九(493)、 九条殿下の北政所へ進ずる御返事
○九条殿下の北政所へ進ずる御返事 第九
◇かしこまりて申あげ候。 さては御念仏申させおはしまし候らんこそ、 よにうれしく候へ。
◇ま事に往生の行には、 念仏がめでたき事にて候也。 そのゆへは、 弥陀の本0494願の行なれば也。 余行は、 それ真言・止観のたかき行なりといへども、 弥陀の本願にあらず。
◇又念仏は、 釈迦如来の付属の行也。 余行は、 まことに定散両門のめでたき行也といへども、 釈尊これを付属し給はず。
◇又念仏は、 六方の諸仏の証誠の行也。 余行は、 顕密事理のやんごとなき行なりといへども、 諸仏これを証誠し給はず。 このゆへに、 様々の行おほしといへども、 往生のみちにはひとへに念仏がすぐれたる事にて候也。
◇しかるを往生のみちにうとき人の申すやうは、 余の真言・止観の行にたえざる、 やすきまゝのつとめにてこそ念仏はあれと申すは、 きはめたるひが事にて候也。
◇そのゆへは、 余行をば弥陀の本願にあらずときらひすてゝ、 又釈尊の付属にあらざる行をばえらびとゞめ、 又諸仏の証誠にあらざる行をばとゞめおさめて、 いまたゞ弥陀の本願にまかせ、 釈尊の付属により、 諸仏の証誠にしたがひて、 おろかなるわたくしのはからひをばとゞめて、 これらのゆへ、 つよき念仏の行を信じつとめて、 往生をばいのるべしと申す事にて候也。
◇されば恵心の僧都の ¬往生要集¼ (巻中) に、 「往生の業は、 念仏を本とす」 と申たるは、 この心也。 いまはたゞ余行をとゞめ給て、 一向に念仏にならせ給ふべし。
◇念仏にとりても、 一向専修の念仏がめでたき事にて候也。 そのむねは三昧発得の善導和尚0495の観経疏にみえて候。
◇しかのみならず、 ¬双巻経¼ (大経巻下) には、 「一向専念无量寿仏」 ととき給へり。 およそ一向のことばゝ、 二向・三向に対して、 ひとへに余の行をえらびすて、 きらひのぞく心也。
◇君達なんどの御いのりの料なんどにも、 念仏がめでたき事にて候へば、 ¬往生要集¼ に、 余行のなかにも念仏すぐれたるよしみへて候。
◇又伝教大師の七難消滅の法にも、 「念仏をつとむべし」 (七難消滅護国頌) と見えて候。 およそ十方諸仏・三界の天衆の擁護し給ふ行にて候へば、 現世・後生の御つとめ、 何事かこれにすぎ候はん。
◇いまはたゞ一向専修の但念仏にならせ給ふべく候。▽