本書の著者は善導大師である。 首題には 「観念阿弥陀仏相海三昧功徳法門」、 尾題には 「観念阿弥陀仏相海三昧功徳法門経」 とあり、 尾題には首題にない 「」 の一字が付加されている。 本書は一般に、 「観念法門」 と略称される。
 本書の構成は、 三昧行相分、 五縁功徳分、 結勧修行分の三段より成っている。
 第一段の三昧行相分では、 最初に標列が置かれ、 以下にその標列に即した内容が展開されている。 まず最初に ¬観経¼ と ¬観仏三昧経¼ とによって観仏三昧の法が説かれ、 標列には ¬観経¼ によって明かすとあるものの、 主として ¬観仏三昧経¼ が引用される。 続いて ¬般舟三昧経¼ によって念仏三昧の法を明かし、 さらに諸経によって入道場念仏三昧の法を述べて、 ついで道場内における懴悔発願の法が説き明かされている。
 第二段の五縁功徳分では、 ¬無量寿経¼ (大経) ¬十六観経¼ (観経) ¬四紙阿弥陀経¼ (小経) ¬般舟三昧経¼ ¬十往生経¼ ¬浄土三昧経¼ の往生経などによって、 念仏の行者が現世と当来に得るすぐれた功徳利益として、 滅罪・護念・見仏・摂生・証生の五種の増上縁のあることを証明している。 これは首題に 「三昧功徳」 とある、 その功徳を開顕したものとされる。
 第三段の結勧修行分では三つの問答によって、 一には念仏の法門を信じる利益と謗る罪の重いことを示し、 二には念仏三昧の功徳利益が広大でその功能が超絶していることを示して念仏を勧め、 三には懴悔による滅罪の方法について述べられている。
 本書は、 従来より 「行門中の教門」 といわれ、 行義実践が明かされる具疏の中にあって、 教義理論が兼ね備えられている点がその特徴として注目される。 また、 本書については、 首尾一貫した一部のものではなく、 異なる二部の著作を合わせたものとする説がある。 すなわち、 これは第二段の五縁功徳分の冒頭に 「依経明五種増長縁義一巻」 という標題を挙げ、 「五種増上縁義竟」 と結んでいることに基づいた説である。 つまり、 この表題および内容から、 第二段の五縁功徳分は、 もとは ¬五種増上縁義¼ 一巻という独立した一部の著作であったとして、 これが流伝の課程において合冊されたのではないかとする説である。 この説に従えば、 五部九巻といわれる善導大師の著作は六部十巻ということになる。 しかし、 必ずしも確定的な見解ではなく、 本書の内容には首尾一貫した大師の意向がみられるとするなど、 本来一巻とみるべきであるとの指摘もあることから、 本聖典では従来のとおり ¬観念法門¼ 一巻として編纂した。
 なお、 本書の成立および五部九巻に関する撰述の前後関係については ¬観経疏¼ の解説に譲るが、 内容において観仏三昧と念仏三昧との位置づけがいまだ明確にされていない点より、 本書は ¬観経疏¼ と比較して内容的に未整理であると指摘される。 このことから、 本書を ¬観経疏¼ に先行して制作された善導大師最初の著作と位置づけ、 ¬観経疏¼ において称名正定業が明かされていくまでの過程を知る上で重要な意味を持つとする見解も少なくない。
 本書の日本への将来は、 承和六 (838) 年に唐から帰国した円行によるもので、 ¬霊巌寺和尚請来法門道具等目録¼ には本書の他に ¬法事讃¼ や ¬般舟讃¼ の名も記されている。 これが日本への初伝とされ、 この時点をもって善導大師五部九巻すべての日本への伝来が完了している。 また本書は、 源信和尚の ¬往生要集¼、 源隆国の ¬安養集¼、 永観の ¬往生拾因¼ などに引用がみられ、 源空 (法然) 聖人、 宗祖も引用している。 両者の引用箇所には共通した特徴があり、 源空聖人が引用している六箇所のうち第一段三昧行相分からの一文を除いた五文を、 宗祖においては ¬教行信証¼ 四文、 ¬尊号真像銘文¼ 二文、 ¬一念多念文意¼ 一文の七箇所すべてを、 第二段五縁功徳分の護念縁・摂生縁・証生縁から引用していることが知られる。 なお、 このうち 「但有専念阿弥陀仏…現生護念増上縁」 の文は、 信心の行者の利益を明かす証文としてとくに宗祖が重視し、 ¬教行信証¼ への引用だけでなく、 ¬尊号真像銘文¼ ¬一念多念文意¼ において詳しい解釈を施している。
 ところで、 本書において重要な位置を占める引用経典の一つである ¬般舟三昧経¼ の漢訳には四本が伝えられる。 すなわち、 ¬抜陂菩薩経¼ 一巻 (訳者不明)、 ¬仏説般舟三昧経¼ 一巻 (後漢、 支婁迦讖訳)、 ¬般舟三昧経¼ 三巻 (後漢、 同上訳)、 そして ¬大集経¼ 「賢護分」 五巻 (随、 闍那崛多訳) である。 この訳出順について、 近年の研究においては ¬般舟三昧経¼、 ¬仏説般舟三昧経¼、 ¬抜陂菩薩経¼、 ¬大集経¼ とする見解で一致している。 このうち、 大師が依用したのは ¬仏説般舟三昧経¼ 一巻であると考えられており、 それは道綽禅師より受けたものであったのではないかと推定されている。