982◎▲信微上人御釈
「▲その人命終の時に臨みて 乃至 ゆゑにこの言を説く。」 (小経)
◎「其人臨命終時 乃至 故説此言。」
「ただこの願王のみあひ捨離せずして、 一切の時においてその前に引導して、 一刹那のうちにすなはち極楽世界に往生することを得ん。 到りおはりてすなはち阿弥陀仏・文殊師利菩薩・普賢菩薩・観自在菩薩・弥勒菩薩等を見る。」 (般若訳華厳経巻四〇行願品)
「唯此ノ願王ノミ不シテ↢相捨離↡、於テ↢一切ノ時ニ↡引↢導シテ其ノ前ニ↡、一刹那ノ中ニ即得ム↣往↢生コトヲ極楽世界ニ↡。到已テ即見↢阿弥陀仏・文殊師利菩薩・普賢菩薩・観自在菩薩・弥勒菩薩等ヲ↡。」
「▲もし衆生、 心に仏を憶ひ仏を念ずれば、 現前当来に必定して仏を見たてまつる。 乃至 ▲われもと因地に念仏の心をもつて無生忍に入れり、 いまこの界にして念仏の人を摂して浄土に帰せしめん。」 (首楞厳経巻五)
「若シ衆生、心ニ憶ヒ↠仏ヲ念レバ↠仏、現前当来必定シテ見ツル↠仏。乃至 我本因地ニ以テ↢念仏心ヲ↡入レリ↢無生忍ニ↡、今於テ↢此ノ界ニ↡摂シテ↢念仏ノ人ヲ↡帰シメム↢於浄土ニ↡。」
かの仏の眉間に白毫の相まします、 柔軟なること都羅綿のごとし、 鮮白にして珂雪に逾えたり。 これを展ぶるに長大にしてその辺際なし、 内は虚しく八稜にして瑠璃の筒のごとし。 これを巻くに高広なること五須弥のごとし。 宛転して右に旋り、 外成じょうぜり。 五ご山せんの毫ごう量りょうは凡眼ぼんげん路みち絶たえたれども、 かの仏ぶつの本願ほんがん観かんずることあれば必ひつ成じょうす。
彼仏ノ眉間ニ有マス↢白毫ノ相↡、柔軟ナルコト如シ↢都羅綿ノ↡、鮮白ニシテ逾コエタリ↢珂雪↡。展ノブルニ↠之ヲ長大ニシテ無シ↢其ノ辺際↡、内虚シク八稜ニシテ如シ↢瑠璃ノ筒ツツノ↡。巻クニ↠之ヲ高広ナルコト如シ↢五須弥ノ↡。宛転シテ右ニ旋リ、外 カ成ゼリ↢螺文ヲ↡。五山ノ毫量ハ凡眼路絶タレドモ、彼ノ仏ノ本願有レバ↠観必成ス。
要ようをもつてしかもこれをいはば、 これより西方さいほうにただ白びゃく物もつ白びゃく色しき白びゃっ光こうのみ見みへてさらに他たの色いろなし。 なほし劫こう火かの世せ界かいに充じゅう徧まんせるがごとく、 また劫水こうすいの弥み満まん滉瀁こうようなるがごとし。
要オモテ而モ言イハバ↠之ヲ、従リ↠此西方ニ唯タヾ見ヘテ↢白物白色白光ノミ↡更ニ無シ↢他ノ色 ロ↡。猶シ如ク↣劫火ノ充↢徧セルガ世界ニ↡、亦如シ↢劫水ノ弥満滉瀁ナルガ↡。
われその中なかにありて光こう明みょう摂取せっしゅしたまふ、 法界ほうかい洞朗とうろうにして空くう寂じゃく明静みょうじょうなり。 この因縁いんねんによりて無始むしの三道さんどう自じ然ねんにことごとく滅めっし、 往おう生じょうの浄じょう業ごうたちまちにもつて成じょう就じゅならん。 この光こう明みょうの大だい威い神じんによるがゆゑなり、 略りゃくしてこれをいふに十じゅう二にの徳とくあり。
我在其中光明摂取、法界洞朗ニシテ空寂明静ナリ。由テ↢此ノ因縁ニ↡無始0983ノ三道自然ニ悉ク滅シ、往生浄業忽ニ以テ成就ナラム。由ルガ↢此ノ光明ノ大威神ニ↡故ナリ、略而シテ言フニ↠之ヲ有アリ↢十二ノ徳↡。
無む量りょう光こうのゆゑに横おうに無む量りょうの罪つみを滅めっす、 無む辺へん光こうのゆゑに竪しゅに三際さんさいの罪つみを滅めっす。
無量光ノ故ニ横ニ滅ス↢無量ノ罪ヲ↡、無辺光ノ故ニ竪ニ滅ス↢三際ノ罪ヲ↡。
無む等とう・無む対たいは等ひとしく光こう明みょうの力用りきゆうを明あかす、 上かみの二に光こうは総そうじて業ごうを破はす、 無礙むげ光こうのゆゑには世せ界かい所しょ有うの須しゅ弥み・鉄てっ囲ち、 大だい小しょうの諸山しょせん、 石壁せきへき・草木そうもく・大だい地じ・江こう河が、 あえて質ぜつ礙げなく照しょう徹てつして融ゆう妙みょうにして黒業こくごう・闇あん障しょう変へんじて白びゃく毫ごう清浄しょうじょうの光ひかりの体たいとなる。 障さわり滅めっすれども去こなるところなし、 氷こおり解とけて水みずとなるがごとし、 氷こおり多おおければ水みず多おおし、 障さわり多おおければ徳とく多おおし。 無む対たい光こうは、 すべて待対たいたいなし、 ただこれ白びゃく毫ごう清浄しょうじょうの法ほうなり。
無等・無対ハ等シク明ス↢光明ノ力用ユヲ↡、上之二光ハ総ジテ破ス↠業ヲ、無光ノ故ニハ世界所有ノ須弥・鉄囲、大小ノ諸山、石壁ヘキ・草木・大地・江河、無ク↢敢アエテ質↡照徹シテ融妙ニシテ黒業・闇障変ジテ為ナル↢白毫清浄光ノ体ト↡。障 リ滅レドモ無シ↠所 ロ↠去ナル、如シ↢氷 リ解テ為ルガ↠水ト、氷多レバ水多シ、障 リ多レバ徳多シ。無対光者、都テ無シ↢待対↡、唯是白毫清浄法。
炎王えんのう以下いげは別べっして三業さんごうを滅めっす。 炎王えんのうの一種いっしゅは総そうじて身しん口く現げん行ぎょうの業報ごうほうを滅めっす、 たとへば劫こう火かの乾坤けんこん洞然とうねんとしてその中なかの万物まんもつ有う形ぎょうの類るいみなことごとく燃尽ねんじんするがごとし。 この光ひかりもまたしかり、 身しん口く所しょ作さの一切いっさい業報ごうほう、 滅めっせざるところなし。
炎王已下別シテ滅ス↢三業ヲ↡。炎王ノ一種ハ総ジテ滅ス↢身口現行ノ業報ヲ↡、譬ヘバ如シ↢劫火ノ乾坤洞然トシテ其ノ中ノ万物有形之類皆悉ク燃尽スルガ↡。此ノ光モ亦而、身口所作ノ一切業報、無シ↠所 ロ↠不ル↠滅。
清浄しょうじょう以下いげの三種さんしゅは別べっして意地いじの三毒さんどく重障じゅうしょう・貪愛とんない穢え染ぜんを消しょう滅めつすることを明あかす。 清浄しょうじょう光こうの力ちからみなことごとく消しょう滅めつすることなほし劫水こうすいの世せ界かいに弥み満まんせるにみなことごとく所しょ有うの垢穢くえを蕩除とうじょするがごとし。 瞋しん恚にの害毒がいどくことごとく善法ぜんぽうを滅めっす、 歓かん喜ぎ光こうの力ちからことごとく除滅じょめつせしむ、 なほし甘かん露ろを毒薬どくやくに潅そそぐがごとし。 愚痴ぐちの闇蔽あんぺいなほし黒闇こくあんのごとし。 智慧ちえ光こうの力ちからよく闇やみを照しょう除じょす、 また大だい炬この暗室あんしつを照しょう朗ろうするがごとし。
清浄已下ノ三種ハ別シテ明ス↣消↢滅コトヲ意地ノ三毒重障・貪愛穢染ヲ↡。清浄光ノ力皆悉ク消滅スルコト猶如シ↧劫水ノ弥↢満セルニ世界ニ↡皆 ナ悉ク蕩↦除スルガ所有ノ垢穢ヲ↥。瞋恚ノ害毒悉ク滅ス↢善法ヲ↡、歓喜光ノ力 ラ悉ク令セシム↢除滅↡、猶シ如シ↣甘露ヲ潅ソヽグガ↢於毒薬ニ↡。愚痴ノ闇蔽猶シ如シ↢黒闇ノ↡。智慧光ノ力 ラ能ク照↢除ス闇ヲ↡、亦如シ↣大炬ノ照↢朗スルガ暗室ヲ↡。
不ふ断だんの一種いっしゅは光ひかりつねに住じゅうして時ときとして照てらさざるなきことを明あかす。 浄じょう業ごうを増進ぞうしんして懈け怠だいを対除たいじょし精しょう進じんの力ちからを得えしむ。
不断ノ一種ハ明ス↣光常ニ住シテ無コトヲ↢時トシテ不↟照サ。増↢進シテ浄業ヲ↡対↢除シ懈怠ヲ↡得シム↢精進ノ力ヲ↡。
難なん思じ・無む称しょうは光こう明みょうの体たいを結けっす。 法ほっ性しょうの真際しんさいより流る出しゅつするところ言ごん思しの境きょう界がい及およぶところにあらざるなり。 上かみのごとき功く徳どくはこれ光ひかりの力用りきゆうなり。
難思・無称ハ結ス↢光明ノ体ヲ↡。法性ノ真際ヨリ之所↢流出スル↡言思境界非↠所↠及也。如ノ↠上ノ功徳ハ此 レ光ノ力用ナリ。
超ちょう日月にちがつ光こうは総そうじて上かみの徳とくを結けっす。 世せ間けんに明みょう耀ようなること日月にちがつにはしかず。 かの光ひかりは量はかりありこの光ひかりは量はかりなし、 かの光ひかりは辺ほとりありこの光ひかりは辺ほとりなし。 無礙むげ・無む対たい・炎王えんのう・清浄しょうじょう・歓かん喜ぎ・智慧ちえ・不ふ断だん・難なん思じ・無む称しょうの益やく、 また対たいせざるところなり。 ゆゑに超ちょうといふなり。 この徳とくを具ぐするによりてつねに摂せっして捨すてたまはず、 なんの業ごっ障しょうありてかしかも消しょう滅めつなからん。
超日月光0984ハ総テ結ス↢上ノ徳ヲ↡。世間ニ明耀ナルコト不ズ↠如カ↢日月ニハ↡。彼ノ光ハ有リ↠量此ノ光ハ無シ↠量、彼光ハ有リ↠辺此ノ光ハ無シ↠辺。无・无対・炎王・清浄・歓喜・智慧・不断・難思・无称之益、亦復所ナリ↠不↠対。故ニ曰フ↠超ト也。由テ↠具スルニ↢此ノ徳ヲ↡常摂シテ不ズ↠捨、何ノ有テカ↢業障↡而モ无ラム↢消滅↡。
ただ願ねがはくは白びゃく毫ごうの光こう明みょう功く力りき身心しんしんに熏くん入にゅうし、 浄じょう業ごう成じょう就じゅして臨りん終じゅう安あん快けならん。 無む病びょう正しょう念ねんにして光こう明みょう聖しょう衆じゅ決けつ定じょう来迎らいこうして極楽ごくらくに往おう生じょうし、 仏ぶつを見み法ほうを聞きき、 無む生しょう忍にんを逮得たいとくし、 唯心ゆいしん自じ性しょうの身しん土どを証しょう顕けんして、 普ふ賢げん広大こうだいの行ぎょう願がんに入いりて未み来らい際さいを尽つくすまで間断けんだんあることなく、 法界ほうかいに周しゅう辺へんして病びょう厭えんあることなからん。
唯願クハ白毫ノ光明功力熏↢入シ身心ニ↡、浄業成就シテ臨終安快ナラム。无病正念ニシテ光明聖衆決定来迎往↢生シ極楽ニ↡、見↠仏ヲ聞↠法ヲ、逮↢得シ无生忍ヲ↡、証↢顕シテ唯心自性ノ身土ヲ↡、入テ↢普賢広大ノ行願ニ↡尽スマデ↢未来際ヲ↡无ク↠有コト↢間断↡、周↢辺シテ法界ニ↡无ラム↠有コト↢病厭↡。
¬浄じょう心しん誡観かいかん¼ (巻下) にのたまはく、 「凡ぼん夫ぶ道法どうほうを学まなぶに、 ただ心しんにみづから知しるべし。 造ぞう次じに他たに向むかひて道いへば、 他たすなはちかへりて誹そしりをなす」 と。
¬浄心誡観¼云、
「凡夫学ニ↢道法ヲ↡ 唯可シ↢心ニ自ミ 知ル↡
造ザウ次ジニ向テ↠他ニ道イヘバ 他即反カヘテ生ナス↠誹ソシリヲ」
また (浄心誡観巻下) のたまはく、 「無知むちにして盲聾もうろうのごとくなれ。 内ない智ち宝ほう貨かを壊いだけ。 頭陀ずだし閑げん静じょうを楽ねがひて、 対修たいしゅして懈け情じょうを離はなれよ」 と。
又云、
「無知ニシテ若クナレ↢盲聾ノ↡ 内智壊イダケ↢宝貨□ヲ↡
頭陀シ楽テ↢閑静ヲ↡ 対修シテ離レヨ↢懈情ヲ↡」
底本は本派本願寺蔵親鸞聖人真筆。