1305◎六要鈔 第六 旧末
二 Ⅱ ⅵ c ロ ○ 私釈
【74】 ◎当帖の中において、 標あり文あり。 標に総別あり。
◎於テ↢当帖ノ中ニ↡、有リ↠標有リ↠文。標ニ有リ↢総別↡。
総標といふは、 初めに ▲「夫拠」 といふ以下一行二字これなり。
言↢総標ト↡者、初ニ云フ↢「夫拠ト」↡以下一行二字是也。
別標といふは、 諸文の上において題するところの経論・解釈の名なり。 いまこの別標、 上来の諸巻にみなもつてこれを安ず。 当帖においては総標の外、 流通以前にさらにわたくしの詞なし、 ただ広く諸文を引用すらくのみ。 このゆゑに短慮いよいよ文義に迷ふ。 ただし荊渓 (釈韱巻一二) のいはく、 「文の大旨を得つれば元由に暗からず。」 以上 一々の文言くわしく解するにあたはず、 かつは自宗心行の大要にあらず、 ただほぼ所引の*梗概を推知して祖意を仰ぐべし。 その祖意とは、 すなはち総標に顕る。 すなはちこれ ▲「勘決真偽」 以下、 その意明らかなり。
言↢別標ト↡者、於テ↢諸文ノ上ニ↡所ノ↠題スル経論解釈ノ名也。今此ノ別標、上来ノ諸巻ニ皆以テ安ズ↠之ヲ。於↢当帖ニ↡者総標ノ之外、流通以前ニ更ニ無シ↢私ノ詞↡、只広ク引↢用スラク諸文ヲ↡而已。是ノ故ニ短慮弥迷フ↢文義ニ↡。但シ荊渓ノ云ク、「得ツレバ↢文ノ大旨ヲ↡不↠暗カラ↢元由ニ↡。」 已上 一々ノ文言不↠能↢委ク解スルニ↡、且ハ非ズ↢自宗心行ノ大要ニ↡、只粗推↢知シテ所引ノ梗概ヲ↡可シ↠仰グ↢祖意ヲ↡。其ノ祖意ト者、乃顕ハル↢総標ニ↡。即是「勘決真偽」已下、其ノ意明也。
もし仏教によれば、 真といひ正といふ。 もし外教によれば邪といひ偽といふ。 しかるにあるいは外によりて内教を信ぜず。 たとひ仏教によれどもあたかも真宗を貶し、 たとひ真門に入れども一行をもつぱらにせず。 あるいは諸行を加へ、 あるいは雑心に住す。 かくのごときの心行、 その本心を尋ぬるに仏智疑惑の迷心より起る。 たとひ邪教を離るとも化土胎生の因を出でざるがゆゑに、 当巻にこれを明かしてまさにこれを捨つべしと勧む。 これをもつて詮となす。
若シ依レバ↢仏教ニ↡、云ヒ↠真ト云フ↠正ト。若シ依レバ↢外教ニ↡云ヒ↠邪ト云フ↠偽ト。而ニ或ハ依テ↠外ニ不↠信ゼ↢内教ヲ↡。縦ヒ依レドモ↢仏教ニ↡宛モ貶シ↢真宗ヲ↡、縦ヒ入レドモ↢真門ニ↡不↠専ニセ↢一行ヲ↡。或ハ加ヘ↢諸行ヲ↡、或ハ住ス↢雑心ニ↡。如ノ↠此ノ心行、尋ヌルニ↢其ノ本心ヲ↡起ル↠自リ↢仏智疑惑ノ迷心↡。縦ヒ離ルトモ↢邪教ヲ↡不ルガ↠出↢化土胎生ノ因ヲ↡故ニ、当巻ニ明シテ↠之ヲ勧ム↠当ニシト↠捨↠之ヲ。以テ↠此ヲ為ス↠詮ト。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『涅槃経』文
【75】 ▲まづ ¬涅槃¼ の文。 すなはち経名を出だすはこれ別標なり、 以下みな同じ。
先ヅ¬涅槃ノ¼文。即出スハ↢経名ヲ↡是別標也、已下皆同。
▲「終不更帰依」 とらいふは、
言↢「終不更帰依ト」等↡者、
問ふ。 天神地祇は世の貴ぶるところなり、 なんぞこれを誡むるや。
問1306。天神地祇ハ世ノ之所ナリ↠貴ブル、何ゾ誡ムル↠之ヲ乎。
答ふ。 仏陀に帰するは釈教の軌範、 神明を崇むるは世俗の礼奠、 内外別なるゆゑに法度かくのごとし。 これすなはち月氏・晨旦の風教、 崇むるところの神多くは邪神なるがゆゑに、 三宝に帰する者これに事ふることを得ず。
答。帰スル↢仏陀ニ↡者釈教ノ軌範、崇ムル↢神明ヲ↡者世俗ノ礼奠、内外別ナルガ故ニ法度如シ↠此ノ。是則月氏・晨旦ノ風教、所ノ↠崇ムル之神多クハ邪神ナルガ故ニ、帰スル↢三宝ニ↡者不↠得↠事コトヲ↠之ニ。
ゆゑに ¬倶舎¼ (玄奘訳巻一四業品) にいはく、 「衆人所逼を恐れて多く諸仙・園苑および叢林・孤樹・制多等に帰依す。 この帰依勝れたるにあらず、 この帰依尊きにあらず。 この帰依によりてよく衆苦を解脱せず。」 以上 聖道の修行すでにこの制あり、 いはんんや一向専念の倫においてをや。
故ニ¬倶舎ニ¼云ク、「衆人恐レテ↢所逼ヲ↡多ク帰↢依ス諸仙・園菀及ビ叢林・孤樹・制多等ニ↡。此ノ帰依非ズ↠勝タルニ、此ノ帰依非ズ↠尊トキニ。不↧因テ↢此ノ帰依ニ↡能ク解↦脱セ衆苦ヲ↥。」 已上 聖道ノ修行既ニ有リ↢此ノ制↡、況ヤ於↢一向専念ノ倫ニ↡哉。
このゆゑに善導大師 ¬臨終正念の決¼ にいはく、 「問ふ。 神祇禍福求祷いかん。 答ふ。 人命の長短生まれてよりこのかたすでに定まれり、 なんぞ鬼神を仮りてこれを延べんや。 世の人迷惑して反りてさらに邪を求めて衆生を殺害し、 神鬼を祭祀してただ罪業を増し、 ますます怨讎を結びて反りて寿を損す。 大命もし尽きなば小鬼いかがせん、 空しくみづから慞惶してかならず済ふところなし。 たしかによろしくこれを謹むべし。」 以上
是ノ故ニ善導大師¬臨終正念ノ決ニ¼云ク、「問。神祇禍福求祷如何。答。人命ノ長短生レテヨリ下已ニ定レリ、何ゾ仮テ↢鬼神ヲ↡延ベン↠之ヲ耶。世ノ人迷惑シテ反テ更ニ求メテ↠邪ヲ殺↢害シ衆生ヲ↡、祭↢祀シテ神鬼ヲ↡但増シ↢罪業ヲ↡、倍結テ↢怨讎ヲ↡反テ損ス↠寿ヲ矣。大命若シ尽キナバ小鬼奈何、空ク自慞惶シテ必ズ無↠所↠済フ。切ニ宜クシ↠謹シム↠之ヲ。」 已上
これらみな邪神に事ふるは損ありて益なきことを誡む。 権社においてはこのかぎりにあらざるか。 なかんづくわが朝はこれ神国なり、 王城鎮守諸国擁衛の諸大明神、 その本地を尋ぬれば往古の如来法身の大士、 異域の邪神にあひ同じかるべからず。 和光の素意、 もと利物にあり。 かつは宿世値遇の善縁に酬ひ、 かつは垂迹多生の調熟によりて、 いま正法に帰して生死を出でんと欲す、 その神恩を思ふに忽諸すべからず。 しかりといへども一心一行をもつぱらにせんと欲するに、 称念の結縁、 なほしばらくこれを閣くは一宗の廃立、 大師の定判なり。 さらにかの利生等を信ぜざるにあらず、 ただ専念・専修の儀を守る。 この専念によりて浄土に生ずれば、 諸上善人ともに一処に会すること、 その説明らかなるがゆゑに、 聖衆倶会疑惑すべからず。 一切の諸仏にともに護念せらる、 その益空しからず。 別に念ぜずといへどもその利益を蒙る。 ゆゑに弥陀を念ずればかならず諸仏菩薩の冥護を得、 その垂迹たる天神地祇、 また本地の聖慮に違すべからず、 ゆゑに一心をもつぱらにしてただ一仏を念ずる、 これをもつて要となす。 かの諸神の本地等においては、 深く信伏を致す、 忽諸すべからず。
是等皆誡シム↧事フル↢邪神ニ↡者有テ↠損無コトヲ↞益。於↢権社ニ↡者非↢此ノ限ニ↡歟。就↠中我ガ朝ハ是神国也。王城鎮守諸国擁衛ノ諸大明神、尋ヌレバ↢其ノ本地ヲ↡、往古ノ如来法身ノ大士、不↠可↣相↢同カル異域ノ邪神ニ↡。和光ノ素意、本在リ↢利物ニ↡。且ハ酬ヒ↢宿世値遇ノ善縁ニ↡、且ハ依テ↢垂迹多生ノ調熟ニ↡、今帰シテ↢正法ニ↡欲ス↠出ント↢生死ヲ↡。思ニ↢其ノ神恩ヲ↡不↠可↢忽緒ス↡。雖↠然リト欲スルニ↠専ニセント↢一心一行ヲ↡、称念ノ結縁、猶且ク閣クハ↠之ヲ一宗ノ*廃立、大師ノ定判ナリ。更ニ非ズ↠不ルニ↠信ゼ↢彼ノ利生等ヲ↡、只守ル↢専念・専修ノ之1307儀ヲ↡。依テ↢此ノ専念ニ↡生ズレ↢浄土ニ↡者、諸上善人倶ニ会コト↢一処ニ↡、其ノ説明ナルガ故ニ、聖衆倶会不↠可↢疑惑ス↡。一切ノ諸仏ニ共ニ所ル↢護念セ↡、其ノ益不↠空カラ。雖↠不ト↢別ニ念ゼ↡蒙ル↢其ノ利益ヲ↡。故ニ念ズレバ↢弥陀ヲ↡必ズ得↢諸仏・菩薩ノ冥護ヲ↡。為ル↢其ノ垂迹↡天神地祇、又不↠可↠違ス↢本地ノ聖慮ニ↡。故ニ専ニシテ↢一心ヲ↡唯念ズル↢一仏ヲ↡、以テ↠之ヲ為ス↠要ト。於テ↢彼ノ諸神ノ本地等ニ↡者、深ク致ス↢信伏ヲ↡、不↠可↢忽緒ス↡。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『般舟経』二文
【76】 ▲次に ¬般舟¼ の文。
次ニ¬般舟ノ¼文。
「▲優婆夷」 とは対告の人を挙ぐ。 「▲聞三昧」 とは念仏三昧。 ▲「帰命」 とらはすなはち弥陀界の三宝なり。
「優婆夷ト」者挙グ↢対告ノ人ヲ↡。「聞三昧ト」者念仏三昧。「帰命ト」等者即弥陀界ノ之三宝也。
「▲鬼神」 といふは、 いふところの鬼はこれ邪神なり。 「▲不得視吉良日」 といふは、 吉凶・禍福はもとこれ妄情の分別なり。 仏教を学せん人心を措くに足らず、 ゆゑにその義を顕す。 ただし事の情を案ずるに、 たとひ内心において仏法を信ずといへども、 その身いまだ俗塵を棄てざるの類、 世に準じて礼を守り、 境に入りて風を問ふを神妙といふべし。 内心においては、 信知の旨、 まつたく動転に及ぶべからざるものか。
言↢「鬼神ト」↡者、所ノ↠言之鬼ハ是邪神也。言↢「不得視吉良日」↡者、吉凶・禍福ハ本是妄情ノ之分別也。学セン↢仏教ヲ↡人不↠足↠措ニ↠心ヲ、故ニ顕ス↢其ノ義ヲ↡。但シ案ズルニ↢事ノ情ヲ↡、縦ヒ於テ↢内心ニ↡雖↠信ズト↢仏法ヲ↡、其ノ身未ダル↠棄↢俗塵ヲ↡之類、准ジテ↠世ニ守リ↠礼ヲ、入テ↠境ニ問フヲ↠風ヲ可シ↠謂↢神妙ト↡。於↢内心ニ↡者、信知ノ之旨、全ク不↠可↠及↢動転ニ↡者歟。
【77】 ▲次に同じき ¬経¼ の文。 その意前に同じ。
次ニ同キ¬経ノ¼文。其ノ意同ジ↠前ニ。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『日蔵経』三文
【78】 ▲次に ¬日蔵経¼、 所引に三あり。
次ニ¬日蔵経¼、所引ニ有リ↠三。
▲一には第八巻 「魔王波旬星宿品」 の文、 中において三あり。
一ニハ第八巻「魔王波旬星宿品ノ」文、於テ↠中ニ有リ↠三。
初めに ▲「爾時」 の下 「已説竟」▲ に至るまで二十八行余は、 これ大小の星宿を安置し、 また時節を分ちて衆生を安穏することを明かす。
初ニ「爾時ノ」下至マデ↢「已説竟ニ」↡廿八行余ハ、是明ス↧安↢置シ大小ノ星宿ヲ↡、又分テ↢時節ヲ↡安↦穏1308スルコトヲ衆生ヲ↥。
次に ▲「又復」 の下 「盧虱」▲ に至るまで一十行余は、 これ四大天王ならびに鬼神等を安置して擁護せしむることを致すことを明かす。
次ニ「又復ノ」下至マデ↢「盧虱ニ」↡一十行余ハ、是明ス↧安↢置シテ四大天王并ニ鬼神等ヲ↡致コトヲ↞令コトヲ↢擁護セ↡。
後に ▲「次復」 の下当文を尽すに至るまで三行余は未来記を明かす。
後ニ「次復ノ」下至マデ↠尽スニ↢当文ヲ↡三行余者明ス↢未来記ヲ↡。
【79】 ▲二には第九巻 「念仏三昧品」 第十の文。
二ニハ第九巻「念仏三昧品」第十ノ文。
「乃至」 といふにおいて言広博なるがゆゑに至要にあらざるがゆゑに、 戴するに除くところの文を勘へ及ばず。 いま所引現在の文に就きてわたくしに分ちて九となす。
於テ↠云ニ↢「乃至ト」↡言広博ナルガ故ニ非ザルガ↢至要ニ↡故ニ、不↠及↣勘ヘ↢戴ルニ所ノ↠除ク之文ヲ↡。今就テ↢所引現在ノ之文ニ↡、私ニ分テ為ス↠九ト。
一に ▲「爾時」 以下の八字は、 これ結前生後を明かす。
一ニ「爾時」已下ノ八字ハ、是明ス↢結前生後ヲ↡。
二に ▲「彼衆」 の下 「不能得須臾為害」 に至るまで五行余は、 これ魔女仏世尊に帰してすなはちみづからつぶさに聞名・見仏・聞法の徳を述ぶることを明かす。
二ニ「彼衆ノ」之下至マデ↢「不能得須臾為害ニ」↡五行余ハ者、是明ス↧魔女帰シテ↢仏世尊ニ↡即自具ニ述コトヲ↦聞名・見仏・聞法ノ之徳ヲ↥。
三に ▲「如来」 の下 「説偈言」 に至るまで一行余は、 これ同じき女仏所に往かんと欲して、 父のために偈を説くことを明かす。 次に 「▲乃至」 とは、 すなはち偈頌なり。 始めを略して終りを出だす。 いはく ▲「修学」 の下 「還如仏」 に至るまで一四句偈、 これその文なり。
三ニ「如来ノ」之下至マデ↢「説偈言ニ」↡一行余者、是明ス↧同キ女欲シテ↠往ント↢仏所ニ↡、為ニ↠父ノ説コトヲ↞偈ヲ。次ニ「乃至ト」者、即偈頌也。略シテ↠始ヲ出ス↠終ヲ。謂ク「修学ノ」下至マデ↢「還如仏ニ」↡一四句偈、是其ノ文也。
四に ▲「爾時」 の下 「菩提心」 に至るまで一行余は、 これ諸余の魔女眷属偈を聞きて発心することを明かす。
四ニ「爾時ノ」之下至マデ↢「菩提心ニ」↡一行余者、是明ス↢諸余ノ魔女眷属聞テ↠偈ヲ発心スルコトヲ↡。
五に ▲「是時」 の下 「畏憂愁」 に至るまで一行余は、 これ魔王かの発心を見てたちまちに瞋憂を生ずることを明かす。
五ニ「是時ノ」之下至マデ↢「畏憂愁ニ」↡一行余者、是明ス↧魔王見テ↢彼ノ発心ヲ↡忽ニ生ズルコトヲ↦嗔憂ヲ↥。
六に ▲「是時」 の下 「菩提果」 に至るまで五行余は、 もろもろの魔女ために重ねて偈を説くことを明かす。 ▲「若有」 以下 「不能壊」 に至るまで七言八句、 ▲「我等」 以下一四句偈、 これその文なり。
六ニ「是時ノ」之下至マデ↢「菩提果ニ」↡五行余者、明ス↢諸ノ魔女為ニ重テ説コトヲ↟偈ヲ。「若有」以下至マデ↢「不能壊ニ」↡七言八句、「我等」以下一四句偈、是其ノ文也。
七に ▲「爾時」 の下 「坐宮内」 に至るまで一行余は、 これ魔王重ねて瞋怖を倍すことを明かす。
七ニ「爾時ノ」之下至マデ↢「坐宮内ニ」↡一行余者、是明ス↣魔王重テ倍スコトヲ↢瞋怖ヲ↡。
八に ▲「是時」 の下 「四梵行」 に至るまで一行余は、 これ菩薩仏の説法を聞きてもろもろの衆生等ことごとく断惑修善の益を得ることを明かす。
八ニ「是時ノ」之下至マデ↢「四梵行ニ」↡一行余者、是明ス↧菩薩聞テ↢仏ノ説法ヲ↡諸ノ衆生等尽ク得1309コトヲ↦断惑修善之益ヲ↥。
九に▲「応浄」 の下当文を尽すに至るまで五行余は、 これ正念観察の方軌を明かし、 また念仏見仏の益を説く。 この文の中に ▲「小念見小大念」 とらは、 ¬選択集¼ の中にこの経文を引きてわたくしの詞を加へていはく、 「▲感師釈していはく、 大念とは大声に念仏するなり、 小念とは小声に念仏するなり。 ゆゑに知んぬ、 念すなはちこれ唱なり。」 以上
九ニ「応浄ノ」之下至マデ↠尽スニ↢当文ヲ↡五行余者、是明シ↢正念観察ノ方軌ヲ↡、又説ク↢念仏見仏ノ益ヲ↡也。此ノ文ノ之中ニ、「小念見小大念ト」等者、¬選択集ノ¼中ニ引テ↢此ノ経文ヲ↡加テ↢私ノ詞ヲ↡云ク、「感師釈シテ云ク、大念ト者大声ニ念仏スルナリ、小念ト者小声ニ念仏スルナリ。故ニ知ヌ、念即是唱也。」 已上
【80】 ▲三には同じき第十巻 「護塔品」 の文。
三ニハ同キ第十巻「護塔品ノ」文。
これ波旬偈を説きて殃を懴し、 仏の摂受を乞ひて長く仏法に帰することを明かす。 文を分ちて五となす。
是明ス↧波旬説テ↠偈ヲ懴シ↠殃ヲ、乞テ↢仏ノ摂受ヲ↡長ク帰スルコトヲ↦仏法ニ↥。分テ↠文ヲ為↠五ト。
一に ▲「時魔」 の下 「如是偈」 に至るまで一行余は、 魔および衆ともに仏所に至りて偈を説かんと欲する意を明かす。
一ニ「時魔ノ」之下至マデ↢「如是偈ニ」↡一行余者、明↧魔及ビ衆共ニ至テ↢仏所ニ↡欲スル↠説ント↠偈ヲ意ヲ↥。
二に ▲「三世」 の下 「如来法」 に至るまで三行余は、 七言八句まさしき偈頌なり。
二ニ「三世ノ」之下至マデ↢「如来法ニ」↡三行余者、七言八句正キ偈頌也。
三に ▲「時魔」 の下 「悲含忍」 に至るまで一行余は、 魔偈を説きて後われおよび生のために重ねて摂受を乞ふ。
三ニ「時魔ノ」之下至マデ↢「悲含忍ニ」↡一行余者、魔説テ↠偈ヲ後為ニ↢我及ビ生ノ↡重テ乞フ↢摂受ヲ↡。
四に ▲「仏」 等の四字は、 仏の印可なり。
四ニ「仏」等ノ四字ハ、仏ノ印可也。
五に ▲「時魔」 の下当文を尽すに至るまで二行余は、 これ魔王おほきに歓喜清浄の心を生じて厭足なきことを結す。
五ニ「時魔ノ」之下至マデ↠尽スニ↢当文ヲ↡二行余者、是結ス↧魔王大ニ生ジテ↢歓喜清浄ノ之心ヲ↡無コトヲ↦厭足↥也。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『月蔵経』八文
【81】 ▲次に ¬月蔵経¼、 所引に八あり。
次ニ¬月蔵経¼、所引ニ有リ↠八。
▲一には第五巻 「諸悪鬼神得敬信品」 第八の上の文。 邪見の因縁を遠離するによりてすみやかに六度を満じ菩提を得ることを明かす。 文を分ちて三となす。
一ニハ第五巻「諸悪鬼神得敬信品」第八ノ上ノ文。明ス↧依テ↣遠↢離スルニ邪見ノ因縁ヲ↡速ニ満ジ↢六度ヲ↡得コトヲ↦菩提ヲ↥*也。分テ↠文ヲ為↠三ト。
一に ▲「諸仁者」 の下 「為十」 といふに至るまで一行余は、 まづ邪を離るるにその十種あることを標し、 次に徴問を明かす。
一ニ「諸仁者ノ」下至マデ↠云ニ↢「為十ト」↡一行余者、先標シ↣離ルヽニ↠邪ヲ有コトヲ↢其ノ十種↡、次ニ明ス↢徴問ヲ↡。
二に ▲「一者」 以下 「生善道」 に至るまで六行余は、 まさしくその数を挙ぐ。
二ニ「一者」以下至マデ↢「生善道ニ」↡六行余者、正ク挙グ↢其ノ数ヲ↡。
三に ▲「以是」 の下当文を尽すに至るまで四行余は、 その益を明かす。
三ニ「以是ノ」之下至マデ↠尽スニ↢当文ヲ↡四行余1310者、明ス↢其ノ益ヲ↡也。
【82】 ▲二には第六巻同じき 「品」 の下の文。 文を分ちて二となす。
二ニハ第六巻同キ「品ノ」下ノ文。分テ↠文ヲ為ス↠二ト。
初めに ▲「仏出」 の下 「常速知」 に至るまで三行余は、 五言の偈頌十二句なり。 十平等を説きてもろもろの智者常にすみやかに知るべきことを明かす。
初ニ「仏出ノ」下至マデ↢「常速知ニ」↡三行余者、五言ノ偈頌十二句也。説テ↢十平等ヲ↡明ス↢諸ノ智者常ニ速ニ可コトヲ↟知ル。
次に ▲「爾時」 の下当文を尽すに至るまで三行余は、 もろもろの悪鬼に対してかの報を得るの因縁を明かすらくのみ。
次ニ「爾時ノ」下至マデ↠尽スニ↢当文ヲ↡三行余者、対シテ↢諸ノ悪鬼ニ↡明スラク↧得ル↢彼ノ報ヲ↡之因縁ヲ↥耳。
【83】▲三には第六巻 「諸天王護持品」 第九の文。
三ニハ第六巻「諸天王護持品」第九ノ之文。
広く天王・諸天仙等四天下を護持養育する相を説く。 文を分ちて二となす。
広ク説ク↧天王・諸天仙等護↢持養↣育スル四天下ヲ↡相ヲ↥。分テ↠文ヲ為ス↠二ト。
❶↓一に ▲文の初めより 「正法灯」▲ に至るまで七十五行は、 これ世尊大梵の問答を明かす。
一ニ自↢文ノ初↡至マデ↢「正法灯ニ」↡七十五行ハ、是明ス↢世尊大梵ノ問答ヲ↡。
❷↓二に ▲「爾時仏告月蔵」 の下当文を尽すに至るまで五丁余は、 これ仏月蔵菩薩に告げて賢劫の四仏四天下をもつて梵・釈・四天等に付属する相を明かし、 また世尊大梵問答以下重々所説の義を明かす。
二ニ「爾時仏告月蔵ノ」下至マデ↠尽ニ↢当文ヲ↡五丁余者、是明シ↧仏告テ↢月蔵菩薩ニ↡賢劫ノ四仏以テ↢四天下ヲ↡付↢属スル梵・釈・四天等ニ↡相ヲ↥、又明ス↢世尊大梵問答以下重々所説ノ之義ヲ↡。
❶↑初めの中に三あり。 初めに ▲「爾時」 の下 「持養育」 に至るまで一行余は、 世尊の問なり。
初ノ中ニ有リ↠*三。初ニ「爾時」之下至マデ↢「持養育ニ」↡一行余者、世尊ノ問也。
②↓次に ▲「時娑婆」 の下 「欲随喜」▲ に至るまで六十四行十二字は、 梵王の答なり。
次ニ「時娑婆ノ」下至マデ↢「欲随喜ニ」↡六十四行十二字者、梵王ノ答也。
③↓後に ▲「仏言」 の下当文を尽すに至るまで八行余は、 また仏説を明かす。
後ニ「仏言ノ」之下至マデ↠尽スニ↢当文ヲ↡八行余者、又明ス↢仏説ヲ↡。
②↑二が中に六あり。 一に▲初めの十四字は、 まづ梵答を標す。
二ガ中ニ有リ↠六。一ニ初ノ十四字ハ、先ヅ標ス↢梵答ヲ↡。
二に ▲「大徳」 以下 「瞿陀尼」 に至るまで五行余は、 兜率陀・他化自在・化楽天王・須夜摩天、 これらの空居の四大天主、 おのおの無量のわが天子らと、 次いでのごとく北東南西の四大洲を護養することを明かす。
二ニ「大徳」以下至マデ↢「瞿陀尼ニ」↡五行余者、明ス↧兜率陀・他化自在・化楽天王・須夜摩天、此等ノ空居ノ四大天主、各与↢無量ノ我ガ天子等↡、如ク↠次ノ護↦養スルコトヲ北東南西ノ四大洲ヲ↥也。
三に ▲「大徳」 の下 「西瞿陀」 に至るまで五行余は、 毘沙門 ここには多聞といふ・提頭頼 ここには持国といふ・毘楼勒叉 ここには増長といふ・毘楼博叉 ここには広目といふ、 この四天王、 おのおの眷属と前の次第のごとく四洲を護養することを明かす。
三ニ「大徳ノ」之下至マデ↢「西1311瞿陀ニ」↡五行余者、明ス↧毘沙門 此ニハ云↢多聞↡・提頭頼 此ニハ云↢持国↡・毘楼勒刄 此ニハ云↢増長↡・毘楼博叉 此ニハ云↢広目↡、此ノ四天王、各与↢眷属↡如ク↢前ノ次第ノ↡護↦養スルコトヲ四洲ヲ↥。
四に ▲「大徳」 の下 「瞿陀尼」▲ に至るまで三十二行は、 これ二十八宿の中に所当の七宿、 七曜の中に所当の三曜、 十二辰の中に所当の三辰、 十二天童女の中におのおの三、 また前の次いでのごとく四洲を護養することを明かす。 宿・曜・辰の名みな本文に見えたり。
四ニ「大徳ノ」之下至マデ↢「瞿陀尼ニ」↡三十二行ハ、是明ス↧二十八宿ノ之中ニ所当ノ七宿、七曜ノ之中ニ所当ノ三曜、十二辰ノ中ニ所当ノ三辰、十二天童女ノ中ニ各三、亦如ク↢前ノ次ノ↡護↦養スルコトヲ四洲ヲ↥。宿・曜・辰ノ名皆見タリ↢本文ニ↡。
この中に二十八宿の配当、 梵漢異あり。 月氏の配当は仏経の説による。 震旦の所列は世俗の説か。
此ノ中ニ二十八宿ノ配当、梵漢有リ↠異。月氏ノ配当ハ依ル↢仏経ノ説ニ↡。震旦ノ所列ハ世俗ノ説歟。
¬弘決¼ (輔行) の十にいはく、 「¬摩蹬伽¼ の中のごとし、 また蓮華実婆羅門ありて帝勝伽に問ひていはく、 なんぢ星を知るやいなや。 答へていはく、 密要すらなほ知れり、 いはんやこの小術をや。 広く二十八宿および七曜等を説く。 しかるに ¬経¼ に四方の星を列ぬること、 こことやや異なることあり。 この方には西方に七つ、 奎・婁・胃・昂・畢・觜・参。 南方に七つ、 井・鬼・柳・星・張・翼・軫。 東方に七つ、 角・亢・氐・房・心・尾・箕。 北方に七つ、 斗・牛・女・虚・危・室・壁。 ¬経¼ に列ぬるところは、 西方昴星より終り柳星に至るまで、 かくのごとくはるかに遷れば一方におのおの七つ。 これ地七異のゆゑに。」 以上
¬弘決ノ¼十ニ云ク、「如シ↢¬摩蹬伽ノ¼中ノ↡、又有テ↢蓮華実婆羅門↡問テ↢帝勝伽ニ↡言ク、汝知ルヤ↠星ヲ不ヤ。答テ言ク、密要スラ猶知レリ、況ヤ此ノ小術ヲヤ。広ク説ク↢二十八宿及ビ七曜等ヲ↡。然ニ¬経ニ¼列ヌルコト↢四方ノ星ヲ↡、与↠此有リ↢稍異コト↡。此ノ方ニ者西方ニ七ツ、奎・婁・胃・昂・畢・觜・参。南方ニ七、井・鬼・柳・星・張・翼・軫。東方ニ七、角・亢・氐・房・心・尾・箕。北方ニ七、斗・牛・女・虚・危・室・壁。¬経ニ¼所↠列者、西方従↢昴星↡終リ至マデ↢柳星ニ↡、如ク↠此ノ遙ニ遷レバ一方ニ各七ツ。是地七異ノ故ニ。」 已上
¬摩蹬伽経¼、 いまの挙ぐるところ ¬日蔵¼ の説と同じ。 両説を示さんがためにいま文を出だす。
¬摩蹬伽経¼、与↢今ノ所↠挙¬日蔵ノ¼説↡同。為ニ↠示サンガ↢両説ヲ↡今出ス↠文ヲ也。
五に ▲「大徳」 の下 「持養育」 に至るまで十二行余は、 これ別にこの閻浮提▲十六大国にして、 四大天王おのおの四国を領して護持養育することを明かす。
五ニ「大徳ノ」之下至マデ↢「持養育ニ」↡十二行余ハ、是明ス↧別ニ於テ↢此ノ閻浮提十六大国ニ↡、四大天王各領シテ↢四国ヲ↡護持養育スルコトヲ↥。
六に ▲「大徳」 の下 「欲随喜」 に至るまで八行余は、 これ梵王古を引き上を結して、 仏ここにしてもろもろの鬼神等を分布安置して護持し養育したまへと請ずることを明かす。
六ニ「大徳ノ」之下至マデ↢「欲随喜ニ」↡八行余者、是明ス↧梵王引キ↠古ヲ結シテ↠上ヲ、請1312ズルコトヲ↦仏於テ↠此ニ分↢布安↣置シテ諸ノ鬼神等ヲ↡護持シ養育シタマヘト↥。
③↑三が中に三となす。 ▲初めの十字は、 仏の印可を明かす。
三ガ中ニ為ス↠三ト。初ノ十字者、明ス↢仏ノ印可ヲ↡。
次に ▲「爾時」 の下十三字は、 偈を説かんと欲することを明かす。
次ニ「爾時ノ」下十三字者、明ス↠欲スルコトヲ↠説ント↠偈ヲ。
後に ▲「示現」 の下七行一字は、 まさしくこれ五言二十四句その偈頌なり。 総じて上来問答の事を説くらくのみ。
後「示現ノ」下七行一字ハ、正ク是五言二十四句其ノ偈頌也。総ジテ説クラク↢上来問答ノ事ヲ↡耳。
❷↑二が中に二となす。 初めに ▲「爾時」 の下十二字は、 まづ告命を明かす。
二ガ中ニ為↠二ト。初ニ「爾時ノ」下十二字者、先ヅ明ス↢告命ヲ↡。
次に ▲「了知」 の下は、 これ正説なり。 中において七あり。
次ニ「了知ノ」下ハ、是正説也。於テ↠中ニ有リ↠七。
一に▲文の初めより 「持養育」▲ に至るまで五十行は、 これ賢劫の四仏の付嘱を明かす。
一ニ自↢文ノ之初↡至マデ↢「持養育ニ」五十行者、是明ス↢賢劫ノ四仏ノ付嘱ヲ↡。
二に ▲「爾時世尊復問」 の下 「作護持」▲ に至るまで二十一行余は、 これ世尊大梵の問答を明かす。
二ニ「爾時世尊復問ノ」之下至マデ↢「*応如是ニ」↡廿一行余ハ、是明ス↢世尊大梵ノ問答ヲ↡。
▲初めの二行余はこれ世尊の問、
初ノ二行余ハ是世尊ノ問、
「▲時娑婆」 の下は梵王の答なり。 この答に三あり。 初めに ▲「過去」 の下 「作護持」 に至るまで一行余は、 まさしく仏問を答ふ。
「時娑婆ノ」下ハ梵王ノ答也。此ノ答ニ有リ↠三。初ニ「過去ノ」下至マデ↢「作護持ニ」↡一行余者、正ク答フ↢仏問ヲ↡。
次に ▲「而我」 の下 「大衆亦願容恕」▲ といふに至るまで六行余は、 大梵過を謝す。
次ニ「而我ノ」下至マデ↠云ニ↢「大衆亦願容恕ト」↡六行余者、大梵謝ス↠過ヲ。
後に ▲「我於」 の下十行余は、 あきらかに梵王過去三仏の教勅今仏の勅を蒙るによるがゆゑに、 三宝の種において断絶せしめず、 誓ひて悪行の衆生を遮障し行法の衆生を護養すべきことを述ぶ。
後ニ「我於ノ」下十行余者、明ニ梵王述ブ↫由ルガ↠蒙ルニ↢過去三仏ノ教勅今仏ノ勅ヲ↡故ニ、於テ↢三宝ノ種ニ↡不↠令メ↢断絶セ↡、誓テ可コトヲ↪遮↢障シ悪行ノ衆生ヲ↡護↩養ス行法ノ衆生ヲ↨。
三に ▲「仏言」 以下の十三字は、 仏の印可を明かす。
三ニ「仏言」以下ノ十三字者、明ス↢仏ノ印可ヲ↡。
四に ▲「爾時仏告百億」 の下 「切種智」▲ に至るまで二十四行は、 これ世尊大梵王に勅して邪見の衆生を遮止し善法に住せしめて護養を致さば、 なんぢ六度を満じてすみやかに種智を成ずべしと説きたまふことを明かす。
四ニ「爾時仏告百億ノ」之下至マデ↢「切種智ニ」↡二十四行ハ、是明ス↧世尊勅シテ↢大梵王ニ↡説タマフコトヲ↞可シト↧遮↢止シ邪見ノ衆生ヲ↡令メテ↠住セ↢善法ニ↡致サ↢護養ヲ↡者、汝満ジテ↢六度ヲ↡速ニ成ズ↦種智ヲ↥。
五に ▲「時娑婆」 の下 「応如是」 に至るまで四行余は、 これ大梵仏勅を領受し▲世尊梵言を印可したまふことを明かす。
五ニ「時娑婆ノ」下至マデ↢「応如是ニ」↡四行余者、是明ス↧大梵領↢受シ仏勅ヲ↡世尊印↦可シタマフコトヲ梵言ヲ↥。
六に ▲「爾時」 以下 「趣善道」 に至るまで三行余は、 もろもろの菩薩・諸大声聞および諸衆等如来の徳を讃ずることを明かす。
六ニ「爾時」已下至マデ↢「趣善道1313ニ」↡三行余者、明ス↣諸ノ菩薩・諸大声聞及ビ諸衆等讃ズルコトヲ↢如来ノ徳ヲ↡。
七に ▲「爾時」 以下当文を尽すに至るまで十五行余は、 これ世尊重ねて偈頌を説きて上のごときの事を宣べたまふことを明かす。 初めの十三字は偈を説かんと欲することを明かす。 ▲「我告」 以下はいはゆる五言四十八句、 その偈頌なり。
七「爾時」已下至マデ↠尽ニ↢当文ヲ↡十五行余ハ、是明ス↧世尊重テ説テ↢偈頌ヲ↡宣タマフコトヲ↦如ノ↠上ノ事ヲ↥。初ノ十三字ハ明ス↠欲スルコトヲ↠説ント↠偈ヲ。「我告」以下ハ所謂五言四十八句、其ノ偈頌也。
【84】▲四には同じき第七巻 「諸魔得敬信品」 の文。 「乃至」 の言に任せてしばらく分ちて三となす。
四ニハ同第七巻「諸魔得敬信品ノ」之文。任テ↢「乃至ノ」言ニ↡、且ク分テ為↠三ト。
初めに ▲「爾時」 の下 「無所乏」 に至るまで六行余は、 これ諸魔世尊の前にして護持の誓を発すことを明かす。
初ニ「爾時ノ」下至マデ↢「无所乏ニ」↡六行余者、是明ス↧諸魔於テ↢世尊ノ前ニ↡発コトヲ↦護持ノ誓ヲ↥。
次に ▲「於此」 の下 「仏正法」 に至るまで七行余は、 これ三仏およびいまの世尊諸魔を隆伏し正法を護持することを明かす。
次ニ「於此ノ」下至マデ↢「仏正法ニ」↡七行余者、是明ス↧三仏及ビ今ノ世尊隆↢伏シ諸魔ヲ↡護↦持スルコトヲ正法ヲ↥。
後に ▲「一切」 の下二行余は、 もろもろの天衆ことごとく護法息災の誓を発すことを明かすなり。
後ニ「一切ノ」下二行余者、明ス↣諸ノ天衆咸ク発コトヲ↢護法息災ノ誓ヲ↡也。
【85】▲五には同じき巻 「提頭頼天王護持品」 の文。
五ニハ同キ巻「提頭頼天王護持品ノ」文。
▲初めには仏、 日月天子に勅してなんぢわが仏法を護持せば、 まさに得寿除災の益を与ふべしと説くことを明かす。
初ニハ明ス↧仏勅シテ↢日月天子ニ↡説コトヲ↦汝護↢持セバ我ガ仏法ヲ↡者、当 ベ ニシト↞与↢得寿除災ノ之益ヲ↡。
▲後には百億の四天王等、 同じく仏前にして仏勅を領受することを明かす。
後ニハ明ス↧百億ノ四天王等、同ク於テ↢仏前ニ↡領↦受スルコトヲ仏勅ヲ↥。
【86】▲六には同じき第八巻 「忍辱品」 の文。 文を分ちて四となす。
六ニハ同キ第八巻「忍辱品ノ」文。分テ↠文ヲ為↠四ト。
一に▲初めの十字は、 仏対告の所言を印可したまふことを明かす。
一ニ初ノ十字者、明ス↣仏印↢可シタマフコトヲ対告ノ所言ヲ↡。
二に ▲「若有愛」 の下一行余は、 これ厭苦・欣楽の機、 仏道を護持してまさに福報を得べきことを明かす。
二ニ「若有愛ノ」下一行余者、是明ス↧厭苦・欣楽之機、護↢持シテ仏道ヲ↡当ニコトヲ↞得↢福報ヲ↡。
三に ▲「若有衆」 の下一行余は、 出家の者涅槃の印を被ることを明かす。
三ニ「若有衆ノ」下一行余者、明ス↣出家ノ者被コトヲ↢涅槃ノ印ヲ↡。
四に ▲「若復出」 の下五行余は、 非法をもつて種々の悪行を致す衆生、 三宝の種を断じて地獄に堕することを明かす。
四ニ「若復出ノ」下五行余者、明ス↧以テ↢非法ヲ↡致ス↢種々之悪行ヲ↡衆生、断ジテ↢三宝ノ種ヲ↡堕スルコトヲ↦地獄ニ↥也。
【87】▲七には同じき 「品」 の文。 これ天・龍以下の雑類みな仏前にしてわれら出家の人を護りて、 もろもろの所須を与へ悩乱せしめばよろしく擯罰すべしと説きてのたまふことを明かすなり。
七1314ニハ同「品ノ」之文。是明ス↫天・龍以下ノ雑類皆於テ↢仏前ニ↡説テ↪言コトヲ我等護テ↢出家ノ人ヲ↡、与ヘ↢諸ノ所須ヲ↡令メバ↢悩乱セ↡者宜 ベ クシト↩擯罰ス↨也。
【88】▲八にはまた同じき 「品」 の文。 これまさに占相の妄情を離れ、 修習して深く正見を信ずべき義を明かすらくのみ。
八ニハ又同キ「品ノ」文。是明スラク↩当 ベ ニキ↧離レ↢占相ノ妄情ヲ↡、修習シテ深ク信ズ↦正見ヲ↥義ヲ↨耳。
問ふ。 ¬大集¼ の諸文、 上来の所用なんの要かあるや。
問。¬大集ノ¼諸文、上来ノ所用有ル↢何ノ要カ↡耶。
答ふ。 引用の意趣、 たやすくもつて測りがたし。 ただし短慮をもつて愚推を加へば、 世尊すでに諸天乃至龍神八部に対して、 勅して四大天下を付嘱したまふ。 かれらの輩、 また仏前にして仏勅を領納して、 善人をして念持守護せしめて、 もし悩乱せばたちまちにもつて擯罰し、 造悪の人をして善法に住せしめんといふこと等、 その義灼然なり。 これをもつてこれを思ふに、 諸善なほしかなり、 いはんや念仏の人その護益を蒙らんこと、 あへて疑ふべからず。 しかればその諸天等に事へざる説を守りてこれを閣き、 一心に念仏せば、 おのづからかの諸天・龍神等の護持養育に預らんこと措きて論ぜず。 よりて専念を勧めて一心を正しくせんがためにこれを引かるるか。 また専念を背きてかの諸天・龍神等に事へば、 たとひ念仏を交ふとも雑修たるによりてその益胎生たるべきがゆゑに、 その義を示さんがために当巻の中にこれを引かるるをや。
答。引用ノ意趣、輙ク以テ難シ↠測リ。但シ以テ↢短慮ヲ↡加ヘ↢愚推ヲ↡者、世尊既ニ対シテ↢諸天乃至龍神八部ニ↡、勅シテ而付↢嘱シタマフ四大天下ヲ↡。彼等ノ之輩、又於テ↢仏前ニ↡領↢納シテ仏勅ヲ↡、言コト↧令シメテ↢善人ヲシテ念持守護セ↡、若シ悩乱セバ者忽ニ以テ擯罰シ、令シメント↣造悪ノ人ヲシテ住セ↢善法ニ↡等↥、其ノ義灼然ナリ。以テ↠之ヲ思フニ↠之ヲ、諸善猶然ナリ、況ヤ念仏ノ人蒙ランコト↢其ノ護益ヲ↡、敢テ不↠可↠疑。然者守テ↧其ノ不ル↠事ヘ↢諸天等ニ↡説ヲ↥閣キ↠之ヲ、一心ニ念仏セバ、自預ランコト↢彼ノ諸天・龍神等ノ護持養育ニ↡措テ而不↠論ゼ。仍勧テ↢専念ヲ↡為ニ↠正センガ↢一心ヲ↡被↠引↠之歟。又背テ↢専念ヲ↡事ヘ↢彼ノ諸天・龍神等ニ↡者、縦ヒ交フトモ↢念仏ヲ↡依テ↠為ルニ↢雑修↡其ノ益可ガ↠為↢胎生↡之故ニ、為ニ↠示サンガ↢其ノ義ヲ↡当巻ノ之中ニ被ル↠引カ↠之乎。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『首楞厳経』文
【89】▲次に ¬首楞厳¼ の文。
次ニ¬首楞厳ノ¼文。
いまこの ¬経¼ は禅門の所依、 竪超の法門、 直達の要路なり。 しかれども自力の修行たるによりて、 進道知りがたく、 得悟測りがたし。 解行もし乖きて工夫いまだ熟せずば、 魔障動じ侵して退縁競ひやすからん。 かつは根機利鈍の差別により、 かつは練行苦修の厚薄に就きて、 直悟の成否さだめて人によらんか。 魔の境の伏しがたきこと、 文にありて炳然なり。 修道の人、 たれかもつて恐れざらん。 しかるにわが真宗、 具縛造悪の劣機たりといへども、 仏加を被るがゆゑに魔悩を恐れず。 まことにこれ他力の不思議なり。 ゆゑに引用の意は他力の一門に魔嬈なきことを識知せしめんがためなり。
今此ノ¬経¼者禅門ノ所依、竪超ノ法門、直達ノ要路ナリ。然レ而依テ↠為ニ↢自力ノ修行↡、進道難ク↠知リ、得悟叵シ↠測リ。解行若シ乖テ工夫未 ズ ダハ↠熟セ、魔障動ジ侵テ退縁易カラン↠競ヒ。且ハ由リ↢根機利鈍ノ差別ニ↡、且ハ就テ↢練行苦修ノ厚薄ニ↡、直悟ノ成否定テ依ラン↠人1315ニ歟。魔ノ境ノ難コト↠伏シ、在テ↠文ニ炳然ナリ。修道ノ之人、誰カ以テ不ラン↠恐。而ニ我ガ真宗、雖↠為ト↢具縛造悪ノ劣機↡、被ブルガ↢仏加ヲ↡故ニ不↠恐↢魔悩ヲ↡。誠ニ是他力ノ不思議也。故ニ引用ノ意ハ為ナリ↠令ンガ↤識↣知セ他力ノ一門ニ无コトヲ↢魔*嬈↡也。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『潅頂経』文
【90】▲次に ¬潅頂経¼ の文。
次ニ¬潅頂経ノ¼文。
問ふ。 「▲三十六部の神王」 とはなんらを指すや。
問。「三十六部ノ之神王ト」者指↢何等ヲ↡乎。
答ふ。 異説ありといへども、 一義によらば、 三十六禽これその体なり。 その体といふは、 ¬止観¼ の八 (巻八下) にいはく、 「十二時にすなはち▽三十六狩あり。 寅に三あり、 初めはこれ狸、 次はこれ豹、 次はこれ虎。 卯に三あり、 狐・兎・狢。 辰に三あり、 龍・蛟・魚。 この九は東方に属せり、 木なり。 この九の物は孟と仲と季とによりて伝へて前後をなす。 巳に三あり、 蝉・鯉・蛇。 午に三あり、 鹿・馬・麞。 未に三あり、 羊・鴈・鷹。 この九は南方に属す、 火なり。 申に三あり、 狖・猿・猴。 酉に三あり、 鳥・鶏・雉。 戌に三あり、 狗・狼・豺。 この九は西方に属す、 金なり。 亥に三あり、 豕・㺄・猪。 子に三あり、 猫・鼠・伏翼。 丑に三あり、 牛・蟹・鼈。 この九は北方に属す、 水なり。」 以上 もし時媚鬼は坐禅の時を妨ぐ、 まさしくその時を知りて名を喚べば消へ去る。 このゆゑに ¬止観¼ にこの名を出だす。 法を障ふる魔の眷属たりといへども、 還りて三帰の人を守護することを明かす。
答。雖↠有↢異説↡、依ラ↢一義ニ↡者、三十六禽是其ノ体也。言↢其ノ体↡者、¬止観ノ¼八云、「十二時ニ即有リ↢卅六狩↡。寅ニ有リ↠三、初ハ是狸、次ハ是豹、次ハ是虎。卯ニ有リ↠三、狐・兎・狢。辰ニ有リ↠三、龍・蛟・魚。此ノ九ハ属セリ↢東*方ニ↡也。此ノ九ノ物ハ依テ↢孟ト仲ト季トニ↡伝ヘテ作ス↢前後ヲ↡也。巳ニ有リ↠三、蝉・鯉・蛇。午ニ有リ↠三、鹿・馬・麞。未ニ有↠三、羊・鴈・鷹。此ノ九ハ属ス↢南方ニ↡、火也。申ニ有リ↠三、*狖・猿・猴。酉ニ有リ↠三、鳥・鶏・雉。戌ニ有リ↠三、狗・狼・豺。此ノ九ハ属ス↢西方ニ↡、金也。亥ニ有リ↠三、豕・*㺄・猪。子ニ有リ↠三、猫・鼠・伏翼。丑ニ有リ↠三、牛・蟹・鼈カハカメ。此ノ九ハ属ス↢北方ニ↡、水也。」 已上 若シ時媚鬼ハ妨グ↢坐禅ノ時ヲ↡、正ク知テ↢其ノ時ヲ↡喚ベバ↠名ヲ消ヘ去ル。是ノ故ニ¬止観ニ¼出ス↢此ノ名ヲ↡也。雖↠為ト↢障ル↠法之魔ノ眷属↡、明ス↣還テ守↢護スルコトヲ三帰ノ人ヲ↡也。
問ふ。 いまの文まつたく念仏の人を守る誠証にあらざるをや、 いかん。
問。今ノ文全ク非ルヲ↧守↢念仏ノ人ヲ↡之誠証ニ↥哉、如何。
答ふ。 すでに 「▲三帰」 といふ、 帰仏その首なり、 なんぞこれなしといはん。 六念の剋するところ、 ひとへに専念阿弥陀仏にあり。 ゆゑに ¬観念門¼ に護念縁を証すとして▲かの ¬経¼ の説を引く。 かの所護の人をば三帰・五戒を持てる人といふ。 この所守の人をばただ三帰といふ。 かの能護の人は六十一人、 この能護の人は三十六王。 広略異なりといへども、 彼此これ同じ。
答。既ニ云フ↢「三帰ト」↡、帰仏其ノ首ナリ、何ゾ言ン↠無ト↠之。六念ノ所↠剋スル、偏ニ在リ↢専念阿弥陀仏ニ↡。故ニ¬観念門ニ¼証ストシテ↢護念縁ヲ↡引ク↢彼ノ¬経ノ¼説ヲ↡。彼ノ所護ノ人ヲバ言フ↧持テル↢三帰・五1316戒ヲ↡之人ト↥。此ノ所守ノ人ヲバ唯言フ↢三帰ト↡。彼ノ能護ノ人ハ六十一人、此ノ能護ノ人ハ三十六王。広略雖↠異也ト、彼此是同ジ。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『十輪経』二文
【91】▲次に ¬十輪経¼ の所引二段。
次ニ¬十輪経ノ¼所引二段。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『集一切福徳三昧経』文
【92】▲次に ¬集一切福徳三昧経¼。 所説の義趣、 その意おほきに同じ。
次ニ¬集一切福徳三昧経¼。所説ノ義趣、其ノ意大ニ同ジ。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『薬師経』二文
【93】▲次に ¬薬師経¼ の所引両段。
次ニ¬薬師経ノ¼所引両段。
▲初めの文これひとへに三宝に帰してその外の余天等に事へざることを明かす。 ゆゑに次下にいはく (玄奘訳薬師経) 、 「ただまさに一心に仏法僧に帰すべし。」 以上
初ノ文是明ス↧偏ニ帰シテ↢三宝ニ↡不コトヲ↞事ヘ↢其ノ外ノ之余天等ニ↡。故ニ次下ニ云、「唯当ニシ↣一心ニ帰ス↢仏法僧ニ↡。」 已上
▲後の文はこれもし世間の妄説邪教を信ずれば、 現世・当来に損ありて益なきことを明かす。 いふところの損とは、 九横の難なり。 いまの文つぶさならず、 よろしく前後を引きてその説相を示すべし。 いはゆるかの ¬経¼ 九横ありと説く、 その初横の中に説きて二重となす。 いまの所引は第二重なり。 その初重にいはく、 「もろもろの有情ありて病を得ること軽しといへども、 しかも医薬および看病の者なし。 たとひまた医に遇へども、 授くに非薬をもつてして実に死すべからざれども、 しかもすなはち横に死す。」 以上
後ノ文ハ是明ス↧若シ信ズレバ↢世間ノ妄説邪教ヲ↡、現世・当来ニ有テ↠損无コトヲ↞益。所ノ↠言損ト者、九横ノ難也。今ノ文不↠具ナラ、宜 ベ クシ↧引テ↢前後ヲ↡示ス↦其ノ説相ヲ↥。所謂彼ノ¬経ニ¼説ク↠有ト↢九横↡、其ノ初横ノ中ニ説テ為ス↢二重ト↡。今ノ所引者第二重也。其ノ初重ニ云ク、「有テ↢諸ノ有情↡得コト↠病ヲ雖↠軽ト、然モ無シ↢医薬及ビ看病ノ者↡。設ヒ復遇ヘドモ↠医ニ、授ニ以テシテ↢非薬ヲ↡実ニ不レドモ↠応ラ↠死ス、而モ便チ横ニ死ス。」 已上
いまの所引に ▲「又信」 とらは、 すなはち同じき次下の第二重なり。
今ノ之所引ニ「又信ト」等者、即同キ次下ノ第二重也。
「▲乃至」 といふは、 これ初横の結文このかたその下の七横を除く。 かのつぶさなる文にいはく、 「これを初横と名づく。 二には横に王法に誅戮せらるることを被る。 三には畋猟嬉戯し、 淫に耽り酒を嗜んで放逸にして度なし、 横に非人のためにその精気を奪はる。 四には横に火のために焚かる。 五には横に水のために溺る。 六には横に種々の悪獣のために噉せらる。 七には横に山崖に堕す。」 以上
言↢「乃至ト」↡者、是除ク↢初横ノ結文以来其ノ下ノ七横ヲ↡。彼ノ具ナル文ニ云ク、「是ヲ名ク↢初横ト↡。二者横ニ被ブル↣王法ニ之所ルヽコトヲ↢誅戮セ↡。三者畋猟嬉戯シ、耽リ↠淫ニ嗜ンデ↠酒ヲ放逸ニシテ無シ↠度、横ニ為ニ↢非人ノ↡奪ハル↢其ノ精気ヲ↡。四者横ニ為ニ↠火ノ焚カル。五者横ニ為ニ↠水ノ溺ル。六者横ニ為ニ↢種々ノ悪獣ノ↡所ル↠*噉セ。七者横ニ堕ス↢山崖ニ↡。」 已上
八横は▲次下の所引の文なり。 また 「中害」 の下に第九横あり。 すなはちその文にいはく、 「九には飢渇に困まれて飲食を得ず、 しかもすなわち横に死す。 これを如来略して横死にこの九種あることを説きたまふとなす。」 以上
八横ハ次下ノ所引ノ文也1317。又「中害ノ」下ニ有リ↢第九横↡。即其ノ文ニ云、「九者飢渇ニ所テ↠困マ不↠得↢飲食ヲ↡、而モ便チ横ニ死ス。是ヲ為ス↤如来略シテ説タマフト↣横死ニ有コトヲ↢此ノ九種↡。」 已上
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『菩薩戒経』文
【94】▲次に ¬菩薩戒経¼、 文の意見やすし。
次ニ¬菩薩戒経¼、文ノ意易シ↠見。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『仏本行集経』文
【95】▲次に ¬仏本行集経¼ の文。
次ニ¬仏本行集経ノ¼之文。
問ふ。 いまこの文を引く、 なんの由かあるや。
問。今引ク↢此ノ文ヲ↡、有↢何ノ由カ↡耶。
答ふ。 いま引用の意は、 もと外道の声聞衆等仏法に帰する時かの邪教を捨つることを挙げて、 真宗念仏の行人外法によることなかれといふことを例せんがためにこれを引かる。
答。今引用ノ意ハ、挙テ↧本外道ノ声聞衆等帰スル↢仏法ニ↡時捨ルコトヲ↦彼ノ邪教ヲ↥、為ニ↠例センガ↢真宗念仏ノ行人勿レト云コトヲ↟依コト↢外法ニ↡被↠引↠之ヲ也。
「▲三迦葉」 はこれ兄弟なり。 一をば優楼頻螺迦葉といひ、 二をば那提といひ、 三をば伽耶といふ。 天台の釈 (天台観経疏意) にいはく、 「三迦葉兄弟に千の弟子あり、 ともに刹を起つ、 いまは連枝なり。」 以上 もとはこれ祀火の婆羅門なり。 後に邪法を棄てて仏の正法に帰す。 釈尊成道第一年の時まづ五人を度す、 頞鞞跋提・十力・迦葉・狗梨太子・釈摩男なり。 第二年の時三迦葉を度す、 いまの兄弟なり。 第三年の時、 舎利弗・目犍連を度す。
「三迦葉」者是兄弟也。一ヲバ云↢優楼頻螺迦葉ト↡、二ヲバ云↢那提ト↡、三ヲバ云↢伽耶ト↡。天臺ノ釈ニ云ク、「三迦葉兄弟ニ有リ↢千ノ弟子↡、共ニ起ツ↠刹ヲ、今ハ連枝也。」 已上 本ハ是祀火ノ婆羅門也。後ニ棄テヽ↢邪法ヲ↡帰ス↢仏ノ正法ニ↡。釈尊成道第一年ノ時先ヅ度ス↢五人ヲ↡、頞鞞跋提・十力・迦葉・狗梨太子・釈摩男也。第二年ノ時度ス↢三迦葉ヲ↡、今ノ兄弟也。第三年ノ時度ス↢舎利弗・目犍連ヲ↡也。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『起信論』文
【96】▲次に ¬起信論¼ の文。
次ニ¬起信論ノ¼文。
これ衆生善根なきは、 諸魔等のために狂惑せらるる相を示す。 末代の行者顕・密、 教内・教外をいはず、 自力修行未達の浅機この障を免れず、 これによりて聖道の諸経論等に仏法修習の方軌を教示するに、 まづ降魔の用心等を誨ふ。 しかるに浄土の教にかつて魔をいはず、 けだしこの法に魔障なきをもつてなり。
是示ス↧衆生無キハ↢善根↡者、為ニ↢諸魔等ノ↡所ルヽ↢狂惑セ↡相ヲ↥。末代ノ行者不↠謂↢顕・密、教内・教外ヲ↡、自力修行未達ノ浅機不↠免レ↢此ノ障ヲ↡、依テ↠之ニ聖道ノ諸経論等ニ教↢示スルニ仏法修習ノ方軌ヲ↡、先ヅ誨フ↢降魔之用心等ヲ↡。而ニ浄土ノ教ニ曽テ不↠言↠魔ヲ、蓋シ以↣此ノ法ニ無ヲ↢魔障↡也。
ゆゑに元照師の ¬観経の疏¼ の中に山陰の釈を引きてこの事を解説す。 かの釈▲第二巻の中に引かる、 よつて ¬▲鈔¼ の新末にほぼ記註しをはりぬ。 この論説の意▲上の所引の ¬首楞厳¼ と同じ。 他力の行人障重根鈍の機たりといへども、 仏加を得るがゆゑにおのづから魔網を脱る。 仏恩の至深くこれを貴むべし。
故ニ元照師ノ¬観経ノ疏ノ¼中ニ引テ↢山陰ノ釈ヲ↡解↢説ス此ノ1318事ヲ↡。彼ノ釈被↠引↢第二巻ノ中ニ↡、仍テ¬鈔ノ¼新末ニ粗記註シ訖ヌ。此ノ論説ノ意与↢上ノ所引ノ¬首楞厳¼↡同ジ。他力ノ行人雖↠為↢障重根鈍ノ之機↡、得ガ↢仏加ヲ↡故ニ自脱ル↢魔網ヲ↡。仏恩ノ之至深ク可シ↠貴↠之ヲ。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『弁正論』二文
【97】次の所引の文、 「▲弁正論」 は、
次ノ所引ノ文、「弁正論」者、
選者法琳、 これ唐の沙門。 所造の本意、 老子の学徒仏教を劣なりとなし道教を勝たりとなす、 ゆゑにかれを破して釈教を立せんがためなり。 この ¬書¼ に序あり、 東宮の学士陳子良が述、 この人註を加ふ。
選者法琳、是唐ノ沙門。所造ノ本意、老子ノ学徒仏教ヲ為↠劣ナリト道教ヲ為ス↠勝タリト、故ニ為メ↣破シテ↠彼ヲ立センガ↢釈教ヲ↡也。此ノ¬書ニ¼有リ↠序、東宮ノ学士陳子良ガ述、此ノ人加フ↠註ヲ。
▲「十喩」 とらは、 「十喩」・「九箴」 ともに篇の名なり。 巻に八巻あり、 篇に十二あり。 十二篇とは、 第一巻 (弁正論) の初めに目録を挙げていはく、
「十喩ト」等者、「十喩」・「九*箴」共ニ篇ノ名也。巻ニ有リ↢八巻↡、篇ニ有リ↢十二↡。十二篇ト者、第一巻ノ初ニ挙テ↢目録ヲ↡云ク、
「三教治道の篇第一 上下 | 十代奉仏の篇第二 上下 |
仏道先後の篇第三 巻第五 | 釈李師資の篇第四 |
十喩の篇 第五 巻第六 | 九箴の篇 第六 |
▽気為道本の篇第七 | 信毀交報の篇第八 巻第七 |
品藻衆書の篇第九 | ▽出道偽謬の篇第十 巻第八 |
歴世相承の篇第十一 | ▽帰心有道の篇第十二」 以上 |
「三教治道ノ篇第一 上下 | 十代奉仏ノ篇第二 *上*下 |
仏道先後ノ篇第三 巻第五 | 釈李師資ノ篇第四 |
十喩ノ篇 第五 巻第六 | 九箴ノ篇 第六 |
気為道本ノ篇第七 | 信毀交報ノ 篇第八 巻第七 |
品藻衆書ノ篇第九 | 出道偽謬ノ 篇第十 巻第八 |
歴世相承ノ篇第十一 | 帰心有道ノ 篇第十二」 以上 |
十異・九箴この目録に見えたり。
十異・九箴見タリ↢此ノ目録ニ↡。
「▲李道士」 とは、 李仲卿なり、 第五巻 (弁正論) に見えたり。 また ¬決¼ (輔行) の五にいはく、 「道士李仲卿がごとき十異論を著せり。 琳法師十喩論を立ててもつてその異を喩してかれに異にせり。 喩はなほ暁のごとし、 ▽かの迷を暁すがゆゑなり。」 已上
「李道士ト」者、李仲卿也、見タリ↢第五巻ニ↡。又¬決ノ¼五ニ云1319ク、「如キ↢道士李仲卿ガ↡著セリ↢十異論ヲ↡。琳法師立テヽ↢十喩論ヲ↡以テ喩テ↢其ノ異ヲ↡而異ニセリ↠彼ニ。喩ハ猶 シ ↠暁ノ、暁スガ↢彼ノ迷ヲ↡故也。」 已上
▲「十異」 とらは、 かの 「十異」 とは、 李家の立つるところ十喩をもつて暁す。
「十異ト」等者、彼ノ「十異ト」者、李家ノ所↠立ル以テ↢十喩ヲ↡暁ス。
「▲九述」 といふは、 また李家の意に九箴をもつて誡む。 ただし唐本を披くに、 「述」 の字 「迷」 たり、 本に異あるか。 しかるに下に九箴の目録を挙ぐるにおいて、 まづ叙して (弁正論巻六) 「▽外九迷論を答ふ」 といふ。 これすなはち外論に段ごとに結して (弁正論巻六意) 「その迷一なり乃至九なり」 といふ。 これ李家より釈迦の法をもつて迷と称するところなり。 これに対して内箴には、 段ごとに結して (弁正論巻六意) 「その盲一なり乃至九なり」 といふ。 これ釈家より李氏の教を呵して盲と称するところなり。 また上に引くところの荊渓の解釈に、 △かの迷を暁すといふ。 これらの義を思ふに、 九迷の本、 よろしく正となすべきか。
言↢「九述ト」↡者、又李家ノ意ニ以テ↢九箴ヲ↡誡シム。但シ披クニ↢唐本ヲ↡、「述ノ」字為リ↠「迷」、本ニ有ル↠異歟。而ニ於テ↣下ニ挙ニ↢九箴ノ目録ヲ↡、先ヅ叙シテ云フ↠「答ト↢外九迷論ヲ↡。」是則外論ニ毎ニ↠段結シテ云フ↢「其ノ迷一也乃至九也ト」↡。是自リ↢李家↡以テ↢釈迦ノ法ヲ↡所↠称↠迷ト也。対シテ↠之ニ内箴ニハ、毎ニ↠段結シテ云フ↢「其ノ盲一也乃至九也ト」↡。是自↢釈家↡呵シテ↢李氏ノ教ヲ↡所↠称スル↠盲ト也。又上ニ所ノ↠引ク荊渓ノ解釈ニ、云フ↠暁スト↢彼ノ迷ヲ↡。思ニ↢此等ノ義ヲ↡、九迷ノ之本、宜ク↠為↠正ト歟。
「外の一異」 の詞、 「内の一喩」 の言、 所引文にあり。 この▲一異の意、 李は左より生じ、 仏は右より生ず、 ゆゑに左右をもつて勝劣を諍ふ。 この▲一喩の意は、 左劣なる義を述べ右勝たる礼を検べて外の異に相翻して優劣を立つるなり。
「外ノ一異ノ」詞、「内ノ一喩ノ」言、所引在リ↠文ニ。此ノ一異ノ意、李ハ自リ↠左生ジ、仏ハ自り↠右生ズ、故ニ以テ↢左右ヲ↡諍ソフ↢勝劣ヲ↡也。此ノ一喩ノ意ハ、述ベ↢左劣ナル義ヲ↡検ベテ↢右勝タル礼ヲ↡相↢翻シテ外ノ異ニ↡立ル↢優劣ヲ↡也。
開士の釈の中に、 ▲「盧景裕」 等、 述ぶるところいまだ勘へず。 「▲周弘政」 とは、 疏六巻を作る。 この釈の中に 「▲太子」 といふは、 これまた唐本には 「子」 の字 「上」 たり、 「上」 の字よろしきか。 開士の所破、 太上に被らしむるがゆゑに。
開士ノ釈ノ中ニ、「盧景裕」等、所↠述未ダ↠勘。「周弘政ト」者、作ル↢疏六巻ヲ↡。此ノ釈ノ之中ニ言↢「太子ト」↡者、是又唐本ニハ「子ノ」字為リ↢「上」↡、「上ノ」字宜歟。開士ノ所破、被ムルガ↢太上ニ↡故ニ。
この釈の終りに 「▲乃至」 といふは、 当段の所引、 残りの文あるにあらず、 これ全文なり。 外内の二異・二喩、 三異・三喩を除くに就きて、 ゆゑにしかいふらくのみ。
此ノ釈ノ之終ニ言↢「乃至ト」↡者、当段ノ所引、非ズ↠有ニ↢残ノ文↡、是全文也。就テ↠除ニ↢外内ノ二異・二喩、三異・三喩ヲ↡、故ニ云ラク↠爾耳。
異喩の所立、 条目を示さんがために除くところこれを載す。 すなはちその文にいはく、 「外の二異にいはく、 老君訓を垂れて不生不滅の長生を開き、 釈迦教を設けて不滅不生の永滅を示す。 内の二喩にいはく、 李耼質を稟けて生あり滅あり、 患生の生を畏れて反りて白首を招く。 釈迦象を垂れて滅を示し生を示して寂滅の滅に帰してすなはち金軀を耀かす。 開士のいはく、 老子のいはく、 大患を貴るるに身あるにしくはなし、 われをして身なからしめばわれなんの患かあらん。 患のよるところ身にしくはなし。 老子すでに身あることを患ふ、 悩なきことを求めんと欲すれどもいまだ頭白を免れず。 世と殊ならず。 もし長生をいはばなにによりてか早く死せる。」 以上
異喩ノ所立、為ニ↠示サンガ↢条目ヲ↡所↠除ク載ス↠之ヲ。即其ノ文ニ云、「外ノ二異ニ云ク、老君垂テ↠訓ヲ開キ↢不生不滅之長生ヲ↡、釈1320迦設テ↠教ヲ示ス↢不滅不生ノ之永滅ヲ↡。内ノ二喩ニ云ク、李耼稟テ↠質ヲ有リ↠生有リ↠滅、畏テ↢患生ノ之生ヲ↡反テ招ク↢白首ヲ↡。釈迦垂テ↠象ヲ示シ↠滅ヲ示シテ↠生ヲ帰シテ↢寂滅之滅ニ↡、乃耀ス↢金躯ヲ↡。開士ノ曰ク、老子ノ云ク、貴ヽニ↢大患ヲ↡莫シ↠若クハ↠有ルニ↠身、使シメバ↢吾ヲシテ無カラ↟身吾有ラン↢何ノ患カ↡。患ノ之所↠由ル莫シ↠若ハ↠身ニ矣。老子既ニ患フ↠有コトヲ↠身、欲スレドモ↠求メント↠無コトヲ↠悩未ダ↠免↢頭白ヲ↡。与↠世不↠殊ナラ。若シ言ハヾ↢長生ヲ↡何ニ因テカ早ク死セル。」 已上
この二異の意は、 李氏長生の仙方を談ずといへどもつひに死を免れず。 仏は滅を示すといへども寂滅に帰するがゆゑに比論にあらず。 開士の釈の中に老の本文を引くに、 貴大患とは、 貴は畏なり、 本経の註に見えたり。
此ノ二異ノ意ハ、李氏雖↠談ズト↢長生ノ仙方ヲ↡遂ニ不↠免レ↠死ヲ。仏ハ雖↠示スト↠滅ヲ帰スルガ↢寂滅ニ↡故ニ非↢比論ニ↡也。開士ノ釈ノ中ニ引ニ↢老ノ本文ヲ↡、貴大患ト者、貴者畏也、見タリ↢本経ノ註ニ↡。
「外の三異にいはく、 老君の応生この東夏に出づ、 釈迦の降迹かの西戎に挺づ。 内の三喩にいはく、 李耼形を誕じて東周の苦県に居り、 能仁迹を降して中夏の新州に出づ。 開士のいはく、 ¬智度論¼ にいはく、 千々の重数を三千といふ、 二過千を復す、 ゆゑに大千といふ。 迦羅衛その中に居す。 ¬楼炭経¼ にいはく、 葱河以東を名づけて震旦となす、 日の初めて出で東隅に曜くをもつてゆゑに震旦と称す。 一本にいはく、 ゆゑに名を得るなり。 諸仏の出世みなその中にあり、 辺邑に生ぜず。 もし辺地に生ずれば地これがために傾く。 乃至 迦維いまだだ肯じて西たらず、 その理験せり。」 以上
「外ノ三異ニ曰ク、老君ノ応生出ヅ↢茲ノ東夏ニ↡、釈迦ノ降迹挺ヅ↢彼ノ西戎ニ↡。内ノ三喩ニ曰ク、李耼誕ジテ↠形ヲ居リ↢東周ノ之苦県ニ↡、能仁降テ↠迹ヲ出ヅ↢中夏之新州ニ↡。開士ノ曰、¬智度論ニ¼云ク、千々ノ重数ヲ曰↢三千ト↡、二過復↠千ヲ、故ニ曰↢大千ト↡、迦羅衛居ス↢其ノ中ニ↡也。¬楼炭経ニ¼云、葱河以東ヲ名テ為↢震旦ト↡、以テ↣日ノ初テ出デヽ曜クヲ↢於東隅ニ↡故ニ称ス↢震旦ト↡。一本ニ云ク、故ニ得↠名也。諸仏ノ出世皆在リ↢其ノ中ニ↡、不↠生ゼ↣辺邑ニ↡。若シ生ズレバ↢辺地ニ↡地為ニ↠之ガ傾ク。 乃至 迦維未 ズ ダ↢肯テ為ラ↟西、其ノ理験セリ矣。」 已上
この三異の意は、 老は東夏に出づ、 仏は西戎に出づ、 中夏辺邑これをもつて異となす。 この三喩の意はなんぢが解しからず、 かの天竺をもつて地の中心となすゆゑに仏勝れたりとなり。
此ノ三異ノ意ハ、老ハ出ヅ↢東夏ニ↡、仏ハ出ヅ↢西戎ニ↡、中夏辺邑以テ↠之ヲ為ス↠異ト。此ノ三喩ノ意ハ汝ガ解不↠爾、以テ↢彼ノ天竺ヲ↡為ス↢地ノ中心ト↡故ニ仏勝タリト也。
▲四異・▲四喩所引文にあり。 ただしいま除くところ開士の釈なり。 すなはちその文にいはく、 「開士のいはく、 ¬前漢書¼ にいはく、 孔子を上となす、 上流はこれ聖、 老子を中となす、 中流はこれ賢。 何晏王弼がいはく、 老はいまだ聖に及ばず。 ¬二教論¼ にいはく、 ↓柱史朝にある、 もと諧讃にあらず、 周を出で秦に入る、 尹がために道をいふ、 諸侯に聞ゆることなし、 天子に見えじ、 もし周の師たらば史に明証なし、 正せい説せつに符かなはず、 それ得うべけんや。 乃至 ¬抱朴ほうぼく¼ にいはく、 文王ぶんおうの世よに出いづ、 嵆けい康こう皇こう甫ふの謐ひつならびに殷いんの末まつに生うまれたりとは、 けだし道どうを指さす偽ぎ文ぶんなり。 国典こくてんの載のするところにあらず。」 以上
四異・四喩所引在リ↠文ニ。但シ今所↠除ク開士ノ釈也。即其ノ文云、「開1321士ノ曰、¬前漢書ニ¼云、孔子ヲ為ス↠上ト、上流ハ是聖、老子ヲ為ス↠中ト、中流ハ是 レ賢。何晏王弼ガ云、老ハ未ダ↠及↠聖ニ。¬二教論ニ¼云ク、柱史在ル↠朝ニ、本非ズ↢諧讃ニ↡、出デヽ↠周ヲ入ル↠秦ニ、為ニ↠尹ガ言フ↠道ヲ、無シ↠聞ユルコト↢諸侯ニ↡、不ジ↠見マミヘ↢天子ニ↡、若シ為タラバ↢周ノ師↡史ニ無シ↢明証↡、不↠符カナハ↢正説ニ↡、其 レ可ベケン↠得乎。 乃至 ¬抱朴ニ¼云ク、出ヅ↢文王ノ世ニ↡、嵆康皇甫フ謐並ニ生タリト↢殷ノ末ニ↡者、蓋シ指ス↠道ヲ之偽文ナリ。非ズ↢国典ノ所ニ↟載スル也。」 已上
この四異しいの意こころは、 老ろう子しは総そうじて隆周りゅうしゅうの師したり、 釈しゃく尊そんはわづかに一国いっこくの教きょう主しゅなり、 ゆゑに勝しょう劣れつあり。 同おなじき四喩しゆの意こころは、 李りは小しょう臣しんたり、 また周しゅうの師しにあらず。 仏ぶつは初はじめには太たい子し、 後のちには仏ぶっ果かを証しょうす。 閻えん浮ぶ提だいにおいて総そうじて教きょう主しゅたり、 ゆゑに勝しょうとなす。
此ノ四異ノ意ハ、老子ハ総テ為タリ↢隆周ノ之師↡、釈尊ハ僅ニ一国ノ之教主ナリ、故ニ有↢勝劣↡。同キ四喩ノ意ハ、李ハ為タリ↢小臣↡、又非ズ↢周ノ師ニ↡。仏ハ初ニハ太子、後ニハ証ス↢仏果ヲ↡。於テ↢閻浮提ニ↡総テ為タリ↢教主↡、故ニ為ス↠勝ト也。
「▲伯陽はくよう」 といふはこれ老ろう子しの名な、 「▲蔵ぞう吏り」 というはこれ宦かんの名ななり。 これを↑柱ちゅう史しという、 また柱ちゅう下げといふ。 日本にっぽんにはこれを称しょうして大内だいない記きといふ、 これ儒官じゅかんなり。
言↢「伯陽ト」↡者是 レ老子ノ名、言↢「蔵史ト」↡者是 レ*宦ノ名也。謂フ↢之ヲ柱史ト↡、又云フ↢柱下ト↡。日本ニハ称シテ↠之ヲ云フ↢大内記ト↡、是 レ儒宦也。
「外げの五異ごいにいはく、老君ろうくんの降ごう迹しゃく周しゅう王おうの代だいに、 三みたび隠かくれ三みたび顕あらわるること五ご百ひゃく余よ年ねん、 釈しゃ迦かの応おう生しょうは胡こ国こくの時とき一ひとたび滅めっし一ひとたび生しょうじて寿いのちただ八はち十じゅうなり。 内ないの五喩ごゆにいはく、 李氏りしの三隠さんおん・三顕さんけんはすでに的拠てききょなし、 たとひ五ご百ひゃく許年きょねんによるべくともなほ亀き鶴かくの寿いのちを慚はづ。 法王ほうおうの一滅いちめつ一いっ生しょうは微み塵じんの容すがたを見みせしむることを示しめす。 八はち十じゅう年ねんの間あいだ恒沙ごうじゃの衆しゅうを開誘かいゆうす。 開かい士しのいはく、 諸しょ史し正せい典てんを検しらぶるに三隠さんおん・三顕さんけん出しゅつ没ぼつの文ぶんなし。 乃至 周しゅうにありては劣れつ駕が小しょう車しゃにして鬢ひん糸し髪はつを垂たれ、 漢かんに来きたりてはすなはち簫しょう鼓こ雲うん華か羽う従じゅうしてむなしく浮うかぶ。 干かん宝ぽう ¬捜神さくじん¼ いまだその説せつを聞きかず、 ¬斉せい諧かい異記いき¼ にこの霊れいを載のせず。 撫ぶ臆おく論心ろんしん、 矯きょう妄もうもつとも甚はなはだし。」 以上
「外ノ五異ニ曰、老君ノ降迹周王ノ之代ニ、三タビ隠レ三タビ顕ハルヽコト五百余年、釈迦ノ応生ハ胡国ノ之時一タビ滅シ一タビ生ジテ寿唯八十ナリ。内ノ五喩ニ曰、李氏ノ三隠・三顕ハ既ニ無シ↢的テキマサシキ 拠キョヨドコロ↡、可クトモ↠依↢仮令 タトヒ 五百許年ニ↡猶慚ヅ↢亀鶴ノ之寿ヲ↡。法王ノ一滅一生ハ示ス↠見セシムルコトヲ↢微塵之容ヲ↡。八十年ノ間開↢誘ス恒*沙ノ之衆ヲ↡。開士ノ曰ク、検ルニ↢諸史正典ヲ↡無シ↢三隠・三顕出没ノ之文↡。 乃至 在テハ↠周ニ劣駕小車ニシテ鬢垂レ↢絲髪ヲ↡、来テハ↠漢ニ即簫鼓雲華羽従シテ空ク浮ブ。*干宝¬捜神¼未ダ↠聞↢其ノ説ヲ↡、¬斉諧異記ニ¼不↠載セ↢斯ノ霊ヲ↡。撫臆論心、矯妄尤1322モ甚シ。」 已上
この五異ごいの意こころは、 老ろう子しは三隠さんおん・三顕さんけんを奇きとなす、 釈しゃく尊そんは一滅いちめつ・一いっ生しょうこれ劣れつなり。 寿じゅ命みょうの長ちょう短たんこれを殊しゅ異いとなす。
此ノ五異ノ意ハ、老子ハ三隠・三顕ヲ為ス↠奇ト、釈尊ハ一滅・一生是 レ劣ナリ。寿命ノ長短為ス↢之ヲ殊異ト↡。
▲六ろく異い・▲六ろく喩ゆ所引しょいんの文もんにあり。
六異・六喩在リ↢所引ノ文ニ↡。
この六ろく異いの意こころは、 老ろう氏しの出しゅっ世せは周しゅうの文王ぶんのうの時とき、 釈しゃく尊そんの下げ生しょうは同おなじき荘しょう王おうの時とき、 いふこころは前ぜん後ごをもつて勝しょう劣れつとなす。 この六ろく喩ゆの意こころは、 李り老ろうの始はじめ周しゅうの桓王かんのうの歳としに生うまれて、 景王けいおうの年としに終おふ、 文ぶんの世よに出いでず。 調じょう御ごは昭しょう王おうの年としに誕たん生じょうして荘しょう王おうの前さきに出いで、 穆王ぼくおうの年としに終おふ。 もし前ぜん後ごをもつて勝しょう劣れつを論ろんぜば、 仏ぶつは前さき老ろうは後のち、 なんぞ比ひすることを得えんとなり。
此ノ六異ノ意ハ、老氏ノ出世ハ周ノ文王ノ時、釈尊ノ下生ハ同キ荘王ノ時、言イ ハ以テ↢前後ヲ↡為↢勝劣ト↡也。此ノ六喩ノ意ハ、李老ノ始生テ↢周ノ桓王ノ歳ニ↡、終フ↢景王ノ年ニ↡、不↠出↢文ノ世ニ↡。調御ハ誕↢生シテ昭王ノ之年ニ↡出イデ↢荘王ノ前ニ↡、終フ↢穆王ノ年ニ↡。若シ以テ↢前後ヲ↡論バ↢勝劣ヲ↡者、仏ハ前老ハ後、何ゾ得ント↠比スルコトヲ也。
「▲迦か葉しょう」 といふはけだし老ろう子しを指さす、 すなはちこれ本ほん地じの菩ぼ薩さつの名ななり。 「▲姫き昌しょう」 といふは周しゅうの文王ぶんのうなり。 文王ぶんのう周しゅうの始祖しそたりといへども正せい位いに即つかず、 武ぶ王おうよりこのかた周しゅうの継体けいたいの主しゅ三さん十じゅう七しちなり。
言↢「迦葉ト」↡者蓋シ指ス↢老子ヲ↡、乃是 レ本地ノ菩薩ノ名也。言↢「姫昌ト」↡者周ノ文王也。文王雖ヘ↠為ト↢周ノ之始祖↡不↠即カ↢正位ニ↡、武王ヨリ以来周ノ継体ノ主三十七也。
「▲桓王かんのう」 といふは第だい十じゅう五ご代だい、 「▲景王けいおう」 といふは第だい二に十じゅう五ご代だい、 「▲昭しょう王おう」 といふは第だい四し代だいの主しゅ、 「▲穆王ぼくおう」 といふはこれ第だい五ご代だい、 「▲荘王そうおう」 といふは第だい十じゅう六代ろくだいの王おうこれなり。 前ぜん後ご知しるべし。
言↢「桓王ト」↡者第十五代、言↢「景王ト」↡者第廿五代、言↢「昭王ト」↡者第四代ノ主、言↢「穆王ト」↡者是第五代、言↢「荘王ト」↡者第十六代ノ之王是也。前後応シ↠知ル。
開かい士しの釈しゃくの終のちに 「▲乃ない至し」 といふは、 当文とうもんの中なかにおいて余よ言ごんあり。
開士ノ釈ノ終ニ言↢「乃至ト」↡者、於テ↢当文ノ中ニ↡有↢余言↡也。
▲七しち異い・▲七しち喩ゆ文もん所引しょいんにあり。
七異・七喩文在リ↢所引ニ↡。
この七しち異いの意こころは、 老ろうは流りゅう沙さに適ゆきて隠かくるるところを知しらず、 いふこころは仙せんを得えたるなり。 仏ぶつは提だい河がに終おわりて現げんに涅ね槃はんを唱となふ、 いふこころは死しあり。 同おなじき七しち喩ゆの意こころは、 老ろうは生しょう処しょあり、 また葬処そうしょあり、 生しょう死じを遁のがれず、 仏ぶつは鶴林かくりんに隠かくれて涅ね槃はんを示しめすといへども、 滅めつにあらずして滅めつを現げんず。 このゆゑにその教おしえ梵ぼんより漢かんに伝つたひていまに流布るふし、 法ほう命みょう長じょう遠おんにして衆しゅ生じょう益やくを蒙こうぶる、 対たい比ひにあらず。
此ノ七異ノ意ハ、老ハ適ユキテ↢流沙ニ↡不↠知↠所ヲ↠隠ルヽ、言ハ得タル↠仙也。仏ハ終テ↢提河ニ↡現ニ唱フ↢涅槃ヲ↡、言ハ有↠死也。同キ七喩ノ意ハ、老ハ有リ↢生処↡、又有リ↢葬処↡、不↠遁レ↢生死ヲ↡。仏ハ隠テ↢鶴林ニ↡雖↠示スト↢涅槃ヲ↡、非シテ↠滅ニ現ズ↠滅ヲ。是ノ故ニ其ノ教自↠梵伝テ↠漢ニ于↠今流布シ、法命長遠ニシテ衆生蒙ル↠益ヲ、非ズ↢対比ニ↡也。
開かい士しの釈しゃくの終おわりに 「▲乃ない至し」 といふは、 当段とうだんにおいて余よ残ざんの文もんあるにあらず。 ただし 「也や」 の一いち字じ最末さいまつにあり 第八だいはち・九きゅう・十じゅうの外異げい・内ない論ゆ省略しょうりゃくするがゆゑに、 下しもの十じゅう異い・十じゅう喩ゆの重じゅう説せつに対たいして乃ない至しといふなり。
開士ノ釈ノ終ニ、言↢「乃至ト」↡者、非ズ↧於テ↢当段ニ↡有ニ↢余残ノ↡文↥。但シ「也ノ」一字在リ↢最末ニ↡矣 第八・九・十ノ外1323異・内論省略スルガ之故ニ、対シテ↢下ノ十異・十喩ノ重説ニ↡云↢「乃至ト」↡也。
かの三段さんだんにいはく、 「外げの八はち異いにいはく、 老君ろうくんは蹈とう五ご・把は十じゅう・美眉びび・方口ほうこう・双そう柱ちゅう・参漏さんろう・日角にちかく・月懸げっけん、 これ中ちゅう国ごくの聖人せいじんの相そうなり。 釈しゃ迦かは鼻はなは金挺こんていのごとし、 眼めは並へい星せいに類るいす、 精ひとみは青しょう蓮れんのごとし、 頭あたまは螺ら髪ほつを生しょうず、 これ西域さいいきの仏ぶっ陀だの相そうなり。 内ないの八はち喩ゆにいはく、 李り老ろうは美眉びび・方口ほうこう、 けだしこれ長ちょう者じゃの徴ち。 蹈とう五ご・把は十じゅう、 いまだ聖人せいじんの相そうとせず。 婆伽ばがは聚日じゅにち融金ゆうこんの色いろ、 すでに希有けうの相そうを彰あらわし、 万まん字じ千輻せんぷくの奇き、 まことに聖人せいじんの相そうを標ひょうす。 開かい士しのいはく、 老ろう子しは ¬中ちゅう胎たい¼ 等とうの経けいにいはく、 老耼ろうたん黄色おうじき・広顙こうそうにして長ちょう耳じ・大目だいもく・疎歯そし・厚唇こうしんなり、 手てに十じゅう字じの文もんを把とり脚あしに二五にごの画えを蹈ふむ、 ただこれ人間にんげんの異い相そう、 聖者せいじゃの奇姿きしにあらず。 乃至 如来にょらいは身みの長たけ丈じょう六ろく方ほう正しょうにして傾かたむかず、 円光えんこう七しち尺しゃくもろもろの幽ゆう冥みょうを照てらす。 項いただきに肉髻にくけいあり、 その髪かみ紺こん青じょうなり。 耳みみ覆おおひて埵たぶを垂たれ、 目め視みること開かい明めいなり。 乃至 一光いっこうを放はなちてはしかも地じ獄ごく休く息そくし、 一法いっぽうを演のぶれば苦く痛つう安寧あんねいならしむ、 つぶさに衆しゅ経きょうに列つらなれり。 わづらはしくくわしく指しめさず。」 以上
彼ノ三段ニ云、「外ノ八異ニ曰、老君ハ蹈五・把十・美眉・方口・双柱・参漏・日角・月懸、此 レ中国ノ聖人ノ之相ナリ。釈迦ハ鼻ハ如シ↢金挺ノ↡、眼ハ類ス↢並星ニ↡、精ハ若シ↢青蓮ノ↡、頭ハ生ズ↢螺髪ヲ↡、是 レ西域ノ仏陀ノ之相ナリ。内ノ八喩ニ曰ク、李老ハ美眉・方口、蓋シ是 レ長者ノ之徴チシルシ。蹈五・把十、未 ズ ダ↠為セ↢聖人ノ之相ト↡。婆伽ハ聚日融金ノ之色、既ニ彰シ↢希有ノ之相ヲ↡、万字千輻ノ之奇、誠ニ標ス↢聖人之相ヲ↡。開士ノ曰ク、老子ハ¬中胎¼等ノ経ニ云、老耼黄色・広顙ニシテ長耳・大目・疎歯・厚唇ナリ、手ニ把リ↢十字ノ之文ヲ↡脚ニ蹈フム↢二五ノ之画ヲ↡、止タヾ是 レ人間ノ之異相、非ズ↢聖者ノ之奇姿ニ↡也。 乃至 如来ハ身ノ長丈六方ホウ正ニシテ不↠傾カ、円光七尺照ス↢諸ノ幽エウ冥ミヤウヲ↡。*頂ニ有リ↢肉髻↡、其ノ髪紺青ナリ。耳覆テ垂タレ↠埵タブヲ、目視コト開明ナリ。 *乃至 放テハ↢一光ヲ↡而モ地獄休息シ、演レバ↢一法ヲ↡使シム↢苦痛安寧ナラ↡、備ツブサニ列レリ↢衆経ニ↡。不ズ↢煩シク委ク指サ↡。」 已上
この八はち異いの意こころは、 老ろうは中ちゅう華か聖人せいじんの相そうを備そなふ、 仏ぶつは西域せいいき仏ぶっ陀だの相そうたり。 これ中ちゅう辺へんを分わかちて異い相そうを貶へんするなり。
此ノ八異ノ意ハ、老ハ備フ↢中華聖人之相ヲ↡、仏ハ為タリ↢西域仏陀ノ之相↡。是 レ分テ↢中*道ヲ↡貶スル↢異相ヲ↡也。
「外げの九きゅう異いにいはく、 老君ろうくんは教きょうを設もうくること敬けい譲じょう、 威儀いぎおのづずから中ちゅう夏かによる、 釈しゃ迦かは法ほうを制せいすること恭粛きょうしゅく、 儀ぎ容よう還かえりて外げ国こくに遵したがふ。 内ないの九きゅう喩ゆにいはく、 老ろうはこれ俗人ぞくじん、 宦かん末品まっぴんに居おり、 衣え冠かん拝伏はいぶくおのづから朝章ちょうしょうに奉うく。 仏ぶつは聖しょう主しゅとなして道どう俗ぞくと乖そむけり、 服ぶく貌みょう威儀いぎ凡制はんせいに同おなじからず。 開かい士しのいはく、 昔むかし丹陽たんようの余よ玖きゅう興きょう、 明真めいしん論ろん一いち十じゅう九く篇へんを撰えらびて、 もつて道どう士しを駭おどろかしてその偽ぎ妄もうを出いだす、 かの論ろんに詳つまびらかなり。」 取要
「外ノ九異ニ曰、老君ハ設コト↠教ヲ敬譲、威儀自ヲ 依ル↢中夏ニ↡、釈迦ハ制スルコト↠法ヲ恭粛、儀容還テ遵ガフ↢外国ニ↡。内ノ九喩ニ曰ク、老ハ是 レ俗人、*宦居ヲリ↢末品ビンニ↡、衣冠拝伏自ヲ 奉ウク↢朝章ニ↡。仏ハ為シテ↢聖主ト↡道与ト↠俗乖ソムケリ、服貌威儀不↠同カラ↢凡ハン制ニ↡。開士ノ曰、昔丹陽ノ余玖興撰テ↢明真論一十九篇1324ヲ↡、以テ駭オドロカシテ↢道士ヲ↡出ス↢其ノ偽妄ヲ↡、詳ナリ↢彼ノ論ニ↡焉。」 取要
この異喩いゆの意こころ、 また中ちゅう辺へんによりてその威儀いぎに就つきて勝しょう劣れつを争あらそふなり。
此ノ異喩ノ意、又依テ↢中辺ニ↡就テ↢其ノ威儀ニ↡争フ↢勝劣ヲ↡。
外げの十じゅう異いにいはく、 「老君ろうくんの教きょうは孝こう慈じを復ふくするをもつて徳とくの本ほんとなす。 釈しゃ迦かの法ほうは親戚しんせきを捨すつるをもつて行ぎょうの先さきとなす。 内ないの十じゅう喩ゆにいはく、 老訓ろうくんは狂きょう勃ぼつにして二に親しんを殺ころすを行ぎょうの先さきとなす。 釈教しゃくきょうは仁じん慈じにして四し生しょうを済すくふを徳とくの本ほんとなす。 開かい士しのいはく、 なんぢ、 ¬化胡かこ経けい¼ にいはく、 ↓喜き従したがはんと欲ほっす。 耼たんのいはく、 もし心しんを至いたしてわれに随したがひて去さることあらば、 まさになんぢが父母ぶも妻さい子し七人しちにんの頭あたまを斬きるべくはすなはち去さるべからくのみ、 喜きすなはち心しんを至いたしてすなわちみづから父母ぶも七人しちにんを斬きりて、 頭あたまをもつて耼たんの前まえに到いたる、 すなはち七しちの猪ちょ頭ずと成なる。 それ天てん地ちの道どうに順したがふは行ぎょうなり、 和気わきを傷やぶらざるは孝こうなり。 丁蘭ていらん感かん朽きゅう木ぼくに通つうじ、 薫永くんえい、 孝こう天女てんにょに致いたす。 禽きん獣じゅうなほ母子ぼしとして親おやを知しることあり、 いはんや耼たん喜き道どうを天てん下げに行おこなふにその父母ふぼを斬きる、 なんぞ孝こうと名なづけんや。 その妻さい子しを戮りくする、 あに慈じといはんや。」 以上
「外ノ十異ニ曰、老君之教ハ以テ↠復スルヲ↢孝慈ヲ↡為ス↢徳ノ本ト↡。釈迦ノ之法ハ以テ↠捨ルヲ↢親戚ヲ↡為ス↢行ノ先ト↡。内ノ十喩ニ曰、老訓ハ狂勃ニシテ殺スヲ↢二親ヲ↡為ス↢行ノ先ト↡。釈教ハ仁慈ニシテ済フヲ↢四生ヲ↡為ス↢徳ノ本ト↡。開士ノ曰ク、汝¬化胡経ニ¼言ク、*喜欲ス↠従ハント。耼ノ曰、若シ有↢至シテ↠心ヲ随テ↠我ニ去コト↡者、当ニク↠斬ル↢汝ガ父母・妻子七人ノ頭ヲ↡者乃チ可ラク↠去ル耳。喜乃至シテ↠心ヲ便自ミ 斬テ↢父母七人ヲ↡、将モテ↠頭ヲ到ル↢耼ノ前ニ↡、便成ル↢七ノ猪頭ト↡。其 レ順フ↢天地之道ニ↡者行也、不↠傷ヤブラ↢和気ヲ↡者孝也。丁蘭感通ジ↢於朽木ニ↡、*薫永孝致ス↢於天女ニ↡。禽獣猶有リ↢母子トシテ而知ルコト↟親ヲ、況耼喜行フニ↢道ヲ於天下ニ↡斬ル↢其ノ父*母ヲ↡、何ゾ名ケン↠孝ト乎。戮スル↢其ノ妻子ヲ↡、豈謂ハン↠慈ト乎。」 已上
この十じゅう異いの意こころは、 老ろうは孝こう慈じを教おしへ、 仏ぶつは親戚しんせきを捨すてしむ、 勝しょう劣れつここにあり。 同おなじき十じゅう喩ゆの意こころは、 老ろうは訓おしへて二に親しんを殺ころさしむ、 これ孝こう行ぎょうに背そむく。 仏ぶつは四し生しょうを済すくふ、 これ仁じん慈じに叶かなふ、 これ勝しょう劣れつなり。
此ノ十異ノ意ハ、老ハ教ヘ↢孝慈ヲ↡、仏ハ捨シム↢親戚ヲ↡、勝劣在リ↠斯ニ。同キ十喩ノ意ハ、老ハ訓ヘテ殺サシム↢二親ヲ↡、是 レ背ク↢孝行ニ↡。仏ハ済フ↢四生ヲ↡、是 レ叶フ↢仁慈ニ↡。是 レ勝劣也。
開かい士しの釈しゃくの中なかにいふところの↑喜きとは、 これ尹いん喜きなり。 ¬老ろう子し¼ の序じょにいはく、 「開かいの令おさ尹いん喜き東方とうぼうを望見ぼうけんするに来きたる人ひとあり、 変へん化げして常つねなし、 すなはちこれを謁えっ請しょうす。 老ろう子し、 喜きの道どうに入いることを知しりてここに留とどまりてこれと言いふ。 喜きがいはく、 子しまさに隠かくれなんとす。 あながちにわがために書しょを著しるせ。 ここに老ろう子し上じょう下げ二に篇へん八はち十じゅう一いっ章しょう五ご千せん余よ言ごんを著しるす。 ゆゑに号ごうして老ろう子し経けいといふ。」 以上
開士ノ釈ノ中ニ所ノ↠言フ喜ト者、是 レ尹喜也。¬老子ノ¼序ニ云、「開ノ令尹喜望↢見ニ東方ヲ↡有リ↢来ル人↡、変化シテ無シ↠常、乃チ謁↢請ス之↡。老子知テ↢喜入コトヲ↟道ニ於是ニ留テ与ト↠之言フ。喜ガ曰ク、子将 ス ニ↠隠ナント矣。強ニ為ニ↠我ガ著シルセ↠書ヲ。於是ニ老子著ス↢上下二篇八十一章五千余言ヲ↡。故ニ号シテ曰フ↢老子経ト↡也。」 已上
異喩いゆの十双じっそう相対そうたいしてかくのごとし。
異喩ノ十双相対シテ如シ↠斯ノ。
次つぎに 「▲内ない十じゅう喩ゆ答とう外げ」 とらは、 次下つぎしもに重かさねて十じゅう異い・十じゅう喩ゆを明あかす標章ひょうしょうなり。 本書ほんしょの中なかに、 標章ひょうしょうの下しもに↓目録もくろく (弁正論巻六) を載のせていはく、
次ニ「内十喩答外ト」等者、次下ニ重テ明ス↢十異・十1325喩ヲ↡之標章也。本書ノ之中ニ、標章ノ之下ニ載テ↢目録ヲ↡云、
▲内ないは生しょうより勝しょう劣れつある一いち | 教きょうを立たつるに浅深せんじんある二に |
徳とく位いに高こう卑ひある 三さん | 化け縁えんに広こう狭きょうある 四し |
寿夭じゅように延促えんそくある 五ご | 化け迹しゃくに先せん後ごある 六ろく |
遷謝せんしゃに顕晦けんまいある 七しち | 相好そうごうに少しょう多たある 八はち |
威儀いぎに同どう異いある 九きゅう | ▽法門ほうもんに漸頓ぜんとんある 十じゅう |
内ハ従↠生有ル↢勝劣↡一 | 立ルニ↠教ヲ有ル↢浅深↡二 |
徳位ニ有ル↢高卑↡ 三 | 化縁ニ有ル↢広狭↡ 四 |
寿夭ニ有ル↢延促↡ 五 | 化迹ニ有ル↢先後↡ 六 |
遷謝ニ有ル↢顕晦↡ 七 | 相好ニ有ル↢少多↡ 八 |
威儀ニ有ル↢同異↡ 九 | 法門ニ有ル↢漸頓↡ 十 |
この十双じっそうとは、 前さきの十じゅう異いにおいて重かさねてその意こころを宣のべ、 前さきの十じゅう喩ゆにおいてふたたびその義ぎを明あかす。 ただこれ広こう略りゃくの不ふ同どうなり。 前さきの重じゅうはこれ略りゃく、 いまの重じゅうは広こうならくのみ。 ただし前さきの十双じっそう、 異喩いゆの上かみにおのおの 「注ちゅう」 の字じあり。 これをもつてこれを思おもふに、 上かみは陳ちん子し良りょうあらかじめ正しょう文もんに先さきんじてかつがつ著ちょ述じゅつするか。 いまこの十双じっそうはこれ琳りん法ほっ師しのまさしき製作せいさくなり。
此ノ十双ト者、於テ↢前ノ十異ニ↡重テ宣ベ↢其ノ意ヲ↡、於テ↢前ノ十喩ニ↡再ビ明ス↢其ノ義ヲ↡。只是広略ノ之不同也。前ノ重ハ是 レ略、今ノ重ハ広ナラク耳。但シ前ノ十双、異喩ノ之上ニ各有リ↢「注ノ」字↡。以テ↠之ヲ思フニ↠之ヲ、上ハ陳子良予ジメ先テ↢正文ニ↡且ガツ著述スル歟。今此ノ十双ハ是琳法師ノ正キ製作也。
▲「外げ従じゅう生しょう左右さう」 とらいふは、 上かみの↑目録もくろくの中なかにただ十じゅう喩ゆを載のせて十じゅう異いを出いださず。 おのおの釈章しゃくしょうに至いたりて内ない喩ゆの前まえに外異げいの題だいを置おきて外異げいの言ことばを挙あぐ。 次つぎに内題ないだいを置おきて内ない喩ゆの言ことばを出いだす。 すなはちいま挙あぐるところは外げの一いちの題だいなり。 ただし下しもの諸段しょだん除のぞくところ一いちにあらず、 たとひまた異喩いゆの言ことばを引ひくといへども、 多おおく題目だいもくを略りゃくす。 よりて釈章しゃくしょうに先さきんじて外げの異いの題だいを出いだし、 上かみに挙あぐるところ内ない喩ゆの目録もくろくに合がっして相対そうたいの大たい意いを顕あらわすべし。 その題目だいもく (弁正論巻六) にいはく。
言↢「外従生左右ト」等↡者、上ノ目録ノ中ニ唯載テ↢十喩ヲ↡不↠出サ↢十異ヲ↡。各至テ↢釈章ニ↡内喩ノ之前ニ置テ↢外異ノ題ヲ↡挙グ↢外異ノ言ヲ↡。次ニ置テ↢内題ヲ↡出ス↢内喩ノ言ヲ↡。即今所ハ↠挙ル外ノ一ノ題也。但シ下ノ諸段所↠除ク非ズ↠一ニ、縦又雖↠引ト↢異喩ノ之言ヲ↡、多ク略ス↢題目ヲ↡。仍先テ↢釈章ニ↡出シ↢外ノ異ノ題ヲ↡、合シテ↢上ニ所ノ↠挙ル内喩ノ目録ニ↡可↠顕ス↢相対ノ之大意ヲ↡也。其ノ題目ニ云。
▲外げは生しょうより左右さう異ことなる 一いち | 外げは教きょう門もん生しょう滅めつ異ことなる 二に |
外げは方ほう位い東西とうざい異ことなる 三さん | 外げは適てき化か華夷かい異ことなる 四し |
外げは生しょうを稟うくるに夭寿ようじゅ異いある 五ご | 外げは生しょうより前ぜん後ご異ことなる 六ろく |
外げは神じんを遷せんし寂じゃくに返かえること異ことなる七しち | 外げは聖賢せいけん相好そうごう異ことなる 八はち |
外げは中ちゅう表ひょう威儀いぎ異ことなる 九きゅう | ▽外げは規きを設もうくること逆ぎゃく順じゅん異ことなる十じゅう |
1326外ハ従リ↠生左右異ナル 一 | 外ハ教門生滅異ナル 二 |
外ハ方位東西異ナル 三 | 外ハ適化華夷異ナル 四 |
外ハ稟ルニ↠生ヲ有ル↢夭寿異ナルコト↡五 | 外ハ従リ↠生前後異ナル 六 |
外ハ遷シ↠神ヲ返ルコト↠寂ニ異ナル 七 | 外ハ聖賢相好異ナル 八 |
外ハ中表威儀異ナル 九 | 外ハ設クルコト↠規ヲ逆順異ナル 十 |
▲「内ない従じゅう」 とらは、 目録もくろくに挙あぐるところの十じゅう喩ゆの中なかの一いち喩ゆの題だいなり。
「内従ト」等者、目録ニ所ノ↠挙ル十喩ノ之中ノ一喩ノ題也。
問とふ。 目録もくろくの中なかに一いち・二に・三さん乃ない至し十じゅうの数かずあり。 いまこれを載のせず、 なんの意こころかあるや。
問。目録ノ之中ニ有リ↢一・二・三乃至十ノ数↡。今不↠載↠之ヲ、有ル↢何ノ意カ↡耶。
答こたふ。 目録もくろくの中なかにはただ内ない喩ゆを載のす、 ゆゑにその数かずを記きす。 いまは外異げいにおいてまづ数かずを記きするがゆゑに、 上かみに譲ゆずりて録ろくせず。 内ない外げ相対そうたいして一々いちいちに相濫そうらんすべからざるがゆゑなり。
答。目録ノ之中ニハ唯載ス↢内喩ヲ↡、故ニ記ス↢其ノ数ヲ↡。今ハ於テ↢外異ニ↡先ヅ記スルガ↠数ヲ故ニ、譲テ↠上ニ不↠録セ。内外相対シテ一々ニ不ガ↠可↢相濫ランス↡故也。
問とふ。 いま外げの一いち異いに題目だいもくを挙あぐるといへども文言もんごんを出いださず、 その文もんいかん。
問。今外ノ一異ニ雖↠挙ト↢題目ヲ↡不↠出↢文言ヲ↡、其ノ文如何。
答こたふ。 かの本文ほんもん (弁正論巻六) にいはく、 「外げ論ろんにいはく、 聖人せいじん応おう迹しゃくはかの凡ぼん夫ぶに異ことなり。 あるいは龍りゅう象ぞうに乗のりてもつて胎たいに処しょし、 たちまちに脇わきを開ひらきて出いづ。 また両りょう気きに開ひらくことなく二に親しんを仮かるにあらずいへども、 左右さうの殊しゅに至いたりてはその優う劣れつの異い一いちなり。」
答。彼ノ本文ニ云ク、「外論ニ曰、聖人応迹ハ異ナリ↢彼ノ凡夫ニ↡。或ハ乗テ↢龍象ニ↡以処シ↠胎ニ、乍ニ開テ↠脇ヲ而出ヅ。雖↧復無ク↠開コト↢両気ニ↡非ズト↞仮ルニ↢二親ヲ↡、至テハ↢於左右之殊ニ↡其ノ優劣之異一也。」
▲「内ない喩ゆ」 とらは、 内ないの一いち喩ゆなり。 いま挙あぐるところの △「内ない従じゅう生しょう」 等とうの題目だいもくは、 外げ論ろんを略りゃくするがゆゑに外異げいの題だいに次つぐ。 本書ほんしょのごときは、 外げ論ろんの後あと内ない喩ゆの前まえにあり、 次し第だい知しるべし。
「内喩ト」等者、内ノ一喩也。今所ノ↠挙ル之「内従生」等之題目者、略スルガ↢外論ヲ↡故ニ次グ↢外異ノ題ニ↡。如キ↢本書ノ↡者、在リ↢外論ノ後内喩ノ之前ニ↡、次第応シ↠知。
この内ない喩ゆの中なかに、 ▲「藺りん相しょう」 とらは、 世よに廉藺れんりんといふ。 廉れんはすなはち廉れん頗ぱ、 藺りんは藺りん相しょう如じょ、 一双いっそうの武ぶ将しょうなり。 しかるに廉れんを麁そとなす、 書しょ生しょうの誤あやまりか。
此ノ内喩ノ中ニ、「藺相ト」等者、世ニ謂フ↢廉藺ト↡。廉ハ則廉頗、藺ハ々相如、一双ノ武将ナリ。而廉ヲ為ス↠麁ト、書生ノ誤歟。
しかのみならずこの中なかに唐本とうほんの文もん字じ相そう違いまた多おおし。 一いちには 「▲緯いを右みぎにす」、 「緯い」 の字じ 「韓かん」 たり。 二にには 「▲温水うんすい」、 「温うん」 の字じ 「渦か」 たり。 三さんには 「▲押おう事じ」、 「押おう」 の字じ 「師し」 たり。 四しには 「▲太たい史しを撥はっす」、 「撥はつ」 の字じ 「検けん」 たり。 五ごには 「▲人用じんようを快たのしくす」、 「快かい」 の字じ 「扶ふ」 たり。 是非ぜひをいふにあらず、 ただ異いを記しるすらくのみ。
加之此1327ノ中ニ唐本ノ文字相違又多シ。一者「右ニス↠緯」、「緯ノ」字為タリ↠「韓」。二者「温水」、「温ノ」字為タリ↠「渦」。三者「押事」、「押ノ」字為タリ↠「師」。四ニハ「撥ス↢太史ヲ」↡、「撥ノ」字為タリ↠「検」。五「快シクス↢人用ヲ」↡、「快ノ」字為タリ↠「扶」。弗ズ↠謂ニ↢是非ヲ↡、只記スラク↠異ヲ耳。
「其ご迹しゃく也や」 の下しもに 「▲乃ない至し」 といふは、 この文もんの残のこりより三さん喩ゆの半なかばに至いたるまで省略しょうりゃくするがゆゑなり。
「其ノ迹也ノ」下ニ言↢「乃至ト」↡者、自↢此ノ文ノ残↡至マデ↢三喩ノ半ニ↡省略スルガ故也。
▲「夫ふ釈しゃく氏し者しゃ天てん上じょう」 とらは、 三さん喩ゆの中なかの文もん。 前ぜん後ごになほ数す行ぎょうの文言もんごんあり、 しかしながらもつてこれを略りゃくす。
「夫釈氏者天上ト」等者、三喩ノ中ノ文。前後ニ猶有リ↢数行ノ文言↡、併以テ略ス↠之ヲ。
「推すい其ご妙びょう」 の下しもに 「▲乃ない至し」 といふは、 当段とうだんの中なかにおいてなほ残のこりの文もんあり。 また四異しい・四喩しゆ以下いげ乃ない至し十じゅう異いを除のぞく、 ゆゑにしかいふなり。
「推其妙ノ」下ニ言↢「乃至ト」↡者、於テ↢当段ノ中ニ↡猶有リ↢残ノ文↡。又除ク↢四異・四喩已下乃至十異ヲ↡、故ニ云↠「爾」也。
次つぎに ▲「外げ論ろん曰わつ老君ろうくん」 とらは、 第だい十じゅうの異いなり。 本書ほんしょまづ 「△外げ設せつ規きの逆順ぎゃくじゅん異い十じゅう」 (弁正論巻六) といふ題だい一いち行ぎょうを安あんじて、 その次つぎに 「外げ論ろん」 (弁正論巻六) とらいふ長じょう行ごうあり。
次ニ「外論曰老君ト」等者、第十ノ異也。本書先ヅ安ジテ↧云↢「外設規逆順異十ト」↡之題一行ヲ↥、其ノ次ニ有ト↧云↢「外論ト」等↡之長行↥也。
次つぎに ▲「内ない喩ゆ曰わつ義ぎ乃ない」 とらは第だい十じゅう喩ゆなり。 本書ほんしょの文もんの前まえに題だいを安あんずること前さきのごとし。 その題目だいもくとは、 「内ない△法門ほうもん有う漸頓ぜんとん」 といふ六ろく字じこれなり。
次「内喩曰義乃ト」等者第十喩也。本書ノ文ノ前ニ安ズルコト↠題ヲ如シ↠前ノ。其ノ題目ト者、云↢「内法門有漸頓ト」↡之六字是也。
当段とうだんの中なかにまた唐本とうほんと参しん差しこれ多おおし。 一いちには 「華け俗ぞくの訓おしえにあらず」 といふ下しもの註ちゅうにいはく、 「▲歌か孔こう子し助祭じょさい」 の五ご字じ、 「騎き棺かん而に」 の上かみ 「弗ほつ譏き」 の下しもにあり、 「孔こう子し」 の上下かみしもに 「而に」・「時じ」 の二字にじともにもつてこれなし。 二ににはいはく、 「▲まことに聖王せいおうの臣孝しんこうなり」、 「臣しん」 の字じ 「巨きょ」 たり。 三さんには 「覆ふく慧え眼げん」 の下しもに 「▲未み往おう生じょう」 といふ、 「未み」 の字じ 「来らい」 たり、 「生しょう」 の字じこれなし。 四しにはいはく、 「▲怨親おんしんしばしば知ち識しきたり、 知ち識しきしばしば怨親おんしんたり」 といふ、 上下かみしもの二句にくにともに 「親しん」 の字じなし。
当段ノ之中ニ又与↢唐本↡参差多シ↠之。一ニハ「非ズト云↢華俗ノ之訓ニ」↡下ノ註ニ云、「歌孔子助祭ノ」五字、在リ↢「騎棺而ノ」上「弗譏ノ」之下ニ↡、「孔子ノ」上下ニ「而」・「時ノ」二字共ニ以テ無シ↠之。二ニハ云、「実ニ聖王ノ之臣孝ナリ」、「臣ノ」字為タリ↠「巨」。三ニハ「覆慧眼ノ」下ニ云フ↢「未往生ト」↡、「未ノ」字為タリ↠「来」、「生ノ」字無シ↠之。四ニハ云ク、「怨親数為タリ↢知識↡、知識数為タリト云↢怨親↡、」上下ノ二句ニ共ニ無シ↢「親ノ」字↡。
「▲爾に道どう之し劣れつ十じゅう也や」 といふは、 当篇とうへん外げ内ない異喩いゆの説せつ十双じっそうことごとく訖おわりぬ。
言↢「爾道之劣十也ト」↡者、当篇外内異喩ノ之説十双悉ク訖ヌ。
▲これより以下いげ、 次つぎに九きゅう箴しんを明あかす。 ただし初はじめを略りゃくするによりて、 文相もんそうの起き尽じん前ぜん後ご迷まよひやすし、 ゆゑに題目だいもくを示しめす。 その目録もくろく (弁正論巻六) にいはく、 「内ないの九きゅう箴しんの篇へん第六だいろく、 △外げの九きゅう迷論めいろんを答とうす。
自↠此1328已下、次ニ明ス↢九箴ヲ↡。但シ依テ↠略スルニ↠初ヲ、文相ノ起尽前後易シ↠迷ヒ、故示ス↢題目ヲ↡。其ノ目録ニ云、「内ノ九箴ノ篇第六、答ス↢外ノ九迷論ヲ↡。
▽周しゅう世せに機きなき 一いち | ▲像塔ぞうとうを建造けんぞうする二に | 威儀いぎ器き服ぶく 三さん |
耕こうを棄すてて分ぶん衛えする四し | ▽教きょうは治ちの本もとたる五ご | 忠ちゅう孝こう違たがふことなき 六ろく |
三宝さんぽう翻ほんなき 七しち | 異い方ほう同制どうせいの 八はち | 老ろうの身み仏ぶつにあらざる九きゅう。」 以上 |
周世ニ無キ↠機 一 | 建↢造スル像塔ヲ↡二 | 威儀器服 三 |
棄テヽ↠耕ヲ分衛スル四 | 教ハ為タル↢治ノ本↡五 | 忠孝靡ナキ↠違コト 六 |
三宝無キ↠翻 七 | 異方同制ノ 八 | 老ノ身非ザル↠仏ニ九。」 已上 |
目録もくろくかくのごとし。 まさしく諸段しょだんにおいて安あんずるところの題目だいもく、 初はじめに内ないの字じあり、 また一いち乃ない至し九きゅうの字じの上かみにおのおの指しの字じあり。 九きゅう迷めいにおいては別べつに題目だいもくなし。
目録如シ↠此ノ。正ク於テ↢諸段ニ↡所ノ↠安ズル題目、初ニ有リ↢内ノ字↡、又一乃至九ノ之字ノ上ニ各有リ↢指ノ字↡。於↢九迷ニ↡者別ニ無シ↢題目↡。
▲「二じ皇こう」 とらは、 すなはちこれ初段しょだん。 いはく 「↓内ないには△周しゅう世せに機きなき指しの一いち」 (弁正論巻六) の末すえの文もんなり。
「二皇ト」等者、即是 レ初段。謂ク「内ニハ周世ニ無キ↠機指ノ一ノ」之末ノ文也。
題目だいもく以い前ぜん外げ論ろんの文言もんごん、 題目だいもく以後いご内箴ないしんの初文しょもん、 除のぞくところこれ多おおし。 初段しょだんたるによつて所引しょいんの前ぜん後ごの文言もんごんこれを出いだす。 すなはち本文ほんもん (弁正論巻六) にいはく、 「外げ論ろんにいはく、 それ言ことばは華はなを尚たっとぶにあらず、 辞ことばの貴とうときことは理りに中あたるにあり。 歌うたは清せいを尚たっとぶにあらず、 響ひびきの貴とうときことは節ふしに合かなふに資よる。 仏ぶっ経きょうは如来にょらい説法せっぽうの時とき、 諸国しょこくの天てん子しあまねく来きたりて集あつまり聴きく、 あるいは光こう明みょうを放はなちて大千だいせんの土どに遍へんす。 ただし釈しゃ迦か在ざい世せの日ひはわが周朝しゅうちょうに当あたる。 史し冊さくに書しょするところまことに遺い漏ろうなし。 いまだ天王てんのうかの葱嶺そうれいに詣もうづることを聞きかず、 あに中ちゅう華かの帝みかどにおいて善ぜんなくして道どう場じょうに預あずからず、 辺へん鄙ぴの君きみ縁えんありてあまねく法ほう座ざに沾うるおはんや。 光こう明みょうの照てらすところすなはち衆しゅ生じょう苦くを離はなる。 しかるにこの土どなんの辜つみあつてかひとへに人ひとの悟さとるなく、 独ひとり恩おん外げに隔へだててかつて見聞けんもんせざるや。」 取要
題目以前外論ノ文言、題目以後内箴ノ初文、所↠除ク是 レ多シ。依テ↠為ニ↢初段↡所引ノ前後ノ文言出ス↠之ヲ。即本文ニ云、「外論ニ曰、夫言者非ズ↠尚タトブニ↢於華ヲ↡、辞コトバノ貴キコトハ在リ↢乎中アタル↟理ニ。歌者非ズ↠尚タトブニ↢於清ヲ↡、響ノ貴コトハ資ヨル↢乎合カナフニ↟節ニ。仏経ハ如来説法ノ之時、諸国ノ天子普ク来テ集リ聴ク、或ハ放テ↢光明ヲ↡遍ス↢大千ノ土ニ↡。但シ釈迦在世ノ之日ハ当ル↢我ガ周朝ニ↡。史冊ニ所↠書スル固マコトニ無シ↢遺漏↡。未 ズ ダ↠聞↣天王詣マウヅルコトヲ↢彼ノ葱嶺ニ↡、豈於テ↢中華ノ之帝ニ↡無シテ↠善不↠預カラ↢道場ニ↡、辺鄙ノ之君有テ↠縁普ク沾ウルホハンヤ↢法座ニ↡。光明ノ所↠照則衆生離ル↠苦ヲ。而ニ此ノ土何ノ辜アテカ偏ニ無ク↢人ノ悟ル↡、独隔テヽ↢恩外ニ↡曽テ不ルヤ↢見聞セ↡。」 取要1329
「↑内ないには周しゅう世せに機きなき指しの一いち。 内箴ないしんにいはく、 それ淳じゅん儀ぎ天てんに麗つらなれども矇瞍もうそうその色いろを鑑かんがみることなし。 雷霆らいてい地じを駭おどろかせども、 聾ろう夫ふその響ひびきを聆きかざるは、 けだし機き感かんの絶たえたるなり。 暴あらしをなす兇きょう礐せき、 孔こうの智ちももつてその心こころを遏とどむることなし。 憤ふんを結むすびて野夫やふ賜つくすが弁べんも、 よくその忿いかりを蠲のぞくことなし。 また情じょう性せいの殊ことなるなり。 註ちゅうあり ゆゑに道みち合かなふときはすなはち万ばん里り懸はるかに応おうじ、 勢いきおい乖そむくときはすなはち肝胆かんたん楚そ越えつなり。 いはんや無始むしの結けつ曠とおし、 悩愛のうあい滄海そうかいと深ふかきことを校くらぶ。 有為ういの業ごう広ひろし、 塵労じんろう巨岳きょがくと峻たかきことを争あらそふ。 群ぐん情じょうたちまちに至いたることあたはず、 ゆゑにこれを導みちびくに積しゃく漸ぜんをもつてす。 衆しゅ行ぎょうつぶさに修しゅすべからず、 ゆゑにこれを策はげむに限分げんぶんをもつてす。 なほし天てん地ちの二化にけ始はじめて自じ然ねんに合かなふがごとし。 註ちゅうを略りゃくす 斉せい魯ろ再ふたたび変へんじて、 すなはち至し道どうに臻いたる。 密雲みつうん時雨じうを導みちびき堅けん氷ぴょう霜しもを履ふむに創はじまる、 みな漸ぜん積しゃくの謂いいなるがゆゑに。」 (弁正論巻六) この下しも 「二じ皇こう統とう化け」 以下いげ十じゅう四し行ぎょう余よしかしながら所引しょいんのごとし
「内ニハ周世ニ無キ↠機指ノ一。内箴ニ曰、夫淳儀麗ツラナレドモ↠天ニ矇瞍莫シ↠鑑コト↢其ノ色ヲ↡。雷霆駭オドロカセドモ↠地ヲ、聾夫弗ザル↠聆キカ↢其ノ響ヲ↡者、蓋シ機感ノ之絶タル也。作ナス↠暴ヲ兇クヰウ礐セキ、孔ノ智モ無シ↣以テ遏トヾムルコト↢其ノ心ヲ↡。結テ↠憤ヲ野夫賜ガ辨モ莫シ↣能ク蠲ノゾクコト↢其ノ忿ヲ↡。亦情性ノ之殊ナル也。 有註 故ニ道合カナフトキハ則万里懸ハルカニ応ジ、勢乖ソムクトキハ則肝胆楚越ナリ。況ヤ無始ノ結曠トヲシ、悩愛与↢滄海↡校クラブ↠深コトヲ。有為ノ業広シ、塵労将↢巨岳↡争ソフ↠峻コトヲ。群情不↠能↢頓ニ至コト↡、故ニ導クニ↠之ヲ以ス↢積漸ヲ↡。衆行不↠可↢備ツブサニ修ス↡、故ニ策ハゲムニ↠之ヲ以ス↢限分ヲ↡。猶シシ↣天地ノ二化始テ合カナフガ↢於自然ニ↡。 略註 斉魯再タビ変ジテ、乃チ臻ル↢於至道ニ↡。密雲導ビキ↢於時雨ヲ↡堅氷創ハジマル↢於履ムニ↟霜ヲ、皆漸積ノ之謂也故ニ。」此下「二皇統化」以下十四行余併ラ如↢所引↡
▲「内建ないけん」 とらは、 すなはち二に箴しんなり。
「内建ト」等者、即二箴也。
▲「漢明かんめいより」 下しも 「有う霊れい哉や」 に至いたるまで六ろく行ぎょう余よは、 当段とうだん外げ論ろんの文もんの末まっの註ちゅうなり。 このゆゑにこの文もん 「建造けんぞう像ぞう」 等とうの題だいの前まえにありといへども、 この句くにおいては外げ論ろんの末まつに居こして、 しかも外げ論ろんの意こころを弾だん折しゃくするところの句くなるがゆゑに、 その意い楽ぎょう内箴ないしんを助たすくるをもつてのゆゑに、 その義ぎを示しめさんがために題だいの後のちに安あんずるか。
「自↢漢明↡」下至マデ↢「有霊哉ニ」↡六行余者、当段外論ノ文ノ末ノ註也。是ノ故ニ此ノ文雖↠在ト↢「建造像」等ノ題ノ前ニ↡、於↢此ノ句ニ↡者居シテ↢外論ノ末ニ↡、而モ所ノ↣弾↢折シヤクスル外論ノ意ヲ↡句ナルガ故ニ、以ノ↣其ノ意楽助クルヲ↢内箴ヲ↡故ニ、為ニ↠示サンガ↢其ノ義ヲ↡安ズル↢題ノ後ニ↡歟。
▲「然徳ねんとく無む不備ふび者しゃ」 とらは、 内箴ないしんの文もんなり。 上かみに数す行ぎょうあり、 いままたこれを除のぞく。
「然徳無不備者ト」等者、内箴ノ文也。上ニ有リ↢数行↡、今又除ク↠之ヲ。
問とふ。 もししかのごとくならば 「霊れい哉や」 の下しも 「然徳ねんとく」 の上かみにもつとももつて乃ない至しの言ことばを置おくべきや。
問。若シ如クナラ↠然ノ者、「霊哉ノ」之下「然徳ノ」之上ニ尤以テ可↠置↢乃至ノ言ヲ↡乎。
答こたふ。 上かみの文もん内箴ないしんの前まえにありといへども、 その意こころ通つうずるをもつて内箴ないしんに引ひき加くわへて鉤こう鎖さとするなり。 もし乃ない至しといはば、 ただ文段もんだんを錯乱さくらんするにあひ似にたるべし。 このゆゑに乃ない至しの言ことばを置おかず。
答。上ノ文雖↠在ト↢内箴ノ之前ニ↡、以テ↢其ノ意通ズルヲ↡引↢加ヘテ内箴ニ↡為スル↢鉤鎖ト↡也。若言ハヾ↢乃至ト↡、只可シ↤相↣似タル錯↢乱スルニ文段ヲ↡。是ノ故ニ不↠置↢乃至ノ言ヲ↡也。
「可か験けん」 の下しもに 「▲乃ない至し」 といふは、 当段とうだんの中なかになほ残のこりの文もんあり、 また三さん・四しおよび五ご箴しんの初はじめを除のぞく。 ゆゑにしかいふなり。 これらの数す箴しん繁しげきがゆゑに、 その文もんを載のせざらくのみ。
「可験ノ」之下ニ言↢「乃至ト」↡者、当段ノ之中ニ猶1330有リ↢残ノ文↡、又除ク↢三・四及ビ五箴ノ初ヲ↡。故ニ云↠爾也。是等ノ数箴繁キガ故ニ、不ラク↠載セ↢其ノ文ヲ↡而已。
▲次つぎに ¬正しょう法ぼう念ねん経ぎょう¼ を引ひく以下いげは、 五ご箴しんの終おわりの文もん、 いまの所引しょいんはこれ註ちゅうの文もんなり。
次ニ引ク↢¬正法念経ヲ¼↡以下ハ、五箴ノ終ノ文、今ノ所引者是 レ註ノ文也。
問とふ。 この註ちゅうの意こころ何事なにごとを宣のぶるをや。 当段とうだん外げ論ろんの言ことばならびに内箴ないしんの文もんなきによりて、 旨し趣しゅを弁べんじがたし。 請こふ、 つぶさなる文もんを聞ききて元げん由ゆを知しらんと欲おもふ。
問。此ノ註ノ之意宣ブルヲ↢何事ヲ↡乎。依テ↠無ニ↢当段外論之言並ニ内箴ノ文↡、難シ↠辨↢旨趣ヲ↡。請フ、聞テ↢具ナル文ヲ↡欲フ↠知ント↢元由ヲ↡。
答こたふ。 「外げ論ろんにいはく、 それ国くには民たみをもつて本もととなす。 本もと固かたきときはすなはち邦くに寧やすし。 これをもつて賜し育いく子しの門もんに及および、 恩おん孕よう婦ふの室しつに流ながる。 ゆゑに子し孫そん享きょう祀しして世せ載さいに虧かけず。 至し孝こう躬みを毀やぶるといへども、 祀まつりを絶たたしめず。 ゆゑに国こっ家か富ふ強きょうにして天てん下か昌しょう盛せいなることを得う。 いまだ人民じんみん凋ちょう尽じんして家か国こく存ぞんずべきことを聞きかず。 いま仏ぶっ教きょうにはすなはち不ふ妻さい不ふ娶しゅを名なづけて奉ほう法ぼうとなす。 ただ早はやく逝せいするを涅ね槃はんを得うと号ごうす。 すでに長ちょう生せいの方ほうを欠かく、 また不死ふしの術じゅつなし。 これすなはち一いっ世せの中なかに家か国こく空むなし。」 (弁正論巻六) 取意
答。「外論曰、其 レ国ハ以テ↠民ヲ為ス↠本ト。本固キトキハ則邦寧ヤスシ。是以賜及ビ↢育子ノ之門ニ↡、恩流ル↢孕ヨウ婦フ之室ニ↡。故ニ子孫享祀シテ世載ニ不↠虧カケ。雖ヘ↢至孝毀ト↟躬ヲ、不↠令メ↠絶タヽ↠祀ヲ。故ニ得ウ↢国家富強ニシテ天下昌盛ナルコトヲ↡。未ダ↠聞↢人民凋尽シテ家国可コトヲ↟存ズ。今仏教ニハ即不妻不娶ヲ名テ為ス↢奉法ト↡。唯早ク逝スルヲ号ス↠得ト↢涅槃ヲ↡。既ニ闕ク↢長生ノ之方ヲ↡、又無シ↢不死ノ之術↡。斯 レ則一世之中ニ家国空シ矣。」 取意
「内ない△教きょうは治ちの本もとたる指しの五ご。 内箴ないしんにいはく、 それ神じんを澄すまし性せいに反かえるは入にゅう道どうの要門ようもん、 情じょうを絶たち欲よくを棄すつるは登と聖せいの遐か本ほんなり。 ゆゑにいはく、 道どう高たかき者ものは尚たっとびらる、 徳とく弘ひろき者ものは賞しょうせらる、 道どうをもつて神じんに伝つたへ徳とくをもつて聖せいに授さずく。 神じん聖せい相伝そうでんす、 これを良りょう嗣しといふ。 道どうの源みなもとを塞ふさぎ、 徳とくの根ねを伐きる、 これを後あとなしといふ。 欲よくを棄すつるを後あとなしとなすといふにはあらず。 子し聞きかずや、 昔むかし何か尚しょうがいへることを。 釈しゃく氏しの化か可かならずといふところなし。 まことに人道じんどうの教きょう源げん、 まことに済俗さいぞくの称しょう首しゅなり。 それ一善いちぜんを行おこなふときはすなはち一悪いちあくを去さる、 一悪いちあくを去さるときはすなはち一刑いっけいを息やむ、 一刑いっけい家いえに息やむときはすなはち万刑ばんけい国くにに息やむ。 ゆゑに知しんぬ五ご戒かい・十じゅう善ぜん正しょう治ちの本もとたり。 また五ご戒かい修しゅして悪趣あくしゅ減げんじ、 十じゅう善ぜん暢のびて人天にんでん滋しげし、 人天にんでん滋しげくしてすなはち正せい化か隆さかんなり。 悪趣あくしゅ衰おとろへて災害さいがい殄ほろぶ。」 (弁正論巻六) 以上 所引しょいんの注ちゅうは、 この文もんの注ちゅうなり。
「内教ハ為タル↢治ノ本↡指ノ五。内箴ニ曰、其 レ澄シ↠神ヲ反ルハ↠性ニ入道ノ之要門、絶チ↠情ヲ棄ルハ↠欲ヲ登聖ノ之遐本ナリ。故ニ云、道高キ者 ノハ尚タトビラル、徳弘キ者 ノハ賞セラル、以テ↠道ヲ伝ヘ↠神ニ以テ↠徳ヲ授ク↠聖ニ。神聖相伝ス、是ヲ謂フ↢良嗣ト↡。塞ギ↢道ノ之源ヲ↡、伐ル↢徳ノ之根ヲ↡、此ヲ謂フ↠無ト↠後。非ズ↠云ニハ↢棄ルヲ↠欲ヲ為スト↟無シト↠後也。子不ズヤ↠聞乎、昔何尚ガ之言イヘルコトヲ。釈氏ノ之化無シ↠所↠不ズト云↠可ナラ。諒ニ人道ノ之教源、誠ニ済俗ノ之称首ナリ。其 レ行トキハ↢一善ヲ↡則去サル↢一悪ヲ↡、去トキハ↢一悪ヲ↡則息ヤム↢一刑ヲ↡、一刑息トキハ↢於家ニ↡則万刑息ヤム↢於国ニ↡。故ニ知ヌ五戒・十善為タリ↢正治ノ之本↡矣。又五戒修シテ而悪趣減ジ、十善暢ノビテ而人天1331滋シ、人天滋シテ則正化隆ナリ。悪趣衰テ而災害殄ホロブ。」 已上 所引ノ注者、此ノ文ノ注也。
この中なかの文もん句く、 また唐本とうほんといささか相そう違いあり。 一いちに 「▲甘かん雨う降くだる」 といふ、 「雨う」 の下しも 「降こう」 の上かみに 「時じ」 の一いち字じあり。 二にに 「▲稔穀ねんこく豊ゆたかなり」 といふ、 一いち字じを加くわへて 「百ひゃっ穀こく稔ねん豊ぽう」 といふ。 三さんに 「▲戈か戦息せんそく」 といふ、 「戦せん」 の字じ 「戢しゅう」 たり、 「戢しゅう」 義ぎに叶かなふか。
此ノ中ノ文句、又与↢唐本↡聊有リ↢相違↡。一ニ云↢「甘雨降ルト」↡、「雨ノ」下「降ノ」上ニ有リ↢「時ノ」一字↡。二ニ云↢「稔穀豊ナリト」↡、加テ↢一字ヲ↡云フ↢「百穀稔豊ト」↡。三ニ云↢「戈戦息ト」↡、「戦ノ」字為タリ↠「戢シフ」、「戢」叶フ↠義ニ歟。
「不ふ行ぎょう也や」 の下しも 「▲乃ない至し」 といふは、 当箴とうしんの中なかになほ残のこりの文もんあり、 また下しもの六ろく・七しち・八はち・九きゅうことごとく除のぞく。 ゆゑにこの言ことばを置おく。
「不行也ノ」下ニ言↢「乃至ト」↡*者、当箴ノ之中ニ猶有↢残ノ文↡、又下ノ六・七・八・九悉ク除ク。故ニ置ク↢此ノ言ヲ↡。
▲「君くん子し曰わつ道どう士し」 とらいふは、 第だい七巻しちかん (弁正論巻六) の中なかに 目録もくろくのごときは第だい六巻ろっかんなり 「△気きは道どうの本ほんとなす篇へん第七だいしち」 の文もん、 「楽らく道君どうくん」▲ の下しも当篇とうへんの文言もんごんなほ繁はん多たなり。
言↢「君子曰道士ト」等↡者、第七巻ノ中ニ 如↢目録ノ↡者第六巻也 「気ハ*為↢道ノ本↡篇第七ノ」文、「楽道君ノ」下当篇ノ文言猶繁多也。
▲「案あん道どう士し所しょ上じょう」 とらいふは、 第だい八巻はちかんの初はじめ (弁正論) 「△道どうの偽ぎ謬びゅうを出いだす篇へん第だい十じゅう」 の文もん、 この篇へん (弁正論巻八) の中なかにもろもろの謬あやまりを出いだすにおいて、 これ 「諸しょ子しを道書どうしょとする謬あやまり」 を出いだす破は文もんなり。
言↢「案道士所上ト」等↡者、第八巻ノ初「出ス↢道ノ偽謬ヲ↡篇第十ノ」文、此ノ篇ノ之中ニ於テ↠出スニ↢諸ノ謬ヲ↡、是 レ出ス↧「諸子ヲ為スル↢道書ト↡謬ヲ」↥之破文也。
【98】次つぎに▲「又う云うん大だい経きょう」 とらいふは、 同おなじき巻かんの終おわり (弁正論巻八) 「△帰き心しん有地うじの篇へん第だい十じゅう二に」 の釈しゃく文もんなり。
次ニ言↢「又云大経ト」等↡者、同キ巻ノ之終「帰心有地ノ篇第十二ノ」之釈文也。
「▲大だい経きょう」 といふは ¬涅ね槃はん経ぎょう¼ を指さす。 天台てんだいの学者がくしゃ多おおくかの ¬経きょう¼ をもつて大だい経きょうと称しょうす。
言↢「大経ト」↡者、指ス↢¬涅槃経ヲ¼↡。天臺ノ学者多ク以テ↢彼ノ¬経ヲ¼↡称ス↢大経ト↡也。
▲「朕ちん捨しゃ外げ道どう以事いじ」 とらは、 「朕ちん」 とは天てん子しのみづから称しょうする言ことばなり。 昔むかし梁りょうの武ぶ帝てい老ろう子しの教きょうを捨すてて永ながく仏ぶっ教きょうに帰きし菩ぼ薩さつの戒かいを受うく。 いま ¬弁べん正しょう論ろん¼、 この事じを明あかすをもつて要須ようしゅとするなり。
「朕捨外道以事ト」等者、「朕ト」者天子ノ自ミ 称スル言也。昔梁ノ武帝捨テヽ↢老子ノ教ヲ↡永ク帰シ↢仏教ニ↡受ク↢菩薩ノ戒ヲ↡。今¬弁正論¼、以テ↠明テ↢此ノ事ヲ↡為↢要須ト↡也。
問とふ。 いまの ¬鈔しょう¼ の中なかにこの論文ろんもんを引ひく、 なんの要ようかあるや。
問。今ノ¬鈔ノ¼之中ニ引ク↢此ノ論文ヲ↡、有ル↢何ノ要カ↡耶。
答こたふ。 外げの邪じゃ教きょうを捨すてて内ないの正しょう法ぼうに入いるは衆しゅ生じょうの依怙えこ、 仏ぶっ教きょうの本ほん意いなり。 この事じを顕あらわすがゆゑに引用いんようせらるるか。 はたまたこれを謂おもふに、 外げ教きょう・内ない教きょうすこぶる対論たいろんにあらず、 天てんと地ちとのごとし。 比ひ校きょうに及およぶは、 教きょう主しゅ世せ尊そんこれ仏身ぶっしんなりといへども、 なほこれ応身おうじん、 娑しゃ婆ばに居こするがゆゑにたやすく季き老ろうをもつてその勝しょう劣れつを論ろんず。 ゆゑに化け身しん土どを明あかすところの当巻とうかんにおいてこれを引ひく。 弥陀みだの報身ほうじんさらに比ひ量りょうにあらず。 この義ぎを顕あらわさんがためにもつとも大切たいせつなるか。 おほよそこの論文ろんもん、 一々いちいちの文もん義ぎ、 たやすくは解げすべからず、 また要須ようしゅにあらず。 しかりといへどもほぼ諸篇しょへんの科か段だんを勘かんがみて、 文もんの出しゅっ処しょ名みょう目もく等とうを示しめすらくのみ。
答。捨↢テヽ外ノ邪教ヲ↡入ルハ↢内ノ正法ニ↡衆生ノ依怙、仏教ノ本意ナリ。顕スガ↢此ノ事ヲ↡故ニ被↢引用セ↡歟。将又謂フニ↠之ヲ、外教・内教頗ル非ズ↢対論ニ↡、如シ↢天ト与 トノ↟地。而ニ及ブハ↢比1332校ニ↡、教主世尊是 レ雖ヘ↢仏身也ト↡、猶是 レ応身、居スルガ↢娑婆ニ↡故ニ輙ク以テ↢季老ヲ↡論ズ↢其ノ勝劣ヲ↡。故ニ於テ↧所ノ↠明ス↢化身土ヲ↡之当巻ニ↥引ク↠之ヲ。弥陀ノ報身更ニ非ズ↢比量ニ↡。為ニ↠顕ンガ↢此ノ義ヲ↡尤大切ナル歟。凡ソ此ノ論文、一一ノ文義、不↠可↢輙ク解ス↡、又非ズ↢要須ニ↡。雖↠然ト粗勘テ↢諸篇ノ科段ヲ↡、示スラク↢文ノ出処名目等ヲ↡耳。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『法事讃』文
【99】▲次つぎに大だい師しの釈しゃくは、 ¬法ほう事じ讃さん¼ の下げの六方ろっぽう段だんの終おわり、 上じょう方ほうの讃さんなり。
次ニ大師ノ釈ハ、¬法事讃ノ¼下ノ六方段ノ終、上方ノ讃也。
▲「還舒かんじょ」 とらは、 「還かん」 は ¬玉ぎょく篇へん¼ にいはく、 「胡こ関かん、 徐じょ宣せん二にの切せつ、 退たい、 復ふくなり。」 ¬広韻こういん¼ にいはく、 「戸こ関かんの切せつ、 反はんなり、 退たいなり、 顧こなり、 復ふくなり。 又うの音おん旋せん。」 いま 「還かん」 といふはこれ退たいの義ぎにあらず、 これ復ふくの訓くんなり。 上かみ五ご方ほうに対たいしていま復またといふなり。
「還舒ト」等者、「還ハ」¬玉篇ニ¼云、「胡関、徐宣二切、退、復也。」¬広韻ニ¼云、「戸関ノ切、反也、退也、顧也、復也。又ノ音旋。」今言↠「還」者是非ズ↢退ノ義ニ↡、是復ノ訓也。対シテ↢上五方ニ↡今言↠復ト也。
▲「十じゅう悪あく」 とらは、 これ十じゅう悪あく・五ご逆ぎゃくの下機げき仏法ぶっぽうを疑ぎ謗ほうし邪じゃ鬼きを信しんずるがゆゑにもろもろの災さい禍かを招まねくことを明あかす。 ただしいま一切いっさい悪あく逆ぎゃくの衆しゅ生じょう等とうかならずかくのごとくなるべしといふにはあらず。 悪あく逆ぎゃくの下げ根こん、 専せん念仏ねんぶつの機き、 邪じゃ鬼きの信しん不ぷ、 機きの性しょう欲よくによりて誡勧かいかんに随したがふべし。 ゆゑにこれを捨すてて弥陀みだを念ねんずべしと勧すすむ。 これまた邪神じゃしんに事つかふるに就つきてこれをいふ。 ゆゑに 「信邪しんじゃ」 といひ 「餧い神しん魔ま」 といふ。 深ふかく思し択ちゃくすべし。
「十悪ト」等者、是 レ明ス↧十悪・五逆ノ下機疑↢謗シ仏法ヲ↡信ズルガ↢邪鬼ヲ↡故ニ招コトヲ↦諸ノ災禍ヲ↥。但シ今非ズ↠謂ニハ↣一切悪逆ノ之衆生等可シト↢必ズ如ナル↟此ノ。悪逆ノ下根、専念仏ノ機、邪鬼ノ信不、依テ↢機ノ性欲ニ↡可シ↠随↢誡勧ニ↡。故ニ*勧ム↢捨テヽ↠之ヲ可シト↟念ズ↢弥陀ヲ↡。是*又就テ↠事ニ↢邪神ニ↡言フ↠之ヲ。故ニ云ヒ↢「信邪ト」↡云フ↢「餧神魔ト」↡。深ク可↢思択ス↡。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『法界次第』文
【100】次つぎに ▲「天台てんだい法界ほうかい」 とらいふは、 かの ¬書しょ¼、 天台てんだい大だい師しの撰せん述じゅつ三巻さんかんの書しょなり。 所しょ述じゅつの法門ほうもんおほよそ三さん百びゃっ科か、 その第だい一巻いっかんに二じ十じっ科かあり。 その第だい十じゅう三さん、 三さん帰き戒かいの科かに載のするところの文もんなり。
次ニ言↢「天臺法界ト」等↡者、彼ノ¬書¼、天臺大師ノ撰述三巻ノ書也。所述ノ法門凡ソ三百科、其ノ第一巻ニ有リ↢二十科↡。其ノ第十三、三帰戒ノ科ニ所ノ↠載スル文也。
その本文ほんもんに校きょうするにいささか広こう略りゃく増減ぞうげん等とうの差しゃあり、 かのつぶさなる文もん (法界次第巻上) にいはく、 「▲一いちには帰依きえ仏ぶつ、 仏ぶっ陀だ秦しんには覚者かくしゃといふ。 自じ覚かく覚かく他たす、 ゆゑに名なづけて仏ぶつとなす。 帰きとは反還ほんげんをもつて義ぎとなす。 邪じゃに帰きせずして還かえりて正しょう師しに帰きす、 ゆゑに帰きと名なづく。 依えとは憑ひょうなり、 心こころの霊りょう覚かくに憑たのみて三さん途ずおよび三界さんがいの生しょう死じを出いづることを得う。 ゆゑに ¬経きょう¼ にいはく、 仏ぶつに帰依きえする者ものはつひにさらにその余よのもろもろの外げ天神てんじんに帰依きえせず。
校スルニ↢其ノ本文ニ↡聊有リ↢広略増減等ノ差↡。彼ノ具ナル文ニ云、「一ニハ帰依仏、仏陀秦ニハ言フ↢覚者1333ト↡。自覚々他ス、故ニ名テ為ス↠仏ト。帰ト者以テ↢反還ヲ↡為ス↠義ト。不シテ↢邪ニ帰セ↡還テ帰ス↢正師ニ↡、故ニ名ク↠帰ト。依ト者*憑也。*憑テ↢心ノ霊覚ニ↡得↠出コトヲ↢三途及ビ三界ノ生死ヲ↡也。故ニ¬経ニ¼云、帰↢依スル於仏ニ↡者 ノハ終ニ不ズ↣更ニ帰↢依セ其ノ余ノ諸ノ外天神ニ↡也。
▲二にには帰依きえ法ほう、 達だつ摩ま秦しんには法ほうといふ、 法ほうをば可か帰軌ききといふ。 大だい聖しょうの所説しょせつ、 もしは教きょうもしは理り、 心しん軌きに可かなふゆゑに法ほうといふ。 帰きとは邪法じゃほうを反かえす。 還かえりて正しょう法ぼうを修しゅす、 ゆゑに帰きと名なづく。 依えとは心こころ仏ぶつ所説しょせつの法ほうを憑たのみて、 三さん途ずおよび三界さんがいの生しょう死じを出いづることを得う。 ゆゑに ¬経きょう¼ にいはく、 法ほうに帰依きえする者ものは永ながく殺害せつがいを離はなる。
二ニハ帰依法、達*摩秦ニハ言↠法ト、法ヲバ云フ↢可帰軌ト↡。大聖ノ所説、若ハ教若ハ理、可カナフ↢心軌ニ↡故ニ言↠法ト也。帰ト者反ス↢邪法ヲ↡。還テ修ス↢正法ヲ↡、故ニ名ク↠帰ト。依ト者*憑テ↢心仏所説ノ法ヲ↡、得↠出コトヲ↢三途及ビ三界ノ生死ヲ↡也。故ニ¬経ニ¼云ク、帰↢依スル於法ニ↡者 ノハ永ク離↢於殺害ヲ↡也。
▲三さんには帰依きえ僧そう、 僧そう伽ぎゃ秦しんには衆しゅうといふ、 衆しゅうは和わ合ごうに名なづく。 出しゅっ家け三さん乗じょうの行ぎょう者じゃ、 心こころ仏ぶつの所説しょせつの事理じりの法ほうと合がっす、 ゆゑに名なづけて僧そうとなす。 帰きとは九く十じゅう五ご種しゅの邪じゃ行ぎょうの侶ともづれを反かえして心こころに出しゅっ家け三さん乗じょう正行しょうぎょうの伴ともに帰きす、 ゆゑに帰きと名なづく。 依えとは心こころに出しゅっ家け三さん乗じょう正行しょうぎょうの伴ともに憑たのみて、 三さん塗ずおよび三界さんがいの生しょう死じを出いづることを得う。 ゆゑに ¬経きょう¼ にいはく、 僧そうに帰依きえする者ものは永ながくまたさらにそのもろもろの外げ道どうに帰依きえせず。」 以上
三ニハ帰依僧、僧伽秦ニハ言フ↠衆ト、衆ハ名ク↢和合ニ↡。出家三乗ノ行者、心与↢仏ノ所説ノ事理ノ法↡合ス、故ニ名テ為ス↠僧ト。帰ト者反シテ↢九十五種ノ邪行ノ之侶ヲ↡帰ス↢心ニ出家三乗正行之伴ニ↡、故ニ名ク↠帰ト。依ト者*憑テ↢心ニ出家三乗正行之伴ニ↡、得↠出コトヲ↢三塗及ビ三界ノ生死ヲ↡也。故ニ¬経ニ¼云ク、帰↢依スル於僧ニ↡者 ノハ永ク不ズ↣復更ニ帰↢依セ其ノ諸ノ外道ニ↡。」 已上
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・ 慈雲釈文
【101】▲次つぎに慈じ雲うん師しの釈しゃく。 かの師し所造しょぞう ¬往おう生じょう略りゃく伝でん¼ の序じょの中なかの文もんなり。
次ニ慈雲師ノ釈。彼ノ師所造¬往*生略伝ノ¼序ノ中ノ文也。
「▲韋陀いだ」 といふは、 天竺てんじくの外げ典てん、 治ち国こくの書しょの名な、 あるいは毘陀びだといひあるいは吠ばい陀だといふ。 ならびにこれ梵言ぼんごん、 ここには智ち論ろんといふ。 これに四し種しゅあり。 ¬律りつの名みょう句く¼ (巻上意) にいはく、 「一いちには億力おくりき韋陀いだ、 事火じか懴さん悔げの法ほうを説とく。 二にには耶や受じゅ これに異い説せつあり 韋陀いだ、 布施ふせ祠祀ししの法ほうを説とく。 三さんには阿陀あだ韋陀いだ、 あきらかに異い国こく国戦こくせんの法ほうを知しる。」 以上 いまいふところはこれ第だい二になり。 韋陀いだはこれ総そう、 祠祀ししはこれ別べつ、 祭さい祀しを論ろんぜんと欲ほっするにただ韋陀いだといふ。 これはこれ総属そうぞく別べつ名みょうの義ぎなり。
言↢「韋陀ト」↡者、天竺ノ外典、治国ノ書ノ名、或ハ云ヒ↢毘陀ト↡或ハ云フ↢吠陀ト↡。並ニ是 レ梵言、此ニハ云↢智論ト↡。此ニ有リ↢四種↡。¬律ノ名句ニ¼云、「一ニハ億力韋陀、説ク↢事火懴悔ノ法ヲ↡。二ニハ耶受 此ニ有リ↢異説↡ 韋陀、説ク↢布*施祠祀ノ法ヲ↡。三ニハ阿陀韋陀、明ニ知ル↢異国国戦ノ法ヲ↡。」 已上 今所↠言者是 レ第二也1334。韋陀ハ是 レ総、祠祀ハ是 レ別、欲スルニ↠論ゼント↢祭祀ヲ↡只言フ↢韋陀ト↡。此ハ是 レ総属別名ノ義也。
「▲祀し典てん」 といふは、 すなはちこれ祠祀ししを明あかすところの書しょなり。 ただしそのつぶさなる文もんを見みるに及およばざれば、 釈しゃくの意こころを達たっしがたし。
言↢「祀典ト」↡者、即是 レ所ノ↠明↢祠祀ヲ↡書也。但シ不↠及↠見ニ↢其ノ具ナル文ヲ↡者、難シ↠達シ↢釈ノ意ヲ↡。
次上つぎかみの文もん (楽邦文類巻二) にいはく、 「今こん時じの風俗ふうぞく競きおいて鬼き神じんを祭まつりてその福祐ふくゆうを求もとめ、 望のぞみて安穏あんのんを得う。 邪じゃを信しんじ命いのちを殺せっして罪つみを造つくり冤えんを結むすぶに、 かならず福ふく慶きょうとして人ひとを利りすべきなし。 むなしく来らい生しょう地じ獄ごくの罪報ざいほうを招あねく。 ¬易えき¼ にいはく、 不ふ善ぜんを積つむ家いえにはかならず余よ殃おうあり。 生しょうを殺せっし命いのちを害がいして祭さい祀しを祖そ承じょうすること一いっ朝ちょう一夕いっせきにあらず、 あに不ふ善ぜんを積つむにあらずや、 殃おう咎ぐなんぞ疑うたがはん。 もし生しょうを殺せっする不ふ善ぜんにあらずといはば、 古こ今こんの帝王たいおう、 なんがゆゑぞ仁じん慈じ世よを化けして残ざんに勝かち、 殺せつを去すて禽きん魚ぎょ性しょうを遂とげて寿域じゅいきに登のぼらしむるをことごとく善ぜんと称しょうするや。」 この次下つぎしもにいまの所引しょいんの文もんあり
次上ノ文ニ云、「今時ノ風俗競テ祭テ↢鬼神ヲ↡求メ↢其ノ福祐ヲ↡、望テ得ウ↢安穏ヲ↡。信ジ↠邪ヲ殺シテ↠命ヲ造リ↠罪ヲ結ブニ↠冤エンヲ、必ズ無シ↢福慶トシテ而可キ↟利ス↠人ヲ。虚ク招ク↢来生地獄ノ罪報ヲ↡。¬易ニ¼曰、積ム↢不善ヲ↡之家ニハ必ズ有リ↢余殃↡。殺シ↠生ヲ害シテ↠命ヲ祖↢承スルコト祭祀ヲ↡非ズ↢一朝一夕ニ↡、豈非↠積ムニ↢不善ヲ↡耶、殃咎何ゾ疑ハン也。若言イハ↣殺スル↠生ヲ非ト↢不善ニ↡者、古今ノ帝王、何ガ故ゾ仁慈化シテ↠世ヲ勝カチ↠残ニ、去ステ↠殺ヲ禽魚遂テ↠性ヲ令ルヲ↠登ラ↢寿域ニ↡咸ク称スル↠善ト耶。」 此ノ次下ニ有リ↢今ノ所引ノ文↡
またいはく、 「天趣てんしゅは上かみにあり、 人にんはその次つぎに居おり、 修しゅ羅らは中なかに処おり、 鬼き畜ちくはこれ下しもなり。 ▽いまもつて人にん鬼きに事つかふ、 それなほ首くびを俛ふせて足あしに就つくるがごとし。 そもそも君きみ民たみに奉つかふ、 なんぞ逆ぎゃくの甚はなはだしきや。 また鬼きに邪力じゃりきあり、 これに事つかふることすでに久ひさし。 物党ぶっとう方ほう類るい死ししてその中なかに堕だす、 世よそれ迷まよへるかな」 。
又云ク、「天趣ハ在リ↠上ニ、人ハ居リ↢其ノ次ニ↡、修羅ハ処リ↠中ニ、鬼畜ハ斯 レ下ナリ。今以テ人事フ↠鬼ニ、其 レ猶シ↢俛フセテ↠首ヲ就ツクルガ↟足ニ。抑君奉フ↠民ニ、何ゾ逆ノ之甚シキヤ也。又鬼ニ有リ↢邪力↡、事コト↠之ニ既ニ久シ。物党方類死シテ堕ス↢其ノ中ニ↡、世其 レ迷ヘル哉カナ。」
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・ 諦観釈文
【102】▲次つぎに観かん法ほっ師しの釈しゃく。
次ニ観法師ノ釈。
▲「梵ぼん語ご」 とらは、 ¬弘ぐ決けつ¼ (輔行) の二ににいはく、 「鬼きとは、 梵ぼんには闍黎しゃれい多たといふ、 ここには祖父そふといふ。」 以上 黎れい梨り異ことなりといへども二字にじ通つうず。
「梵語ト」等者、¬弘決ノ¼二ニ云、「鬼ト者、梵ニハ云フ↢闍黎多ト↡、此ニハ云↢祖父ト↡。」 已上 黎梨雖ヘ↠異ナリト二字通ズ也。
▲「作さ下げ品ぼん五ご逆ぎゃく」 とらいふは、 もし常じょう途ず地じ獄ごく・鬼き・畜ちくの次し第だいによらば中ちゅう品ぼんたるべし、 しばらく地じ獄ごく・畜ちく生しょう・餓鬼がきの辺へんによるか。 ¬法ほっ華け¼ の第だい二に 「譬喩ひゆ品ぼん」 にいはく、 「現げんに衆しゅ苦くを受うけ、 後のちに地じ獄ごく・畜ちく生しょう・餓鬼がきの苦くを受うく。」 以上 また ¬倶く舎しゃ論ろん¼ の第八だいはち (玄奘訳世品) の偈げ頌じゅに五ご趣しゅを挙あげて 「地じ獄ごく・傍ぼう生しょう・鬼き」 といふ。 以上
言↢「作下品五逆ト」等↡者、若シ依ラバ↢常途地獄・鬼・畜ノ之次第ニ↡者可シ↠為↢中品↡、且ク依ル↢地獄・畜生・餓鬼ノ辺ニ↡歟。¬法*花ノ¼第二「譬喩品ニ」云、「現ニ受ケ↢衆苦ヲ↡、後ニ受ク↢地獄・畜生・餓鬼ノ之苦ヲ↡。」 已上 又¬倶舎論ノ¼第八ノ偈1335頌ニ挙テ↢五趣ヲ↡云フ↢「地獄・傍生・鬼ト」↡。 已上
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・ 神智釈文
【103】▲次つぎに神じん智ち師しの釈しゃく、 上かみの所引しょいんの観かん師しの釈しゃくを解げす。
次ニ神智師ノ釈、解ス↢上ノ所引ノ観師ノ釈ヲ↡也。
▲「鬼之きし」 とらは、 同どう ¬決けつ¼ の二に (輔行) にいはく、 「¬爾雅じが¼ にいはく、 鬼きとは帰きなり。 ¬尸子しし¼ にいはく、 古いにしえには死し人にんを名なづけて帰き人にんとす。 またいはく、 人神じんしんを鬼きといひ、 地じ神じんを祇ぎといひ、 天神てんじんを霊れいといふ。」 以上 いま智師ちしの意こころ、 この釈しゃくを摸もするか。 ただし欠かんずるところは人神じんしんの釈しゃく、 また違いするところは天神てんじんを鬼きといひ霊れいといふ異いなり。
「鬼之ト」等者、同¬決ノ¼二ニ云、「¬爾雅ニ¼云ク、鬼ト者帰也。¬尸子ニ¼曰、古者イニシヘニハ名テ↢死人ヲ↡為ス↢帰人ト↡。又云、人神ヲ曰ヒ↠鬼ト、地神ヲ曰ヒ↠祇ト、天神ヲ曰↠霊ト。」 已上 今智師ノ意、摸スル↢此ノ釈ヲ↡歟。但シ所↠欠カンズル者人神ノ之釈、又所↠違スル者天神ヲ云ヒ↠鬼ト云フ↠霊ト異也。
「▲尸子しし」 といふは外げ書しょの名ななり。 ¬爾雅じが¼ の文もんにいはく、 「鬼きとは帰き」、 ¬尸子しし¼ の言ことばに 「帰き人にんと名なづく」 といふ。 けだしこれ俗典ぞくてんには生しょう死じ解げ脱だつの理りを談だんぜざるがゆゑに、 黄泉こうせんに趣おもむくをもつて称しょうして帰き泉せんといふ。 幽ゆう冥みょうの魂魄こんぱくをみな鬼きとするなり。
言↢「尸子ト」↡者外書ノ名也。¬爾雅¼之文ニ云ク、「鬼ト者帰」、¬尸子¼之言ニ云フ↠「名ト↢帰人ト↡」。蓋シ是 レ俗典ニハ不ガ↠談ゼ↢生死解脱ノ理ヲ↡故ニ、以テ↠趣クヲ↢黄泉ニ↡称シテ云フ↢帰泉ト↡。幽冥ノ魂魄ヲ皆為↠鬼ト也。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・ 大智釈文
【104】▲智ち律りっ師しの釈しゃくに、
智律師ノ釈ニ、
▲「総そう収しゅう」 とらは、 鬼きはすなはち餓鬼がき、 本処ほんじょはこれ閻えん浮ぶ提だいの下した五ご百ひゃく由ゆ旬じゅん閻えん魔ま王界おうかいにあり。 もし五ご趣しゅを立たつれば阿あ修しゅ羅らを除のぞく。 劣れつなる者ものをば鬼きに摂せっし、 勝しょうたる者ものをば天てんに属ぞくす、 ゆゑに天てん修しゅに通つうず。 地じ獄ごくに通つうずとは、 いはく閻えん魔ま王おう獄ごくを領りょうするがゆゑなり。
「総収ト」等者、鬼ハ即餓鬼、本処ハ是在↢閻浮提ノ下五百由旬閻魔王界ニ↡。若シ立レバ↢五趣ヲ↡除ク↢阿修羅ヲ↡。劣ナル者 ノヲバ摂シ↠鬼ニ、勝タル者 ノヲバ属ス↠天ニ、故ニ通ズ↢天修ニ↡。通ズト↢地獄ニ↡者、謂ク閻魔王領スルガ↠獄ヲ故也。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・ 戒度釈文
【105】▲度ど律りっ師しの釈しゃくに、
度律師ノ釈ニ、
▲「魔ま即そく」 とらは、 あるいは開合かいごうによりあるいは広こう狭きょうに就つきて、 鬼魔きま別べつに似にたれどもその体たいつひに同おなじ。 またかの△三さん十じゅう六ろく狩しゅ等とうは、 みなこれ魚ぎょ・虫ちゅう・禽きん・獣じゅうの類るいなるがゆゑに畜趣ちくしゅに摂せっすべし、 ゆゑに 「悪道あくどうの所しょ収しゅう」 といふらくのみ。
「魔即ト」等者、或ハ依リ↢開合ニ↡或ハ就テ↢広狭ニ↡、鬼魔似レドモ↠別ニ其ノ体終ニ同ジ。又彼ノ三十六狩等者、皆是 レ魚・虫・禽・獣ノ類ナルガ故ニ可シ↠摂ス↢畜趣ニ↡、故ニ云ラク↢「悪道ノ所収ト」↡而已。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『止観』文
【106】▲次つぎに ¬止し観かん¼ の文もんは、 第だい八巻はちかんの釈しゃく。
次ニ¬止観ノ¼文ハ、第八巻ノ釈。
所引しょいんの上かみのつぶさなる解げ釈しゃく (止観巻八下) にいはく、 「いま魔まを明あかすに五ごとなす。 一いちには同どう異いを分別ふんべつし、 二にには発相ほっそうを明あかし、 三さんには妨損ぼうそんを明あかし、 四しには治じ法ほうを明あかし、 五ごには止し観かんを修しゅす。」 以上
所引ノ之上ノ具ナル解釈ニ云、「今明ニ↠魔ヲ為ス↠五ト。一ニハ分↢別1336シ同異ヲ↡、二ニハ明シ↢発相ヲ↡、三ニハ明シ↢妨損ヲ↡、四ニハ明シ↢治法ヲ↡、五ニハ修ス↢止観ヲ↡。」 已上
▲「二に明みょう」 とらは、 挙あぐるところの内うち第だい二にの文段もんだん。
「二明ト」等者、所ノ↠挙ル之内第二ノ文段。
「▲慢まん悵ちょう鬼き」 とは、 ¬止し観かん¼ (巻八下) の本文ほんもんには 「惕ついてき鬼き」 といふ。 「つい」 あるいは 「槌つい」 となす、 「慢まん悵ちょう」 いまだ見みず、 異い本ほんあるか。 いまこの文もんに向むかひてその相そうを知しりがたし、 よりてつぶさなる文もんを出いだす。 その次つぎの文もんにいはく、 「一いちに惕ついてきの発ほっすることをいはば、 もし人ひと坐ざする時ときあるいは頭ず面めんにより、 あるいは人ひとの身体しんたいによる。 堕おちてまた上あがり、 翻覆ほんぷくして已やまず、 苦く痛つうなしといへどもしかも屑々せつせつとして耐たへがたし。 あるいは人ひとの耳みみ・眼め・鼻はなを損そんし、 あるいは抱ほう持じ撃きゃく擽らくして物ものあるに似如にたり。 捉とるに得うべからず、 駆かり已おわればまた来きたる。 啾しゅう㗫せいとして声こえをなして人ひとの耳みみに鬧さわがし。 この鬼き面かおは枇杷びわに似にたり。 四し目もく両りょう口くあり。
「慢悵鬼ト」者、¬止観ノ¼本文ニハ言フ↢「惕鬼ト」↡。「」或ハ為ス↠「槌ト」、「慢悵」未 ズ ダ↠見、有ル↢異本↡歟。今向テ↢此ノ文ニ↡難↠知リ↢其ノ相ヲ↡、仍テ出ス↢具ナル文ヲ↡。其ノ次ノ文ニ云、「一ニハ惕ノ発スルコトヲイハヾ者、若シ人坐スル時或ハ縁ヨリ↢頭面ニ↡、或ハ縁ル↢人ノ身体ニ↡。堕オチテ而復上アガリ、翻覆シテ不↠已ヤマ、雖↠无ト↢苦痛↡而モ屑セツ々トシテ難シ↠耐ヘ。或ハ損シ↢人ノ耳・眼・鼻ヲ↡、或ハ抱持撃擽シテ似↢如タリ有ルニ↟物。捉トルニ不↠可↠得、駆リ已レバ復来ル。啾シウ㗫セイトシテ作シテ↠声ヲ鬧シ↢人ノ耳ニ↡。此ノ鬼面ハ似タリ↢枇杷ニ↡。四目両口アリ。
二にに▲時媚じみの発おこることをいはば、 ¬大だい集じゅう¼ に十じゅう二に狩しゅを明あかす。 宝山ほうざんの中なかにありて法縁ほうえんの慈じを修しゅす、 これはこれ精しょう媚みの主しゅなり。 権応ごんおうの者ものはいまだかならずしも悩のうをなさず。 実者じっしゃはよく行ぎょう人にんを乱みだる。 もし邪想じゃそうの坐ざ禅ぜんは多おおく時媚じみに著じゃくせらる。 あるいは少しょう男なん・少しょう女にょ、 老男ろうなん・老女ろうにょ、 禽きん獣じゅうの像ぞうとなりて、 殊しゅ形ぎょう異い貌みょう種々しゅじゅ不ふ同どうなり。 あるいは人ひとを娯ご楽らくせしめ、 あるいは教おしへて人ひとに詔しょうす。 いま時じ獣じゅうを分別ふんべつせんと欲ほっせば、 まさに十じゅう二に時じを察さっすべし。 いづれの時ときにかしばしば来きたる。 その来きたる時ときに随したがひてすなはちこの狩しゅなり。 もし寅とらはこれ虎とら、 乃ない至し丑うしはこれ牛うしなり。 乃至
二ニ時媚ノ発ルコトヲイハヾ者、¬大集ニ¼明ス↢十二狩ヲ↡。在テ↢宝山ノ中ニ↡修ス↢法縁ノ慈ヲ↡、此ハ是 レ精媚ノ之主ナリ。権応ノ者 ノハ未ダ↢必シモ為ナサ↟悩ヲ。実者ハ能ク乱ル↢行人ヲ↡。若邪想ノ坐禅ハ多ク著セラル↢時媚ニ↡。或ハ作テ↢少男・少女、老男・老女、禽獣之像ト↡、殊形異貌メウ種々不同ナリ。或ハ娯↢楽セシメ人ヲ↡、或ハ教テ詔ス↠人ニ。今欲セ↣分↢別セント時獣ヲ↡者、当ニシ↠察ス↢十二時ヲ↡。何ノ時ニカ数シバ来ル。随テ↢其ノ来ル時↡即此ノ狩也。若シ寅ハ是 レ虎、乃至丑ハ是 レ牛ナリ。 乃至
次つぎに▲魔羅まらを明あかさば、 二に善ぜんを破はし二に悪あくを増ぞうせんがためのゆゑに、 喜このんで五ご根こんより強軟ごうなんをなして来きたりて破はす。 ¬大論だいろん¼ にいはく、 魔まをば華け箭せんと名なづく、 また五ご箭せんと名なづく。 おのおの五ご根こんを射いてともに意こころを壊えす。 五ご根こんおのおの一刹いっせつ那なあり。 刹せつ那なもし転てんずればすなはち意い根こんに属ぞくす。 意い根こんもし壊えせば五ご根こんあに存ぞんぜんや。 眼めに可か愛あいの色しきを見みるを華け箭せんと名なづく、 これ軟賊なんぞくなり。 可畏かいの色しきを見みるを毒箭どくせんと名なづく、 これ強賊ごうぞくなり。 平々ひょうびょうの色しきを見みるは、 不ふ強ごう不ふ軟なん賊ぞくなり。 余よの四し根こんもまたかくのごとし。 合がっして十じゅう八箭はちせんはまたは十じゅう八受はちじゅと名なづく。 この義ぎをもつてのゆゑに愛あい著じゃくすべからず、 著じゃくすればすなはち病やまいを成じょうず。 病やまいすなはち治じしがたし、 永ながく禅ぜん定じょうを妨さまたげて死しして魔ま道どうに随だす。」 以上
次ニ明サ↢魔羅ヲ↡者、為ノ↧破シ↢二善ヲ↡増センガ↦二悪ヲ↥故ニ、喜コノンデ従リ↢五根↡作ナシテ↢強軟ヲ↡来テ破ス。¬大論ニ¼云、魔ヲバ名ク↢華箭ト↡、又名ク↢五箭ト↡。各射テ↢五根ヲ↡共ニ壊ス↢於意ヲ↡。五根各一刹那アリ。刹那若シ転ズレバ即属ス↢意根ニ↡。意根若シ壊セバ五根豈存ゼンヤ。眼ニ見ヲ↢可愛ノ色ヲ↡名ク↢華箭ト↡、是 レ軟賊ナリ。見ヲ↢可畏ノ色ヲ↡名ク↢毒箭ト↡、是 レ強賊ナリ。見ルハ↢平々ノ之色1337ヲ↡、不強不軟賊ナリ。余ノ四根モ亦如↠是ノ。合テ十八箭亦ハ名ク↢十八受ト↡。以ノ↢是ノ義ヲ↡故ニ不↠応カラ↢*愛著ス↡、著スレバ則成ズ↠病ヲ。病則難シ↠治シ、永ク妨テ↢禅定ヲ↡死シテ堕ス↢魔道ニ↡。」 已上
魔まは多おおく禅ぜんを乱みだるゆゑに治じ法ほうを明あかす。 その治じ法ほうとは止し観かんの修しゅ行ぎょう、 修しゅ行ぎょう成じょうぜざれば魔ま障しょう離はなれがたし、 ゆゑにこれ難なん行ぎょうなり。 念仏ねんぶつの行ぎょう者じゃはさらに魔ま障しょうなし。 他た力りきの冥みょう加がもつともこれを仰あおぐべし。
魔ハ多ク乱ル↠禅ヲ故ニ明ス↢治法ヲ↡。其ノ治法ト者、止観ノ修行、修行不レバ↠成魔障難シ↠離レ、故ニ是 レ難行ナリ。念仏ノ行者ハ更ニ无シ↢魔障↡。他力ノ冥加最モ可シ↠仰グ↠之ヲ。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『往生要集』文
【107】▲次つぎに楞りょう厳ごんの釈しゃく。
次ニ楞厳ノ釈。
▲「魔ま者しゃ」 とらは、 起き惑わく妨ぼう果かは出しゅっ世せの魔ま障しょう、 起き病びょう奪だつ命みょうは世せ門もんの鬼き難なん。 真俗しんぞくの障しょう礙げ、 ことにこれを慎つつしむべし。 現当げんとうの留る難なん、 たれか恐おそれざらんや。
「魔者ト」等者、起惑妨果ハ出世ノ魔障、起病奪命ハ世門ノ鬼難。真俗ノ障、殊ニ可シ↠慎↠之。現当ノ留難、誰カ不↠恐乎。
二 Ⅱ ⅵ c ロ ・『論語』文
【108】▲次つぎに ¬論ろん語ご¼ の文もん。 これ第だい六巻ろっかん第だい十じゅう一いちの篇へん先進せんしんの詞ことばなり。
次ニ¬論語ノ¼文。是 レ第六巻第十一ノ篇先進ノ詞也。
▲「子し曰わつ」 とらは、 その文点もんてんを読よみて二にの意こころを存ぞんずべし。 一いちには 「人じん」 の字じより還かえりて 「焉えん」 の字じ以下いげ五字ごじ読よみ切きる。 「神じん」 の字じあるいはなし。 義ぎの意こころは人ひとに事つかふることなほ容よう易いならず、 いはんや鬼きに事つかへんや。 いふこころは及およびがたきなり。 いまこの文点もんてん、 清せい中ちゅうに両りょう家けともに読よみ来きたる、 説せつこれ一同いちどうなり。 しかるに今こん聖しょう人にんさらに別べつの義ぎを存ぞんじたまふ。 いはく初はじめの三さん字じこれを読よみ切きるべし。 いふこころは事つかふることなかれとなり。
「子曰ト」等者、読テ↢其ノ文点ヲ↡可シ↠存ズ↢二ノ意ヲ↡。一ニハ還テ↠自↢「人ノ」字↡「焉ノ」字以下五字読ミ切ル。「神ノ」字或ハ无シ。義ノ意ハ事コト↠人ニ猶不↢容易↡、況ヤ事ヘンヤ↠鬼乎。言心ハ難キ↠及ビ也。今此ノ文点、清中ニ両家共ニ読ミ来ル、説是 レ一同也。而ニ今聖人更ニ存ジタマフ↢別ノ義ヲ↡。謂ク初ノ三字可シ↣読↢切ル之ヲ↡。言ハ勿レト↠事ルコト也。
▲「人焉じんえん」 とらは、 「焉えん」 は何がなり。 人じんはこれ善趣ぜんしゅ、 鬼きはこれ悪趣あくしゅ、 善趣ぜんしゅの身みとなしてなんぞ悪趣あくしゅに事つかへん。 ゆゑに上かみに引ひくところの慈じ雲うんの釈しゃく (楽邦文類巻二) に 「△いま人ひとをもつて鬼きに事つかへば、 それなほ首くびを俛ふせて足あしに就つくがごとしと」 いふ。 けだしその意こころなり。 後のちの文点もんてんこの釈しゃくに叶かなふか。
「人焉ト」等者、「焉」者何也。「人ハ」是 レ善趣、鬼ハ是 レ悪趣、為シテ↢善趣ノ身ト↡何ゾ事ヘン↢悪趣ニ↡。故ニ上ニ所ノ↠引ク慈雲ノ釈ニ云フ↣「今以テ↠人ヲ事ヘバ↠鬼ニ、其 レ猶シト↢俛フセテ↠首就ツケンガ↟足ニ。」蓋シ其ノ意也。後ノ之文点叶フ↢此ノ釈ニ↡歟。
二 Ⅲ 流通分
【109】△第三だいさんに流る通ずう分ぶんとは、 ▲「竊ひつ以い」 以下いげ、 これその文もんなり。 また当巻とうかんにおいて四科しかを分わかつ時とき、 これを総結そうけつとなす。 中なかにおいて二にとなす。
第三ニ流通分ト者、「竊以」以下、是 レ其ノ文也。又於テ↢当巻ニ↡分ツ↢四科ヲ↡時、為ス↢之ヲ総結1338ト↡。於テ↠中ニ為ス↠二ト。
一いちに文もんの始はじめより 「見けん別伝べつでん」▲ に至いたるまで、 まづ大たい祖そ黒谷くろだにの聖しょう人にん真しん宗しゅう興こう隆りゅう至し徳とくの行状ぎょうじょうを明あかして、 緇素しそ昏迷こんめいをもつてゆゑに妄みだりに浄教じょうきょう浚しゅん怠たいの障しょう難なんを致いたすことを歎たんずることを示しめす。
一ニ自↢文ノ之始↡至マデハ↢「見別伝ニ」↡、先ヅ明シテ↢大祖黒谷ノ聖人真宗興隆至徳ノ行状ヲ↡、示ス↠歎コトヲ↧緇素以テ↢昏迷ヲ↡故ニ妄ニ致コトヲ↦浄教浚怠ノ障難ヲ↥。
二にに ▲「然ねん愚ぐ禿とく」 の下しもは、 次つぎに自じ身しん入にっ宗しゅうの由ゆ来らいを明あかし、 稟ほん教ぎょう得とく利りの師し恩おんを悦よろこぶことを述のぶ。
二ニ「然愚禿ノ」下ハ、次ニ明シ↢自身入*宗ノ由来ヲ↡、述ブ↠悦コトヲ↢稟教得利ノ之師恩ヲ↡。
初はじめの文もんの中なかに就つきて、 ▲「諸しょ寺じ」 とらは、 もつぱら興福こうぶく寺じ浄じょう土ど宗しゅうを立りゅうすべからざることを奏そうす。 山門さんもんこれに同どうず、 ゆゑに 「諸しょ寺じ」 といふ。
就テ↢初ノ文ノ中ニ↡、「諸寺ト」等者、専ラ興福寺奏ス↠不コトヲ↠可↠立ス↢浄土宗ヲ↡也。山門同ズ↠之ニ、故ニ云フ↢「諸寺ト」↡。
▲「洛らく都と」 とらは、 いはく寺訴じそによりて諸しょ卿きょうの意い見けんを召めさるる時とき、 かの寺てらの訴そ謂いわれなきにあらずと奏そうす。
「洛都ト」等者、謂ク依テ↢寺訴ニ↡被ル↠召↢諸卿ノ意見ヲ↡之時、奏ス↢彼寺ノ訴非ズト↟無ニ↠謂也。
▲「猥わい坐ざ」 とらは、 住じゅう蓮れん・安楽あんらく・善ぜん綽しゃく・性しょう願がん、 斬罪ざんざいこれなり。
「猥坐ト」等者、住蓮・安楽・善綽・性願、斬ザン罪是也。
▲「或改わくかい」 とらは、 大たい祖そをば号ごうして藤ふじ井いの元彦もとひこといふ、 鈔しょう主しゅをば名なづけて藤ふじ井いの善信よしざねといふ、 これその類るいなり。 すなはち下しもに称しょうして 「▲予よはその一ひとつなり」 といふ、 これその義ぎなり。
「或改ト」等者、大祖ヲバ号シテ曰フ↢藤井ノ元彦ト↡、鈔主ヲバ名テ云フ↢藤井ノ善信ト↡、是 レ其ノ類也。即下ニ称シテ云フ↢「豫ハ其ノ一也ト」↡、是 レ其ノ義也。
▲「非ひ僧そう」 とらは、 ▲第だい一巻いっかんの初はじめにその撰号せんごうを釈しゃくしその字義じぎを釈しゃくするに、 すなはちいまの文もんを引ひきて註ちゅう解げを加くわへ訖おわりぬ。
「非僧ト」等者、第一巻ノ初ニ釈シ↢其ノ撰号ヲ↡釈スルニ↢其ノ字義ヲ↡、即引テ↢今ノ文ヲ↡加ヘ↢註解ヲ↡訖ヌ。
▲「経きょう五ご」 とらは、 配はい流るの始はじめ承じょう元げん二に年ねん丁ひのと卯のうの暮ぼ春しゅんより、 帰き京きょうの終おわり建けん暦りゃく元年がんねん辛かのえの未ひつじ*仲ちゅう冬とうに至いたるまで、 五ご年ねんを経へ畢おわりぬ。
「経五ト」等者、自リ↢配流ノ始承元二年丁ノ卯ノ暮春↡、至マデ↢帰京ノ終建暦元年辛ノ未仲冬ニ↡、経ヘ↢五年ヲ↡畢ヌ。
「▲居諸きょしょ」 といふは、 これ日月にちがつなり。 つぶさには日にち居きょ月諸がつしょといふこれなり。 「諸しょ」 あるいは 「緒しょ」 となす、 これはこれ非ひなり、 「諸しょ」 を正しょうとすらくのみ。
言↢「居諸ト」↡者、是 レ日月也。具ニハ言フ↢日居月諸ト↡是也。「諸」或ハ為ス↠「緒ト」、此ハ是非也、「諸ヲ」為スラク↠正ト耳。
「▲子し月げつ」 といふは、 これ仲ちゅう冬とうを指さす。
言↢「子月ト」↡者、是 レ指ス↢仲冬ヲ↡。
「▲寅月いんがつ」 といふは、 これ正しょう月がつなり。
言↢「寅月ト」↡者、是 レ正月也。
▲「入洛じゅらく」 といふは、 一本いっぽん 「入にゅう浴よく」、 「浴よく」 の字じ非ひなり、 「洛らく」 の字じたるべし。
言↢「入洛ト」↡者、一本「入浴」、「浴ノ」字非也、可シ↠為↢「洛ノ」字↡。
▲「建仁けんにん」 とらは、 元年がんねん辛かのと酉のとり大たい祖そ聖しょう人にん六ろく十じゅう九く歳さい、 鈔しょう主しゅ聖しょう人にん二に十じゅう九く歳さい、 始はじめて門もん下かに入いりてすなはち宗しゅう旨しを伝つたふ。
「建仁ト」等*者、元年辛酉大祖聖人六十九歳、鈔主聖人二十九歳、始テ入テ↢門下ニ↡即伝フ↢宗旨ヲ↡。
▲「元げん久きゅう」 とらは、 二に年ねん乙きのと丑のうしかたじけなく恩免おんめんに預あずかりて ¬選せん択じゃく集しゅう¼ を写うつす。 かの建仁けんにん入にっ宗しゅうの暦れきよりこの元げん久きゅう伝書でんしょの時ときに至いたるまで前ぜん後ご五ご年ねん、 早速さっそくの恩許おんきょ法ほう宇うの良りょう材ざいを賞しょうせらるゆゑなり。
「元久ト」等者、二年乙ノ丑忝ク預テ↢恩免ニ↡写ス↢¬選択集ヲ¼↡。自リ↢彼ノ建仁入宗1339ノ之暦↡至マデ↢此ノ元久伝書ノ之時ニ↡前後五年、早速ノ恩許被ルヽ↠賞セ↢法宇ノ良材ヲ↡故也。
▲「彼ひ仏ぶつ」 とらは、
「彼仏ト」等者、
問とふ。 この所引しょいんの文もん、 ▲「今こん現在げんざい」 といひて 「世せ」 の字じなし、 その義ぎいかん。
問。此ノ所引ノ文、言テ↢「今現在ト」↡無シ↢「世ノ」之字↡、其ノ義如何。
答こたふ。 伝つたへらるるところの大たい祖その御おん筆ふで、 この一いち字じなし。 よりてかの本ほんに任まかせてこれを除のぞかるるか。 これすなはち経きょう論ろん章しょう疏しょ以下いげ、 かくのごときの文もん字じの増減ぞうげん参しん差しゃ多おおく異い本ほんあり。 随しがたひて大たい祖そ所覧しょらんの本ほんこの字じなきか。 ゆゑにその文もんのごとくこれを書かき与あたへらる、 なんの不ふ審しんかあらん。 いま相伝そうでんに就つきてその本ほんを守まもるがゆゑに、 これを略りゃくせらる。 この 「世せ」 の一いち字じ、 その有無うむにおいて一いち義ぎを構かまふるにあらず、 善悪ぜんあくをいふにあらず。 ただ本ほんにおいて異いある旨むねを存ぞんずるなり。
答。所ノ↠被↠伝ヘ之大祖ノ御筆、無シ↢此ノ一字↡。仍テ任テ↢彼ノ本ニ↡被↠除↠之ヲ歟。是則経論章疏以下、如ノ↠此ノ文字増減参差多ク有リ↢異本↡。随而大祖所覧ノ之本無↢此ノ字↡歟。故ニ如ク↢其ノ*文ノ↡被ル↣書↢与ヘ之ヲ↡、有ラン↢何ノ不審カ↡。今就テ↢相伝ニ↡守ガ↢其ノ本ヲ↡故ニ、被↠略↠之ヲ也。此ノ「世ノ」一字、於テ↢其ノ有無ニ↡非ズ↠構ルニ↢一義ヲ↡、非ズ↠謂ニ↢善悪ヲ↡。只存ズル↢於↠本ニ有ル↠異旨ヲ↡也。
▲「又依うえ」 とらは、 太たい子しの告つげによりて改かい名みょうの子し細さい、 すなはち▲初はじめの巻かん撰号せんごうの解げに載のせ訖おわりぬ。
「又依ト」等者、依テ↢太子ノ告ニ↡改名ノ子細、*即載セ↢初ノ巻撰号ノ解ニ↡訖ヌ。
「▲令りょう書しょ名みょう之字しじ畢ひつ」 といふは、 善信ぜんしんこれなり。
言↢「令書名之字畢ト」↡者、善信是也。
▲「渉しょう年ねん」 とらは、 相伝そうでんの人ひとその数かず多おおからざることを挙あげて、 わが見写けんしゃの逢ほうに遇あへることを示しめす。
「渉年ト」等者、挙テ↢相伝ノ人其ノ数不コトヲ↟多、示ス↢我ガ見写之遇ヘルコトヲ↟逢ニ也。
▲「慶きょう哉さい」 とらは、 まさしく他た力りき安心あんじんの領りょう解げを述のべて、 もつぱら師し徳とく報謝ほうしゃの至し孝こうを表あらわす。 この 「要よう鈔しょう」 集しゅう記きの本ほん意い、 広ひろく順逆じゅんぎゃく二に縁えんともに利りせんことを願がんずることを顕あらわす。
「慶哉ト」等者、正ク述テ↢他力安心ノ領解ヲ↡、専ラ表↢師徳報謝ノ之至孝ヲ↡。顕ス↣此ノ「要鈔」集記ノ本意、広ク願ズルコトヲ↢順逆二縁共ニ利センコトヲ↡。
二 Ⅲ ・『安楽集』文
【110】▲¬安楽あんらく集しゅう¼ の文もんは、 かの ¬集しゅう¼ 上じょう巻かん第一だいいち大門だいもんに、 まづ教きょう興こうの所しょ由ゆを明あかす下しもの釈しゃくなり。
¬安楽集ノ¼文ハ、彼ノ¬集¼上巻第一大門ニ、先ヅ明ス↢教興ノ所由ヲ↡下ノ釈ナリ。
二 Ⅲ ・『華厳経』文
【111】▲¬華け厳ごん経ぎょう¼ の文もん、 その意こころ見みつべし。
¬華厳経ノ¼文、其ノ意可シ↠見ツ。
六ろく要よう鈔しょう 第だい六ろく 旧きゅう末まつ
作者さくしゃ奥書おくがきにいはく
1340作者
奥書云
教行きょうぎょう証しょうは、 列れっ祖そ相そう承じょうの要須ようしゅ、 聖しょう人にん領りょう解げの己こ証しょうなり。 しかるに所引しょいんの本文ほんもん広博こうはくにして、 前ぜん後ごの説相せっそう明あきらめがたし、 所しょ立りゅうの教きょう旨し幽玄ゆうげんにして、 甚深じんじんの義ぎ趣しゅ迷まよひやすし。 しかる間あいだ一いち流りゅう伝来でんらいの耆き老ろう、 なほいまだその義ぎを講こうずる仁じんを聞きかず、 諸国しょこく耽学たんがくの群侶ぐんりょおほくこの書しょの旨むねを了りょうせざることを示しめす。 予よがごとき浅せん智ちたやすくもつてあにあへてせんや。 しかりといへども祖そ徳とく報謝ほうしゃのため、 仏法ぶっぽう弘ぐ通ずうのため、 試こころみに小量しょうりょうの註釈ちゅうしゃくを加くわへ、 かりそめに宏こう智ちの取捨しゅしゃを仰あおぐ、 一いち部ぶ十巻じっかん六要ろくよう鈔しょうと号ごうす。 本書ほんしょすなはち六巻ろっかん、 第三だいさんと第六だいろくとはもとより本末ほんまつあるによりて、 分わかちて八巻はっかんとなす、 愚ぐ鈔しょう同おなじく六巻ろっかん、 第だい二にと六本ろくほん重かさねてまた開ひらくに就つきて、 本末ほんまつ総そうじて十巻じっかんとなす。 簡要かんようを拾ひろふといへどもただ管見かんけんを恥はず、 われすでに顧かえりみるところ庸昧ようまいなり、 人ひとなんぞ嘲ちょう哢ろうを致いたさざらんや。 しかれば堅かたく当台とうだいの文ふみ机づくえに安あんじ、 荒こう涼りょうの流布るふを慎つつしむべし、 ただ他たにはたとひ員外いんがいに処しょすともみづからは久ひさしく心底しんていを労ろうす、 これ随分ずいぶんの功こうなり、 これ超ちょう涯がいの績せきなり。 後塵こうじんの儔ともがら忽諸こっしょせしむることなかれ。 もし万一まんいち一見いっけんを欲ほっする類者るいしゃあらば、 草庵そうあんの中なかにはこれを許ゆるすといへども、 竹窓ちくそうの外そとにはこれを禁きんずべし、 披ひ覧らんなほ制せいを加くわふ、 いはんや書写しょしゃにおいてをや。しかして志こころざしは仮け令りょうの望もうにあらず、 慇懃おんごんを表あらわさん者もの、 早はやく師資ししの契約けいやくをなし、 よろしく相伝そうでんの譜ふ系けいを募つのるべし、 その礼れいを諾だくせざらんにおいてはその実じつなきを知しるべきなり。 この条じょうすでに懇切こんせつの心しんあるにあらず、さらに允容いんようの詞ことばを出いだすなかれ。 身みにおいてまつたく貢高こうこうの思おもいに乖そむかず、 法ほうにおいてひとへに聊りょう爾じの儀ぎなからんとするのみ。
教行証者列祖相承之要須聖人領解之己証也而所引之本文広博兮前後之説相難明所立之教旨幽玄兮甚深之義趣易迷然間一流伝来之耆老猶未聞講其義之仁諸国耽学之群侶多示不了此書之旨如予浅智輙以豈敢雖然為祖徳報謝為仏法弘通試加小量之註釈偸仰宏智之取捨一部十巻号六要鈔本書則六巻第三与第六元自依有本末分為八巻愚鈔同六巻第二与六本重又就開本末総為十巻雖拾簡要只恥管見我已所顧庸昧也人何不致嘲哢哉然者堅安当台之文机応慎荒涼之流布但他縦処員外自久労心底是随分之功也是超涯之績也後塵之儔莫令忽諸若万一有欲一見之類者草庵之中雖許之竹窓之外可禁之披覧猶加制況於書写乎然而志非仮令望表慇懃者早成師資之契約宜募相伝之譜系於不諾其礼者可知無其実也此条既非有懇切之心更勿出允容之詞於身全不挿貢高之思於法偏為無聊爾之儀而已
*延文えんぶん五ご歳さい庚かのえ子ね八月はちがつ一日いちにち 常じょう楽らく台だい主判しゅはん
延文五歳 庚子 八月一日 常楽台主判
重かさねて奥書おくがきにいはく
1341重奥書云
この鈔しょう一いち部ぶ、 禿筆とくひつの草本そうほんをもって。 綱厳こうごん大だい僧そう都ず、 錦きん織しょく寺じに安あん置ちせんがため書かき取とるところなり。 十帖じゅうじょう書写しょしゃの功こうすでに殷勤おんごんたり、 一いち流りゅう弘ぐ通ずうの志こころざしもつとも随ずい喜きするところなり。 校きょう合ごうのところ、 文点もんてん等とう相そう違いなきか、 証しょう本ほんたるに足たる。 堅かたく教きょう誡かいの委い趣しゅを守まもりて、 聊りょう爾じの流布るふを許ゆるすことなからんのみ。
此鈔一部以禿筆草本綱厳大僧都為安置錦織寺所書取也十帖書写之功既為殷勤一流弘通之志尤所随喜也校校合之処文点等無相違歟足為証本堅守教誡之委趣莫許聊爾之流布耳
*貞じょう治じ二に歳さい癸みずのと卯のう三月さんがつ二に十じゅう五ご日にち 老衲ろうのう判はん七しち十じゅう四し歳さい
貞治二歳 癸卯 三月廿五日 老衲判七十四歳
*同どう 三年さんねん甲きのえ辰たつ十じゅう一月いちがつ十じゅう九く日にち十帖じゅうじょうの外げ題だいならびに袖そでの名みょう字じ、 老筆ろうひつを染そめ訖おわりぬ。 存覚ぞんかく七しち十じゅう五ご歳さい
同 三年甲辰十一月十九日十帖外題並袖名字染老筆訖 存覚七十五歳
本願ほんがん寺じ主席しゅせき和か尚しょう上じょう件けんの奥書おくがきの旨むねに任まかせて、 よろしく相伝そうでんの譜ふ系けいの由よしを募つのり、 慇懃おんごんの懇こん志しを抽ぬきんでしむるによりて、 一いち部ぶ十帖じゅうじょうを給たまひこれを授じゅ与よし奉たてまつり訖おわりぬ。 これすなはち仏法ぶっぽう弘ぐ通ずう利り益やく無む辺へんのためなり。
本願寺主席和尚任上件奥書之旨宜募相伝之譜系之由依令抽慇懃之懇志給一部十帖奉授与之訖是則為仏法弘通利益無辺矣
明徳めいとく三年さんねん壬みずのえ申さる五ご月がつ十じゅう六日ろくにち *桑門そうもん慈じ観かん
明徳三年壬申五月十六日 桑門慈観
延書は底本の訓点に従って有国が行った(固有名詞の訓は保証できない)。
底本は ◎本派本願寺蔵明徳三年慈観上人書写本。 Ⓐ本派本願寺蔵文安四年空覚書写本、 Ⓑ興正派興正寺蔵蓮如上人書写本 と対校。
花→Ⓐ華
則→Ⓐ即
廃→◎Ⓑ癈
也→Ⓑ已
三→◎Ⓑ二(◎「三歟」と右傍註記)
応如是→(本願寺蔵版)作護持(延書はこれによる)
嬈 左Ⓐタブロカス
方→(本願寺蔵版)方[木](書下しはこれによる)
狖 左Ⓐ余救反
㺄 Ⓐ「㺄[玉云翼乳切 獣名也]」と上欄註記
念+[法]Ⓑ
噉→◎Ⓑ敢
箴 ◎Ⓑ「或乍鍼」と左傍註記
上 ◎ⒶⒷ「三」と右傍注記
下 ◎ⒶⒷ「四」と右傍注記
宦→Ⓐ官
沙→Ⓐ河
干宝捜神→◎干メ↠宝ヲ捜コト↠神ヲ
頂→ⒶⒷ項
乃至→Ⓐ已上
道 ◎「辺歟」と右傍註記→Ⓐ辺(延書はこれによる)
宦→Ⓐ官
喜 ◎Ⓑ「尹喜也」と左旁註記
薫→Ⓐ董
母→Ⓐ子
者 Ⓑになし
為道本篇第七文→◎為↢道ノ本篇第七ノ」文↡
勧 Ⓑになし
又→Ⓑ又[勧]
憑→Ⓐ馮
摩→Ⓐ磨
生 Ⓑになし
施→Ⓐ陀
愛→◎ⒶⒷ受
宗→Ⓐ字
者 Ⓑになし
文→Ⓐ本
即→Ⓐ既