0025◎七箇条制誡
◎あまねく予が門人と号する念仏の上人等に告ぐ。
◎○*普告*号豫門*人念仏上人等。
一 いまだ一句の文をも窺はず真言・止観を破したてまつり、 余の仏・菩薩を謗ずることを停止すべき事。
◇*一 可停止未窺一句*文奉破真言・止観、謗余仏・菩薩事。
右道を立破するに至りては、 学生の経るところなり、 愚人の境界にあらず。 しかのみならず誹謗正法はすでに弥陀の願に除けり。 その報まさに那落に堕すべし。 あに痴暗の至りにあらずや。
◇右至立破道者、*学*生之所経也、非愚人之境*界。加之誹謗正法*既除弥*陀願。其報当堕那落。豈非痴暗之至哉。
一 無智の身をもつて有智の人に対し、 別行の輩に遇ひて好みて諍論を致すことを停止すべき事。
◇一 可停止以無智身、対有智人、遇別行輩好致諍論事。
右論義は、 これ智者の有なり、 さらに愚人の分にあらず。 また諍論の処にはもろもろの煩悩起る。 智者はこれを遠離すること百由旬なり。 いはんや一向念仏の行人においてをや。
◇右論義者、是智者之有也、更非愚人之*分。又諍論之処諸煩悩起。智者遠離之百由旬也。況於一向念*仏行人乎。
一 別解・別行の人に対して、 愚痴偏執の心をもつてまさに本業を毀て置くべしと称して、 あながちにこれを嫌喧することを停止すべき事。
◇一 可停止対*別解・別行人、以愚痴偏執心*称当毀置本業、強嫌喧之事。
右修道の習ひ、 ただおのおの自行を勤めてあへて余行を遮せず。 ¬西方要決¼ (意) にいはく、 「別解・別行のものには総じて敬心を起すべし。 もし軽慢を生ぜば、 罪を得ること窮りなし」 と。 云々 なんぞこの制を背かんや。 しかのみならず善導和尚これを大呵したまふ。 いまだ祖師の誡を知らず、 愚闇のいよいよはなはだしきなり。
◇右修道之習、*只各勤*自行敢不遮余行。¬西方要決¼云、「別解・別行者総起敬心。若生軽慢、得罪無窮。」云云 何背此制哉。*加之善導和尚大0026呵之。未知祖師之誡、愚闇之弥甚也。
一 念仏門において、 戒行なしと号してもつぱら婬酒食肉を勧め、 たまたま律儀を守るものをば雑行の人と名づけて、 弥陀の本願を馮むものは、 造罪を恐るることなかれと説くことを停止すべき事。
◇一 可停止於念仏門、号無戒行専勧婬酒食肉、適守律儀者名雑行*人、*馮弥陀本願者、説勿恐造悪事。
右戒はこれ仏法の大地なり、 衆行まちまちなりといへども同じくこれをもつぱらにす。 これをもつて善導和尚は、 目を挙げて女人を見ず。 この行状の趣、 本律の制浄業の類にも過ぎたり。 これに順ぜずは、 総じては如来の遺教を失し、 別しては祖師の旧跡に背けり。 かたがた拠るところなきものか。
◇右戒是仏法大地也、衆行雖区同専之。是以善導和尚、挙目不見女人。此行状之趣、過本律制浄業之類。不順之者、総失如来之遺教、別背祖師之旧跡。旁無拠者*歟。
一 いまだ是非を辨ぜざる痴人、 聖教を離れ師説にあらずして、 ほしいままにわたくしの義を述しみだりに諍論を企てて、 智者に笑はれ愚人を迷乱することを停止すべき事。
◇一 可停止未辨是非痴人、離聖教非師説、*恣述私義妄企諍論、被笑智者迷乱愚人事。
右無智の大天、 この朝に再誕してみだりがはしく邪義を述す。 すでに九十六種の異道に同ず、 もつともこれを悲しむべし。
◇右無智大天、此朝再誕猥述邪義。既同九十*六種異道、尤可悲之。
一 痴鈍の身をもつてことに唱導を好み、 正法を知らずして種々の邪法を説きて、 無智の道俗を教化することを停止すべき事。
◇一 可停止以痴鈍身殊好唱導、不知正法説種々邪法、教化無智道俗事。
右解なくして師となることは、 これ ¬梵網¼ の制戒なり。 黒闇の類おのが才を顕さんと欲ひ、 浄土の教をもつて芸能となし、 名利を貪り檀越を望む。 ほしいままに自由の妄説を成じて、 世間の人を誑惑す。 誑報の過ことに重し。 これむしろ国賊にあらずや。
◇右無解作*師、是¬梵網¼之制戒也。*黒闇之類欲顕己才、以浄土教為芸能、貪名利望檀越。*恣成自由之妄説、*誑惑世間人。誑報之過殊重。是*寧非国賊乎。
一 みづから仏教にあらざる邪法を説きて正法となし、 偽りて師範の説なりと号することを停止すべき事。
◇一0027 可停止自説非仏教邪法為正法、偽号師範説事。
右おのおの一人の説といへども、 積もるところ予が一身の衆悪たり。 弥陀の教文を汚し、 師匠の悪名を揚ぐ、 不善のはなはだしきことこれに過ぎたるはなきものなり。
◇右各雖一人説、所積為豫一身衆悪。汚弥陀教文、揚師匠之悪名、不善之甚無過之者也。
以前の七箇条甄録かくのごとし。 一分も教文を学せん弟子等は、 すこぶる旨趣を知れ。 年来の間念仏を修するといへども、 聖教に随順してあへて人心に逆はず、 世の聴へを驚かすことなかれ。 これによりて今に三十箇年無為なり。 日月を渉りて近来に至りてこの十箇年より以後、 無智不善の輩時々到来す。 ただ弥陀の浄業を失するのみにあらず、 また釈迦の遺法を汚穢す。 なんぞ烱誡を加へざらんや。
◇以前七箇条甄録如斯。一分学教文弟子等者、頗知旨趣。年来之間雖修念仏、随順聖教敢不逆人心、無驚世聴。因茲于今*三十箇年無為。渉日月而至近*来此十箇年以後、無智不善輩時々到来。非啻失弥陀浄業、又汚穢釈*迦遺法。何不加*烱誡乎。
この七箇条の内、 不当のあひだ巨細の事等多し。 つぶさに注述しがたし。 総じてかくのごときらの無方は、 慎みて犯すべからず。 このうへなほ制法に背く輩は、 これ予が門人にあらず、 魔の眷属なり。 さらに草庵に来るべからず。
◇此七箇条*之内、不当之*間巨細事*等多。具難*注述。総如此等之無方、慎不可犯。此上猶背制*法輩者、*是非豫門人、魔眷属也。更不可来草*庵。
自今以後、 おのおの聞き及ぶに随ひて、 かならずこれを触れらるるべし。 余人あひ伴ふことなかれ。 もししからずんば、 これ同じ意の人なり。 かの過作すごときのものは、 同法を瞋り師匠を恨むことあたはず、 自業自得の理、 ただおのが心にあるのみ。
◇自今以後、各随聞及、必可被触之。余人勿相伴。若不然者、是同意人也。彼過如作者、不能瞋同法恨師匠、自業自得之理、只在己*心而已。
このゆゑに今日四方の行人を催して、 一室に集めて告命す、 わづかに風聞ありといへどもたしかにたれの人の失とも知らざれば、 沙汰によりて愁歎す。 年序を送る、 黙止すべきにあらず。 まづ力の及ぶに随ひて、 禁遏の計ごとを回らすところなり。 よりてその趣を録して門葉等に示す状、 件のごとし。
◇是故今日催*四方行人、集一室告命、僅雖有風聞慥不知誰人失、拠于沙汰愁*歎。*送年序、非可黙止。先随力及、所廻禁遏之計也。仍録其趣示門葉等之状、如件。
0028◇元久元年十一月七日 沙門源空
(花押)
◇信空 感聖 尊西 証空 源智 行西 聖蓮
見仏 導亘 導西 十人 寂西 宗慶 西縁
親蓮 幸西 住蓮 西意 仏心 源蓮 源雲 廿
欣蓮 生阿弥陀仏 欣西 西縁 安照 如進
導空 昌西 導也 遵西 義蓮 安蓮 導源
証阿弥陀仏 念西 行西 行首 尊浄 帰西
行空 四十 導感 西観 覚成 禅忍 学西
玄曜 澄西 大阿 西住 実光 五十 覚妙
西入 円智 導衆 尊仏 蓮恵 源海 蓮恵
安西 教芳 六十 念西 安西 詣西 神円
辯西 空仁 示蓮 念生 尊忍 参西 七十
仰善 忍西 好阿弥陀仏 鏡西 昌西 惟西
0029好西 禅寂 戒心 了西
*同八日追加人々
僧尊蓮 八十 僧仙雲 僧顕願 僧仏真 僧西尊
僧良信 僧綽空 僧善蓮 蓮生 度阿弥陀仏
阿日 九十静西 成願 自阿弥陀仏 覚信
念空 正蓮 向西 親西 実蓮 観然 百人
蓮智 実念 長西 信西 寂明 行西 恵忍
円空 観阿弥陀仏 蓮慶 百十人 浄阿弥陀仏
観尊 具慶 蓮慶 蓮仏 進西 正念 持乗
覚辯 蓮定 百二十人 導匠 深心 往西 観尊
一円 実蓮 白毫 正観 有西 上信 百人
定阿弥陀仏 念仏 観阿弥陀仏 蓮仁 蓮酉
徳阿弥陀仏 自阿弥陀仏 持阿弥陀仏 西仏
空阿弥陀仏 百四十人
0030九日
覚勝 西仏 慶俊 信西 進西 源也 雲西
実念 心光 西源 百五十人 応念 惟阿 源西
行願 信恵 忍西 寂因 安西 仏心 心蓮
百六十人 観源 聖西 蓮寂 智円 参西 永尊
空寂 願蓮 証西 西念 百七十人 戒蓮 専念
法阿弥陀仏 西阿 西法 西念 西忍 幸酉
成蓮 実念 百八十人 西教(花押) 僧慶宴
沙門感善 有実 浄心 立西 唯阿弥陀仏
行西 向西
普→Ⓐ[一]普
号→Ⓐ于
人→Ⓑ人[之]
一 Ⓐになし
文→Ⓑ文[章]
学→Ⓑ[是]学
生→Ⓑ匠
界→Ⓑ界[矣]
既→Ⓐ免
陀→Ⓑ陀[本]
分→Ⓑ分[矣]
仏→Ⓐ仏[之]
別解 Ⓑになし
称→Ⓐ傋
只 Ⓐになし
自行 Ⓐになし
「加…也」21字 Ⓐになし
人 Ⓐになし
馮→Ⓑ憑
歟→Ⓑ哉
恣→Ⓐ恐
六→Ⓐ五
師→Ⓑ師[者]
黒→Ⓑ愚
誑→Ⓐ狂
寧→Ⓐ輩
三 Ⓑになし
来→Ⓐ王→Ⓑ年
迦→Ⓐ迦[之]
烱→Ⓑ炳
之内→Ⓑ外
間→Ⓑ聞
等→Ⓑ等[雖]
注→ⒶⒷ註
法→Ⓑ法[之]
是非→Ⓑ非是
庵→Ⓑ菴
心→Ⓐ身
四→Ⓑ西
歎→Ⓑ嘆
送→Ⓐ遂
延書は¬西方指南抄¼所収本・¬漢語灯録¼所収本の訓点を参考に有国が行った。
底本は◎京都府二尊院蔵元久元年書写本。 Ⓐ高田派専修寺蔵親鸞聖人本(¬西方指南抄¼所収本)、 Ⓑ大谷大学蔵江戸時代末期恵空本(¬漢語灯録¼所収本)と対校されている。