二十二(577)、 一百四十五箇条問答 一
▲一百四十五箇条問答 第二十二
一
一 ふるき堂塔を修理して候はんをば、 供養し候べきか。
答。 かならず供養すべしといふ事も候はず。 又供養して候はんも、 あしき事にも候はず。 功徳にて候へば、 又供養せねばとてつみのえ、 あしき事にては候はず。
二
一 ほとけの開眼と供養とは、 一つ事にて候か。
答。 開眼と供養とは、 別の事にて0578候べきを、 おなじ事にしあひて候也。 開眼と申すは、 本体は仏師がまなこをいれ、 ひらきまいらせ候を申候也。 これをば、 事の開眼と申候也。 つぎに僧の仏眼の真言をもてまなこをひらき、 大日の真言をもてほとけの一切の功徳を成就し候をば、 理の開眼と申候也。 つぎに供養といふは、 ほとけに花香・仏供・御あかしなんどをもまいらせ、 さらぬたからをもまいらせ候を、 供養とは申候也。
三
一 この真如観はし候べき事にて候か。
答。 これは恵心のと申て候へども、 わろき物にて候也。 おほかた真如観をば、 われら衆生はえせぬ事にて候ぞ、 往生のためにもおもはれぬことにて候へば、 无益に候。
四
一 又これに計算して候ところは、 何事もむなしと観ぜよと申て候。 空観と申候は、 これにて候な。 されば観じ候べきやうは、 たとへばこの世のことを執着して思ふまじきとおしへて候と見へて候へば、 おほやう御らんのためにまいらせ候。
答。 これはみな理観とて、 かなはぬ事にて候也。 僧のとしごろならひたるだにもえせず、 まして女房なんどのつやつや案内もしらざらんは、 いかにもかなふまじく候也。 御たづねまでも无益に候。
五
この七仏の名号となふべき様として、 人のたびて候まゝに信じ候へば、 つみはう0579せ候べきか。 なに事もそれよりおほせ御候事は、 たのもしく候ひて、 かやうに申候。
答。 これさなくとも候なん。 念仏にこれらのつみのうせ候まじくはこそ候はめ。
六
一 一文の師をもおろかに申候へば、 習ひたる物の冥加なしと申候は、 ま事にて候か。
答。 師の事はおろかならず候。 恩のなかにふかき事、 これにすぎ候はず。
七
一 心を一つにして、 心よくなをり候はずとも、 何事をおこなひ候はずとも、 念仏ばかりにて浄土へはまいり候べきか。
答。 心のみだるゝは、 これ凡夫の習ひにて、 ちからおよばぬ事にて候。 たゞ心を一にして、 よく御念仏せさせ給ひ候はゞ、 そのつみを滅して往生せさせ給ふべき也。 その妄念よりもおもきつみも、 念仏だにし候へば、 うせ候也。
八
一 経の陀羅尼は、 潅頂の僧にうけ候べきか。
答。 ¬法華経¼ のはくるしからず、 潅頂の僧のうけさする陀羅尼は別の事、 それはおぼしめしよるな。
九
一 ¬普賢経¼ (観普賢経意) に、 「ほとけの母を念ずべし」 と申候は。
答。 いざおぼへず。
一〇
一 百日のうちの赤子の不浄かゝりたるは、 物まうでにはゞかりありと申たるは。
答。 百日のうちのあか子の不浄くるしからず。 なにもきたなき物のゝつきて候はんは0580、 きたなくこそ候へ。 赤子にかぎるまじ。
一一
一 念仏の百万遍、 百度申してかならず往生すと申て候に、 いのちみじかくてはいかゞし候べき。
答。 これもひが事に候。 百度申てもし候、 十念申てもし候、 又一念にてもし候。
一二
一 ¬阿弥陀経¼ 十万巻よみ候べしと申て候は、 いかに。
答。 これもよみつべからんにとりての事に候。 たゞつとめをたかくつみ候はんれうにて候。
一三
一 日所作は、 かならずかずをきわめ候はずとも、 よまれんにしたがひてよみ、 念仏も申候べきか。
答。 かずをさだめ候はねば懈怠になり候へば、 かずをさだめたるがよき事にて候。
一四
一 にら・き・ひる・しゝをくひて、 かうせ候はずとも、 つねに念仏は申候べきやらん。
答。 念仏はなにゝもさはらぬ事にて候。
一五
一 六斎に時をし候はんには、 かねて精進をし、 いかけをし、 きよき物をきてし候べきか。
答。 かならずさ候はずとも候なん。
一六
一 一七日・二七日なんど服薬し候はんに、 六斎の日にあたりて候はんをば、 いかゞし候べき。
答。 それちからおよばぬ事にて候。 さればとて罪にては候まじ。
0581一七
一 六斎は一生すべく候か、 なんねんすべく候ぞ。
答。 それも御心によるべき事にて候。 いくらすべしと申事は候はず。
一八
一 念仏をば、 日所作にいくらばかりあてゝか申候べき。
答。 念仏のかずは、 一万遍をはじめにて、 二万・三万・五万・六万、 乃至十万まで申候也。 このなかに御心にまかせておぼしめし候はん程を、 申させおはしますべし。
一九
一 ¬阿弥陀経¼ をば、 一日になん巻ばかりあてゝかよみ候べき。
答。 「¬阿弥陀経¼ は、 ちかひて一生中に十万巻をだにもよみまいらせ候ぬれば、 決定して往生す」 (観念法門意) と、 善導和尚のおほせられて候也。 毎日に十五巻づゝよめば、 二十年に十万巻にみち候也。 三十巻づゝよめば、 十年にみち候也。
二〇
一 五色のいとは、 ほとけには、 ひだりにとおほせ候き。 わがてには、 いづれのかたにていかゞひき候べき。
答。 左右の手にてひかせ給ふべし。
二一
一 仏のなをもかき、 貴き事をもかきて候を、 あだにせじとてやき候は罪のうるに、 誦文をしてやくと申候は、 いかゞ候べき。
答。 さる反故やき候はんに、 何条の誦文か候べき。 おほかたは法文をばうやまふ事にて候へば、 もしやかんなんどせられ候はゞ、 きよきところにてやかせ給ふべし。
0582二二
一 戒うけ候時、 和尚となり給へ、 阿闍梨となり給へと申事の候、 心え候はず。 なにといふ事にて候ぞ。
答。 和尚と申候は、 戒うくる時に法門ならひたる師を申候也。 阿闍梨と申候は、 まさしく戒をさづくる師にて候也。 これをば羯磨阿闍梨と申候也。
二三
一 時し候は功徳にて候やらん。 かならずゝべき事にて候やらん。
答。 時は功徳うる事にて候也。 六斎の御時ぞ、 さも候ひぬべき。 又御大事にて御やまひなんどもおこらせおはしましぬべく候はゞ、 さなくとも、 たゞ御念仏だにもよくよく候はゞ、 それにて生死をはなれ、 浄土にも往生せさせおはしまさんずる事は、 これによるべく候。
二四
一 臨終のをり、 阿弥陀の定印なんどをならひて、 ひかへ候やらん。 たゞさ候はずとも、 左右の手にてひかへ候やらん。
答。 かならず定印をむすぶべきにて候はず、 たゞ合掌を本体にて、 そのなかにひかへられ候べし。
二五
一 ちかくてかならずしも見まいらせ候はねども、 とをらかにてひかへ候やらん。
答。 とをくもちかくも、 便宜によるべく候。 いかなるもくるしみ候はず。
二六
一 かならずほとけを見、 いとをひかへ候はずとも、 われ申さずとも人の申さん念0583仏をきゝても、 死候はゞ浄土には往生し候べきやらん。
答。 かならずいとをひくといふ事候はず。 ほとけにむかひまひらせねども、 念仏だにもすれば往生し候也、 又きゝてもし候。 それはよくよく信心ふかくての事に候。
二七
一 ながく生死をはなれ三界にむまれじとおもひ候に、 極楽の衆生となりても、 又その縁つきぬればこの世にむまると申候は、 ま事にて候か。 たとひ国王ともなり、 天上にもむまれよ、 たゞ三界をわかれんとおもひ候に、 いかにつとめおこなひてか、 返り候はざるべき。
答。 これもろもろのひが事にて候。 極楽へひとたびむまれ候ぬれば、 ながくこの世に返る事候はず、 みなほとけになる事にて候也。 たゞし人をみちびかんためには、 ことさらに返る事も候。 されども生死にめぐる人にては候はず。 三界をはなれ極楽に往生するには、 念仏にすぎたる事は候はぬ也。 よくよく御念仏の候べき也。
二八
一 女房の聴聞し候に、 戒をたもたせ候をやぶり候はんずればとて、 たもつとも申候はぬは、 いかゞ候べき。 たゞ聴聞のにわにては、 一時もたもつと申候がめでたき事と申候は、 ま事にて候か。
答。 これはくるしく候はず。 たとひのちにやぶれども、 その時たもたんとおもふ心にてたもつと申すは、 よき事にて候。
0584二九
一 仏の薄をおして、 又供養し候か。
答。 さ候はずとも。
三〇
一 所作をかきて人にし入させ候は、 いかゞ候べき。
答。 さなくとも候ひなむ。
三一
一 巻経を草子にたゝむは、 罪と申候はいかゞ候べき。
答。 つみえぬ事にて候。
三二
一 ほとけに具する経を、 とりはなちて人にもたぶは、 つみにて候か。
答。 ひろむるは功徳にて候。
三三
一 一部とある経、 一巻づゝとりはなちてよまんは、 つみにて候か。
答。 つみにても候はず。
三四
一 ほとけに厨子をさしてすゑまいらせては、 供養すべく候か。
答。 一切あるまじ。
三五
一 不軽をおがむ事し候べきか。
答。 このごろの人の、 え心えぬ事にて候也。
三六
一 七歳の子しにて、 いみなしと申候はいかに。
答。 仏教にはいみといふ事なし。 世俗に申したらんやうに。
三七
一 仏ににかはを具し候が、 きたなく候。 いかゞし候べき。
答。 ま事にきたなけれども、 具せではかなふまじければ。
三八
一 尼の服薬し候は、 わろく候か。
答。 やまひにくふはくるしからず、 たゞはあ0585し。
三九
一 父母のさきに死ぬるは、 つみと申候はいかに。
答。 穢土のならひ、 前後ちからなき事にて候。
四〇
一 いきてつくり候功徳はよく候か。
答。 めでたし。
四一
一 人のまぼりをえて候はんは、 供養し候べきか。
答。 せずともくるしからず。
四二
一 わゝくに物くるゝは、 つみにて候か。
答。 つみにて候。
四三
一 経をして供養せずとも、 くるしからず候か。
答。 たゞよむ。
四四
一 経千部よみては、 供養し候べきか。
答。 さも候まじ。
四五
一 懺悔の事、 幡や花鬘なんどかざり候べきか。
答。 されでも、 たゞ一心ぞ大切に候。
四六
一 花香をほとけにまいらせ候事。
答。 あか月は供養法にかならずまいらせ候。 たゞは、 はなかめにさし、 ちらしても供養すべし。 香はかならずたくべし。 便あしくは、 なくとも。
四七
一 経をば、 僧にうけ候べきか。
答。 われとよみつべくは、 僧にうけずとも。
四八
一 聴聞・ものまうでは、 かならずし候べきか。
答。 せずとも。 中々わろく候。 し0586づかにたゞ御念仏候へ。
四九
一 神に後世申候事、 いかむ。
答。 仏に申すにはすぐまじ。
五〇
一 説教師は、 つみふかく候か。 又妻にならん物も、 つみふかしと申候は、 ま事にて候か。
答。 本体は功徳うべく候に、 末世のはつみえつべし。 妻にならんものは、 つみ。
五一
一 麝香・丁子をもち候は、 つみにて候か。
答。 かをあつむるは、 つみ。
五二
一 妻、 おとこに経ならふ事、 いかゞ候べき。
答。 くるしからず。
五三
一 還俗のものに目を見あはせずと申候は、 ま事にて候か。
答。 さまでとかず、 ひが事。
五四
一 還俗を心ならずして候はんは、 いかに。
答。 あさくや。
五五
一 神仏へまいらんに、 三日・一日の精進、 いづれかよく候。
答。 信を本にす。 いくかと本説なし、 三日こそよく候はめ。
五六
一 歌よむは、 つみにて候か。
答。 あながちにえ候はじ。 たゞし罪もえ、 功徳にもなる。
五七
一 さけのむは、 つみにて候か。
答。 ま事にはのむべくもなけれども、 この世のな0587らひ。
五八
一 魚・鳥・鹿は、 かはり候か。
答。 たゞおなじこと。
五九
一 尼になりて百日精進は、 よく候か。
答。 よし。
六〇
一 仏つくりて、 経はかならず具し候べきか。
答。 かならず具すべしとも候はず、 又具してもよし。
六一
一 功徳は身のたふるほどゝ申候は、 ま事にて候か。
答。 沙汰におよび候はず、 ちからのたふるほど。
六二
一 経と仏と、 かならず一度にすゑ候か。
答。 さも候はず、 ひとつゞつも。
六三
一 ¬錫杖¼ はかならず誦すべきか。
答。 さなくとも、 そのいとまに念仏一遍も申べし。 あま法師こそ、 ありく時むしのために誦し候へ。
六四
一 いみの日、 物まうでし候はいかに。
答。 くるしからず。 本命日も。
六五
一 五逆・十悪、 一念・十念にほろび候か。
答。 うたがひなく候。
六六
一 臨終に善知識にあひ候はずとも、 日ごろの念仏にて往生はし候べきか。
答。 善知識にあはずとも、 臨終おもふ様ならずとも、 念仏申さば往生すべし。
六七
一 誹謗正法は五逆のつみにおほくまさりと申候は、 ま事にて候か。
答。 これはい0588と人のせぬ事にて候。
六八
一 死て候はんものゝかみは、 そり候べきか。
答。 かならずさるまじ。
六九
一 心に妄念のいかにも思はれ候は、 いかゞし候べき。
答。 たゞよくよく念仏を申させ給へ。
七〇
一 わがれうの臨終の物の具、 まづ人にかし候は、 いかゞ候べき。
答。 くるしからず。
七一
一 五色のいと、 うむ事。
答。 おさなきものにうます。
七二
一 節ある楊枝をばつかはず、 続帯・青帯・无文の帯するはいむと申候は。
答。 くるしからず。
七三
一 服薬のわたは、 あらひ候はざらんはいかゞ候。
答。 くるしからず。
七四
一 よき物をき、 わろきところにゐて、 往生ねがひ候はいかゞ候。
答。 くるしからず。 八斎戒の時こそ、 さは候はめ。
七五
一 月のはゞかりの時、 経よみ候、 いかゞ候。
答。 くるしみあるべしと見へず候。
七六
一 申候事のかなひ候はぬに経よみ候、 いかゞ候。
答。 うらむべからず。 縁により、 信のありなしによりて、 利生はあり。 この世・のちの世、 仏をたのむには0589しかず。
七七
一 ひる・しゝは、 いづれも七日にて候か。 又しゝのひたるは、 いみふかしと申候は、 いかに。
答。 ひるも香うせなば、 はゞかりなし。 しゝのひたるによりて、 いみふかしという事は、 ひが事。
七八
一 月のはゞかりのあひだ、 神のれうに、 経はくるしく候まじか。
答。 神やはゞかるらん、 仏法にはいまず。 陰陽師にとはせ給へ。
七九
一 子うみて、 仏神へまいる事、 百日はゞかりと申候は、 ま事にて候か。
答。 それも仏法にいまず。
八〇
一 ¬法華経¼ 一品よみさして、 魚くはずと申候は、 いかに。
答。 くるしからず。
八一
一 ずゞ・かけをびかけずして、 経をうけ候事は、 いかに。
答。 くるしからず。
八二
一 時にまめ・あづきの御れうくはずと申候は、 ま事にて候か。
答。 くるしからず。
八三
一 ねてもさめても、 口あらはで念仏申候はんは、 いかゞ候べき。
答。 くるしからず。
八四
一 信施をうくるは、 つみにて候か。
答。 つとめしてくふ僧は、 くるしからず。 せ0590ねばふかし。
八五
一 神のあたりの物くふはくちなわと申候は、 いかに。
答。 禰宜・神主は、 ひとへにその身になるにこそさらぬが、 すこしくはんはおもからじ。
八六
一 僧の物くひ候も、 つみにて候か。
答。 つみうるも候、 えぬも候。 仏のもの、 奉加結縁の物くふはつみ。
八七
一 大仏・天王寺なんどの辺にゐて、 僧の物くひて、 後世とらんとし候人は、 つみか。
答。 念仏だに申さば、 くるしからず。
八八
一 時するあした、 御れうあまたにむかふ、 いかゞ候。
答。 くるしからず。
八九
一 時のつとめて、 みそうつ、 いかに。
答。 くるしからず。
九〇
一 戒をたもちてのち、 精進いくかゝし候。
答。 いくかも御心。
九一
一 聴聞は功徳え候か。
答。 功徳え候。
九二
一 念仏を行にしたる物が、 物まうでは、 いかに。
答。 くるしからず。
九三
一 物まうでして、 経を廻向すべきに、 経をばよまで念仏を廻向する、 くるしからずと申候は、 いかに。
答。 くるしからず。
九四
一 わが心ざゝぬ魚は、 殺生にては候はぬか。
答。 それは殺生ならず。
0591九五
一 服薬のずゞは、 あらひ候べきか。
答。 あらひあらはず、 くるしからず。
九六
一 千手・薬師は、 ものいませ給ふと申、 いかに。
答。 さる事なし。
九七
一 六斎に、 にら・ひる、 いかに。
答。 めさゞらんはよく候。
九八
一 時のくひ物は、 きよくし候べきか。
答。 れいの定、 行水も候まじ、 かねて精進も候まじ。 ひされも、 たゞのおりのにて候べし。 時の誦文も女房はせずとも、 たゞ念仏を申させ給へ。 さしたる事ありて時をかきたらば、 いつの日にてもせさせ給へ。
九九
一 三年おがみの事、 し候べきか。
答。 さらずとも候なん。
一〇〇
一 時のさばには、 あはせを具し候べきか。 時の散飯をば、 屋のうゑにうちあげ候べきか、 かはらけにとり候べきか、 わがひきれのさらにとり候べきか。
答。 いづれも御心。
一〇一
一 女のものねたむ事は、 つみにて候か。
答。 世世に女となる果報にて、 ことに心うき事也。
一〇二
一 出家し候はねども、 往生はし候か。
答。 在家ながら往生する人おほし。
一〇三
一 五色のいとを、 あまたにきりて人にたばんは、 いかゞ候べき。
答。 きるべから0592ず。
一〇四
一 念仏を申候に、 はらのたつ心のさまざまに候、 いかゞし候べき。
答。 散乱の心、 よにわろき事にて候。 かまへて一心に申させ給へ。
一〇五
一 かみつけながら、 おとこ・おんなの死候は、 いかに。
答。 かみにより候はず、 たゞ念仏と見へたり。
一〇六
一 尼の、 子うみ、 おとこもつ事は、 五逆罪ほどゝ申、 ま事にて候か。
答。 五逆ほどならねども、 おもく見へて候。
一〇七
一 尼法師、 かみをおほす、 つみにて候か。
答。 三悪道の業にて候。
一〇八
一 経・仏なんどうり候は、 つみにて候か。
答。 つみふかく候。
一〇九
一 人をうり候も、 つみにて候か。
答。 それもつみにて候。
一一〇
一 精進の時、 つめきらぬと申、 又女にかみそらせぬと申候、 いかに。
答。 みなひが事。
一一一
一 われも人も、 さゑもんかく、 罪にて候か。
答。 すごさゞらんには、 なにか罪にて候べき。
一一二
一 酒のいみ、 七日と申候は、 ま事にて候か。
答。 さにて候。 されども、 やまひに0593はゆるされて候。
一一三
一 魚鳥くひては、 いかけして経はよみ候べきか。
答。 いかけしてよむ、 本体にて候。 せでよむは、 功徳と罪とゝもに候。 たゞしいかけせでも、 よまぬよりは、 よむはよく候。
一一四
一 妻・おとこ、 一つにて経よみ候はん事、 いかけし候べきか。
答。 これもおなじ事、 本体はいかけしてよむべく候。 念仏はせでもくるしからず、 経はいかけしてよみ候べし。 毎日によみ候とも。
一一五
一 大根・柚は、 おこなひにはゞかりと申候は、 いかに。
答。 はゞかりなし。
一一六
一 尼になりたるかみ、 いかゞし候べき。
答。 経の料紙にすき、 もしは仏のなかにこそはこめ候へ。
一一七
一 尼法師の、 紺のきぬき候はいかに。
答。 よに罪うる事にて候。
一一八
一 物まうでし候はんに、 男女かみあらひ、 せめてはいたゞきあらふと申候は、 ま事候か。
答。 いづれもさる事候はず。
一一九
一 仏をうらむる事は、 あるまじき事にて候な。
答。 いかさまにも、 仏をうらむる事なかれ。 信ある物は大罪すら滅す、 信なき物は小罪だにも滅せず。 わが信のな0594き事をはづべし。
一二〇
一 八専に、 物まうでせぬと申は、 ま事にて候か。
答。 さる事候はず。 いつならんからに、 仏の耳きかせ給はぬ事の、 なじか候べき。
一二一
一 灸治の時、 物まうでせず、 そのおりのき物もすつると申候は。
答。 これ又きはめたるひが事にて候。 たゞ灸治をいたはりて、 ありきなんどをせぬ事にてこそ候へ。 灸治のいみ、 ある事候はず。
一二二
一 ひる・しゝくひて、 三年がうちに死候へば往生せずと申候は、 ま事にて候やらむ。
答。 これ又きわめたるひが事にて候。 臨終に五辛くひたる物をばよせずと申たる事は候へども、 三年までいむ事は、 おほかた候はぬ也。
一二三
一 厄病やみて死ぬる物、 子うみて死ぬる物は、 つみと申候はいかに。
答。 それも念仏せば往生し候。
一二四
一 子の孝養、 おやのするはうけずと申候、 いかに。
答。 ひが事なり。
一二五
一 産のいみ、 いくかにて候ぞ、 又いみもいくかにて候ぞ。
答。 仏教には、 いみといふ事候はず。 世間には、 産は七日、 又三十日と申げに候、 いみも五十日と申す。 御心に候。
0595一二六
一 没後の仏経しをく事は、 一定すべく候か。
答。 一定にて候、 すべく候。
一二七
一 所作かきてしいれ、 かねてかゝんずるを、 まづし候はいかに。
答。 しいるゝはくるしからず、 かねては懈怠也。
一二八
一 出家は、 わかきとおひたると、 いづれか功徳にて候。
答。 老ては、 功徳ばかりえ候。 わかきは、 なをめでたく候。
一二九
一 仏に花まいらする誦文、 十波羅蜜往生すと申て候。 御らんのためにまいらせ候。
答。 これせんなし、 念仏を申させ給へ。
一三〇
一 いみの物の、 ものへまいり候事は、 あしく候か。
答。 くるしからず。
一三一
一 物まうでして返さにわがもとへ返らぬ事はあし。 又魚鳥にやがてみだれ候事、 いかに。
答。 熊野のほかは、 くるしからず。
一三二
一 時のおりの誦文は、 かくし候べしと申候、 御らんのためにまいらせ候。
答。 時のおりも、 たゞ念仏を申させ給へ。 女房は誦文せずとも。
一三三
一 女房の物ねたみの事、 さればつみふかく候な。
答。 たゞよくよく一心に念仏を申させ給へ。
一三四
一 桐のはい、 かみにつくるは、 仏神に申事のかなはぬと申候は、 ま事にて候か。
答0596。 そら事なり。
一三五
一 物へまいり候精進、 三日といふ日まいり候べきか、 四日のつとめてか。
答。 三日のつとめてまいる。
一三六
一 物こもりて候に、 三日とおもひ候はんは四日になしていで、 七日とおもひて候はんは八日になしていで候べきか。
答。 それは世の人のせんやうに。
一三七
一 ずゞには、 さくら・くりいむと申候は、 いかに。
答。 さる事候はず。
一三八
一 法師のつみは、 ことにふかしと申候は。
答。 とりわき候はず。
一三九
一 現世をいのり候に、 しるしの候はぬ人はいかに候ぞ。
答。 現世をいのるにしるしなしと申事、 仏の御そら事には候はず。 わが心の説のごとくせぬによりて、 しるしなき事は候也。 されば、 よくするにはみなしるしは候也。 観音を念ずるにも、 一心にすればしるし候、 もし一心なければしるし候はず。
むかしの縁あつき人は、 定業すらなを転ず。 むかしもいまも縁あさき人は、 ちりばかりのくるしみにだにも、 しるしなしと申て候也。
仏をうらみおぼしめすべからず。 たゞこの世・のちの世のために、 仏につかへむには、 心をいたし、 ま事をはげむ事、 この世もおもふ事かなひ、 のちの世も浄土にむまるゝ事にて候也。 しるしなくは、 わが0597心をはづべし。
一四〇
建仁元年十二月十四日、 げざんにいりて、 とひまいらする事
一 臨終の時、 不浄のものゝ候には、 仏のむかへにわたらせ給ひたるも返らせ給ふと申候は、 ま事にて候か。
答。 仏のむかへにおはしますほどにては、 不浄のものありといふとも、 なじかは返らせ給ふべき。 仏はきよき・きたなきの沙汰なし。 みなされども観ずれば、 きたなきもきよく、 きよきもきたなくしなす。 たゞ念仏ぞよかるべき、 きよくとも念仏申さゞらんには益なし。 万事をすてゝ念仏を申すべし、 証拠のみおほかり。
一四一
これは御文にてたづね申す
一 家のうちのものゝ、 したしき・うときをきらはず、 往生のためとおもひて、 くひ物・き物たばんは、 仏に供養せんとおなじ事にて候か。
答。 したしき・うときをえらばず、 往生のためとおぼしめして、 物たびおはしまさん、 めでたき功徳にて候。 御つかひによくよく申候ぬ。
一四二
一 破戒の僧・愚痴の僧、 供養せんも功徳にて候か。
答。 破戒の僧・愚痴の僧を、 すゑの世には仏のごとくたとむべきにて候也。 この御つかひに申候ぬ。 きこしめし0598候へ。
この御ことばゝ、 上人のまさしき御手也。 あみだ経のうらにおしたり。
一四三
見参にいりてうけ給はる事
○一 毎日の所作に、 六万・十万の数遍をずゞをくりて申候はんと、 二万・三万をずゞをたしかにひとつづゝ申候はんと、 いづれかよく候べき。
答。 凡夫のならひ、 二万・三万あつとも、 如法にはかなひがたからん。 たゞ数遍のおほからんにはすぐべからず、 名号を相続せんため也。 かならずしもかずを要とするにはあらず、 たゞつねに念仏せんがため也。 かずをさだめぬは懈怠の因縁なれば、 数遍をすゝむるにて候。
一四四
○一 真言の阿弥陀の供養法は、 正行にて候べきか。
答。 仏体は一つにはにたれども、 その心不同なり。 真言教の弥陀は、 これ己心の如来、 ほかをたづぬべからず。 この教の弥陀は、 これ法蔵比丘の成仏也。 西方におはしますゆへに、 その心おほきにことなり。
一四五
○一 つねに悪をとゞめ、 善をつくるべき事をおもはへて念仏申候はんと、 たゞ本願をたのむばかりにて念仏を申候はんと、 いづれかよく候べき。
答。 廃悪修善は、 諸0599仏の通戒なり。 しかれども、 当時のわれらは、 みなそれにはそむきたる身ともなれば、 たゞひとへに別意弘願のむねをふかく信じて、 名号をとなへさせ給はんにすぎ候まじ。 有智・无智、 持戒・破戒をきらはず、 阿弥陀ほとけは来迎し給事にて候也。 御心え候へ。▽