龍谷大学蔵本は、 「和語灯録」 五巻及び 「拾遺和語灯録」 二巻からなる元亨元年刊本であり、 編者である了恵自身が直接手がけた現存唯一の版本である。 現存最古のひらがな混じり文で印刷されたものとしても貴重である。 ただし、 当本に付された右左訓については、 後世の書き入れである。 各巻表紙右下に 「主蓮戒尼之/(花押)」、 見返に 「円明相伝」 等とあり、 当初、 蓮戒尼の所持本であったが、 円明が相伝したことが窺える。 さらに各巻見返等には、 「覚忍禅尼被付属光助法印訖/康安元年 十一月十七日」 との識語がある。 この識語や、 流伝経路からみて、 当本は初版本と考えられている。 覚忍禅尼は、 龍谷大学蔵 ¬弥陀経義集¼ 南北朝時代書写本の奥書に見える名で、 ¬存覚上人袖日記¼ には大和国学念のために同書を右筆した人物として記録されている。 当本と同筆で同じ識語を持つものに、 龍谷大学蔵 ¬無量寿経¼ 鎌倉時代巻本があるが、 その識語の筆跡は存覚上人のものであり、 当本の識語も同様であることから、 存覚上人の仲介によって当本を初めとする正行が覚忍禅尼から存覚上人の第四子光助 (巧覚) に相伝されたことがわかる。
 体裁は半葉七行、 一行二十字内外である。
 なお、 当本は第二冊を中心に湮滅箇所が多く見られる。 そこで本聖典では、 理解の便のために、 元亨版の転写本である仏教大学附属図書館蔵江戸時代末期書写本、 東京都石川武美祈念図書館蔵成簣堂文庫江戸時代末期書写本によって適宜補っている。