本派本願寺蔵正平六年書写本は、 浄土三部経すべてが揃う書写本である。 ¬大経¼ の奥書から、 宗祖の父有範公の中陰を機縁として、 宗祖の弟である兼有律師が書写されたものを、 存覚上人が正平六 (1351) 年に写されたものであることが知られる。 ただし、 本文には複数の筆が認められ、 いずれが存覚上人の筆であるか判断しがたい。 当本の内、 ¬大経¼ 下巻と ¬観経¼ には墨書による訓点が付されるが、 本文と同時であるかどうかは不明であり、 このほか朱筆による訓点などが記されている。 特に ¬大経¼ については下巻の奥書から、 その書写原本が複数の本との校点を経たものであることが知られる。
 また当本は異本との校合もされているが、 ¬観経¼ ¬小経¼ に関しては 「御本」 なる本が校合本に用いられている。 この 「御本」 は、 宗祖真筆の本派本願寺蔵 ¬観無量寿経註¼ ¬阿弥陀経註¼ とされる。 このことから、 当本のすべてが存覚上人の筆ではないとしても、 宗祖以後、 存覚上人前後における浄土三部経修学の様子を示すものとして注目される。 当本には、 朱墨による多くの筆が混在していることから、 本聖典では校合にあたって、 本文に上書された朱書を校異の対象とした。 体裁は半葉六行、 一行十七字である。