親鸞聖人御消息集
本集には広本と略本とがあり、 その原形は広本である。 本集の最古の書写本は愛知県妙源寺蔵のものであり、 断簡四十八葉を収めている。 この書写本は鎌倉時代末期のものであり、 本集はそれ以前に既に成立していたということができる。 編者については未だ詳らかではないが、 その内容が常陸の門弟宛を中心としていることから考えて、 常陸在住の門弟あるいは孫弟による編集かといわれている。
本集所収の通数は十六通が原形かとも考えられるが、 本願寺派本願寺蔵室町時代末期書写本などにより十八通とするのが通説である。 その十八通のうち、 ¬末灯鈔¼ と共通するものが八通あり、 この八通を省略したものが略本である。 この成立は、 現存する最も古い略本が大谷大学蔵恵空書写本であり、 これに 「今の写本にはかの八通を除たる本を以て写畢ぬ、 私云、 八通は末灯鈔にあるゆへに略して写し来りたる歟云々」 とあることから、 室町時代末期から江戸時代初期に成立したと考えられている。 恐らくは ¬末灯鈔¼ の盛行によるものであろう。 この略本が ¬真宗法要¼ や ¬真宗仮名聖教¼ 等に収められて一般に流布し、 通例 ¬御消息集¼ と呼ばれている。 これに対して広本は ¬異本御消息集¼ と呼ばれることもある。
本願寺派本願寺蔵室町時代末期書写本は、 広本書写の流布本を代表するものとされている。 大谷大学蔵恵空書写本は現存する略本の書写本の中で最も古いもので、 本文は必ずしも善本ではないが、 異本を校合してあるので参照すべきものが多い。