0578◎高 僧 和 讃
◎高僧和讃
愚禿親鸞作
○龍樹讃
*龍樹菩薩 *釈文に付けて
十首
Ⅰ 龍樹菩薩の功績
(1)
*本師龍樹菩薩は
¬*智度¼ ¬*十住毘婆沙¼ 等
つくりておほく*西をほめ
すすめて念仏せしめたり
(2)
▲*南天竺に比丘あらん
龍樹菩薩となづくべし
*有無の邪見を破すべしと
*世尊はかねてときたまふ
(3)
▲本師龍樹菩薩は
大乗無上の法をとき
歓喜地を証してぞ
ひとへに念仏すすめける
Ⅱ 難易の二道
(40579)
▲龍樹大士世にいでて
難行・易行のみちをしへ
流転輪廻のわれらをば
*弘誓のふねにのせたまふ
(5)
▲本師龍樹菩薩の
をしへをつたへきかんひと
本願こころにかけ*しめて
つねに弥陀を称すべし
トナフベシトナリ
(6)
▲不退のくらゐすみやかに
えんとおもはんひとはみな
*恭敬の心に執持して
コヽロニトリタモツトイフ
弥陀の名号称すべし
(7)
▲生死の苦海ほとりなし
ひさしくしづめるわれらをば
弥陀弘誓のふねのみぞ
のせてかならずわたしける
Ⅲ 念仏の勝益
(8)
▲¬智度論¼ にのたまはく
如来は無上法皇なり
菩薩は法臣としたまひて
尊重すべきは世尊なり
(9)
▲一切菩薩ののたまはく
われら因地にありしとき
無量劫をへめぐりて
万善諸行を*修せしかど
(100580)
*恩愛はなはだたちがたく
生死はなはだつきがたし
念仏三昧行じてぞ
罪障を滅し度脱せし
以上龍樹菩薩
○天親讃
*天親菩薩 釈文に付けて
十首
Ⅰ 造論の本意
(11)
釈迦の教法おほけれど
天親菩薩はねんごろに
*煩悩成就のわれらには
弥陀の弘誓をすすめしむ
Ⅱ 三種の荘厳
(12)
安養浄土の荘厳は
*唯仏与仏の知見なり
▲*究竟せること虚空にして
広大にして辺際なし
ホトリキハナシトナリ
(13)
▲本願力にあひぬれば
むなしくすぐるひとぞなき
▲功徳の宝海みちみちて
煩悩の濁水へだてなし
(14)
▲如来浄華の聖衆は
正覚のはなより化生して
▲衆生の願楽ことごとく
すみやかにとく満足す
(150581)
▲*天・人不動の聖衆は
*弘誓の智海より生ず
▲心業の功徳清浄にて
虚空のごとく差別なし
Ⅲ 往生の因果
(16)
▲天親論主は一心に
無礙光に帰命す
本願力に乗ずれば
報土にいたるとのべたまふ
(17)
尽十方の無礙光仏
一心に帰命するをこそ
天親論主のみことには
▲願作仏心とのべたまへ
ホトケニナラントネガフコヽロナリ
(18)
▲願作仏の心はこれ
度衆生のこころなり
シユジヤウヲワタスコヽロナリ
度衆生の心はこれ
利他真実の信心なり
(19)
信心すなはち一心なり
一心すなはち金剛心
金剛心は菩提心
この心すなはち他力なり
(20)
▲願土にいたればすみやかに
無上涅槃を証してぞ
すなはち大悲をおこすなり
これを回向となづけたり
0582以上天親菩薩
○曇鸞讃
*曇鸞和尚 釈文に付けて
三十四首
Ⅰ 師徳の讃嘆
(21)
▲本師曇鸞和尚は
*菩提流支のをしへにて
仙経ながくやきすてて
浄土にふかく帰せしめき
(22)
▲四論の講説さしおきて
本願他力をときたまひ
具縛の凡衆をみちびきて
*涅槃のかどにぞいらしめし
(23)
▲*世俗の君子*幸臨し
勅して*浄土のゆゑをとふ
十方仏国浄土なり
なにによりてか西にある
(24)
▲鸞師こたへてのたまはく
わが身は智慧あさくして
いまだ*地位にいらざれば
フタイノクラヰニイタラズトナリ
*念力ひとしくおよばれず
(25)
▲一切道俗もろともに
帰すべきところぞさらになき
*安楽勧帰のこころざし
鸞師ひとりさだめたり
(260583)
*魏の主勅して*并州の
*大巌寺にぞおはしける
やうやくをはりにのぞみては
*汾州にうつりたまひにき
(27)
*魏の天子はたふとみて
*神鸞とこそ号せしか
ナヅケタテマツル
おはせしところのその名をば
*鸞公巌とぞなづけたる
(28)
*浄業さかりにすすめつつ
*玄中寺にぞおはしける
*魏の興和四年に
*遙山寺にこそうつりしか
(29)
六十有七ときいたり
浄土の往生とげたまふ
そのとき霊瑞不思議にて
一切道俗帰敬しき
(30)
*君子ひとへにおもくして
勅宣くだしてたちまちに
*汾州汾西*秦陵の
クニノナヽリ
サトノナナリ
コホリノナナリ
勝地に霊廟たてたまふ
スグレタルトコロ
ドムランノミハカナリ
Ⅱ 論註の功績
(31)
▲*天親菩薩のみことをも
鸞師ときのべたまはずは
*他力広大威徳の
心行いかでかさとらまし
Ⅲ 本願の勝徳
(320584)
本願円頓一乗は
*逆悪摂すと信知して
*煩悩・菩提体無二と
すみやかにとくさとらしむ
(33)
▲*いつつの不思議をとくなかに
仏法不思議にしくぞなき
仏法不思議といふことは
弥陀の弘誓になづけたり
Ⅳ 二種の回向
(34)
▲弥陀の回向成就して
往相・還相ふたつなり
これらの回向によりてこそ
心行ともにえしむなれ
(35)
▲往相の回向ととくことは
弥陀の方便*ときいたり
▲悲願の信行えしむれば
生死すなはち涅槃なり
(36)
▲還相の回向ととくことは
利他教化の果をえしめ
▲すなはち諸有に*回入して
普賢の徳を修するなり
Ⅴ 一心の釈顕
(37)
論主の一心ととけるをば
曇鸞大師のみことには
煩悩成就のわれらが
他力の信とのべたまふ
Ⅵ 無礙の仏徳
(380585)
▲尽十方の無礙光は
無明のやみをてらしつつ
*一念歓喜するひとを
かならず滅度にいたらしむ
(39)
▲無礙光の利益より
威徳広大の信をえて
かならず煩悩のこほりとけ
すなはち菩提のみづとなる
(40)
▲*罪障功徳の体となる
こほりとみづのごとくにて
こほりおほきにみづおほし
さはりおほきに徳おほし
アクゴフオホケレバクドクノオホキナリ
(41)
▲名号不思議の海水は
*逆謗の屍骸もとどまらず
シニカバネニタトヘタリ
▲衆悪の万川帰しぬれば
ヨロヅノアクヲヨロヅノカハニタトヘタリ
*功徳のうしほに一味なり
ヒトツアヂハヒトナルナリ
(42)
尽十方無礙光の
大悲大願の海水に
煩悩の衆流帰しぬれば
智慧のうしほに一味なり
Ⅶ 一乗の勝益
(43)
▲安楽仏国に生ずるは
*畢竟成仏の道路にて
ヒロキミチ
セバキミチ
無上の方便なりければ
諸仏浄土をすすめけり
(440586)
▲諸仏三業荘厳して
畢竟平等なることは
衆生虚誑の身口意を
治せんがためとのべたまふ
(45)
安楽仏国にいたるには
無上宝珠の名号と
真実信心ひとつにて
▲無別道故とときたまふ
(46)
▲如来清浄本願の
無生の生なりければ
▲本則三三の品なれど
モトハコヽノシナノシユジヤウノホウドニムマレヌレバヒトリモカハルコトナシトナリ
一二もかはることぞなき
Ⅷ 名号の徳益
(47)
▲無礙光如来の名号と
かの*光明智相とは
無明長夜の闇を破し
衆生の志願をみてたまふ
コヽロザシ
ネガフコトヲ
Ⅸ 三不の信心
(48)
▲不如実修行といへること
オシヘノゴトクナラズトイフコヽロナリ
鸞師釈してのたまはく
▲一者信心あつからず
若存若亡するゆゑに
アルトキニハサモトオモフアルトキハカナフマジトオモフナリ
(49)
▲二者信心一ならず
決定なきゆゑなれば
▲三者信心相続せず
アヒツガズ
余念間故とのべたまふ
マジヘルガユヘニシンナシトイフナリ
(500587)
▲*三信展転相成す
アヒジヤウズルナリ
行者こころをとどむべし
信心あつからざるゆゑに
決定の信なかりけり
(51)
▲決定の信なきゆゑに
念相続せざるなり
念相続せざるゆゑ
決定の信をえざるなり
(52)
▲決定の信をえざるゆゑ
信心不淳とのべたまふ
シンジムアツカラズトイフナリ
▲如実修行相応は
オシヘノゴトクシンズルコヽロナリ
信心ひとつにさだめたり
Ⅹ 本願の大道
(53)
▲万行諸善の小路より
*本願一実の大道に
帰入しぬれば涅槃の
さとりはすなはちひらくなり
Ⅺ 師徳の讃嘆
(54)
▲本師曇鸞大師をば
*梁の天子蕭王は
おはせしかたにつねにむき
鸞菩薩とぞ礼しける
以上曇鸞和尚
○道綽讃
*道綽禅師 釈文に付けて
七首
Ⅰ 二門の廃立
(550588)
本師道綽禅師は
▲*聖道万行さしおきて
▲唯有浄土一門を
通入すべきみちととく
(56)
▲本師道綽大師は
*涅槃の広業さしおきて
本願他力をたのみつつ
五濁の群生すすめしむ
Ⅱ 聖道の難証
(57)
▲末法五濁の衆生は
聖道の修行*せしむとも
ひとりも証をえじとこそ
教主世尊はときたまへ
(58)
鸞師のをしへをうけつたへ
綽和尚はもろともに
▲在此起心立行は
シヤバセカイニテボダイシムヲオコシギヤウヲタツルハミナジリキナリトシルベシ
此是自力とさだめたり
コレハコレジリキナリトイフ
Ⅲ 諸仏の勧讃
(59)
▲濁世の起悪造罪は
アクヲオコシツミヲツクルコトノオホキコトヲイフ
暴風駛雨にことならず
諸仏これらをあはれみて
すすめて浄土に帰せしめり
Ⅳ 念仏の滅罪
(60)
▲一形悪をつくれども
専精にこころをかけしめて
モハラコノミテトイフ
つねに念仏*せしむれば
諸障自然にのぞこりぬ
Ⅴ 本願の正意
(610589)
▲縦令一生造悪の
タトヒ一ゴアクヲツクルモノナリトモミダノチカヒヲタノミマヒラセテワウジヤウスベシトナリ
衆生引接のためにとて
称我名字と願じつつ
ワガナヲトナヘヨトグワンジタマヘリ
若不生者とちかひたり
モシムマレズハホトケニナラジトチカヒタマヘルナリ
以上道綽大師
○善導讃
*善導大師 釈文に付けて
二十六首
Ⅰ 大師の出世
(62)
*大心海より化してこそ
善導和尚とおはしけれ
末代濁世のためにとて
十方諸仏に証をこふ
(63)
世々に善導いでたまひ
*法照・*少康としめしつつ
功徳蔵をひらきてぞ
諸仏の本意とげたまふ
Ⅱ 女人の成仏
(64)
▲弥陀の名願によらざれば
百千万劫すぐれども
*いつつのさはりはなれねば
女身をいかでか転ずべき
Ⅲ 釈尊の教意
(65)
▲釈迦は要門ひらきつつ
▲定散諸機を*こしらへて
正雑二行方便し
ひとへに専修をすすめしむ
(660590)
*助正ならべて修するをば
すなはち*雑修となづけたり
一心をえざるひとなれば
▲仏恩報ずるこころなし
(67)
仏号むねと修すれども
現世をいのる行者をば
これも雑修となづけてぞ
▲千中無一ときらはるる
(68)
▲こころはひとつにあらねども
雑行雑修これにたり
*浄土の行にあらぬをば
ひとへに雑行となづけたり
Ⅳ 大師の釈意
(69)
善導大師証をこひ
定散二心をひるがへし
▲貪瞋二河の譬喩をとき
弘願の信心守護せしむ
マモリマモル
Ⅴ 弥陀の教意
(70)
▲*経道滅尽ときいたり
如来出世の本意なる
*弘願真宗にあひぬれば
凡夫念じてさとるなり
(71)
▲仏法力の不思議には
諸邪業繋さはらねば
弥陀の本弘誓願を
増上縁となづけたり
(720591)
▲願力成就の報土には
自力の心行いたらねば
大小聖人みなながら
如来の弘誓に乗ずなり
(73)
▲煩悩具足と信知して
本願力に乗ずれば
▲すなはち穢身すてはてて
法性常楽証せしむ
Ⅵ 二尊の慈悲
(74)
▲釈迦・弥陀は慈悲の父母
シヤカハチヽナリミダハハヽナリトタトヘタマヘリ
種々に善巧方便し
われらが無上の信心を
発起せしめたまひけり
ヒラキオコシタマフナリ
Ⅶ 信心の徳益
(75)
▲真心徹到するひとは
金剛心なりければ
三品の懴悔するひとと
ひとしと宗師はのたまへり
(76)
▼五濁悪世のわれらこそ
金剛の信心ばかりにて
ながく生死をすてはてて
自然の浄土にいたるなれ
(77)
▼金剛堅固の信心の
さだまるときをまちえてぞ
弥陀の心光摂護して
ながく生死をへだてける
(780592)
▲真実信心えざるをば
一心かけぬとをしへたり
一心かけたるひとはみな
三信具せずとおもふべし
ホングワンノシンジムヲイフナリ
(79)
▲利他の信楽うるひとは
*願に相応するゆゑに
*教と仏語にしたがへば
外の雑縁さらになし
(80)
▲真宗念仏ききえつつ
*一念無疑なるをこそ
▲希有最勝人とほめ
▲正念をうとはさだめたれ
(81)
▲本願相応せざるゆゑ
雑縁きたりみだるなり
信心乱失するをこそ
ミダレウシナフコヽロナリ
正念うすとはのべたまへ
(82)
信は願より生ずれば
念仏成仏自然なり
▲自然はすなはち報土なり
証大涅槃うたがはず
Ⅷ 疑謗の嫌誡
(83)
▲五濁増のときいたり
疑謗のともがらおほくして
ミダノチカヒヲウタガフモノソシルモノナリ
道俗ともにあひきらひ
修するをみては*あだをなす
(840593)
▲本願毀滅のともがらは
ソシリホロボスナリ
生盲闡提となづけたり
ムマレテヨリメシヰタルモノ
センダイハホトケニナリガタシ
*大地微塵劫をへて
ながく三塗にしづむなり
(85)
▲西路を指授せしかども
オシヘサヅケシニ
自障障他せしほどに
ワガミヲサヘヒトヲサエミダルナリ
曠劫以来もいたづらに
むなしくこそはすぎにけれ
Ⅸ 二尊の念報
(86)
▲弘誓のちからをかぶらずは
いづれのときにか娑婆をいでん
仏恩ふかくおもひつつ
つねに弥陀を念ずべし
(87)
▲娑婆永劫の苦をすてて
浄土無為を*期すること
本師釈迦のちからなり
長時に慈恩を報ずべし
以上善導大師
○源信讃
*源信大師 釈文に付けて
十首
Ⅰ 師徳の讃嘆
(88)
源信和尚ののたまはく
われこれ*故仏とあらはれて
モトノホトケトマフスコトナリ
化縁すでにつきぬれば
*本土にかへるとしめしけり
(890594)
▲本師源信ねんごろに
*一代仏教のそのなかに
念仏一門ひらきてぞ
濁世末代をしへける
Ⅱ 専雑の対説
(90)
*霊山聴衆とおはしける
源信僧都のをしへには
▲報化二土ををしへてぞ
専雑の得失さだめたる
(91)
本師源信和尚は
▲*懐感禅師の釈により
¬*処胎経¼ をひらきてぞ
懈慢界をばあらはせる
(92)
専修のひとをほむるには
△千無一失とをしへたり
センニヒトツノトガナシトナリ
雑修のひとをきらふには
万不一生とのべたまふ
マンニヒトリモホウドニムマレズトナリ
(93)
▲報の浄土の往生は
おほからずとぞあらはせる
化土にうまるる衆生をば
すくなからずとをしへたり
Ⅲ 専修の称揚
(94)
▲男女貴賎ことごとく
弥陀の名号称するに
トナフルナリ
行住座臥もえらばれず
アルク
ヰル
トヾマル
フスナリ
時処諸縁もさはりなし
トキ
ヨロヅノコトナリ
トコロ
(950595)
▲煩悩にまなこ*さへられて
摂取の光明みざれども
大悲ものうきことなくて
つねにわが身をてらすなり
(96)
▼弥陀の報土をねがふひと
▲外儀のすがたはことなりと
本願名号信受して
寤寐にわするることなかれ
ネテモサメテモトイフナリ
(97)
▲極悪深重の衆生は
他の方便さらになし
ひとへに弥陀を称してぞ
浄土にうまるとのべたまふ
以上源信大師
○源空讃
*源空聖人 釈文に付けて
二十首
Ⅰ 専修の称揚
(98)
本師源空世にいでて
弘願の一乗ひろめつつ
日本一州ことごとく
*浄土の機縁あらはれぬ
(99)
*智慧光のちからより
本師源空あらはれて
浄土真宗をひらきつつ
選択本願のべたまふ
(1000596)
善導・源信すすむとも
本師源空ひろめずは
*片州濁世のともがらは
いかでか真宗をさとらまし
(101)
曠劫多生のあひだにも
*出離の強縁しらざりき
本師源空いまさずは
このたびむなしくすぎなまし
Ⅱ 一代の威徳
(102)
源空*三五のよはひにて
無常のことわりさとりつつ
*厭離の素懐をあらはして
ヨヲイトフナリ
モトノコヽロトイフ
菩提のみちにぞいらしめし
(103)
源空智行の至徳には
チヱモギヤウモイタリタマフヒトナリトイフ
聖道諸宗の師主も
シヤウニンノオンシナリ
みなもろともに帰せしめて
*一心金剛の戒師とす
シヨシユノオンシノシヤウニンノオンデシニミナナリタマフ
(104)
源空存在せしときに
金色の光明はなたしむ
*禅定博陸まのあたり
クワンパクナリ
拝見せしめたまひけり
(105)
本師源空の本地をば
世俗のひとびとあひつたへ
*綽和尚と称*せしめ
あるいは善導としめしけり
(1060597)
源空勢至と示現し
シメシアラハシタマフ
あるいは弥陀と顕現す
アラハレタマフ
上皇・群臣尊敬し
コクワウナリ ダイジムクギヤウナリ
京夷庶民欽仰す
ミヤコ
ヨロヅノタミ
ヰナカ
ウヤマヒアフギタテマツル
(107)
*承久の太上法皇は
本師源空を帰敬しき
釈門・儒林みなともに
ソウナリ
ゾクガクシヤウナリ
ひとしく真宗に悟入せり
サトリイルナリ
Ⅲ 教化の要旨
(108)
*諸仏方便ときいたり
源空ひじりとしめしつつ
無上の信心をしへてぞ
涅槃のかどをばひらきける
(109)
真の知識にあふことは
かたきがなかになほかたし
流転輪廻のきはなきは
疑情のさはりにしくぞなき
ウタガフコヽロナリ
Ⅳ 臨終の霊異
(110)
源空光明はなたしめ
門徒につねにみせしめき
賢哲・愚夫もえらばれず
カシコクスグレタル
オロカナルモノ
豪貴・鄙賎もへだてなし
ヨキヒト
イヤシキモノ
(111)
命終その期ちかづきて
本師源空のたまはく
*往生みたびになりぬるに
このたびことにとげやすし
(1120598)
源空みづからのたまはく
*霊山会上にありしとき
*声聞僧にまじはりて
頭陀を行じて化度せしむ
(113)
*粟散片州に誕生して
コノニチポンコクナリ
ムマレタマフトナリ
念仏宗をひろめしむ
衆生化度のためにとて
この土にたびたびきたらしむ
(114)
阿弥陀如来化してこそ
本師源空としめしけれ
化縁すでにつきぬれば
浄土にかへりたまひにき
(115)
本師源空のをはりには
光明紫雲のごとくなり
ムラサキノクモノゴトシ
音楽哀婉雅亮にて
アハレミスメルコヽロナリ
*異香みぎりに映芳す
カヾヤキカウバシ
(116)
道俗男女*預参し
カネテ
アツマル
*卿上*雲客群集す
*頭北面西右脇にて
カウベヲキタニシオモテヲニシニス
如来涅槃の儀をまもる
(117)
本師源空命終時
*建暦第二壬申歳
初春下旬第五日
浄土に還帰せしめけり
0599以上源空聖人
以上七高僧和讃 一百十七首
○結讃
Ⅰ 要旨の結讃
(118)
▲五濁悪世の衆生の
選択本願信ずれば
*不可称不可説不可思議の
功徳は行者の身にみてり
*天 竺 |
龍樹菩薩 |
天親菩薩 |
*震 旦 |
曇鸞和尚 |
道綽禅師 |
善導禅師 |
*和 朝 |
源信和尚 |
源空聖人 |
以上七人
*聖徳太子 |
*敏達天皇元年 |
正月一日誕生したまふ。 |
仏滅後一千五百二十一年に当れり。
Ⅱ 回向の讃文
(119)
▲南無阿弥陀仏をとけるには
衆善海水のごとくなり
かの清浄の善身にえたり
ひとしく衆生に回向せん
底本は龍谷大学蔵文明五年蓮如上人開版本(文明本)。
釈文に付けて 高僧の著作によって。
本師 本宗の祖師。
西 西方浄土。
南天竺 南インド。龍樹菩薩は南インドに出生した。
歓喜地 「歓喜地は正定聚の位なり。 身によろこぶを歓といふ、 こころによろこぶを喜といふ。 得べきものを得てんずとおもひてよろこぶを歓喜といふ」 (異本左訓)
弘誓のふね 阿弥陀仏の本願を、 迷いの海をわたってさとりの彼岸に至らせる船に喩える。
しめて たてまつりて。
恭敬の心 つつしみ敬う心。 ここでは他力の信心のこと。
修せしかど 修めたけれども。
煩悩成就 あらゆる
煩悩を欠くことなくそなえていること。
究竟せること その大きさが、 至りきわまっていること。
天人不動の聖衆 天上界・人間界から浄土に生れた聖者たち。 大乗の善根を成就して動揺することがないから不動という。
弘誓の智海 本願によって成じた広大な仏の智慧を海に喩える。
世俗の君子・魏の主・魏の天子・君子 東魏の孝静帝であろう。
浄土… 西方浄土のみ願生する理由を問う。
念力… 十方の浄土を平等に念ずる力がないということ。
安楽勧帰 安楽浄土への往生を勧め、 自他ともに阿弥陀仏に帰依すること。
神鸞 不思議な徳を持っている曇鸞大師の意。
浄業 念仏のこと。
魏の興和四年 542年。
遙山寺 平遙山の寺。
汾州汾西 現在の山西省平遙。
秦陵 大陵の誤伝。
天親菩薩のみこと 天親菩薩の ¬浄土論¼ をいう。
他力広大威徳の心行 心は一心帰命の信心、 行は五念門の行。 この心行は如来より回向されたものであるので、 他力広大威徳という。
煩悩菩提体無二 煩悩と菩提とが本来一つであること。
ときいたり 時節が到来し。
一念歓喜するひと 疑いなく、 往生せしめられることをよろこぶひと。
罪障功徳の体となる 体は本体。 罪障がそのまま功徳になる。
逆謗… 五逆・謗法の者は仏道の死骸のようなものであるのでこのようにいう。
功徳のうしほに… 万川が海に入れば同一の塩味となるように、 五逆・謗法の者も他力の信心を獲れば、 一切の悪業を転じて仏の功徳と一味となる。
畢竟成仏… 究極においては仏になること。 ここでは転じて究極無上の成仏道の意味とする。
余念間故 「まじへるがゆゑに信なしといふなり」 (左訓) 疑いがまじわるので。
三信展転… 淳心・一心・相続心の
三信が相関連して一つの信心の内容が明らかになる。
如実修行相応 「をしへのごとく信ずるこころなり」 (左訓)
本願一実の大道 本願の念仏は、 すべての人の往生の道であるから大道という。
梁の天子蕭王 南朝梁の武帝 (464―549) のこと。 仏教を深く信奉した。 蕭王は通常 「しょうおう」 と読むが、 当派依用音によって 「そうおう」 と振る。
聖道万行 聖道門の教えによって修める自力諸善の行。
涅槃の広業 ¬涅槃経¼ を講ずる広大な事業。
せしむとも したてまつったとしても。
せしむれば したてまつれば。
功徳蔵 「名号を功徳蔵とまうすなり。 よろづの善根を集めたるによりてなり」 (異本左訓)
こしらへて 誘い導いて。
経道滅尽 末法の時代 (教のみがあって行・証のない時代) が一万年続いた後、 自力成仏の道を説いた聖道門の経典がすべてこの世界から消え失せることをいう。
願に相応する 信心を得ることは阿弥陀仏の本願の趣旨にかなっている。
教と仏語 釈尊の教えと諸仏の言葉。
一念無疑 阿弥陀仏の本願を二心なく信じること。
期すること 心に待ちもうけること。 期待すること。
故仏と… 元来、 仏であったが、 衆生済度のためにこの世に現れたという伝承を指す。 ¬源信僧都行実』にみえる。
本土 本国である浄土。
一代仏教 釈尊が一生の間に説いた教法。
霊山聴衆 インドの霊鷲山で釈尊の説法を聞いた人々。
さへられて さえぎられて。
浄土の機縁 浄土教を信受する機縁。
出離の強縁 迷いの世界を離れ出るための因縁。 阿弥陀仏の本願力のこと。
三五のよはひ 十五歳。 法然上人は十五歳で出家受戒した。
厭離の素懐 この世を厭い離れたいというかねてからの願い。
綽和尚 道綽禅師のこと。
せしめ したてまつり。
諸仏方便… 諸仏が
衆生を救うために
善巧方便する時節が到来して。
往生みたびに… インドでは声聞僧、 中国では善導として往生し、 いま日本の源空として三たび往生することをいう。
異香みぎりに… おりから妙なる香りがあたりにただよった。
敏達天皇元年 572年。 ¬聖徳太子伝暦¼ などでは、 太子の生誕をこの年とするが、 574年が正しい。