本鈔は、 存覚上人の撰述である。 存覚上人については ¬存覚一期記¼ を参照されたい。 本鈔の題号に示される 「名体」 とは、 名号と形体の意であると考えられ、 本鈔では、 光明本の構成要素である名号三種と形像十八体のそれぞれに解説 (弁述) がなされている。 光明本とは、 光明本尊のことで、 本文には 「面々の本尊、 一々の真像等を、 一鋪のうちに図絵して、 これを光明本となづく」 とあり、 初期真宗において様々に存在していた名号や絵像等を一鋪の図絵に示したもので、 名号から放たれる光明の中に、 釈迦・弥陀二尊の形像や菩薩像、 高僧先徳像などを配し収めたものを指す。
 本鈔の内容は、 まず名号について、 九字名号 (南無不可思議光如来) は、 「かの如来の智慧の光明、 その徳たうとくして、 心をもてもおもひがたく、 ことばをもてもはかられずといふことばなり」 と、 光明の徳を讃嘆している。 ¬教行信証¼ 「真仏土文類」 に 「仏はすなはちこれ不可思議光如来、 土はまたこれ無量光明土なり」 とあるように、 不可思議光如来とは阿弥陀如来の真実報身の徳を讃嘆するみ名であり、 真仏の体であるから、 中尊に配されると述べている。 六字名号 (南無阿弥陀仏) は、 正しき所帰の行体であって、 本来は中尊に配すべきであるが、 インドの言葉で理解が難しいため、 まず理解し易い不可思議光如来を示して心得させた後に、 不可称不可説不可思議の体は、 南無阿弥陀仏と知らせるのであると述べている。 十字名号 (帰命尽十方無礙光如来) は、 南無阿弥陀仏の徳を表すものであり、 十方世界を尽して障りなく照らし、 念仏の衆生を摂め取って捨てないというはたらきを示すものであると述べている。
 次に形像について、 釈迦・弥陀二尊の形像のうち、 阿弥陀如来立像は、 ¬観経¼ 第八像観によるという。 凡夫は迷いが深く、 方便を離れては真実をさとることができない。 そのため、 形像を示して、 阿弥陀如来の真実の体は不可思議光・無光であると知らせるのであると述べている。 釈迦如来立像は、 釈尊が阿弥陀仏の本願を説かなければ衆生はその本願を信知することができないので、 その能説の恩を報ずるために配しているという。 だからといって、 南無阿弥陀仏の名号と同列に釈尊のみ名を称して信の対象とするのではなく、 釈尊の教えに随って阿弥陀如来に帰命すれば、 その本願を説く釈迦・諸仏の本意にもかなうと述べている。
 次に三菩薩像について、 中心に配置される勢至菩薩は、 阿弥陀如来の智慧をつかさどり、 十方世界に念仏の教えが弘まるのは、 勢至菩薩のはたらきであると述べている。 龍樹菩薩と天親菩薩は、 ともにインドの千部の論主で、 浄土の教法をもっぱら説いたので、 左右に並べて配されていると述べている。
 次にインド・中国・高僧像について、 菩提留支三蔵・曇鸞大師・道綽禅師・善導大師・懐感禅師・少康法師・法照禅師をあげ、 それぞれの事績を簡潔に解説している。 特に善導大師の段には 「もはらこれ真宗の宗師なり」 とあり、 源空 (法然) 聖人や宗祖の教えの系譜が、 善導大師を中心とした念仏の教えを承けたものであることを示していると考えられている。
 最後に日本の先徳像について、 聖徳太子は、 日本に仏教を広めた和国の教主として大恩があり、 さらに宗祖が太子を殊に敬ったため、 光明本に描かれていると述べている。 善心和尚・源空聖人は、 それぞれ ¬要集¼・¬選択集¼ を著して浄土の教えを弘通したことを述べ、 殊に源空聖人を 「真宗の大祖」 と讃えている。 宗祖については偏に一向一心の深信をたくわえ、 専修専念の一行を弘め、 ¬教行信証¼ を著して真宗の要義をあきらかにした功を讃えている。 法連坊信空・聖覚法印は、 源空聖人の弟子として宗祖と同輩であり、 源空聖人の徳を知らせ、 一味の安心を示すために描かれていると述べている。
 なお、 光明本の由来について、 本鈔には真宗教団内で考案されたものとあるが、 一説には、 専修念仏の意趣を図像化して端的に表した摂取不捨曼荼羅の影響があるとも指摘されている。 また、 存覚上人当時の光明本は ¬存覚上人袖日記¼ に多数記録され、 今日でも様々な形式のものが伝えられている。 その中で、 本鈔で解説される光明本については、 以下のような構図であったと考えられる。
 まず名号は、 九字名号を中尊とし、 中尊の右に六字名号、 中尊の左に十字名号が配されている。 次に形像は、 中尊と六字名号の間に阿弥陀如来立像が、 中尊と十字名号の間に釈迦如来立像がそれぞれ配されている。 中尊の右、 阿弥陀如来立像の上方に勢至菩薩・龍樹菩薩・天親菩薩の三菩薩像が、 さらにその上方にインド・中国の高僧である菩提留支三蔵・曇鸞大師・道綽禅師・善導大師・懐感禅師・少康法師・法照法師が配されている。 中尊の左、 釈迦如来立像の上方に日本の先徳である聖徳太子・源信和尚・源空聖人・法蓮房信空・聖覚法印が配されている。
 本鈔の成立については、 現存する古写本や ¬浄典目録¼ などに撰述年代の記載がないことから不明である。 しかし、 ¬浄典目録¼ には、 「弁述名体鈔一巻……已上依空性 了源 望草之」 とあり、 仏光寺の了源上人の要請によって著されたものであることがわかる。 仏光寺教団などでは当時より光明本が重んじられ、 その解説書が求められたために制作されたものと推測される。