本経は後期無量寿経に位置づけられ、 神竜二 (706) 年から先天二 (713) 年に訳出された ¬大宝積経¼ に含まれる一経である。 訳者については、 菩提流志訳で諸経録とも一致しており、 現在まで異論は見られない。 菩提流志は南インド出身の訳経僧で、 唐の高宗によって中国に招かれ、 長寿二 (693) 年に長安に入ったという。 ¬大宝積経¼ ¬実相般若¼ などを訳出している。 なお、 曇鸞大師に浄教を授けた菩提流支とは別人である。
本経は、 菩提流志が四十九の経典を集めた ¬大宝積経¼ の第五会として、 巻十七・巻十八に収められており、 ª無量寿経º の漢訳の中で、 現存する梵本にその内容が最も近似するものとされる。 二巻からなる。
本経の上巻では、 序分では耆闍崛山に参集した比丘などの名が示され、 ¬無量寿経¼ と同じく八相化儀が説かれる。 その後、 阿難が釈尊に問いを発し、 釈尊の説法が始められる。 正宗分では、 法処 (法蔵) 比丘の発心が示され、 世間自在王如来 (世自在王仏) に対する讃仏偈と法処比丘の五劫思惟と摂受、 四十八願が述べられる。 その後、 重誓偈、 法処比丘の修行が説かれ、 その果徳として今現に西方極楽で無量寿仏となったことが示される。 続いて、 無量寿仏の光明、 極楽の聖衆、 無量寿仏の寿命、 宝樹や菩提樹について説かれ上巻が終わる。
下巻では、 諸天の所住について問答が起こされ、 宝河の荘厳、 極楽に往生すれば食事や衣服・宮殿なども自在であること、 七宝の蓮華の光から諸仏が出現することなどが示される。 続けて、 第十一願、 第十七願、 第十八願成就文として入正定聚・諸仏讃嘆・聞名往生が示され、 往覲偈、 観自在菩薩と大勢至菩薩とについて、 極楽に往生した菩薩の功徳についてなどが述べられる。 これらを説き終わると、 阿難に礼拝が勧められ、 その勧めを受けた阿難の前に光明を放った無量寿仏が現れたことが示される。 続けて、 弥勒菩薩に対してこれまでの説法の内容が確認され、 胎生についての問答、 極楽に往生する者の数についての問答が説かれる。 最後の流通分では、 弥勒菩薩に対して本経が付属されて流通偈が置かれ、 釈尊の説法を聞いた多くの菩薩が不退転を得たことなどが示されて、 本経は終わる。
本経には ¬無量寿経¼ との類似性が指摘される。 すなわち、 八相化儀があり、 願文が共に四十八願で、 重誓偈が置かれ、 法蔵菩薩の修行の描写が詳細であり、 道場樹についての説示がある。 また、 第十一願、 第十七願、 第十八願成就文が置かれ、 胎生と化生との説示があること、 般若思想の影響が見られることなどである。 これらは先の初期無量寿経には見られない特徴である。 一方、 ¬無量寿経¼ と異なる点は、 上下巻に分かれる位置や浄土に四季のないことが説かれないこと、 万種自然の伎楽について述べられないこと、 三毒五悪段が存在しないこと、 ¬無量寿経¼ の往覲偈に相当する部分が本経では往覲偈 (五言一句) と流通偈 (七言一句) とに分かれていることなどが挙げられる。 なお、 三毒五悪段は、 初期無量寿経と ¬無量寿経¼ とのみに見られ、 本経と ¬荘厳経¼、 サンスクリット本、 チベット語訳には見られない。 また、 とくに宗祖は本経に注目されており、 異訳大経の中でも本経の引用が多いことで知られる。