綺へてこれを嘆ず。
就テ↢初ノ文ノ中ニ↡、言↢「窃以ト」↡者、発端之言。「難思ノ弘誓」「无ノ光明ハ」讃ズ↢弥陀ノ徳ヲ↡。共ニ是十二光仏ノ中ノ名、綺ヘテ↠言ヲ嘆ズ↠之ヲ。
「▲難度海」 とはこれ*生死海、 ¬*十住毘婆沙論¼ (巻五易行品) にいはく、 「▲かの八道の船に乗じて、 よく難度海を度す。」 以上 これ弥陀の利益を讃ずる文なり。 ゆゑにこの言を用ゐる。
「難度海ト」者是生死海、¬十住毘婆沙論ニ¼云ク、「乗ジテ↢彼ノ八道ノ船ニ↡、能ク度ス↢難度海ヲ↡。」 已上 是讃ズル↢弥陀ノ利益ヲ↡文也。故ニ用ル↢此ノ言ヲ↡。
「▲無明」 といふは、 もし天台によらばこれに通別あり。 通惑といふは、 これ界内の惑、 *三毒の中の痴煩悩なり。 別惑といふは、 貪瞋痴に合して名づけて通惑となし、 塵沙と無明とこの二種の惑を名づけて別惑とす。
言↢「無明ト」↡者、若シ依ラバ↢天臺ニ↡此ニ有↢通別↡。言↢通惑ト↡者、是界内ノ惑、三毒之中ノ痴煩悩也。言↢別惑ト↡者、合シテ↢貪*嗔痴ニ↡名テ為シ↢通惑ト↡、塵沙ト无明ト此ノ二種ノ惑ヲ名テ為↢別惑ト↡。
「▲恵日」 といふは、 仏恵の明朗なる、 これを日光に譬ふ。
言↢「*恵日ト」↡者、仏恵ノ明朗ナル、譬フ↢之ヲ日光ニ↡。
¬大経¼ の下にいはく、 「▲慧日世間を照らし、 *生死の雲を消除す。」 以上
¬大経ノ¼下ニ云ク、「恵日照↢世間ヲ↡、消↢除ス生死ノ雲ヲ↡。」 已上
*憬興の釈 (*述文賛巻下) にいはく、 「慧日とは、 喩に随ふる名なり。 惑と業と苦との三、 よく真空および智の日月を覆ふ、 すなはち雲の虚空の日月を覆ふに同じ、 ゆゑに生死雲といふ。 仏智真に達して、 よく自他の惑業苦の障を除く、 ゆゑに慧日といふ。 物の解を生ぜしむるゆゑに、 照世間といふ。」 以上
憬興ノ釈ニ云ク、「恵日ト者、随ル↠喩ニ之名ナリ。惑ト業ト苦トノ三、能ク覆フ↢真空及ビ智ノ日月ヲ↡、即同ジ↣雲ノ覆ニ↢虚空ノ日月ヲ↡、故ニ云↢生死雲ト↡。仏智達シテ↠真ニ、能ク除ク↢自他ノ惑業苦ノ障ヲ↡、故ニ云フ↢恵日ト↡。令↠生ゼ↢物ノ解ヲ↡故ニ、云↢照世間ト↡。」 已上
¬*浄土論¼ にいはく、 「▲仏慧明浄の日、 世の痴闇冥を除く。」 以上
¬浄土論ニ¼云ク、「仏恵明浄ノ日、除ク↢世ノ痴闇冥ヲ↡。」 已上
鸞師の註 (*論註巻上) にいはく、 「▲この二句を荘厳光明功徳成就と名づく。 乃至 ▲願じてのたまはく、 わが国土をして所有の光明、 よく痴闇を除きて仏の智慧に入れ、 *無記の事をなさざらしめん。 ◆またいはく、 安楽国土の光明は如来の智慧の報より起るがゆゑに、 よく世間の冥を除く。」 以上
鸞師ノ¬註ニ¼云ク、「此ノ二句ヲ名ク↢荘厳光明功徳成就ト↡。 乃至 願ジテ言ハク、使↧シメン我ガ国土ヲシテ所有ノ光明、能ク除テ↢痴闇ヲ↡入レ↢仏ノ智恵ニ↡、不ラ↞為サ↢無記之事ヲ↡。亦云ク、安楽国土ノ光明ハ従リ↢如来ノ智恵ノ報↡起ルガ故ニ、能1001ク除ク↢世間ノ冥ヲ↡。」 已上
これらみな朗日の光照に寄せて弥陀の智光を称揚する文なり。
此等皆寄セテ↢朗日ノ光照ニ↡称↢揚スル弥陀ノ智光ヲ↡文也。
また大師 ¬観経¼ の 「唯願仏日」 の文を釈して (序分義) いはく、 「▲仏日といふは、 法・喩ならべて標す。 たとへば日出でて衆闇ことごとく除こるがごとし、 仏智光を輝かせば無明の夜日朗なり。」 以上
又大師釈シテ↢¬観経ノ¼「唯願仏日ノ」文ヲ↡云ク、「言↢仏日ト↡者、法・喩双ベテ標ス也。譬バ如シ↢日出デヽ衆闇尽ク除ルガ↡、仏智輝セバ↠光ヲ无明之夜日朗ナリ。」 已上
*浄影師同じき経文を釈して (観経義疏巻本) いはく、 「仏よく衆生の痴闇を破壊す、 日の昏を除くがごとし、 ゆゑに仏日といふ。」 以上
浄影師釈シテ↢同キ経文ヲ↡云ク、「仏能ク破↢壊ス衆生ノ痴闇ヲ↡、如シ↢日ノ除クガ↟昏ヲ、故ニ曰↢仏日ト↡。」 已上
いまいふところは、 これ釈迦を指す。 二仏異なりといへども、 仏徳の比況その義あひ同じ。
今所↠言者、是指ス↢釈迦ヲ↡。二仏雖↠異ナリト、仏徳ノ比況其ノ義相同ジ。
二 Ⅰ ⅱ 先依観経明教興由
【7】 △二にまづ ¬観経¼ によりて教興の由を明かす中に、 「▲浄邦」 といふは、 これ浄国を指す、 もしくは楽邦といふ、 すなはち*極楽なり。
二ニ先ヅ依テ↢¬観経ニ¼↡明ス↢教興ノ由ヲ↡中ニ、言↢「浄邦ト」↡者、是指ス↢浄国ヲ↡、若ハ云フ↢楽邦ト↡、即極楽也。
「▲調達」 といふは、 *提婆達多、 ともにこれ梵言、 ここには天熱といふ。
言↢「調達ト」↡者、提婆達多、共ニ是梵言、此ニハ云↢天熱ト↡。
「▲闍世」 といふは、 すなはち*阿闍世、 「序分義」 にいはく、 「▲阿闍世とはすなはちこれ西国の正音、 この地には往翻して未生怨と名づけ、 また折指と名づく。」 以上
言↢「闍世ト」↡者、即阿闍世、「序分義ニ」云ク、「阿闍世ト者乃是西国ノ正音、此ノ地ニハ往翻シテ名ケ↢未生怨ト↡、亦名ク↢折指ト↡。」 已上
「▲逆害を興す」 とは、 ¬経¼ (観経) にいはく、 「▲ひとりの太子あり、 阿闍世と名づく。 調達悪友の教に随順して、 ◆父の王*頻婆沙羅を収執して、 幽閉して七重の室の内に置く。」 以上 *序分の七縁、 解釈繁多なり。 つぶさに引くに遑あらず、 ことごとくかの文に譲る。
「興↢逆害ヲ↡」者、¬経ニ¼云ク、「有リ↢一ノ太子↡、名ク↢阿闍世ト↡。随↢順シテ調達悪友之教ニ↡、収↢執シテ父ノ王頻婆沙羅ヲ↡、幽閉シテ置ク↢於七重ノ室ノ内ニ↡。」 已上 序分ノ七縁、解釈繁多ナリ。不↠遑アラ↢具ニ引ニ↡、悉ク譲ル↢彼ノ文ニ↡。
「▲浄業」 といふは、 これ*念仏なり。
言↢「浄業ト」↡者、是念仏也。
問ふ。 ¬観経¼ にいはく、 「▲なんぢまさに繋念してあきらかにかの国を観ずべし、 浄業成ずる者なり。」 以上
問。¬観経¼云ク、「汝当ニシ↣繋念シテ諦ニ観ズ↢彼ノ国ヲ↡、浄業成ズル者ナリ。」 已上
大師釈して (序分義) いはく、 「▲汝当繋念といふ以下は、 まさしく凡惑障深くして心多く散動す、 もしたちまちに*攀縁を捨てずは、 浄境現ずることを得るに由なきことを明かす。 これすなはちまさしく安心住行を教ふ。 もしこの法によるをば名づけて浄業成ずとなすなり。」 以上
大師釈シテ云ク、「言↢汝当繋念ト↡已下ハ、正ク明ス↧凡惑障深シテ心多ク散動ス、若シ不ハ↣頓ニ捨↢攀縁ヲ↡、浄境无コトヲ↞由↠得ニ↠現コトヲ。此レ即正ク教フ↢安心住行ヲ↡。若依ルヲバ↢此ノ法ニ↡名テ為↢浄業成ズト↡也。」 已上
これ*観門を指してもつて浄業となす。
是指シテ↢観門ヲ↡以テ為ス↢浄1002業ト↡。
また同 ¬経¼ (観経) にいはく、 「▲また未来世の一切の*凡夫の浄業を修せんと欲はん者をして西方極楽国土に生ずることを得しめん。 ◆かの国に生ぜんと欲はん者は、 まさに*三福を修すべし。 乃至 ▲かくのごときの三事を名づけて浄業となす。 乃至 ▲この三種の業は、 過去・未来・現在の三世の諸仏の浄業の正因なり。」 以上
又同¬経ニ¼云ク、「亦*令ン↧未来世ノ一切ノ凡夫ノ欲ハン↠修セント↢浄業ヲ↡者ヲシテ得↞生コトヲ↢西方極楽国土ニ↡。欲ハン↠生ゼント↢彼ノ国ニ↡者ハ、当ニシ↠修ス↢三福ヲ↡。 乃至 如ノ↠此ノ三事ヲ名テ為ス↢浄業ト↡。 乃至 此ノ三種ノ業ハ、過去・未来・現在ノ三世ノ諸仏ノ浄業ノ正因ナリ。」 已上
これ三福を指して、 もつて浄業となす。
是指シテ↢三福ヲ↡、以テ為ス↢浄業ト↡。
また同 ¬経¼ (観経) にいはく、 「▲未来世の一切の衆生の煩悩の賊のために害せられん者のために、 ▽清浄の業を説かん。」 以上
又同¬経ニ¼云ク、「為ニ↧未来世ノ一切ノ衆生ノ為ニ↢煩悩ノ賊ノ↡之所レン↠害セ者ヽ↥、説ン↢清浄ノ業ヲ↡。」 已上
釈 (序分義) にいはく、 「▲説清浄業といふは、 これ如来衆生の罪を見そなはすをもつてのゆゑに、 ために*懴悔の方を説きたまふことを明かし、 相続をして断除せしめて、 畢竟じて永く清浄ならしめんと欲す。」 以上
¬釈¼云、「言↢説清浄業ト↡者、此レ明↧如来以テノ↠見スヲ↢衆生ノ罪ヲ↡故ニ、為ニ説タマフコトヲ↦懴悔之方ヲ↥、欲ス↧令シメテ↢相続ヲシテ断除セ↡、畢竟ジテ永ク令ント↦清浄ナラ↥。」 已上
これらの経釈、 あるいは定観に約し、 あるいは*散善に約し、 あるいは懴悔に約して、 浄業の名を立つ。 なんぞ念仏といはんや。
此等ノ経釈、或ハ約シ↢定観ニ↡、或ハ約シ↢散善ニ↡、或ハ約シテ↢懴悔ニ↡、立ツ↢浄業ノ名ヲ↡。何ゾ云ンヤ↢念仏ト↡。
答ふ。 これにおいて一往・再往、 顕説・隠説、 随他・随自等の差別あるべし。 いはく浄業の名、 もろもろの善法において遮するところなしといへども、 もし定散・懴悔の方等に約するは、 一往・*顕説・*随他意語なり、 出だし難ずるところの諸文これなり。 もし念仏をもつて清浄業と名づくるは、 再往・*隠説・*随自意語なり。
答。於テ↠此ニ可↠有↢一往・再往、顕説・隠説、随他・随自等之差別↡。謂ク浄業ノ名、於テ↢諸ノ善法ニ↡雖↠無ト↠所↠遮スル、若シ約スルハ↢定散・懴悔ノ方等ニ↡、一往・顕説・随他意語ナリ、所ノ↢出シ難ズル↡之諸文是也。若シ以テ↢念仏ヲ↡名ルハ↢清浄業ト↡、再往・隠説・随自意語ナリ。
すなはち 「△説清浄業」 (観経) の経文を釈するに、 二重の釈あり。 初重の釈は、 問端に備ふる△懴悔の文これなり。
即釈ニ↢「説清浄業ノ」経文ヲ↡、有リ↢二重ノ釈↡。初重ノ釈者、備ル↢問端ニ↡之懴悔ノ文ノ是ナリ。
二重の釈 (序分義) にいはく、 「▲また清浄といふは、 下の観門によりて専心に念仏して、 想を西方に注めて、 念々に罪除こるゆゑに清浄なり。」 以上 これ随自意なり、 知るゆゑんは、 これかの ¬経¼ の▲持名の附属ならびに大師 「▲雖説定散意在専称」 (散善義意) と釈したまふ文の意によるらくのみ。
二重ノ釈ニ云ク、「又言↢清浄ト↡者、依テ↢下ノ観門ニ↡専心ニ念仏シテ、注メテ↢想ヲ西方ニ↡、念々ニ罪除ル故ニ清浄也。」 已上 是随自意ナリ、所↢以知↡者、是依ルラク↧彼ノ¬経ノ¼持名ノ附属並ニ大師釈シタマフ↢「雖説定散意在専称ト」↡之文ノ意ニ↥耳。
「▲釈迦」 といふは、 今日の教主、 度沃焦といふ。
言↢「釈迦ト」↡者、今日ノ教主、云フ↢度沃焦ト↡。
「▲韋提」 といふは、 夫人の名、 ここには思惟といふ。
言↢「韋提ト」↡者、夫人1003之名、此ニハ云フ↢思惟ト↡。
「▲安養を選ぶ」 とは、 ¬経¼ (観経) にいはく、 「▲時に韋提希仏にまうしてまうさく、 世尊、 このもろもろの仏土、 また清浄にしてみな光明ありといへども、 ◆われいま極楽世界の阿弥陀仏の所に生ぜんと楽ふ。」 以上
「選↢安養ヲ↡」者、¬経ニ¼云ク、「時ニ韋提希白シテ↠仏ニ言ク、世尊、是ノ諸ノ仏土、雖↣復清浄ニシテ皆有ト↢光明↡、我今楽フ↠生ゼント↢極楽世界ノ阿弥陀仏ノ所ニ↡。」 已上
釈 (序分義) にいはく、 「▲時韋提白仏より下皆有光明に至るこのかたは、 まさしく夫人総じて所見を領して、 仏恩を感荷することを明かす。 ◆これ夫人総じて十方の仏国を見るに、 ならびにみな精華なれども、 極楽の荘厳に比せんと欲するに、 まつたく比況にあらず、 ゆゑに我今楽生安楽国といふを明かす。 乃至 ▲我今楽生弥陀より以下は、 まさしく夫人別して所求を選ぶことを明かす。 ◆これ弥陀の本国四十八願なり、 ◆願々みな増上の勝因を発す。 乃至 ▲諸余の経典に▽勧むる処いよいよ多し、 衆聖心を斉しくしてみな同じく指讃す、 ◆この因縁ありて、 ▽如来ひそかに夫人を遣はして別して選ばしむることを致すことを明かす。」 以上
¬釈ニ¼*曰ク、「従↢時韋提白仏↡下至↢皆有光明↡已来ハ、正ク明ス↧夫人総ジテ領シテ↢所見ヲ↡、感↦荷スルコトヲ仏恩ヲ↥。此レ明ス↧夫人総ジテ見ニ↢十方ノ仏国ヲ↡、竝ニ皆精華ナレドモ、欲スルニ↠比セント↢極楽ノ荘厳ニ↡、全ク非ズ↢比況ニ↡、故ニ云フヲ↦我今楽生安楽国ト↥也。 乃至 従↢我今楽生弥陀↡已下ハ、正ク明ス↣夫人別シテ選ブコトヲ↢所求ヲ↡。此レ明ス↧弥陀ノ本国四十八願ナリ、願願皆発ス↢増上ノ勝因ヲ↡。 乃至 諸余ノ経典ニ勧処弥多シ、衆聖*斉シテ↠心ヲ皆同ク指讃ス、有テ↢此ノ因縁↡、致コトヲ↞使ルコトヲ↧如来密ニ遣シテ↢夫人ヲ↡別シテ選バ↥也。」 已上
▼問ふ。 夫人の別選はただみづから選ぶべし。 いま△致使如来密遣夫人といふ、 その意いかん。
問。夫人ノ別選ハ只可シ↢自選↡。今云フ↢致使如来密遣夫人ト↡、其ノ意如何。
答ふ。 これに二義あり。 一義にいはく、 韋提は凡夫、 心想羸劣なり。 おそらくはこれ諸土の勝劣を弁へがたからんことを、 このゆゑに如来ひそかに神力を加へて選取せしむるなり。 一義にいはく、 在世は多く権、 分極*凡聖たがひに主伴となして、 おのおの仏化を助く。 *能化・*所化同じくともに済凡の教を発起す。 これすなはち未来の実機を度せんがためなり。
答。此ニ有↢二義↡。一義ニ云ク、韋提ハ凡夫、心想羸劣ナリ。恐ハ是難ンコトヲ↠辨ヘ↢諸土ノ勝劣ヲ↡、是ノ故ニ如来密ニ加ヘテ↢神力ヲ↡令ル↢選取↡也。一義ニ云ク、在世ハ多ク権、分極凡聖互ニ為シテ↢主伴ト↡、各助ク↢仏化ヲ↡。能化・所化同ク共ニ発↢起ス済凡之教ヲ↡。是則為ナリ↠度センガ↢未来ノ実機ヲ↡。
¬法事讃¼ (巻下) にいはく、 「▲仏・声聞・菩薩衆と同じく舎衛に遊び祇園に住す。」 以上
¬法事讃ニ¼云ク、「与↢仏・声聞・菩薩衆↡同ク遊ビ↢舎衛ニ↡住ス↢祇園ニ↡。」 已上
仏与といはず、 すでに与仏といふ。 能所同心その意知りぬべし。 密に二義あり。 もし初めの義に約せば、 如来ひそかにその神力を加するがゆゑに、 ただちに夫人をしてひそかに上の 「△勧処弥多皆同指讃通別の因縁」 を領解せしむ。 しかもいまだ顕説せず。 ゆゑに説きて密となす。 もし後の義に約せば、 如来・韋提ともに因縁を知る、 しばらく衆会に望めてこれを密となすなり。
不↠云ハ↢仏与ト↡、已ニ云フ↢与仏ト↡。能所同心其ノ意可シ↠知ル。密ニ有↢二義↡。若シ約セバ↢初ノ義ニ↡、如来冥ニ加スルガ↢其ノ神力ヲ↡故ニ、直ニ令ム↧夫人ヲシテ密ニ領↦解セ上ノ勧処弥多皆同指1004讃通別ノ因縁ヲ↥。然モ未ダ↢顕説セ↡、故ニ説テ為ス↠密ト。若シ約セバ↢後ノ義ニ↡、如来韋提共ニ知ル↢因縁ヲ↡、且ク望メテ↢衆会ニ↡是レヲ為↠密ト也。
*「▲権化の仁」 とは、 もし初めの義によらば仏を指す、 すなはちこれ*世雄。 上下殊なりといへどもこれ別にあらず。 もし後の義によらば、 通じて調達・闍世・韋提を指す、 発起衆なり。
「権化ノ仁ト」者、若シ依ラ↢初ノ義ニ↡者指ス↠仏ヲ、即是世雄。上下雖ドモ↠殊ト是非ズ↠別ニ也。若シ拠ラ↢後ノ義ニ↡者、通ジテ指ス↢調達・闍世・韋提ヲ↡、発起衆也。
「▲群萌」 といふは、 これ衆生の名、 衆生の心中に*仏種あるがゆゑに、 法潤を蒙る類仏道の芽を生ず。 この理あまねく一切衆生に通ず、 ゆゑに 「*群萌」 といふ。
言↢「群萌ト」↡者、是衆生ノ名、衆生ノ心中ニ有ガ↢仏種↡故ニ、蒙ル↢法潤ヲ↡類生ズ↢仏道ノ芽ヲ↡。此ノ理普ク通ズ↢一切衆生ニ↡、故ニ云↢「群萌ト」↡。
¬大経¼ 上にいはく、 「▲群萌を拯ひて恵むに真実の利をもつてせんと欲してなり。」 以上
¬大経¼上ニ云、「欲シテナリ↧拯テ↢群萌ヲ↡恵ニ以セント↦真実之利ヲ↥。」 已上
¬玄義¼ (玄義分) にいはく、 「▲*甘露を灑ぎて群萌を潤す。」 以上
¬玄義ニ¼云ク、「灑テ↢甘露ヲ↡潤ス↢於群萌ヲ↡。」 已上
「▲世雄」 といふは、 これ世尊の名、 また雄猛といふ。
言↢「世雄ト」↡者、是世尊ノ名、又云フ↢雄猛ト↡。
▲「逆謗」 とらは、 重悪の機を挙ぐ。 「逆」 はいはく*五逆、 ▲第三の末にあり 「謗」 はいはく*謗法。 同上
「逆謗ト」等者、挙グ↢重悪ノ機ヲ↡。「逆ハ」謂ク五逆 在リ↢第三ノ末ニ↡、「謗ハ」謂ク謗法。 同上
「▲闡提」 といふは、 ¬涅槃経¼ (北本巻二六徳王品、 南本巻二四徳王品) にいはく、 「一闡は信と名づく、 提は不具に名づく。 信具せざるがゆゑに一闡提と名づく。」 以上 つぶさには一闡提といふ、 いま略して闡提といふ。 かの 「玄義」 (玄義分) に 「▲謗法と無信」 といふ、 無信これなり。 無信といふは、 仏法を聞くといへどもすべて信謗なし。 これをもつてこれを謂ふに謗法なほ重し。
言↢「闡提ト」↡者、¬涅槃経ニ¼云ク、「一闡ハ名ク↠信ト、提ハ名ク↢不具ニ↡。信不ガ↠具セ故ニ名ク↢一闡提ト↡。」 已上 具ニハ云↢一闡提ト↡、今略シテ云フ↢闡提ト↡。彼ノ「玄義ニ」云フ↣「謗法ト与↢无信↡」、无信是也。言↢无信ト↡者、雖↠聞ト↢仏法ヲ↡都テ无シ↢信謗↡。以テ↠之ヲ謂ニ↠之ヲ謗法猶重シ。
二 Ⅰ ⅲ 重挙名号希奇勝徳
【8】 △三に重ねて名号の勝徳を挙ぐる文の中に、
三ニ重テ挙ル↢名号ノ勝徳ヲ↡文ノ中ニ、
「▲円融」 といふは、 これ隔歴に対す。 すなはちこれ円満融通の義なり。 この阿弥陀の三字は、 すなはちこれ空・仮・中の三諦の理なるがゆゑに、 名づけて 「円融至徳の嘉号」 といふ。
言↢「円融ト」↡者、是対ス↢隔歴ニ↡。乃是円満融通之義ナリ。此ノ阿弥陀ノ三字ハ、即是為ルガ↢空・仮・中ノ三諦ノ理↡故ニ、名テ曰↢「円融至徳嘉号ト」↡。
▲「↓難信↓金剛の信楽」 とらは、 *他力*真実信心の相なり。
「難信金剛ノ信楽ト」等者、他力真実信心ノ相也。
「↑難信」 といふは、 ¬大経¼ の下にいはく、 「▲*憍慢と*弊と*懈怠とは、 もつてこの法を信じがたし。」 以上 またいはく、 「▲人信慧あること難し。」 以上 またいはく、 「▲もしこの経を聞きて信楽受持すること、 難が中の難なり、 これに過ぎて難はなし。」 以上 ¬小経¼ にいはく、 「▲一切世間のために、 この難信の法を説く、 これを甚難となす。」 以上
言↢「難信ト」↡者、¬大経ノ¼下云ク、「憍慢ト弊ト懈怠トハ、難シ↣以テ信ジ↢此ノ法ヲ↡。」 已上 又1005云ク、「人有コト↢信慧↡難シ。」 已上 又云ク、「若シ聞テ↢斯ノ経ヲ↡信楽受持コト、難ガ中ノ之難ナリ、無シ↢過テ↠此ニ難ハ↡。」 已上 ¬小経ニ¼云ク、「為ニ↢一切世間ノ↡、説ク↢此ノ難信ノ之法ヲ↡、是ヲ為ス↢甚難ト↡。」 已上
「↑金剛」 といふは、 他力の信楽堅固にして動ぜざること喩を金剛に仮る、 これ不壊の義なり。
言↢「金剛ト」↡者、他力ノ信楽堅固ニシテ不ルコト↠動ゼ仮ル↢喩ヲ金剛ニ↡、是不壊ノ義ナリ。
問ふ。 金剛の体においていくばくの徳かあるや。
問。於テ↢金剛ノ体ニ↡有↢幾ノ徳カ↡耶。
答ふ。 梁の ¬摂論¼ (真諦訳摂論釈巻一三) にいはく、 「四義あるがゆゑに金剛をもつて*三摩提に譬ふ。 一にはよく煩悩の山を破す、 二にはよく無余の功徳を引す、 三には堅実にして破壊すべからず、 四には用利にしてよく智慧をして一切の法を通達して無礙ならしむ。」 以上 いまこの文による。
答。梁ノ¬摂論ニ¼云ク、「有ガ↢四義↡故ニ以テ↢金剛ヲ↡譬↢三摩提ニ↡。一ニハ能ク破ス↢煩悩ノ山ヲ↡、二ニハ能ク引ス↢无余ノ功徳ヲ↡、三ニハ堅実ニシテ不↠可↢破壊ス↡、四ニハ用利ニシテ能ク令 シム↧智慧ヲシテ通↢達シテ一切ノ法ヲ↡无礙ナラ↥。」 已上 今依ル↢此ノ文ニ↡。
「▲疑を除く」 といふは、 よく煩悩を破す、 用利なるは通達無礙の徳なり。
言↠「除ト↠疑ヲ」者、能ク破ス↢煩悩ヲ↡、用利ナルハ通達无礙ノ徳也。
「▲徳を獲しむ」 といふは、 よく功徳を引す、 堅実の義なり。
言↠「獲シムト↠徳ヲ」者、能ク引ス↢功徳ヲ↡、堅実ノ義也。
¬金剛頂経の疏¼ (巻一) にいはく、 「金剛とは、 これ堅固・利用の二義、 すなはち喩の名なり。 堅固をばもつて実相に譬ふ、 不思議秘密の理、 常在不壊なり。 利用をばもつて如来の智用に喩ふ、 惑障を摧破して証極を顕す。」 以上
¬金剛頂経ノ疏ニ¼云ク、「金剛ト者、是堅固・利用ノ二義、即喩ノ名也。堅固ヲバ以テ譬フ↢実相ニ↡、不思議秘密之理、常在不壊也。利用ヲバ以テ喩フ↢如来ノ智用ニ↡、摧↢破シテ惑障ヲ↡顕ス↢証極ヲ↡。」 已上
堅固によるがゆゑに如来真実の功徳を獲得す、 利用によるがゆゑに疑網所覆の迷を除却す。
由ガ↢堅固ニ↡故ニ獲↢得ス如来真実ノ功徳ヲ↡、由ガ↢利用ニ↡故ニ除↢却ス疑網所覆ノ迷ヲ↡也。
また (金剛頂経疏巻一) いはく、 「世間の金剛に三種の義あり。 一不可壊、 二宝中の宝、 三戦具中の勝。」 以上
又云ク、「世間ノ金剛ニ有リ↢三種ノ義↡。一不可壊、二宝中之宝、三戦具中勝。」 已上
また ¬梵網の古迹¼ の上にいはく、 「金の中の精牢を名づけて金剛といふ。」 以上
又¬梵網ノ古迹ノ¼上ニ云ク、「金ノ中ノ精牢ヲ名テ曰フ↢金剛ト↡。」 已上
これらの文をもつて、 まさに金剛堅固の義を知るべし。
以テ↢此等ノ文ヲ↡、応↠知↢金剛堅固之義ヲ↡。
問ふ。 出だすところの諸文、 みな仏果の功徳をもつてかの金剛に譬ふ。 いま凡夫浅位の信楽に譬ふ。 なんぞたやすくこれに比せん。
問。所ノ↠出ス諸文、皆以テ↢仏果ノ功徳ヲ↡譬↢彼ノ金剛ニ↡。今譬フ↢凡夫浅位ノ信楽ニ↡。何ゾ輙ク比セン↠之ニ。
答ふ。 凡夫所発の信心に似たりといへども、 この心如来選択の願心より発起す。 このゆゑにまつたく凡夫浅位、 自力の信にあらざるがゆゑに、 あるいは清浄といひ、 あるいは真実といふ。
答。雖↠似タリト↢凡夫所発ノ信心ニ↡、此ノ心発↢起ス如来選択ノ願心ヨリ↡。是ノ故ニ全1006ク非ガ↢凡夫浅位、自力ノ信ニ↡故ニ、或ハ云ヒ↢清浄ト↡、或ハ云フ↢真実ト↡。
ゆゑに 「玄義」 (玄義分) にいはく、 「▲ともに金剛の志を発せば、 横に四流を超断す。」 以上
故ニ「玄義ニ」云ク、「共ニ発セバ↢金剛ノ志ヲ↡、横ニ超↢断ス四流ヲ↡。」 已上
「散善義」 にいはく、 「▲この心深く信ぜることなほし金剛のごとし。」 以上
「散善義ニ」云ク、「此ノ心深ク信ゼルコト由シ若シ↢金剛ノ↡。」 已上
師釈すでにしかり、 いまの釈失なし。
師釈既ニ爾リ、今ノ釈无シ↠失。
「▲捷径」 といふは、 速疾の道なり。 ¬宋韻¼ にいはく、 「捷、 疾葉の切、 獲なり、 次なり、 疾なり、 剋なり、 勝なり、 成なり。 ¬説文¼、 猟なり、 軍の獲得なり。」 ¬*楽邦文類¼ (第二章) にいはく、 「▲総官*張掄がいはく、 八万四千の法門、 この捷径にしくなし。」 以上第二巻にこれを引く。
言↢「捷径ト」↡者、速疾ノ道也。¬宋韻¼云、「*捷疾葉切、獲也、次也、疾也、剋也、勝也、成也。¬説文¼、猟也、軍ノ獲得也。」¬楽邦文類ニ¼云ク、「綜官張掄ガ云ク、八万四千ノ法門、无シ↠如↢是ノ之捷径ニ↡。」 已上第二巻引↠之
「▲如来の発遣」 とは、 これ釈尊の指授。
「如来ノ発遣ト」者、是釈尊ノ指授。
「▲最勝の直道」 とは、 これ弥陀の願力。
「最勝ノ直道ト」者、是弥陀ノ願力。
「散善義」 *二河の譬喩にいはく、 「▲仰ぎて釈迦の*発遣して指して西方に向へたまふことを蒙り、 また弥陀の悲心*招換したまふによりて、 いま*二尊の意に信順して、 水火の二河を顧みず、 念々に遺るることなくかの願力の道に乗じて、 捨命以後かの国に生ずることを得て、 仏とあひ見えて慶喜することなんぞ極まらん。」 以上
「散善義」二河ノ譬喩ニ云ク、「仰テ蒙ブリ↣釈迦ノ発遣シテ指シテ向ヘタマフコトヲ↢西方ニ↡、又藉テ↢弥陀ノ悲心招換シタマフニ↡、今信↢順シテ二尊之意ニ↡、不↠顧↢水火ノ二河ヲ↡、念々ニ无ク↠遺コト、乗ジテ↢彼ノ願力之道ニ↡、捨命已後得テ↠生ズルコトヲ↢彼ノ国ニ↡、与↠仏相見テ慶喜コト何ゾ極ラム也。」 已上
二 Ⅰ ⅳ 顕其聞法宿習之縁
【9】△四に聞法の縁を顕して、 人をして随喜せしめ、 および疑慮を誡むるの文見やすし。
四ニ顕シテ↢聞法ノ縁ヲ↡、令メ↢人ヲシテ随喜セ↡、及ビ誡ル↢疑慮ヲ↡之文易シ↠見。
「▲真言」 といふは、 *陀羅尼にあらず。 別しては真宗誠言の理により、 総じては仏語誠実の義によりて真言といふなり。
言↢「真言ト」↡者、非ズ↢陀羅尼ニ↡。別シテハ由リ↢真宗誠言之理ニ↡、総ジテハ依テ↢仏語誠実之義ニ↡曰↢真言ト↡也。
問ふ。 言ふところの義、 例証ありや。
問。所ノ↠言之義、有↢例証↡乎。
答ふ。 ¬安楽集¼ の上にいはく、 「▲真言を採集して、 往益を助成す。」 以上 また ¬*五会讃¼ (巻本) にいはく、 「これはこれ釈迦三世の諸仏誠諦の真言なり、 もつて信敬をなすに足れり、 依行すべしと。」 これその例なり。
答。¬安楽集ノ¼上ニ云ク、「採↢集シテ真言ヲ↡、助↢成ス往益ヲ↡。」 已上 又¬五会讃ニ¼云ク、「此ハ是釈迦三世ノ諸仏誠諦ノ真言ナリ、足レリ↣以テ為ニ↢信敬ヲ↡、可シト↢依行ス↡。」是其ノ例也。
二 Ⅰ ⅴ 悦受三国伝来師訓
【10】△五に師訓を受くることを悦びて聞持を述ぶる中に、 「▲西蕃」 といふは、 これ西天なり、 まさしくは 「天竺」 といふ。 「西」 は震旦に対す、 すなはちこれ 「月支」、 「支」 にはまた氏を用ゐる。
五1007ニ悦テ↠受コトヲ↢師訓ヲ↡述ル↢聞持ヲ↡中ニ、言↢「西蕃ト」↡者、是西天也、正ハ云フ↢天竺ト↡。「西ハ」対ス↢震旦ニ↡、即是「月支」、「支ニハ」又用ル↠氏ヲ。
「▲東夏」 といふは、 すなはちこれ*震旦。 「東」 は天竺に対す、 「夏」 は中国の名。 「夏」 ¬宋韻¼ にいはく、 「大なり、 また諸。」 「夏」 一 (説文) にいはく、 「中国の人。」 以上
言↢「東夏ト」↡者、即是震旦。「東ハ」対ス↢天竺ニ↡、「夏ハ」中国ノ名。「夏」¬宋韻¼云、「大也、又諸。」「夏」一ニ曰ク、「中国之人。」 已上
「▲真宗」 といふは、 ▽下に至りてつまびらかにすべし。
言↢「真宗ト」↡者、至テ↠下ニ可シ↠詳ニス。
二 Ⅱ 正宗分
【11】△第二に正宗中において、 巻を分ちて六となす。 ▽教・▽行・▽信・▽証・▽真・▽化仏土、 一より六に至るまで次いでのごとくこれを明かす。
第二ニ於テ↢正宗ノ中ニ↡、分テ↠巻ヲ為ス↠六ト。教・行・信・証・真・化仏土、従↠一至マデ↠六ニ如ク↠次ノ明ス↠之ヲ。
二 Ⅱ ⅰ 教
【12】△当巻大文第一に教を明かす。 中において五となす。
当巻大文第一ニ明ス↠教ヲ。於テ↠中ニ為ス↠五ト。
▽一は標列、 次第文のごとし。 ▽二は題目。 ▽三は標挙、 題の後の一行なり。 ▽四は正釈、 文の初めより下興の釈を引くに至る。 ▽五は総結、 「▲爾者」 以下これその文なり。
一者標列、次第如シ↠文ノ。二者題目。三者標挙、題ノ後ノ一行ナリ。四者正釈、自リ↢文ノ初↡下至ル↠引ニ↢興ノ釈ヲ↡。五者総結、「爾者」以下是其ノ文也。
二 Ⅱ ⅰ a 標列
【13】△初め標列に就きて。
初就テ↢標列ニ↡。
問ふ。 題目の標するところ、 教行証にあり。 三の外にさらに信と真仏土とおよび化身土とを加ふ。 首題の中においてこれらを摂しがたし。 しかれば題において未尽の過あり、 いかん。
問。題目ノ所↠標スル、在リ↢教行証ニ↡。三ノ外ニ更ニ加フ↢信ト真仏土ト及ビ化身土トヲ↡。於テ↢首題ノ中ニ↡難シ↠摂シ↢此等ヲ↡。然者於テ↠題ニ有リ↢未尽ノ過↡、如何。
答ふ。 教行証の三は常途の教相なり、 信と真と化との土は今師の加ふるところなり。 常の教相に任せてその三を標すといへども、 最要たるによりて、 いま後の三を加ふ。 ただし題に余を摂しがたしといふに至りては、 行の中に信を摂し、 証の中に広く真・化仏土を摂す。 しかるゆゑんは、 行は所行の法、 信はこれ能信なり。
答。教行証ノ三ハ常途ノ教相ナリ、信ト真ト化トノ土ハ今師ノ所ナリ↠加ル。任テ↢常ノ教相ニ↡雖ヘドモ↠標スト↢其ノ三ヲ↡、依テ↠為ニ↢最要↡、今加フ↢後ノ三ヲ↡。但至テ↠云ニ↢題ニ難シト↟摂シ↠余ヲ者、行ノ中ニ*摂シ↠信ヲ、証ノ中ニ広ク摂ス↢真・化仏土ヲ↡。所↢以然ル↡者、行ハ所行ノ法、信ハ是能信ナリ。
ゆゑに 「玄義」 (玄義分) にいはく、 「▲南無といふはすなはちこれ帰命、 またこれ発願回向の義なり。 阿弥陀仏といふはすなはちこれその行なり。 この義をもつてのゆゑにかならず往生を得。」 以上
故ニ「玄義ニ」云ク、「言↢南无ト↡者即是帰命、亦是発1008願廻向之義ナリ。言↢阿弥陀仏ト↡者即是其ノ行ナリ。以ノ↢斯ノ義ヲ↡故ニ必得↢往生↡。」 已上
信行離れず、 機法これ一なり。 この義によるがゆゑに、 信をもつて行に摂す。 証において往生成仏・分証究竟、 遠近の差別ありといへども、 まづ往生をもつてその近果となす。 これすなはち証なり。 しかるに往生の後見るところの身土、 解行の異なるによりて真化ありといへども、 総じて証の中に摂す。 このゆゑにしばらく相摂の義門によるに、 題目の中において未尽の失なし。
信行不↠離レ、機法是一ナリ。由ガ↢此ノ義ニ↡故ニ、以テ↠信ヲ摂ス↠行ニ。於テ↠証ニ雖↠有ト↢往生成仏・分証究竟、遠近ノ差別↡、先ヅ以テ↢往生ヲ↡為ス↢其ノ近果ト↡。是則証也。然ニ往生ノ後所ノ↠見身土、依テ↢解行ノ異ニ↡雖↠有ト↢真化↡、総ジテ摂ス↢証ノ中ニ↡。是ノ故ニ且ク依ニ↢相摂ノ義門ニ↡、於テ↢題目ノ中ニ↡无シ↢未尽ノ失↡。
二 Ⅱ ⅰ b 題目
【14】△二に題目を明かす中に、 また分ちて二とす。 ▽初めにまさしく題を明かし、 ▽次に撰号を釈す。
二ニ明ス↢題目ヲ↡中ニ、又分テ為↠二ト。初ニ正ク明シ↠題ヲ、次ニ釈ス↢撰号ヲ↡。
二 Ⅱ ⅰ b イ 題
【15】△初めに題を明かす中に、
初ニ明ス↠題ヲ中ニ、
問ふ。 ▲首題上にあり、 なんぞ重ねて挙ぐるや。
問。首題在リ↠上ニ、何ゾ重テ挙ルヤ邪。
答ふ。 上の首題は一部の総称なり。 このゆゑに整足して 「教行証」 といふ。 すなはち通じて 「序」 を加ふ。 いまの題額は当巻の別号なり。 ゆゑに行証を略し、 ▼ただ 「▲教」 の字を置きて、 序を除き 「▲一」 を加ふ。 このゆゑに重ねて題する、 もつとも義趣を得たり。
答。上ノ首題者一部ノ総称ナリ。是ノ故ニ整足シテ云↢「教行証ト」↡。即通ジテ加フ↠「序ヲ」。今ノ題額者、当巻ノ別号ナリ。故ニ略シ↢行証ヲ↡、唯置テ↢「教ノ」字ヲ↡、除キ↠序ヲ加フ↠「一ヲ」。是ノ故ニ重テ題スル、最モ得タリ↢義趣ヲ↡。
問ふ。 教はただ当巻、 さらに余あることなし。 なんぞ 「一」 といふや。
問。教ハ唯当巻、更ニ无シ↠有コト↠余。何ゾ云↠「一ト」乎。
答ふ。 六巻の中においてその初めに居するがゆゑに、 これを称して一となす。 いはゆる 「真実教」 はすなはちこれ第一、 乃至 「顕化身土」 はすなはちこれ第六なり。 これすなはち大師 ¬観経義¼ の釈の首題の次第、 よろしく例証となすべし。 「玄義分巻第一」 乃至 「散善義巻第四」 といひて、 巻々あひ換つて、 おのおのその題を異にするがごとし。
答。於テ↢六巻ノ中ニ↡居スルガ↢其ノ初ニ↡故ニ、称シテ↠之ヲ為ス↠一ト。所謂「真実教ハ」即是第一、乃至「顕化身土ハ」即是第六ナリ。是則大師¬観経義ノ¼釈ノ首題ノ次第、宜クシ↠為ス↢例証ト↡。如シ↧云テ↢「玄義分巻第一」乃至「散善義巻第四ト」↡、巻々相換テ、各異ニスルガ↦其ノ題ヲ↥。
二 Ⅱ ⅰ b ロ 撰号
【16】△次に撰号の中に、
次ニ撰号ノ中ニ、
問ふ。 題名は重ねて挙ぐることその義しかるべし。 重ねて撰号を安ずるなんの要かあるや。
問。題名ハ重テ挙ルコト其ノ義可シ↠然。重テ安ズル↢撰号ヲ↡有↢何ノ要カ↡耶。
答ふ。 これ総別の差なり。 序の前の撰号は総じて一部に被らしむ、 いまは当巻において別してこれを安ず。 これ慇懃の義、 重ねて置くに過なし。 また異本あり、 序の前にこれなし。
答。是総別1009ノ差ナリ。序ノ前ノ撰号ハ総ジテ被シム↢一部ニ↡、今ハ於テ↢当巻ニ↡別シテ而安ズ↠之ヲ。是慇懃ノ義、重テ置ニ無シ↠過。又有リ↢異本↡、序ノ前ニ無シ↠之レ。
問ふ。 上には 「述」 の字を置き、 いまはあらためて 「▲集」 となす。 両所の不同、 なんの由かあるや。
問。上ニハ置キ↢「述ノ」字ヲ↡、今ハ改テ為ス↠「集ト」。両所ノ不同有↢何ノ由カ↡乎。
答ふ。 上に 「述」 といふは、 序は意を述ぶるがゆゑに。 いま 「集」 といふは、 多く文を集むるがゆゑに。
答。上ニ言↠「述ト」者、序ハ述ルガ↠意ヲ故ニ。今言↠「集ト」者、多ク集ルガ↠文ヲ故ニ。
二 Ⅱ ⅰ c 標挙
【17】△次に標挙に就きて、
次ニ就テ↢標挙ニ↡、
問ふ。 上の標列の中に、 「▲真実教」 と載する、 その義足りぬべし。 いま重ねてこれを挙ぐる、 あに繁重にあらずや。
問。上ノ標列ノ中ニ、載スル↢「真実教ト」↡、其ノ義可シ↠足ヌ。今重テ挙ル↠之ヲ、豈非ズヤ↢繁重ニ↡。
答ふ。 上の標列は、 広く一部に通ず。 いまの標挙は、 限りて当巻にあり。 いはんや標列の中に真実教の名目ありといへども、 いまだ教体を顕さず。 いま経名を挙げてその教体を明かす。 総別の異あり、 さらに繁重にあらず。 経名等の事、 ▽下に至りてつまびらかにすべし。
答。上ノ標列者、広ク通ズ↢一部ニ↡。今ノ標挙者、限テ在リ↢当巻ニ↡。況ヤ標列ノ中ニ雖↠有ト↢真実教ノ之名目↡、未ダ↠顕サ↢教体ヲ↡。今挙テ↢経名ヲ↡明ス↢其ノ教体ヲ↡。有リ↢総別ノ異↡、更ニ非ズ↢繁重ニ↡。 経名等ノ事、至テ↠下ニ可シ↠詳ニス。
二 Ⅱ ⅰ d 正釈
【18】△四に正釈の中に就きて、 文を分ちて三とす。 ▽文の初めより下 「経体也▲」 に至るまでは、 総じて教旨を標す。 ▽次に 「▲何以」 とらは、 これ徴問の言。 ▽「▲大無」 以下はこれまさしく文を引く。
四ニ就↢正釈ノ中ニ↡、分テ↠文ヲ為↠三ト。自↢文ノ初↡下至マデハ↢「経体也ニ」↡、総ジテ標ス↢教旨ヲ↡。次ニ「何以ト」等者、是徴問ノ言。「大無」以下ハ是正ク引ク↠文ヲ。
二 Ⅱ ⅰ d イ 総標
【19】△総標の中に就きて、 ▽文の初めより 「是也▲」 に至るまでは略して標す。 ▽「▲斯経」 より下 「実之利▲」 に至るまでは略して大意を叙す。 ▽「▲是以」 より下は経の宗体を明かす。
就テ↢総標ノ中ニ↡、自↢文ノ初↡至マデハ↢「是也ニ」↡略シテ標ス。自↢「斯経」↡下至マデハ↢「実之利ニ」↡略シテ叙ス↢大意ヲ↡。自↢「是以」↡下ハ明↢経ノ宗体ヲ↡。
二 Ⅱ ⅰ d イ (一)略標
【20】△初めに略標の中に、 「▲謹按」 といふは発端の言。 ▲「浄土」 とらは、 まづ宗の名を標して、 所説の真なることを顕す。
初ニ略標ノ中ニ、言↢「謹按ト」↡者発端之言。「浄土ト」等者、先ヅ標シテ↢宗ノ名ヲ↡、顕ス↢所説ノ真ナルコトヲ↡。
「▲真宗」 といふは、 すなはち浄土宗なり。 ¬散善義¼ にいはく、 「▲真宗遇ひがたし。」 以上 ¬五会讃¼ (巻本) にいはく、 「▲念仏成仏はこれ真宗なり。」 以上
言↢「真宗ト」↡者、即浄土宗也。¬散善義ニ¼云ク、「真宗叵↠遇。」 已上 ¬五会讃ニ¼云ク、「念仏成仏ハ是真宗ナリ。」 已上
問ふ。 ¬五会讃¼ (巻本) の中に、 ¬*大般若経¼ によりて*六根を離るる讃を作るにいはく、 「色性本来より障礙なし、 来なく去なきはこれ真宗なり。」 以上 声性・香性・味性・触性・法性、 みな同じ。 これ*般若をもつて真宗と名づくるか。
問。¬五会讃ノ¼中ニ、依↢¬大般若経ニ¼↡作ルニ↧離ルヽ↢六根ヲ↡讃ヲ↥云1010ク、「色性本来ヨリ无シ↢障↡、无↠来无キハ↠去是真宗ナリ。」 已上 声性・香性・味性・触性・法性、皆同ジ。是以テ↢般若ヲ↡名ル↢真宗ト↡歟。
また耆闍法師六宗を立つる時、 一には ¬*毘曇¼ をもつて因縁宗と名づく、 二には ¬*成実¼ をもつて仮名宗と名づく、 三には ¬*大品¼ および同じき ¬*大論¼ をもつて誑相宗と名づく、 四には ¬*涅槃¼ ならびに ¬*華厳経¼ をもつて常住宗と名づく、 五には ¬*法華¼ をもつて名づけて真宗という、 六には ¬*大集¼ をもつて名づけて円宗といふ。 この義のごとくならば、 真宗の名、 まさしく ¬法華¼ にあり。 なんぞ浄教に限りて独り真宗と名づくる。
又耆闍法師立ル↢六宗ヲ↡時、一ニハ以テ↢¬毘曇ヲ¼↡名ク↢因縁宗ト↡、二ニハ以テ↢¬成実ヲ¼↡名ク↢仮名宗ト↡、三ニハ以テ↢¬大品¼及ビ同キ¬大論ヲ¼↡名ク↢誑相宗ト↡、四ニハ以テ↢¬涅槃¼並ニ¬華厳経ヲ¼↡名ク↢常住宗ト↡、五ニハ以テ↢¬法*花ヲ¼↡名テ曰フ↢真宗ト↡、六ニハ以テ↢¬大集ヲ¼↡名テ曰フ↢円宗ト↡。如ナラ↢此ノ義ノ↡者、真宗之名、正ク在リ↢¬法*花ニ¼↡。何ゾ限テ↢浄教ニ↡独名ル↢真宗ト↡。
答ふ。 六根を離るる讃、 ¬般若¼ によるといへども、 すでにこれ ¬浄土五会讃¼ の文なり。 これすなはち浄土の法性常楽、 畢竟無生甚深の理、 ひそかに般若無相の空理に契ふ。 ゆゑに真宗の名、 かならずしも般若ならず。 これ浄土に被らしむ。 次に耆闍法師の立名に至りては、 法華と弥陀と、 *内証同体なり。 かれは為聖の教、 これは為凡の教。 所被の機、 聖凡殊なりといへども、 所説の法、 ともにこれ*一乗、 真宗の称、 彼此ひそかに通ず。 これはこれ*今家不共の別意なり。 総じてこれをいはば、 広く仏教において真宗の名を立つること、 また遮するところにあらず。
答。離ルヽ↢六根ヲ↡讃、雖↠依ルト↢¬般若ニ¼↡、既ニ是¬浄土五会讃ノ¼文ナリ。是則浄土ノ法性常楽、畢竟无生甚深ノ之理、冥ニ契フ↢般若无相ノ空理ニ↡。故ニ真宗ノ名、不↢必シモ般若ナラ↡。是被シム↢浄土ニ↡。次ニ至テハ↢耆闍法師ノ立名ニ↡、法*花ト弥陀ト、内証同体ナリ。彼ハ為聖ノ教、此ハ為凡ノ教。所被ノ之機、聖凡雖↠殊ナリト、所説之法、共ニ是一乗、真宗之称、彼此密ニ通ズ。此ハ是今家不共ノ別意ナリ。総ジテ而言ハヾ↠之ヲ、広ク於テ↢仏教ニ↡立ルコト↢真宗ノ名ヲ↡、又非ズ↠所ニ↠遮スル。
圭峰の ¬盂蘭盆経の疏¼ (巻上) にいはく、 「まことに真宗によりていまだ至らず、 周孔しばらく心を繋けしむ。」 以上 霊芝の同じき ¬新記¼ (盂蘭盆経疏新記巻上) にこれを釈していはく、 「真宗はすなはち仏教なり。」 以上
圭峯ノ¬盂蘭盆経ノ疏ニ¼云ク、「良ニ由テ↢真宗↡未ダ↠至ラ、周孔且ク使ム↠繋ケ↠心ヲ。」 已上 霊芝ノ同キ¬新記ニ¼釈シテ↠之ヲ云ク、「真宗ハ即仏教ナリ。」 已上
この義辺によれば、 ¬五会¼ と六宗所立の名と、 また限るところなし。 通別の両意、 ならびにこれを存ずべし。
依レバ↢此ノ義辺ニ↡、¬五会ト¼六宗所立之名ト、又无シ↠所↠限ル。通別ノ両意、竝ニ可シ↠存ズ↠之ヲ。
ただし真宗の名、 念仏門において、 ことにその理あり。 ¬大経¼ (巻上) には説きて 「▲真実之利」 となし、 ¬小経¼ にはまた 「▲説誠実言」 といふ。 *一代の教の中に、 実に凡夫出離の要道たり。 真実の宗旨、 その義知るべし。
但シ真宗ノ名、於テ↢念仏門ニ↡、殊ニ有リ↢其ノ理↡。¬大経ニハ¼説テ為シ↢「真実之利ト」↡、¬小経ニハ¼亦云フ↢「説誠実言ト」↡。一代ノ教ノ中ニ、実1011ニ為リ↢凡夫出離ノ要道↡。真実ノ宗旨、其ノ義応↠知。
▲「二種の回向」 ありとらいふは、 ¬論の註¼ より出でたり。
言↧有ト↢「二種ノ廻向」↡等↥者、出タリ↠自↢¬論ノ註¼↡。
かの ¬註¼ の下巻に解義分を明かすとして十重を立つる中の、 第二の*起観生信の章門に本論の文を引きていはく、 「▲いかなるか回向、 一切苦悩の衆生を捨てずして、 心につねに作願すらく。 回向を首となして、 大悲心を成就することを得たまへるがゆゑに。」 以上
彼ノ¬註ノ¼下巻ニ明ストシテ↢解義分ヲ↡立ル↢十重ヲ↡中ニ、第二ノ起観生信ノ章門ニ引テ↢本論ノ文ヲ↡云ク、「云何ナルカ廻向、不シテ↠捨↢一切苦悩ノ衆生ヲ↡、心ニ常ニ作願スラク。廻向ヲ為シテ↠首ト、得タマヘルガ↣成↢就スルコトヲ大悲心ヲ↡故ニ。」 已上
¬註¼ (論註巻下) にいはく、 「▲回向に二種の相あり。 一には往相、 二には還相。 ◆往相とは、 おのれが功徳をもつて 一切衆生に回施して作願すらく、 ともにかの阿弥陀如来の安楽浄土に往生せしめんと。 ◆還相とは、 かの国に生じをはりて、 奢摩他・毘婆舎那・方便力成就することを得て生死の*稠林に回入して一切衆生を教化して、 ともに仏道に向へしむるなり。 ◆もしは往もしは還、 みな衆生を抜きて生死海を渡さんがたり。 このゆゑに回向為首成就大悲心故といへり」 。 以上
¬註ニ¼云ク、「廻向ニ有リ↢二種ノ相↡。一者往相、二者還相。往相ト者、以テ↢己ガ功徳ヲ↡廻↢施シテ一切衆生ニ↡作願スラク、共ニ往↢生セシメント彼阿弥陀如来ノ安楽浄土ニ↡。還相ト者、生ジ↢彼ノ国ニ↡已テ、得テ↢奢摩他・毘婆舎那・方便力成就スルコトヲ↡、廻↢入シテ生死ノ稠林ニ↡教↢化シテ一切衆生ヲ↡、共ニ向ヘシムルナリ↢仏道ニ↡。若ハ往若ハ還、皆為リ↧抜テ↢衆生ヲ↡渡サンガ↦生死海ヲ↥。是ノ故ニ言↢廻向為首成就大悲心故ト↡。」 已上
▼問ふ。 いふところの 「回向」 は、 これ衆生所修の回向たりや、 はた如来所作の回向たりや。
問。所ノ↠言「廻向ハ」、是為ヤ↢衆生所修ノ廻向↡、将為ヤ↢如来所作ノ廻向↡。
答ふ。 *五念門の行は、 もとこれ衆生所修の行なり。 しかるにその本を尋ぬれば、 ▼ひとへに仏力をもつて*増上縁となして成就するところなるがゆゑに、 実をもつてしかも論ずれば、 諸仏菩薩みな五念をもつて菩提を得るがゆゑに、 弥陀の正覚すなはち五念を修してすみやかに成就することを得たまへり。 しかるに五門の中に、 この回向の行は、 往生の後、 出の功徳となして大悲を成就して生死海を度す。 仏の本願力をその本とするがゆゑに、 功を仏に推れば、 剋するところただ仏の回向たり。
答。五念門ノ行ハ、本是衆生所修ノ行也。而ニ尋レバ↢其ノ本ヲ↡、偏ニ以テ↢仏力ヲ↡為シテ↢増上縁ト↡所ナルガ↢成就スル↡故ニ、以テ↠実ヲ而モ論ズレバ、諸仏菩薩皆以テ↢五念ヲ↡得ルガ↢菩提ヲ↡故ニ、弥陀ノ正覚即修シテ↢五念ヲ↡速ニ得タマヘリ↢成就コトヲ↡。然ニ五門ノ中ニ、此ノ廻向ノ行ハ、往生ノ之後、為シテ↢出ノ功徳ト↡成↢就シテ大悲ヲ↡度ス↢生死海ヲ↡。仏ノ本願力ヲ為ガ↢其ノ本ト↡故ニ、推レバ↢功ヲ於仏ニ↡、所↠剋スル唯為リ↢仏ノ廻向↡也。
問ふ。 所立の義、 その証あるや。
問。所立ノ之義、有↢其ノ証↡耶。
答ふ。 同じき解義分の第十利行満足の章 (論註巻下) にいはく、 「▲また五種の門あり漸次に五種の功徳を成就す、 乃至 ▲出第五門とは、 大慈悲をもつて一切苦悩の衆生を観察して、 応化身を示し、 生死の園、 煩悩の林の中に回入して、 神通に遊戯して教化地に至る。 本願力の回向をもつてのゆゑに。 これを出第五門と名づく。 乃至 ▲菩薩かくのごとく五門の行を修して自利利他して、 すみやかに阿耨多羅三藐三菩提を成就することを得るがゆゑに。」 以上
答。同キ解義分ノ第十利行満足ノ章ニ云ク、「復有リ↢五種ノ門↡漸次ニ成↢就1012ス五種ノ功徳ヲ↡、 乃至 出第五門ト者、以テ↢大慈悲ヲ↡観↢察シテ一切苦悩ノ衆生ヲ↡、示シ↢応化身ヲ↡、廻↢入シテ生死ノ園、煩悩ノ林ノ中ニ↡、遊↢戯シテ神通ニ↡至ル↢教化地ニ↡。以ノ↢本願力ノ廻向ヲ↡故ニ。是ヲ名↢出第五門ト↡。 乃至 菩薩如ク↠是ノ修シテ↢五門ノ行ヲ↡自利々他シテ、速ニ得ガ↣成↢就スルコトヲ阿耨多羅三藐三菩提ヲ↡故。」 已上
¬註¼ (論註巻下) にいはく、 「▲問ふていはく、 なんの因縁ありてかすみやかに阿耨多羅三藐三菩提を成就することを得といふや。 ◆答へていはく、 ¬論¼ にいはく、 五門の行を修して、 自利利他成就するをもつてのゆゑに。 ◆しかるに覈にその本を求むるに、 阿弥陀如来を増上縁となす。 ◆他利と利他と、 談ずるに左右あり。 もし仏よりしていはば、 よろしく利他といふべし。 衆生よりしていはば、 よろしく他利といふべし。 いままさに仏力を談ぜんとす。 このゆゑに利他をもつてこれをいふ。 まさに知るべしこの意なり。 ◆おほよそこれかの浄土に生ずると、 およびかの菩薩人天所起の諸行と、 みな阿弥陀如来の本願力によるがゆゑなり。 なにをもつてかこれをいふとならば、 もし仏力にあらずは、 四十八願すなはちこれいたづらに設くるならん。」 以上この釈文▲第二巻にこれを引く。
¬註ニ¼云ク、「問曰、有テカ↢何ノ因縁↡、言フヤ↤速ニ得ト↣成↢就スルコトヲ阿耨多羅三藐三菩提ヲ↡。答曰ク、¬論ニ¼言ク、修シテ↢五門ノ行ヲ↡、以テノ↢自利利他成就スルヲ↡故ニ。然ニ覈ニ求ニ↢其ノ本ヲ↡、阿弥陀如来ヲ為ス↢増上縁ト↡。他利ト之与↢利他↡、談ズルニ有リ↢左右↡。若シ自シテ↠仏而言ハヾ、宜クシ↠言↢利他ト↡。自シテ↢衆生↡而言ハヾ、宜クシ↠言↢他利ト↡。今将 ス ニ↠談ゼント↢仏力ヲ↡。是ノ故ニ以テ↢利他ヲ↡言フ↠之ヲ。当ニ↠知此ノ意也。凡ソ是生ズルト↢彼ノ浄土ニ↡、及ビ彼ノ菩薩人天所起ノ諸行ト、皆縁ガ↢阿弥陀如来ノ本願力ニ↡故ナリ。何ヲ以テカ言フトナラバ↠之ヲ、若シ非ズハ↢仏力ニ↡、四十八願便是徒ニ設クルナラン。」 已上此ノ釈文第二巻引↠之
今家ことに如来他力回向の義を立つること、 もつぱらこの文による。
今家特ニ立コト↢如来他力廻向之義ヲ↡、専ラ依ル↢此ノ文ニ↡。
【21】▲「それ真実の教を顕さば」 とらは、
「夫レ顕サ↢真実ノ教ヲ↡者ト」等者、
△問ふ。 現行の本には 「無量寿経」 といふ、 「大」 の字を安ぜず。 いまなんぞこれを加ふる。
問。現行ノ本ニハ云フ↢「无量寿経ト」↡、不↠安ゼ↢「大ノ」字ヲ↡。今何ゾ加ル↠之ヲ。
答ふ。 いまこの ¬経¼ において広略の名あり。 広は経題のごとし。 略名を称する時これを 「大経」 といふ。 大部の辺によれば多の義に相応す。 仏願を説くに約すれば勝の義に符順す。 多勝の義を標すゆゑに 「大」 の字を加ふ。 崇重の義なり。
答。今於テ↢此ノ¬経ニ¼↡有リ↢広略ノ名↡。広ハ如シ↢経題ノ↡。称スル↢略名ヲ↡時謂フ↢之ヲ「大経ト」↡。依レバ↢大部ノ辺ニ↡相↢応ス多ノ義ニ↡。約スレバ↠説ニ↢仏願ヲ↡符↢順ス勝ノ義ニ↡。標ス↢多勝ノ義ヲ↡故ニ加フ↢「大ノ」字ヲ↡。崇重ノ義也。
問ふ。 異訳の経の中にはすでに 「大阿弥陀経」 の名あり、 おそらくは混乱すべし、 いかん。
問。異訳ノ経ノ中ニハ既ニ有リ↢「大阿弥陀経ノ」名↡、恐ハ可シ↢混乱ス↡、如何。
答ふ。 かれは梵語による、 これは漢音を用ゐる。 たとひ 「大」 の字ありともなんぞ混乱せんや。
答。彼ハ依ル↢梵1013語ニ↡、此ハ用ル↢漢音ヲ↡。縦ヒ有リトモ↢「大ノ」字↡何ゾ混乱セン耶。
問ふ。 この義は今家わたくしの意巧か、 もし証ありや。
問。此ノ義ハ今家私ノ意巧歟、若シ有リ↠証乎。
答ふ。 その文証あり。 ¬五会讃¼ (巻本) にいはく、 「いま ¬大無量寿経¼ の五会の念仏による。」 以上 またいはく、 「問ふていはく、 五会の念仏、 出でていづれの文にかある。 答へていはく、 ¬大無量寿経¼ にいはく、 あるいは宝樹あり、 車渠を本とす。 乃至 不退転に住して仏道を成るに至る。」 以上
答。有↢其ノ文証↡。¬五会讃ニ¼云、「今依↢¬大无量寿経ノ¼五会ノ念仏ニ↡。」 已上 又云、「問曰、五会ノ念仏、出デヽ在ル↢何ノ文ニカ↡。答曰、¬大无量寿経ニ¼云ク、或ハ有リ↢宝樹↡、車渠ヲ為↠本ト。 乃至 住シテ↢不退転ニ↡至ル↠成ニ↢仏道ヲ↡。」 已上
問ふ。 この ¬*双巻経¼ の翻訳いづれの時ぞ、 また異訳においていくばくの種かあるや。
問。此ノ¬双巻経¼翻訳何レノ時ゾ、又於テ↢異訳ニ↡有↢幾クノ種カ↡耶。
答ふ。 この二巻の ¬経¼ は、 曹魏の代に当りて印度の三蔵*康僧鎧訳す。 いまこの ¬経¼ は、 第四代に当る。 異訳の差において、 ¬内典録¼・¬衆経目録¼・¬*楽邦文類¼・¬*貞元の録¼ 等諸録の意によるに、 おほよそこの経に十二代の訳あり。 しかるにその中において、 *↓五存↓七欠なり。
答。此ノ二巻ノ¬経ハ¼、当テ↢曹魏ノ代ニ↡印度ノ三蔵康僧鎧訳ス。今此ノ¬経¼者、当ル↢第四代ニ↡。於テ↢異訳ノ差ニ↡、依ニ↢¬内典録¼・¬衆経目録¼・¬楽邦文類¼・¬貞元ノ録¼等諸録之意ニ↡、凡ノ此ノ経ニ有リ↢十二代ノ訳↡。而ニ於テ↢其ノ中ニ↡、五存七闕ナリ。
↑五存といふは、 一には ¬*無量清浄平等覚経¼ 二巻、 月氏の沙門*支婁迦懴、 後漢の代に訳す。 これ第二代なり。
言↢五存ト↡者、一ニハ¬无量清浄平等覚経¼二巻、月氏ノ沙門支婁迦懴、後漢ノ代ニ訳ス。是第二代ナリ。
二には ¬阿弥陀経¼ 二巻、 ¬*大阿弥陀経¼ と称するこれなり。 月氏の優婆塞*支謙、 字恭明、 呉の代に当りて訳す。 これ第三代なり。
二ニハ¬阿弥陀経¼二巻、称スル↢¬大阿弥陀経ト¼是也。月氏ノ優婆塞支謙、字恭明、当テ↢呉ノ代ニ↡訳ス。是第三代ナリ。
三にはいまの経これなり。 第四代に当る。
三今ノ経是也。当ル↢第四代ニ↡。
四には ¬*大宝積経¼ の 「*無量寿会」 二巻、 印度の三蔵*菩提流支 ここには覚愛といふ、 大唐の代に訳す。 この ¬経¼ 一百二十巻の中に、 第十七と八と、 一経四十九会の中にこれ第五会。 第十一代なり。
四¬大宝積経ノ¼「无量寿会」二巻、印度ノ三蔵菩提流支 此ニハ云↢覚愛↡ 大唐ノ代ニ訳ス。此ノ¬経¼一百二十巻ノ中ニ、第十七ト八ト、一経四十九会之中ニ是第五会。第十一代ナリ。
五には ¬*大乗無量寿荘厳経¼ 三巻、 西天の沙門*法賢三蔵、 大宋の代に訳す。 第十二代なり。
五¬大乗无量寿荘厳経¼三巻、西天ノ沙門法賢三蔵、大宋ノ代ニ訳ス。第十二代ナリ。
↑七欠といふは、 ¬無量寿経¼ 二巻、 安息国の沙門安清、 字世高、 後漢の代に訳す。 これ第一代なり。
言↢七闕ト↡者、¬无量寿経¼二巻、安息国ノ沙門安清、字世高、後漢ノ代1014ニ訳ス。是第一代ナリ。
二にまた ¬無量寿経¼ 二巻、 西域の沙門帛延、 曹魏の代に訳す。 これ第五代なり。
二又¬无量寿経¼二巻、西域ノ沙門帛延、曹魏ノ代ニ訳ス。是第五代ナリ。
三ににまた ¬無量寿経¼ 二巻、 沙門竺の曇摩羅密 ここには法護といふ、 晋の代に当りて訳す。 これ第六代なり。
三又¬无量寿経¼二巻、沙門竺ノ曇摩羅密 此云↢法護↡、当テ↢晋ノ代ニ↡訳ス。是第六代ナリ。
四にまた ¬無量寿至真等正覚経¼ 二巻、 また ¬楽仏土楽経¼ と名づく、 また ¬極楽仏土経¼ と名づく、 西域の沙門竺の法力、 東晋の代に訳す。 これ第七代なり。
四又¬无量寿至真等正覚経¼二巻、又名ク↢¬楽仏土楽経ト¼↡、又名ク↢¬極楽仏土経ト¼↡、西域ノ沙門竺ノ法力、東晋ノ代ニ訳ス。是第七代ナリ。
五に ¬新無量寿経¼ 二巻、 沙門仏陀跋陀羅 ここには覚賢といふ、 同代に当りて訳す。 これ第八代なり。
五¬新无量寿経¼二巻、沙門仏陀跋陀羅 此云↢覚賢↡、当テ↢同代↡訳ス。是第八代。
六に ¬新無量寿経¼ 二巻、 涼州の沙門宝雲、 宋代に当りて訳す。 これ第九代なり。
六¬新无量寿経¼二巻、涼州ノ沙門宝雲、当テ↢宋代ニ↡訳ス。是第九代ナリ。
七にまた ¬新無量寿経¼ 二巻、 𦋺賓国の沙門曇摩羅密多 ここには法秀といふ、 宋の代の訳なり。 これ第十代なり。
七又¬新无量寿経¼二巻、𦋺賓国ノ沙門曇摩羅密多 此云↢法秀↡、宋ノ代ノ訳也。是第十代ナリ。
十二代の中に、 ただ ¬荘厳経¼ は訳して三巻となす、 余の十一代はみな二巻となす。
十二代ノ中ニ、唯¬荘厳経ハ¼訳シテ為ス↢三巻ト↡、余ノ十一代ハ皆為ス↢二巻ト↡。
二 Ⅱ ⅰ d イ (二)大意
【22】△大意を叙する中に、
叙スル↢大意ヲ↡中ニ、
▲「弥陀、 誓を超発す」 とらは、 重誓の偈の意なり。 かの偈 (大経巻上) に説きていはく、 「▲われ超世の願を建つ、 かならず無上道に至らん。」 以上
「弥陀超↢発スト於誓ヲ↡」等者、重誓ノ偈ノ意ナリ。彼ノ偈ニ説テ云ク、「我レ建ツ↢超世ノ願ヲ↡、必ズ至ラン↢无上道ニ↡。」 已上
▲「広開」 とらは、 また同じき偈 (大経巻上) にいはく、 「▲衆のために宝蔵を開きて、 広く功徳の宝を施せん。」 以上
「広開ト」等者、又同キ偈ニ云ク、「為ニ↠衆ノ開テ↢宝蔵ヲ↡、広ク施セン↢功徳ノ宝ヲ↡。」 已上
▲「釈迦」 とらは、 ▽下の引文に至りてくはしくこれを解すべし。
「釈迦ト」等者、至テ↢下ノ引文ニ↡委ク可シ↠解ス↠之ヲ。
二 Ⅱ ⅰ d イ (三)宗体
【23】△宗体を明かす中に、
明ス↢宗体ヲ↡中ニ、
問ふ。 如来の本願はすなはちこれ名号なり。 しからば宗体なんの別かあるや。
問。如来ノ本願ハ即是名号ナリ。然ラ者宗体有↢何ノ別カ↡耶。
答ふ。 本願といふは、 まづ六八を指す。 これをもつて宗となす。 願々の所詮ひとへに念仏にあり。 これをもつて体となす。 このゆゑにしばらく総別をもつて異となす。
答。言↢本願ト↡者、先ズ指ス↢六八ヲ↡。以テ↠之ヲ為ス↠宗ト。願々ノ所詮偏ニ在リ↢念仏ニ↡。以テ↠之ヲ為ス↠体ト。是ノ故ニ且ク以テ↢総別ヲ↡為ス↠異ト。
二 Ⅱ ⅰ d ロ 徴問
【24】△次に徴問の中に、
次1015ニ徴問ノ中ニ、
問ふ。 先に判じて出世の大事といはず。 いまなんぞかくのごとく徴問を設くや。
問。先ニ不↣判ジテ云↢出世ノ大事ト↡。今何ゾ如ク↠此ノ設↢徴問ヲ↡耶。
答ふ。 仏の本願といひ仏の名号といひ、 出離の正道、 大悲の極際、 言を発さずといへども、 如来出世の大事これにあり。 ゆゑに徴問するなり。
答。云ヒ↢仏ノ本願ト↡云ヒ↢仏ノ名号ト↡、出離ノ正道、大悲ノ極際、雖↠不ト↠発サ↠言ヲ、如来出世ノ大事在リ↠之ニ。故ニ徴問スル也。
二 Ⅱ ⅰ d ハ 引文
【25】△まさしく文を引く中に、 またその四あり。 いはゆる ▽¬大経¼ とおよび ▽¬如来会¼ と ▽¬平等覚経¼ と▽憬興師の釈となり。
正ク引↠文中ニ、亦有↢其ノ四↡。所謂¬大経ト¼及ビ¬如来会ト¼¬平等覚経ト¼憬興師ノ釈トナリ。
二 Ⅱ ⅰ d ハ (一)大経
【26】△初めに ¬大経¼ の中に、 いまの所引は、 序分の終りの文なり。
初ニ¬大経ノ¼中ニ、今ノ所引者、序分ノ終ノ文ナリ。
しばらく浄影によらば、 所引の上の 「爾時世尊」 より下の 「願楽欲聞」 の句に至るまで、 文を分ちて六となす。 かの ¬疏¼ (浄影大経義疏巻上意) にいはく、 「五に爾時の下はまさしく発起を明かす。 中に三双六重あり。 ▲初めに如来の現相、 ▲次に尊者の下は阿難の請問、 ▲三に於是の下は如来の審問、 ▲四に阿難の下は阿難の実答、 ▲五に仏言の下は如来の嘆許、 ▲六に対曰の下は阿難の楽聞なり。」 以上
且ク依ラバ↢浄影ニ↡、従↢所引ノ上ノ「爾時世尊」↡至マデ↢下ノ「願楽欲聞」之句ニ↡、分テ↠文ヲ為ス↠六ト。彼ノ¬疏ニ¼云ク、「五ニ爾時ノ下ハ正ク明ス↢発起ヲ↡。中ニ有リ↢三双六重↡。初ニ如来ノ現相、次ニ尊者ノ下ハ阿難ノ請問、三ニ於是ノ下ハ如来ノ審問、四ニ阿難ノ下ハ阿難ノ実答、五ニ仏言ノ下ハ如来ノ嘆許、六ニ対曰ノ下ハ阿難ノ楽聞ナリ。」 已上
この科文の内、 いまの所引の文は、 初めの現相とならびに請問の初めの座起等の儀を除きて、 正発問の言以下これを引く。 またの下の如来嘆許の文の残りと、 第六の阿難楽聞これを略す、 当要にあらざるがゆゑに。 初めの現相を除くことは、 「爾時世尊、 諸根悦予、 姿色清浄、 光顔巍々」 (大経巻上)、 下の阿難の請問に挙ぐるところの 「▲今日世尊、 乃至巍々」 に同じ。 このゆゑにこれを除く。 また座起等は、 請問を致さんと欲する前方便なるがゆゑに、 その要にあらざるを除きて、 まさしき発問以下の文を引くらくのみ。
此ノ科文ノ内、今ノ所引ノ文ハ、除テ↢初ノ現相ト並ニ請問ノ初ノ座起等ノ儀ヲ↡、正発問ノ言以下引ク↠之ヲ。又ノ下ノ如来嘆許ノ文ノ残ト、第六ノ阿難楽聞略ス↠之ヲ、非ガ↢当要ニ↡故ニ。除コトハ↢初ノ現相ヲ↡、「爾時世尊、諸根悦予、姿色清浄光顔巍巍」、同ジ↢下ノ阿難ノ請問ニ所ノ↠挙ル「今日世尊、乃至巍々」ニ↡。是ノ故ニ除ク↠之ヲ。又座起等ハ、欲スル↠致ント↢請問ヲ↡前方便ナルガ故ニ、除テ↢其ノ非ヲ↟要ニ、引ラク↢正キ発問以下ノ文ヲ↡耳。
二 Ⅱ ⅰ d ハ (一)(Ⅱ)請問
【27】△請問の文の中に、
請問ノ文ノ中ニ、
「▲今日」 といふは、 上の 「▲爾時」 (大経巻上) を指す。 *義寂 (大経義記巻上) いはく、 「爾時とは、 いはく大衆すでに集まり、 如来説かんと欲して、 まづ相を現じたまふ時なり」。
言↢「今日ト」↡者指ス↢上ノ「爾時ヲ」↡。義寂云、「爾時ト者、謂ク大衆1016已ニ集マリ、如来欲シテ↠説ント、先ヅ現ジタマフ↠相ヲ時也。」
▲「諸根」 とらは、 浄影 (大経義疏巻上) いはく、 「眼等の五根、 同じく喜相を現ずるを根悦予と名づく。 姿色清浄は喜色を示現す。 色惨戚なきがゆゑに、 清浄といふ。 光巍々といふは、 重ねて喜色を顕す。 顔巍々といふは、 重ねて喜相を顕す。 巍々はこれその高勝の貌なり。」 以上 憬興おほきに同じ。
「諸根ト」等者、浄影云、「眼等ノ五根、同ク現ズルヲ↢喜相ヲ↡名ク↢根悦予ト↡。姿色清浄ハ示↢現ス喜色ヲ↡。色ニ无ガ↢惨イタミ 戚ウレフ↡故、曰フ↢清浄ト↡。言↢光巍々ト↡、重テ顕ス↢喜色ヲ↡。言↢顔巍々ト↡者、重テ顕ス↢喜相ヲ↡。巍々ハ是其ノ高勝之*貌ナリ。」 已上 憬興大ニ同ジ。
義寂 (大経義記巻上) のいはく、 「眼等の諸根、 熙然として舒泰なり。 姿色清浄とは、 姿容色像静かにして澄淵のごとし。 光顔巍々とは、 光輝顔貌厳然として観つべし、 まさに奇特の法を宣説せんと欲す。 このゆゑにまづ非常の相を現ず。」 以上
義寂ノ云、「眼等ノ諸根、熙ヨロコブ然トシテ舒泰ナリ。姿色清浄ト者、姿容色像静ニシテ若シ↢澄淵ノ↡。光顔巍々ト者、光輝顔*貌厳然トシテ可シ↠観ツ、将ニ欲ス↣宣↢説セント奇特之法ヲ↡。是ノ故ニ先ヅ現ズ↢非常ノ相ヲ↡也。」 已上
▲「如明」 とらは、 浄影 (大経義疏巻上) のいはく、 「鏡の光外に照らすを名づけて影表となす、 外照の光明らかにして鏡の内に顕るるを名づけて影裏となす。 仏身もかくのごとし。 光明外に照らして施すところの光、 仏身を顕耀するを影表裏と名づく。」 以上
「如明ト」等者、浄影ノ云、「鏡ノ光外ニ照ヲ名テ為ス↢影表ト↡、外照之光明ニシテ顕ルヽヲ↢鏡ノ内ニ↡名テ為ス↢影裏ト↡。仏身モ如シ↠是ノ。光明外ニ照シテ所ノ↠施之光、顕↢耀スルヲ仏身ヲ↡名ク↢影表裏ト↡。」 已上
*嘉祥 (大経義疏) のいはく、 「表裏とは、 表はその形を語す、 裏は心悦を明かす。」 以上 憬興 (述文賛巻中意) のいはく、 「鏡の光外に照らすを名づけて影表となす。 すなはち仏身の光明外に舒びて影表裏に暢るに同じ。 すなはちおのれが所視を挙ぐ。」 以上 義寂 (大経義記巻上) のいはく、 「いはく明鏡の面極浄なるがゆゑに艶采外に将て還りてみづから内に映ずるがごとし。 如来の容色顕耀することこれに同じ。」 以上
嘉祥ノ云ク、「表裏ト者、表ハ語ス↢其ノ形ヲ↡、裏ハ明ス↢心悦ヲ↡。」 已上 憬興ノ云ク、「鏡ノ光外ニ照ヲ名テ為ス↢影表ト↡。即同ジ↣仏身ノ光明外ニ舒ビテ影暢ルニ↢表裏ニ↡。即挙グ↢己ガ所視ヲ↡也。」 已上 義寂ノ云、「謂ク如シ↢明鏡ノ面極浄ナルガ故ニ艶采外ニ将テ還テ自内ニ映ズルガ↡。如来ノ容色顕耀スルコト同ジ↠此ニ。」 已上
▲「唯然」 とらは、 浄影 (大経義疏巻上) のいはく、 「唯はこれ専の義、 おのれが専念を彰す。 乃至 然はいはく爾なり、 己心中の所念実にしかることを彰す。」 以上 義寂 (大経義記巻上) いはく、 「唯然大聖とは、 所念を申ぶるなり。 中においてまづまさしく申べ、 後に比決す。 乃至 敬ひてかの旨を諾ふなり。 すでに聖旨を蒙りて教ふるところ、 これに従ふゆゑに明らかにしかるなり。 我心念言とは、 みづからの所念を申ぶ。」 以上
「唯然ト」等者、浄影ノ云ク、「唯ハ是専ノ義、彰ス↢己ガ専念ヲ↡。 乃至 然ハ謂ク爾也、彰ス↢己心中ノ所念実ニ爾コトヲ↡。」 已上 義寂云、「唯然大聖ト者、申ブルナリ↢所念ヲ↡也。於テ↠中ニ先ヅ正ク申ベ、後ニ比决ス。 乃至 敬テ諾↢彼ノ旨ヲ↡也。既ニ蒙テ↢聖旨ヲ↡所↠教ル、斯レニ従フ故ニ明ニ然也。我心念言ト者、申ブ↢自ノ所念ヲ↡也。」 已上
▲「今曰世尊住奇特法」 とらは、 興は▲下に引くがごとし。 *法位これに同じ。
「今曰世尊住奇1017特法ト」等者、興ハ如シ↢下ニ引クガ↡。法位同ジ↠之ニ。
浄影の意 (大経義疏巻上意) のいはく、 「初めの句はこれ総。 仏所住の法余人に超えたるがゆゑに、 奇特法と名づく。 後の四はこれ別。 この別の中において、 初めの句は自徳、 すなはちこれ涅槃、 諸仏同じく住す、 ゆゑに仏住といふ。 世において猛たり、 ゆゑに世雄と名づく。 次の句は利他、 いはく*四摂等なり。 この行に住するがゆゑに人を導きて正を見せしむ、 ゆゑに世眼と名づく。 第三の句は自徳、 すなはちこれ菩提、 ここに住してよく諸仏の徳を知る。 世において英勝なり、 ゆゑに世英と名づく。 ▽第四の句はこれ利他の徳、 いはゆる*十力・*四無畏等なり。 これを行じて物を度す、 五天の中の上なり、 ゆゑに天尊と名づく。 その五天とは、 一は世天 世間の人王、 二は生天 三界の諸天、 三は浄天 四果支仏、 四は義天 菩薩よく空寂の義を解す、 五は第一義天 仏仏性不空の義を解するがゆゑに」。
浄影ノ意ノ云ク、「初ノ句ハ是総。仏所住ノ法超タルガ↢余人ニ↡故ニ、名ク↢奇特法ト↡。後ノ四ハ是別。於テ↢此ノ別ノ中ニ↡、初ノ句ハ自徳、即是涅槃、諸仏同ク住ス、故ニ云フ↢仏住ト↡。於テ↠世ニ為リ↠猛、故ニ名ク↢世雄ト↡。次ノ句ハ利他、謂ク四摂等ナリ。住スルガ↢此ノ行ニ↡故ニ導テ↠人ヲ見セシム↠正ヲ、故ニ名ク↢世眼ト↡。第三ノ句ハ自徳、即是菩提、住シテ↠此ニ能ク知ル↢諸仏之徳ヲ↡。於テ↠世ニ英勝ナリ、故ニ名ク↢世英ト↡。第四ノ句ハ是利他之徳、所謂十力・四无畏等ナリ。行ジテ↠之ヲ度ス↠物ヲ、五天ノ中ノ上ナリ、故ニ名ク↢天尊ト↡。其ノ五天ト者、一者世天 世間ノ人王、二者生天 三界ノ諸天、三者浄天 四果支仏、四者義天 菩薩善能ク解ス↢空寂ノ義ヲ↡、五者第一義天 仏解スルガ↢仏性不空ノ義ヲ↡故。」
義寂 (大経義記巻上) のいはく、 「略して五号を標す。 五法に住すとは、 ¬顕揚¼ 等に諸仏の功徳を説くに、 略して五種あり。 一には妙色、 二には寂静、 三には勝智、 四には正行、 五には威徳。 乃至 今日世尊住奇特法とは、 すなはちこれ第一の妙色功徳。 相好荘厳世に倫なきがゆゑに、 すなはちこの徳によりて名づけて世尊となす。 今日世雄住仏所住とは、 これすなはち第二の寂静功徳。 ひそかに根門を護りて永く惑習を抜く、 ただ仏のみ独りこの法に住することを得るがゆゑに、 すなはちこの徳によりて名づけて世雄となす。 今日世眼住導師行とは、 すなはちこれ第三の勝智功徳。 世非世を知りてよく衆人を導くがゆゑに、 すなはちこの徳によりて名づけて世眼となす。 今日世英住最勝道とは、 すなはちこれ第四の正行功徳。 自他を利楽して行もつとも勝導たるがゆゑに、 すなはちこの徳によりて名づけて世英となす。 今日天尊行如来徳とは、 すなはちこれ第五の威徳功徳。 神通遊戯を如来徳と名づく、 すなはちこの徳によりて名づけて天尊となす。」 以上
義寂ノ云、「略シテ標ス↢五号ヲ↡。住スト↢五法ニ↡者、¬顕揚¼等ニ説ニ↢諸仏ノ功徳ヲ↡、略シテ有↢五種↡。一ニハ妙色、二ニハ寂静、三ニハ勝智、四ニハ正行、五ニハ威徳。 乃至 今日世尊住奇特法ト者、即是第一妙色功徳。相好荘厳世ニ无ガ↠倫ガラ故ニ、即由テ↢此ノ徳ニ↡名テ為ス↢世尊ト↡。今日世雄住仏所住ト者、是即第二ノ寂静功徳。密ニ護テ↢根門ヲ↡永ク抜ク↢惑習ヲ↡、唯仏ノミ独得ガ↠住スルコトヲ↢此ノ法ニ↡故ニ、即由テ↢此ノ徳ニ↡、名テ為ス↢世雄ト↡。今日世眼住導師行ト者、即是第三ノ勝智功徳。知テ↢世非世ヲ↡能ク導ガ↢衆人ヲ↡故ニ、即由テ↢此ノ徳ニ↡名テ為ス↢世眼ト↡。今日世英住最勝道ト者、即是第四ノ正行功徳。利↢楽シテ自他ヲ↡行最モ為ガ↢勝導1018↡故ニ、即由テ↢此ノ徳ニ↡名テ為ス↢世英ト↡。今日天尊行如来徳ト者、即是第五ノ威徳功徳。神通遊戯ヲ名ク↢如来徳ト↡、即由テ↢此ノ徳ニ↡名テ為ス↢天尊ト↡。」 已上
▲「去来現仏仏々」 とらは、 浄影 (大経義疏巻上意) のいはく、 「去来現の下は仏の所為を念ず。もろもろの如来に勝れたり、 これ所為なり。 仏々相念は余を挙げてこれに類す。 得無今仏念諸仏耶とは、 これを惻つて余による。 耶とは、 これその不定の辞、 理をもつて測度するにいまだあえて専決せず、 このゆゑに耶といふ。」 以上 憬興これに同じ。
「去来現仏仏仏ト」等者、浄影ノ云ク、「去来現ノ下ハ念ズ↢仏ノ所為ヲ↡。勝タリ↢諸ノ如来ニ↡、是所為也。仏々相念ハ挙テ↠余ヲ類ス↠此ニ。得无今仏念諸仏耶ト者、惻テ↠此ヲ因ル↠余ニ。耶ト者、是其ノ不定ノ辞、以テ↠理ヲ測度スルニ未 ズ ダ↢敢テ専决セ↡、是ノ故ニ言フ↠耶ト。」 已上 憬興同ジ↠之ニ。
寂 (大経義記巻上) のいはく、 「いはく三世の仏たがひにあひ念ず。 所住の功徳、いまの仏諸仏を念ずることなきことを得んやとは、 いはくいまの世尊かならず諸仏の徳を相念することあるなり。得無といふは、 いはくかならずあるなり、 下に耶を置くがゆゑに。 すなはちわが世尊釈迦牟尼仏、 弥陀法身浄土の因果の功徳を念ず。 旨を承け相を覩るにかならずあることを知るなり。」
寂ノ云ク、「謂ク三世ノ仏更互ニ相念ズ。所住ノ功徳、得↠无コトヲ↣今ノ仏念ズルコト↢諸仏ヲ↡耶ト者、謂ク今ノ世尊有↣必相↢念スルコト諸仏ノ徳ヲ↡也。言↢得无ト↡者、謂ク必有ルナリ也、下ニ置ガ↠耶ヲ故ニ。即我ガ世尊釈迦牟尼仏、念ズ↢於弥陀法身浄土ノ因果ノ功徳ヲ↡。承ケ↠旨ヲ覩ニ↠相ヲ知ル↢必有コトヲ↡也。」
▲「何故威神↓光々」 とらは、 浄影のいはく、 「¬宝積経¼ にいはく、世尊いま大寂定に入りて如来の徳を行ず、 みなことごとく円満してよく大丈夫の行を建立したまへり。 去来現在の諸仏を思惟するに、 世尊なんがゆゑぞこの念に住するや。 以上 この文によるにわれいま仏々の相念することを思惟するに、 釈尊なんぞ諸仏の現相を知りたまはざらんや。 しかるにいま諸仏に超過してこの奇相を現じたまふ、 なんのゆゑかあるや。」 以上
「何故威神光々ト」等者、浄影ノ云ク、「¬宝積経ニ¼云ク、世尊今者入テ↢大寂定ニ↡行ズ↢如来ノ徳ヲ↡、皆悉円満シテ善能ク建↢立シタマヘリ大丈夫ノ行ヲ↡。思↢惟スルニ去来現在ノ諸仏ヲ↡、世尊何ガ故ゾ住スル↢斯ノ念ニ↡耶。 已上 依ニ↢此ノ之文ニ↡我今思↢惟スルニ仏々ノ相念スルコトヲ↡、釈尊何ゾ不ン↠知タマハ↢諸仏ノ現相ヲ↡耶。然ニ今超↢過シテ諸仏ニ↡而現ジタマフ↢此之奇相ヲ↡、有ル↢何ノ故カ↡耶。」 已上
義寂 (大乗義記巻上) いはく、 「いはくもし仏々相念したはふことあることなくは、 なんがゆゑぞ威光いましかくのごときや。」 以上
義寂ノ云ク、「謂ク若シ无クハ↠有コト↢仏々相念シタマフコト↡、何ガ故ゾ威光乃シ如↠是ノ耶。」 已上
「↑光々」 といふは、 同じき次下 (大乗義記巻上) にいはく、 「表裏ならびに耀くを名づけて光々となす。」 以上 憬興 (述文賛巻中) のいはく、 「すなはち顕曜の状なり。 ¬梵網¼ の疏にいはく、 光々とは盛んなる義なり。」 以上
言↢「光々ト」↡者、同キ次下ニ云ク、「表裏並ニ耀クヲ名テ為ス↢光々ト↡。」 已上 憬興ノ云ク、「即顕曜之状也。」¬梵網1019ノ¼疏ニ云ク、「光々ト者盛ナル義也。」 已上
二 Ⅱ ⅰ d ハ (一)(Ⅲ・Ⅳ)審問・実答
【28】「△於是世尊 乃至 問斯義」 とは、 浄影のごときは如来の審問、 阿難の実答、 第三・第四両科の文なり。 義寂は名づけて (大経義記巻上) 「審彼所問」 といひて、 中において二を分つ。 一には如来の審問、 二には阿難の奉答。 分文いささか異なれども、 その意おほきに同じ。 寂 (大乗義記巻上) のいはく、 「位不足に居してよく深義を問ふ、 ゆゑに審問したまふなり。 ひそかに聖旨を承けてみづからこの問を発す、 さらに諸天のわれを教へて問はしむることなし。 義意かくのごとし、 わづらはしく文を怙せず。」 以上
「於是世尊 乃至 問斯義ト」者、如↢浄影ノ↡者如来ノ審問、阿難ノ実答、第三・第四両科ノ文也。義寂ハ名テ云↢テ「審彼所問ト」↡、於テ↠中ニ分ツ↠二ヲ。一ニハ如来ノ審問、二ニハ阿難ノ奉答。分文聊異ナレドモ其ノ意大ニ同ジ。寂ノ云ク。「位居シテ↢不足ニ↡能ク問↢深義ヲ↡、故ニ審問シタマフ也。冥ニ承ケテ↢聖旨ヲ↡自発ス↢斯ノ問ヲ↡、更ニ无↢諸天ノ教テ↠我ヲ令コト↟問。義意如シ↠此ノ、不↢煩ク怙セ↟文ヲ。」 已上
二 Ⅱ ⅰ d ハ (一)(Ⅴ)嘆許
【29】△五に如来嘆許の中にまた三。 ▽初めには所問を嘆じ、 ▽二に 「阿難当知」 の下は請問を対す、 ▽三に 「阿難諦聴」 の下は勅聴許説を明かす。
五ニ如来嘆許ノ中ニ亦三。初ニハ嘆ジ↢所問ヲ↡、二ニ「阿難当知ノ」下ハ対ス↢請問ヲ↡、三ニ「阿難諦聴ノ」下ハ明ス↢勅聴許説ヲ↡。
二 Ⅱ ⅰ d ハ (一)(Ⅴ)(ⅰ)嘆所問
△初めの文にまた三。 ▲まづ慧問を嘆じ、 ▽次に▲「如来」 の下は仏出の難値を挙ぐ、 ▽三に▲「今所」 の下は所問の益多きことを嘆ず。 以上
初ノ文ニ亦三。先ヅ嘆ジ↢恵問ヲ↡、次ニ「如来ノ」下ハ挙グ↢仏出ノ難値ヲ↡、三ニ「今所ノ」下ハ嘆ズ↢所問ノ益多コトヲ↡。 已上
二 Ⅱ ⅰ d ハ (一)(Ⅴ)(ⅰ)(a)慧問
【30】△「善哉」 とらは、 義寂 (大経義記巻上) のいはく、 「善哉阿難とはその人を美むるなり。 所問甚快とはその問を嘆ずるなり。」
「善哉ト」等者、義寂ノ云ク、「善哉阿難ト者美ル↢其ノ人ヲ↡也。所問甚快ト者嘆ズル↢其ノ問ヲ↡也。」
▲「発深」 とらは、 浄影 (大経義疏巻上) のいはく、 「発深智慧といふはその問智を嘆ず、 さきに仏の五種の功徳を念ずるを発深智と名づく。 真妙弁才といふはその問辞を嘆ず、 さきに仏の五徳に住するを嘆ずるを真妙弁と名づく。 実を弁ずるを真と名づけ、 言の巧みなるを妙と称す。 言よく弁了し語よく才巧なり、 ゆゑに弁才といふ。」 以上 義寂 (大乗義記巻上) のいはく、 「智聖旨に愜ふゆゑに深し、 弁時機に当るゆゑに妙なり。 智深く弁妙なり、 ゆゑに善哉なり。」
「発深ト」等者、浄影ノ云ク、発深智恵トイフハ嘆↢其ノ問智ヲ↡、向前ニ念ズルヲ↢仏ノ五種ノ功徳ヲ↡名ク↢発深智ト↡。真妙弁才トイフハ嘆ズ↢其ノ問辞ヲ↡、向前ニ嘆ズルヲ↣仏ノ住スルヲ↢於五徳ニ↡名ク↢真妙弁ト↡。*弁ズルヲ↠実ヲ名ケ↠真ト、言ノ巧ナルヲ称ス↠妙ト。言能ク弁了シ語能ク才巧ナリ、故ニ曰↢弁才ト↡。」 已上 義寂ノ云ク、「智愜フ↢聖旨ニ↡故ニ深シ、弁当ル↢時機ニ↡故ニ妙ナリ。智深ク弁妙ナリ、故ニ善哉也。」
▲「愍念」 とらは、 浄影 (大経義疏巻上) のいはく、 「愍生問義といふは、 その問の意を嘆ず。 また名づけて問の所為を嘆ずとなすことを得。 阿難さきに仏の五徳を挙げてしかも請問をなす。 この五徳は慧をもつて主とすれば問慧義と名づく。」 以上 義寂 (大乗義記巻上) のいはく、 「所問ただ衆生を愍念することを存じて名利を求めず、 ゆゑに甚快なり。」 以上 憬興 (述文賛巻中) のいはく、 「仏の五号を称す、 ゆゑに深智慧を発すといふ。 五住の徳をもつて五号の義を嘆ず、 ゆゑに真妙弁才なり。」 以上
「愍念1020ト」等者、浄影ノ云ク、「愍生問義トハ、嘆ズ↢其ノ問ノ意ヲ↡。亦得↢名テ為コトヲ↟嘆ズト↢問ノ所為ヲ↡。阿難向前ニ挙テ↢仏ノ五徳ヲ↡而モ為ス↢請問ヲ↡。此ノ之五徳ハ以テ↠恵ヲ為バ↠主ト名ク↢問恵義ト↡。」 已上 義寂ノ云ク、「所問唯存ジテ↣愍↢念スルコトヲ衆生ヲ↡不↠求↢名利ヲ↡、故ニ甚快也。」 已上 憬興ノ云ク、「称ス↢仏ノ之五号ヲ↡、故ニ発ストイフ↢深キ智恵ヲ↡。将テ↢五住之徳ヲ↡嘆ズ↢五号ノ之義ヲ↡、故ニ真妙辨才ナリ。」 已上
二 Ⅱ ⅰ d ハ (一)(Ⅴ)(ⅰ)(b)難値
【31】△「如来以無蓋大悲」 とらは、 浄影 (大経義疏巻上意) のいはく、 「次に難値の中にまた二。 初めには法の次に猶霊の下は譬なり。」 以上
「如来以无蓋大悲ト」等者、浄影ノ云ク、「次ニ難値ノ中ニ亦二。初ニハ法ノ次ニ猶霊ノ下ハ譬ナリ。」 已上
初めの文の中に就きて、 「▲無蓋大悲」 とは、 浄影 (大経義疏巻上) のいはく、 「仏悲殊勝にして、 上を蓋ふことあたはざるを、 無蓋悲と名づく。」 以上 義寂 (大乗義記巻上) のいはく、 「▼無蓋といふは、 なほし無上のごとし。 さらに余の悲の上を覆蓋することなきがゆゑなり。 ある本には無尽と作る、 義また爽ふことなし。」 以上 憬興これに同じ。 玄一師の意は、 尽をもつて勝れたりとなす。
就↢初ノ文ノ中ニ↡、「无蓋大悲ト」者、浄影ノ云ク、「仏悲殊勝ニシテ、不ルヲ↠能↠蓋コト↠上ヲ、名ク↢无蓋悲ト↡。」 已上 義寂ノ云ク、「言↢无蓋ト↡者、猶シシ↢无上ノ↡也。更ニ无ガ↣余ノ悲ノ覆↢蓋スルコト上ヲ↡故ナリ。有ル本ニハ作ル↢无尽ト↡、義亦无シ↠爽コト。」 已上 憬興同ジ↠之ニ。玄一師ノ意ハ、以テ↠尽ヲ為ス↠勝タリト。
「▲矜哀↓三界」 とは、 憬興 (述文賛巻中) のいはく、 「矜はまた憐なり。」 「矜」 ¬宋韻¼ にいはく、 「拱陵の切、 矛柄。」 一にいはく、 「愍なり、 荘なり、 憐なり。」
「矜哀三界ト」者、憬興ノ云ク、「矜ハ亦憐也。」「矜」¬宋韻ニ¼云ク、「拱陵ノ切、矛柄」。一ニ曰ク、「愍也、荘也、憐也。」
↑三界といふは、 ¬倶舎論¼ の第十八 (玄奘訳巻八世品) の頌にいはく、 「*地獄と*傍生と*鬼と*人とおよび*六欲天とを、 *欲界の二十と名づく、 地獄と州との異による。 この上の十七処を*色界と名づく。 中において三*静慮におのおの三、 第四静慮に八あり。 *無色界には処なし、 生によりて四種あり。」 以上
言↢三界ト↡者、¬倶舎論ノ¼第十八ノ頌ニ*曰ク、「地獄ト傍生ト鬼ト人ト及ビ六欲天トヲ、名ク↢欲界ノ二十ト↡、由ル↢地獄ト州トノ異ニ↡。此ノ上ノ十七処ヲ名ク↢色界ト↡。於テ↠中ニ三静*慮ニ各三、第四静*慮八アリ。无色界ニハ无シ↠処、由テ↠生ニ有リ↢四種↡。」 已上
¬論の註¼ の上にいはく、 「▲三界、 一にはこれ欲界、 いはゆる六欲天と四天下と人と畜生と餓鬼と地獄等これなり。 二にはこれ色界、 いはゆる初禅と二禅と三禅と四禅との天等これなり。 三にはこれ無色界、 いはゆる空処と識処と無所有処と非想非非想処との天等これなり。 ◆この三界はけだしこれ生死の凡夫流転の闇宅なり。」 以上
¬論ノ註ノ¼上ニ云ク、「三界、一ニハ是欲界、所謂六欲天ト四天下ト人ト畜生ト餓鬼ト地獄等是也1021。二ニハ是色界、所謂初禅ト二禅ト三禅ト四禅トノ天等是也。三ニハ是无色界、所謂空処ト識処ト无所有処ト非想非非想処天等是也。此ノ三界ハ蓋シ是生死ノ凡夫流転之闇宅ナリ。」 已上
▲「光闡」 とらは、 教法人を利するを名づけて*道教となす、 理を証して物を益するをもつて真実となす。 「光」 は広なり、 「闡」 は暢なり、 「恵」 は施なり 諸師の意。 いま宗義によるに 「道教」 といふは、 光く一代を指す、 ますます*五乗に亘る。
「光闡ト」等者、教法利スルヲ↠人ヲ名テ為ス↢道教ト↡、証シテ↠理ヲ益スルヲ↠物ヲ以テ為ス↢真実ト↡。「光ハ」広也、「闡ハ」暢也、「恵ハ」施也 諸師ノ意。今依ニ↢宗義ニ↡言↢「道教ト」↡者、光ク指ス↢一代ヲ↡、益マス亘ル↢五乗ニ↡。
「▲↓真実利」 とは、 この名号を指す。 すなはちこれ仏智なり。 名号を指すとは、 流通の文 (大経巻下) にいはく、「▲それかの仏の名号を聞くことを得て、 歓喜踊躍して、 乃至一念することあらん。 まさに知るべし、 この人は大利を得となす。 すなはちこれ無上の功徳を具足するなり。」 以上
「真実利ト」者、指ス↢此ノ名号ヲ↡。即是仏智ナリ。指スト↢名号ヲ↡者、流通ノ文ニ云ク、「其有ラン↧得テ↠聞コトヲ↢彼ノ仏ノ名号ヲ↡、歓喜踊躍シテ、乃至一念スルコト↥。当ニシ↠知ル、此ノ人ハ為ス↠得ト↢大利ヲ↡。即是具↢足スルナリ无上ノ功徳ヲ↡。」 已上
同 ¬経¼ (大経巻下) の文に、 仏の五智を説きていはく、 「▲疑惑を生ずる者は、 大利を失すとなす。」 以上 信と疑とに就きてその得失を説くに、 ともに大利といふ。 名号を念ずるをもつて説きて大利となし、 仏智を疑ふをもつて大利を失すとなす。 名号と仏智とまつたくこれ一法なり。 序分 (大経巻上) にこれを標して 「↑真実の利」 と説く、 よろしくこれを思択すべし。
同¬経ノ¼文ニ、説テ↢仏ノ五智ヲ↡云ク、「生ズル↢疑惑ヲ↡者ハ、為ス↠失スト↢大利ヲ↡。」 已上 就テ↢信ト与 トニ↟疑説ニ↢其ノ得失↡、共ニ云フ↢大利ト↡。以テ↠念ズルヲ↢名号ヲ↡説テ為シ↢大利ト↡、以テ↠疑ヲ↢仏智ヲ↡為ス↠失スト↢大利ヲ↡。名号ト仏智ト全ク是一法ナリ。序分ニ標シテ↠之ヲ説ク↢「真実ノ利ト」↡、宜クシ↢思↢択ス之ヲ↡。
▲次に譬の中に就きて、 浄影のいはく、 「*霊瑞華とは、 梵には優曇波羅といふ、 また優曇鉢樹といふ。 ¬法華文句¼ (巻四上釈方便品) にいはく、 「優曇華とは、 ここには霊瑞といふ。 三千年にひとたび現ず、 現ずればすなはち金輪王出ず。」 以上 霊瑞の名これをもつて知るべし。
次ニ就テ↢譬ノ中ニ↡、浄影ノ云、「霊瑞華ト者、梵ニハ云フ↢優曇波羅ト↡、又云フ↢優曇鉢樹ト↡。」¬法*花文句ニ¼云ク、「優曇*花ト者、此ニハ云↢霊瑞ト↡。三千年ニ一タビ現ズ、現ズレバ則金輪王出ヅ。」 已上 霊瑞之名以テ↠之ヲ可シ↠知。
この ¬経¼ (大経) の下にいはく、 「▲優曇鉢華のごとし、 希有にして遇ひ難きがゆゑに。」 以上 ¬法華¼ の第一 「方便品」 にいはく、 「かくのごときの妙法は、 諸仏如来時にいましこれを説きたまふ。 優曇鉢華の時にひとたび現ずるがごとくならくのみ。」 以上 また第八巻 (法華経巻七) 「厳王品」 にいはく、 「仏は値ふことを得ること難きこと、 優曇波羅華のごとし。」 以上
此ノ¬経ノ¼下ニ云、「如シ↢優曇鉢*花ノ↡、希有ニシテ難ガ↠遇ヒ故ニ。」 已上 ¬法花ノ¼第一「方便品ニ」云ク、「如ノ↠是ノ妙法ハ、諸仏如来時ニ乃シ説タマフ↠之ヲ。如クナラク↢優曇鉢華ノ時ニ一タビ現ズルガ↡耳。」 已上 又第八巻「厳王品ニ」云、「仏難コト↠得コト↠値コトヲ、如シ↢優曇1022波羅*花ノ↡。」 已上
「▲時々」 といふは、 憬興 (述文賛巻中) のいはく、 「希出の義、 善時をもつて出ずるがゆゑに。」 以上
言↢「時々ト」↡者、憬興ノ云、「希出之義、以テ↢善時ヲ↡出ガ故ニ。」 已上
二 Ⅱ ⅰ d ハ (一)(Ⅴ)(ⅰ)(c)益多
【32】△「今所問」 の下、 「天人民」 に至る、 仏所問の益多きことを嘆ずる文なり。
「今所問ノ」下至↢「天人民ニ」↡、仏嘆ズル↢所問ノ益多コトヲ↡文也。
二 Ⅱ ⅰ d ハ (一)(Ⅴ)(ⅱ)対請問
△「阿難」 とらは、 浄影 (大経義疏巻上意) のいはく、 「二に請問に対する中にまた二。 初めに請問を述成し、 次に所以の下は因を挙げて果徳を結す。 初めの文にまた二。 まづ阿難の所問を述べ、 次に以一の下は阿難の所見を述ぶ。」 以上
「阿難ト」等者、浄影ノ云ク、「二ニ対スル↢請問ニ↡中ニ亦二。初述↢成シ請問ヲ↡、次ニ所以ノ下ハ挙テ↠因ヲ結ス↢果徳ヲ↡。初ノ文ニ亦二。先ヅ述ベ↢阿難ノ所問ヲ↡、次ニ以一ノ下ハ述ブ↢阿難ノ所見ヲ↡。」 已上
初めにまづ阿難の所問を述ぶるに就きて、 相対するに異あり。 浄影 (大経義疏巻上意) のいはく、 「如来とらは、 これに五句あり。 初めの一句は総、 後の四句は別なり。 これすなはち前の五徳を述成す。 いはく▲如来覚は前の奇特を述す、 正覚はすなはちこれ仏の所得なるがゆゑに。 ▲其智量りがたしは前の仏住を述す、 仏智よく涅槃の理を証するがゆゑに。 ▲多所導御は前の導師を述す、 四摂等をもつて衆生を導くがゆゑに。 ▲慧見無礙は如来の徳を述す、 如来の徳みな慧を主とするがゆゑに。 ▲無能遏絶は最勝道を述す、 菩提勝れたるがゆゑに、 他人のために止抑せられざるがゆゑに。」 以上 憬興これに同じ。 ただ少異あり。 第四・第五相翻するこれなり。
初ニ先ヅ就テ↠述ニ↢阿難ノ所問ヲ↡相対スルニ有リ↠異。浄影ノ云ク、「如来ト等者、此ニ有リ↢五句↡。初ノ一句ハ総、後ノ四句ハ別ナリ。是則述↢成ス前之五徳ヲ↡。謂ク如来覚ハ述ス↢前ノ奇特ヲ↡、正覚ハ即是仏ノ所得ナルガ故ニ。其ノ智難↠量述ス↢前ノ仏住ヲ↡、仏智能ク証スルガ↢涅槃ノ理ヲ↡故ニ。多所導御ハ述ス↢前ノ導師ヲ↡、以テ↢四摂等ヲ↡導ガ↢衆生ヲ↡故ニ。恵見无ハ述ス↢如来ノ徳ヲ↡、如来ノ徳皆恵ヲ為ガ↠主ト故ニ。无能遏絶ハ述ス↢最勝道ヲ↡、菩提勝タルガ故ニ、不ルガ↧為ニ↢他人ノ↡所レ↦止抑セ↥故ニ。」 已上 憬興同ジ↠之ニ。但有リ↢少異↡。第四・第五相翻スル是也。
問ふ。 いまの所引の文、 一科の文においてなんぞ初後を除くや。 その初めを除くとは、 しばらく浄影の三双六重の解釈の中によるに、 最初の如来現相の文これなり。 その終りを除くとは、 如来嘆許の三の文段の中に、 二に所問を対する内、 また二を分つ中に、 初めに請問を述成する内、 まづ阿難の所問を述す。 いまの所引はこの文に至る。 次に所見を述する以下の文、 重々の子段乃至第六の阿難楽聞の句等これを除く。 なんの意かあるや。
問。今ノ所引ノ文、於テ↢一科ノ文ニ↡何ゾ除クヤ↢初後ヲ↡。除クト↢其ノ初↡者、且ク依ニ↢浄影ノ三双六重ノ解釈之中ニ↡、最初ノ如来現相ノ文是ナリ。除ト↢其ノ終ヲ↡者、如来嘆許ノ三ノ*文段ノ中ニ、二ニ対スル↢所問ヲ↡内、又分ツ↠*二ヲ中ニ、初ニ述↢成スル請*問ヲ↡内、先ヅ述ス↢阿難ノ所問ヲ↡。今之所引ハ至ル↢于此ノ文ニ↡。次ニ述スル↢所見ヲ↡以下之文、重々ノ子段乃至第六ノ阿難楽聞ノ句等除ク↠之ヲ。有ル↢何ノ意カ↡耶。
答ふ。 かくのごときの引文、 その当用に就きてこれを引くばかりなり、 一科の始終なんぞあながちにことごとく引かん。 その初めを除く意は、 如来の現相すでに阿難請問の詞にありかの現相をもつて請問の言に載す。 彼此の相別にあらざるがゆゑなり。 その終りを除く意は、 いまの要にあらざるがゆゑに。
答。如ノ↠此ノ引文、就テ↢其ノ当用ニ↡引1023ク↠之ヲ許也。一科ノ始終何ゾ強ニ悉ク引カン。除ク↢其ノ初ヲ↡意ハ、如来ノ現相既ニ在リ↢阿難請問之詞ニ↡以テ↢彼ノ現相ヲ↡載ス↢請問ノ言ニ↡。彼此之相非ガ↠別ニ故也。除ク↢其ノ終ヲ↡意ハ、非ガ↢今ノ要ニ↡故ニ。
問ふ。 いま引用するところ、 その要いかん。
問。今所↢引用スル↡、其ノ要如何。
答ふ。 出世の大事たる旨を述べて、 この ¬大経¼ 真実の教たることを成ず。 これその要なり。
答。述テ↧為ル↢出世ノ大事↡之旨ヲ↥、成ズ↣此ノ¬大経¼為コトヲ↢真実ノ教↡。是其ノ要也。
問ふ。 大事の因縁は文 ¬法華¼ にあり。 いまの ¬経¼ にさらに本懐の言なし、 なんぞその義を成ぜん。
問。大事ノ因縁ハ文在リ↢¬法*花ニ¼↡。今ノ¬経ニ¼更ニ无シ↢本懐之言↡、何ゾ成ゼン↢其ノ義ヲ↡。
答ふ。 その出世本懐の義を論ずるに、 略して二の意あり。
答。論ズルニ↢其ノ出世本懐之義ヲ↡、略シテ有リ↢二ノ意↡。
一には教の*権実に約す。 三乗はこれ権、 一乗はこれ実。 ゆゑに一乗をもつて説きて本懐となす。 これ ¬法華¼ の意なり。
一ニハ約ス↢教ノ権実ニ↡。三乗ハ是権、一乗ハ是実。故ニ以テ↢一乗ヲ↡説テ為ス↢本懐ト↡。是¬法*花ノ¼意ナリ。
▽二には機の利鈍に約す。
二ニハ約ス↢機ノ利鈍ニ↡。
¬般舟讃¼ にいはく、 「▲根性利なる者はみな益を蒙る、 鈍根無智なるは開悟しがたし。」 以上
¬般舟讃ニ¼云、「根性利ナル者ハ皆蒙ル↠益ヲ、鈍根无智ナルハ難シ↢開悟シ↡。」 已上
「玄義」 (玄義分) にいはく、 「▲諸仏の大悲は苦者においてす、 心ひとへに常没の衆生を愍念したまふ。 これをもつて勧めて浄土に帰せしめたまふ。 また水に溺れたる人のごときは、 すみやかにすべからくひとへに救ふべし、 岸上の者をば、 なにをもつてか済ふことをせん。」 以上
「玄義ニ」云ク、「諸仏ノ大悲ハ於ス↢苦者ニ↡、心偏ニ愍↢念シタマフ常没ノ衆生ヲ↡。是ヲ以テ勧テ帰シメタマフ↢浄土ニ↡。亦如ハ↢溺タル↠水ニ之人ノ↡、急ニ須ク↢偏ニ救↡、岸上之者ヲバ、何ヲ用テカ済為。」 已上
¬観念法門¼ にいはく、 「▲釈迦の出現は、 *五濁の凡夫を度せんがためなり、 すなはち慈悲をもつて、 *十悪の因の*三途の苦を報果することを開示し、 また平等の智慧をもつて、 人天回して弥陀仏国に生ずることを悟入せしむ。」 以上
¬観念法門ニ¼云ク、「釈迦ノ出現ハ、為ナリ↠度センガ↢五濁ノ凡夫ヲ↡、則以テ↢慈悲ヲ↡、開↣示シ十悪之因ノ報↢果スルコトヲ三途之苦ヲ↡、又以テ↢平等ノ智恵ヲ↡、悟↣入セシム人天廻シテ生ズルコトヲ↢弥陀仏国ニ↡。」 已上
大悲の本懐、 ただ障重根鈍常没の衆生を済度するにあり。 しかるに利根は少なく、 鈍根の者は多し。 ゆゑに知りぬ諸教の出離はこれ少なく、 浄土の得脱はその機これ多しといふことを。 この道理によれば、 施すところの利益、 諸教に超過せり。 浄土の教門あに本懐にあらずや。
大悲ノ本懐、唯在リ↣済↢度スルニ障重根鈍常没ノ衆生ヲ↡。而ニ利根ハ少ク、鈍根ノ者ハ多シ。故ニ知ヌ諸教ノ出離ハ是少ク、浄土ノ得脱ハ其ノ機是多シト云コトヲ。依レバ↢此ノ道理ニ↡、所ノ↠施ス利益、超↢過セリ諸教ニ↡。浄土ノ教門豈非ズヤ↢本懐ニ↡。
ゆゑに ¬大経¼ (巻下) にいはく、 「▲如来の智慧海は、 深広にして涯底なし。」 以上 けだしこの意なり。 慈悲深重にして悪機を救度す、 ゆゑに説きて深とす。 利益広大にしてあまねく群機に被らしむ、 ゆゑに説きて広とす。
故ニ¬大経ニ¼云ク、「如来ノ智恵海ハ、深広ニシテ无↢涯底↡。」 已上 蓋シ此ノ意也。慈悲深重ニシテ救↢度1024ス悪機ヲ↡、故ニ説テ為↠深ト。利益広大ニシテ普ク被シム↢群機ニ↡、故ニ説テ為↠広ト。
二 Ⅱ ⅰ d ハ (二)如来会
【33】▲次に ¬如来会¼ の説相おほきに同じ。 この諸相をもつて ¬大経¼ の説に校ずるに、 ▲「阿難白仏」 の下は 「非因天等」 に至るまでは阿難実答、 ▲「仏告阿難」 の下は如来の嘆許なり。 中において、 初めより 「是之義」 に至るまではまづ慧問を嘆じ、 ▲「汝為」 より下 「問斯義」 に至るまでは仏出の難値を挙ぐ、 ▲「又為」 より下は所問の益多きことを嘆ず。
次ニ¬如来会ノ¼説相大ニ同ジ。以テ↢此ノ*諸相ヲ↡校ズルニ↢¬大経ノ¼説ニ↡、「阿難白仏ノ」下ハ至マデハ↢「非因天等ニ」↡阿難ノ実答、「仏告阿難ノ」下ハ如来ノ嘆許ナリ。於テ↠中ニ、自↠初至マデハ↢「是之義ニ」↡先ヅ嘆ジ↢恵問ヲ↡、自↢「汝為」↡下至マデハ↢「問斯義ニ」↡挙グ↢仏出ノ難値ヲ↡、自↢「又為」↡下ハ嘆ズ↢所問ノ益多コトヲ↡。
二 Ⅱ ⅰ d ハ (三)平等覚経
【34】▲次に ¬覚経¼ の文、 その意見つべし。
次ニ¬覚経ノ¼文、其ノ意可シ↠見ツ。
二 Ⅱ ⅰ d ハ (四)憬興師釈
【35】▲次に興の釈 (述文賛・中) の中に、
次ニ興ノ釈ノ中ニ、
▲「奇特法」 を釈するに、 「神通輪」 とは、 *三業の中にこれ身業の名なり。 すなはち口業をもつて説法輪と名づく、 また意業をもつて記心輪と名づく。 これ*法相宗の名目ならくのみ。
釈スルニ↢「奇特法ヲ」↡、「神通輪ト」者、三業之中ニ是身業ノ名ナリ。即以テ↢口業ヲ↡名ケ↢説法輪ト↡、又以テ↢意業ヲ↡名ク↢記心輪ト↡。是法相宗ノ名目而已。
【36】▲「仏所住」 を釈するに、 「*普等三昧」 とは、 六八願の中の第四十五の聞名見仏の願 (大経巻上) に説きていはく、 「▲たとひわれ仏を得んに、 他方国土のもろもろの菩薩衆、 わが名字を聞きて、 みなことごとく普等三昧を逮得せん。 この三昧に住して、 成仏に至るまで、 つねに無量不可思議の一切の諸仏を見たてまつらん。 もししからずは、 正覚を取らじ。」 以上
釈ニ↢「仏所住ヲ」↡、「普等三昧ト」者、六八願ノ中ノ第四十五ノ聞名見仏之願ニ説テ言ク、「設ヒ我レ得ニ↠仏ヲ、他方国土ノ諸ノ菩薩衆、聞テ↢我ガ名字↡、皆悉ク逮↢得セン普等三昧ヲ↡。住シテ↢是ノ三昧ニ↡、至ルマデ↢于成仏ニ↡、常ニ見タテマツラン↢无量不可思議ノ一切ノ諸仏ヲ↡。若シ不↠爾者、不↠取↢正覚↡。」 已上
憬興の釈 (述文賛巻中) にいはく、 「普とはすなはち普遍の義、 等とはすなはち斉等の義。 所見あまねく広し、 仏をばみな見る。 ゆゑに住するところの定を名づけて普等となす。」 以上
憬興ノ釈ニ云ク、「普ト者即普遍ノ義、等ト者即斉等ノ義。所見普ク広シ、仏ヲバ者皆見ル。故ニ所ノ↠住スル定ヲ名テ為ス↢普等ト↡。」 已上
玄一の釈 (大経義記巻上意) にいはく、 「この三昧力によりてあまねく諸仏の世界を見る、 ゆゑにいひて普となす。 平等に現に見る所見なし、 ゆゑに普等といふ。」 以上
玄一ノ釈ニ云ク、「由テ↢此ノ三昧力ニ↡普ク見ル↢諸仏ノ世界ヲ↡、故ニ言テ為ス↠普ト。平等ニ現ニ見ル无シ↢所見↡、故ニ言フ↢普等ト↡。」 已上
この三昧において多くの異名あり。 遍至三昧・普至三昧および普遍三摩地と名づくるこれなり。 次いでのごとく ¬悲花¼ と ¬分陀利経¼ と ¬荘厳経¼ の説なり。
於テ↢此1025ノ三昧ニ↡有リ↢多ノ異名↡。遍至三昧・普至三昧及ビ名クル↢普遍三摩地ト↡是ナリ。如ク↠次ノ¬悲*花ト¼¬分陀利経ト¼¬荘厳経ノ¼説ナリ。
問ふ。 なんらの義によりてか 「普等」 と名づくるや。
問。依テカ↢何等ノ義ニ↡名ル↢「普等ト」↡耶。
答ふ。 上の所引の両師釈のごときは、 見仏の義によりて名づけて普等とす。 これ果の名に従ふ。 因に従ひてはいひて念仏三昧と名づくる、 これその名なり。
答。如↢上ノ所引ノ両師ノ釈ノ↡者、依テ↢見仏ノ義ニ↡名テ為↢普等ト↡。是従フ↢果ノ名ニ↡。従テハ↠因ニ言テ名ル↢念仏三昧ト↡、是其ノ名也。
【37】▲「導師行」 の中に 「五眼」 といふは、 常途の説によるに、 一は↓肉眼、 二は↓天眼、 三は↓慧眼、 四は↓法眼、 五は↓仏眼なり。
「導師行ノ」中ニ言↢「五眼ト」↡者、依ニ↢常途ノ説ニ↡、一者肉眼、二者天眼、三者恵眼、四者法眼、五者仏眼ナリ。
↑肉眼といふは、 人間の扶根の四境を肉と名づく、 正根の浄色のよく見るを眼と名づく。 ただし隙塵以上の麁色を縁じて牛塵以下の細色を縁ぜず、 また障内を縁じて障外を縁ぜず、 また近境を縁じて遠境を縁ぜず。
言↢肉眼ト↡者、人間ノ扶根ノ四境ヲ名ク↠肉ト、正根ノ浄色ノ能ク見ルヲ名ク↠眼ト。但シ縁ジテ↢隙塵已上ノ麁色ヲ↡不↠縁ゼ↢牛塵已下ノ細色ヲ↡、又縁ジテ↢障内ヲ↡不↠縁ゼ↢障外ヲ↡、又縁ジテ↢近境ヲ↡不↠縁ゼ↢遠境ヲ↡。
↑天眼といふは、 禅定を天と名づく。 天によりて眼を得、 ゆゑに天眼と名づく。 天中の浄色をもつてその体とし、 よく衆生の此死生彼を見る。 ¬大論¼ の三十三 (大智度論発品意) にいはく、 「肉眼は近を見て遠を見ず、 前を見て後を見ず、 外を見て内を見ず、 昼を見て夜を見ず、 上を見て下を見ず。 これらをもつてのゆゑに天眼を求む。 この天眼を得つれば、 遠近みな見る。 前後・内外・上下ことごとくみな無礙なり。」 以上
言↢天眼ト↡者、禅定ヲ名ク↠天ト。依テ↠天ニ得↠眼ヲ、故ニ名↢天眼ト↡。天中ノ浄色ヲ以テ為↢其ノ体ト↡、能ク見ル↢衆生ノ此死生彼ヲ↡。¬大論ノ¼三十三ニ云ク、「肉眼ハ見テ↠近ヲ不↠見↠遠ヲ、見テ↠前ヲ不↠見↠後ヲ、見テ↠外ヲ不↠見↠内ヲ、見テ↠昼ヲ不↠見↠夜ヲ、見テ↠上ヲ不↠見↠下。以ノ↢此等ヲ↡故ニ求ム↢天眼ヲ↡。得ツレバ↢此ノ天眼ヲ↡、遠近皆見ル。前後・内外・上下悉ク皆无ナリ。」 已上
↑慧眼といふは、 *真諦を縁ずる智、 よく空理を照らすゆゑに慧眼と名づく。
言↢恵眼ト↡者、縁ズル↢真諦ヲ↡智、能ク照ス↢空理ヲ↡故ニ名ク↢恵眼ト↡。
↑法眼といふは、 *俗諦を縁ずる智、 よく法を照らすゆゑに名づけて法眼となす。
言↢法眼ト↡者、縁ズル↢俗諦ヲ↡智、能ク照ス↠法ヲ故ニ名テ為↢法眼ト↡。
↑仏眼というは、 人に就きて名とす、 ゆゑに仏眼と名づく。 *中道を縁ずる智をもつてその体となす。
言↢仏眼ト↡者、就テ↠人ニ為↠名ト、故ニ名ク↢仏眼ト↡。縁ズル↢中道ヲ↡智ヲ以テ為ス↢其ノ体ト↡。
この五眼において、 四眼はこれ別、 仏眼はこれ総なり。 四眼仏に至りぬればことごとく仏眼と名づく。 このゆゑに天台の ¬文句¼ の四 (法華文句巻四下釈方便品) にいはく、 「仏眼は円通なり、 もと勝にして劣を兼ぬ。 四眼仏眼に入りぬればみな仏眼と名づく。」 以上 これはこれ諸教*通途の説相なり。
於テ↢此ノ五眼ニ↡、四眼ハ是別、仏眼ハ是総ナリ。四眼至ヌレバ↠仏ニ悉ク名ク↢仏眼ト↡。是1026ノ故ニ天臺ノ¬文句ノ¼四ニ云ク、「仏眼ハ円通ナリ、本勝ニシテ兼ヌ↠劣ヲ。四眼入ヌレバ↢仏眼ニ↡皆名ク↢仏眼ト↡。」 已上 此ハ是諸教通途ノ説相ナリ。
問ふ。 ¬大経¼ の下にいはく、 「▲肉眼清徹にして分了せずといふことなし。 ▽天眼通達して無量無限なり。 ▽法眼観察して諸道を究竟す。 ▽慧眼真を見てよく彼岸に度す。 ▽仏眼具足して法性を覚了す。」 以上 これ上の説と同異いかん。
問。¬大経ノ¼下ニ云ク、「肉眼清徹ニシテ靡シ↠不ト云コト↢分了セ↡。天眼通達シテ无量无限ナリ。法眼観察シテ究↢竟ス諸道ヲ↡。恵眼見テ↠真ヲ能ク度ス↢彼岸ニ↡。仏眼具足シテ覚↢了ス法性ヲ↡。」 已上 是与↢上ノ説↡同異如何。
答ふ。 同あり異あり。 その同といふは、 五眼の功用相監せざるがゆゑに。 その異といふは、 いま ¬大経¼ には浄土の菩薩の功徳を説くがゆゑに、 肉眼・天眼所見の分量人天の分に超えたり。 仏眼に至りては、 これは菩薩所具の徳を説くがゆゑに、 究竟に及ばず、 また法と慧と三と四と前後せり。
答。有リ↠同有リ↠異。言↢其ノ同ト↡者、五眼ノ功用不ルガ↢相監セ↡故ニ。言↢其ノ異ト↡者、今¬大経ニハ¼説↢浄土ノ菩薩ノ之功徳ヲ↡故ニ、肉眼・天眼所見ノ分量超タリ↢人天ノ分ニ↡。至↢仏眼ニ↡者、是説ガ↢菩薩所具ノ徳ヲ↡故ニ、不↠及↢究竟ニ↡、又法ト与 ト ↠恵三ト四ト前後セリ。
△肉眼清徹靡不分了とは、 義寂 (大乗義記巻上) のいはく、 「その所応に随ひて、 もしは近もしは遠、 もしは内もしは外、 みな分明に見る。 根の精徹と境の無障とによるがゆゑに。」
肉眼清徹靡不分了ト者、義寂ノ云ク、「随テ↢其ノ所応ニ↡、若ハ近若ハ遠、若ハ内若ハ外、皆分明ニ見ル。由ガ↢根ノ精徹ト境ノ无障トニ↡故ニ。」
△天眼通達無量無限」 とは、 ¬論¼ (大智度論巻三十九往生品意) に説かく、 「菩薩の天眼に二種あり。 一に果報得、 二は修禅得なり。 果報得とは、 つねに肉眼と合用す。 ただ闇夜には天眼独り用ゐる。 余人は果報の天眼を得て四天下を見る。 欲界の諸天は下を見て上を見ず。 菩薩所得の果報の天眼は三千大千世界を見、 乃至 菩薩この天眼を用ゐて十方如恒河沙等の国土の中の衆生の生死・善悪・好醜および善悪の業因縁を見るに障礙するところなし、 一切みな見る。 四天王天乃至阿迦弐天眼の所見、 またよくこれに過ぎたり。 この諸天、 菩薩の天眼の所見を知ることあたはず。 なにをもつてのゆゑに。 この菩薩は三界を出でて法性生身を得、 弁才力を得るがゆゑに。 この中にいふところの無量限とは、 応に随ひて通じて報得および修を説く。 四十八願の中に説くところは、 最少に就きて説くゆゑに相違せず。」 以上
天眼通達无量无限ト者、¬論ニ¼説カク、「菩薩ノ天眼ニ有リ↢二種↡。一果報得、二修禅得ナリ。果報得ト者、常ニ与↢肉眼↡合用ス。唯闇夜ニハ天眼独用ル。余人ハ得テ↢果報ノ天眼ヲ↡見ル↢四天下ヲ↡。欲界ノ諸天ハ見テ↠下ヲ不↠見↠上ヲ。菩薩所得ノ果報ノ天眼ハ見↢三千大千世界ヲ↡、 乃至 菩薩用テ↢是ノ天眼ヲ↡見ニ↢十方如恒河沙等ノ国土ノ中ノ衆生ノ々死・善悪・好醜及ビ善悪ノ業因縁ヲ↡无シ↠所↢障スル↡、一切皆見ル。四天王天乃至阿迦貮天眼ノ所見、又能ク過タリ↠之ニ。是ノ諸天、不↠能↠知コト↢菩薩ノ天1027眼ノ所見ヲ↡。何ヲ以ノ故ニ。是ノ菩薩ハ出デヽ↢三界ヲ↡得↢法性生身ヲ↡、得ルガ↢弁才力ヲ↡故ニ。此ノ中ニ所ノ↠言无量限ト者、随テ↠応ニ通ジテ説ク↢報得及ビ修ヲ↡。四十八願ノ中ニ所↠説者、就テ↢最少ニ↡説ク故ニ不↢相違セ↡。」 已上
問ふ。 肉眼精徹、 天眼通達、 二眼の所見おなじく無限ならば、 なにをか差別とせん。
問。肉眼精徹、天眼通達、二眼ノ所見同ク无限ナラ者、何ヲカ為ン↢差別ト↡。
答ふ。 憬興 (述文賛巻下意) のいはく、 「現在の色像を照矚するを、 名づけて肉眼となす。 よく衆生の此死生彼を見る、 ゆゑに天眼と名づく。」 以上
答。憬興ノ云、「照↢矚ミルスルヲ現在ノ色像ヲ↡、名テ為ス↢肉眼ト↡。能ク見ル↢衆生ノ此死生彼ヲ↡、故ニ名ク↢天眼ト↡。」 已上
△法眼観察究竟諸道とは、 同師 (述文賛巻下) のいはく、 「法眼はすなはち有智をもつて体となす。 よく衆生の欲性の心および諸仏の法を見る、 ゆゑに法眼と名づく。 あまねく三乗の道法の差別を知る、 ゆゑに究竟諸道といふ。」 以上
法眼観察究竟諸道ト者、同師ノ云ク、「法眼ハ即以テ↢有智ヲ↡為ス↠体ト。能ク見ル↢衆生ノ欲性ノ心及ビ諸仏ノ法ヲ↡、故ニ名ク↢法眼ト↡。普ク知ル↢三乗ノ道法ノ差別ヲ↡、故ニ云フ↢究竟諸道ト↡。」 已上
義寂 (大経義記巻上) のいはく、 「余処には多く慧眼を第三と説く。 この中にまづ法眼を説くことは、 修起の次第先のごとくに説くべし。 かならずまづ真に達して、 まさに俗を了するがゆゑに。 しかも法眼の境、 前の二眼とおなじくこれ俗なるがゆゑに。 これこの中には慧眼に先んじて説く。 論にいはく、 菩薩初発心の時、 肉眼をもつて衆生の苦を受くるを見て心に慈愍を生じて、 もろもろの禅定を学し五通を修得す。 天眼をもつてあまねく六道の衆生の種々身心の苦を受くるを見て、 ますます憐愍を加ふ。 ゆゑに慧眼を求めてもつてこれを救済す。 この慧眼を得てすでに衆生の心相の種々不同なるを見て、 いかんしてか衆生をしてこの実法を得しめんとおもふ。 ゆゑに法眼を求めて衆生を引導して法の中に入らしむ、 ゆゑに法眼と名づく。」 以上
義寂ノ云、「余処ニハ多ク説ク↢恵眼ヲ第三ト↡。此ノ中ニ先ヅ説コトハ↢法眼ヲ↡者、修起ノ次第応シ↢如ニ↠先ノ説ク↡。要ズ先ヅ達シテ↠真ニ、方ニ了スルガ↠俗ヲ故ニ。然モ法眼ノ境、与↢前ノ二眼↡同ク是俗ナルガ故ニ。是此ノ中ニハ先テ↢恵眼ニ↡説ク。論ニ云ク、菩薩初発心ノ時、以テ↢肉眼ヲ↡見テ↢衆生ノ受ヲ↟苦ヲ、心ニ生ジテ↢慈愍ヲ↡学シ↢諸ノ禅定ヲ↡修↢得ス五通ヲ↡。以テ↢天眼ヲ↡遍ク見テ↣六道ノ衆生ノ受ルヲ↢種々身心ノ苦ヲ↡、益マス加フ↢憐愍ヲ↡。故ニ求テ↢恵眼ヲ↡以テ救↢済ス之ヲ↡。得テ↢此ノ恵眼ヲ↡已ニ見テ↢衆生ノ心相ノ種々不同ナルヲ↡、云何シテカ令↣シメントオモフ衆生ヲシテ得↢是ノ実法ヲ↡。故ニ求テ↢法眼ヲ↡引↢導シテ衆生ヲ↡令ム↠入ラ↢法ノ中ニ↡、故ニ名ク↢法眼ト↡。」 已上
△慧眼見真能度彼岸とは、 浄影 (大経義疏巻下) のいはく、 「よく真空を見る、 ゆゑに見真と名づく。 有相を除捨して平等無相の彼岸に達到するを、 度彼岸と名づく。」 以上
恵眼見真能度彼岸ト者、浄影ノ云ク、「能ク見ル↢真空ヲ↡、故ニ名↢見真ト↡。除↢捨シテ有相ヲ↡達↢到スルヲ平等无相ノ彼岸ニ↡、名ク↢度彼岸ト↡。」 已上1028
憬興 (述文賛巻下) のいはく、 「度とは至なり。」 以上
憬興ノ云ク、「度ト者至也。」 已上
義寂 (大経義記巻下) のいはく、 「¬論¼ にいはく、 肉眼は障外の事を見ることあたはず、 また遠く見ることあたはず。 このゆゑに天眼を求む。 天眼はまた見るといへども、 また虚誑なり。 一異の相を見衆物の和合の虚誑の法を見る、 これをもつてのゆゑに慧眼を求む。 慧眼の中にはかくのごときの過なし。」 以上
義寂ノ云ク、「¬論¼云、肉眼ハ不↠能ハ↠見コト↢障*外ノ事ヲ↡、又不↠能↢遠ク見コト↡。是ノ故ニ求ム↢天眼ヲ↡。天眼ハ雖↢復見ルト↡亦復虚誑ナリ。見↢一異ノ相ヲ↡見ル↢衆物ノ和合ノ虚誑ノ法ヲ↡、以ノ↠是ヲ故ニ求ム↢恵眼ヲ↡。恵眼ノ中ニハ无シ↢如ノ↠是ノ過↡。」 已上
¬思益¼ の三 (思益経論寂品) にいはく、 「もし所見あらば慧眼と名づけず。 慧眼は有為の法を見ず、 無為の法を見ず。」 以上
¬思益ノ¼三ニ云ク、「若シ有ラバ↢所見↡不↠名↢恵眼ト↡。恵眼ハ不↠見↢有為ノ法ヲ↡、不↠見↢无為ノ法ヲ↡。」 已上
¬大論¼ の三十三 (大智度論初品意) にいはく、 「この天眼は、 和合の因縁生の仮名の物を見て実相を見ず、 故に慧眼を求む。 慧眼を得ぬれば衆生の尽滅一異の相を見ず、 諸著を捨離して一切の法を受けず。 智慧おのづから内に滅す、 これを慧眼と名づく。」 以上
¬大論ノ¼三十三ニ云ク、「是ノ天眼ハ、見テ↢和合ノ因縁生ノ仮名之物ヲ↡不↠見↢実相ヲ↡、故ニ求ム↢恵眼ヲ↡。得ヌレバ↢恵眼ヲ↡不↠見↢衆生ノ尽滅一異ノ相ヲ↡、捨↢離シテ諸著ヲ↡不↠受↢一切ノ法ヲ↡。智恵自内ニ滅ス、是ヲ名ク↢恵眼ト↡。」 已上
△仏眼具足覚了法性とは、 義寂 (大経義記巻上) のいはく、 「また位々の中に随分に成仏す、 ゆゑに位々の中にまた眼を具足す。 ¬経¼ に説かく、 初発心の位にすでに十力分を得るがゆゑに。」 以上
仏眼具足覚了法性ト者、義寂ノ云ク、「又位々ノ中ニ随分ニ成仏ス、故ニ位々ノ中ニ亦具↢足ス眼ヲ↡。¬経ニ¼説カク、初発心ノ位ニ已ニ得ガ↢十力分ヲ↡故ニ。」 已上
【38】▲「最勝道」 の中に 「*四智」 といふは、 如来所具の功徳なり。
「最勝道ノ」中ニ言↢「四智ト」↡者、如来所具之功徳也。
一には大円鏡智。 第八識を転じて仏果にこれを得。 もろもろの分別を離れてこの智の上において身土影現すること、 鏡の上においてもろもろの色像を現ずるがごとし。 このゆゑに名づけて大円鏡智となす。
一ニハ大円鏡智。転ジテ↢第八識ヲ↡仏果ニ得↠之ヲ。離テ↢諸ノ分別ヲ↡於テ↢此ノ智ノ上ニ↡身土影現スルコト、如シ↧於テ↢鏡ノ上ニ↡現ズルガ↦衆ノ色像ヲ↥。是ノ故ニ名テ為ス↢大円鏡智ト↡。
二には平等性智。 第七識を転じて初地にこれを得。 これ自他の有情の平等を観ず。 この智品、 大慈悲等の功徳と相応す。
二ニハ平等性智。転ジテ↢第七識ヲ↡初地ニ得↠之ヲ。是観ズ↢自他ノ有情ノ平等ヲ↡。是ノ智品、与↢大慈悲等ノ功徳↡相応ス。
三には妙観察智。 第六識を転じて真の*見道の初めにこの智品を得。 よく諸法の自相・共相を観ず。
三ニハ妙観察智。転ジテ↢第六識ヲ↡真ノ見道ノ初ニ得↢此ノ智品ヲ↡。善ク観ズ↢諸法ノ自相・共相ヲ↡。
四には成所作智。 前五識を転じて仏果にこれを得。 あまねく十方において種々の変化の三業を示現して事業を応作す。
四ニハ成所作智。転ジテ↢前五識ヲ↡仏1029果ニ得↠之ヲ。普ク於テ↢十方ニ↡示↢現シテ種々ノ変化ノ三業ヲ↡応↢作ス事業ヲ↡。
【39】▲「如来徳」 の中に 「即*第一義天」 とらいふは、 釈の意まつたく浄影の所解に同じ。 その釈△初めにあり、 重挙するにあたはず。
「如来徳ノ」中ニ言↢「即第一義天ト」等↡者、釈ノ意全ク同ジ↢浄影ノ所解ニ↡。其ノ釈在リ↠初ニ、不↠能↢重挙ルニ↡。
【40】▲「阿難」 以下は前の問を対する文なり。 ただしこの所対、 浄影・憬興少しきの不同あり。 「如来正覚」 以下の三句は所対まつたく同じ。 「慧見無礙」、 「無能遏絶」、 いまこの二句前後相翻せり。 いはゆる浄影は△上の所引のごとし、 興はいまの文のごとし。
「阿難」以下ハ対スル↢前ノ問ヲ↡文ナリ。但シ此ノ所対、浄影・憬興有リ↢少シキノ不同↡。「如来正覚」已下ノ三句ハ所対全ク同ジ。「恵見无」、「无能遏絶」、今此ノ二句前後相翻セリ。所謂浄影ハ如シ↢上ノ所引ノ↡、興ハ如シ↢今ノ文ノ↡。
問ふ。 所引の釈の中に、 なんぞ中間の 「▲其智難量多所導御」 (述文賛巻中) の二句を除くや。
問。所引ノ釈ノ中ニ、何ゾ除ク↢中間ノ「其智難量多所導御」之二句ヲ↡耶。
答ふ。 別の意趣なし。 ただ初後を挙げてその中間を略す、 省略の義なり。
答。无シ↢別ノ意趣↡。只挙テ↢初後ヲ↡略ス↢其ノ中間ヲ↡、省略ノ義也。
二 Ⅱ ⅰ e 総結
【41】△「爾者」 以下はこれ総結なり。 いまその中において、
「爾者」已下ハ是総結也。今於テ↢其ノ中ニ↡、
「▲如来興世の正説」 とは、 *出世の本懐、 済凡の義、 △上につぶさに述ぶるがごとし。
「如来興世之正説ト」者、出世ノ本懐、済凡ノ之義、如シ↢上ニ具ニ述ルガ↡。
「▲奇特最勝の妙典」 とは、 奇特の法に住し最勝の道に住して説くところの教なるがゆゑに。
「奇特最勝之妙典ト」者、住シ↢奇特ノ法ニ↡住シテ↢最勝ノ道ニ↡所ノ↠説教ナルガ故ニ。
「▲一乗究竟の極説」 とは、 この ¬経¼ (大経) の下にいはく、 「▲一乗を究竟して彼岸に至る。」 以上 義寂釈して (大経義記巻下) いはく、 「一妙道をもつてあまねく群生を載せて、 自他ともに無為の岸に至るなり。」 以上 この徳を得べき極説なるがゆゑに。
「一乗究竟之極説ト」者、此ノ¬経ノ¼下ニ云ク、「究↢竟シテ一乗ヲ↡至ル↢于彼岸ニ↡。」 已上 義寂釈シテ云ク、「以テ↢一妙道ヲ↡普ク載テ↢群生ヲ↡、自他倶ニ至ル↢无為ノ岸ニ↡也。」 已上 可キ↠得↢此ノ徳↡之極説ナルガ故ニ。
「▲速疾↓円融の金言」 とは、 また (大経巻下) いはく、 「▲一世の勤苦は須臾の間なりといへども、 後に無量寿仏国に生じて快楽極まりなし。 長く道徳と合して明らかなり。 永く生死の根本を抜く。」 以上 須臾之間永抜生死はこれ速疾の益なり。
「速疾円融之金言ト」者、又云ク、「雖↢一世ノ勤苦ハ須臾之間ナリト↡、後ニ生ジテ↢无量寿仏国ニ↡快楽无シ↠極リ。長ク与↢道徳↡合シテ明ナリ。永ク抜ク↢生死ノ根本1030↡。」 已上 須臾之間永抜生死ハ是速疾ノ益ナリ。
また (大経巻下) いはく、 「▲横に五悪趣を截りて、 悪趣自然に閉づ。」 以上 「横截」 といふは、 頓速の義なり。
又云ク、「横ニ截テ↢五悪趣ヲ↡、悪趣自然ニ閉ヅ。」 已上 言↢横截↡者、頓速ノ義也。
また (大経巻下) いはく、 「▲法を聞きて楽んで受行して、 疾く清浄の処を得よ。」 以上
又云ク、「聞テ↠法ヲ楽テ受行シテ、疾ク得ヨ↢清浄ノ処ヲ↡。」 已上
また ¬覚経¼ (巻二) にいはく、 「▲速疾に超えてすなはち安楽国の世界に到るべし。」 以上
又¬覚経ニ¼云ク、「速疾ニ超テ便チ可シ↠到ル↢安楽国之世界ニ↡。」 已上
また ¬十住毘婆沙論¼ (巻五易行品) にいはく、 「▲もし人疾く不退転地に至らんと欲せば、 恭敬の心をもつて執持して名号を称すべし。」 以上
又¬十住毘婆沙論ニ¼云ク、「若シ人疾ク欲↠至ラント↢不退転地ニ↡者、応シ↧以テ↢恭敬ノ心ヲ↡執持シテ称ス↦名号ヲ↥。」 已上
¬浄土論¼ にいはく、 「▲よくすみやかに*功徳の大宝海を満足せしむ。」 以上
¬浄土論ニ¼云ク、「能ク令ム↣速ニ満↢足セ功徳ノ大宝海ヲ↡。」 已上
これみな速疾得益の義なり。
是皆速疾得益ノ義也。
「↑円融」 といふは、 △序の中に述ぶるがごとし。
言↢「円融ト」↡者、如↢序ノ中ニ述ガ↡。
「▲十方称讃の誠言」 とは、 第十七の願諸仏咨嗟、 すなはちその意なり。 ¬小経¼ 所説の諸仏の証誠、 この願によらまくのみ。
「十方称讃之誠言ト」者、第十七ノ願諸仏咨嗟、即其ノ意也。¬小経¼所説ノ諸仏ノ証誠、依ラマク↢此ノ願ニ↡耳。
「▲時機純熟の真教」 とは、 釈尊興世大悲の本懐、 これ時機純熟によるがゆゑなり。
「時機純熟之真教ト」者、釈尊興世大悲ノ本懐、是依ガ↢時機純熟ニ↡故也。
流通の文 (大経巻下) にいはく、 「▲当来の世に経道滅尽せんに、 われ慈悲をもつて哀愍して、 ことにこの経を留めて止住すること百歳せん。」 以上 法滅百歳の時の下機、 なほもつて得脱す。 いかにいはんや末法最初のいま、 時節相応し機縁純熟す。
流通ノ文ニ云ク、「当来ノ之世ニ経道滅尽センニ、我以テ↢慈悲ヲ↡哀愍シテ、特ニ留メテ↢此ノ経ヲ↡止住コト百歳セン。」 已上 法滅百歳之時ノ下機、猶以テ得脱ス。何ニ况ヤ末法最初ノ之今、時節相応シ機縁純熟ス。
¬*西方要決¼ にいはく、 「末法万年に余経ことごとく滅せんに、 弥陀の一教利物ひとへに増せん。」 以上
¬西方要决ニ¼云ク、「末法万年ニ余経悉ク滅センニ、弥陀ノ一教利物偏ニ増セン。」 已上
【42】当巻の大旨、 略して述ぶることかくのごとし。
当巻ノ大旨、略シテ述コト如↠斯ノ。
*六要鈔 第一 全
延書は底本の訓点に従って有国が行った(固有名詞の訓は保証できない)。
初めの一字と後の三字 「顕」 と 「文類序」。
中間の七字 「浄土真実教行証」。
無分・亡文 読み不明 (ム-ブン・モウ-ブンだと 「文」 の読みが 「ムン」 になる)。
権仮の仁・群萌・世雄・逆謗・闡提 五項目の註釈を、 内容からこの位置に繰り上げた。 本来は【8】に続く。
底本は ◎本派本願寺蔵明徳三年慈観上人書写本。 Ⓐ本派本願寺蔵文安四年空覚書写本、 Ⓑ興正派興正寺蔵蓮如上人書写本 と対校。
花→Ⓐ華
則→Ⓐ即
文→Ⓐ分
惷 左Ⓐヲロカナリ
厳師 ◎「黒谷」と左傍註記
嗔→Ⓐ瞋
恵→Ⓐ慧
令 左Ⓐシメン
曰→Ⓐ云
斉→Ⓐ再
捷 左Ⓐトシ
摂→Ⓐ接
貌→◎Ⓐ豤
弁→Ⓐ辨
曰→Ⓐ云
慮→Ⓐ盧
文 Ⓐ「初嘆所問三二対所問三勅聴許説先嘆恵問次挙仏出難□次嘆所問益多」と右傍註記
二 Ⓐ「初述成請問」と右傍註記し、さらに「次挙因結果」と左傍註記
問 Ⓐ「先述阿難所問」と右傍註記し、さらに「次述阿難所見」と左傍註記
諸→Ⓐ説
花→◎化
外→Ⓐ
六…全 Ⓐになし