二0637､ 示或人詞

▲示しめ◗す或人あるひと◗に詞ことば第だい二に

一　しとは､ この時とき西にしにむかふべからず､ 又また西にしをうしろにすべからず､ きた・みなみにむかふべし｡ おほかたうちうちゐたらんにも､ うちふさんにも､ かならず西にしにむかふべし｡

もしゆゝしく便びん宜ぎあしき事ことありて､ 西にしをうしろにする事ことあらば､ 心こころのうちにわがうしろは西にし也なり､ 阿あ弥陀みだほとけのおはしますかた也なり｡ たゞいまあしざまにてむかはねども､ 心こころをだにも西方さいほうへやりつれば､ そゞろに西にしにむかはで､ 極楽ごくらくをおもはぬ人ひとにくらぶれば､ それにまさる也なり｡

一　孝きょう養ようの心こころをもて､ ちゝ・はゝをおもくしおもはん人ひとは､ まづ阿あ弥陀みだほとけにあづけまいらすべし｡ わが身みの人ひととなりて往おう生じょうをねがひ念仏ねんぶつする事ことは､ ひ[と]へにわが父母ぶものやしなひたてたればおそあれ｡ わが念仏ねんぶつし候そうろう功こうをあはれみて､ わが父母ぶもを極楽ごくらくへむかへさせおはしまして､ 罪つみをも滅めっしましませとおもはば､ かならずかならずむかへとらせおはしまさんずる也なり｡

されば唐とう土どに妙みょう雲うんといひし尼あまは､ おさなくして父母ぶもにおくれたりけるが､ 三さん十じゅう年ねんばかり念仏ねんぶつして父母ぶもをいのりしかば､ ともに地じ獄ごくの苦くをあらためて､ 極楽ごくらくへまいりたりける也なり｡

一0638　善導ぜんどう和か尚しょうの ¬往おう生じょう礼讃らいさん¼ に､ 本願ほんがんをひきていはく､ ｢若にゃく我が成じょう仏ぶつ､ 十方じっぽう衆しゅ生じょう､ 称しょう我が名みょう号ごう下至げし十じっ声しょう､ 若にゃく不ふ生しょう者じゃ不ふ取しゅ正しょう覚がく｡ 彼ひ仏ぶつ今こん現在げんざい世せ成じょう仏ぶつ｡ 当とう知ち､ 本誓ほんぜい重じゅう願がん不虚ふこ､ 衆しゅ生じょう称しょう念ねん必得ひっとく往おう生じょう｡｣文

この文もんをつねに､ くちにもとなへ､ 心こころにもうかべ､ 眼めにもあてゝ､ 弥陀みだの本願ほんがんを決けつ定じょう往おう生じょうして､ 極楽ごくらく世せ界かいを荘しょう厳ごんしたてゝ､ 御おん目めを見みまはして､ わが名なをとなふる人ひとやあると御ごらんじ､ 御おんみゝをかたぶけて､ わが名なを称しょうする物ものやあると､ よる・ひるきこしめさるゝ也なり｡

されば一いっ称しょうも一念いちねんも､ 阿あ弥陀みだにしられまいらせずといふ事ことなし｡ されば摂取せっしゅの光こう明みょうはわが身みをすて給たまふ事ことなく､ 臨りん終じゅうの来迎らいこうはむなしき事ことなき也なり｡

この文もんは四し十じゅう八願はちがんのまなこ也なり､ 肝きもなり､ 神じん也なり｡ 四し十じゅう八はち字じにむすびたる事ことは､ このゆへ也なり｡

よくよく身みをもきよめ､ 手てをもあらひて､ ずゞをもとり､ 袈裟けさをもかくべし｡ 不ふ浄じょうの身みにて持じ仏ぶつ堂どうへいるべからず｡

この世よの王おうなんどをだにも､ うやまひおそるゝ事ことにてあるに､ まして无む上じょう世せ尊そんの､ もろもろの大だい菩ぼ薩さつにもうやまはれ給たまへるに､ われらが身みにいかでかなめにもあたりまいらすべき｡ 三界さんがいの諸天しょてんもかふべをかたぶけ給たまふ､ いかにいはんやわれらが身みをや｡

又またつみをおそるゝは本願ほんがんをかろしむる也なり､ 身みをつゝしみてよからんとするは自じ力りきをはげむ也なりといふ事こと0639は､ ものおぼへぬあさましきひが事ごと也なり｡ ゆめゆめみゝにもきゝいるべからず､ つゆちりばかりももちゐまじき事こと也なり｡

はじめ ｢浄じょう土ど三さん部ぶ経きょう｣ より､ 唐とう土ど・日本にっぽんの人にん師しの御ご作さくのなかにも､ またくなき事ことどもを､ 心こころにまかせてわがおもふさまに､ わろからんとていひいだしたる事こと也なり｡ 一いち定じょうとして三さん悪道まくどうにおちんずる事こと也なり､ 一代いちだい聖教しょうぎょうのなかにふつとなき事こと也なり｡

五ご逆ぎゃく・十じゅう悪あくの罪人ざいにんの､ 臨りん終じゅうの一念いちねん・十じゅう念ねんによりて来迎らいこうにあづかる事ことは､ そのつみをくゐかなしみて､ たすけおはしませとおもひて念仏ねんぶつすれば､ 弥陀みだ如来にょらい願力がんりきをおこして罪つみを滅めっし､ 来迎らいこうしまします也なり｡

本願ほんがんのまゝにかきてまいらせ候そうろう､ このまゝに信しんじて御おん念仏ねんぶつ候そうろうべし｡ かまへてかまへて､ たうとき念仏ねんぶつ者しゃにておはしませ｡ あなかしこ､ あなかしこ｡▽