本書の編者は実悟である。 本書は、 主に蓮如上人及び実如上人の時代の勤式作法などを伝えるものである。 この点において、 実悟における著作の多くが蓮如上人とその言行について述べられていることと性格を異にしている。 全百七十三箇条の中、 本書の中心は、 仏前及び本堂の荘厳、 勤式及び行事といった作法に関する記録であるが、 その他、 門徒・同行に関することについても述べられている。 ¬山科御坊其時代事¼ とともに、 その当時の本願寺の動きを把握する上で重要な史料といえる。 本書の成立については、 奥書によれば、 「天正八年三月二日覚悟(花押)/八十九歳所之/御局参」 とあることから、 天正八 (1580) 年三月二日に著されたことがわかる。 また、 旧表紙に 「門主可進入条々 約束申状也」 とあることと、 先の 「御局参」 の奥書の記述とを合わせて考えれば、 御局を通して当時の宗主である第十代顕如上人に献呈するために著されたとされる。 本書成立の五年前に著された ¬山科御坊事¼ と比較すると、 三十三箇条の重複が認められ、 それらの条は本書の成立過程において多少修正が加えられ編纂されている。 本書は、 正徳六 (1716) 年に ¬実悟記¼ と改題されて改版されており、 その後、 明和二 (1716) 年に ¬真宗法要¼ に、 文化八 (1811) 年には ¬真宗仮名聖教¼ に所収・刊行されている。