1164◎六要鈔 第四
二 Ⅱ ⅳ 証
【1】 ◎△当巻大門第四に証を明かす。
◎当巻大門第四ニ明ス↠証ヲ。
中において四あり。 ▽一は題目、 ▽二は標挙、 二段▲前のごとし。 ▽三は正釈、 文の初めより ¬論の註¼ に第五の功徳の相を判ずるところの釈を引きて、 註に 「以上鈔出」 という文に至るまでこれを正釈となす。 ▽四は総結、 「爾者」 以下巻の終りに至るまで、 これその文なり。
於テ↠中ニ有リ↠四。一者題目、二者標挙、二段如シ↠前ノ。三者正釈、自↢文ノ之初↡至マデ↩引テ↧¬論ノ註ニ¼所ノ↠判ズル↢第五ノ功徳ノ相ヲ↡釈ヲ↥註ニ云フ↢「已上鈔出ト」↡之文ニ↨是ヲ為ス↢正釈ト↡。四者総結、「爾者」已下至マデ↢巻ノ之終ニ↡、是其ノ文也。
二 Ⅱ ⅳ a 題目
【2】 △一に題目に二を分つこと、 ▲前に準じて知るべし。 真実の信によりて真実の証を得。 信証次いでありて三四数を成ず。
一ニ題目ニ分コト↠二ヲ、准ジテ↠前ニ応シ↠知ル。依テ↢真実ノ信ニ↡得↢真実ノ証ヲ↡。信証有テ↠次三四成ズ↠数ヲ。
二 Ⅱ ⅳ b 標挙
【3】 △二に標挙といふは、 題の次の一行、 第十一の願、 これすなはち 「必至滅度の願」、 また住正定聚の願といふ。
二ニ言↢標挙ト↡者、題ノ次ノ一行、第十一ノ願、是則「必至滅度之願」、亦云フ↢住正定聚之願ト↡。
その下の註に 「▲↓難思議往生」 といふ意は、 ▲¬法事讃¼ の中に釈するところの*三種往生の中のその一の名なり。 三種の内これを真実となす。 難思議往生の益によりて得るところの証、 これを 「▲無上涅槃の果」 となす。
其ノ下之註ニ言フ↢「難思議往生ト」↡意者、¬法事讃ノ¼中ニ所ノ↠釈スル三種往生ノ之中ノ其ノ一ノ名也。三種ノ之内為ス↢之ヲ真実ト↡。依テ↢難思議往生之益ニ↡所ノ↠得ル之証、是ヲ為ス↢「无上涅槃ノ之果ト」↡。
問ふ。 いま挙ぐるところの外の二種いかん。
問。今所ノ↠挙ル外ノ二種云何。
答ふ。 第六巻にあり、 ▲下を待つべし。
答。在リ↢第六巻ニ↡、可↠待↠下ヲ也。
問ふ。 この往生を嘆じて 「↑難思議」 といふ、 その意いかん。
問。嘆ジテ↢此ノ往生ヲ↡云フ↢「難思議ト」↡、其ノ意如何。
答ふ。 仏を*不可思議光仏と号す。 かの誓願に帰して往生を得るがゆゑに往生の徳を指して 「難思議」 といふ。 これすなはち*罪悪生死の凡夫、 無有出離之縁の下機、 ひとへに仏力によりて報法高妙の浄土に入ることを得。 さらに凡心の思度するところにあらず、 さらに口言の及ぶべきところにあらず。 このゆゑに嘆じて 「難思議」 といふなり。
答。仏ヲ号ス↢不可思議光仏ト↡。帰シテ↢彼ノ誓願ニ↡得ガ↢往生ヲ↡故ニ指シテ↢往生ノ徳ヲ↡云フ↢「難思議ト」↡。是則罪悪生死ノ凡夫、無有出離之縁ノ下機、偏ニ由テ↢仏力ニ↡得↠入コトヲ↢報法高妙ノ浄土ニ↡。更1165ニ非ズ↣凡心ノ之所ニ↢思度スル↡、更ニ非ズ↢口言ノ之所ニ↟可↠及。是ノ故ニ嘆ジテ言↢「難思議ト」↡也。
二 Ⅱ ⅳ c 正釈
【4】 △正釈の中に就きて、 文を分ちて二となす。 ▽文の初めより 「報応化種々身也」 に至るまでは、 総じて大意を標す。 ▽「必至」 以下はまさしく諸文を引きかねてわたくしの釈を加ふ。
就テ↢正釈ノ中ニ↡、分テ↠文ヲ為ス↠二ト。自↢文之初↡至マデハ↢「報応化種種身也ニ」↡、総ジテ標ス↢大意ヲ↡。「必至」以下ハ正ク引キ↢諸文ヲ↡兼テ加フ↢私ノ釈ヲ↡。
二 Ⅱ ⅳ c イ 総標
【5】 △まづ総標の中に就きて、
先ヅ就テ↢総標ノ中ニ↡、
▲「謹顕」 とらは、 まさしく当巻所立の名を標す。
「謹顕ト」等者、正ク標ス↢当巻所立之名ヲ↡。
▲「利他」 とらは、 これ証道をさす。 あるいは*初地以上を指し、 あるいは八地以上乃至*等覚*補処を指す。 これすなはち衆生生ずる者みなこれ*阿鞞跋致。 仏の*大願業力によりて得るところの希奇の益なり。
「利他ト」等者、是指ス↢証道ヲ↡。或ハ指シ↢初地已上ヲ↡、或ハ指ス↢八地已上乃至等覚補処ヲ↡。是則衆生生ズル者皆是阿鞞跋致。由テ↢仏ノ大願業力ニ↡所ノ↠得ル希奇ノ益也。
▲「無上」 とらは、 これ*妙覚無上の位を指す。 かならず補処に至りて窮極すべきところの妙果なり。
「无上ト」等者、是指ス↢妙覚无上ノ之位ヲ↡。必至テ↢補処ニ↡所ノ↠可↢窮極ス↡之妙果也。
▲「即時」 とらは、
「即時ト」等者、
問ふ。 当願の意、 不退の位を得ることは往生の後に約す。 かの土の徳なるがゆゑに。 しかるにいまのごとくは、 現生に約するか、 その意いかん。
問。当願ノ之意、得コトハ↢不退ノ位ヲ↡約ス↢往生ノ後ニ↡。彼ノ土ノ徳ナルガ故ニ。而ニ如ク↠今ノ者、約スル↢現生ニ↡哉、其ノ意如何。
答ふ。 ▽これに隠顕・傍正等の意あり。 もし顕正によらば生後の益に約す、 もし隠傍によらば現生の益に約す。
答。此ニ有リ↢隠顕・傍正等ノ意↡。若シ拠ラバ↢顕正ニ↡約ス↢生後ノ益ニ↡、若シ依ラバ↢隠傍ニ↡約ス↢現生ノ益ニ↡。
これによりてあるいは (大経巻下) 「▲即得往生住不退転」 といひ、 あるいは 「▲皆悉到彼国自致不退転」 といふ、 おのおの料簡あり。
依テ↠之ニ或ハ云ヒ↢「即得往生住不退転ト」↡、或ハ云フ↢「皆悉到彼国自致不退転ト」↡、各有リ↢料簡↡。
このゆゑに ¬十住毘婆沙論¼ (巻五易行品) にもしは 「▲即入必定」 といひ、 もしは 「▲欲於此身」 といふ、 みな即時に約す、 これ現生の意なり。
是ノ故ニ¬十住毘婆沙論ニ¼若ハ云ヒ↢「即入必定ト」↡、若ハ云フ↢「欲於此身ト」↡。皆約ス↢即時ニ↡、是現生ノ意ナリ。
これらの義によりてこの釈あるなり。 この義つぶさに▲第二巻の新本の中に載せたり、 よろしくかの解を見るべし。
依テ↢此等ノ義ニ↡有↢此ノ釈↡也。此ノ義具ニ載タリ↢第二巻ノ新本ノ之中ニ↡、宜ク↠見ル↢彼ノ解ヲ↡。
二 Ⅱ ⅳ c ロ 正引
【6】 △次に正引の中に、 まづ彼此両経の五文を出だす。
次ニ正引ノ中ニ、先ヅ出ス↢彼此両経ノ五文ヲ↡。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ 願文
【7】 ▲初めにまさしき願文。
初1166ニ正キ願文。
問ふ。 当願の大意いかん。
問。当願ノ大意云何。
答ふ。 因位所見の諸土の中に、 あるいは仏道修行を致すといへども退して邪聚に入るあり、 あるいは退せずしてすみやかに菩提を得るあり。 法蔵かの退堕の類を憫愍して、 かの類をして正定聚に住せしめて、 つひに涅槃の妙理を証せしめんがためのゆゑに、 この願を発したまふなり。
答。因位所見ノ諸土ノ之中ニ、或ハ有リ↧雖↠致スト↢仏道修行ヲ↡退テ入ル↦邪聚ニ↥、或ハ有リ↣不シテ↠退セ速ニ得ル↢菩提ヲ↡。法蔵憫↢愍シテ彼ノ退堕ノ類ヲ↡、為ノ↧令 シメテ↣彼ノ類ヲシテ住セ↢正定聚ニ↡、終ニ証セシメンガ↦涅槃之妙理ヲ↥故ニ、発シタマフ↢此ノ願ヲ↡也。
問ふ。 ▲定聚・滅度はこれ二益か、 また一益か。
問。定聚・滅度ハ是二益歟、又一益歟。
答ふ。 これ二益なり。 定聚といふは、 これ不退に当る、 滅度といふは、 これ涅槃を指す。
答。是二益也。言↢定聚ト↡者是当ル↢不退ニ↡、言↢滅度ト↡者是指ス↢涅槃ヲ↡。
問ふ。 ▲定聚・滅度、 いづれをか願の体とする。
問。定聚・滅度、何ヲカ為ル↢願ノ体ト↡。
答ふ。 諸師の意、 多く不退をもつてその願の体とす。 いはゆる寂は (大経義記巻中) 「令住定聚」 といひ、 法位師は (大経義疏) 「願住定聚」 といひ、 玄一師は (大経記巻上意) 「住定聚の願」 といひ、 静照 (四十八願釈意)・真源はともに 「住必定聚の願」 と名づく。
答。諸師ノ之意、多ク以テ↢不退ヲ↡為ス↢其ノ願ノ体ト↡。所謂寂ハ云ヒ↢「令住定聚ト」↡、法位師ハ云ヒ↢「願住定聚ト」↡、玄一師ハ云ヒ↢「住定聚ノ願ト」↡、静照・真源ハ共ニ名ク↢「住必定聚ノ之願ト」↡。
ただしかの御廟 (九品往生義)・智光 (無量寿経論釈巻二) の二徳はならびに 「住正定聚必至菩提の願」 といふ、 これ両益を挙ぐ、 この名のごときは、 なにをもつて所願の体となすといふことを定めがたし。 もし初益に約せば不退たるべし、 もし究竟に約せば滅度たるべし。
但シ彼ノ御廟・智光ノ二徳ハ並ニ云フ↢「住正定聚必至菩提ノ之願ト」↡、是挙グ↢両益ヲ↡。如↢此ノ名ノ↡者、難シ↠定メ↣以テ↠何ヲ為スト云コトヲ↢所願ノ之体ト↡。若シ約セバ↢初益ニ↡可シ↠為ル↢不退↡、若シ約セバ↢究竟ニ↡可シ↠為↢滅度↡。
いまこの集の意、 その終益に就きて名を立てらるるか。
今此ノ集ノ意、就テ↢其ノ終益ニ↡被↠立↠名ヲ歟。
問ふ。 「▲滅度」 といふは、 大小二乗所証の理、 ともにこの名を得、 いまいづれを指すや。
問。言↢「滅度ト」↡者、大小二乗所証ノ之理、共ニ得↢此ノ名ヲ↡。今指↠何ヲ耶。
答ふ。 大乗の滅度なること、 文↓理ともに明らかなり。 その文といふは、 ▲次下に引くところの ¬如来会¼ の文、 その説分明なり。
答。大乗ノ滅度ナルコト、文理共ニ明ナリ。言↢其ノ文↡者、次下ニ所ノ↠引ク¬如来会ノ¼文、其説分明ナリ。
また ¬大阿弥陀経¼ (巻上) に説きて 「▲令得仏道」 といひ、 「▲大涅槃」 といひ、 「▲取菩提」 といひ、 「▲得仏道」 といふ。
又¬大阿弥陀経ニ¼説テ云ヒ↢「令得仏道ト」↡、云ヒ↢「大涅槃ト」↡、云ヒ↢「取菩提ト」↡、云フ↢「得仏道ト」↡。
その↑理といふは、 弥陀の教文は大乗真実終窮の極説、 了義教なり。 極楽は畢竟成仏の道路、 すなはちこれ大乗善根界なり。 あに小乗灰断の滅度を得んや。 まさに知るべし、 その証ひとへに大乗にありといふことを。
言↢其ノ理ト↡者、弥陀ノ教文ハ大乗真実終窮ノ極説、了義教也。極楽ハ畢竟成仏ノ道路、即是大乗善根1167界也。豈得ンヤ↢小乗灰断ノ滅度ヲ↡。当↠知ル、其ノ証偏ニ在ト云コトヲ↢大乗ニ↡。
問ふ。 所立のごときは、 往生の後得るところの益、 浄土の徳なり。 しからばいふところの現生即時不退の義、 相違いかん。
問。如↢所立ノ↡者、往生ノ之後所ノ↠得之益ハ、浄土ノ徳也。然ラバ者所ノ↠言現生即時不退ノ之義、相違如何。
答ふ。 あに前に言はずや、 △不退の益においてその隠顕・傍正の意ありと。 処々の料簡その意みな同じ。 また滅度の益は、 生後究竟の益たるべきこと、 混乱すべからず。
答。豈不ヤ↢前ニ言ハ↡、於テ↢不退ノ益ニ↡有リト↢其ノ隠顕・傍正ノ之意↡。処処ノ料簡、其ノ意皆同ジ。又滅度ノ益、可コト↠為↢生後究竟ノ之益↡、不↠可↢混乱ス↡。
問ふ。 生後の益に約して不退を論ぜば、 その位いかん。
問。約シテ↢生後ノ益ニ↡論ゼ↢不退ヲ↡者、其ノ位如何。
答ふ。 常途の所談は*三不退にあらず、 これ処不退なり。 ゆゑに ¬要集¼ (巻下) に判じて 「▲処不退」 といふ。 また ¬群疑論¼ (巻六) にいはく、 「初往生の時すなはち不退と名づくることは、 これ処不退に約す。」 以上
答。常途ノ所談ハ非ズ↢三不退ニ↡、是処不退ナリ。故ニ¬要集ニ¼判ジテ云フ↢「処不退ト」↡。又¬群疑論ニ¼云ク、「初往生ノ時即名クルコト↢不退ト↡者、是約ス↢処不退ニ↡。」 已上
ただし▲下に本論を引く意のごときは、 初益はこれ行不退、 後は念不退なりといふべし。 いふところの未証浄心の菩薩は初地以上、 上地の菩薩はこれ八地以上を指すがゆゑなり。 集主の意、 真実の証を立つること、 その位深高なり。 この義に叶ふか。
但シ如↧下ニ引ク↢本論ヲ↡意ノ↥者、可シ↠云↢初益ハ是行不退、後ハ念不退ナリト↡。所ノ↠言未証浄心ノ菩薩ハ初地已上、上地ノ菩薩ハ是指ガ↢八地已上ヲ↡故也。集主ノ之意、立コト↢真実ノ証ヲ↡、其ノ位深高ナリ。叶フ↢此ノ義ニ↡歟。
問ふ。 「▲不住」 とらは、 「不」 の言はこれ定聚を指す。 その義滅度に被らしむといひがたきや。
問。「不住ト」等者、「不ノ」之言者是指ス↢定聚ヲ↡。其ノ義難↠云↠被ラシムト↢滅度ニ↡耶。
答ふ。 不の言は必至滅度に流至す。 初め定聚に住してつひに成仏するがゆゑに。
答。不ノ言ハ流↢至ス必至滅度ニ↡。初メ住シテ↢定聚ニ↡終ニ成仏スルガ故ニ。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・『如来会』願文
【8】 ▲次に ¬如来会¼ の文。
次ニ¬如来会ノ¼文。
▲「決定」 といふは正定聚なり。 「▲成等覚」 とはこれ必至滅度の意を顕す。 大乗の滅度、 この文灼然なり。 ¬正信偈¼ (行巻) の中に 「▲成等覚証大涅槃」 といふ、 この文の意なり。
言↢「決定ト」↡者正定聚也。「成等覚ト」者是顕ス↢必至滅度之意ヲ↡。大乗ノ滅度、此ノ文*灼然ナリ。¬正信偈ノ¼中ニ云フ↢「成等覚証大涅槃ト」↡、此ノ文ノ意也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ 願成就二文
【9】 ▲次に願成就の文、 ¬大経¼ の下巻最初の文なり。
次1168ニ願成就ノ文、¬大経ノ¼下巻最初ノ文也。
問ふ。 三聚の相、 その位いかん。
問。三聚ノ之相、其ノ位如何。
答ふ。 三定聚の義、 諸説不同なり。
答。三定聚ノ義、諸説不同ナリ。
もし小乗によらば ¬倶舎論¼ (玄奘訳巻一〇世品) にいはく、 「正と邪と不定との聚は、 聖と無間を造ると余となり。」 以上本頌 ¬頌疏¼ (円暉頌疏巻一〇意) に釈していはく、 「上の句は標し、 下の句は釈す。 いはくもろもろの聖人を正性定聚と名づく。 五無間を造る者を邪定聚と名づく、 余はすなはち無間の外の余の凡夫なり。」 以上
若シ依ラバ↢小乗ニ↡¬倶舎論ニ¼云ク、「正ト邪ト不定トノ聚ハ、聖ト造ルト↢无間ヲ↡余トナリ。」 已上本頌 ¬頌疏ニ¼釈シテ云ク、「上ノ句ハ標シ、下ノ句ハ釈ス。謂ク諸ノ聖人ヲ名ク↢正性定聚ト↡。造ル↢五无間ヲ↡者ヲ名ク↢邪定聚ト↡。余ハ即无間ノ外ノ余ノ凡夫也。」 已上
もし大乗によらば ¬釈摩訶衍論¼ (巻一意) の説のごときは、 その三種あり。 「一は十信の前を邪定聚と名づく、 業果報等を信ぜざるがゆゑに。 三賢・十聖を正定聚と名づく、 不退の位なるがゆゑに。 十信を不定聚と名づく、 あるいは進あるいは退、 いまだ決定せざるがゆゑに。 二は十信の前ならびに十信を邪定と名づく。 大覚の果を正定と名づく。 三賢・十聖を不定と名づく。 三は十信の前を邪定と名づく。 十聖を正定と名づく。 十信・三賢を不定と名づく。」 以上
若シ依ラバ↢大乗ニ↡如↢¬釈摩訶衍論ノ¼説ノ↡者有リ↢其ノ*三種。「一者十信ノ前ヲ名ク↢邪定聚ト↡、不ガ↠信ゼ↢業果報等ヲ↡故ニ。三賢・十聖ヲ名ク↢正定聚ト↡、不退ノ位ナルガ故ニ。十信ヲ名ク↢不定聚ト↡、或ハ進或ハ退、未ダガ↢決定セ↡故ニ。二者十信ノ前并ニ十信ヲ名ク↢邪定ト↡。大覚ノ果ヲ名ク↢正定ト↡。三賢・十聖ヲ名ク↢不定ト↡。*三者十信ノ前ヲ名ク↢邪定ト↡。十聖ヲ名ク↢正定ト↡。十信・三賢ヲ名ク↢不定ト↡。」 已上
随ひて諸師また異解あり。 しばらく憬興師 (述文賛巻下) 諸師の解を破して、 自義を述べて (述文賛・下) いはく、 「いますなはち余教に説くところの三乗は、 みなこれ穢土にこの三乗あるがゆゑに、 もし浄土に生じぬれば凡聖を問はず。 定めて涅槃に向かひ、 定めて善行に趣き、 定めて善道に生じ、 定めて六度を行じ、 定めて解脱を得。 ゆゑにただ正定聚ありてしかも余の二なきなり。」 以上
随而諸師又有リ↢異解↡。且ク憬興師破シテ↢諸師ノ解ヲ↡、述テ↢自義ヲ↡云ク、「今即余教ニ所ノ↠説ク三乗ハ、皆是穢土ニ有ガ↢此ノ三乗↡故ニ、若シ生ジヌレバ↢浄土ニ↡不↠問↢凡聖ヲ↡。定テ向ヒ↢涅槃ニ↡、定テ趣キ↢善行ニ↡、定テ生ジ↢善道ニ↡、定テ行ジ↢六度ヲ↡、定テ得↢解脱ヲ↡。故ニ唯有テ↢正定聚↡而モ无↢余ノ二↡也。」 已上
この釈のごときは位を定判せず、 ただかの土の不退の徳を嘆ず。 処不退の義趣に叶ふか。 たとひ三不退等を得といふとも、 これまた仏力、 すなはち処不退の勝徳なるがゆゑに違するところなきか。
如↢此ノ釈ノ↡者不↣定↢判セ位ヲ↡、只嘆ズ↢彼ノ土ノ不退ノ之徳ヲ↡。叶フ↢処不退ノ之義趣ニ↡歟。縦令ヒ雖↠得ト↢三不退等ヲ↡、是又仏力、即処不退ノ之勝徳ナルガ故ニ无↠所↠違スル歟。
【10】次に▲「又言彼仏」 とらいふは、 上巻の文なり。
次1169ニ云↢「又言彼仏ト」等↡者、上巻ノ文也。
上に▲新生旧住の報勝を明かす分科の文の中に、 その新生においてまた正依を分つ。 しかるにいまの文は、 ▲初め 「彼仏」 より 「洹之道」 に至るまで、 依報勝を明かす結文なり。
上ニ明ス↢新生旧住ノ報勝ヲ↡分科ノ文ノ中ニ、於テ↢其ノ新生ニ↡又分ツ↢正依ヲ↡。而ニ今ノ文者、初自↢「彼仏」↡至マデ↢「洹之道ニ」↡、明ス↢依報勝ヲ↡之結文也。
「次於」 とらは、 「▲泥洹」 は梵音、 また涅槃といふ。 すなはちこれ滅度。 「▲↓次」 とは近なり、 これかの土涅槃の道に近きことをいふ。
「次於ト」等者、「泥洹ハ」梵音、又言フ↢涅槃ト↡。乃チ是滅度。「次ト」者近也、是言フ↣彼ノ土近コトヲ↢涅槃ノ道ニ↡。
問ふ。 ¬法事讃¼ (巻下) にいはく、 「▲極楽無為涅槃界。」 以上 すなはちその当体涅槃界なり、 なんぞ↑次しといふや。
問。¬法事讃ニ¼云ク、「極楽无為涅槃界。」 已上 即其ノ当体涅槃界也、何ゾ云↠次ト耶。
答ふ。 弥陀の妙果は無上涅槃、 極楽はすなはちまた大涅槃界第一義諦妙境界相なること、 理在絶言なり。 いま次しといふは、 その新生の菩薩に約して嘆ずるがゆゑに、 しばらく次しといふなり。
答。弥陀ノ妙果ハ無上涅槃、極楽ハ即又大涅槃界第一義諦妙境界相ナルコト、理在絶言ナリ。今云↠次ト者、約シテ↢其ノ新生ノ菩薩ニ↡嘆ズルガ故ニ、且ク云↠次ト也。
▲「其諸」 とらは、 旧住勝を明かすにまた二報を分つ。 その中にいまの所引は正報勝を明かす初めの文なり。
「其諸ト」等者、明ニ↢旧住勝ヲ↡又分ツ↢二報ヲ↡。其ノ中ニ今ノ之所引ハ明ス↢正報勝ヲ↡之初ノ文也。
「▲智慧高明」 はこれ内徳を嘆ず。 ▲第二十九の得弁才智の願成就するがゆゑに。
「智恵高明ハ」是嘆ズ↢内徳ヲ↡。第二十九ノ得弁才智ノ願成就スルガ故ニ。
「▲神通洞達」 は同じくこれ内徳六通の願、 願成就するがゆゑなり。
「神通洞達ハ」同ク是内徳六通ノ願、願成就スルガ故也。
▲「咸同」 とらは、 これ外相を讃ず。 ▲第四の無有好醜の願成就するがゆゑなり。
「咸同ト」等者、是讃ズ↢外相ヲ↡。第四ノ无有好醜ノ之願成就スルガ故也。
▲「但因」 とらは、 義寂師 (大経義記巻中) のいはく、 「因順余方にその二義あり。 一には本業に随ふ。 いはく往生する者、 あるいは人業を資して生ずるあり、 あるいは天業を資して生ずるあり。 かしこに生ずる時異状なしといへども、 本業に因順して人天の名あり。 二には居処による。 いはくかの土の中に、 あるいは地によりて居するあり、 あるいは空にありて居するあり。 かしこの果報に異状なしといへども、 その所在の処に随ひて人天の名あり。」 以上
「但因ト」等者、義寂師ノ云、「因順余方ニ有リ↢其ノ二義↡。一ニハ随フ↢本業ニ↡。謂ク往生スル者、或ハ有リ↧資シテ↢人業ヲ↡生ズル↥、或ハ有リ↧資シテ↢天業ヲ↡生ズル↥。雖↢生ズル↠彼ニ時无ト異状↡、因↢順シテ本業ニ↡有リ↢人天ノ名↡。二ニハ因ル↢居処ニ↡。謂ク彼ノ土ノ中ニ、或ハ有リ↢依テ↠地ニ居スル↡、或ハ有リ↢在テ↠空ニ居スル↡。雖↣彼ノ果報ニ无↢異状↡、随テ↢其ノ所在ノ処ニ↡有リ↢人天ノ名↡。」 已上
▲「顔貌」 以下は穢土に超えたることを明かす。 所引の文の次に (大経巻上) ▲「仏告」 といふ下は、 比校顕勝してその超えたることを明かすなり。
「顔貌」以下ハ明ス↠超タルコトヲ↢穢土ニ↡。所引ノ文ノ次ニ云↢「仏告ト」↡下ハ、比校顕勝シテ明↢其ノ超1170タルコトヲ↡也。
▲「非天」 とらは、 上に因順して天人の名ありと説きて、 まづ実にあらざることを標し、 いままさしくその実体なきことを顕説す。
「非天ト」等者、上ニ説テ↣因順シテ有ト↢天人ノ名↡先ヅ標シ↠非コトヲ↠実ニ、今正ク顕↣説ス无コトヲ↢其ノ実体↡。
わたくしに文の意を案ずるに、 これ初生の時、 聖凡別なりといへども、 仏力によるがゆゑに、 すなはち上位に至りぬれば同じく真理に達することを顕彰せんと欲す。 このゆゑに下に ▲「皆受」 とら説くなり。
私ニ案ズルニ↢文ノ意ヲ↡、是欲↫顕↪彰セント初生ノ之時、聖凡雖↠別ナリト、依ガ↢仏力ニ↡故ニ、即至ヌレバ↢上位ニ↡同ク達スルコトヲ↩真理ニ↨。是ノ故ニ下ニ説↢「皆受ト」等↡也。
▲「自然虚無之身」 とらは、
「自然虚无之身ト」等者、
嘉祥師 (大経義疏) のいはく、 「神通至らざるところなきをもってのゆゑに無極の体なり。 光影のごときなるがゆゑに虚無の身なり。」 以上
嘉祥師ノ云、「以ノ↢神通无キヲ↟所↠不↠至故ニ无極ノ之体ナリ。如ナルガ↢光影ノ↡故ニ虚无ノ之身ナリ。」 已上
義寂師 (大経義記巻中) のいはく、 「胎蔵の生育するところにあらざるがゆゑに自然なり。 飲食の長養するところにあらざるがゆゑに虚無なり。 老死の損没するところにあらざるがゆゑに無極なり。 乃至 またすなはちこの身成仏に至るがゆゑに。」 以上
義寂師ノ云、「非ガ↣胎蔵ノ所ニ↢生育スル↡故ニ自然ナリ。非ガ↣飲食ノ所ニ↢長養スル↡故ニ虚无ナリ。非ガ↣老死ノ所ニ↢損没スル↡故ニ无極ナリ。 乃至 又即此ノ身至ガ↢成仏ニ↡故ニ。」 已上
憬興師 (述文賛巻中) のいはく、 「虚無無極とは、 無障のゆゑに、 希有のゆゑに、 その次第のごとし。 すなはち求那羅延力の願の報なり。」 以上
憬興師ノ云、「虚无无極ト者、无障ノ故ニ、希有ノ故ニ、如シ↢其ノ次第ノ↡。即求那羅延力ノ願ノ之報也。」 已上
玄一師 (大経記巻上) のいはく、 「虚無といふは横に障礙なきがゆゑに。 無極というは縦に衰退なきがゆゑに。」 以上
玄一師ノ云、「言↢虚无ト↡者横ニ无ガ↢障↡故ニ。言↢无極ト↡者縦ニ无ガ↢衰退↡故ニ。」 已上
諸師の料簡、 おのおの一理あり。 わたくしに潤色していはく、
諸師ノ料簡、各有リ↢一理↡。私ニ潤色シテ云ク、
「自然」 といふは浄土の徳たり。 ¬法事讃¼ (巻下) にいはく、 「▲仏に従ひて逍遙して自然に帰す。 自然はすなはちこれ弥陀の国なり。」 以上
言↢「自然ト」↡者為リ↢浄土ノ徳↡。¬法事讃ニ¼云ク、「従テ↠仏ニ逍遙シテ帰ス↢自然ニ↡。自然ハ即是弥陀ノ国ナリ。」 已上
「虚無」 はまたこれ浄土の楽なり。 ¬般舟讃¼ にいはく、 「▲ひとたび到りぬればすなはち清虚の楽を受く。 清虚はすなはちこれ涅槃の因なり。」 以上 虚無と清虚とその義似同せり。
「虚無ハ」又是浄土ノ楽也。¬般舟讃ニ¼云ク、「一タビ到ヌレバ即受ク↢清虚ノ楽ヲ↡。清虚ハ即是涅槃ノ因ナリ。」 已上 虚无ト清虚ト其ノ義似同セリ。
「無極」 といふは、 これ昇道無窮の義に順ず。 この ¬経¼ (大経) の下に説きていはく、 「▲昇道無窮極」。 また寿命無窮の義を顕す。 同じき次下 (大経) に説きていはく、 「▲寿楽無有極」。
言↢「無極ト」↡者、是順ズ↢昇道无窮ノ之義ニ↡。此ノ¬経ノ¼下ニ説テ言ク、「昇道无窮極」。又顕ス↢寿命无窮ノ之義ヲ↡。同キ次下ニ説テ云ク、「寿楽无有極」。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・『如来会』願成就文
【11】▲次に ¬如来会¼ の願成就の文、 その意見つべし。
次ニ¬如来会ノ¼願成就ノ文、其ノ意可シ↠見ツ。
また ¬平等覚¼ (巻三) にいはく、 「▲無量清浄仏国に生ずる者は、 それしかして後にみなまさに阿惟越致の菩薩を得べし。」 以上 ▲¬大阿弥陀経¼ の説これに同じ。
又¬平等覚ニ¼云、「生ズル↢无量清浄仏国1171ニ↡者ハ、其然シテ後ニ皆当ニ↠得↢阿惟越致ノ菩薩ヲ↡。」 已上 ¬大阿弥陀経ノ¼説同ジ↠之ニ。
また ¬荘厳経¼ (巻中) にいはく、 「▲もし善男子・善女人ありて、 もしはすでに生じ、 もしはまさに生ぜん。 この人決定して阿耨多羅三藐三菩提を証す。 意においていかん。 かの仏刹の中には三種の失なし。 一には心に虚妄なし。 二には位に退転なし。 三には善に唐捐なることなし。」 以上
又¬荘厳経ニ¼云ク、「若シ有テ↢善男子・善女人↡、若ハ已ニ生ジ、若ハ当ニ生ゼン。是ノ人決定シテ証ス↢於阿耨多羅三藐三菩提ヲ↡。於テ↠意ニ云何。彼ノ仏刹ノ中ニハ无シ↢三種ノ失↡。一ニハ心ニ無シ↢虚妄↡。二ニハ位ニ无シ↢退転↡。三ニハ善无シ↢唐捐ナルコト↡。」 已上
いまこの二文所引にあらずといへども、 周覧に備へんがためにわたくしに載するところなり。
今此ノ二文雖↠非ト↢所引ニ↡、為ニ↠備ヘンガ↢周覧ニ↡私ニ所↠載也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・『浄土論』五文
【12】▲次に ¬浄土論¼、 これに五文あり。
次ニ¬浄土論¼、此有リ↢五文↡。
▲第一の文は、 国土の荘厳十七種の中にその第十一の荘厳なり。 いま 「声」 といふは音声に関らず、 これ名字なり。
第一ノ文者、国土ノ荘厳十七種ノ中ニ其ノ第十一ノ之荘厳也。今言↢「声ト」↡者不↠関カラ↢音声↡、是名字也。
▲「経言」 といふは、
言↢「経言ト」↡者、
問ふ。 なんの経を指すぞや。
問。指スゾ↢何レノ経ヲ↡耶。
答ふ。 ¬覚経¼ を指すなり。 かの ¬経¼ に (平等覚経巻一) いはく、 「▲十七に、 われ作仏せん時、 わが名字をして八方上下無数の仏国に聞かしめて、 諸仏おのおの弟子衆の中において、 わが功徳・国土の善を歎ぜん。 諸天人民・蝡動の類わが名字を聞きて、 みなことごとく踊躍して、 わが国に来生せん。 しからずはわれ作仏せじ。」 以上
答。指ス↢¬覚経ヲ¼↡也。彼ノ¬経ニ¼云、「十七ニ、我作仏セン時、令 シメテ↣我ガ名字ヲシテ聞カ↢八方上下无数ノ仏国ニ↡、諸仏各於テ↢弟子衆ノ中ニ↡、歎ゼン↢我ガ功徳・国土ノ之善ヲ↡。諸天人民・蝡動ノ之類聞テ↢我ガ名字ヲ↡、皆悉ク踊躍シテ、来↢生セン我ガ国ニ↡。不↠爾者我不↢作仏セ↡。」 已上
問ふ。 かの ¬覚経¼ に▲すなはち正定聚に入るといはず、 いま ¬註¼ になんぞこれを加ふる。
問。彼ノ¬覚経ニ¼不↠云↣即入ト↢正定聚ニ↡、今¬註ニ¼何ゾ加フル↠之ヲ。
答ふ。 経文に隠れたりといへども、 その義必然なり。 来生我国といふ、 すなはち入正定聚なり。 正定の言に就きていまこれを引かる。
答。経文ニ雖↠隠タリト、其ノ義必然ナリ。云フ↢来生我国ト↡、即入正定聚也。就テ↢正定ノ言ニ↡今被↠引↠之ヲ。
【13】▲第二の文は、 同じき第十二の荘厳なり。
第二ノ文者、同キ第十二ノ之荘厳也。
▲「不異不滅」・「不散不失」 は住持の徳、 これまた不退の義に相順するがゆゑにこれを引用せらる。
「不異不滅」・「不散不失ハ」住持ノ之徳、是又相↢順スルガ不退ノ義ニ↡故ニ被ル↣引↢用セ之ヲ↡。
「▲不朽薬」 とは、 ¬華厳経¼ の説、 随義転用なり。
「不朽薬ト」者、¬華厳経ノ¼説、随義転用ナリ。
【14】▲第三の文は、 同じき第十三の荘厳なり。
第1172三ノ文者、同キ第十三ノ之荘厳也。
▲「莫非」 とらは、
「莫非ト」等者、
問ふ。 極楽の中において胎生・化生差別分明なり、 なんぞかくのごとく釈する。
問。於テ↢極楽ノ中ニ↡胎生・化生差別分明ナリ、何ゾ如ク↠此ノ釈スル。
答ふ。 かの胎生とは、 すなはちこれ化土、 疑惑仏智の行者の所生。 この化生とは、 すなはちこれ報土、 明信仏智の行者の所生なり。 いまの釈もつとも真実の証を明かす要文たるか。
答。彼ノ胎生ト者、即是化土、疑惑仏智ノ行者ノ所生。此ノ化生ト者、即是報土、明信仏智ノ行者ノ所生ナリ。今ノ釈最為ル↧明ス↢真実ノ証ヲ↡之要文↥歟。
▲「同一」 とらは、 ▲第二巻のわたくしの御釈の中において、 この詞を載せらる。 よりてその下▲新末の鈔の中において、 ほぼ愚解を加ふ。 かの鈔を見るべし。
「同一ト」等者、於テ↢第二巻ノ私ノ御釈ノ中ニ↡、被ル↠載セ↢此ノ詞ヲ↡。仍テ於テ↢其ノ下新末ノ鈔ノ中ニ↡、粗加フ↢愚解ヲ↡。可シ↠見ル↢彼ノ鈔ヲ↡。
【15】▲第四の文は、 同じき第十六の大義門功徳成就の文なり。
第四ノ文者、同キ第十六ノ大義門功徳成就ノ文也。
▲「本則」 とらは、 これに二義あり。
「本則ト」等者、此ニ有リ↢二義↡。
一にいはく、 かの二乗および女人諸根不具等の三類において、 おのおの名体あり。 このゆゑにかの体三・名三を挙げてこれを 「三三」 といふ。 「一二」 といふは体と名となり。
一ニ云、於テ↢彼ノ二乗及以ビ女人諸根不具等ノ之三類ニ↡各有リ↢名体↡。是ノ故ニ挙テ↢彼ノ体三・名三ヲ↡言フ↢之ヲ「三三ト」↡。言↢「一二ト」↡者体ト与 ト ↠名也。
↓二にいはく、 「三三」 といふはこれ九品を指す。 「一二」 といふは遇大・遇小・遇悪、 九品の差別を説くといへども、 実には一品・二品の殊なし。 いかにいはんや実に九品の差あらんや。
二ニ云ク、言↢「三三ト」↡者是指ス↢九品ヲ↡。言↢「一二ト」↡者雖↠説クト↢遇大・遇小・遇悪、九品ノ差別ヲ↡、実ニハ无シ↢一品・二品之殊↡。何况実ニ有ンヤ↢九品ノ差↡。
問ふ。 九品の説相、 経文分明なり。 なんぞ殊なからん。
問。九品ノ説相、経文分明ナリ。何ゾ无ラン↠殊乎。
答ふ。 九品は機にありて浄土に関らず。 また九品を説くはこれ化土の相、 実報土においてはさらにその差なし。 実に地前の位あるべからざるがゆゑに、 この義下の第六巻の料簡を俟つべからくのみ。
答。九品ハ在テ↠機ニ不↠関カラ↢浄土ニ↡。又説クハ↢九品ヲ↡是化土ノ相、於テハ↢実報土ニ↡更ニ无シ↢其ノ差↡。実ニ不ガ↠可↠有↢地前ノ位↡故ニ、此ノ義可ラク↠俟ツ↢下ノ第六巻ノ料簡ヲ↡而已。
問ふ。 いまこの荘厳功徳の文、 本論の偈以下 ¬註¼ の初めを除く。 なんの意かあるや。
問。今此ノ荘厳功徳ノ之文、除ク↢本論ノ偈以下¬註ノ¼初ヲ↡。有↢何ノ意カ↡耶。
答ふ。 ▲上の所引の眷属成就において、 かの浄土の正覚浄華、 純一化生、 報土の相を明かす。 ここに数箇の荘厳功徳を除き、 当荘厳功徳成就を引きてしかも文の初めを略することは、 まさしく本則三三之品、 今無一二之殊の土の相をもつて、 ただちに正覚浄華の化生するところの報土の相に次ぐ。 これ土に九品なきことを顕さんがためなり。 もしこの義によらば、 上の二義の中に↑後の一義をもつて集主の本意とすべきなり。
答。於テ↢上ノ所引ノ眷属成就ニ↡、明ス↢彼ノ浄土ノ正覚浄*華、純一化生、報土ノ之相ヲ↡。爰ニ除キ↢数箇ノ荘厳功徳ヲ↡、引テ↢当1173荘厳功徳成就ヲ↡而モ略スルコトハ↢文ノ初ヲ↡、正ク以テ↢本則三三之品、今无一二之殊ノ土ノ相ヲ↡、直ニ次グ↧正覚浄華ノ之所ノ↢化生スル↡報土ノ之相ニ↥。是為↠顕ンガ↣土ニ无コトヲ↢九品↡也。若シ依ラバ↢此ノ義ニ↡、上ノ二義ノ中ニ以テ↢後ノ一義ヲ↡可↠為↢集主ノ之本意ト↡也。
「▲淄澠」 といふは、 二水の名なり。
言↢「淄澠ト」↡者、二水ノ名也。
【16】▲第五の文は、 同じき荘厳の中の初めの荘厳なり。
第五ノ文者、同キ荘厳ノ中ノ初ノ荘厳也。
▲「観」 とは観察、 「彼」 とは極楽世界、 「相」 とはかの清浄相、 「勝過」 とらは三界の所摂にあらざることを明かす。 ¬註¼ (論註巻上) にこれを釈して 「▲抑亦近言」 なりといふ、 これその高妙の土たることを顕すなり。
「観ト」者観察、「彼ト」者極楽世界、「相ト」者彼ノ清浄ノ相、「勝過ト」等者明ス↠非コトヲ↢三界之所*摂ニ↡也。¬註ニ¼釈シテ↠之ヲ云フ↢「抑亦近言ナリト」↡、是顕ス↣其ノ為コトヲ↢高妙ノ土↡也。
問ふ。 なんぞいま逆次にこれを引用するや。
問。何ゾ今逆次ニ引↢用スル之ヲ↡耶。
答ふ。 いまこの 「▲清浄」 はこれその総相なり。 このゆゑに本論は総より別を開す。 しかるに簡要を抜きて引用する時、 いま総相をもつて鈔出するところの別相を結するか。
答。今此ノ「清浄ハ」是其ノ総相ナリ。是ノ故ニ本論ハ自↠総開ス↠別ヲ。而ニ抜テ↢簡要ヲ↡引用スル之時、今以テ↢総相ヲ↡結スル↧所ノ↢鈔出スル↡之別相ヲ↥歟。
▲「有凡」 とらは、 いふこころは凡夫の類断惑せずといへども、 仏力によるがゆゑに往生を得となり。 また往生を得ればすなはち無生なるがゆゑに、 すなはち煩悩即菩提等の甚深の証悟に契ふ。 かの土の徳なるがゆゑに。
「有凡ト」等者、言フ心ハ凡夫ノ類雖↠不ト↢断惑セ↡、由ガ↢仏力ニ↡故ニ得ト↢往生ヲ↡也。又得レバ↢往生ヲ↡即无生ナルガ故ニ、即契フ↢煩悩即菩提等ノ甚深ノ証悟ニ↡。彼ノ土ノ徳ナルガ故ニ。
「▲涅槃分」 とはいまだ極位に至らず、 ゆゑに 「分」 といふなり。
「涅槃分ト」者未 ズ ダ↠至↢極位ニ↡、故ニ云↠「分」也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・『安楽集』文
【17】▲次に ¬安楽集¼ は下巻の文なり。 第八大門に三番ある中の第二に弥陀・釈迦二仏比校の段、 末後の文なり。
次ニ¬安楽集ハ¼下巻ノ文也。第八大門ニ有ル↢三番↡中ノ第二ニ弥陀・釈迦二仏比校ノ之段、末後ノ文也。
文の意見やすし。 所引の ¬経¼ の讃は ¬讃阿弥陀仏偈¼ の文なり。 いまの八句、 ▲上の所引の正報勝の文による。 上に ¬経¼ の意を解す、 讃の意まつたく同じ。
文ノ意易シ↠見。所引ノ¬経ノ¼讃ハ¬讃阿弥陀仏偈ノ¼之文也。今之八句、依ル↢上ノ所引ノ正報勝ノ文ニ↡。上ニ解ス↢¬経ノ¼意ヲ↡、讃ノ意全ク同ジ。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・「玄義分」文
【18】▲次に大師の釈、 所引に二あり。 その初めの文は ¬観経¼ の 「玄義」 序題門の釈なり。
次1174ニ大師ノ釈、所引ニ有リ↠二。其ノ初ノ文者¬観経ノ¼「玄義」序題門ノ釈ナリ。
▲初め 「弘願」 より終り 「縁也」 に至るまで、 ▲第二巻の鈔新本の解のごとし。
初自↢「弘願」↡終リ至マデ↢「縁也ニ」↡、如シ↢第二巻ノ鈔新本ノ解ノ↡。
「▲又仏密意」 とは、 二尊の意を含す。
「又仏密意ト」者、含ス↢二尊ノ意ヲ↡。
もし弥陀に約せばこれ如来の智慧の深広なることを顕す。 ¬大経¼ (巻下) に説くがごとし。 「▲如来の智慧海は、 深広にして涯底なし、 二乗の測るところにあらず、 ただ仏のみ独り明了なり。」 以上
若シ約セバ↢弥陀ニ↡是顕ス↢如来ノ智恵ノ深広ナルコトヲ↡。如シ↢¬大経ニ¼説ガ↡。「如来ノ智恵海ハ、深広ニシテ无シ↢涯底↡、二乗非ズ↠所ニ↠測ル、唯仏ノミ独明了ナリ。」 已上
もし釈迦に約せばこれ一代出世の大事を顕す。 その大事とは、 衆生をして極楽に往生せしめて、 仏の知見に入りてすなはち法性の常楽を証せしめんがためなり。
若シ約セバ↢釈迦ニ↡是顕ス↢一代出世ノ大事ヲ↡。其ノ大事ト者、為ナリ↧令 シメテ↣衆生ヲシテ往↢生セ極楽ニ↡、入テ↢仏ノ知見ニ↡即証セシメンガ↦法性ノ之常楽ヲ↥也。
「▲教門難暁」 とは八万の諸教、 教行まちまちに分れて、 出要を求むる類おのおのこれを行ぜんと欲するに、 権実・浅深・難易・堪否、 凡夫これによりて迷いやすく解しがたし。 もし解了せずは、 おそらくはたやすく真実の信心を生じがたし。
「教門難暁ト」者八万ノ諸教、教行区ニ分テ、求ル↢出要ヲ↡類各欲スルニ↠行ゼント↠之ヲ、権実・浅深・難易・堪否、凡夫依テ↠之ニ易ク↠迷ヒ難シ↠解シ。若シ不ハ↢解了セ↡、恐ハ難シ↣輙ク生ジ↢真実ノ信心ヲ↡。
▲「三賢」 とらは、 窺はざるに二あり。 一には人に約す。 下人は上人の智を測らず。 二には理に約す。 「唯仏与仏乃能究尽」 (法華経巻一方便品) といふがごときのゆゑなり。
「三賢ト」等者、弗ルニ↠窺ガハ有リ↠二。一者約ス↠人ニ。下人ハ不↠測↢上人ノ之智ヲ↡。二者約ス↠理ニ。如ノ↠云ガ↢「唯仏与仏乃能究尽ト」↡故也。
▲「況我」 とらは、 その内証をいふに仏地に居すといへども、 凡惑に示同して下機を引導する卑言なり。
「况我ト」等者、謂ニ↢其ノ内証ヲ↡雖↠居スト↢仏地ニ↡、示↢同シテ凡惑ニ↡引↢導スル下機ヲ↡之卑言也。
「▲信外」 といふは、 これに二義あり。
言↢「信外ト」↡者、此ニ有リ↢二義↡。
一にはこれ十信外凡の位を指すがゆゑにこれを信外といふ。 「▲軽毛」 といふは ¬仁王経¼ 等に十信を指すがゆゑに。
一ニハ是指ガ↢十信外凡ノ位ヲ↡故ニ言フ↢之ヲ信外ト↡。言↢「軽毛ト」↡者¬仁王経¼等ニ指ガ↢十信ヲ↡故ニ。
二にはこれ十信以外の凡位を指す。 謙下の言を述ぶるにさらに道位に入るといふべからず、 ゆゑに信外の言またこの義に順ず。 軽毛の譬信外に通ずといはんに、 あながちに咎なきか。 十信の位はなほし軽毛のごとし、 いはんや信外をや。
二ニハ是指ス↢十信以外ノ凡位ヲ↡。述スル↢謙下ノ言ヲ↡更ニ不↠可↠云↠入ト↢道位ニ↡、故ニ信外之言又順ズ↢此ノ義ニ↡。軽毛之譬云ンニ↠通ズト↢信外ニ↡、強ニ无↠咎歟。十信ノ之位猶シ如シ↢軽毛ノ↡、况ヤ信外哉。
▲「唯可」 とらは、 「▲勤心」 は安心、 「▲奉法」 は起行、 「▲畢命為期」 は四修の中に長時修を挙げて余の三修を摂す。
「唯可ト」等者、「勤心ハ」安心、「奉法ハ」起行、「畢命為期ハ」四修ノ之中ニ挙テ↢長*時修ヲ↡摂ス↢余ノ三修1175ヲ↡。
「▲捨身」 とらは、 往生の益を明かす。 ▲「即証」 とらは、 すなはち証理を顕す。 「▲法性」 といふはこれすなはち真如、 またこれ実相なり。
「捨身ト」等者、明ス↢往生ノ益ヲ↡。「即証ト」等者、即顕ス↢証理ヲ↡。言↢「法性ト」↡者是則真如、亦是実相ナリ。
「▲常楽」 といふは、 「常」 はすなはちこれ無量寿の体、 「楽」 はすなはちこれ安楽の義、 すなはちまた法性なり。 聖道・浄土二門殊なりといへども、 得脱の道ともにこの理を証す。 しかるに聖道門はこの土の中において即身にこれを悟る。 浄土の教は仏願力によりてかの土に生じて後この証を得るなり。
言↢「常楽ト」↡者、「常」者即是无量寿ノ体、「楽」者即是安楽ノ之義、即又法性ナリ。聖道・浄土二門雖↠殊也ト、得脱之道共ニ証ス↢此ノ理ヲ↡。而ニ聖道門ハ於テ↢此ノ土ノ中ニ↡即身ニ悟ル↠之ヲ。浄土ノ之教ハ依テ↢仏願力ニ↡生ジテ↢彼ノ土ニ↡後得↢此ノ証ヲ↡也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・「定善義」文
【19】▲次に*三首の讃、 「定善義」 の中の水観の讃なり。
次ニ三首ノ讃、「定善義ノ」中ノ水観ノ讃也。
「▲寂静」 といふは浄土の徳なり。 ¬大経¼ の上にいはく、 「▲その心寂静にして志著するところなし。」 以上 かれは法蔵発心の相を嘆じ、 これは浄土無動の徳を讃ず。 依正異なりといへども、 その義これ同じ。
言↢「寂静ト」↡者浄土ノ徳也。¬大経ノ¼上ニ云、「其ノ心寂静ニシテ志无シ↠所↠著スル。」 已上 彼ハ嘆ジ↢法蔵発心之相ヲ↡、此ハ讃ズ↢浄土无動ノ之徳ヲ↡。依正雖↠異也ト、其ノ義是同ジ。
「▲無為」 といふは ¬大経¼ (巻下) には説きて 「▲無為自然」 といひ、 ¬法事讃¼ (巻下) には釈して 「▲極楽無為」 といふ。 すなはちこれ造作なき義なり。 「▲楽」 はこれ苦に対す、 すなはちこれ極楽なり。
言↢「無為ト」↡者¬大経ニハ¼説テ云ヒ↢「无為自然ト」↡、¬法事讃ニハ¼釈シテ云フ↢「極楽无為ト」↡、即是无↢造作↡義ナリ。「楽ハ」是対ス↠苦ニ、即是極楽ナリ。
「▲畢竟逍遙」 は同じくこれ快楽無窮の義なり。
「畢竟逍遙ハ」同ク是快楽无窮ノ義也。
▲「離有」 とらは、 第一義諦妙境界相、 殊妙の浄土。 第一義とはすなはちこれ中道なり。 ゆゑに二辺を離る。
「離有ト」等者、第一義諦妙境界相、殊妙ノ浄土。第一義ト者即是中道ナリ。故ニ離ル↢二辺ヲ↡。
▲「大悲」 とらは、 ¬大経¼ (巻下) にあるいは 「▲其大悲者深遠微妙」 といひ、 あるいはまた説きて 「▲広若虚空大慈等故」 といふ。 抜苦与楽その意いささか異なれども、 ともにこれ利物。 利物の心、 彼此平等なり。 この義によるがゆゑにこれを 「▲無殊」 といふ。 いまいふところはこれ内証の徳なり。
「大悲ト」等者、¬大経ニ¼或ハ云ヒ↢「其大悲者深遠微妙ト」↡、或ハ又説テ云フ↢「広若虚空大慈等故ト」↡。抜苦与楽其ノ意聊異ナレドモ、共ニ是利物。利物ノ之心、彼此平等ナリ。依ガ↢此ノ義ニ↡故ニ言フ↢之ヲ「無殊ト」↡。今所↠言者是内証ノ徳ナリ。
▲「或現」 とらは、 外用の徳を明かす。 「▲神通」 といふはこれ身業に約す。 「▲説法」 といふはこれ口業に約す。 「▲相好」 といふはまた身業に約す。
「或現ト」等者、明ス↢外用ノ徳ヲ↡。言↢「神通ト」↡者是約ス↢身業ニ↡。言↢「説法ト」↡者是約ス↢口業ニ↡。言↢「相好ト」↡者又約ス↢身業ニ↡。
「▲入無余」 とはこれ涅槃に約す、 すなはち必至滅度の益を明かすらくのみ。
「入無余ト」者是約ス↢涅槃ニ↡、即明1176スラク↢必至滅度ノ益ヲ↡耳。
▲「変現」 とらは、 これ本国の菩薩衆等、 他方界に往きてみな変現随意の化儀を設け、 すなはち群生に被らしめて滅罪の益を与ふることを明かす。
「変現ト」等者、是明ス↧本国ノ菩薩衆等、往テ↢他方界ニ↡皆設ケ↢変現随意ノ化儀ヲ↡、*即被シメテ↢群生ニ↡与コトヲ↦滅罪ノ益ヲ↥。
▲「帰去」 とらは、 これ証得住生の義に約す。 かの法界身は本来本覚、 十劫は機に被らしむ。 これ実成にあらず。 所帰の衆生、 凡迷さらに始覚本覚に冥ずる理を知らずといへども、 しかもこれに契当するは如来の力なり。
「帰去ト」等者、是約ス↢証得住生ノ之義ニ↡。彼ノ法界身ハ本来本覚、十劫ハ被シム↠機ニ。是非ズ↢実成ニ↡。所帰ノ衆生、凡迷更ニ雖↠不ト↠知↧始覚冥ズル↢本覚ニ↡理ヲ↥、而モ契↢当スルハ之ニ↡如来ノ力也。
余処の解釈に、 あるいは (礼讃) 「▲努力翻迷還本家」 といひ、 あるいは (般舟讃) 「▲元来是我法王家」 といふみなこの意なり。
余処ノ解釈ニ、或ハ云ヒ↢「努力翻迷還本家ト」↡、或ハ云フ↢「元来是我法王家ト」↡皆此ノ意也。
「▲魔郷」 といふは、 これ娑婆界、 四魔嬈乱して常に仏道を障ふ。 しかるに念仏の人他力によるがゆゑに、 魔礙をなさず。 礙をなさざるがゆゑに浄土に往生す。 浄土には魔なし、 ゆゑに仏道を成ず、 ゆゑにこの魔郷を厭ふべしと勧むるなり。
言↢「魔郷ト」↡者、是娑婆界、四魔嬈乱シテ常ニ障フ↢仏道ヲ↡。而ニ念仏ノ人由ガ↢他力ニ↡故ニ、魔不↠為サ↠ヲ。不ガ↠為サ↠ヲ故ニ往↢生ス浄土ニ↡。浄土ニハ无シ↠魔、故ニ成↢仏道ヲ↡、故ニ勧ムル↠可ト↠厭↢此ノ魔郷ヲ↡也。
▲「唯聞」 とらは、
「唯聞ト」等者、
問ふ。 六道の中において、 欲界の六天苦楽なほ交る。 いはんや上二界にはさらに憂苦なし。 二禅は喜受、 三禅は楽受、 これらなんぞ愁歎ありといはんや。
問。於テ↢六道ノ中ニ↡、欲界ノ六天苦楽猶交ハル。況ヤ上二界ニハ更ニ无シ↢憂苦↡。二禅ハ喜受、三禅ハ楽受、此等何ゾ言ハン↠有ト↢愁歎↡耶。
答ふ。 楽ありといふといへども、 これ実の楽にあらず。 当巻 「定善義」 の下にいはく、 「▲三界の苦楽といふは、 苦はすなはち三途・八苦等、 楽はすなはち人天五欲・放逸・繋縛等の楽なり。 これ楽といふといへども、 しかもこれ大苦なり。 畢竟じて一念真実の楽あることなし。」 以上 浄穢相対するに三界の中の楽は実の楽にあらざるがゆゑに、 愁歎といふなり。
答。雖↠言ト↠有ト↠楽、是非ズ↢実ノ楽ニ↡。当巻ノ 「定善義」 下ニ云ク、「言↢三界ノ苦楽ト↡者、苦ハ則三途・八苦等、楽ハ則人天五欲・放逸繋・縛等ノ楽ナリ。雖↠言フト↢是楽ト↡、然モ是大苦ナリ。畢竟ジテ无シ↠有コト↢一念真実ノ楽↡也。」 已上 浄穢相対スルニ三界ノ中ノ楽ハ非ガ↢実ノ楽ニ↡故ニ、云↢愁歎ト↡也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ○ 私釈
【20】▲「夫案」 以下 「披論註」▲ に至るまではわたくしの御釈なり。 これ回向を明かす。
「夫案」以下至マデハ↢「披論註ニ」↡私ノ御釈也。是明ス↢廻向ヲ↡。
中において初めより 「応知」▲ といふに至るまでは略して往相を結す。
於テ↠中ニ自↠初至マデハ↠云ニ↢「応知ト」↡略シテ結ス↢往相ヲ↡。
▲「二言」 といふ下 「之願也」 に至るまでは、 総じて還相を標す。
云↢「二言ト」↡下至マデハ↢「之願也ニ」↡、総ジテ標ス↢還相ヲ↡。
▲「顕註論」 の下 「披論註」 に至るまでは、 まづ所引を標し、 次にまさしく文を出だす。 文に三段あり、 ¬論¼ と ¬註¼ となり。
「顕註論ノ」下至マデハ↢「披論註1177ニ」↡、先ヅ標シ↢所引ヲ↡、次ニ正ク出ス↠文ヲ。文ニ有リ↢三段↡、¬論ト¼与 ト ↢¬註¼↡也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・『浄土論』文
【21】▲初めの文は利行満足の章の文。
初ノ文ハ利行満足ノ章ノ文。
▲第三巻の本にこの論文を引き、 ▲第二巻の奥に註釈を引かる、 かの註釈において▲推義を載せ訖りぬ。
第三巻ノ本ニ引キ↢此ノ論文ヲ↡、第二巻ノ奥ニ被↠引↢註釈ヲ↡。於テ↢彼ノ註釈ニ↡載↢推義ヲ↡訖ヌ。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・『論註』文
・ 起観生信章(還相回向)
【22】▲次の文は、 第二の起観生信章の中の回向門の下に二種を分つ中の、 還相回向の註釈なり。
次ノ之文者、第二ノ起観生信ノ章ノ中ノ廻向門ノ下ニ分ツ↢二種ヲ↡中ノ、還相廻向ノ之註釈也。
「▲奢摩他」 とはここに翻じて止といふ。 「▲毘婆舎那」 ここには翻じて観といふ。 「▲方便力」 とはすなはち回向なり。
「奢摩他ト」者此ニハ翻ジテ云フ↠止ト。「毘婆舎那」此ニハ翻ジテ云フ↠観ト。「方便力ト」者即廻向也。
ゆゑに下の善巧摂化章の中に巧方便回向を釈する文 (論註巻下) にいはく、 「▲その身を後にして身を先にするをもつてのゆゑに巧方便と名づく。 ◆この中に方便といふは、 いはく作願して一切衆生を摂取して、 ともに同じくかの安楽仏国に生ぜしむ。 かの仏国はすなはちこれ畢竟成仏の道路、 無上の方便なり。」 以上
故ニ下ノ善巧摂化ノ章ノ中ニ釈スル↢巧方便廻向ヲ↡文ニ云ク、「以ノ↧後ニシテ↢其ノ身ヲ↡而身ヲ先ニスルヲ↥故ニ名ク↢巧方便ト↡。此ノ中ニ言↢方便ト↡者、謂ク作願シテ摂↢取シテ一切衆生ヲ↡、共ニ同ク生ゼシム↢彼ノ安楽仏国ニ↡。彼ノ仏国ハ即是畢竟成仏ノ道路、无上ノ方便也。」 已上
「▲稠林」 といふは、 「稠」 ¬玉篇¼ にいはく、 「直留の切、 密なり。」 ¬広韻¼ にいはく、 「直由の切、 穊なり、 多なり。」 「林」 ¬玉篇¼ にいはく、 「力金切、 平土に叢木あり。」 ¬広韻¼ にいはく、 「力尋の切、 地上に叢木あり。」 ゆゑに 「稠林」 は、 善悪をいはず、 繋多の義に喩ふ。 ¬十地論¼ (巻一一) にいはく、 「稠林とは衆多の義なるがゆゑに、 難知の義なるがゆゑに。」 以上
言↢「稠林ト」↡者、「稠」¬玉篇ニ¼云、「直留ノ切、密也。」¬広韻ニ¼云、「直由ノ切、*穊也、多也。」「林」¬玉篇ニ¼云、「力金切、平土ニ有リ↢叢木↡。」¬広韻ニ¼云、「力尋ノ切、地上ニ有リ↢叢木↡。」故ニ「稠林」者、不↠謂↢善悪ヲ↡喩フ↢繋多ノ義ニ↡。¬十地論ニ¼云ク、「稠林ト者衆多ノ義ナルガ故ニ、難知ノ義ナルガ故ニ。」 已上
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ 観行体相章
・ 観仏
【23】▲後の文は、 第三の観行体相に依正二十九句の荘厳成就を明かすに就きて、 如来八種の功徳の中の第八の荘厳功徳成就に三段ある内、 いまの文は第三にまさしく住持の行相を釈する以下第十重の利行満足の章の中に、 別して近等の五門に約して、 礼拝等の五念門に配するに至るまで、 しかしながらこれを引かる。
後ノ之文者、第三ノ観行体相ニ就テ↠明スニ↢依正二十九句ノ荘厳成就ヲ↡、如来八種ノ功徳ノ之中ノ第八ノ荘厳功徳成就ニ有ル↢三段↡内、今ノ文ハ第三ニ正ク釈スル↢住持ノ行相ヲ↡以下至マデ↧第十重ノ利行満足ノ章ノ中ニ、別シテ約シテ↢近等ノ五門ニ↡、配スルニ↦礼拝等ノ之五1178念門ニ↥、併被↠引↠之ヲ。
【24】▲この文の意は、 極楽に生ずる者、 みな八地に登りてすなはち法身寂滅の極理を証す。 この義をなさば、 十信・三賢の位を得といひ、 また九品差別の相ある。 みなこれ仮説、 ただこれ機に約す。 平等法身の証悟に契ふをもつて真実の証となす。 この文を引かるるはこの意を顕さんがためなり。 よくこの意を得てこの文を見るべし。
此ノ文ノ意者、生ズル↢極楽ニ↡者、皆登テ↢八地ニ↡即証ス↢法身寂滅ノ極理ヲ↡。為↢此ノ義↡者、云ヒ↠得ト↢十信・三賢ノ之位ヲ↡、又有ル↢九品差別ノ之相↡。皆是仮説、只是約ス↠機ニ。以テ↠契フヲ↢平等法身ノ証悟ニ↡為ス↢真実ノ証ト↡。被ハ↠引↢此ノ文ヲ↡為ナリ↠顕ンガ↢此ノ意ヲ↡。能ク得テ↢此ノ意ヲ↡可シ↠見ル↢此ノ文ヲ↡。
問ふ。 極楽の生位は七地以還の位に関らざるや。
問。極楽ノ生位ハ不↠関↢七地已還ノ位ニ↡耶。
答ふ。 ↓無生忍を得ることその位不同なり。 あるいは初地に約しあるいは八地に約す。 もし初地得忍の説によらば、 広く七地以還に通ずといふべし。 いま深位に就きてまづ八地による。
答。得コト↢无生忍ヲ↡其ノ位不同ナリ。或ハ約シ↢初地ニ↡或ハ約ス↢八地ニ↡。若シ依ラバ↢初地得忍ノ之説ニ↡、可シ↠云↣広ク通ズト↢七地已還ニ↡。今就テ↢深位ニ↡先ヅ拠ル↢八地ニ↡。
▲「未証」 とらは、
「未証ト」等者、
問ふ。 ¬起信論¼ (真諦訳意) にいはく、 「証法身とは、 浄心地より乃至菩薩究竟地なり。」 以上 かの ¬論¼ の意によるに、 浄心地とはこれ初地を指す、 究竟地とはこれ十地を指す。 しかればなんぞ七地以還をもつて、 名づけて未証浄心の菩薩とす。
問。¬起信論ニ¼云、「証法身ト者、従↢浄心地↡乃至菩薩究竟地ナリ。」 已上 依ルニ↢彼ノ¬論ノ¼意ニ↡、浄心地ト者是指ス↢初地ヲ↡、究竟地ト者是指ス↢十地ヲ↡。然者何ゾ以テ↢七地已還ヲ↡、名テ為↢未証浄心ノ菩薩ト↡。
答ふ。 これ↑前に述ぶるがごとし。 いはく真如を証すること初地・八地その説あひ分れたり。 かの ¬論¼ の意を思ふに、 浄心の名を立つること証真如に約す。 いま 「未証」 といふは有↓作心に約す。 すなはち功用無功用といふこれなり。
答。是如シ↢前ニ述ルガ↡。謂ク証スルコト↢真如ヲ↡初地・八地其ノ説相分タリ。思フニ↢彼ノ¬論ノ¼意ヲ↡、立コト↢浄心ノ名ヲ↡約ス↢証真如ニ↡。今言ハ↢「未証ト」↡約ス↢有作心ニ↡。即云↢功用・无功用ト↡是ナリ。
問ふ。 初地以上の菩薩はすでに無分別智を得、 なんぞ 「▲↑作心」 といふ。
問。初地已上ノ菩薩ハ已ニ得↢无分別智ヲ↡、何ゾ云フ↢「作心ト」↡。
答ふ。 これに分極あり。 かれすでに無分別智を得といへども、 もしなほ八地以上に相望すれば、 これ作意なり。 またある義にいはく、 法相の意によれば、 七地以還第六識において有漏・無漏雑起せしむるがゆゑに、 もしその有漏現起の時、 なほかならず作意分別あるべし。 このゆゑに判じて非不作意といふ。
答。此ニ有リ↢分極↡。彼已ニ雖↠得ト↢无分別智ヲ↡、若シ猶相↢望スレバ八地已上ニ↡、是作意也。又或義ニ云、依レバ↢法相ノ意ニ↡、七地已還於テ↢第六識ニ↡有漏・無漏令ガ↢雑起セ↡故ニ、若シ其ノ有漏現起之時、猶必可シ↠有↢作意分別↡。是ノ故1179ニ判ジテ云フ↢非不作意ト↡。
「▲身等」 といふは、 これ相好荘厳等を指す。 「▲法等」 といふは所説を指す。
言↢「身等」↡者、是指ス↢相好荘厳等ヲ↡也。言↢「法等ト」↡者指↢所説ヲ↡也。
▲「龍樹菩薩婆薮般頭菩薩」 とらは、
「龍樹菩薩婆薮般頭菩薩ト」等者、
問ふ。 天親は賢位、 龍樹は聖位、 彼此なんぞ同じからん。
問。天親ハ賢位、龍樹ハ聖位、彼此何ゾ同カラン。
答ふ。 地上・地前の不同ありといへども、 分に所得あり。 このゆゑに類同す。 これをもつて撲揚 (成唯識論樞要巻上) 天親を讃じていはく、 「位明徳に居し、 道極喜に隣る。」 以上 また ¬弘決¼ (止観巻五上) にいはく、 「天親・龍樹内鑑冷然なり。」 以上 あるいは隣近により、 あるいは内鑑によりて一双となすなり。
答。雖↠有ト↢地上・地前ノ不同↡、分ニ有リ↢所得↡。是ノ故ニ類同ス。是ヲ以テ撲揚讃ジテ↢天親ヲ↡云ク、「位居シ↢明徳ニ↡、道隣ル↢極喜ニ↡。」 已上 又¬弘決ニ¼云、「天親・龍樹内鑑冷然ナリ。」 已上 或ハ依リ↢隣近ニ↡、或ハ依テ↢内鑑ニ↡為↢一双ト↡也。
問ふ。 地上の菩薩、 極楽に生ぜんと願ずるその義思ひがたし。 しかるゆゑは、 浄穢の差別は心の染浄にあり。 境において本来染浄の差なし。 初地以上すでに無明を断じて分に我性を顕し、 身報土に居して任連におのづから報仏の説法を聞く。 所見の境界報土の儀式なり、 なんぞさらにかの浄土に生ぜんことを願ぜんや。 ゆゑに ¬探玄記¼ (巻三) にいはく、 「十住已去不退の菩薩の所住を名づけて浄土となす。」 以上 地前なほしかり、 地上なにを願ぜん。
問。地上ノ菩薩、願ズル↠生ゼント↢極楽ニ↡其ノ義難シ↠思ヒ。所↢以然ル↡者、浄穢ノ差別ハ在リ↢心ノ染浄ニ↡。於テ↠境ニ本来无シ↢染浄ノ差↡。初地已上既ニ断ジテ↢無明ヲ↡分ニ顕シ↢我性ヲ↡、身居シテ↢報土ニ↡任連ニ自聞ク↢報仏ノ説法ヲ↡。所見ノ境界報土ノ儀式ナリ、何ゾ更ニ願ゼン↠生ゼンコトヲ↢彼ノ浄土ニ↡耶。故ニ¬探玄記ニ¼云、「十住已去不退ノ菩薩ノ所住ヲ名テ為ス↢浄土ト↡。」 已上 地前猶爾リ、地上何ヲ願ゼン。
答ふ。 多の義ありといへども、 しばらく一義を出だす。 生身得忍は依身を捨てて他方の浄土に生ぜんと願ずるをもつてのゆゑなり。 これさらに凡夫の願生のごとくにはあらざるがゆゑに。 ¬大論¼ (大智度論巻二七初品) にいはく、 「もし無生法忍を得つれば、 一切の結使を断じて、 死する時この肉身を捨つ。」 以上 ¬涅槃の疏¼ (天台維摩略疏巻一釈仏国品) にいはく、 「分段の質礙は、 煩悩尽くといへども、 かならずすべからく報を捨つべし。」 以上 けだしこの義なり。
答。雖↠有ト↢多義↡、且ク出ス↢一義ヲ↡。生身得忍ハ以ノ↧捨テヽ↢依身ヲ↡願ズルヲ↞生ゼント↢他方ノ浄土ニ↡故也。是更ニ非ガ↠如クニハ↢凡夫ノ願生ノ↡故ニ。¬大論ニ¼云、「若シ得ツレバ↢无生法忍ヲ↡、断ジテ↢一切ノ結使ヲ↡、死スル時捨ツ↢是ノ肉身ヲ↡。」 已上 ¬涅槃ノ疏ニ¼云、「分段ノ質礙ハ、煩悩雖↠尽ト、必須クシ↠捨ツ↠報ヲ」。 已上 蓋シ此ノ義也。
▲「菩薩於七地中」 とらは、
「菩薩於七地中ト」等者、
問ふ。 「▲大寂滅」 とは、 これなんの義や。
問。「大寂滅ト」者、是何ノ義乎。
答ふ。 実相の理地には一塵をも立てず。 もしこの位に至りぬればその悟窮極す。 この義によるがゆゑに 「大寂滅」 といふ。
答。実相ノ理地ニハ不↠立↢一塵ヲモ↡。若シ至ヌレバ↢此ノ位ニ↡其ノ悟窮極ス。由ガ↢此ノ義ニ↡故ニ云↢「大寂滅1180ト」↡。
問ふ。 一切の菩薩、 みな七地において寂滅を証するや。
問。一切ノ菩薩、皆於テ↢七地ニ↡証↢寂滅ヲ↡耶。
答ふ。 もし証理の至極に約せば、 みなしかるべきなり。
答。若シ約セ↢証理ノ之至極ニ↡者、皆可↠然也。
問ふ。 この位の中において▲諸仏および衆生を見ざる、 なんのゆゑかある。
問。於テ↢此ノ位ノ中ニ↡不ル↠見↢諸仏及以衆生ヲ↡、有↢何ノ故カ↡耶。
答ふ。 無生の極理に住するをもつてのゆゑに、 上求下化の相を見ざるなり。 ただしこの義は根本智に約す。 もしこれ後得智の辺に約せしめば、 上求下化の相あるべし。
答。以ノ↠住スルヲ↢无生ノ極理ニ↡之故ニ、不↠見↢上求下化ノ相ヲ↡也。但シ此ノ義者約ス↢根本智ニ↡。若シ是令メバ↠約セ↢後得智ノ辺ニ↡、可↠有↢上求下化ノ相↡也。
問ふ。 たとひ穢土の修行得道なりといふとも、 第七地においてかならず▲諸仏の加勧力を蒙らば、 なんぞ往生安楽の徳とせんや。
問。縦ヒ雖↢穢土ノ修行得道ナリト↡、於テ↢第七地ニ↡必ズ蒙ラ↢諸仏ノ加勧力ヲ↡者、何ゾ為↢往生安楽ノ徳↡乎。
答ふ。 穢土の修行は加勧を蒙るといへども、 もと浄土に居してその加勧を蒙るは、 その徳なほもつて殊勝なるがゆゑなり。
答。穢土ノ修行ハ雖↠蒙ト↢加勧ヲ↡、本居シテ↢浄土ニ↡蒙ルハ↢其ノ加勧ヲ↡、其ノ徳猶以テ殊勝ナルガ故也。
問ふ。 七地以上のもろもろの菩薩等、 さらに極楽に生ぜんことを願ずべからざるや。
問。七地已上ノ諸ノ菩薩等、更ニ不↠可↠願ズ↠生ゼンコトヲ↢極楽ニ↡耶。
答ふ。 常途の義に任ぜばその義を許さず。 しかるゆゑは、 七地以還は、 悲増の菩薩他を利益せんがため慈悲心をもつて分段の身を受く。 このゆゑになほ極楽を願ずることあるべし。 八地以上は、 たとひ悲増の菩薩たりといへどもかならず変易を得。 ゆゑに極楽に生ぜんと願ずべからざるか。
答。任ゼバ↢常途ノ義ニ↡不↠許サ↢其ノ義ヲ↡。所↢以然↡者、七地已還ハ、悲増ノ菩薩為ニ↣利↢益センガ他ヲ↡以テ↢慈悲心ヲ↡受ク↢分段ノ身ヲ↡。是ノ故ニ可シ↠有↣猶願ズルコト↢極楽ヲ↡。八地已上ハ、縦令ヒ雖↠為ト↢悲増ノ菩薩↡必得↢変易ヲ↡。故ニ不↠可↠願ズ↠生ゼント↢極楽ニ↡歟。
ただし短解を加ふ、 なほ極楽に生ぜんと願ずる義あるべし。 いはゆる極楽は諸仏の本家、 いづれの仏・菩薩かしかも生ずることを求めざらん。 このゆゑに ¬九品往生経¼ にいはく、 「無量寿仏また九品浄域の三摩地は、 すなはちこれ諸仏の境界、 如来の所居。 三世の諸仏ここより正覚を成ず。」 以上 普賢・文殊等の大菩薩、 往生を願ずるはすなはちこのゆゑなり。 集主の深意この義あるか。
但シ加フ↢短解ヲ↡、可シ↠有ル↧猶願ズル↠生ゼント↢極楽ニ↡義↥。所謂極楽ハ諸仏ノ本家、何レノ仏・菩薩カ而モ不ラン↠求メ↠生ズルコトヲ。是ノ故ニ¬九品往生経ニ¼云、「无量寿仏亦九品浄域ノ三摩地ハ、即是諸仏ノ境界、如来ノ所居。三世ノ諸仏従↠此成ズ↢正覚ヲ↡。」 已上 普賢・文殊等ノ大菩薩、願ズル↢往生ヲ↡者即此ノ故也。集主ノ深意有↢此ノ義↡歟。
▲「復次」 とらは、
「復次ト」等者、
問ふ。 二十二願を引く、 その要いかん。
問。引ク↢廿二ノ願ヲ↡、其ノ要如何。
答ふ。 初地以上七地以還、 極楽に生ぜんことを願ずる二の要あるべし。 いはく一には第七地にして実際を証する難を免れんがため、 二には諸位速疾超越のため。 その中に超越の益を顕さんがために当願を引くなり。
答。初地已上七地已還、願ズル↠生ゼンコトヲ↢極楽ニ↡可シ↠有↢二ノ要↡。謂1181ク一ニハ為↠免レンガ↧於テ↢第七地ニ↡証スル↢実際ヲ↡難ヲ↥、二ニハ為↢諸位速疾超越ノ↡。其ノ中ニ為ニ↠顕サンガ↢超越ノ之益ヲ↡引ク↢当願ヲ↡也。
問ふ。 願の意いかん。
問。願ノ意如何。
答ふ。 諸仏の土の中に、 あるいはことごとく十地の階位を経て一より二に至り乃至九より十に至る土あり、 あるいは超昇してただちに等覚に登りすみやかに補処に至るあり。 如来の因中にかの諸土を見て選択の時、 もろもろの菩薩十地の修行劫数を経歴することを愍みて、 諸位を超越してすみやかに補処に至る願を発起したまふ。 ただし除くところは、 利他の願ありてしばらく自在の利生を施すのみ。 ただ意楽に任ず、 さらに願力偏あるにあらざるなり。
答。諸仏ノ土ノ中ニ、或ハ有リ↧悉ク経テ↢十地ノ階位ヲ↡自↠一至リ↠二ニ乃至自↠九至ル↠十ニ之土↥、或ハ有リ↧超昇シテ直チニ登リ↢等覚ニ↡速ニ至ル↦補処ニ↥。如来ノ因中ニ見テ↢彼ノ諸土ヲ↡選択ノ之時、愍テ↣諸ノ菩薩十地ノ修行経↢歴スルコトヲ劫数ヲ↡、発↧起シタマフ超↢越シテ諸位ヲ↡速ニ至ル↢補処ニ↡之願ヲ↥。但シ所↠除者、有テ↢利他ノ願↡暫ク施ス↢自在ノ利生ヲ↡而已。只任ズ↢意楽ニ↡、更ニ非ズ↢願力之有ニ↟偏也。
▲「言十地階次」 とらいふは、
言↢「言十地階次ト」等↡者、
▽問ふ。 ¬起信論¼ (真諦訳) の大意を案ずるがごときは、 怯弱の機のために超証の義を示し、 懈慢の機のために*歴劫の義を示す。 この義趣を説きてまさしく決判していはく、 「超過の法あることなきがゆゑに、 七地の菩薩みな三阿僧祇劫を経るをもつてなり。」 以上 この説のごときは、 超証は方便、 経劫は実義なり。 しかるにいまの釈の意、 たちまちにもつて矛盾せり、 いかん。
問。如↠案ズルガ↢¬起信論ノ¼大意ヲ↡者、為ニ↢怯弱ノ機ノ↡示シ↢超証ノ義ヲ↡、為ニ↢懈慢ノ機ノ↡示ス↢歴劫ノ義ヲ↡。説テ↢此ノ義趣ヲ↡正ク決判シテ云ク、「无ガ↠有コト↢超過ノ法↡故ニ、以ナリ↣七地ノ菩薩皆逕ルヲ↢三阿僧祇劫ヲ↡。」 已上 如↢此ノ説ノ↡者、超証ハ方便、経劫ハ実義ナリ。而ニ今ノ釈ノ意、忽ニ以テ鉾盾セリ、如何。
答ふ。 ¬起信論¼ の意、 判ずるところ実にしかり。 常途の性相またもつてこれ同じ。 ただし性宗のごときは多く超証を許す。 各別の宗旨異論すべからず。 いかにいはんやいまの釈の判ずるところ、 穢土の超証に亘らず。 十地の階次はただこれ釈迦一代の化道なり。 これに対してもつぱら浄土の超証、 他力の願意を述ぶ。 超証の義において許すと許さざると諍をなすに及ばず、 相違にあらざるか。
答。¬起信論ノ¼意、所↠判ズル実ニ爾リ。常途ノ性相又以テ是同ジ。但シ如↢性宗ノ↡者多ク許ス↢超証ヲ↡。各別ノ宗旨不↠可ラ↢異論ス↡。何ニ況ヤ今ノ釈ノ所↠判ズル、不↠亘ラ↢穢土ノ超証ニ↡。十地ノ階次ハ只是釈迦一代ノ化道ナリ。対シテ↠之ニ専述ブ↢浄土ノ超証、他力ノ願意ヲ↡。於テ↢超証ノ義ニ↡許ト与 ト ↠不ル↠許不↠及↠成ニ↠諍ヲ、非↢相違ニ↡歟。
▲「五種不思議中」 とらは、 註 (論註巻下) の当章の中に、 上に挙ぐるところの国土体相の下の釈にいはく、 「▲諸経に統べていふに五種の不可思議あり。 一は衆生多少不可思議、 二は業力不可思議、 三は竜力不可思議、 四は禅定力不可思議、 五は仏法力不可思議なり。」 以上
「五種不思議中ト」等者、¬註ノ¼当章ノ中ニ、上ニ所ノ↠挙ル之国土体相ノ之下ノ釈ニ云、「諸経ニ統テ言ニ有リ↢五種ノ不可思議↡。一者衆1182生多少不可思議、二者業力不可思議、三者竜力不可思議、四者禅定力不可思議、五者仏法力不可思議。」 已上
▲「譬如」 とらは ¬大論¼ の十 (大智度論初品) にいはく、 「譬へば樹あり好堅と名づく、 この樹地中にあること百歳、 枝葉は具足して一日に出生するに高さ百丈なるがごとし。 この樹出でをはりて大樹を求めてもつてその身を蔭さんと欲す。 この時に林の中に神ありて好堅に語りていはく、 世の中になんぢより大なる者なし、 諸樹みなまさになんぢが蔭の中にあるべし。 仏もまたかくのごとし。 無量阿僧祗劫に菩薩地の中にありて生ず。 一日菩提樹下において金剛座に処す。 実に一切の諸法の相を知りて仏道を成ずることを得。」 以上
「譬如ト」等者¬大論ノ¼十ニ云、「譬バ如シ↧有リ↠樹名ク↢好堅ト↡、是ノ樹在コト↢地中ニ↡百歳、枝葉ハ具足シテ一日ニ出生スルニ高サ百丈ナルガ↥。是ノ樹出已テ欲ス↧求テ↢大樹ヲ↡以テ蔭サント↦其ノ身ヲ↥。是ノ時ニ林ノ中ニ有テ↠神語テ↢好堅ニ↡言ク、世ノ中ニ无シ↢大ナル↠汝ヨリ者↡、諸樹皆当ニ↠在ル↢汝ガ蔭ノ中ニ↡。仏モ亦如シ↠是ノ。无量阿僧祗劫ニ在テ↢菩薩地ノ中ニ↡生ズ。一日於テ↢菩提樹下ニ↡金剛座ニ処ス。実ニ知テ↢一切ノ諸法ノ相ヲ↡得↠成ズルコトヲ↢仏道ヲ↡。」 已上
天台 (法華文句一〇釈随喜品) のいはく、 「好堅地に処して芽すでに百囲。」 以上 百囲と百歳と彼此相違異、 説あるか、 すべからく和会すべからず。
天臺ノ云ク、「好堅処シテ↠地ニ芽已ニ百囲。」 已上 百囲ト百歳ト彼此相違、有↢異説↡歟、不↠須 ベ クカラ↢和会ス↡。
またある説にいはく、 「この樹梵言には諾瞿陀といふ、 また梵言には尼拘律陀といふ。 ここには無節といふ、 すなはち好堅なり。 あるいはまたこの樹を翻じて楊柳となす。」 云々
又或ル説ニ云ク、「此ノ樹梵言ニハ曰フ↢諾瞿陀ト↡、亦梵言ニハ云フ↢尼拘律陀ト↡。此ニハ云↢无節ト↡、即好堅也。或ハ又此ノ樹ヲ翻ジテ為ス↢楊柳ト↡。」 云云
この譬喩の意、 松の生長すること一日に一寸なるをもつて、 一地よりその一地に至るに比す。 好堅樹の一日に百丈なるをもつてかの浄土の超証の義に況するなり。
此ノ譬喩ノ意、以テ↢松ノ生長スルコト一日ニ一寸ナルヲ↡、比ス↧自↢一地↡至ニ↦其ノ一地ニ↥。以テ↢好堅樹ノ一日ニ百丈ナルヲ↡況スル↢彼ノ浄土ノ超証ノ義ニ↡也。
▲「有人」 とらは、 いま頓悟即証の例を引きて、 かの超越速疾の益を助く。
「有人ト」等者、今引テ↢頓悟即証ノ之例ヲ↡、助ク↢彼ノ超越速疾ノ益ヲ↡也。
問ふ。 ▲上には十地階次の施設を指して、 釈尊一代の化道たりといふ。 ▲いまは一聴終朝の証を挙げて、 釈迦仏化道の益となす。 なんぞ相違せるや。
問。上ニハ指シテ↢十地階次ノ施設ヲ↡、言フ↠為ト↢釈尊一代ノ化道↡。今ハ挙テ↢一聴終朝ノ之証ヲ↡、為ス↢釈迦仏化道ノ之益ト↡。何ゾ相違スル耶。
答ふ。 漸頓・空有・半満・権実・随他随自、 みな釈迦一仏の設化にあり。 ただし閻浮の一の化道といふは、 かの説の中の十地の階次、 その一途随宜の説たることを顕す。 彼此機に随ひておのおの教益を蒙る、 みな相違せず。
答。漸頓・空有・半満・権実・随他随自、皆在リ↢釈迦一仏ノ設化ニ↡。但シ言↢閻浮ノ一ノ化道ト↡者、顕ス↣彼ノ説ノ中ノ十1183地ノ階次、為コトヲ↢其ノ一途随宜之説↡。彼此随テ↠機ニ各蒙ル↢教益ヲ↡、皆不↢相違セ↡。
【25】▲「略説」 とらは、 これ結文なり。
「略説ト」等者、是結文也。
問ふ。 ▲「次第成就応知」 とらは、 自利利他の次第を指すとやせん、 いかん。
問。「次第成就応知ト」等者、為ン↠指トヤ↢自利利他ノ次第ヲ↡、如何。
答ふ。 これ如来八種の功徳の生起次第を明かす。 ただしその八種、 かの法体を論ずるに、 しかしながら自利利他の功徳となること置きて論ぜず。 しかりといへどもいままさしくいふところの次第は二利に関らず、 ただ八種の功徳の生起を明かす。 生起の次第▲つぶさに註釈に見えたり。
答。是明ス↢如来八種ノ功徳ノ生起次第ヲ↡。但シ其ノ八種、論ズルニ↢彼ノ法体ヲ↡、併為ルコト↢自利利他ノ功徳↡置テ而不↠論ゼ。雖↠然ト今正ク所ノ↠言次第ハ不↠関カラ↢二利ニ↡、只明ス↢八種ノ功徳ノ生起ヲ↡。生起ノ次第具ニ見タリ↢註釈ニ↡。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ・ 観菩薩
【26】▲観察菩薩荘厳の中に、 論文に三あり。 一に ▲「云何」 の下は章目を牒することを標す、 ▽二に ▲「観彼」 の下は四種の荘厳功徳あることを標す、 ▽三に ▲「何者」 の下はまさしく四種の荘厳を釈す。
観察菩薩荘厳ノ之中ニ、論文ニ有リ↠三。一ニ「云何ノ」下ハ標ス↠牒スルコトヲ↢章目ヲ↡、二ニ「観彼ノ」下ハ標ス↠有コトヲ↢四種ノ荘厳功徳↡、三ニ「何者ノ」下ハ正ク釈ス↢四種ノ荘厳ヲ↡。
△二に ¬註¼ の中に ▲「真如」 とらは、
二ニ¬註ノ¼之中ニ、「真如ト」等者、
¬大乗止観¼ (巻一) にいはく、 「問ふていはく、 いかんぞこの心を名づけて真如とする。 答へていはく、 一切の諸法はこの心によりてあり、 心をもつて体となす。 諸法に望むるに法はことごとく虚妄なり、 有すなはち有にあらず。 この虚偽の法に対するがゆゑに、 よりて真となす。 また諸法実に有にあらずといへども、 ただし虚妄の因縁をもつてしかも生滅の相あり。 しかもかの虚法生ずる時この心生ぜず、 諸法滅する時この心滅せず、 生ぜざるがゆゑに増せず。 減ぜざるがゆゑに滅せず、 不生不滅・不増不減なるをもつてのゆゑに、 これを名づけて真となす。 三世の諸仏および衆生、 同じくこの一の浄心をもつて体となす。 凡聖の諸法おのづから差別異相あれども、 しかもこの真心異なく相なし、 ゆゑに名づけて如となす。」 以上
¬大乗止観ニ¼云、「問曰、云何ゾ名テ↢此ノ心ヲ↡為ル↢真如ト↡。答テ曰ク、一切ノ諸法ハ依テ↢此ノ心ニ↡有リ、以テ↠心ヲ為ス↠体ト。望ルニ↢於諸法ニ↡法ハ悉ク虚妄ナリ、有即非ズ↠有ニ。対スルガ↢此ノ虚偽ノ法ニ↡故ニ、因テ為ス↠真ト。又復諸法雖↢実ニ非ズト↟有ニ、但シ以テ↢虚妄ノ因縁ヲ↡而モ有リ↢生滅ノ之相↡。然モ彼ノ虚法生ズル時此ノ心不↠生ゼ、諸法滅スル時此ノ心不↠滅セ。不ルガ↠生ゼ故ニ不↠増セ、不ルガ↠減ゼ故ニ不↠滅セ、以ノ↢不生不滅・不増不減ナルヲ↡故ニ、名テ↠之ヲ為ス↠真ト。三世ノ諸仏及以衆生、同ク以テ↢此ノ一ノ浄心ヲ↡為ス↠体ト。凡聖ノ諸法自有レドモ↢差別異相↡、而モ此ノ真心无ク↠異无シ↠相、故ニ名テ為ス↠如ト。」 已上
また天台 (金剛錍) のいはく、 「万法はこれ真如なり、 不変によるがゆゑに。 真如はこれ万法なり、 随縁によるがゆゑに。」 以上
又天臺ノ云ク、「万法ハ是真如ナリ、由ガ↢不変ニ↡故ニ。真如ハ是万法ナリ、由ガ↢随縁ニ↡故ニ。」 已上1184
「▲真如は諸法の正体」 といふに就きて二の意あるべし。
就テ↠言ニ↢「真如ハ諸法ノ正体ト」↡可シ↠有↢二ノ意↡。
一には諸法はみなこれ虚妄の相、 真如の一法ただこれ真実なり。 その 「真如」 とは、 これ心の一法なり。 もしこの義によらば、 いふこころは諸法の中にただこの一真なり、 これ正体なり。 上に挙ぐるところの ¬大乗止観¼ この意に叶ふか。
一ニハ諸法ハ皆是虚妄ノ之相、真如ノ一法唯是真実ナリ。其ノ「真如ト」者、是心ノ一法ナリ。若シ依ラバ↢此ノ義ニ↡、言心ハ諸法ノ中ニ唯此ノ一真ナリ、是正体也。上ニ所ノ↠挙ル之¬大乗止観¼叶↢此ノ意ニ↡歟。
二には真如の体相一心に限らず、 森羅の万像、 三千の諸法、 真如にあらざることなし。 その相望に就きて随縁・不変の異ありといへども、 色心の諸法真如にあらざることなし。 もしこの義によらば、 諸法ことごとくこれ真如の正体なり。 このゆゑに釈して諸法の正体といふ。 天台の正意この義に合すべし。
二ニハ真如ノ体相不↠限↢一心ニ↡、森羅ノ万像、三千ノ諸法、莫シ↠非コト↢真如ニ↡。就テ↢其ノ相望ニ↡雖↠有ト↢随縁・不変ノ之異↡、色心ノ諸法莫シ↠非コト↢真如ニ↡。若シ依ラバ↢此ノ義ニ↡、諸法悉ク是真如ノ正体ナリ。是ノ故ニ釈シテ云フ↢諸法ノ正体ト↡。天臺ノ正意可シ↠合↢此ノ義ニ↡。
「不行」 とらは、 無分別の相、 真如に相応して修行するところなるがゆゑに。 「▲不行」 といふはこれ体如に約す、 その正体において情執を離るるがゆゑに。 「▲而行」 といふは正修行に約す、 その所行において作意なきがゆゑに。
「不行ト」等者、无分別ノ相、相↢応シテ真如ニ↡所ナルガ↢修行スル↡故ニ。言↢「不行ト」↡者是約ス↢体如ニ↡、於テ↢其ノ正体ニ↡離ルヽガ↢情執ヲ↡故ニ。言↢「而行ト」↡者約ス↢正修行ニ↡、於テ↢其ノ所行ニ↡无ガ↢作意↡故ニ。
△三に正釈の中に、 功徳荘厳四種なるがゆゑに、 文に四段あり。 文を省してこれをいはば、 ▽一には不動遍至供仏化生、 ▽二には一念遍至利益群生、 ▽三には一切世界讃嘆諸仏、 ▽四には無三宝処住持荘厳なり。
三ニ正釈ノ中ニ、功徳荘厳為ガ↢四種↡故ニ、文ニ有リ↢四段↡。省シテ↠文ヲ言ヾ↠之ヲ、一ニハ不動遍至供仏化生、二ニハ一念遍至利益群生、三ニハ一切世界讃嘆諸仏、四ニハ无三宝処住持荘厳ナリ。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ・ a 不動遍至供仏化生
△第一段の中に 「▲無垢輪」 とは、
第一段ノ中ニ「無垢輪ト」者、
問ふ。 いまの註釈、 ▲初めは八地以上の所行に約し、 後には仏地に約す。 一師の所釈、 一科の中においてなんぞたちまちに相違せる。 また智光 (無量寿経論釈巻五) のいはく、 「初地以上の菩薩、 またよくこの法輪をもつて一切を開導す。」 以上 かたがたもつていぶかし。 なかんづくにすでに 「▲仏地の功徳」 といひて初地・八地以上といはず。 因位の中においてなんぞこれを転ずるや。
問。今ノ註釈、初ハ約シ↢八地已上ノ所行ニ↡、後ニハ約ス↢仏地ニ↡。一師ノ所釈、於テ↢一科ノ中ニ↡何ゾ忽ニ相違セル。又智光ノ云、「初地以上ノ菩薩、亦能ク以テ↢此ノ法輪ヲ↡開↢導ス一切ヲ↡。」 已上 旁以テ未審カシ。就ニ↠中既ニ言テ↢「仏地ノ功徳ト」↡不↠謂↢初地・八地已上ト↡。於テ↢因位ノ中ニ↡何ゾ転ズル↠之ヲ耶。
答ふ。 ↓すでに 「無垢」 といふ。 いまの釈の意仏の功徳に属する、 その義しかるべし。 しかりといへどもあるいは八地以上といひ、 あるいは初地といふ。 おのおの分転に約す、 ともに違するところなし。 次に因位の中に転ずべからずといふに至りては、 究竟にあらざればこれ難しとせず、 その上仏の加力を蒙るがゆゑなり。
答。既ニ云フ↢「無垢ト」↡。今ノ釈ノ之意属スル↢仏ノ功徳ニ↡、其ノ義可シ↠然ル。雖↠然1185ト或ハ云ヒ↢八地以上ト↡、或ハ云フ↢初地ト↡。各約ス↢分転ニ↡、共ニ无シ↠所↠違スル。次ニ至テ↣于云ニ↢因位ノ之中ニ不ト↟可ラ↠転ズ者、非↢究竟ニ↡者是不↠為↠難シト、其ノ上蒙ルガ↢仏ノ加力ヲ↡故也。
「▲淤泥華」 とは、
「淤泥華ト」者、
問ふ。 なんの華を指すや。
問。指↢何ノ華ヲ↡乎。
答ふ。 「淤」 といふは濁、 「泥」 といふは水、 濁水に生る華はこれ蓮華なり。 淤泥これを衆生の煩悩に譬へ、 華を仏性に譬ふ。 あるいはまた淤泥これを性徳に喩へ、 華を修徳に喩ふ。 「▲経言」 といふは、 ¬維摩経¼ なり。
答。言↠「淤ト」者濁、言↠「泥ト」者水、生ル↢濁水ニ↡華ハ是蓮華也。淤泥譬ヘ↢之ヲ衆生ノ煩悩ニ↡、華ヲ譬フ↢仏性ニ↡。或ハ又淤泥喩ヘ↢之ヲ性徳ニ↡、華ヲ喩フ↢修徳ニ↡。云↢「経言ト」↡者、¬維摩経¼也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ・ b 一念遍至利益群生
△第二段の中に、 「▲無垢光」 とは、 輪と光と異なりといへども、 無垢の義同じ。 ↑上に準じて知るべし。
第二段ノ中ニ、「無垢光ト」者、輪ト光ト雖↠異也ト、无垢ノ義同ジ。准ジテ↠上ニ応シ↠知。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ・ c 一切世界讃嘆諸仏
△第三段の中に、 「▲肇公言」 とは、
第三段ノ中ニ、「肇公言ト」者、
問ふ。 これたれびとを指し、 いづれの書を指すや。
問。是指シ↢誰人ヲ、↡指↢何レノ書ヲ↡乎。
答ふ。 羅什三蔵にその四子あり、 おのおの英傑たり。 世これを称して生・肇・融・叡といふ、 生とは道生、 肇とは僧肇、 融とは道融、 叡とは僧叡なり。 いま 「肇公」 とはすなはち僧肇なり。 この人論を造る、 これを ¬肇論¼ といふ。 ¬維摩経¼ によりて記するところの書なり。 かの論の序 (註維摩巻一) にいはく、 「それ聖智無知にして万品ともに照らす。」 次法身の下いまの所引のごとし この釈の意、 三論の宗旨、 甚深の義理、 たやすく述ぶるに及ばず。 詞幽玄なりといへども総じてこれを言はば、 これすなはち不行而行の意なり。
答。羅什三蔵ニ有リ↢其ノ四子↡、各為リ↢英傑↡。世称シテ↠之ヲ言↢生・肇・融・叡ト↡。生ト者道生、肇ト者僧肇、融ト者道融、叡ト者僧叡ナリ。今「肇公ト」者即僧肇也。此ノ人造ル↠論ヲ、曰フ↢之ヲ¬肇論ト¼↡。依テ↢¬維摩経ニ¼↡所ノ↠記スル書也。彼ノ¬論ノ¼序ニ云ク、「夫聖智无知ニシテ而万品倶ニ照ス。」 次法身ノ下如シ↢今ノ所引ノ↡ 此ノ釈ノ之意、三論ノ宗旨、甚深ノ義理、不↠及↢輙ク述ルニ↡。詞雖↢幽玄ナリト↡総ジテ而言ハヾ↠之ヲ、是則不行而行ノ意也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ・ d 無三宝処住持荘厳
△第四段の中に、 ▲「上三句雖言」 とらいふは、 これ当段の利益周備せることを述ぶ。 その意 ¬註¼ に見えたり、 さらに述ぶるにあたはず。 しかるになほほぼその意を解す。 「上の三句」 は有仏の国において遍至の徳を挙ぐ。 いまだ無仏世界の利益を顕さず、 いまこの句に至りて仏法功徳の宝なき処の住持の行相を彰す。 このゆゑに利物ここにして円満し、 功徳ここにして具足すらくのみ。
第四段ノ中ニ、言↢「上三句雖言ト」等↡者、此述ブ↢当段ノ利益周備セルコトヲ↡。其ノ意見タリ↠¬註ニ¼、不↠能↢更ニ述ルニ↡。然而猶粗解ス↢其ノ意ヲ↡。「上ノ三句」者於テ↢有仏ノ国ニ↡挙グ↢遍至ノ徳ヲ↡。未ダ↠顕サ↢无仏世界ノ利益ヲ↡、今至テ↢此ノ句ニ↡彰ス↧无↢仏法功徳ノ宝↡処ノ住持ノ行相ヲ↥。是ノ故ニ利物於テ↠此ニ円満シ、功徳於テ↠此ニ具足スラク而已。
問ふ。 三段の句数、 おのおの一四句偈あるゆゑに十二句なり。 なんぞ三句といふ。 初めの標に準ぜば四種といふべし。 もし章段によらば三章・三段等といふべきか、 いかん。
問1186。三段ノ句数、各有ガ↢一四句偈↡之故ニ十二句也。何ゾ云↢三句ト↡。准ゼ↢初ノ標ニ↡者可シ↠云↢四種ト↡。若シ依ラバ↢章段ニ↡可↠云↢三章・三段等ト↡歟、如何。
答ふ。 ¬唯識論¼ (成唯識論巻二) にいはく、 「名は自性を詮し、 句は差別を詮す。」 以上 差別の義に就きて、 句といふに過なし。 すなはち下の釈の中の国土の荘厳を 「十七句」 といひ、 如来の荘厳を称して 「八句」 といひ、 菩薩の荘厳をまた 「四句」 といふ、 みなこの意なり。 外典の中においてまたその例あり。 いはく絶句四韻等の作をもつて、 一首たりといへども一句の詩と称ふる、 これ常の事なり。 準拠すべきか。
答。¬唯識論ニ¼云、「名ハ*詮シ↢自性ヲ↡、句ハ詮ス↢差別ヲ↡。」 已上 就テ↢差別ノ義ニ↡、云ニ↠句ト无シ↠過。即下ノ釈ノ中ノ国土ノ荘厳ヲ云ヒ↢「十七句ト」↡、如来ノ荘厳ヲ称シテ曰ヒ↢「八句ト」↡、菩薩ノ荘厳ヲ又云フ↢「四句ト」↡、皆此ノ意也。於テ↢外典ノ中ニ↡又有リ↢其ノ例↡。謂ク以テ↢絶句四韻等ノ作ヲ↡、雖↠為ト↢一首↡称スル↢一句ノ詩ト↡、是常ノ事也。可キ↢准拠ス↡歟。
▲「便是」 とらは、 無三宝処の利益、 もし欠けば法身不遍上善不具の過あるべきことを明かさんと欲する意なり。
「便是ト」等者、无三宝処ノ利益、若シ闕ケバ欲スル↠明ント↠可コトヲ↠有ル↢法身不遍上善不具之過↡意也。
「▲上善」 といふは、 諸大菩薩所得の善法功徳等なり。
言↢「上善ト」↡者、諸大菩薩所得ノ善法功徳等也。
智光の ¬疏¼ (無量寿経論釈巻五) に当章の意を釈していはく、 「しかももろもろの大菩薩、 あまねく十方無量世界の、 もしは三宝ある処、 もしは三宝なき処において五種の生を受けて、 その所応に随ひて有情を救済し仏法を修せしむ。 この中にしばらく無三宝処に就きて、 菩薩生を受けて法を示して行ぜしむ。」 以上
智光ノ¬疏ニ¼釈シテ↢当章ノ意ヲ↡云ク、「然モ諸ノ大菩薩、普ク於テ↧十方无量世界ノ、若ハ有ル↢三宝↡処、若ハ无キ↢三宝↡処ニ↥受テ↢五種ノ生ヲ↡、随テ↢其ノ所応ニ↡救↢済シ有情ヲ↡令ム↠修セ↢仏法ヲ↡。此ノ中ニ且ク就テ↢无三宝処ニ↡、菩薩受テ↠生ヲ示シテ↠法ヲ令ム↠行ゼ。」 已上
五種の生とは、 一には除災生、 二には随類生、 三には大勢生、 四には増上生、 五には最勝生なり。 同じき ¬疏¼ にこれを列ぬ。 つぶさに解釈すといへども繁きによりてこれを略す。 もし知らんと欲せばかの ¬疏¼ を見るべし。
五種ノ生ト者、一ニハ除災生、二ニハ随類生、三ニハ大勢生、四ニハ増上生、五ニハ最勝生ナリ。同キ¬疏ニ¼烈ヌ↠之ヲ。具ニ雖↢解釈スト↡、依テ↠繁ニ略ス↠之ヲ。若シ欲↠知ント者可シ↠見↢彼ノ¬疏ヲ¼↡。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ 浄入願心章
【27】▲浄入願心の章の中に二あり。
浄入願心ノ章ノ中ニ有リ↠二。
一に ¬註¼ の中に 「以下」 といふよりこのかた二十字は、 前を結して後を生じ、 また章目を牒す。
一ニ¬註ノ¼中ニ自↠言↢「已下ト」↡已来二十字者、結シテ↠前ヲ生ジ↠後ヲ、又牒ス↢章目ヲ↡。
二に 「▲又向説」 の下はこれ正釈なり。 これに五段あり、 いまこれその初めなり。
二ニ「又向説ノ」下ハ是正釈也。此ニ有リ↢五段↡、今是其ノ初ナリ。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅰ 第一段
この第一段、 まさしくこれ浄入願心の義なり。 当段の文、 ▲第三巻の本にこれを引用せらる。 よりて▲かの下にして章目の意を解し、 ほぼ大意を述ぶ。 ゆゑにいまこれを略す。
此ノ第一段1187、正ク是浄入願心ノ義也。当段ノ之文、第三巻ノ本ニ被ル↣引↢用セ之ヲ↡。仍テ於テ↢彼ノ下ニ↡解シ↢章目ノ意ヲ↡、粗述ブ↢大意ヲ↡。故ニ今略ス↠之ヲ。
▲「因浄」 とらは、 これ外道所執の妄計を破す。 「▲無因」 といふは、 五見の中において、 これ邪見を指す。 「▲他因有」 とは戒禁取なり。
「因浄ト」等者、是破ス↢外道所執ノ妄計ヲ↡。言↢「无因ト」↡者、於テ↢五見ノ中ニ↡、是指ス↢邪見ヲ↡。「他因有ト」者、戒禁取也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅱ 第二段
【28】「▲略説」 以下は第二段なり。
「略説」以下ハ第二段也。
▲「入一」 とらは、 合して依正二十九句の荘厳成就をもつて、 みなことごとく一法句の中に摂入す。 「一法句」 とは、 「一法」 の二字は所詮の法体、 「句」 の一字は能詮の名字。 かの三種をもつて一法句に入る、 これをもつて名となす。
「入一ト」等者、合シテ以テ↢依正二十九句ノ荘厳成就ヲ↡、皆悉ク摂↢入ス一法句ノ中ニ↡「。一法句ト」者、「一法ノ」二字ハ所詮ノ法体、「句ノ」一字者能詮ノ名字。以テ↢彼ノ三種ヲ↡入ル↢一法句ニ↡、以テ↠之ヲ為ス↠名ト。
智光の疏 (無量寿経論釈巻五) にいはく、 「第四に浄入願心、 すなはち二を分つ。 一には因果相成、 二には入一法句なり。」 以上 この釈の意、 以下の三段を当段に摂するか。
智光ノ¬疏ニ¼云、「第四ニ浄入願心、即分ツ↠二ヲ。一ニハ因果相成、二ニハ入一法句ナリ。」 已上 此ノ釈ノ之意、以下ノ三段ヲ摂スル↢当段ニ↡歟。
▲「一者法性法身二者方便法身」 とらは、
「一者法性法身二者方便法身ト」等者、
問ふ。 いずれの経論によりて二身を立つるや。
問。依テ↢何レノ経論ニ↡立↢二身ヲ↡乎。
答ふ。 ¬智度論¼ (巻三四初品) にいはく、 「一には法性生身の仏、 二には随衆生優劣現化の仏。 法性生身の仏のためのゆゑに、 乃至名を聞きて得度すと説く。 衆生現身の仏のためのゆゑに、 仏とともに住すといへども業因縁に随ひて地獄に堕する者ありと説く。 法性生身の仏は、 事として弁ぜざることなく、 願として満ぜざることなし。」 以上
答。¬智度論ニ¼云、「一者法性生身ノ仏、二随衆生優劣現化ノ仏。為ノ↢法性生身ノ仏ノ↡故ニ、説ク↢乃至聞テ↠名ヲ得度スト↡。為ノ↢衆生現身ノ仏ノ↡故ニ、説ク↧雖↢共ニ↠仏ト住スト↡随テ↢業因縁ニ↡有リト↦*堕スル↢地獄ニ↡者↥。法性生身ノ仏者、无ク↢事トシテ不コト↟弁ゼ、无シ↢願トシテ不コト↟満ゼ。」 已上
智光の ¬疏¼ (無量寿経論釈巻二) にいはく、 「龍猛二種の仏を説く。 一には法性生身の仏、 二には随衆生現身の仏、 すなはち本迹をもつて二法身となす。 法性法身によりて方便法身を出だす、 すなはち本をもつて迹を垂る。 方便法身によりて法性法身を出だす、 すなはち迹をもつて本を顕す。 この二法身は異にして分つべからず、 一にして同ずべからず。」 以上 この疏の中に、 龍猛言とは上の ¬論¼ を指すか。
智光ノ¬疏ニ¼云、「龍猛説ク↢二種ノ仏ヲ↡。一ニハ法性生身ノ仏、二ニハ随衆生現身ノ仏、即以テ↢本迹ヲ↡為ス↢二法身ト↡。由テ↢法性法身ニ↡出ス↢方便法身ヲ↡、即以テ↠本ヲ垂ル↠迹ヲ。由テ↢方便法身ニ↡出ス↢法性法身ヲ↡、即以テ↠迹ヲ顕ス↠本ヲ。此ノ二法身ハ異ニシテ而不↠可↠分ツ、一1188ニシテ而不↠可↠同ズ。」 已上 此ノ疏ノ之中ニ、龍猛言ト者指↢上ノ¬論ヲ¼↡歟。
問ふ。 「▲生」 といひ 「▲出」 といふ、 なんの別ありや。
問。云ヒ↠「生ト」云フ↠「出ト」、有↢何ノ別↡耶。
答ふ。 「生」 といふは起、 「出」 とは顕なり。
答。言↠「生」者起、「出ト」者顕也。
「▲是故広略相入 乃至 ▲不能自利利他」 とは、 法性法身はこれ自利の徳、 方便法身は利他の徳なり。
「是故広略相入 乃至 不能自利利他ト」者、法性法身ハ是自利ノ徳、方便法身ハ利他ノ徳也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅲ 第三段
【29】▲「一法句」 の下はこれ第三段、 一法句を釈す。
「一法句ノ」下ハ是第三段、釈ス↢一法句ヲ↡。
▲「三句展転相入」 とらは、
「三句展転相入ト」等者、
問ふ。 「▲真実智慧無為法身」 は、 これ一法たりや、 別法たりや。
問。「真実智恵无為法身ハ」、是為ヤ↢一法↡、為↢別法↡耶。
答ふ。 相宗の意によらばこれ別法たり。 能証の智、 所証の理、 各別たるがゆゑに。 性宗の意によらばこれ一法たり。 理智不二の極談なるがゆゑに。 いま鸞師はこれ性宗なるがゆゑに、 いまの釈述ぶるところ、 真実智慧すなはちこれ無為法身の義なり。
答。依ラバ↢相宗ノ意ニ↡是為リ↢別法↡。能証ノ之智、所証ノ之理、為ガ↢各別↡故ニ。依ラバ↢性宗ノ意ニ↡是為リ↢一法↡。理智不二ノ之極談ナルガ故。今鸞師者是性宗ナルガ故ニ、今ノ釈所↠述ル、真実智恵即是无為法身ノ義也。
おほよそ当段の意、 甚深の義趣、 愚鈍の領解たやすくもつて及びがたし、 しづかに宗旨を伺ひて料簡を加ふべし。 その大意を謂ふに、 すでに 「▲百非の喩へざるところ」 といふ、 このゆゑに千是も顕さざるところなり。
凡ソ当段ノ意、甚深ノ義趣、愚鈍ノ領解輙ク以テ難シ↠及ビ、閑ニ伺テ↢宗旨ヲ↡可シ↠加フ↢料簡ヲ↡。謂ニ↢其ノ大意ヲ↡、已ニ云フ↢「百非之所ト↟不ル↠喩」。是ノ故ニ千是モ所↠不ル↠顕サ也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅳ 第四段
【30】▲「此清」 已下はこれ第四段、 上の一法句を開して二種となす。 その文見つべし。
「此清」已下ハ是第四段、上ノ一法句ヲ開シテ為ス↢二種ト↡。其ノ文可シ↠見ツ。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅴ 第五段
【31】▲「何等」 とらは、 これ第五段、 その二種の相を開出することを釈す。
「何等ト」等者、是第五段、釈ス↣其ノ開↢出スルコトヲ二種ノ之相ヲ↡。
▲「如是」 とらは、 当段の中に、 初めには二種を開し、 いまはその二種を還りてまた一法句に摂入するなり。
「如是ト」等者、当段ノ之中ニ、初ニハ開シ↢二種ヲ↡、今ハ其ノ二種ヲ還テ又摂↢入スル一法句ニ↡也。
「▲衆生為別報之体」 とは、 「別報」 は正報ただみづから受用して他は受用せず、 ゆゑに 「別報」 とはこれ不共なり。 「▲国土為共法之用」 とは、 依報は自他ともに受用するがゆゑに、 これを 「共法」 といふ。
「衆生為別報之体ト」者、「別報ハ」正報唯自受用シテ他ハ不↢受用↡、故ニ「別報ト」者是不共也。「国土為共法之用ト」者、依報ハ自他共ニ受用スルガ故ニ、言フ↢之ヲ「共法ト」↡。
問ふ。 ▽衆生を 「▲体」 といひ、 器界を 「▲用」 といふ、 その意いかん。
問。衆生ヲ云ヒ↠「体ト」、器界ヲ云フ↠「用ト」、其1189ノ意如何。
答ふ。 衆生の報によりて所居の土を感ず。 この義をもつてのゆゑに 「体」 はこれ衆生、 「用」 は器界なり。
答。依テ↢衆生ノ報ニ↡感ズ↢所居ノ土ヲ↡。以ノ↢此ノ義ヲ↡故ニ「体ハ」是衆生、「用ハ」器界也。
問ふ。 この別報・共法の中に就きていくばくの種かあるや。
問。就テ↢此ノ別報・共法ノ之中ニ↡有↢幾ノ種カ↡耶。
答ふ。 四の不同あり。 その四といふは、 別報に二あり。 一には不共の中の不共、 いはく眼等の根のごとき、 ただこれ自識に依用して他の受用するところにあらざるがゆゑに、 まつたく不共となす。 二には不共の中の共、 扶根の四塵のごとき、 他また受用するがゆゑに、 また手をもつて摩触するがごとき、 かくのごときの事、 これを共法となす。 共法にまた二。 一には共の中の共、 いはゆる山河・大地等これなり。 鬼畜・人天おなじく受用するがゆゑに、 共の中の共といふ。 二には共の中の不共、 いはゆる田宅・舎宅・衣服・資具、 かくのごときの類共法たりといへども、 自身の外他共せざるなり。
答。有リ↢四ノ不同↡。言↢其ノ四ト↡者、別報ニ有リ↠二。一ニハ不共ノ中ノ不共、謂ク如キ↢眼等ノ根ノ↡、唯是自識ニ依用シテ非ガ↣他ノ所ニ↢受用スル↡故ニ、全ク為ス↢不共ト↡。二ニハ不共ノ中ノ之共、如キ↢扶根ノ四塵ノ↡、他亦受用スルガ故ニ、又如キ↢以テ↠手ヲ摩触スルガ↡、如ノ↠此ノ之事、為ス↢之ヲ共法ト↡。共法ニ又二。一ニハ共ノ中ノ之共、所謂山河・大地等是ナリ。鬼畜・人天同ク受用スルガ故ニ、云フ↢共ノ中ノ共ト↡。二ニハ共ノ中ノ不共、所謂田宅・舎宅・衣服・資具、如ノ↠此ノ之類雖↠為ト↢共法↡、自身ノ之外他不ル↠共セ也。
「▲諸法心成無余境界」 といふは、 ¬華厳経¼ (意) にいはく、 「三界はただ一心なり、 心の外に別法なし。」 以上 また ¬起信論¼ に多くこの意あり、 その論文等▲第二の新本ならびに△当巻の鈔の上に引くところなり。
言↢「諸法心成无余境界ト」↡者、¬花厳経ニ¼云、「三界ハ唯一心ナリ、心ノ外ニ无シ↢別法↡。」 已上 又¬起信論ニ¼多ク有リ↢此ノ意↡、其ノ論文等所↠引↢第二ノ新本並ニ当巻ノ鈔ノ上ニ↡也。
問ふ。 「▲器とは用なり」 とは、 体用の義か、 受用の義か。
問。「器ト者用ナリト」者、体用ノ義歟、受用ノ義歟。
答ふ。 受用の義なり。
答。受用ノ義也。
問ふ。 △上に衆生および国土に対してその体用を判ず。 かれに準じてこれを思ふに体用の義たるべきものか。
問。上ニ対シテ↢衆生及以国土ニ↡判ズ↢其ノ体用ヲ↡。准ジテ↠彼ニ思ニ↠此ヲ可↠為↢体用ノ之義↡者耶。
答ふ。 上に体用を判ずることは異論に及ばず、 いまの釈はしからず。 下の細釈にいはく、 「▲清浄↓衆生の受用するところなり、 ゆゑに名づけて器とす。」 以上 受用の義たることもつとも分明なり。
答。上ニ判ズルコトハ↢体用ヲ↡不↠及↢異論ニ↡、今ノ釈ハ不↠爾。下ノ細釈ニ云ク、「清浄衆生ノ之所ナリ↢受用スル↡、故ニ名テ為ス↠器ト。」 已上 為コト↢受用ノ義↡尤分明也。
問ふ。 いふところの受用、 衆生と器と、 なにをか能所とする、 判属いかん。
問。所ノ↠言受用、衆生ト与 ト ↠器、何ヲカ為ル↢能所ト↡、判属如何。
答ふ。 器は所受用、 清浄衆生は能受用なり。
答。器ハ所受用、清浄衆生ハ能受用也。
問ふ。 ▲下の譬喩を見るに、 器はこれ能受、 人は所受か。 いはく食は人のごとし、 器はこれ国土。 国土と人とをもつて次いでのごとく能所受に配当せば、 道理に叶ふか。
問。見ニ↢下ノ譬喩ヲ↡、器ハ是能受、人ハ所受歟1190。謂ク食ハ如シ↠人ノ、器ハ是国土。以テ↢国土ト人トヲ↡、如ク↠次ノ配↢当セ能所受ニ↡者、叶↢道理ニ↡耶。
答ふ。 釈に 「↑衆生の受用するところ」 といふ、 人を能受とすること、 その理諍なし。 ただしいまの譬は、 あながちに能受・所受を分別するにあらず、 ただ人器ともに浄と称することを得る義を顕すらくのみ。
答。釈ニ云フ↣「衆生之所ト↢受用スル↡」、人ヲ為コト↢能受ト↡、其ノ理无シ↠諍。但シ今ノ譬者、非ズ↣強ニ分↢別スルニ能受・所受ヲ↡、只顕スラク↢人器共ニ得ル↠称スルコトヲ↠浄ト之義ヲ↡而已。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ 善巧摂化章
【32】▲善巧摂化の章の中に二あり。
善巧摂化ノ章ノ中ニ有リ↠二。
初めに章目を標す。 章目を解せば、 「善巧」 といふはこれ方便なり。 この義 ¬摩訶止観¼ を見るべし。 方便といふは▲下の註釈のごとし。 「摂化」 といふは、 「摂」 は摂受の義、 「化」 は化導なり。 これすなはち衆生を摂化利益するに巧方便回向の善をもつてするなり。
初ニ標ス↢章目ヲ↡。解セ↢章目ヲ↡者、言↢「善巧ト」↡者是方便也。此ノ義可シ↠見ル↢¬摩訶止観ヲ¼↡。言↢方便ト↡者如シ↢下ノ註釈ノ↡。言↢「摂化ト」↡者、「摂ハ」摂受ノ義、「化ハ」化導也。是則摂↢化利↣益スルニ衆生ヲ↡以スル↢巧方便廻向ノ善ヲ↡也。
問ふ。 摂化といふに就きて、 能摂・所摂あるべきや。
問。就テ↠言ニ↢摂化ト↡、可↠有↢能摂・所摂↡乎。
答ふ。 広略止観の修行は能摂、 この功徳をもつて衆生に施するは所摂の義なり。
答。広略止観ノ修行ハ能摂、以テ↢此ノ功徳ヲ↡施スルハ↢衆生ニ↡者所摂ノ義也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅰ 第一段
【33】▲「如是」 以下は、 これ正釈なり。 これに四段あり、 第一段には止観相順して柔軟心を成ずることを明かす。
「如*是」以下ハ、是正釈也。此ニ有リ↢四段↡、第一段ニハ明ス↣止観相順シテ成ズルコトヲ↢柔軟心ヲ↡。
「▲柔軟心」 とは、 いまの ¬註¼ の意を見るに随順の義なり。 智光の ¬疏¼ (無量寿経論釈巻五) にいはく、 「柔軟心とは、 いはく不二心。 広略止観相順修行して不二心を成ず。」 以上 まつたくいまの釈に同じ。
「柔軟心ト」者、見ニ↢今ノ¬註ノ¼意ヲ↡随順ノ義也。智光ノ¬疏ニ¼云、「柔軟心ト者、謂ク不二心。広略止観相順修行シテ成ズ↢不二心ヲ↡。」 已上 全ク同ジ↢今ノ釈ニ↡。
「▲不二心」 とは、 止観の二法相離せざる心、 これすなはち相応、 その義すなはちこれ柔軟心なり。
「不二心ト」者、止観ノ二法不ル↢相離セ↡心、此乃相応、其ノ義即是柔軟心也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅱ 第二段
【34】「▲如実知」 の下は第二段なり。 これ広略みな実相なることを明かす。
「如実知ノ」下ハ第二段也。是明ス↢広略皆実相ナルコトヲ↡也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅲ 第三段
【35】「▲如是成」 の下は第三段なり。 当段にまさしく巧方便回向を成ずる意を明かす。
「如是成ノ」下ハ第三段也。当段ニ正ク明ス↧成ズル↢巧方便廻向ヲ↡之意ヲ↥。
「▲知衆生虚妄則生真実慈悲也」 といふは、 これ巧方便の慈悲心、 すなはちこれ下化衆生の心なり。
言↢「知衆生虚1191妄則生真実慈悲也ト」↡者、是巧方便ノ之慈悲心、即是下化衆生ノ心也。
次下の釈にいはく。 ▲「知真実法身」 とらは、 上求菩提、 「▲帰依」 といふはすなはち智慧なり。
次下ノ釈ニ云ク、「知真実法身ト」等者、上求菩提、言↢「帰依ト」↡者即智恵也。
「▲慈悲 乃至 在下」 とは、 ▲下の障菩提門の中の智慧・慈悲および方便を指すなり。
「慈悲 乃至 在下ト」者、指↢下ノ障菩提門ノ之中ノ智恵・慈悲及ビ方便ヲ↡也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅳ 第四段
【36】「▲何者」 以下は、 当段に重ねてくわしく巧方便回向の義を明かす。
「何者」以下ハ、当段ニ重テ委ク明ス↢巧方便廻向ノ之義ヲ↡。
▲「案王舎城所説」 とらは、 始めこの文より 「向仏道」▲ に至るまで、 ▲第三巻の本にこれを引き載せらる。 このゆゑにかの▲旧本の鈔の中において、 ほぼこの事を記す。 よりていまこれを略す。 ただしあひ残るところいささかこれを述ぶべし。
「案王舎城所説ト」等者、始自↢此ノ文↡至マデ↢「向仏道ニ」↡、第三巻ノ本ニ被ル↣引↢載之ヲ↡。是ノ故ニ於テ↢彼ノ旧本ノ鈔ノ中ニ↡、粗記ス↢此ノ事ヲ↡。仍今略ス↠之ヲ。但シ所↢相残ル↡聊可シ↠述ブ↠之ヲ。
問ふ。 五念門の中に列するところの回向といまの回向と、 同異いかん。
問。五念門ノ中ニ所ノ↠列ヌル廻向ト与 ト ↢今ノ廻向↡、同異如何。
答ふ。 その義これ同じ、 回向の意楽、 替るべからざるがゆゑに。
答。其ノ義是同ジ。廻向ノ意楽、不ガ↠可↠替ル故ニ。
問ふ。 五念門は所回の行体、 いまの回向は能回の心なり。 能所すでに異なり、 なんぞ同じといふや。
問。五念門者所廻ノ行体、今ノ廻向者能廻ノ心也。能所已ニ異ナリ、何ゾ云↠同ジト耶。
答ふ。 五念門の中に、 前の四門はこれ所回向、 第五門は能回向なり。 能所合論してこれを五念と名づく。 彼此の回向その心同なり。
答。五念門ノ中ニ、前ノ四門者是所廻向、第五門者能廻向也。能所合論シテ名ク↢之ヲ五念ト↡。彼此ノ廻向其ノ心同也。
問ふ。 ¬観経¼ 所説の三心の第三といまの回向と、 同異いかん。
問。¬観経¼所説ノ三心ノ第三ト与 ト ↢今ノ廻向↡、同異如何。
答ふ。 この同異においては、 重々義あり。 まづ第三の心にその▲三重あり。 中において初めの二はこれに同ずべからず、 かれは自利なるがゆゑに。 後の一は同ずべし、 かれは利他に約す。 いまの回向また利他に約するがゆゑに。 またたとひ第三重の心たりといへども、 さらに同ずべからず。 ¬観経¼ の三心は、 定散諸機各別にして発すところの自力の心なり。 いまの回向は、 如来利他の回向心なり。 もしこの義に約せばおほきにもつて異なりとなす。 ただしまたかの ¬観経¼ の三心、 ¬大経¼ の三信和会してつひに一心となるに約する時、 この三信は如来発起他力の大信なり。 この義辺に約すればまた同なりとなすなり。
答。於↢此ノ同異ニ↡者、重重有リ↠義。先ヅ第三ノ心ニ有リ↢其ノ三重↡。於テ↠中ニ初ノ二ハ不↠可ラ↠同ズ↠之ニ、彼ハ自利ナルガ故ニ。後ノ一ハ可シ↠同ズ、彼ハ約ス↢利他ニ↡。今ノ廻向又約スルガ↢利他ニ↡故ニ。又縦ヒ雖↠為リト↢第三重ノ心↡、更ニ不↠可↠同ズ。¬観経ノ¼三心ハ、定散諸機各別ニシテ所ノ↠発ス自力ノ心也。今ノ廻向者、如来利他ノ廻向心也。若シ約セバ↢此ノ義ニ↡大ニ以テ為ス↠異也ト。但シ又約スル↣彼1192ノ¬観経ノ¼三心、¬大経ノ¼三信和会シテ終ニ成ニ↢一心ト↡之時、此ノ三信者如来発起他力ノ大信也。約スレバ↢此ノ義辺ニ↡又為ス↠同也ト也。
▲「譬如」 とらは、 利他を欲すればまづ自利を得るがこれしからしむるに喩ふるなり。
「譬如ト」等者、喩フ↧欲スレバ↢利他ヲ↡先ヅ得ルガ↢自利ヲ↡之令ルニ↞然ラ也。
「▲擿」 ¬玉篇¼ にいはく、 「雉戟の切、 擿投なり、 棄なり。」 以上 ¬広韻¼ にいはく、 「擲直炙の切、 投なり、 掻なり、 振なり。 擿 ¬説文¼ 上に同じ。」 以上
「擿」¬玉篇¼云、「雉戟ノ切、擿投也、棄也。」 已上 ¬広韻¼云、「擲直炙ノ切、*投也、掻也、振也。*擿¬説文¼上ニ同ジ。」 已上
「摘」 ¬玉篇¼ にいはく、 「多革の切、 拓果樹実。」 以上 ¬広韻¼ にいはく、 「陟革切、 手取なり、 また他歴の切。」 以上
「摘」¬玉篇ニ¼云、「多革ノ切、拓果樹実。」 已上 ¬広韻ニ¼云、「陟革切、手取也、又他歴切。」 已上
ある本両所ともに 「擿」 の字を用ゐる。 あるいは上 「擿」 下 「摘」 なる本あり。 「擿」・「摘」 の両字通用するに咎なし。 ただし上の 「擿」 において、 本書多本 「▲聴念反」 と記す、 みなもつて不審。 この反のごときは去声の五十五・六、 艶・𣕊の韻にあるべし。 しかるにかの韻においてさらにこの字なし、 恐らくは後の人誤りてこの反を載するか。 勘へ載するところの字書の反、 指南とするに足れり。 後賢よろしくこの愚意を決すべきなり。
或本両所共ニ用ル↢「擿ノ」字ヲ↡。或ハ有リ↢上「擿」下「摘ナル」之本↡。「擿」・「摘ノ」両字通用スルニ无シ↠咎。但シ於テ↢上ノ「擿ニ」↡、本書多本記↢「聴念反」↡、皆以不審。如↢此ノ反ノ↡者可シ↠在↢去声ノ五十五・六、艶・𣕊ノ韻ニ↡。而ニ於テ↢彼ノ韻ニ↡更ニ无シ↢此ノ字↡、恐ハ後ノ人誤テ載↢此ノ反ヲ↡歟。所ノ↢勘ヘ載スル↡之字書ノ之反、足レリ↠為ニ↢指南ト↡。後賢宜クキ↠决ス↢此ノ愚意ヲ↡也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ 障菩提門章
【37】▲障菩提門の章の中に二あり、 初めに章目を標す。
障菩提門ノ章ノ中ニ有リ↠二、初ニ標ス↢章目ヲ↡。
問ふ。 この章目においてその義思ひがたし。 十重の解義みなこれ修道なり、 なんぞ菩提門を障礙することを立つるや。
問。於テ↢此ノ章目ニ↡其ノ義難シ↠思ヒ。十重ノ解義皆是修道ナリ、何ゾ立ル↣障↢スルコトヲ菩提門ヲ↡耶。
答ふ。 意は障菩提門を遠離すといふ。 このゆゑに初めに十重を列ぬるに名づけて▲離菩提障といふ、 いままた下に総別の解釈を設くるにみな 「▲遠離」 といふ、 前後の釈をもつてその相違を顕す。 いま文の略せるなり。
答。意ハ云フ↣遠↢離スト障菩提門ヲ↡。是ノ故ニ初ニ列ヌルニハ↢十重ヲ↡名テ云フ↢離菩提障ト↡。今又下ニ設ルニ↢総別ノ解釈ヲ↡皆云フ↢「遠離ト」↡、以テ↢前後ノ釈ヲ↡顕ス↢其ノ相違ヲ↡。今文ノ略セル也。
【38】▲「菩薩」 以下はこれ正釈なり。 これに四段あり、 初めの三段は三門によりて三障を離るる義を明かす。 いはく智慧・慈悲・方便によりて、 次いでのごとく貪著自身・無安衆生・供敬自身を遠離す。 後の一段は、 これ総結なり。
「菩薩」以下ハ是正釈也。此ニ有リ↢四段↡、初ノ三段者、明ス↧依テ↢三門ニ↡離ルヽ↢三障ヲ↡義ヲ↥。謂ク依1193テ↢智恵・慈悲・方便ニ↡、如ク↠次ノ遠↢離ス貪著自身・无安衆生・供敬自身ヲ↡。後ノ一段者、是総結也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅰ 第一段
【39】▲第一段の中に、
第一段ノ中ニ、
▲「知進」 とらは、 俗諦の法において善悪を分別して、 進を願じ退を恐れて自心を守るなり。 「進」 は仏道に進む、 「退」 は退堕なり。 いふところの 「智」 とは、 世俗智なり。
「知進ト」等者、於テ↢俗諦ノ法ニ↡分↢別シテ善悪ヲ↡、願ジ↠進ヲ恐テ↠退ヲ守↢自心ヲ↡也。「進ハ」進ム↢仏道ニ↡、「退ハ」退堕也。所ノ↠言「智ト」者、世俗智也。
問ふ。 ▲空無我を知る、 もつとも智といふべし、 いかん。
問。知ル↢空无我ヲ↡、尤可シ↠云智ト、如何。
答ふ。 法門の配当かならずしも一準ならず、 おのおの一義による。 また体に約すれば一なり、 その義違せず。
答。法門ノ配当不↢必シモ一准ナラ↡、各依ル↢一義ニ↡。又約スレバ↠体ニ一ナリ、其ノ義不↠違セ。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅱ 第二段
【40】▲第二段の中に、
第二段ノ中ニ、
▲「抜苦」 とらは、
「抜苦ト」等者、
問ふ。 ¬倶舎論¼ (玄奘訳巻二九定品) にいはく、 「慈悲は無瞋の性 乃至 この行相次いでのごとく、 与楽とおよび抜苦となり。」 以上 いまと相違いかん。
問。¬倶舎論ニ¼云、「慈悲ハ无嗔ノ性 乃至 此ノ行相如ク↠次ノ、与楽ト及ビ抜苦トナリ。」 已上 与↠今相違如何。
答ふ。 毘曇の義はしかなり、 常にこの説による。 ¬涅槃経¼ (北本巻一五梵行品 南本巻一四梵行品) にいはく、 「もろもろの衆生のために無利養を除く、 これを大慈と名づく、 ゆゑに衆生に無量の利楽を与ふ、 これを大悲と名づく。」 以上 この ¬経¼ の所説はいまの註釈に順ず、 彼是異説和会に及ばず。
答。毘曇ノ義ハ然ナリ、常ニ依ル↢此ノ説ニ↡。¬涅槃経ニ¼云ク、「為ニ↢諸ノ衆生ノ↡除ク↢无利*養ヲ↡、是ヲ名ク↢大慈ト↡。故ニ与フ↢衆生ニ无量ノ利楽ヲ↡、是ヲ名ク↢大悲ト↡。」 已上 此ノ¬経ノ¼所説ハ順ズ↢今ノ註釈ニ↡、彼是異説不↠及和会ニ↡。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅲ 第三段
【41】▲第三門の中に、
第三門ノ中ニ、
「▲正直」 といふは、 怨親尊卑の相を見ず、 あまねく一切において総じて平等憐愍の想を起す。 「▲外己」 といふは、 「外」 とは後なり、 「己」 とは自なり。 外己といふに対して内他の義あり、 内とは前なり。
言↢「正直ト」↡者、不↠見↢怨親尊卑ノ之相ヲ↡、普ク於テ↢一切ニ↡総ジテ起ス↢平等憐愍ノ之想ヲ↡。言↢「外己ト」↡者、「外ト」者後也、「己ト」者自也。対シテ↠言ニ↢外己ト↡有リ↢内他ノ義↡、内ト者前也。
問ふ。 この門の中にすでに 「▲憐愍一切衆生」 といふ、 すなはち慈悲か。 しからば二、 三の両門、 なんの別かあるや。
問。此ノ門ノ之中ニ既ニ云フ↢「憐愍一切衆生ト」↡、即慈悲歟。然ラ者二、三ノ両門、有↢何ノ別カ↡耶。
答ふ。 上の門はこれ抜苦与楽に約す、 これすなはち所作なり。 いまの門にはただ憐愍衆生といふ、 これ能作の心。 これをもつて異となす。 おほよそ三門差別の義をいはば、 初めは智慧によりて自楽を求めず、 次は慈悲によりて抜苦与楽す、 後は方便によりて一切を憐愍して自供敬を離る。 また三門をもつてその自利利他の辺に約せば、 第一は自利、 第二は利他、 第三門は並べて自他に約す。 「憐愍」 とらいふはこれ利他の義、 ▲「遠離」 とらはこれ自利なり。 これわたくしの領解なり、 先達いまだ談ぜず。 定めて誤りあるか、 後賢よろしく定むべし。
答。上ノ門ハ是約ス↢抜苦与楽ニ↡、是則所作ナリ。今ノ門ニハ只云フ↢憐愍衆生ト↡、是能作ノ心。以テ↠之ヲ為ス↠異ト。凡ソ言ハ↢三門差別ノ義ヲ↡者、初ハ依テ↢智恵ニ↡不↠求1194↢自楽ヲ↡、次ハ依テ↢慈悲ニ↡抜苦与楽ス、後ハ依テ↢方便ニ↡憐↢愍シテ一切ヲ↡離ル↢自供敬ヲ↡。又以テ↢三門ヲ↡約セ↢其ノ自利利他ノ辺ニ↡者、第一ハ自利、第二ハ利他、第三門者並ベテ約ス↢自他ニ↡。言ハ↢「憐愍ト」等↡是利他ノ義、「遠離ト」等者是自利也。是私ノ領解ナリ、先達未ダ↠談。定テ有↠*誤歟、後賢宜クシ↠定ム。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ 順菩提門章
【42】▲順菩提門の章の中に二あり、
順菩提門ノ章ノ中ニ有リ↠二、
初めに章目を標す。 その章目の意、 次上の門に翻じてその意を得べし。 いはゆる上の門は離菩提障、 いまの門はすなはち順菩提の意を顕す。 上下相対してその意見つべし。
初ニ標ス↢章目ヲ↡。其ノ章目ノ意、翻ジテ↢次上ノ門ニ↡可シ↠得↢其ノ意ヲ↡。所謂上ノ門ハ離菩提障、今ノ門ハ即顕ス↢順菩提ノ意ヲ↡。上下相対シテ其ノ意可シ↠見ツ。
【43】次に ▲「菩薩」 の下は、 これ正釈なり。 これに四段あり。 初めの三段は初めの三段に対し、 後の一段は後の一段に対して、 その意を得べし。
次ニ「菩薩ノ」下ハ、是正釈也。此ニ有リ↢四段↡。初ノ三段者対シ↢初ノ三段ニ↡、後ノ一段者対シテ↢後ノ一段ニ↡、可シ↠得↢其ノ意ヲ↡。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ 名義摂対章
【44】▲名義摂対の章の中に二あり。
名義摂対ノ章ノ中ニ有リ↠二。
初めに章目を標す。 章目を釈せば、 「名」 とは上に列ぬるところの智慧・慈悲・方便の三種の名を指す。 「義」 とはすなはちかの三種所具の義。 また名は能詮、 義は所詮なり。 「摂対」 といふは、 「摂」 は相摂、 「対」 は相対、 上下を相対してこれを相摂す。 その摂対とは、 すなはち論文 (浄土論) に三種の門をもつて 「▲般若を摂取す、 般若方便を摂取す」 といふこれなり。
初ニ標ス↢章目ヲ↡。釈セ↢章目ヲ↡者、「名ト」者指ス↢上ニ所ノ↠烈ヌル智恵・慈悲・方便三種之名ヲ↡。「義ト」者即彼ノ三種所具ノ之義。又名ハ能詮、義ハ所詮也。言↢「摂対ト」↡者、「摂」者相摂、「対」者相対、相↢対シテ上下ヲ↡而相↢摂之ヲ↡。其ノ摂対ト者、即論文ニ曰フ↧以テ↢三種ノ門ヲ↡「摂↢取ス般若ヲ↡、般若摂↦取スト方便ヲ↥」是也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅰ 第一段
【45】▲「向説智慧慈悲」 等の下は、 これ正釈なり。 これに三段あり、 いまはその初めなり。
「向説智恵慈悲」等ノ下ハ、是正釈也。此ニ有リ↢三段↡、今ハ其ノ初也。
「向説」 といふは、 ▲上の離菩提障の章を指すなり。 この中の意は、 智慧等の三、 般若を摂取し、 般若、 方便を摂取する義を明かす。
言↢「向説ト」↡者、指↢上ノ離菩提障ノ章ヲ↡也。此ノ中ノ意ハ、明↧智恵等ノ三摂↢取シ般若ヲ↡、般若摂↢取スル方便1195ヲ↡義ヲ↥也。
「▲般若とらは達如の慧」 とはすなはちこれ実智、 「▲方便」 といふはこれ権智なり。
「般若ト等者達如ノ慧ト」者即是実智、言↢「方便ト」↡者是権智也。
問ふ。 般若といふは三種の外か。
問。言↢般若ト↡者三種ノ外歟。
答ふ。 三種の内なり。 いはく智慧の中にその実智を取る、 これすなはち慧なり。
答。三種ノ内也。謂ク智恵ノ中ニ取ル↢其ノ実智ヲ↡、是則恵也。
問ふ。 いふところの 「般若」 三種の内ならば、 なんぞ相摂を論ぜん。
問。所ノ↠言「般若」三種ノ内ナラバ者、何ゾ論ゼン↢相摂ヲ↡。
答ふ。 上は権智に約す。 これ世俗智、 すなはちこれ能摂。 下の般若はこれ実智に約す。 すなはち真諦智、 これ所摂なり。
答。上ハ約ス↢権智ニ↡。是世俗智、即是能摂。下ノ般若者是約ス↢実智ニ↡。即真諦智、是所摂也。
問ふ。 なんぞ所摂の中に慈悲を挙げざる。
問。何ゾ所摂ノ中ニ不ル↠挙ゲ↢慈悲ヲ↡。
答ふ。 方便に摂するなり。
答。摂スル↢方便ニ↡也。
▲「達如」 とらは、 以下註釈の大意は、 これ権実二智たがひにあひ離せず、 寂滅省機ともにあひ妨げず、 動静失せずして功力自然なることを明かす。
「達如ト」等者、已下註釈ノ大意ハ、此明ス↧権実二智互ニ不↢相離セ↡、寂滅省機共ニ不↢相妨ゲ↡、動静不シテ↠失セ功力自然ナルコトヲ↥。
そもそも 「衆機」 の下 「之智」 の上に、 ある本載せて 「▲省機」 の二字あり。 文言・義理、 ともに備はつてよろしきか。 一々の文義、 四論の幽旨、 たやすく解するに及ばず、 有智の人文に滞らざらんか。
抑「衆機ノ」下「之智ノ」之上ニ、或本載テ有リ↢「省機ノ」二字↡。文言・義理、共ニ備ハテ宜シキ歟。一々ノ文義、四論ノ幽旨、不↠及↢輙ク解スルニ↡、有智ノ之人不ラン↠滞↠文ニ歟。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅱ 第二段
【46】▲「向説遠離我心」 以下は、 第二段なり。
「向説遠離我心」已下ハ、第二段也。
「向説」 といふは、 同じく離菩提障の章を指すなり。 この中の意は、 上の遠離の心を挙げて、 この三種菩提の障礙を離るることを明かすものなり。
言↢「向説ト」↡者、同ク指↢離菩提障ノ章ヲ↡也。此ノ中ノ意ハ、明↧挙テ↢上ノ遠離ノ之心ヲ↡、此ノ三種離ルヽコトヲ↦菩提ノ之障ヲ↥者也。
障礙を明かす中に、 ▲「五黒」 とらは、 「黒」 はこれ悪業、 すなはち五悪なり。 このゆゑにあるいは 「五悪」 といふ本あり。 五悪といふは五戒を持たず、 「▲十悪」 といふは十善に翻するなり。
明ス↢障ヲ↡中ニ、「五黒ト」等者、「黒ハ」是悪業、即五悪也。是ノ故ニ或ハ有リ↧言フ↢「五悪ト」↡本↥。言↢五悪ト↡者不↠持↢五戒ヲ↡、言↢「十悪ト」↡者翻スル↢十善ニ↡也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅲ 第三段
【47】▲「向説無染清浄」 以下は、 第三段なり。
「向説無染清浄」以下ハ、第三段也。
「向説」 といふは、 これ▲順菩提門の章を指す。 当段の意は、 かの門の中の三種の心を挙げて、 一の妙楽勝真心を成ずるなり。
言↢「向説ト」↡者、是指ス↢順菩提門ノ之章ヲ↡。当段ノ之意ハ、挙テ↢彼ノ門ノ中ノ三種ノ之心ヲ↡、成ズル↢一ノ妙楽勝真心ヲ↡也。
▲「楽有」 とらは、
「楽有ト」等者、
問ふ。 「▲五識所生の楽」 とは、 欲・色界の中にはいづれぞや。
問1196。「五識所生ノ楽ト」者、欲・色界ノ中ニハ何ゾ耶。
答ふ。 いまの註釈の意、 欲界の楽なり。
答。今ノ註釈ノ意、欲界ノ楽也。
問ふ。 楽に外内を分つ、 その義いかん。
問。楽ニ分ツ↢外内ヲ↡、其ノ義如何。
答ふ。 「▲外楽」 といふは、 かの前の五識相応の楽は外境を縁じて生ず。 このゆゑに称して外門転といふ。 「▲内楽」 といふは、 これはこれ意識所生の楽なるがゆゑに外より生ぜず。 このゆゑに号して内門転といふ。
答。言↢「外楽ト」↡者、彼ノ前五識相応ノ之楽ハ縁ジテ↢外境ヲ↡生ズ。是ノ故ニ称シテ云↢外門転ト↡也。言↢「内楽ト」↡者、此ハ是意識所生ノ楽ナルガ故ニ不↢従↠外生ゼ↡。是ノ故ニ号シテ曰↢内門転ト↡也。
問ふ。 欲界の中において、 また意識相応の楽あり、 すなはちこれ喜受なり。 なんぞこれを挙げざる。
*問。於テ↢欲界ノ中ニ↡、又有リ↢意識相応ノ之楽↡、即是喜受ナリ。何ゾ不ル↠挙ゲ↠之ヲ。
答ふ。 外門転をもつて外楽とするがゆゑに、 かの内門転をばこれを加へず。
答。以テ↢外門転ヲ↡為ガ↢外楽ト↡故ニ、彼ノ内門転ヲバ不↠加↠之ヲ也。
問ふ。 かの義のごとくならば、 下の 「内楽」 の中になんぞこれを摂せざる。
問。如ナラ↢此ノ義ノ↡者、下ノ「内楽ノ」中ニ何ゾ不ル↠摂セ↠之ヲ。
答ふ。 内楽は定に約す。 これ散なるをもつてのゆゑに内の摂にあらず。
答。内楽ハ約ス↠定ニ。此以ノ↠散ナルヲ故ニ非↢内ノ摂ニ↡也。
問ふ。 これなほ思ひがたし。 三楽の中に楽を尽さざる過あり、 すべからく四楽といひて別にこれを立つべきか。
問。是猶難シ↠思ヒ。有リ↢三楽ノ中ニ不ル↠尽↠楽ヲ過↡、須 ベ クキ
↧言テ↢四楽ト↡別ニ立ツ↞之ヲ歟。
答ふ。 欲界の意識相応の楽は、 五受の辺に約すればこれ喜受なり。 すでにこれ喜といふ、 楽の中に摂せざる、 これなんの過かあらん。
答。欲界ノ意識相応ノ楽者、約スレバ↢五受ノ辺ニ↡是喜受也。既ニ是云フ↠喜ト、不ル↠摂セ↢楽ノ中ニ↡、是有ラン↢何ノ過カ↡。
問ふ。 いまの所立のごとくならば、 五受に約せばただ第三定の心悦を楽と名づく、 余処はみな喜なり。 この義 ¬唯識¼・¬倶舎¼ 等の意、 ともにもつて違せず。 いまなんの義によりてか、 初・二・三禅を総じて楽と称するや。
問。如ナラバ↢今ノ所立ノ↡、約セ↢五受ニ↡者只第三定ノ心悦ヲ名ク↠楽ト、余処ハ皆喜ナリ。此ノ義¬唯識¼・¬倶舎¼等ノ意、共ニ以テ不↠違セ。今依テカ↢何ノ義ニ↡、初・二・三禅ヲ総ジテ称スル↠楽ト耶。
答ふ。 五受の辺によらばまことに所難のごとし。 もし三受によれば身心を分たず、 総じて苦楽といふ。 いまの註釈三受によるがゆゑに、 総じてこれを楽といふ。 あへて違することなからくのみ。
答。依ラバ↢五受ノ辺ニ↡誠ニ如シ↢所難ノ↡。若シ依レバ↢三受ニ↡不↠分↢身心ヲ↡、総ジテ云フ↢苦楽ト↡。今之註釈依ガ↢三受ニ↡故ニ、総ジテ言フ↢之ヲ楽ト↡。敢テ無ラク↠違スルコト耳。
問ふ。 この三楽において、 いかんが定散、 世間および出世間、 ならびに漏と無漏とらの義を分別するや。
問。於テ↢此ノ三楽ニ↡、云何ガ分↧別スル定散、世間及ビ出世間、并ニ漏ト与 ト ↢无漏↡等ノ之義ヲ↥耶。
答ふ。 定散に約せば、 初めの一はただ散、 次の二はこれ定、 ただし第三の楽はまた散に通ずることあり。 法を聞きて歓喜し仏の功徳を愛する分別等、 これ散なるがゆゑなり。 世出世とは、 初めの一は世間、 次の一はこれ世間・出世に通ず。 外道の所得はこれ世間禅、 聖者の所得は出世間なり。 後の一は出世なり。 漏・無漏とは、 初めの一は有漏、 かの前五識は因位一向有漏なるがゆゑなり。 次の一はこれ漏と無漏とに通ず。 いはゆる外道および凡夫等はこれ有漏なり、 聖者の所得はこれ無漏なり。 後の一の楽は、 所縁の法に約すれば一向無漏、 能縁の機に約すればまた有漏に通ず、 地前の機等有漏なるがゆゑなり。
答。約↢定散↡者、初ノ一ハ唯散、次ノ二ハ是定、但シ第三ノ楽ハ又有リ↠通ズルコト↠散ニ。聞テ↠法ヲ歓喜シ愛スル↢仏ノ功徳ヲ↡之分別等、是散ナルガ故也。世出世ト者1197、初ノ一ハ世間、次ノ一ハ是通ズ↢世間・出世ニ↡。外道ノ所得ハ是世間禅、聖者ノ所得ハ出世間也。後ノ一ハ出世ナリ。漏・无漏ト者、初ノ一ハ有漏、彼ノ前五識ハ因位一向有漏ナルガ故也。次ノ一ハ是通ズ↣漏ト与 トニ↢无漏↡。所謂外道及ビ凡夫等ハ是有漏也、聖者ノ所得ハ是无漏也。後ノ一ノ楽者、約スレバ↢所縁ノ法ニ↡一向无漏、約スレバ↢能縁ノ機ニ↡又通ズ↢有漏ニ↡、地前ノ機等有漏ナルガ故也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ 願事成就章
【48】▲願事成就の章の中に二あり、
願事成就ノ章ノ中ニ有リ↠二、
初めに章目を標す。 その章目とは、 「願」 はすなはちこれ論文に列ぬるところの智慧心等の四種の心、 これ菩提心。 「事」 はすなはちこれ五念門の行。 ▽この願行によりてかの土に生ずることを得る、 これを 「成就」 といふ。 これはこれ自行成就の相なり。
初ニ標ス↢章目ヲ↡。其ノ章目ト者、「願」者乃是論文ニ所ノ↠烈ヌル智恵心等ノ四種ノ之心、是菩提心。「事」者乃是五念門ノ行。依テ↢此ノ願行ニ↡得ル↠生ズルコトヲ↢彼ノ土ニ↡、言フ↢之ヲ「成就ト」↡。此ハ是自行成就ノ相也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅰ 第一段
【49】次に ▲「如是」 の下は、 これ正釈なり。 これに二段あり、 いまはその初めなり。
次ニ「如是ノ」下ハ、是正釈也。此ニ有リ↢二段↡、今ハ其ノ初也。
当段の意は智等の四心清浄の土に生ずることを明かす。
当段ノ意ハ明ス↣智等ノ四心生ズルコトヲ↢清浄ノ土ニ↡。
「▲智慧心」 とは、 障菩提門の章の中にいふところの▲権▲実二智。 「▲方便心」 とは、 同じき第三門の▲正直・外己の心これなり。 「▲無障心」 とは、 すなはち三の▲遠離の心これなり。 「▲勝真心」 とは、 これ名義摂対章の中にいふところの 「▲妙楽勝真心」 を指す。
「智恵心ト」者、障菩提門ノ章ノ中ニ所ノ↠言権実二智。「方便心ト」者、同キ第三門ノ正直・外己ノ之心是也。「无障心ト」者、即三ノ遠離ノ之心是也。「勝真心ト」者、是指↢名義摂対ノ章ノ中ニ所ノ↠言「妙楽勝真心ヲ」↡也。
▲「非是」 とらは、 これ非因を斥ふ。 もしこれを決せずは、 義戒取に当る。 これかの弥陀の願力によりて浄土に往生す、 願によらずして生ずることを得るにあらざることを明かすなり。
「非是ト」等者、是斥フ↢非因ヲ↡。若シ不ハ↠決セ↠之ヲ、義当ル↢戒取ニ↡。是明ス↧依テ↢彼ノ弥陀ノ願力ニ↡往↢生ス浄土ニ↡、非コトヲ↦不シテ↠由ラ↠願ニ而得ルニ↞生ズルコトヲ也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅱ 第二段
【50】次に ▲「是名」 の下は、 上の四心五念の法門に随順することを明かすらくのみ。
次1198ニ「是名ノ」下ハ、明スラク↣上ノ四心随↢順スルコトヲ五念ノ法門ニ↡而已。
▲「出没」 とらは、 これに二義あり。 一にいはく、 入出の門なり。 これ四門に入りてしかも一門に出づる、 自利・利他自在の義なり。 二にいはく、 得生の後入出意に随ひて、 化他の行任運自在なるなり。 かならずしも入出二門の意ならず。
「出没ト」等者、此ニ有リ↢二義↡。一ニ云、入出ノ門也。是入テ↢四門ニ↡而モ出ル↢一門ニ↡、自利々他自在ノ義也。二ニ云、得生ノ之後入出随テ↠意ニ、化他ノ之行任運自在ナルナリ。不↢必シモ入出二門ノ意ナラ↡也。
▲「身業」 とらは、 三業の配当その文見やすし。 「▲智業」 といふは観察して常照す、 智慧力なるがゆゑにこれを 「智業」 といふ。 「▲方便智業回向也」 とは、 「方便」 といふはこれ巧方便回向の義なるがゆゑに、 かくのごとく釈するなり。
「身業ト」等者、三業ノ配当其ノ文易シ↠見。言↢「智業ト」↡者観察シテ常ニ照ス、智恵力ナルガ故ニ言フ↢之ヲ「智業ト」↡。「方便智業廻向也ト」者、言↢「方便ト」↡者是巧方便廻向ノ義ナルガ故ニ、如ク↠此ノ釈スル也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ 利行満足章
【51】▲利行満足の章の中に二あり。
利行満足ノ章ノ中ニ有リ↠二。
一に章目を標すとは、 章目顕著にして義理灼然なり。 いはゆる自利利他の行満足して、 すみやかに仏果を証する義なり。 一部の玄旨ここにして窮極し、 五門の所期いま円満するなり。
一ニ標スト↢章目ヲ↡者、章目顕著ニシテ義理灼然ナリ。所謂自利々他ノ之行満足シテ、速ニ証スル↢仏果ヲ↡義也。一部ノ玄旨於テ↠此ニ窮極シ、五門ノ所期今円満スル也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅰ 第一段
【52】正釈の中に文を分ちて五となす。 しかもその中において、
正釈ノ之中ニ分テ↠文ヲ為ス↠五ト。而モ於テ↢其ノ中ニ↡、
一に ▲「復有五」 の下 「称園林遊戯地門」 に至るまでは、 総じて五門を挙げてその行相を明かす。
一ニ「復有五ノ」下至マデハ↢「称園林遊戯地門ニ」↡、総ジテ挙テ↢五門ヲ↡明ス↢其ノ行相ヲ↡。
二に ▲「此五種」 の下 「出功徳」 に至るまでは、 略して入出功徳の相を標す。
二ニ「此五種ノ」下至マデハ↢「出功徳ニ」↡、略シテ標ス↢入出功徳之相ヲ↡。
三に ▲「此入出」 より所引 「第五功徳相」 を尽すに至るまでは、 礼等五念の因によりてかの近等五門の益を得ることを明かす。
三ニ自↢「此入出」↡至マデハ↠尽スニ↢所引ヲ↡、 「第五功徳相」 明ス↧依テ↢礼等五念ノ之因ニ↡得コトヲ↦彼ノ近等五門ノ之益ヲ↥。
問ふ。 本書の文五科の内、 後の二段その説いかん。
問。本書ノ之文五科ノ之内、後ノ之二段其ノ説如何。
答ふ。 四に▲「菩薩入」 (論註巻下) の下 「之利也」▲ に至るまでは、 入出の門に約して自利・利他の二益を分別す。
答。四ニ「菩薩入ノ」下至マデハ↢「之利也ニ」↡、約シテ↢入出ノ門ニ↡分↢別ス自利々他ノ二益ヲ↡。
五に▲「菩薩如」 (論註巻下) の下 「局分也」▲ に至るまではこれ五念の行によるをもつてのゆゑに、 二利成就してつひに阿耨菩提の果を得ることを明かす。
五ニ「菩薩如ノ」下1199至マデハ↢「局分也ニ」↡、此明↧以ノ↠依ルヲ↢五念ノ行ニ↡故ニ、二利成就シテ終ニ得コトヲ↦阿耨菩提ノ果ヲ↥也。
問ふ。 一章中においてその除くところある、 なんの由ある。
問。於テ↢一章ノ中ニ↡有ル↢其ノ所↟除ク、有↢何ノ由↡乎。
答ふ。 かくのごとくの本文いまだかならずしもことごとく引かず、 要によりて除取する。 あながちに別の由なし。 なかんづくにいまの文▲第二巻においてこれを引用するがゆゑに、 いま略せらるか。
答。如ノ↠此ノ本文未ダ↢必シモ悉ク引↡、依テ↠要ニ除取スル。強ニ无シ↢別ノ由↡。就ニ↠中今ノ文於テ↢第二巻ニ↡引↢用スルガ之ヲ↡故ニ、今被↠略セ歟。
問ふ。 初科の中に、 「▲安心の宅」、 「▲所居の屋宇」 といふ、 「宅」 「屋」 の別いかん。
問。初科ノ之中ニ、云フ↢「安心ノ宅」、「所居ノ屋宇ト」↡、「宅」「屋ノ」之別如何。
答ふ。 「宅」 ¬廣韻¼ にいはく、 「瑒伯の切、 居なり。 ¬説文¼ 託なり、 人の投託するところなり。 ¬釈名¼ 宅は択なり、 吉処を択びてこれを営するなり。」 「屋」 ¬玉篇¼ にいはく、 「於鹿の切、 舎なり、 また王屋山の名。 ¬広韻¼ にいはく、 烏谷の切、 舎なり、 具なり。 ¬淮南子¼ にいはく、 舜牆を築きて屋を茨く。 ¬風俗通¼ にいはく、 屋は止なり。」 この字訓をもつてほぼ愚推を加ふるに、 その初後に就きていささか配当するか。 いはゆる 「宅」 の字をば投といひ託といふ、 初めて至る義に叶ふ。 「屋」 の字をば具といふ、 すなはちこれ具足、 止はすなはち止住。 両字の義を案ずるに、 始終の義なり。
答。「宅」¬廣韻ニ¼云ク、「瑒伯ノ切、居也。¬説文¼託ツク也、人ノ所↢投託スル イタリツク ↡也。¬釈名¼宅ハ択エラブ也、択テ↢吉処ヲ↡而営スルイトナム ↠之ヲ也。」「屋」¬玉篇ニ¼云、「於鹿ノ切、舎也、又王屋山ノ名。¬広韻ニ¼云、烏谷切、舎也、具也。¬淮南子ニ¼曰、舜築テ↠牆ヲ茨ク↠屋ヲ。¬風俗通ニ¼曰、屋ハ止也。」以テ↢此ノ字訓ヲ↡粗加ルニ↢愚推ヲ↡、就テ↢其ノ初後ニ↡聊配当スル歟。所*謂「宅ノ」字ヲバ言ヒ↠投ト云フ↠託ト、叶フ↢初テ至ル義ニ↡。「屋ノ」字ヲバ云フ↠具ト、乃是具足、止ハ即止住。案ズルニ↢両字ノ義ヲ↡、始終ノ義也。
問ふ。 礼拝等をもつて次いでのごとくかならず近等の五門転入の因とするか。 またその次第かならずしもしかるべからず、 ただ五念によりて五門を得るか。
問。以テ↢礼拝等ヲ↡如ク↠次ノ必為ル↢近等ノ五門転入ノ因ト↡歟。又其ノ次第不↠可↢必シモ然ル↡、只依テ↢五念ニ↡得↢五門ヲ↡歟。
答ふ。 これ浅深に約して一往判属す。 総じて娑婆にして修するところの五念は浄土の生因なり。 その生因はひとへにこれ無礙光に帰命するがゆゑに一心に念仏するなり。 仏の本願力はまさしき生因なり。 浄土に生じて後五門に転入す。 また堅の義に約せば、 その次第の如し。 もし横の義に約せば、 この五門の益同時に獲得し一念に具足す。 自然の証悟、 推して知んぬべし。
答。此約シテ↢浅深ニ↡一往判属ス。総ジテ於テ↢娑婆ニ↡所ノ↠修スル五念ハ浄土ノ生因ナリ。其ノ生因ト者偏ニ是帰↢命スルガ無光ニ↡故ニ一心ニ念仏スルナリ。仏ノ本願力ハ正シキ生因也。生ジテ↢浄土ニ↡後転↢入ス五門ニ↡。又約セバ↢*竪ノ義ニ↡、如シ↢其ノ次第ノ↡。若シ約セバ↢横ノ義ニ↡、此ノ五門ノ益同時ニ獲得シ一念ニ具足ス。自然ノ証悟、推シテ而可シ↠知ヌ。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅱ 第二段
【53】▲第二は配釈。
第1200二ハ配釈。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅲ 第三段
【54】▲第三段の中に、
第三段ノ中ニ、
問ふ。 ▲「得入蓮華蔵世界」 とはこれなんの土や。
問。「得入蓮*華蔵世界ト」者是何ノ土耶。
答ふ。 極楽を指す。 ¬秘蔵記¼ にいはく、 「華蔵と極楽と名異にして処一なり。」 取意
答。指↢極楽ヲ↡也。¬秘蔵記ニ¼云ク、「華蔵ト極楽ト名異ニシテ処一ナリ。」 取意
問ふ。 初めの近門の中に、 あるいは 「▲初めて浄土に至る」 といひ、 あるいは 「▲安楽に生ずることを得」 といふ、 これ極楽なり。 次に大会衆門に入りて後、 いま蓮華蔵界に入ることを得る、 なんぞ同処ならん。
問。初ノ近門ノ中ニ、或ハ云ヒ↣「初テ至ルト↢浄土ニ↡」、或ハ云フ↠「得ト↠生ズルコトヲ↢安楽ニ↡」、是極楽也。次ニ入テ↢大会衆門ニ↡之後、今得ル↠入コトヲ↢之蓮花蔵界↡、何ゾ同処ナラン乎。
答ふ。 智光の ¬疏¼ (無量寿経論釈巻五) にいはく、 「無量寿仏所居の住処、 この世界に準ずるに義に随へて名となす。」 已上
答。智光ノ¬疏ニ¼云、「无量寿仏所居ノ住処、准ズルニ↢此ノ世界ニ↡随ヘテ↠義ニ為ス↠名ト。」 已上
極楽・華蔵これ同処なりといへども、 その浅深に約してその名を換ふるか。 当巻の中に真実の証を明かすがゆゑに、 薄地底下初生の凡夫、 仏願力によりてすなはち地上に登り、 すみやかに八地以上の位に進みてみな寂滅平等の法を得。 この義真実甚深なるがゆゑに、 この義辺に約してことさらに蓮華蔵界に入ることを得といふ。 これすなはち蓮華蔵世界とは盧舎那仏所居の処、 報身の土なるがゆゑに、 真証を顕さんがためにことさらにこの名を標す。
極楽・*華蔵雖↢是同処ナリト↡、約シテ↢其ノ浅深ニ↡換フル↢其ノ名ヲ↡歟。当巻ノ中ニ明スガ↢真実ノ証ヲ↡故ニ、薄地底下初生ノ凡夫、由テ↢仏願力ニ↡即登リ↢地上ニ↡、速ニ進テ↢八地已上ノ之位ニ↡皆得↢寂滅平等ノ之法ヲ↡。此ノ義真実甚深ナルガ之故ニ、約シテ↢此ノ義辺ニ↡故ニ云↠得ト↠入コトヲ↢蓮華蔵界ニ↡。是則蓮*花蔵世界ト者盧舎那仏所居ノ之処、報身ノ土ナルガ故ニ、為ニ↠顕ンガ↢真証ヲ↡故ニ標ス↢此ノ名ヲ↡。
ただし近門・宅門その差ありといふに至りては、 極楽浄土の名を動ぜずして、 すなはちまた華蔵界の号あるべし。 天台 (法華文句記巻九下釈寿量品) のいふがごとし。 「あに伽耶を離れて別に常寂を求めんや、 寂光の外に別に娑婆あるにあらず。」 以上
但シ至↤于云ニ↣近門・宅門有ト↢其ノ差↡者、不シテ↠動ゼ↢極楽浄土ノ之名ヲ↡、即復可↠有↢花蔵界ノ号↡。如シ↢天臺ノ云ガ↡。「豈離テ↢伽耶ヲ↡別ニ求ンヤ↢常寂ヲ↡、非ズ↣寂光ノ外ニ別ニ有ルニ↢娑婆↡。」 已上
かの解釈に準じて深くこれを思ふべし。
准ジテ↢彼ノ解釈ニ↡深ク可シ↠思フ↠之ヲ。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅳ 第四段
【55】▲同じき第四段に、
同キ第四段ニ、
▲「類事起行願取仏土味」 とは、 これに二義あり。
「類事起行願取仏土味ト」者、此ニ有リ↢二義↡。
↓一には浄土に約して解す。 浄仏国土成就衆生の起行等、 種類無量なり、 かしこにしてことごとくその法味を受く。
一ニハ約シテ↢浄土ニ↡解ス。浄仏国土成就衆生ノ之起行等、種類无量ナリ、於テ↠彼ニ悉ク受↢其ノ法味ヲ↡也。
二には穢土に約して解す。 これ託事観なり。 託事観とは、 ¬華厳経¼ (晋訳巻六浄行品) にいはく、 「菩薩家にありてはまさに願ずべし、 衆生家難を捨離して空法の中に入らんと。 父母に孝養してはまさに願ずべし、 衆生一切護養して永く大安を得んと。 乃至 もし楼閣に上りてはまさに願ずべし、 衆生仏の法堂に昇りて微妙の法を得んと。 もし聚会にありてはまさに願ずべし、 衆生究竟解脱して如来の処に到らんと。」 以上
二ニハ約シテ↢穢土1201ニ↡解ス。是託事観ナリ。託事観ト者、¬花厳経ニ¼云、「菩薩*在テハ↠家ニ当ニ↠願ズ、衆生捨↢離シテ家難ヲ↡入ラント↢空法ノ中ニ↡。孝↢養シテハ父母ニ↡当ニ↠願ズ、衆生一切護養シテ永ク得ント↢大安ヲ↡。 乃至 若シ上テハ↢楼閣ニ↡当ニ↠願ズ、衆生昇テ↢仏ノ法堂ニ↡得ント↢微妙ノ法ヲ↡。若シ在テハ↢聚会ニ↡当ニシ↠願ズ、衆生究竟解脱シテ到ント↢如来ノ処ニ↡。」 已上
¬往生要集¼ にまたこの義あり。 かの中巻にいはく、 「▲問ふ。 凡夫の行人物を逐ひて意移る。 なんぞ常に念仏の心を起すことを得んや。 ◆答ふ。 かれもし直爾に念仏することあたはずは、 事々に寄せてその心を勧発すべし。 ◆いはく遊戯・談笑の時には願ぜよ、 極楽界の宝池宝林の中にして、 天人聖衆とかくのごとく娯楽せんと。 もし憂苦の時は願ぜよ、 衆生とともに苦を離れて極楽に生ぜんと。 もし尊徳に対してはまさに願ずべし、 極楽に生じてかくのごとく世尊に奉らんと。 もし卑賎を見てはまさに願ずべし、 極楽に生じて孤独の類を利楽せんと。」 以上
¬往生要集ニ¼又有リ↢此ノ義↡。彼ノ中巻ニ云ク、「問。凡夫ノ行人逐テ↠物ヲ意移ル。何ゾ常ニ得ンヤ↠起コトヲ↢念仏ノ之心ヲ↡。答。彼若シ不ハ↠能↢直爾ニ念仏スルコト↡、応シ↧寄セテ↢事々ニ↡勧↦発ス其ノ心ヲ↥。謂ク遊戯・*談笑ノ時ニハ願ゼヨ、於テ↢極楽界ノ宝池宝林ノ中ニ↡、与↢天人聖衆↡如ク↠是ノ娯楽セント。若シ憂苦ノ時ハ願ゼヨ、共ニ↢衆生ト↡離テ↠苦ヲ生ゼント↢極楽ニ↡。若シ対シテハ↢尊徳ニ↡当ニシ↠願ズ、生ジテ↢極楽ニ↡如ク↠是ノ奉ラント↢世尊ニ↡。若シ見テハ↢卑賎ヲ↡当ニ↠願ズ、生ジテ↢極楽ニ↡利↢楽セント孤独ノ類ヲ↡。」 已上
わたくしに両義を案ずるに、 ↑前の義を親しとなす。 論文すでに (浄土論) 「▲得到彼処受用種々法味楽」 といふ。 文言争なくかの土の益たること、 △上にすでに述ぶるがごとし。 五念はこれこの土の修因たり、 五門はかしこにして得るところの果なり。
私ニ案ズルニ↢両義ヲ↡、前ノ義ヲ為ス↠親シト。論文ニ既ニ云フ↢「得到彼処受用種々法味楽ト」↡。文言無ク↠争ヒ為コト↢彼ノ土ノ益↡、如シ↢上ニ已ニ述ルガ↡。五念ハ是為リ↢此ノ土ノ修因↡、五門ハ於テ↠彼ニ所ノ↠得果也。
問ふ。 かしこにして五念を修行することを許す義あるべからずや。
問。不↠可↠有↧許ス↣於テ↠彼ニ修↢行スルコトヲ五念ヲ↡義↥耶。
答ふ。 かしこにおいてまたつぶさに五念を修行する義あるべきなり。 一切の菩薩初発意より仏果を成ずるに至るまで、 みなことごとく五念の修行にあらざることなきゆゑなり。
答。可↠有↧於テ↠彼ニ亦具ニ修↢行スル五念ヲ↡義↥也。一切ノ菩薩自↢初発意↡至マデ↠成ズルニ↢仏果ヲ↡、皆悉ク莫キ↠非コト↢五念ノ修行ニ↡故也。
二 Ⅱ ⅳ c ロ ・ ・ ⅴ 第五段
【56】▲同じき第五段に、
同キ第五段ニ、
「▲如法華」 とは、 これ観音の随類示現、 応機化度の利生を指すなり。 これすなはち身を現ずることは三十三を挙げ、 ために法を説くことは十九種を標す。 この菩薩は極楽の上首蓮花部の尊、 利益広大にして慈悲倫に超えたり。 このゆゑにこれを出だして応化身の本拠とすらくのみ。
「如法華ト」者、是指↢観音ノ随類示現、応機化度ノ之利生ヲ↡也。是則現ズルコトハ↠身ヲ挙ゲ↢三十三ヲ↡、為ニ説コト↠法ヲ者標ス↢十九種ヲ↡。此ノ菩薩者極楽ノ上首蓮花1202部ノ尊、利益広大ニシテ慈悲超タリ↠倫ニ。是ノ故ニ出シテ↠之ヲ為ラク↢応化身ノ之本拠ト↡耳。
▲「師子」 とらは、 「師子」 は猛獣、 「鹿」 は小獣、 これを搏つこともつとも易し。 ゆゑに菩薩衆生を済度するその自在神通力を得るに譬ふるなり。 「搏」 ¬玉篇¼ にいはく、 「補洛の切、 手に撃つ。」 ¬広韻¼ これに同じ。
「師子ト」等者、「師子ハ」猛獣、「鹿」者小獣、搏コト↠之ヲ最モ易シ。故ニ譬↧菩薩済↢度スル衆生ヲ↡得ルニ↦其ノ自在神通力ヲ↥也。「搏」¬玉篇ニ¼云、「補洛ノ切、手ニ撃ツ也。」¬広韻¼同ジ↠之ニ。
▲「譬如阿修」 とらは、 かの琴自然に音を発する徳、 天の宝幢に同じ。 かれに準じてよろしく知るべし。
「譬如阿修ト」等者、彼ノ琴自然ニ発スル↠音之徳、同ジ↢天ノ宝幢ニ↡。准ジテ↠彼ニ宜クシ↠知ル。
¬観経¼ にいはく、 「▲また楽器の虚空に懸処するあり、 天の宝幢のごとし。 鼓たざるにおのづから鳴る。」 以上
¬観経ニ¼云、「又有リ↣楽器ノ懸↢処スル虚空ニ↡、如シ↢天ノ宝幢ノ↡。不ルニ↠鼓タ自鳴ル。」 已上
¬疏¼ の 「定善義」 にこの文を釈していはく、 「▲楼外の荘厳、 宝楽空に飛びて、 声法響を流す。 昼夜六時に天の宝幢のごとし、 思なくして自事を成ず。」 以上
¬疏ノ¼「定善義ニ」釈シテ↢此ノ文ヲ↡云ク、「楼外ノ荘厳、宝楽飛テ↠空ニ、声流ス↢法響ヲ↡。*昼夜六時ニ如シ↢天ノ宝幢ノ↡、無シテ↠思成ズ↢自事ヲ↡也。」 已上
五趣と立つる時、 修羅の中勝たる者を天に摂し、 劣なる者を鬼に摂す。 ゆゑに準知すべし。
立ル↢五趣ト↡*時、修羅ノ之中勝タル者ヲ摂シ↠天ニ、劣ナル者ヲ摂ス↠鬼ニ。故ニ可シ↢准知ス↡。
二 Ⅱ ⅳ d 総結
【57】△「爾者」 以下は、 わたくしの御釈なり。 これを総結となす。 その意見つべし。
「爾者」已下ハ、私ノ御釈也。是ヲ為ス↢総結ト↡。其ノ意可シ↠見ツ。
六要鈔 第四 全
延書は底本の訓点に従って有国が行った(固有名詞の訓は保証できない)。
三 本文まま。
底本は ◎本派本願寺蔵明徳三年慈観上人書写本。 Ⓐ本派本願寺蔵文安四年空覚書写本、 Ⓑ興正派興正寺蔵蓮如上人書写本 と対校。
花→Ⓐ華
則→Ⓐ即
花→Ⓐ華
則→Ⓐ即
灼→Ⓐ炳
三→◎ⒶⒷ二
華→Ⓐ花
摂→Ⓐ接
時→Ⓑ侍
即→Ⓐ皆
穊→◎稠
詮→Ⓐ除
堕→Ⓑ随
是→◎来(「是歟」と左傍註記)
投→Ⓐ扶
擿→◎摘
養→Ⓐ<益
誤→◎Ⓑ設
問→Ⓑ門
謂→Ⓑ請
竪→ⒶⒷ堅(Ⓐ「誤歟」と左傍註記し、 さらに「竪歟」と上欄註記)
華→Ⓐ花
在→Ⓑ有
談笑→Ⓐ讃嘆
昼→Ⓑ尽
時→Ⓑ侍