最明寺蔵本は、 奥書・識語等が存在していない。 書写年時については、 字体や装丁、 オコト点の使用、 あるいは 「営」 の字に 「永」と註記してその字音を示すような 「類音注」 と呼ばれる古い形式の字音注がみられること等から、 平安時代中期と考えられる。 全体を完備する書写本としては現存する最古のものである。 本文には朱書と墨書とで異なる訓点が付され、 朱書の方が本文の書写年代に近い。 朱書では全文にオコト点が付され、 これは延暦寺に伝わる宝幢院点であることから、 当本は天台僧により書写されたものと考えられる。 またヲコト点による訓点が、 青蓮院蔵本の右仮名と多く共通することも特徴である。
 体裁は粘葉装三帖、 半葉七行、 一行十八字内外であり、 全巻にわたって虫損が甚だしい。 なお、 下巻の末尾にある漢字音の一覧については翻刻しなかった。