本書は、 源空 (法然) 聖人の撰述であり、 聖人最晩年の念仏領解を簡潔に記した法語である。 源空上人が示寂する二日前の建暦二 (1212) 年一月二十三日、 勢観房源智の懇望に応じて授与されたものと伝えられている。
本書の題号については、 一枚の紙に記されていることに由来するが、 ¬和語灯録¼ では 「御誓言の書」 と題され、 ¬法然聖人行状絵図¼ (四十八巻伝) では 「一枚消息」 とあるなど、 諸本で異同がある。
本書の内容は、 浄土宗の最も肝要とするところを述べたものである。 まず、 中国・日本の諸師によって説かれてきた、 観念の念仏でも、 学問理解による念仏でもなく、 ただ往生極楽のためには、 疑いなく往生すると信じて念仏するほかはないと述べる。 また、 念仏の実践としては三心や四修があるが、 それらはすべてこの念仏を称えるところにそなわっていると述べている。 さらに、 もしこのほかに奥深い考えがあると考えるならば、 釈迦・弥陀二尊の慈悲に外れ、 阿弥陀仏の本願に漏れることになると誡められている。 そして、 釈尊の教法をよく学んだとしても智者のふるまいをせず、 愚者の身であると心得て、 念仏申すべきであると結ばれる。 なお、 「起請文」 とは、 自らの言動を神仏に誓い、 偽りならば罰を受けるとする制約を意味するが、 本書にはそうした要素が含まれていない。 源空聖人自身が 「起請文」 という意図をもって書かれたとは言い難いことから、 むしろ訓誡・教誡の書と見なすべきとの指摘もある。
本書の書写本や、 本書を収録する集成本や伝記類は、 江戸時代以降のものを除いても相当数が現存している。 構成内容と文言からみて、 主に勢観房源智相承のものと、 聖光房弁長相承のものとの二系統がある。 源智系の主なものは、 金戒光明寺蔵伝源空聖人自筆本の他、 ¬和語灯録¼ 第一巻・¬法然聖人絵¼ (弘願本) 第二巻・¬法然上人伝記¼ (九巻伝) 第七巻下・¬法然上人行状絵図¼ (四十八巻伝) 第四十五巻などに収録されるものがあり、 本文末の 「浄土宗の安心・起行…」 の添書があることを特徴とするが、 聖光系のものにはそれが見られない。 また 「一枚起請文」 という題号は、 源智系でしかも添書を有する写本のみに記されており、 そのほとんどが金戒光明寺蔵本の写本と考えられている。 聖光系の主なものとしては、 ¬善導寺御消息¼・¬和語灯録¼ 第五巻に収録されるものがある。 源智系と聖光系の関連については聖光系が源智系に先行するという理解が一般的である。
なお、 福井県西福寺蔵道残書写本には、 「御真筆在于黒谷/紫雲山襲而写之」 との識語があり、 金戒光明寺に所蔵されていた自筆本を書写したとされる。 ただし、 現存の金戒光明寺蔵本にある 「源空述」 の撰号と 「為証以両手印」 及び添書を欠いていることから、 金戒光明寺には別鶏頭の自筆本があったのではないかとの指摘がある。