0811しん1029しょうそく

 1031

(1)

 ^**去年こぞ十二月しわす一日ついたち御文おんふみおなじき二十日はつかあまり​に、 たしかに​みそうらひ​ぬ。 ​なに​より​も殿との (*親鸞)おうじょう、 なかなか​はじめてもうす​に​およば​ずそうろふ。

 ^*やまで​て、 *六角ろっかくどうひゃくにちこもら​せたまひ​て、 後世ごせを​いのら​せたまひ​ける​に、 じゅうにち*あかつき*しょうとくたいもんむすび​て、 げんに​あづから​せたまひ​てそうらひ​けれ​ば、 やがて​その​あかつきで​させたまひ​て、 後世ごせの​たすから​んずる*えんに​あひ​まゐらせ​んと、 たづね​まゐらせ​て、 *法然ほうねんしょうにんに​あひ​まゐらせ​て、 また六角ろっかくどうひゃくにちこもら​せたまひ​てそうらひ​ける​やう​に、 またひゃっにちる​にもる​にも、 いかなる*たいふにも、 まゐり​て​あり​し​に、 ただ後世ごせの​こと​は、 よきひとにも​あしき​にも、 おなじ​やう​に、 *しょうづ​べきみちをば、 ただひとすぢ​におおせ​られそうらひ​し​を、 うけたまはり​さだ1032めてそうらひ​しかば、 「しょうにんの​わたら​せたまは​ん​ところ​には、 ひとは​いかにももうせ、 たとひ悪道あくどうに​わたら​せたまふ​べし​ともうす​とも、 世々せせ生々しょうじょうにも0812*まよひ​けれ​ば​こそ​あり​けめ、 と​までおもひ​まゐらするなれば」 と、 やうやうにひともうそうらひ​し​とき​もおおそうらひ​し​なり。

 ^さて常陸ひたち*下妻しもつまもうそうろふ​ところ​に、 *さかい・・・ごうもうす​ところ​にそうらひ​し​ときゆめを​み​てそうらひ​し​やう​は、 どうようか​と​おぼえ​て、 ひんがしき​にどうは​たち​てそうろふ​に、 *しんがく​と​おぼえ​て、 どうの​まへ​には*たてあかし​しろくそうろふ​に、 たてあかし​の西にしに、 どうの​まへ​に、 とりの​やう​なる​に​よこさま​に​わたり​たる​もの​に、 ほとけけ​まゐらせ​てそうろふ​が、 一体いったいは、 *ただほとけかおにて​は​わたら​せたまは​で、 ただ​ひかり​の​まなかほとけ*こうの​やう​にて、 まさしきおんかたち​は​みえ​させたまは​ず、 ただ​ひかり​ばかり​にて​わたら​せたまふ。

^いま一体いったいは、 まさしきほとけかおにて​わたら​せたまひそうらひ​しかば、 「これ​は​なにほとけにて​わたら​せたまふ​ぞ」 ともうそうらへ​ば、 もうひとは​なにびととも​おぼえ​ず、 「あの​ひかり​ばかり​にて​わたら​せたまふ​は、 あれ​こそ法然ほうねんしょうにんにて​わたら​せたまへ。 *せいさつにて​わたら​せたまふ​ぞかし」 ともうせ​ば、 「さて​また、 いま一体いったいは」 ともうせ​ば、 「あれ​は*観音かんのんにて​わたら​せたまふ​ぞかし。 あれ​こそぜん1033しん御房おんぼう (親鸞) よ」 ともうす​と​おぼえ​て、 うちおどろき​てそうらひ​し​にこそ、 ゆめにてそうらひ​けり​とはおもひ​てそうらひ​し​か。

^さ​はそうらへ​ども0813、 さやう​の​こと​をばひとにももうさ​ぬ​と​ききそうらひ​し​うへ、 あま (*恵信尼) が​さやう​の​こともうそうろふ​らん​は、 *げにげにしくひとおもふ​まじくそうらへ​ば、 *てんせい、 ひとにももうさ​で、 しょうにん (法然)おんこと​ばかり​をば、 殿とのもうし​てそうらひ​しかば、 ゆめには*しなわい​あまた​ある​なか​に、 これ​ぞじつにて​ある。 しょうにんをば、 所々しょしょせいさつしんと、 ゆめにも​み​まゐらする​こと​あまた​あり​ともうす​うへ、 せいさつ*智慧ちえの​かぎり​にて、 *しかしながらひかりにて​わたら​せたまふ」 と*そうらひ​しかども、 *観音かんのんおんこともうさ​ずそうらひ​しかども、 こころばかり​は​その​のち*うちまかせ​てはおもひ​まゐらせ​ずそうらひ​し​なり。 かくおんこころえそうろふ​べし。

 ^さればりんず(臨終)はいかにも​わたら​せたまへ、 うたがおもひ​まゐらせ​ぬ​うへ、 おなじ​こと​ながら、 *益方ますかたりんず(臨終)に​あひ​まゐらせ​てそうらひ​けるおやちぎり​ともうし​ながら、 ふかく​こそ​おぼえそうらへ​ば、 うれしくそうろふ、 うれしくそうろふ。

 ^*また​このくには、 去年こぞつくりもの、 ことにそんそうらひ​て、 あさましき​こと​にて、 おほかた​いのちく​べし​とも​おぼえ​ずそうろふ​なか​に、 ところ​ども​かはりそうらひ​ぬ。 ひとところ​なら​ず1034益方ますかたもうし、 また​おほかた​は​たのみ​てそうろひとりょうども、 みな​かやうにそうろふ​うへ、 おほかた​のけんそんじ​てそうろふ​あひだ、 なかなか​とかくもうし​やる0814かた​なくそうろふ​なり。

^かやうにそうろふ​ほど​に、 としごろそうらひ​つる*やつばら​も、 おとこふたしょうがつ*うせそうらひ​ぬ。 なに​と​して、 ものをもつくる​べき​やう​もそうらは​ねば、 いよいよけんたのみ​なくそうらへ​ども、 いくほどく​べきにて​もそうらは​ぬ​に、 けんこころぐるしくおもふ​べき​にもそうらは​ね​ども、 ひとにてそうらは​ねば、 これら​が、 あるいはおやそうらは​ぬ*ぐろのにょうぼうおんなおのこ、 これ​にそうろふ​うへ、 益方ますかたども​も、 ただ​これ​に​こそそうらへ​ば、 なに​と​なくははめき​たる​やう​にて​こそそうらへ。 いづれ​も​いのち​も​あり​がたき​やう​に​こそ​おぼえそうらへ。

 ^*このもん殿とのえいやま*堂僧どうそうつとめ​て​おはしまし​ける​が、 やまで​て六角ろっかくどうひゃくにちこもら​せたまひ​て、 後世ごせの​こと​いのり​まうさ​せたまひ​けるじゅうにちの​あかつきげんもんなり。 らんそうらへ​とて、 き​しるし​て​まゐらせそうろふ。*

 

(2)

 ^*ゑちご​の御文おんふみにてそうろ

 ^*このもんき​しるし​て​まゐらせそうろふ​も、 き​させたまひてそうらひ​し​ほど​は、 もうし​て​もようそうら1035ねばもうさ​ずそうらひ​しか​ど、 いま​は​かかるひとにて​わたらせ​たまひ​けり​とも、 おんこころばかり​にも​おぼしめせ​とて、 しるし​て​まゐらせそうろふ​なり。 よく0815そうらは​んひとに​よくか​せ​て、 もち​まゐらせ​たまふ​べし。

 ^また​あの*えい一幅いっぷく、 ほしくおもひ​まゐらせそうろふ​なり。 おさなく、 *おんつ​にて​おはしましそうらひ​しとし四月うづきじゅうよっかのひより、 *かぜだいに​おはしましそうらひ​しとき​の​ことども​をき​しるし​てそうろふ​なり。

 ^としはちじゅうに​なりそうろふ​なり。 一昨年おととし十一月しもつきより去年こぞ五月さつきまで​は、 いま​や​いま​や​とときそうらひ​しかども、 今日きょうまで​はな​で、 としかつにや飢死うえじにも​せ​んずらん​と​こそ​おぼえそうらへ。 かやう​の便たより​に、 なに​も​まゐらせ​ぬ​こと​こそ、 こころもと​なく​おぼえそうらへ​ども、 ちから​なくそうろふ​なり。

 ^益方ますかた殿どのにも、 このふみを​おなじこころおんつたそうらへ。 ものく​こと​ものうくそうらひ​て、 べつもうそうらは​ず。

 「*こうちょう三年さんねんみずのとのい

   二月きさらぎとおかのひ

 

(3)

* ^善信ぜんしん御房おんぼう (親鸞)かん三年さんねん四月うづきじゅうよっかのひ*うまときばかり​より、 かざごこすこし​おぼえ​て、 そのゆうさり​よりし​て、 だいに​おはします​に、 こしひざを​もた​せ0816ず、01036 *てんせい、 かんびょうにんをも​よせ​ず、 ただおとも​せ​ず​してし​て​おはしませ​ば、 おんを​さぐれ​ば、 あたたかなる​ことの​ごとし。 *かしらの​うた​せたまふ​こと​も​なのめならず。

 ^さてし​てよっもうす​あかつき、 くるしき​に、 「*まは​さて​あら​ん1037」 とおおせ​らるれ​ば、 「なに​ごと​ぞ、 *たはごと​とかやもうす​こと​か」 ともうせ​ば、 「たはごと​にて​も​なし。 し​てふつもうより、 ¬だいきょう¼ を​よむ​こと​ひま​も​なし。 たまたまを​ふさげ​ば、 きょうもんいちのこら​ず、 きららかに​つぶさに​みゆる​なり。

^さて​これ​こそ​こころえ​ぬ​こと​なれ。 念仏ねんぶつ信心しんじんより​ほか​には、 なにごと​かこころに​かかる​べき​とおもひ​て、 よくよくあんじ​て​みれ​ば、 この*じゅう七八しちはちねんが​その​かみ、 *げにげにしく*さんきょうせんよみ​て、 *すざう(衆生)やくの​ため​に​とて、 よみ​はじめ​て​あり​し​を、 これ​は​なにごと​ぞ、 ªしんきょう人信にんしん なんちゅうてんきょうなんº (*礼讃) とて、 みづからしんじ、 ひとおしへ​てしんぜ​しむる​こと、 まこと​の仏恩ぶっとんむくひ​たてまつる​もの​としんじ​ながら、 みょうごうの​ほか​には​なにごと​のそくにて、 かならずきょうを​よま​ん​と​する​や​とおもひ​かへし​て、 よま​ざり​し​こと​の、 されば​なほ​も​すこしのこる​ところ​の​あり​ける​や。

^ひとしゅうしんりきの​しんは、 よくよくりょある​べし​と​おもひなし0817て​のち​は、 きょうよむ​こと​は​とどまり​ぬ。

^さてしてよっもうす​あかつき、 ªまは​さて​あら​んº とはもうす​なり」 とおおせ​られ​て、 やがてあせり​て、 よく​なら​せたまひ​てそうらひ​し​なり。

 ^さんきょう、 げにげにしくせんよま​ん​とそうらひ​し​こと​は、 **信蓮しんれんぼうつのとし武蔵むさしくにやらん、 上野かんずけくにやらん、 *ぬきもうす​ところ​にて、 よみ​はじめ​て、 四五しごにちばかり​あり​て、 おもひ​かへし​て、 よま​せたまは​で、 常陸ひたちへ​はおはしまし​てそうらひ​し​なり。

 ^信蓮しんれんぼうひつじとし三月やよいみっかのひひるうまれ​てそうらひ​しかば、 としじゅうさんやらんとぞ​おぼえそうろふ。

  こうちょう三年さんねん二月きさらぎとおかのひ                 しん *

 

(4)

 ^*御文おんふみの​なか​に、 先年せんねんに、 *かん三年さんねん四月うづきよっかのひよりま​せたまひ​てそうらひ​し​とき​の​こと、 き​しるし​て、 ふみの​なか​にれ​てそうろふ​に、 その​とき​の日記にきには、 四月うづきじゅう一日いちにちの​あかつき、 「きょうよむ​こと​は、 まは​さて​あら​ん」 とおおそうらひ​し​は、 やがて四月うづきじゅう一日いちにちの​あかつきと​しるし​てそうらひ​ける​にそうろふ。 それ​をかぞそうろふ​にはようかのひに​あたりそうらひ​ける​にそうろふ。 四月うづきよっかのひより​はようかのひに​あたりそうろふ​なり。

  0818*わか1038殿どのもうさ​せたまへ               ゑしん

 

(5)

 ^もし便たより​やそうろふ​とて、 *ゑちう・・・へ​このふみは​つかはしそうろふ​なり。 さても*一年ひととせはちじゅうもうそうらひ​しとし*だいそらう(所労)を​してそうらひ​し​にも、 *はちじゅうさんとし*いちじょうと、 もの​しり​たるひとふみども​にも、 おなじこころもうそうろふ​とて、 としは​さる​こと​とおもひ​きり​てそうらへ​ば、 き​てそうろふ​とき、 *卒都婆そとばを​たて​て​みそうらは​ばや​とてじゅうそうろいしとうを、 たけしちさく(尺)に​あつらへ​てそうらへ​ば、 とうつくる​ともうそうらへ​ば、 いで​き​てそうらは​ん​に​したがひ​て​たて​て​み​ばや​とおもそうらへ​ども、 *去年こぞかつに、 なに​も、 益方ますかたの​と、 *これ​の​と、 なに​と​なくおさなき​もの​ども、 上下かみしもあまたそうろふ​を、 *ころさ​じ​と​しそうらひ​し​ほど​に、 もの​もず​なり​てそうろふ​うへ、 しろき​もの​をひとつ​もそうらへ​ば、 (以下欠失)

 ^ひとそうろふ。 またおと・・ほうもうそうらひ​しわらわをば、 とう・・ろうもうそうろふ​ぞ。 それ​へ​まゐれ​ともうそうろふ。 さおんこころえ​ある​べくそうろふ。 けさ・・むすめじゅうしちに​なりそうろふ​なり。 さて、 ことり・・・もうおんなは、 ひとそうらは​ぬ​とき​に、 ななつ​に​なりそうろならわを​やしなは​せそうろふ​なり。 それ​はおやに​つき​て​それ​へ​まゐる​べくそうろふ​なり0819。 よろづつくし​がたく​て、 かたく​て、 とどめそうら1039ひ​ぬ。

^あなかしこ、 あなかしこ。

 

(6)

 ^便たより​を​よろこび​てもうそうろふ。 たびたび便びんにはもうそうらへ​ども、 まゐり​て​やそうろふ​らん。

 ^*としはちじゅうさんに​なりそうろふ​が、 去年こぞとし死年しにどしもうそうらへ​ば、 よろづ​つねにもうしうけ​たまはり​たくそうらへ​ども、 たしかなる便たより​もそうらは​ず。

 ^さてき​てそうろふ​とき​とおもそうらひ​て、 じゅうそうろとうの、 しちしゃくそうろいしとうを​あつらへ​てそうらへ​ば、 この​ほど​はいだす​べき​よしもうそうらへ​ば、 いま​は​ところ​ども​はなれそうらひ​て、 にんども​みなげ​うせそうらひ​ぬ。 よろづ​たよりなくそうらへ​ども、 き​てそうろふ​とき、 たて​て​も​み​ばや​とおもそうらひ​て、 このほどいだし​てそうろふ​なれば、 これ​へつ​ほど​に​なり​てそうろふ​と​ききそうらへ​ば、 いかに​して​もき​てそうろふ​とき、 たて​て​み​ばや​とおもそうらへ​ども、 いかやうに​かそうらは​んずらん。 その​うち​にも、 いかに​も​なりそうらは​ば、 ども​も​たてそうらへ​かし​とおもひ​てそうろふ。

 ^なにごと​も、 き​てそうらひ​し​とき​は、 つねにもうしうけ​たまはり​たく​こそ​おぼえそうら0820へ​ども、 *はるばる​とくもの​よそ​なる​やう​にてそうろふ​こと、 まめやかにおやちぎり​も​なき​やう​にて1040こそ​おぼえそうらへ。 こと​にはおとにて​おはしましそうらへ​ば、 いとほしき​こと​におもひ​まゐらせ​てそうらひ​しかども、 み​まゐらする​まで​こそそうらは​ざら​め。 つねにもうし​うけたまはる​こと​だにもそうらは​ぬ​こと、 *よにこころぐるしく​おぼえそうろふ。

 「**文永ぶんえい元年がんねんきのえ

   五月さつきじゅう三日さんにち

 ^*ぜんあく、 *それ​へ​の殿人とのびとども​は、 もとそうらひ​しけさ・・もうす​も、 むすめうせそうらひ​ぬ。 いま​それ​のむすめひとそうろふ。 *ははめ​もそらう(所労)もの​にてそうろふ。 さて、 おと・・ほうもうそうらひ​し​は、 *おとこに​なり​て、 とう・・ろうもうす​と、 またわらわふたば・・・もうわらわとしじゅうろくに​なりそうろわらわは、 それ​へ​まゐらせ​よ​ともうし​てそうろふ​なり。 なにごと​も御文おんふみつくし​がたくそうらひ​て​とどめそうらひ​ぬ。 また*もとより​のことり・・・*ななやしなは​せ​てそうろふ​もそうろふ。

   1041五月さつきじゅう三日さんにち (花押)

 ^これ​は​たしかなる便たより​にてそうろふ。 ときに、 こまかに​こまかにもうし​たくそうらへ​ども、 ただいま​とて、 この便たより​いそぎそうらへ​ば、 こまかならずそうろふ。 また​この0821もん・・にゅうどう殿どのおんことば​かけ​られ​まゐらせ​てそうろふ​とて、 よろこびもうそうろふ​なり。 この便たより​は​たしかにそうらへ​ば、 なにごと​も​こまかにおおせ​られそうろふ​べし。 あなかしこ。

 

(7)

 ^便たより​を​よろこび​てもうそうろふ。

 ^さては*去年こぞ八月はづきの​ころ​より、 *とけはらの​わづらはしくそうらひ​し​が、 こと​に​ふれ​て​よく​も​なりそうろふ​ばかり​ぞ、 わづらはしくそうらへ​ども、 その​ほか​はとしにてそうらへ​ば、 いま​は*れ​てさうたい(正体)なく​こそそうらへ。 としはちじゅうろくに​なりそうろふ​ぞかし、 *とらとしの​ものにてそうらへ​ば。

 ^また​それ​へ​まゐらせ​てそうらひ​しやつばら​も、 とかく​なりそうらひ​て、 ことり・・・もうそうろとしごろ​の​やつ​にて、 三郎さぶろうもうそうらひ​し​が​あひしてそうろふ​が、 にゅうどうに​なりそうらひ​て、 さい・・しん・・もうそうろふ。 にゅうどうめ​には*ち​ある​もの​の​なか​の、 むま​の・・・ぜう・・とかやもうし​て*にんにてそうろふ​もの​のむすめの、 としとおやらん​に​なりそうろふ​を、 はは*よ​におだしく​よくそうらひ​し、 かが・・もうし​て​つかひそうらひ​し​が、 一年ひととせ*うんびょうとしに​てそうろふ。 おやそうらは​ね​ば、 ことり・・・なき​もの​にてそうろふ。 とき​に​あづけ​てそうろふ​なり。

 ^0822それ​また、 けさ・・もうそうらひ​しむすめの、 なでし・・・もうそうらひ​し​が、 よに​よくそうらひ​し​も、 うんびょうに​うせそうらひ​ぬ。 そのははそうろふ​も、 としごろ、 かしら腫物はれものとしごろそうらひ​し​が、 それ​も*とう*だいにて、 たのみなき​ともう1042そうろふ。 そのむすめひとそうろふ​は、 とし二十はたちに​なりそうろふ。 それ​とことり・・・、 また*いとく・・・、 また*それ​に​のぼり​てそうらひ​し​とき、 おと・・ほうとてそうらひ​し​が、 *このごろ、 とう・・ろうもうそうろふ​は​まゐらせ​ん​ともうそうらへ​ば、 父母ちちははうちすて​て​は​まゐら​じ​と、 こころ​にはもうそうろふ​ともうそうらへ​ども、 それ​は​いかやう​にも​はからひそうろふ。

^*かく​ゐなか*ひとに​み​をれ​てかわり​を​まゐらせ​ん​とも、 栗沢くりさわ (信蓮房)そうらは​んず​ればもうそうろふ​べし。 ただしかわり​は​いくほど​かはそうろふ​べき​とぞ​おぼえそうろふ。 これら​ほど​のおとこ*すくなくもうそうろふ​なり。

 ^またそでたびたび​たまはり​てそうろふ。 うれしさ、 いま​は*よみぢそでにてきぬそうらは​んずれ​ば、 もうす​ばかりそうらは​ず、 うれし*そうろふ​なり。 いま​は*あま (恵信尼)そうろふ​もの​はさいの​とき​の​こと​はなし​てはおもは​ずそうろふ。 いま​はときにてそうらへ​ば。

 ^また​たしかなら​ん便びんに、 そでぶ​べき​よしおおせ​られ​てそうらひ​し。 このゑもん・・・にゅうどう便たより​は、 たしかにそうらは​んずらん。 また*さいしょう殿どのは、 あり​つき​て​おはしまし0823そうろふ​やらん。 よろづ*公達きんだちの​こと​ども、 みな​うけたまはり​たくそうろふ​なり。 つくし​がたく​て​とどめそうらひ​ぬ。

^あなかしこ、 あなかしこ。

  九月ながつきなぬ

 ^またわかさ・・・殿どのも、 いま​はとしすこしり​て​こそ​おはしましそうろふ​らめ。 あはれ、 *ゆかし1043く​こそおもそうらへ。 としり​ては、 *いかがしく​み​てそうろひとも、 ゆかしく​みたく​おぼえそうらひ​けり。 かこの・・・まへ・・の​こと​の​いとほしさ、 じょうれん・・ばう・・の​こと​も*おもひ​いで​られ​て、 ゆかしく​こそそうらへ。

^あなかしこ、 あなかしこ。

                    *ちくぜん

  わかさ殿どのもうさせ​たまへ            *とひたのまき​より

 

(8)

* 「わかさ殿どの

 ^便たより​を​よろこび​てもうそうろふ。

 ^さては*としまで​ある​べし​とおもは​ずそうらひ​つれ​ども、 としはちじゅうしちやらん​に​なりそうろふ。 とらとしの​もの​にてそうらへ​ば、 はちじゅうしちやらんはちやらん​に​なりそうらへ​ば、 いま​は*ときち​て​こそそうらへ​ども、 としこそ​おそろしく​なり​てそうらへ​ども、 *しはぶく​こ0824そうらは​ね​ば、 つわきなどく​ことそうらは​ず。 こしひざたする​ともうす​こと​もとうまで​はそうらは​ず。 ただいぬの​やう​にて​こそそうらへ​ども、 としに​なりそうらへ​ば、 あまりに​ものわすれ​を​しそうらひ​て、 れたる​やう​に​こそそうらへ。

 ^さても去年こぞより​は、 よに​おそろしき​ことども​おほくそうろふ​なり。

 ^また*すかい・・・の​もの​の便たより​に、 あやきぬび​てそうらひ​し​こと、 *もうす​ばかり​なく​おぼえそうろふ。 いま1044ときち​てそうらへ​ば、 これ​を​やさいにてそうらは​んずらん​と​のみ​こそ​おぼえそうらへ。 とうまで​も​それ​よりび​てそうらひ​しあやそでを​こそ、 さいの​とき​の​とおもひ​て​もち​てそうらへ。 よに​うれしく​おぼえそうろふ。 きぬおもても、 いまだ​もち​てそうろふ​なり。

 ^また公達きんだちの​こと、 よに​ゆかしく、 うけたまはり​たくそうろふ​なり。 *かみ公達きんだちおんこと​も、 よに​うけたまはり​たく​おぼえそうろふ。 あはれ、 このにて​いまいちみ​まゐらせ、 また​みえ​まゐらする​ことそうろふ​べき。 わが極楽ごくらくへ​ただいま​に​まゐりそうらは​んずれ。 *なにごと​も​くらから​ず、 みそなはし​まゐらす​べくそうらへ​ば、 *かまへておん念仏ねんぶつもうさ​せたまひ​て、 極楽ごくらくへ​まゐり​あはせ​たまふ​べし。 なほなほ極楽ごくらくへ​まゐり​あひ​まゐらせそうらは​んずれ​ば、 なにごと​も​くらから​ず​こそそうらは​んずれ。

 ^0825また​この便びんは、 これ​に​ちかくそうろ*みこ​のおいとかや​ともうす​もの​の便びんもうそうろふ​なり。 あまりに​くらくそうらひ​て、 こまかならずそうろふ。 また​かまへて​たしかなら​ん便たより​には、 綿わたすこしそうらへ。 *をはり・・・そうろゑもん・・・にゅうどう便たより​ぞ、 たしか​の便たより​にてそうろふ​べき。 それ​も​この​ところ​に*まゐること​のそうろふ​べき​やらん​と​ききそうらへ​ども、 いまだろうせ​ぬ​こと​にてそうろふ​なり。

 ^また*くわうず(光寿)ぜんしゅぎょうくだる​べき​とかやおおせ​られ​てそうらひ​しかども、 これ1045へ​は​みえ​られ​ずそうろふ​なり。

 ^またわかさ・・・殿どののいま​は​おとなしくとしり​て​おはしそうろふ​らん​と、 よに​ゆかしく​こそ​おぼえそうらへ。 かまへて、 念仏ねんぶつもうして極楽ごくらくへ​まゐり​あはせ​たまへ​とそうろふ​べし。

 ^なにより​も​なにより​も公達きんだちおんこと、 こまかにおおそうらへ。 うけたまはり​たくそうろふ​なり。 *一昨年おととしやらんうまれ​て​おはしましそうらひ​ける​と​うけたまはりそうらひ​し​は、 それ​も​ゆかしくおもひ​まゐらせそうろふ。

 ^また​それ​へ​まゐらせそうらは​ん​ともうそうらひ​しわらわも、 一年ひととせおおうんびょうに​おほく​うせそうらひ​ぬ。 ことり・・・もうそうろわらわも、 はやとしり​てそうろふ。 ちちにんにて0826まの・・ぜう・・もうす​もの​のむすめそうろふ​も、 それ​へ​まゐらせ​ん​とて、 ことり・・・もうす​に​あづけ​てそうらへ​ば、 *よにとうげにそうらひ​て、 かみなど​も、 よに​あさましげ​にてそうろふ​なり。 ただ​のわらわべにて、 いまいましげ​にてそうろふ​めり。

 ^けさ・・むすめわかば・・・もうわらわの、 としじゅういちに​なりそうろふ​がはらみ​て、 この三月やよいやらん​にむ​べくそうらへ​ども、 おのこならばちちそうらは​んずらん。 さき​にもいつつ​に​なるおのこみ​てそうらひ​しかども、 ちち相伝そうでんにて、 ちちりてそうろふ。 これ​も​いかがそうらはんずらん。 わかば・・・ははは、 かしらに​なに​やらん​ゆゆし1046げなる腫物はれものの​いできそうらひ​て、 はやじゅうねんに​なりそうろふ​なる​が、 いたづらもの​にて、 ときつ​やう​にそうろふともうそうろふ。

 ^それ​にのぼり​てそうらひ​し​をり、 おと・・ほうとてわらわにてそうらひ​し​が、 それ​へ​まゐらす​べき​ともうそうらへ​ども、 妻子めこそうらへ​ば、 よも​まゐら​ん​とはもうそうらは​じ​と​おぼえそうろふ。 あま (恵信尼)りんず(臨終)そうらひ​なん​のち​には、 栗沢くりさわ (信蓮房)もうし​おきそうらは​んずれ​ば、 まゐれ​とおおそうろふ​べし。

 ^また栗沢くりさわはなにごと​やらん、 *のづみ​ともう山寺やまでらだん念仏ねんぶつはじめそうらは​んずる​に、 なに​と​やらんせんじ​まうす​こと​のそうろふ​べき​とか​やもうす​げ​にそうろふ。 *じょう殿どのおん0827ため​に​ともうそうろふ​めり。

 ^なにごと​ももうし​たき​こと​おほくそうらへ​ども、 あかつき便たより​のそうろふ​よしもうそうらへ​ば、 よるそうらへ​ば、 よに​くらくそうらひ​て、 よもらんそうらは​じ​とて、 とどめそうらひ​ぬ。

 ^またはりすこしそうらへ。 この便びんにて​もそうらへ。 御文おんふみの​なか​にれ​てぶ​べくそうろふ。 なほなほ公達きんだちおんこと、 こまかにおおせ​たびそうらへ。 うけたまはりそうらひ​て​だに​なぐさみそうろふ​べくそうろふ。 よろづつくし​がたくそうらひ​て、 とどめそうらひ​ぬ。

 ^またさいさう(宰相)殿どの、 いまだ姫君ひめぎみにて​おはしましそうろふ​やらん。

 ^あまりに​くらくそうらひ​て、 いかやうにそうろふ​やらん、 よもらんそうらは​じ。

  1047*三月やよいじゅうにち*とき

 

1029(a)

もん​ぞ​も​やか​せたまいて​やそうろうらん​とて​もうしそうろう。 それ​へ​まいる​べき​もの​は、 けさ​ともうしそうろうめ​の​わらは、 とし​さんじゅうろくまたその​むすめ​なでし​ともうしそうろうは、 ことしじゅうろくまたここのつに​なりそうろうむすめ​と、 おやさんにんそうろうなりまたはつね、 その​むすめ​の​いぬまさ、 ことしじゅうまたことり​ともうすおんな、 とし​さんじゅうまたあんとうし​ともうすおとこ。 さて、 けさ​が​ことし​みつ​に​なりそうろうおのこゞは、 ひとにんに​ぐし​て​うみ​てそうらへ​ば、 ちゝをや​に​とら​せてそうろうなり

おほかた​は、 ひとにんに、 うち​の​やつばら​の​ぐし​てそうろうは、 よに​ところせきことにてそうろうなり

じょうあわせて、 おんな六人ろくにん、 おとこ一人ひとり七人しちにんなり

   けんちやうはちねん​ひのえ​たつ​の​とし七月しちがつ九日ここのか (花押)

 

1030(b)

わうごぜん​に​ゆづり​まいらせ​てそうらいにんども​の​せうもん​を、 せうまうに​やか​れ​てそうろうよし​おほせ​られ​さふらへ​ば、 はじめ​たより​に​つけ​てもうしそうらいしかども、 たしかに​やそうらは​ざる​らん​とて、 これ​は​たしかの​たより​にてそうらへ​ばもうしさふらふ。

まいらせ​てそうらいにん、 けさ​おんな。 おなじき​むすめ​なでし、 めならは、 としじゅうろく。 その​おとゝいぬわう、 め​の​わらは、 としここのつまたまさ​おんな、 おなじき​むすめ​いぬまさ、 としじゅう。 その​おとゝ、 としななつまたことり​おんな。 またあんとうし、 おとこ。 じょうあわせてだいしょう八人はちにんなり。 これら​は​こと​あたらしく、 たれか​はじめて​とかくもうしさふらふ​べき​なれども、 げす​は​しぜん​のことそうらは​ん​ため​にてそうろうなり

   けんちやうはちねんがつじゅうにち        ゑしん(花押)

  わうごぜん​へ

またいづも​が​こと​は、 にげ​てそうらいし​のち​は、 さうたいなきことにてそうろううへ、 一人ひとりそうらは​ぬ​うへ、 そらう​の​もの​にてそうろうが、 けふ​とも​しら​ぬ​もの​にて​さふらへ​ども、 *おとゝしその​やう​はもうして、 ものまいらせ​てそうらいしかば、 さだめておんこころへ​はそうろうらむ、 おんわすれそうろうべから​ずそうろう。 あなかしこ、 あなかしこ。

                      (花押)

いま​は、 あまり​とし​よりそうらいて、 て​も​ふるへ​て、 はん​など​も​うるはしく​は​し​へそうらは​じ、 されば​とてふしん​は​ある​べから​ずそうろう

                      (花押)

 

底本は本派本願寺蔵恵信尼公自筆本ˆ聖典全書と同一ˇ。
去年の十二月一日の御文 弘長二年十一月二十八日に親鸞聖人がじゃくし、 十二月一日付で、 そのことを覚信かくしんこうから母の恵信尼公に伝えたその書状。
 えいざん
あか月 あかつき
聖徳太子の文を… この時の示現の文について、 「しょうとくたいびょうくつ」 とする説、 「行者宿報…」 の偈とする説などがある。 →しょうとくたい
 底本は仮名であり、 「上人」 と読む説がある。
たいふ 大風。 「だい事」 (大事) と読む説がある。
生死出づべき道 しょうの迷いから出ることのできる道。
迷ひければこそ… 迷ってきたからこそ (悪道におもむくしか道のない) こんな私なのであったのだろうとさえ思っている身ですから。
さかいの郷 現在の茨城県下妻市坂井とされる。 また 「境」 「幸井」 の字を充てる説もある。
しんがく 覚如かくにょ上人の ¬口伝鈔¼ (12) に 「がく」 とあり、 舞楽の予行演習のこと。 転じて宵祭りのことか。
たてあかし たいまつ。
ただ仏の御顔にては… 普通の仏様のお顔ではあらせられず。
げにげにしく人も… 本当のことのように人も思うはずがないでしょうから。
てんせい 全く。 全然。
しなわい 品別。 種類。
智慧のかぎり 智慧ばかり。 智慧そのもの。
候ひしかども観音の御こと 一説に 「候ひしか、 殿との観音の御こと」 と読む。
観音の御こと 親鸞聖人が観世音菩薩のしんであるという夢のこと。
うちまかせては… ありふれた普通のお方とは思い申し上げないでおりました。
また… 以下、 原本では紙が切ってあるが、 第三通の後に続くことを数字で示している。 一説には、 別の断簡として文明元年 (1264) のものとする。
奴ばら 使用人。
うせ 「失せ (逃亡)」 とも 「亡せ (死亡)」 とも解釈される。
この文ぞ… 第一紙の前部の余白に書かれていて、 現存しないが第一通と一具にして送られた 「御示現の文」 の添書である。 また 「文ぞ」 は、 一説に 「文書」 と読む。
ª第一通の端裏書に 「恵信御房御筆」 とあり、 覚如かくにょ上人の筆と推定されているº
ゑちご… 下に 「此御表書は覚信御房御筆也」 また別行に 「此一枚は端の御文のうへにまき具せられたり」 とあり、 今日では、 共にかくにょ上人の筆かと見られている。
この文 第一通にいう 「御示現の文」 のことか。
御影 親鸞聖人の肖像画。
御身の八つにて… 寛喜三年 (1231) の出来事を記した第三通を指していう。 かくしんこうはこの年に八歳であるから、 その生年が元仁元年 (1224) であることが判明する。
かぜ 風邪。
弘長三年癸亥 1263年。 別筆であり、 覚如上人の筆かと見られている。
ª第三通のはじめに 「此一紙ははしの御文にそへられたり」 と別筆の書込みがあり、 覚如上人の筆かと見られているº
頭のうたせ… 頭痛のはげしさも並ひととおりではありません。
まはさてあらん まあそうであろう。 他に 「真はさてあらん」 (本当はそうであろう) などとする説がある。
たはごととかや… うわごととか申すことでしょうか。 一説に 「ただごととにや」 と読む。
十七八年がそのかみ 十七年前は健保二年 (1214) に相当する。
げにげにしく 誠実に。 もっともらしくとする説もある。
すざう利益 生きとし生けるものの苦を抜き、 楽を与えること。
ª第三通の終りに別筆で 「徳治二年 (1307) ひのとのひつじ四月十六日 この御うはがきは故上 (かく) の御て也 覚如かくにょしるす」 「上人の御事ゑちごのあまごぜんの御しるし文」 とあり、 前者は覚如上人の自筆、 後者は覚恵法師の筆であるº
御文 弘長三年 (1263) 二月十日付の第三通を指す。
わかさ殿申させたまへ わかさを覚信かくしんこうの侍女とみる説 (「申させたまへ」 は侍女への披露依頼文)、 わかさを覚信尼公とみる説 (「申させたまへ」 は敬愛の意の慣用表現) がある。
ゑちうへこの文 「ゑちう」 を国名 「えっちゅう」 とする説と、 人名とみる説とがある。 また一説に 「ゑちごの文」 (越後の手紙) と読む。
大事のそらう 生命にかかわる大病。
八十三の歳 この消息に日付はないが、 しんこうの年齢から弘長四年 (1264) のものであることがわかる。 なお、 同年は二月二十八日に文永と改元。
一定 確定していること。 ここでは死ぬことが定まっているという意。
卒都婆 梵語ストゥーパ (stūpa) の音写。 ここでは墓標のこと。 卒都婆は親鸞聖人のためのものとする説と、 しんこうがみずからの寿塔じゅとうとして建てたとする説とがある。
去年 弘長三年 (1263)。
これの 小黒女房の子どもたちと思われる。
殺さじ 「こころざし」 と読む説がある。
はるばると… 娘の覚信かくしんこうは京都にいて、 えちにいるしんこうから余りにも遠く隔たっているから、 きめ細やかな親子の情を心ゆくまで交すことが出来ないように思えるという意。
文永元年甲子 覚信尼公の筆かと見られている。
ぜんあく いずれにせよ。 ともかく。 ª「ぜんあく」 以下の一段は、 前段に続く追伸であるº
それへの殿人ども そちらへ参りお使いいただく人たち。
母めも… 母親 (けさ) も病身です。
男になり 成人して。
もとよりの もとからいました。
七つ子やしなはせて候ふも候ふ 七歳の子供を養わせております者もおります。 従来 「七つ子やしなはせて候ふ」 と読まれてきたが、 原本は 「七つ子やしなはせて候ふも候ふ」 と判断される。
とけ腹 下痢と吐き気を伴った胃腸病かと思われる。
耄れて… もうろくして、 わけがわからなくなっています。
ちあるもの 血縁関係のある者という意味か。
御家人 一般には鎌倉幕府から本領安堵された武士のことだが、 ここでは武家に仕えている人というほどの意味であろう。
よにおだしくよく候ひし 本当におだやかでよい性格の者でありました。 「よく」 を 「かく」 「うく」 「うへ」 等と読む説がある。
温病 熱病。 はやりやまい。
大事 底本は湮滅いんめつして読めない。 ここでは 「大事」 (重い病気のこと) とする説に従った。
いとく 底本は 「い」 に続く二字が不明で、 他に 「こく」 「さく」 「とへ」 等と読む説がある。 使用人の名前と思われる。
それに 京都の覚信かくしんこうのもとへ。
このごろ 底本は 「ろ」 に続く一字が不明。
かく 底本では不明。 「かく」 かと思われる。
 底本では不明。 「人」 かと思われる。
すく 底本は湮滅いんめつして読めない。 「すく」 かと思われる。
よみぢ小袖 死に装束のこと。 「よみぢ」 は黄泉。
く候 底本は湮滅して読めない。 「く候」 かと思われる。
尼が 「あまり」 と読む説がある。
宰相殿 覚信かくしんこう日野ひのひろつなとの間に生れた娘で、 実悟師の 「日野一流系図」 に 「字光玉」 とある女性にあたるとされる。
公達 子どもたち。
ゆかしく 何となく慕わしく。 逢いたい。
いかがしくみて候ふ人 あまり感心しないように思っていた人。 どうかと思っていた人。
思ひいでられて 一説に 「とはせられて」 と読む。
ちくぜん しんこうの呼び名であろう。
とひたのまき 恵信尼公の手紙の発信地。 現在の新潟県なかくび郡内で、 諸説があって確定しない。
わかさ殿 端裏書。 下部は欠失している。
時日を待ちてこそ候へ 浄土へ往生させていただく時を待っているばかりです。
すかい 一説に 「すりい」 と読む。 地名と考えられる。
申すばかりなくおぼえ候ふ お礼の申しようもありません。
上の公達 覚信かくしんこうの娘宰相か、 長男かくほっのことであろう。
なにごともくらからず… どんなことも明らかにご覧になることができますから。
かまへて 必ず。
みこ 巫女か。
をはりに候ふ 「これが最後です」 と解釈する説、 「わりにおります」 と解釈する説などがある。
まゐる 底本では上の二字が不明。 他に 「かかる」 「かへる」 等と読む説がある。
くわうず御前 覚信尼公の長男で、 後の覚恵法師。 かくにょ上人の父。
一昨年やらん生れて… 一昨年は文永三年 (1266) にあたる。 この年に覚信尼公の次男唯善ゆいぜんが生れている。
よに無道げに候ひて 非常に無作法なようすでありまして。
のづみと申す… 「のづみ」 は、 現在の新潟県なかくび郡板倉町にある山寺薬師を指すという説と、 同県三島郡寺泊町野積であろうとする説とがある。 山寺薬師には、 栗沢信蓮しんれんぼうが不断念仏を行ったという伝承を持つ 「ひじりいわ」 がある。 なお、 不断念仏とは特定の日時を定めて昼夜不断に行う念仏修行のことをいう。
五条殿 親鸞聖人のことか。 ¬御伝鈔¼ (1057頁1行) に、 聖人が京都五条西洞院に居住していた旨の記述がある。