0555◎略論安楽浄*土*義
◎▼問ひていはく、 安楽国は三界のなかにおいていづれの界の所摂なるや。
◎問ヒテ曰ク、安楽国ハ於テ↢三界ノ中ニ↡何ノ界ノ所摂ナルヤ。
答へていはく、 ▲¬釈論¼ (大智度論・三八・往生品・意) にいふがごとし。 「かくのごときの浄土は三界の所摂にあらず。 なにをもつてのゆゑに。 欲なきがゆゑに欲界にあらず、 地居なるがゆゑに色界にあらず、 形色あるがゆゑに無色界にあらざればなりと。
答ヘテ曰ク、*如シ↢¬釈論ニ¼言フガ↡。「如キノ↠斯クノ浄土ハ非ズ↢三界ノ所摂ニ↡。何ヲ以テノ故ニ。無キガ↠欲故ニ非ズ↢欲界ニ↡、地居ナルガ故ニ非ズ↢色界ニ↡、有ルガ↢*形色↡故ニ非ザレバナリト無色界ニ↡。」
¬経¼ (大経・上・意) にいはく、「▲阿弥陀仏、 もと菩薩の道を行じたまひし時、 比丘となり名づけて法蔵といふ。 ▲世自在王仏の所において、 諸仏の浄土の行を請問す。 ▲時に仏、 ために二百一十億の諸仏の刹土の天・人の善悪、 国土の精粗を説きて、 ことごとく現じてこれを与へたまふ。 ▲時に法蔵菩薩、 すなはち仏前において弘誓の大願を発し、 諸仏の土を取りて、 ▲無量阿僧祇劫において所発の願のごとくもろもろの波羅蜜を行じ、 万行円満して▲無上道を成ず」 と。 別業の所得なれば三界にあらず。
¬経ニ¼*曰ク、「*阿弥陀仏、本行ジタマヒシ↢菩薩ノ道ヲ↡時、作リ↢比丘ト↡名ケテ曰フ↢法蔵ト↡。於テ↢世自在王仏ノ所ニ↡、*請↢問ス諸仏ノ浄土之行ヲ↡。時ニ仏為ニ説キテ↢二百一十億ノ諸仏ノ刹土ノ天・人ノ善悪、国土ノ精麁ヲ↡、悉ク現ジテ与ヘタマフ↠之ヲ。于↠時法蔵菩薩、即チ於テ↢仏前ニ↡発シ↢弘誓ノ大願ヲ↡、取リテ↢諸仏ノ土ヲ↡、於テ↢無量阿僧祇劫ニ↡如ク↢所発ノ願ノ↡行ジ↢諸ノ波羅蜜ヲ↡、万*行円満シテ成ズト↢無上道ヲ↡。」別業ノ所得ナレバ非ズ↢三界ニ↡也。
問ひていはく、 安楽国に幾種の荘厳ありてか名づけて浄土となすや。
問ヒテ曰ク、安楽国ニ有リテカ↢幾種ノ*荘厳↡名ケテ為スヤ↢浄土ト↡。
答へていはく、 もし経により義によらば、 法蔵菩薩の四十八願はすなはちこれその事なり。 ¬讃¼ (讃弥陀偈) を尋ねて知るべし、 また重ねて序べず。 もし ¬無量寿論¼ (浄土論) によらば、 二種の清浄をもつて二十九種の荘厳成就を摂す。 二種の清浄をもつてとは、 一にはこれ器世間清浄、 二にはこれ衆生世間清浄なり。
答ヘテ曰ク、若シ依リ↠経ニ拠ラバ↠義ニ、法蔵菩薩ノ八願ハ即チ是*其ノ事ナリ。尋ネテ↠¬讃ヲ¼可シ↠知ル、不↢復重テ序ベ↡。若シ依ラバ↢¬無量寿論ニ¼↡、以テ↢二種ノ清浄ヲ↡摂ス↢二十九種ノ荘厳成就ヲ↡。*以テト↢二種ノ清浄ヲ↡者、一ニハ*是器世間*清0556浄、二ニハ是衆生世間清浄ナリ。
器世間清浄に十七種の荘厳成就あり。
器世間清浄ニ有リ↢十七種ノ荘厳成就↡。
一には▲国土の相三界の道に勝過せり。
一ニ者国土ノ相勝↢過セリ三界ノ道ニ↡。
二には▲その国大広にして、 量虚空のごとく斉限あることなし。
二ニ者其ノ国*大広ニシテ、量如ク↢虚空ノ↡無シ↠有ルコト↢斉限↡。
三には▲菩薩の正道の大慈悲、 出世の善根より起るところなり。
三ニ者従リ↢菩薩ノ正道ノ*大慈悲、出世ノ善根↡所ナリ↠起ル。
四には▲清浄の光明円満し荘厳す。
四ニ者清浄ノ光明円満シ荘厳ス。
五には▲つぶさに第一珍宝性を具へて奇妙の宝物を出す。
五ニ者備ニ具ヘテ↢第一珍宝性ヲ↡出ス↢奇妙ノ宝物ヲ↡。
六には▲潔浄の光明つねに世間を照す。
六ニ者潔浄ノ光明常ニ照ス↢世間ヲ↡。
七には▲その国の宝物は柔軟にして、 触るるものは適悦して勝楽を生ず。
七ニ者其ノ国ノ宝物ハ柔軟ニシテ、触ルル者ハ適悦シテ生ズ↢於勝楽ヲ↡。
八には▲千万の宝華池沼を荘厳し、 ▲宝殿・楼閣、 種々の宝樹、 雑色の光明、 世界を影納して、 ▲無量の宝羅網虚空に覆ひ、 四面に鈴を懸けてつねに法音を吐く。
八ニ者千万ノ宝華荘↢厳シ池沼ヲ↡、宝殿・楼閣、種々ノ宝樹、雑色ノ光明、影↢*納シテ世界ヲ↡、無量ノ宝*羅網覆ヒ↢虚空ニ↡、四面ニ懸ケテ↠鈴ヲ常ニ吐ク↢法音ヲ↡。
九には▲虚空のなかにおいて、 自然につねに天華・天衣・天香を雨らして荘厳しあまねく薫ず。
九ニ者於テ↢虚空ノ中ニ↡、自然ニ常ニ雨ラシテ↢天華・天衣・天香ヲ↡荘厳シ普ク*薫ズ。
十には▲仏慧の光明照して痴闇を除く。
十ニ者仏*恵ノ光明照シテ除ク↢痴闇ヲ↡。
十一には▲梵声開悟して遠く十方に聞ゆ。
十一ニ者梵声開悟シテ遠ク聞ユ↢十方ニ↡。
十二には▲阿弥陀仏無上法王の善力をもつて住持したまふ。
十二ニ者阿弥陀仏無上法王ノ善力ヲモテ住持シタマフ。
十三には▲如来の浄華より化生するところなり。
十三ニ者従リ↢如来ノ浄花↡*之所ナリ↢化生スル↡。
十四には▲仏法の味はひを愛楽し、 禅三昧を食となす。
十四ニ者愛↢楽シ仏法ノ味ヲ↡、禅三昧ヲ為ス↠食ト。
十五には▲永く身心の諸苦を離れ、 楽を受くること間なし。
十五ニ者永ク離レ↢身心ノ諸苦ヲ↡、受クルコト↠楽ヲ無シ↠間。
十六には▲乃至二乗と女人と根欠との名すら聞かず。
十六ニ者乃至不↠聞カ↢二乗ト女人ト根欠ト之名スラ↡。
十七には▲衆生欲楽するところあれば、 心に随ひ意に称ひて満足せずといふことなし。
十七ニ者衆生有レバ↠所↢欲楽スル↡、随ヒ↠心ニ称ヒテ↠意ニ無シ↠不トイフコト↢満足セ↡。
かくのごときらの十七種、 これを器世間清浄と名づく。
如キ↠是クノ等ノ*十七種、是ヲ名ク↢器世間清浄ト↡。
衆生世間清浄に十二種の荘厳成就あり。
衆生世間清浄ニ有リ↢十二種ノ荘*厳成就↡。
一には▲無量の大珍宝王の微妙の浄華台、 もつて仏座となす。
一ニ者無量ノ大珍宝*王ノ微妙ノ*浄華台、以テ為ス↢仏座ト↡。
二には▲無量の相好、 無量の光明、 仏身を荘厳す。
二ニ者無量ノ相好、無量ノ光明、荘↢厳ス仏身ヲ↡。
三には▲仏の無量の辨才機に応じて法を説き、 清白を具足して人をして聞くことを楽はしめ、 聞くものかならず悟解す。 言虚説ならず。
三ニ者仏ノ無量ノ辨才応ジテ↠機ニ説キ↠法ヲ、具0557↢足シテ清白ヲ↡令メ↢人ヲシテ楽ハ↟聞クコトヲ、聞ク*者必ズ*悟解ス。言不↢虚説ナラ↡。
四には▲仏の真如智慧はなほ虚空のごとし。 諸法の総相・別相を照了して心に分別なし。
四ニ者仏ノ真如智*恵ハ猶如シ↢虚空ノ↡。照↢了シテ諸法ノ総*相・別相ヲ↡*心ニ無シ↢分別↡。
五には▲天・人不動の衆は広大にして荘厳す。 たとへば須弥山の四大海に映顕するがごとく、 法王の相具足したまへり。
五ニ者天・人不動ノ衆ハ広大ニシテ荘厳ス。譬ヘバ如ク↣須弥山ノ映↢顕スルガ四大海ニ↡、法王ノ相具足シタマヘリ。
六には▲無上の果を成就し、 なほよく及ぶものなし。 いはんやまた過ぐるものあらんや。
六ニ者成↢就シ無上ノ果ヲ↡、尚無シ↢能ク及ブモノ↡。況ヤ復過グル者アラムヤ。
七には▲天・人の丈夫調御師となりて大衆に恭敬囲遶せらるること、 獅子王の獅子に囲遶せらるるがごとし。
七ニ者為リテ↢天・人ノ丈夫調御師ト↡大衆ニ恭敬囲遶セラルルコト、如シ↢師子王ノ師子ニ囲遶セラルルガ↡。
八には▲仏の本願力をもつてもろもろの功徳を荘厳し住持す。 遇ふものは空しく過ぐることなく、 よくすみやかに一切の功徳海を満足せしむ。 ためにもろもろの浄心の菩薩、 畢竟じて平等法身を証することを得。 浄心の菩薩と上地の菩薩と畢竟じて同じく寂滅平等を得。
八ニ者仏ノ本願*力ヲモテ荘↢厳シ*住↣持ス諸ノ功徳ヲ↡。遇フ者ハ無ク↢空シク過グルコト↡、能ク令ム↣速ニ満↢足セ一切ノ功徳海ヲ↡。*与ニ諸ノ浄心ノ菩薩、畢竟ジテ得↠証スルコトヲ↢平等法身ヲ↡。*浄心ノ菩薩ト与↢上地ノ菩薩↡畢竟ジテ同ジク得↢寂滅平等ヲ↡。
九には▲安楽国のもろもろの菩薩衆、 身は動揺せずしてあまねく十方に至りて、 種々に応化して如実に修行し、 つねに仏事をなす。
九ニ者安楽国ノ諸ノ菩薩衆、身ハ不シテ↢動揺セ↡而遍ク至リテ↢十方ニ↡、種々ニ応化シテ如実ニ修行シ、常ニ作ス↢仏事ヲ↡。
十には▲かくのごとき菩薩の応化身、 一切の時に前ならず後ならず、 一心一念に大光明を放ち、 ことごとくよくあまねく十方世界に至りて衆生を教化す。 種々に方便し修行して成ずるところ、 一切衆生の苦悩を滅除す。
十ニ者如キ↠是クノ菩薩ノ応化身、一切ノ時ニ不↠前ナラ不↠後ナラ、一心一念ニ放チ↢*大光明ヲ↡、悉ク能ク遍ク至リテ↢十方世界ニ↡教↢化ス衆生ヲ↡。種々ニ方便シ修行シテ所↠成ズル、滅↢除ス一切衆生ノ苦*悩ヲ↡。
十一には▲かくのごとき等の菩薩一切世界において余すことなく、 諸仏の大会を照らして余すことなく、 広大無量に諸仏如来の功徳を供養し恭敬し讃歎す。
十一ニ者*如キ↠是クノ等ノ菩薩於テ↢一切世界ニ↡無ク↠余スコト、照シテ↢諸仏ノ大会ヲ↡無ク↠余スコト、広大無量ニ供↢養シ恭↣敬シ讃↤歎ス諸仏如来ノ功徳ヲ↡。
十二には▲このもろもろの菩薩十方一切世界の三宝なき処において、 仏法僧宝の功徳の大海を住持し荘厳して、 あまねく示して如実の修行を解らしむ。
十二ニ者是ノ諸ノ菩薩於テ↧十方*一切世界ノ無キ↢三宝↡処ニ↥、住↢持シ荘↣厳シテ仏法僧宝ノ功徳ノ大海ヲ↡、遍ク示シテ令ム↠解ラ↢如実ノ修行ヲ↡。
かくのごとき等の法王八種の荘厳功徳成就と、 かくのごとき等の四種の荘厳功徳成就と、 これを衆生世間清浄と名づく。
如キ↠是クノ等ノ法王八種ノ荘厳功徳成就ト、如キ↠是クノ*等ノ四種ノ荘厳功徳成就ト、是ヲ名ク↢衆0558生世間清浄ト↡。
安楽国土にはかくのごとき等の二十九種の荘厳功徳成就を具す。 ゆゑに浄土と名づく。
安楽国土ニハ具ス↢如キ↠是クノ等ノ二十九種ノ荘厳功徳成就ヲ↡。故ニ名ク↢浄土ト↡。
問ひていはく、 安楽土に生ずるものにはおよそ幾種の輩あるや、 輩にいくばくの因縁あるや。
問ヒテ曰ク、生ズル↢安楽土ニ↡者ニハ凡ソ有ルヤ↢幾*種ノ輩↡、*輩ニ有ルヤ↢*幾クノ因縁↡。
答ふ。 ¬無量寿経¼ (下) のなかにはただ三輩あり、 上中下なり。 ¬無量寿観経¼ のなかには一品のなかをまた分ちて上中下となして、 三々にして九なり、 合して九品となす。 いま ¬無量寿経¼ に依り傍へて ¬讃¼ (讃弥陀偈) を為る。 しばらくこの ¬経¼ (大経) に三品をなすによりてこれを論ぜん。
*答フ。¬無量寿経ノ¼中ニハ唯有リ↢三*輩↡、上中下ナリ。¬無量寿観経ノ¼中ニハ一品ノ*中ヲ又分チテ為シテ↢上中下ト↡、三々ニシテ*而九ナリ、合シテ為ス↢九品ト↡。今依リ↢傍ヘテ¬無量寿経ニ¼↡為ル↠¬讃ヲ¼。且ク拠リテ↣*此ノ¬経ニ¼*作スニ↢三品ヲ↡論ゼム↠之ヲ。
上輩生には、 五の因縁あり。 一には▲家を捨て欲を離れて沙門となる。 二には▲無上菩提心を発す。 三には▲一向にもつぱら無量寿仏を念ず。 四には▲もろもろの功徳を修す。 五には▲安楽国に生れんと願ず。
上輩生ニ者、有リ↢五ノ因縁↡。一ニ者捨テ↠家ヲ離レテ↠欲ヲ而作ル↢沙門ト↡。二ニ者発ス↢無上菩提心ヲ↡。三ニ者一向ニ専ラ念ズ↢無量寿仏ヲ↡。四ニ者修ス↢諸ノ*功徳ヲ↡。五ニ者願ズ↠生レムト↢安楽国ニ↡。
この五縁を具すれば▲命終の時に臨みて、 無量寿仏もろもろの大衆とその人の前に現じたまふ。 すなはち仏に随ひて安楽に往生し、 七宝の華のなかより自然に化生し、 不退転に住す。 智慧勇猛にして神通自在なり。
具スレバ↢*此ノ*五縁ヲ↡臨ミテ↢命終ノ時ニ↡、無量寿仏与↢諸ノ大衆↡現ジタマフ↢其ノ人ノ前ニ↡。即便チ随ヒテ↠仏ニ往↢生シ安楽ニ↡、於リ↢七宝ノ華ノ中↡自然ニ化生シ、住ス↢不退転ニ↡。智*恵勇猛ニシテ神通自在ナリ。
中輩生には、 七の因縁あり。 一には▲無量菩提心を発す。 二には▲一向にもつぱら無量寿仏を念ず。 三には▲少多善を修して斉戒を奉持す。 四には▲塔像を起立す。 五には▲沙門に飯食せしむ。 六には▲繒を懸け灯を然し華を散じ香を焼く。 七には▲これをもつて回向して安楽に生れむと願ず。
中輩生ニ者、有リ↢七ノ因縁↡。一ニ者発ス↢無*量菩提心ヲ↡。二ニ者一向ニ専ラ念ズ↢無量寿仏ヲ↡。三ニ者*少多修シテ↠善ヲ奉↢持ス斉戒ヲ↡。四ニ者起↢立ス塔像ヲ↡。五ニ者飯↢食セシム沙門ニ↡。六ニ者懸ケ↠繒ヲ然シ↠灯ヲ散ジ↠華ヲ焼ク↠香ヲ。七ニ者以テ↠此ヲ廻向シテ願ズ↠生レムト↢安楽ニ↡。
▲命終の時に臨みて、 無量寿仏その身を化現したまふ。 光明・相好つぶさに真仏のごとし。 もろもろの大衆とその人の前に現じたまふ。 すなはち化仏に随ひて安楽に往生して不退転に住す。 功徳・智慧次いで上輩のごとし。
臨ミテ↢命終ノ時ニ↡、無量寿仏化↢現シタマフ其ノ身ヲ↡。光明・相好具ニ如シ↢真仏ノ↡。与↢諸ノ大衆↡現ジタマフ↢其ノ人ノ前ニ↡。即チ随ヒテ↢化仏ニ↡往↢生シテ安楽ニ↡住ス↢不退転ニ↡。功徳・智*恵次イデ*如シ↢上輩ノ↡。
下輩生には、 三の因縁あり。 一にはたとひもろもろの功徳をなすことあたはざれども、 ▲まさに無上菩提心を発すべし。 二には▲一向に意をもつぱらにしてすなはち十念に至るまで無量寿仏を念ず。 三には▲至誠心をもつて安楽に生れんと願ず。
*下輩生ニ者、有リ↢三ノ因縁↡。一ニ者0559仮使不レドモ↠能ハ↠作スコト↢諸ノ功徳ヲ↡、当ニシ↠発ス↢無上菩提心ヲ↡。二ニ者一向ニ専ニシテ↠意ヲ乃チ至ルマデ↢十念ニ↡念ズ↢無量寿仏ヲ↡。三ニ者以テ↢至誠心ヲ↡願ズ↠生レムト↢安楽ニ↡。
▲命終の時に臨みて、 夢に無量寿仏を見たてまつりてまた往生を得。 功徳・智慧これ中輩のごとし。
臨ミテ↢命終ノ時ニ↡、夢ニ見タテマツリテ↢無量寿仏ヲ↡亦得↢往生ヲ↡。功徳・智*恵如シ↢此中輩ノ↡。
▼また一種の安楽に往生するものあり、 三輩のなかに入らず。 ▲いはく疑惑の心をもつてもろもろの功徳を修して安楽に生れむと願ず。 仏智・不思議智・不可称智・大乗広智・無等無倫最上勝智を了せずして、 この諸智において▽疑惑して信ぜず。 しかれどもなほ罪福を信じ善本を修習して安楽に生れむと願ず。
又有リ↣一種ノ往↢生スルモノ安楽ニ↡、不↠入ラ↢三輩ノ中ニ↡。謂ク以テ↢疑惑ノ心ヲ↡修シテ↢*諸ノ功徳ヲ↡願ズ↠生レムト↢安楽ニ↡。不シテ↠了セ↢*仏智・不思*議智・不可称智・大乗広智・無等無倫最上勝智ヲ↡、於テ↢此ノ諸智ニ↡疑惑シテ不↠信ゼ。然レドモ猶信ジ↢罪福ヲ↡修↢習シテ善本ヲ↡*願ズ↠*生レムト↢*安楽ニ↡。
▲安楽国に生ずるに七宝の宮殿あるいは百由旬あるいは五百由旬なり。 おのおのそのなかにおいてもろもろの快楽を受くること忉利天のごとくにして、 またみな自然なり。
生ズルニ↢安楽国ニ↡*七宝ノ宮殿或イハ百由旬或イハ五百由旬ナリ。各ノ於テ↢其ノ中ニ↡受クルコト↢諸ノ快楽ヲ↡如クニシテ↢忉利天ノ↡、亦皆自然ナリ。
▲五百歳において仏を見たてまつらず、 経法を聞かず、 菩薩・声聞の聖衆を見ず。
於テ↢五百*歳ニ↡不↠見タテマツラ↠仏ヲ、不↠聞カ↢経法ヲ↡、不↠見↢菩薩・声聞ノ聖衆ヲ↡。
▼安楽国土には▼これを辺地といひ、 また胎生といふ。 辺地とは、 いふこころはその五百歳のうちに三宝を見聞したてまつらず、 義辺地の難に同じく、 あるいはまた安楽国土においてもつともその辺にあり。 胎生とは、 たとへば胎生の人初生の時、 人法いまだ成らざるがごとし。 ▼辺はその難をいひ、 胎はその闇をいふ。
安楽国土ニハ謂ヒ↢之ヲ辺地ト↡、亦*曰フ↢胎生ト↡。辺地ト者、言フココロハ其ノ五百歳ノ中ニ不↠見↢聞シタテマツラ三宝ヲ↡、義同ジク↢辺地之難ニ↡、或イハ亦於テ↢安楽国土ニ↡最モ在リ↢其ノ辺ニ↡。胎生ト者、譬ヘバ如シ↢胎生ノ人初生之時、人法未ダルガ↟成ラ。辺ハ言ヒ↢其ノ難ヲ↡、胎ハ言フ↢其ノ闇ヲ↡。
この二名はみなこれを借りてかれを況するのみ。 これ八難のなかの辺地にあらず、 また胞胎のなかの胎生にもあらず。 何をもつてかこれを知る。 安楽国は一向に化生なるがゆゑなり。 ゆゑに知る、 実の胎生にあらざることを。 五百年の後に還りて三宝を見聞したてまつることを得るがゆゑなり。 ゆゑに知る、 八難のなかの辺地にもあらざることを。
此ノ二名ハ皆借リテ↠*此ヲ況スル↠彼ヲ耳。非ズ↢是八難ノ中ノ辺地ニ↡、亦非ズ↢胞胎ノ中ノ胎生ニモ↡。何ヲ以テカ知ル↠之ヲ。安楽国ハ一向ニ化生ナルガ故ナリ。故ニ知ル、非ザルコトヲ↢実ノ胎生ニ↡。五百*年ノ後ニ還リテ↣得ルガ見↢聞シタテマツルコトヲ三宝ヲ↡故ナリ。故ニ知ル、非ザルコトヲ↢八難ノ中ノ辺*地ニモ。
問ひていはく、 かの胎生のものは、 七宝の宮殿のうちに処して快楽を受くるやいなや、 また何をか憶念するところぞや。
問ヒテ曰ク、彼ノ胎生ノ者ハ、処シテ↢七宝ノ宮殿ノ中ニ↡受クルヤ↢快楽ヲ↡*不ヤ、復何ヲカ*所ゾヤ↢憶念スル↡。
答へていはく、 ¬経¼ (大経・下・意) に喩へていはく、 「▲たとへば転輪王の王子罪を王に得れば、 後宮に内れて繋ぐに金鎖をもつてせんがごとし、 ◆一切の供具乏少するところなきことなほ王子のごとし。 王子時に好妙種々の自娯楽ありといへども、 つぶさに心に愛楽せず。 ▲ただもろもろの方便を設けて免るることを求め出づるを悕ふことを念ず。
答ヘテ曰ク、¬経ニ¼0560喩ヘテ云ク、「譬ヘバ如シ↧転輪王ノ*王子得レバ↢罪ヲ於王ニ↡、内レテ↢*於後宮ニ↡繋グニ以テセムガ↦金鎖ヲ↥、一切ノ供具無キコト↠所↢乏少スル↡猶如シ↢王*子ノ↡。*王子于↠時雖モ↠有リト↢好妙種々ノ自娯楽↡、*具ニ心ニ不↢*愛楽セ↡。但念ズ↧設ケテ↢*諸ノ方便ヲ↡求メ↠免ルルコトヲ*悕フコトヲ↞出ヅルヲ。
▲かの胎生のものもまたかくのごとし。 七宝の宮殿に処して妙なる色・声・香・味・触ありといへども、 もつて楽となさず。 ただ三宝を見たてまつらざるをもつて、 供養してもろもろの善本を修することを得ず、 これをもつて苦となす。 ◆もしその本の罪を識りて深くみづから悔責してかの処を離れんと求めば、 すなはち意のごとくなるを得て、 還りて三輩生のものに同じと」。 まさにこれ五百年の末にまさに罪を識りて悔ゆるのみ。
彼ノ胎生ノ者モ亦復如シ↠是クノ。雖モ↧処シテ↢七宝ノ宮殿ニ↡有リト↦*妙ナル色・*声・香・味・触↥、不↢以テ為サ↟楽ト。但以テ↠不ルヲ↠見タテマツラ↢三宝ヲ↡、不↠得↣供養シテ修スルコトヲ↢諸ノ善本ヲ↡、以テ↠之ヲ為ス↠苦ト。*若シ識リテ↢其ノ本ノ罪ヲ↡深ク自ラ*悔*責シテ求メバ↠離レムト↢彼ノ処ヲ↡、即チ得テ↠如クナルヲ↠意ノ、還リテ同ジト↢三輩生ノ者ニ↡」。当ニ是五百年ノ*末ニ方ニ識テ↠*罪ヲ悔ユル耳。
問ひていはく、 疑惑心をもつて安楽に往生するものを名づけて胎生といはば、 いかんが疑いを起すや。
問ヒテ曰ク、以テ↢疑惑心ヲ↡往↢生スルモノヲ安楽ニ↡名ケテ曰ハバ↢胎生ト↡者、云何ガ起スヤ↠疑ヲ。
答へていはく、 ¬経¼ (大経・下) のなかにただ 「▲疑惑不信」 といひて疑意するゆゑを出さず、 不了の五句を尋ねてあへて対治をもつてこれを言はむ。
答ヘテ曰ク、¬経ノ¼中ニ但云ヒテ↢「疑惑不信ト」↡不↠出サ↣所↢以ヲ疑意スル↡、尋ネテ↢不了ノ五句ヲ↡*敢テ以テ↢対治ヲ↡言ハム↠之ヲ。
「▲不了仏智」 とは、 いはく仏の一切種智を信了することあたはず。 不了のゆゑに疑いを起す。 この一句は総じて所疑を弁ず。 ▲下の四句は一々に所疑を対治す。 疑いに四意あり。
「不了仏智ト」者、謂ク不↠能ハ↣信↢了スルコト仏ノ一切種智ヲ↡。不了ノ*故ニ起ス↠疑ヲ。此ノ一句ハ総ジテ*辨ズ↢所疑ヲ↡。下ノ四句ハ一々ニ対↢治ス所疑ヲ↡。疑ニ有リ↢四意↡。
一には疑はく、 ただ阿弥陀仏を憶念するもかならずしも安楽に往生することを得ざらん。
一ニ者疑ハク、*但憶↢念スルモ阿弥陀仏ヲ↡不ラム↤必ズシモ得↣往↢生スルコトヲ安楽ニ↡。
▲なにをもつてのゆゑに。 経にいはく、 「業道は称のごとし、 重きものまづ牽く」 と。 いかんが一生、 あるいは百年、 あるいは十年、 あるいは一日も悪として造らずといふことなきもの、 十念相続するをもつてすなはち往生することを得て、 すなはち正定聚に入りて畢竟じて退せず、 三途の諸苦とながく隔てむや。 もししからば▲先牽の義なにをもつてか信を取る。
何ヲ以テノ故ニ。経ニ言ク、「業道ハ如シ↠*称ノ、重キ者先ヅ牽クト。」云何ガ一生、或イハ百年、或イハ十年、*或イハ一*日モ無キモノ↢悪トシテ不トイフコト↟造ラ、*以テ↢十念相続スルヲ↡便チ得テ↢往生スルコトヲ↡、即チ入リテ↢正定聚ニ↡畢竟ジテ不↠退セ、与↢三途ノ諸苦↡永ク隔テム*耶。若シ爾ラバ先牽之義何ヲ以テカ取ル↠信ヲ。
▲また曠劫よりこのかた、 つぶさに諸行有漏の法を造りて、 三界に繋属せり。 いかんが三界の結惑を断ぜずして、 ただ少時に阿弥陀仏を念ずるをもつてすなはち三界を出でんや。 繋業の義またいかんせんと欲する。
又曠劫ヨリ已来タ、*備ニ造リテ↢諸行有漏之法ヲ↡、繋↢属セリ三0561界ニ↡。云何ガ不シテ↠断ゼ↢三界ノ結惑ヲ↡、直ダ以テ↣少時ニ念ズルヲ↢阿弥陀仏ヲ↡便チ出デム↢三界ヲ↡*耶。繋業之義復欲スル↢云何セムト↡。
この疑いを対治するがゆゑに▲不思議智といふ。 ▼不思議とは、 いはく仏智の力はよく少をもつて多となし多をもつて少となし、 近をもつて遠となし遠をもつて近となし、 軽をもつて重となし重をもつて軽となし、 長をもつて短となし短をもつて長となす。 かくのごとき等の仏智、 無量無辺不可思議なり。
対↢治スルガ*此ノ疑ヲ↡故ニ言フ↢不思*議智ト↡。不思*議ト者、謂ク仏智ノ力ハ能ク以テ↠少ヲ作シ↠*多ト以テ↠多ヲ作シ↠少ト、以テ↠近ヲ為シ↠遠ト以テ↠遠ヲ為シ↠近ト、以テ↠軽ヲ為シ↠重ト以テ↠重ヲ為シ↠軽ト、以テ↠長ヲ為シ↠短ト以テ↠短ヲ為ス↠長ト。如キ↠是クノ等ノ*仏智、無量無辺不可思*議ナリ。
▼たとへば百夫、 百年薪を聚めて積むこと高さ千刃ならんに、 豆ばかりの火をもつて焚くに半日にすなはち尽くるがごとし。 あに百年の薪、 半日に尽きざるといふことを得べけんや。
譬ヘバ如シ↧百夫、百年聚メテ↠薪ヲ積ムコト高サ千刃ナラムニ、豆*許ノ火ヲモテ焚クニ半日ニ便チ尽クルガ↥。*豈ニ可ケム↠得↠言フコトヲ↢百年之*薪、半日ニ不ルト↟尽キ*耶。
▼また躄者他の船に寄載せらるれば帆風の勢ひによりて一日にして千里に至らんがごとし。 あに躄者いかんぞ一日に千里に至らむといふことを得べけんや。
又如シ↧*躄者寄↢載セラルレバ他ノ船ニ↡因リテ↢*帆風ノ勢ニ↡一日ニシテ*至ラムガ↦千里ニ↥。豈ニ可ケム↠得↠言フコトヲ↣躄者云何ゾ一日ニ至ラムト↢千里ニ↡*耶。
▼また下賎の貧人一の瑞物を獲てもつて王に貢ぐに、 王得るところを慶びてもろもろの重賞を加ふれば、 斯須のあひだに富貴盈ち溢るるがごとし。 あに数十年仕へてつぶさに辛勤を尽くせども、 達せずして帰ものあるをもつて、 かの富貴をいひてこの事なしといふことを得べけんや。
又如シ↧下賎ノ貧人獲テ↢一ノ瑞物ヲ↡而以テ貢グニ↠*王ニ、王慶ビテ↠所ヲ↠得ル加フレバ↢諸ノ重賞ヲ↡、斯須之頃ニ富貴盈チ*溢ルルガ↥。豈ニ可ケム↠*得↪以テ↧数十*年仕ヘテ備ニ尽クセドモ↢辛*懃ヲ↡、不シテ↠達セ帰ル者アルヲ↥、言ヒテ↢彼ノ富貴ヲ↡無シトイフコトヲ↩此ノ事↨*耶。
▲また劣夫己身の力をもつて驢に擲りて上らざれども、 転輪王の行に従へばすなはち虚空に乗じて飛騰自在なるがごとし。 また擲驢の劣をもつて転輪王の行にかならず空に乗ことあたはずといふべけんや。
又如シ↧劣夫以テ↢己身ノ力ヲ↡擲リテ↠驢ニ不レドモ↠上ラ、従ヘバ↢転輪王ノ行ニ↡便チ乗ジテ↢虚空ニ↡飛騰自*在ナルガ↥。復*可ケム↧以テ↢擲驢之*劣ヲ↡言フ↦*転輪王ノ行ニ必ズ不ト↞能ハ↠乗ズルコト↠空ニ耶。
▼また十囲の索は千夫も制らざれども、 童子剣を揮へば瞬項に両分するがごとし。 あに一の小児の力索を断つことあたはずといふことを得べけんや。
又如シ↢十囲之索ハ千*夫モ不レドモ↠制ラ、童子揮ヘバ↠剣ヲ瞬項ニ両分スルガ↡。*豈ニ可ケム↠得↠言フコトヲ↢一ノ小児ノ力不ト↟*能ハ↠断ツコト↠索ヲ*耶。
▲また鴆鳥水に入れば魚蜯ここに斃れ、 犀角泥に触るれば死せるものみな起つがごとし。 あに性命一たび断ゆれば生くべきことなしといふことを得べけんや。
又如シ↢*鴆鳥入レバ↠水ニ魚蜯斯ニ斃レ、犀角触ルレバ↠泥ニ死セル者咸起ツガ↡。豈ニ可ケム↠得↠言フコトヲ↢性命一タビ断ユレバ無シト↟可キコト↠生ク*耶。
▲また黄鵠子安と呼ぶに子安還りて活るがごとし。 あに墳下の千歳決して甦るべきことなしといふことを得べけんや。
又如シ↧黄鵠呼ブニ↢子安ト↡*子安還リテ活ルガ↥。豈ニ可ケム↠得↠言フコトヲ↢墳下ノ千*歳決シテ無シト↟*可キコト↠甦ル*耶。
▼一切の万法はみな自力・他力、 自摂・他摂ありて、 千開万閉、 無量無辺なり。 いづくんぞ有礙の識をもつて無礙の法を疑ふことを得んや。 また五の不思議のなかに仏法もつとも不可思議なり。 しかるに百年の悪をもつて重となし、 十念の念仏を疑ひて軽となして、 安楽に往生して正定聚に入ることを得ずといふは、 この事しからず。
一切ノ万法0562ハ皆*有リテ↢自力・他力、自摂・他摂↡、千開万閉、無量無辺ナリ。安ゾ得ム↧*以テ↢有礙之識ヲ↡*疑フコトヲ↦無礙之法ヲ↥乎。又五ノ不思*議ノ中ニ仏法最モ不可思*議ナリ。而ルニ以テ↢百年之悪ヲ↡為シ↠重ト、疑ヒテ↢十念ノ念仏ヲ↡為シテ↠軽ト、不トイフ↠得↧往↢生シテ安楽ニ↡入ルコトヲ↦正定聚ニ↥者、是ノ事不↠然ラ。
二には疑はく、 仏智は人において玄絶となさず。
二ニ者疑ハク、仏智ハ於テ↠人ニ不↠為サ↢玄絶ト↡。
なにをもつてのゆゑに。 それ一切の名字は相待より生じ、 覚智は不覚より生ず。 迷方は記方より生ずるがごとし。 もし迷ひ絶して迷はざらしめば、 迷ひつひに解けざるべし。 迷ひもし解くべくは、 かならず迷へるものの解りなり。 また解れるものの迷解ともいふべし、 迷と解と、 解と迷と、 なほ手を反覆するがごときのみ。 すなはち明昧を異となすべし。 またいづくんぞ超然たることを得んや。 この疑ひを起すがゆゑに仏の智慧において疑ひを生じて信ぜず。
何ヲ以テノ故ニ。夫レ一切ノ名字ハ従リ↢相*待↡生ジ、覚智ハ従リ↢不覚↡生ズ。*如シ↧迷方ハ従リ↢*記方↡生ズルガ↥。若シ使メバ↢迷絶シテ不ラ↟迷ハ、迷卒ニ不ルベシ↠解ケ。迷若シ可クハ↠解ク、必ズ迷ヘル者ノ解ナリ。亦可シ↠云フ↢解レル者ノ迷*解トモ↡、*迷ト解ト、解ト迷ト、猶キ↢*手ヲ反覆スルガ↡耳。乃チ可シ↢明昧ヲ為ス↟異ト。亦安ゾ得ム↢超然タルコトヲ↡哉。起スガ↢此ノ疑ヲ↡故ニ於テ↢仏ノ智*恵ニ↡生ジテ↠疑ヲ不↠信ゼ。
この疑ひを対治するがゆゑに▲不可称智といふ。 不可称智とは、 いふこころは仏智は称謂を絶しあひ形待するにあらず。
対↢治スルガ此ノ疑ヲ↡故ニ言フ↢不可称智ト↡。不可称智ト者、言フココロハ仏智ハ絶シ↢*於称謂ヲ↡非ズ↢相形待スルニ↡。
なにをもつてかこれをいふとならば、 法もしこれ有ならばかならず有を知る智あり、 法もしこれ無ならばまた無を知る智あるべし。 諸法は有無を離るるがゆゑに、 仏諸法に溟ふときはすなはち智相待を絶す。 なんぢ解迷を引きて喩へとなすもなほこれ一迷なるのみ。 迷解を成ぜずしてまた夢中にして他のために夢を解くがごとし。 夢を解くといふといへどもこれ夢ならざるにあらず。
何ヲ以テカ言フトナラバ↠之ヲ、法若シ是有ナラバ*必ズ有リ↢知ル↠有ヲ之智↡、法若シ是無ナラバ亦応シ↠有ル↢知ル↠無ヲ之智↡。諸法ハ離ルルガ↢於有無ヲ↡故ニ、仏溟フトキハ↢諸法ニ↡則チ智絶ス↢相待ヲ↡。汝引テ↢解迷ヲ↡為スモ↠喩ト猶是一迷ナル耳。不シテ↠成ゼ↢迷解ヲ↡亦如シ↢夢中ニシテ与ニ↠他ノ解クガ↟夢ヲ。雖モ↠云フト↠解クト↠夢ヲ非ズ↢是不ルニ↟夢ナラ。
知をもつて仏を取るも仏を知るといはず。 不知をもつて仏を取るもまた仏を知るにあらず。 非知非不知をもつて仏を取るもまた仏を知るにあらず。 非々知非々不知をもつて仏を取るもまた仏を知るにあらず。 仏智はこの四句を離れたり。 これを縁ずるものは心行滅し、 これを指ふるものは言語断ず。
以テ↠知ヲ取ルモ↠仏ヲ不↠曰ハ↠知ルト↠仏ヲ。以テ↢不知ヲ↡取ルモ↠仏ヲ*亦非ズ↠知ルニ↠仏ヲ。*以テ↢非知非不知ヲ↡取ルモ↠仏ヲ亦非ズ↠知ルニ↠仏ヲ。以テ↢非々知非々不知ヲ↡取ルモ↠仏ヲ*亦非ズ↠知ルニ↠仏ヲ。仏智ハ離レタリ↢此ノ四句ヲ↡。縁ズル↠之ヲ者ハ心行滅シ、*指フル↠之ヲ*者ハ言語断ズ。
この義をもつてのゆゑに ¬釈論¼ (大智度論・一八・初品) にいはく、 「▼もし人般若を見るといはば、 これすなはち縛せられたりとなす。 もし般若を見ざるといはば、 これまた縛せられたりとなす。 ◆もし人般若を見るといはば、 これすなはち解脱となす。 もし般若を見ざるといはば、 これまた解脱となす」 と。 ▼この偈のなかに、 四句を離れざるものを縛となし、 四句を離るるものを解となすと説く。
以テノ↢是ノ義ヲ↡故ニ¬釈論ニ¼*言ク、「若シ人*見ルトイハバ↢般若ヲ↡、是則チ為ス↠被レタリト↠縛セ。若0563シ不ルトイハバ↠見↢般若ヲ↡、是亦為ス↠被レタリト↠縛セ。若シ人見ルトイハバ↢般若ヲ↡、是則チ為ス↢解脱ト↡。若シ不ルトイハバ↠見↢般若ヲ↡、是亦為スト↢解脱ト↡。」此ノ偈ノ中ニ、説ク↧不ル↠離レ↢四句ヲ↡者ヲ為シ↠縛ト、離ルル↢四句ヲ↡者ヲ為スト↞*解ト。
なんぢ仏智は人と玄絶ならざると疑はば、 この事しからず。
汝疑ハバ↣仏智ハ与↠人不ルト↢玄絶ナラ↡者、是ノ事不↠然ラ。
三には疑はく、 仏は実に一切衆生を度したまふことあたはず。
三ニ者疑ハク、仏ハ不↠能ハ↣実ニ度シタマフコト↢一切衆生ヲ↡。
なにをもつてのゆゑに。 過去世に無量阿僧祇恒沙の諸仏まします。 現在十方世界にもまた無量無辺阿僧祇恒沙の諸仏まします。 もし仏をして実によく一切衆生を度せしむるとき、 すなはち久しくまた三界なかるべし。 第二の仏はすなはちまた衆生のために菩提心を発し、 つぶさに浄土を修して衆生を摂受したまふべからず。 しかるに実には第二の仏ましまして衆生を摂受したまふ。 乃至実には三世十方無量の諸仏ましまして衆生を摂受したまふ。
何ヲ以テノ故ニ。過去世ニ有ス↢無量阿僧祇恒沙ノ諸仏↡。現在十方世界ニモ亦有ス↢無量無辺阿僧祇恒沙ノ諸仏↡。若シ使ムルトキ↣仏ヲシテ実ニ能ク度セ↢一切衆生ヲ↡*者、則チ*応シ↣久シク無カル↢*復三界↡。第二ノ仏ハ則チ不↠応カラ↧復為ニ↢衆生ノ↡発シ↢菩提心ヲ↡、具ニ*修シテ↢浄土ヲ↡摂↦受シタマフ衆生ヲ↥。而ルニ実ニハ有シテ↢第二ノ仏↡摂↢受シタマフ衆生ヲ↡。乃至実ニハ有シテ↢三世十方無量ノ諸仏↡摂↢受シタマフ衆生ヲ↡。
ゆゑに知る、 仏は実に一切衆生を度したまふことあたはず。 この疑ひを起すがゆゑに阿弥陀において有量の想をなす。
故ニ知ル、仏ハ実ニ不↠能ハ↠度シタマフコト↢一切衆生ヲ↡。起スガ↢此ノ疑ヲ↡故ニ於テ↢*阿弥*陀ニ↡作ス↢有量ノ想ヲ↡。
この疑ひを対治するがゆゑに▲大乗広智といふ。 大乗広智とは、 いふこころは仏は法として知りたまはずといふことなく、 煩悩として断じたまはざるといふことなく、 善として備へたまはざるといふことなく、 衆生として度したまはざるといふことなし。 三世十方の仏ましますゆゑは五義あり。
対↢治スルガ此ノ疑ヲ↡故ニ言フ↢大乗広智ト↡。大乗広智ト者、言フココロハ*仏ハ無ク↢法トシテ不トイフコト↟知リタマハ、無ク↢煩*悩トシテ不ルトイフコト↟断ジタマハ、無ク↢善トシテ不ルトイフコト↟備ヘタマハ、無シ↢衆生トシテ不ルトイフコト↟度シタマハ。所↣以有ス↢三世十方ノ*仏↡者有リ↢五義↡。
一にはもし第二の仏乃至無量阿僧祇恒沙の諸仏なからしめば、 仏すなはち一切衆生を度したまふことあたはず。 実に能く一切衆生を度したまふをもつてのゆゑに、 すなはち十方無量の諸仏まします。 諸仏はすなはちこれ前仏の度したまふところの衆生なり。
一ニ者若シ使メバ↠無カラ↢第二ノ仏乃至無*量阿僧祇恒沙ノ諸仏↡者、仏便チ不↠能ハ↠度シタマフコト↢一切衆生ヲ↡。以テノ↣実ニ能ク度シタマフヲ↢一切衆*生ヲ↡故ニ、則チ有ス↢十方無量ノ諸仏↡。*諸仏ハ即チ是前仏ノ所ノ↠度シタマフ衆生ナリ。
二にはもし一仏一切衆生を度し尽さば、 後にもまたまた仏ましますべからず。 なにをもつてのゆゑに。 覚他の義なきがゆゑなり。 またいづれの義によりてか三世の仏ましますと説かんや。 覚他の義によるがゆゑに、 仏々みなよく一切衆生を度したまふと説く。
二ニ者若シ一仏度シ↢一切衆生ヲ↡尽サバ者、後ニモ亦不↠応カラ↢復有ス↟仏。何ヲ以テノ故ニ。無キガ↢覚他ノ義↡故ナリ。復依リテカ↢何ノ義ニ↡説0564カム↠有スト↢三世ノ仏↡*耶。依ルガ↢覚他ノ義ニ↡故ニ、説ク↣仏々皆*能ク度シタマフト↢一切衆生ヲ↡。
三には後仏よく度したまふ。 なほこれ前仏の能なり。 なにをもつてのゆゑに。 前仏によりて後仏ましますがゆゑなり。 っとへば帝王の冑あひ紹襲することを得るは後王すなはちこれ前王の能なるがごときがゆゑなり。
三ニ者*後仏能ク度シタマフ。猶是前仏之能ナリ。何ヲ以テノ故ニ。由リテ↢前仏ニ↡有スガ↢後仏↡故ナリ。譬ヘバ如キガ↧帝王之*冑得ルハ↢相紹襲スルコトヲ↡後*王即チ是前王之能ナルガ↥故ナリ。
四には仏力よく一切衆生を度したまふといへども、 かならずすべからく因縁あるべし。 もし衆生前仏と因縁なくは後仏を須つべし。 かくのごとく無縁の衆生ややもすれば百千万仏を経るも、 聞かず見ざるは仏力の劣なるにはあらず。
四ニ者仏力雖モ↣能ク度シタマフト↢*一切衆生ヲ↡、要ズ須クシ↠有ル↢因縁↡。若シ衆生与↢前仏↡無クハ↢因*縁↡須ツベシ↢後仏ヲ↡。如ク↠是クノ無縁ノ衆*生動バ逕ルモ↢百千万仏ヲ↡、不↠聞カ不ルハ↠見非ズ↢仏力ノ劣ナルニハ↡也。
▲たとへば日月の四天下に周くしてもろもろの闇冥を破すれども盲者は見ず、 日の明かならざるにはあらず、 雷震耳を裂けども聾者は聞かず、 声の励しからざるにはあらざるがごとし。 もろもろの縁理を覚するをこれを号けて仏といふ。 もし情強ひて縁理に違せば、 正覚にあらず。 これ衆生無量なれば、 仏もまた無量なり。 仏は有縁・無縁を問ふことなく、 なんぞことごとく一切衆生を度したまはざるやと徴するは、 理にあらざる言なり。
譬ヘバ如シ↧日月ノ周クシテ↢四天下ニ↡破スレドモ↢諸ノ闇冥ヲ↡而盲者ハ不↠見、非ズ↢日ノ不ルニハ↟明ナラ也、*雷震*裂ケドモ↠耳ヲ而聾者ハ不↠聞カ、非ザルガ↦声ノ不ルニハ↞励シカラ也。覚スルヲ↢諸ノ縁理ヲ↡号ケテ↠之ヲ曰フ↠仏ト。若シ情強ヒテ違セバ↢縁*理ニ↡、非ズ↢正覚ニ↡也。*是衆生無量ナレバ、仏モ亦無量ナリ。徴スル↫仏ハ莫ク↠問フコト↢有縁・無縁ヲ↡、何ゾ不ルヤト↪尽ク度シタマハ↩一切衆生ヲ↨者、非ザル↠理ニ言也。
五には衆生もし尽きなば、 世間すなはち有辺に堕せん。 この義をもつてのゆゑにすなはち無量の仏ましまして一切衆生を度したまふ。
五ニ者衆生若シ尽キナバ、世間*則チ*堕セム↢有辺ニ↡。以テノ↢*此ノ義ヲ↡故ニ*則チ有シテ↢無量ノ仏↡度シタマフ↢一切衆生ヲ。
問ひていはく、 もし衆生尽くべからずは世間また無辺に堕せん。 無辺のゆゑに仏すなはち実に一切衆生を度したまふことあたはざるや。
問ヒテ曰ク、若シ衆生不ハ↠可カラ↠尽ク世間*復堕セム↢無辺ニ↡。*無辺ノ故ニ仏則チ不ルヤ↠能ハ↣実ニ度シタマフコト↢一切衆生ヲ↡。
答へていはく、 世間は有辺にあらず無辺にあらず、 また四句を絶す。 仏は衆生をしてこの四句を離れしめたまふ。 これを名づけて度となす。 その実は度にあらず不度にあらず、 尽にあらず不尽にあらず。
答ヘテ曰ク、世間ハ*非ズ↢有辺ニ↡非ズ↢無辺ニ↡、亦絶ス↢四句ヲ↡。*仏ハ令メタマフ↣衆生ヲシテ離レ↢此ノ四句ヲ↡。名ケテ↠之ヲ為ス↠度ト。其ノ実ハ非ズ↠度ニ*非ズ↢不度ニ↡、非ズ↠尽ニ非ズ↢不尽ニ↡。
たとへば夢に大海を渡るに涛波の諸難に値ひ、 その人畏怖して叫ぶ声外に徹り、 外の人ありて喚び覚すに、 怛然として憂ひなきがごとし。 ただ渡夢となして、 渡河とはなさず。
譬ヘバ如シ↧夢ニ渡ルニ↢大海ヲ↡値ヒ↢涛波ノ諸難ニ↡、其ノ人畏怖シテ叫ブ声徹リ↠外ニ、*有リテ↢*外ノ人↡喚ビ覚スニ、*怛然トシテ無キガ↞憂。但為シテ↢渡夢ト↡、不↠為サ↢渡河トハ↡。
問ひていはく、 渡と不渡とみな辺見に堕すといはば、 なにをもつてかただ一切衆生を渡するを大乗広智となすと説きて、 衆生を渡せざるを大乗広智となすと説かざるや。
問ヒテ曰ク、言ハバ↧渡ト与↢不渡↡皆堕スト↦辺見ニ↥、何ヲ以テカ但説キテ↧渡スルヲ↢一切衆生ヲ↡為スト↦大乗広智ト↥、不ル↠説0565カ↧不ルヲ↠渡セ↢衆生ヲ↡為スト↦大乗広智ト↥*耶。
答へていはく、 衆生は苦を厭ひ楽を求め、 縛を畏れ解を求めずといふことなし。 渡を聞けばすなはち帰向し、 不渡を聞けば渡せざるゆゑを知らずして、 すなはち仏は大慈悲にあらずといひてすなはち帰向せず。 帰向せざるがゆゑに長く久夢に寝ねて息むべきに由なし。 この人のためのゆゑに多く渡を説きて不渡を説かず。
答ヘテ曰ク、衆生ハ莫シ↠不トイフコト↢厭ヒ↠苦ヲ求メ↠楽ヲ、畏レ↠縛ヲ求メ↟解ヲ。聞ケバ↠渡ヲ則チ帰向シ、聞ケバ↢不渡ヲ↡不シテ↠知ラ↣所↢以ヲ不ル↟渡セ、便チ謂ヒテ↣仏ハ非ズト↢大慈悲ニ↡則チ不↢帰向セ。*不ルガ↢帰向セ↡故ニ長ク寝ネテ↢久夢ニ↡無シ↠由↠可キニ↠息ム。為ノ↢是ノ人ノ↡故ニ多ク説キテ↠渡ヲ不↠説カ↢不渡ヲ↡。
また次に ¬諸法無行経¼ (上) にまたのたまはく、 「仏は仏道を得たまはず、 また衆生を渡したまはざるも、 凡夫強ひて仏となり衆生を渡したまふと分別す」 と。 衆生を度すといふはこれ対治悉旦なり、 衆生を度せずといふはこれ第一悉檀なり。 二言おのおのゆゑありてあひ違背せず。
復次ニ¬*諸法無行経ニ¼亦言ク、「仏ハ不↠得タマハ↢仏道ヲ↡、亦不ルモ↠渡シタマハ↢衆生ヲ↡、凡夫強ヒテ分↣別スト*作リ↠仏ト渡シタマフト↢衆生ヲ↡。」言フハ↠度スト↢衆生ヲ↡是対治悉*旦ナリ、言フハ↠不ト↠度セ↢衆生ヲ↡是第*一悉*檀ナリ。二言各ノ有リテ↢所以↡不↢相違背セ↡。
問ひていはく、 もし夢息むことを得ばあにこれ度にあらずや。 もし一切衆生の所夢みな息めば、 世間あに尽くことあたはざらんや。
問ヒテ曰ク、如夢得バ↠息ムコトヲ豈ニ不↢是度ニアラ↡耶。若シ一切衆生ノ所夢皆息メバ、世間豈ニ不ラム↠*能ハ↠尽クコト*耶。
答へていはく、 夢を説きて世間となすも、 もし夢息むときはすなはち夢者なし、 もし夢者なくはまた度者をも説かず。 かくのごとく世間はすなはちこれ出世間と知れば、 無量の衆生を度すといへどもすなはち顛倒に堕せず。
答ヘテ曰ク、説キテ↠*夢ヲ為スモ↢世間ト↡、若シ夢息ムトキハ*則チ無シ↢夢者↡、若シ無クハ↢夢者↡亦不↠説カ↢度者ヲモ↡。如ク↠是クノ知レバ↢世間ハ即チ*是出世間ト↡、雖モ↠度スト↢無量ノ衆生ヲ↡則チ不↠堕セ↢顛倒ニ↡。
四には疑はく、 仏は一切種智を得たまはず。
四ニ者疑ハク、仏ハ不↠得タマハ↢一切種智ヲ↡。
なにをもつてのゆゑに。 もしよくあまねく諸法を知りたまはば諸法有辺に堕するがゆゑなり。 もしあまねく知ることあたはざればすなはち一切種智にあらざるがゆゑなり。
何ヲ以テノ故ニ。若シ*能ク遍ク知リタマハバ↢諸法ヲ↡*諸法堕スルガ↢有辺ニ↡故ナリ。若シ不レバ↠能ハ↢遍ク知ルコト↡則チ非ザルガ↢一切種智ニ↡故ナリ。
この疑ひを対治するがゆゑに▲無等無倫最上勝智といふ。 ↓無等↓無倫最上勝智とは、 凡夫の智は虚妄なり、 仏の智は如実なり、 虚と実と玄殊なり。
対↢治スルガ*此ノ疑ヲ↡故ニ言フ↢無等無倫最上勝智ト↡。無等無倫最上勝智ト者、凡夫ノ智ハ虚妄ナリ、仏ノ智ハ如実ナリ、虚ト実ト玄殊ナリ。
理として等しきことを得ることなきがゆゑに↑無等といふ。 声聞・辟支仏は知るところあらんと欲すれば入定してまさに知り、 出定してまた知るもまた限りあり。 仏は如実三昧を得、 常に深定にましましてあまねく万法の二と無二とを照したまふ。
理トシテ無キガ↠得ルコト↠等シキコトヲ故ニ言フ↢無等ト↡。声*聞・辟支仏ハ欲スレバ↠有ラムト↠所↠*知ル入定シテ方ニ知リ、出*定シテ又知ルモ亦有リ↠限リ。仏ハ得↢如実三昧ヲ↡、常ニ在シテ↢深定ニ↡而*遍ク照シタマフ↣万法ノ二ト与ヲ↢無二↡。
深浅倫にあらざるがゆゑに↑無倫といふ。 八地以上の菩薩は報生三昧を得て用に出入なしといへども、 習気かすかに三昧に勲べて明浄を極めず。 仏智に形待するもなほ有上となす。 仏は智断具足し法のごとくにして照したまふ。 法無量なるがゆゑに照もまた無量なり。 たとへば函大なれば蓋もまた大なるがごとし。
深*浅非ザルガ↠倫ニ故0566ニ言フ↢無倫ト↡。八地已上ノ菩薩ハ雖モ↧得テ↢報生三昧ヲ↡用ニ無シト↦出入↥、而習気*微ニ*勲ベテ↢三昧ニ↡不↠極メ↢明浄ヲ↡。形↢*待スルモ仏智ニ↡猶為ス↢有上ト↡。仏ハ智断具足シ如クニシテ↠法ノ而照シタマフ。法無量ナルガ故ニ照モ亦無量ナリ。譬ヘバ如シ↢函大ナレバ蓋モ亦*大ナルガ↡。
この三句また展転してあひ成ずべし。 仏智は与に等しきものなきをもつてのゆゑに、 ゆゑに無倫なり。 無倫なるをもつてのゆゑに最上勝なり。 また最上勝なるがゆゑに無等なり、 無等々なるがゆゑに無倫なりといふべし。
此ノ三句亦可シ↢展転シテ相成ズ↡。以テノ↣仏智ハ無キヲ↢与ニ等シキ者↡故ニ、所以ニ無倫ナリ。以テノ↢無*倫ナルヲ↡故ニ最上勝ナリ。*亦可シ↢最上勝ナルガ故ニ無等ナリ、无等*々ナルガ故ニ无倫ナリトイフ↡。
ただ無等といふにすなはち足りぬ。 またなにをもつてか下の二句を須ふるとならば、 須陀洹の智のごときは阿羅漢と等しからざれどもこれその類なり。 初地より十地に至るもまたかくのごとし。 智は等しからずといへどもその倫ならざるにあらず。 なにをもつてのゆゑに。 最上にあらざるがゆゑなり。 なんぢ有辺と無辺とを知ることをもつて難となし、 仏は一切智にあらずと疑はば、 この事しからず。
但言フニ↢無等ト↡便チ足リヌ。復何ヲ以テカ須フルトナラバ↢下ノ*二句ヲ↡者、如キハ↢須陀洹ノ智ノ↡不レドモ↧与↢阿羅漢↡等シカラ↥而是其ノ類ナリ。初地ヨリ至ルモ↢十地ニ↡亦如シ↠是クノ。智ハ雖モ↠不ト↠等シカラ非ズ↠不ルニ↢其ノ倫ナラ↡。何ヲ以テノ故ニ。非ザルガ↢最上ニ↡故ナリ。汝以テ↠*知ルコトヲ↢有*辺ト*無*辺トヲ↡為シ↠難ト、疑ハバ↣仏ハ非ズト↢一切智ニ↡者、是ノ事不↠然ラ。
問ひていはく、 下輩生のなかに▲十念相続してすなはち往生を得といへり。 いかなるをか名づけて十念相続となすや。
問ヒテ曰ク、下輩生ノ中ニ云ヘリ↣十念相続シテ便チ得ト↢往生ヲ↡。云何ナルヲカ名ケテ為スヤ↢十念相続ト↡。
答へていはく、 ▼たとへば旧人ありて空曠の迴なる処にして怨賊に値遇するに、 刃を抜き勇を奮ひてただちに来りて取らんと欲す。 その人勁く走りて一河の渡るべきを規る。 もし河を渡ることを得ば首領全かるべし。 その時ただ河を渡る方便を念ず。 我河岸に至らば衣を着して渡るとやせん、 衣を脱ぎて渡るとやせん。 もし衣納を着さばおそらくは過ぐることを得ざらん。 もし衣納を脱がばおそらくは暇を得ることなからん。 ただこの念のみありてさらに他縁なし。 もつぱらいかにしてまさに河を渡るべしと念はん。 すなはちこれ一念なり。 かくのごとく十念余心を雑へざるを名づけて十念相続となすがごとし。
答ヘテ曰ク、譬ヘバ如シ↧有リテ↢*旧人↡空曠ノ*迴ナル処ニシテ値↢遇スルニ怨賊ニ↡、抜キ↠*刃ヲ奮ヒテ↠勇ヲ直ニ来リテ欲ス↠*取ラムト、其ノ人*勁ク走リテ*規ル↠渡ルベキヲ↢一河ノ↡、若シ得バ↠渡ルコトヲ↠*河ヲ首領可シ↠全カル、爾ノ時*但念ズ↢渡ル↠河ヲ方便ヲ↡、我至ラバ↢*河岸ニ↡為ム↢著シテ↠衣ヲ渡ルトヤ↡、為ム↢脱ギテ↠衣ヲ渡ルトヤ↡、若シ著サバ↢衣*納ヲ↡恐クハ不ラム↠得↠過グルコトヲ、若シ脱ガバ↢衣*納ヲ↡恐クハ無カラム↠得ルコト↠暇ヲ、但有リテ↢此ノ念ノミ↡更ニ無シ↢他縁↡、一ラ念ハム↢何ニシテ当ニシト↟渡ル↠河ヲ、即チ是一念ナリ、如ク↠是クノ*十念不ルヲ↠雑ヘ↢*余心ヲ↡名ケテ為スガ↦十念相続ト↥。
▼行者もまたしかなり。 阿弥陀仏を念ずるに、 かの渡を念ずるがごとくにして十念に至るべし。 もしは仏の名字を念じ、 もしは仏の相好を念じ、 もしは仏の光明を念じ、 もしは仏の神力を念じ、 もしは仏の功徳を念じ、 もしは仏の智慧を念じ、 もしは仏の本願を念じて他心間雑することなく、 心々あひ次ぎて乃至十念するを名づけて十念相続となす。
行者モ亦爾ナリ。念ズルニ↢阿弥陀仏ヲ↡、如クニシテ↢彼ノ念ズルガ↟渡ヲ*至ルベシ↢于十念ニ↡。若シハ念ジ↢仏0567ノ名字ヲ↡、若シハ*念ジ↢仏ノ相好ヲ↡、若シハ念ジ↢仏ノ光明ヲ↡、若シハ念ジ↢仏ノ神力ヲ↡、若シハ念ジ↢仏ノ功徳ヲ↡、若シハ念ジ↢仏ノ智*恵ヲ↡、若シハ念ジテ↢仏ノ本願ヲ↡无ク↢他心間雑スルコト↡、心々相次ギテ乃*至十念スルヲ名ケテ為ス↢十念相続ト↡。
一往▼十念相続といへば難しからざるに似若たり。 しかれども凡夫の心はなほ野馬のごとく、 識は獼猴よりも劇し。 六塵に馳騁してしばらくも停息することなし。 よろしく信心を及ぼしてあらかじめみづから剋念し、 積習して性を成じ、 善根堅固ならしむべし。
一往言ヘバ↢十念相続ト↡似↢若タリ不ルニ↠難シカラ。然レドモ凡夫ノ心ハ猶ク↢野馬ノ↡、識ハ劇シ↢*獼*猴ヨリモ↡。馳↢騁シテ六塵ニ↡无シ↢暫クモ停息スルコト↡。宜クシ↧*及ボシテ↢信心ヲ↡預メ自ラ剋念シ、使ム↦積習シテ成ジ↠性ヲ、善根堅固ナラ↥也。
◆仏頻婆娑羅王に告げたまふがごとし。 人善行を積めば死するとき悪念なし。 樹の西に傾き倒るるにかならず曲れるに随ふがごとし。
如シ↣仏告ゲタマフガ↢頻婆娑羅王ニ↡。人積メバ↢善行ヲ↡死スルトキ无シ↢悪念↡。如シ↢樹ノ西ニ傾キ*倒ルルニ必ズ随フガ↟*曲レルニ。
◆もし刀風一たび至らしめば百苦身に湊る。 習ひあらずは懐念なんぞ弁ずべけんや。 またよろしく同志五三ともに言要を結びて命終になんなんとする時、 たがひにあひ開暁して、 ために阿弥陀仏の名号を称して安楽に生れんと願じ、 声々あひ次ぎて十念を成ぜしむべし。
*若シ使メバ↢刀風一タビ至ラ↡百苦湊ル↠身ニ。*習不ハ↠在ラ懐念何ゾ可ケムヤ↠弁ズ。又宜クシ↧同志五三共ニ結ビテ↢言要ヲ↡垂ル↢命*終ニ↡時、迭ニ相開暁シテ、為ニ*称シテ↢阿弥陀仏ノ名号ヲ↡願ジ↠生レムト↢安楽ニ↡、声*々相次ギテ使ム↞成ゼ↢十念ヲ↡也。
◆たとへば蝋印をもつて泥に印するに、 印壊して文成ずるがごとし。 ここに命断ゆる時、 すなはちこれ安楽に生ずる時なり。 一たび正定聚に入ればさらになんの憂ふるところかあらん。
譬ヘバ如シ↢蝋印ヲモテ印スルニ↠泥ニ、印壊シテ文成ズルガ↡。*此ニ命*断ユル時、即チ是生ズル↢安*楽ニ↡時ナリ。一タビ入レバ↢正定聚ニ↡更ニ何ノ所カアラム↠憂フル*也。
*略論安楽浄土義
康和二年二月四日末時致書写了
同月六日巳時□於大原草庵移点了
桑門薬源
自他法界同利益共生極楽成仏道
延書は底本の返点・訓点に従って有国が行った。
底本は◎京都府来迎院蔵良如上人手沢本。 Ⓐ京都府常楽寺蔵室町時代書写本、 Ⓑ大英博物館蔵スタイン本(No.2723)、 Ⓒ龍谷大学蔵赤松文庫所収本 Ⓓ¬真宗校本 七祖聖教¼所収本 と対校。
浄 ◎ⒷⒸになし
義→ⒶⒹ義[曇鸞法師作]
如 ⒷⒸになし
形 ⒷⒸになし
曰→ⒷⒸ言
阿 ⒷⒸになし
請 ⒷⒸになし
行→ⒶⒷⒸⒹ善
荘→Ⓐ庄
其 Ⓑになし
以 ⒷⒸⒹになし
是 Ⓓになし
清浄 Ⓓになし
大広→ⒶⒷⒸⒹ広大
大 Ⓐになし
納→Ⓐ網
羅網→ⒷⒸ網羅
羅 ⒶⒹになし
薫→◎勲Ⓑ董
恵→ⒶⒷⒸⒹ慧
之 Ⓓになし
十七種 ⒷⒸになし
厳 ◎になし
王 Ⓓになし
浄 ⒶⒷⒸⒹになし
者 ⒷⒸになし
悟 Ⓐになし
恵→ⒶⒹ慧
相→Ⓐ特
心 Ⓐになし
力 Ⓐになし
住持→◎持住
与諸→Ⓓ未証
浄→ⒶⒷⒸⒹ[与]浄
大 Ⓓになし
悩→ⒷⒸ㷓
如 ⒶⒷⒸⒹになし
一切 Ⓐになし
等→ⒶⒷⒸⒹ菩薩
種輩 Ⓐになし
種 ⒷⒸⒹになし
輩→Ⓐ輩[観経中] Ⓓになし
幾 ⒷⒸになし
答→ⒷⒸⒹ答[曰]
輩→Ⓑ背
中又 Ⓓになし
中 Ⓐになし
而 ⒷⒸになし
此→Ⓐ比
作 ⒷⒸになし
功徳 Ⓐになし
此→Ⓐ比
五→Ⓓ因
恵→ⒷⒸⒹ慧
量→ⒶⒷⒸⒹ上
少多→ⒶⒹ多少
如 ⒷⒸになし
下…輩 ⒷⒸになし
恵如此→慧次如
諸 ⒷⒸになし
仏智→Ⓒ智仏
議→ⒷⒸ誼
願 Ⓓになし
生→ⒷⒸ生[下輩生者有三因縁一者仮使不能作諸功徳当発无上菩提心二者一向専意乃至十念念无量寿仏三者以至誠心願生安楽臨命終時夢見无量寿仏亦得往生功徳智恵次如中輩又有一種往生安楽不入三輩中謂以疑惑心修諸功徳不異前説]
安楽 ⒷⒸになし
七→ⒷⒸ已十
歳→Ⓓ歳[中常]
曰→◎自
此→Ⓐ比
年→Ⓐ歳
地→ⒶⒹ地[也]
不→Ⓓ否 ⒷⒸになし
所→Ⓐ所[何]
王 ⒶⒷⒸⒹになし
於→ⒷⒸ着
子 Ⓓになし
王子 Ⓐになし
具→ⒷⒸ其
愛→Ⓓ受
諸 ⒷⒸになし
悕→◎怖
妙→Ⓓ好
声 Ⓓになし
若 Ⓓになし
悔責 Ⓓ責悔
責→◎憤
末→◎未
罪→ⒷⒸ罪[生]
敢→Ⓐ取
故→Ⓓ故[故]
辨→◎ⒷⒸ片
但 ⒷⒸになし
称→ⒷⒸⒹ秤
或 Ⓒになし
日→ⒶⒹ月
以→ⒷⒸⒹ[但]以
耶→Ⓓ乎
備→Ⓓ倶
此→Ⓐ比
議→ⒶⒹ議[智]→ⒷⒸ誼智
多以 Ⓑになし
仏 ⒷⒸになし
許→Ⓐ計
豈…尽12字 ⒷⒸになし
薪→Ⓐ積
躄者 左Ⓓアシナヘタルモノ
帆風→ⒶⒷⒸⒹ風帆
至 ⒷⒸになし
王王→Ⓓ主主 左Ⓓワウワウ
溢→ⒷⒸ望
得以→Ⓓ得[言]以[可有]
年→ⒷⒸ年[貧]
懃→Ⓓ懃[上下尚]
在→Ⓓ然
可→ⒷⒸ可[得]
劣→ⒶⒹ劣[夫]
転輪王行 ⒶⒷⒸⒹになし
夫→Ⓐ支
豈 Ⓐになし
能 ⒷⒸになし
鴆鳥 Ⓐ鴆鳥と上欄註記
子安 ⒶⒷになし
歳→Ⓓ歳[齢]
可甦→◎甦可
有 Ⓐになし
以→Ⓒ以[一]
疑→Ⓓ疑[彼]
待→Ⓐ対
如→Ⓓ如[是]
記→Ⓐ起
解 ◎ⒶⒹになし
迷 Ⓐになし
手→◎Ⓐ乎
於 Ⓓになし
必→Ⓓ必[応]
亦 Ⓓになし
以 Ⓐになし
亦 Ⓐになし
指→Ⓓ損
者言→Ⓐ言者
言→Ⓓ云
見→Ⓐ見[衆]
解→ⒶⒹ解[脱]
者 Ⓓになし
応→◎無
復 Ⓓになし
修浄→◎浄修
阿→◎阿[僧]
陀→ⒶⒷⒸⒹ陀[ˆ仏ˇ]
仏 Ⓓになし
悩→ⒷⒸ㷓
仏 Ⓓになし
量 ⒶⒷⒸⒹになし
生 ⒷⒸになし
諸→ⒶⒹ[無量]諸
耶→Ⓑ取→Ⓓ乎
能 ⒶⒷⒸⒹになし
後仏→◎仏後
冑→Ⓐ曽→Ⓓ甲
王→Ⓓ主
一切 ⒷⒸになし
縁→ⒶⒷⒸⒹ縁[復]
生 Ⓐになし
雷→ⒷⒸ雷[声]
裂 ⒷⒸになし
理 ⒷⒸになし
是→ⒶⒷⒸⒹ是[故]
則→Ⓓ即
堕→Ⓑ随
此→ⒶⒷⒸⒹ是
復→Ⓓ復[須]
無辺 Ⓐになし
非→Ⓐ非[非] Ⓑになし
仏→Ⓐ仏[仏]
非不→◎不非
有 ⒶⒹになし
外 ⒷⒸになし
怛→Ⓐ恒→ⒷⒸⒹ坦
耶 Ⓓになし
不帰向 ⒶⒹになし
諸法 ⒷⒸになし
作 Ⓐになし
旦→ⒶⒷⒹ檀→Ⓒ擅
一→ⒶⒸⒹ一[義]
檀→Ⓒ擅
能 ⒶⒷⒸⒹになし
耶 Ⓓになし
夢 ⒷⒸになし
則 Ⓐになし
是→ⒷⒸ名
能 ⒷⒸになし
諸法 ⒷⒸになし
此→Ⓐ疑比
聞 ⒷⒸになし
知→Ⓐ智
定→ⒶⒷⒸⒹ定[不知]
遍→ⒶⒷ遍[知]
浅→Ⓓ法
微 ⒷⒸになし
勲→Ⓓ熏
待→Ⓐ持
大→Ⓓ大[故言最上]
倫→◎偏
亦可最上勝 Ⓐになし
々 ⒷⒸⒹになし
二→◎Ⓐ三
知→Ⓐ智
辺→Ⓐ遍
無 Ⓓになし
辺→Ⓐ遍 Ⓓになし
旧 ⒶⒷⒸⒹになし
迴→◎迫
刃→◎ⒷⒸ白→Ⓐ刀
取→ⒶⒹ殺
勁→ⒸⒹ到
規→ⒷⒸ頑→Ⓓ視
河 Ⓐになし
但 ⒷⒸになし
河 ⒷⒸになし
納→ⒷⒸ泅
十念 Ⓓになし
余 Ⓓになし
至→ⒶⒷⒸⒹ逕
念 ⒷⒸになし
恵→ⒶⒹ慧
至 Ⓐになし
獼→ⒶⒷⒸⒹ猿
猴→ⒶⒷ猚
及→Ⓓ至 Ⓐになし
倒必→Ⓓ必倒
曲→ⒷⒸ曲[也]
若 Ⓐになし
習→Ⓐ習[先]→Ⓓ[若]習[前]
終 ◎になし
称 Ⓐ称と上欄註記
々 Ⓐになし
此→Ⓐ比
断→Ⓐ終
楽→ⒷⒸ楽[国]
也 ⒷⒸになし
略論安楽浄土義→◎略論安楽土義→ⒷⒸ讃阿弥陀仏論上巻 Ⓐになし