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▼文明十歳初春下旬之比より、 河内国
-依之無常を観ずるに、 誠以夢幻の如し。 然而今日までもいかなる病苦にもとりあはず。 されども又いかなる死の縁にかあひなんずらん。 今日無為なればとて、 あすもしらざる人間なれば、 たゞ水上の泡、 風前の灯ににたり。
-此故にいそぎもいそぎもねがふべき物は、 後生善所の一大事に過たるはなし。 たとひ此世は栄花にふけり、 財宝は身にあまるとも、 無常のあらき風ふき来らば、 身命財の三ともに一も我身にそふ事あるべからず。 此道理をよくよく分別して後生をふかくねがふべし。
-而に諸教の修行は本より殊勝にしてめでたけれども、 末代の根機には叶がたければ、
于時文明十年うら盆会筆の次に書之訖。 あらあら。
以御筆御うつし候。 御本にて又うつし申候也。 正本は加州すゑのぶ行観所持候也。