四(929)、法然聖人御夢想記
▲法然聖人御夢想記 善導御事
◇或夜夢にみらく、 一の大山あり、 その峯きわめて高、 南北ながくとおし、 西方にむかへり。 山の根に大河あり、 傍の山より出たり、 北に流たり。 南の河原眇眇としてその辺際をしらず、 林樹滋滋としてそのかぎりをしらず。
◇こゝに源空、 たちまちに山腹にヤマノハラ 登てはるかに西方をみれば、 地より已上五十尺ばかり上に昇て、 空中にひとむらの紫雲あり。 以為、 何◗所に往生人のあるぞ哉。 こゝに紫雲とびきたりて、 わがところにいたる。
◇希有のおもひをなすところに、 すなわち紫雲の中より孔雀・鸚鵡等の衆鳥とびいでゝ、 河原に遊戯す、アソビタワブル 沙をほり浜に戯。 これらの鳥をみれば、 凡鳥にあらず、 身より光をはなちて、 照曜きはまりなし。 そののちとび昇て、 本のごとく紫雲の中に入了。
◇こゝにこの紫雲、 このところに住せず、 このところをすぎて北にむかふて、 山河にかくれ了。 また以為、 山の東に往生人のあるに哉。 かくのごとく思惟するあひだ、 須臾にかへりきたりてわがまへ0930に住す。
◇この紫雲の中より、 くろくそめたる衣著僧一人とびくだりて、 わがたちたるところの下に住立す。 われすなわち恭敬のためにあゆみおりて、 僧の足のしもにたちたり。 この僧を瞻仰すれば、 身上半は肉身、 すなわち僧形也。 身よりしも半は金色なり、 仏身のごとく也。
◇こゝに源空、 合掌低頭して問てまふさく、 これ誰人の来たまふぞ哉と。 答◗曰、 われはこれ善導也と。
◇また問てまふさく、 なにのゆへに来たまふぞ哉。 また答◗曰、 餘ワレ不肖なりといゑども、 よく専修念仏のことを言。 はなはだもて貴とす。 ためのゆへにもて来◗也。
◇また問言、 専修念仏の人、 みなもて為↢往生↡哉。 いまだその答をうけたまはらざるあひだに、 忽然として夢覚了。 ▽