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当時このころ、 事外に疫癘とて人多く死去す。 これ更に疫癘によりてはじめて死するにはあらず。 むまれはじむる時よりして定れる定業なり。 さのみふかくをどろくまじき事なり。 しかれども今の時分にあたりて死去する時は、 さもありぬべきやうに人みなおもへり。 是誠に道理なり。 さるほどに阿弥陀仏のおほせられけるやうは、 末代の凡夫罪悪の衆生たらんものは、 罪はいかほどふかくとも、 我を一心にたのまん衆生をば、 かならずすくふべしとのたまへり。 かゝる時はいよいよ阿弥陀仏をたふとくおもひ奉りて一すぢに弥陀をふかくたのみ、 極楽に往生すべしとおもひとりて、 一向一0434心に弥陀をたふときほとけなりとうたがふこゝろつゆちりほどもまじきことなり。 かやうにこゝろうるすがたすなはち本願たのむ念仏の行者とはいふべきなり。 このこゝろえのうへには、 ねてもさめても南無阿弥陀仏とまふすは、 阿弥陀仏のわれらをやすくたすけまします御ありがたさうれしさの御礼をまふすこゝろのなり。 これを仏恩報尽の念仏とはまふすものなり。 あなかしこ、 あなかしこ。

延徳 壬子 年六月十日