浄土文類聚鈔
 本書は、 ¬教行きょうぎょうしんしょう¼ (こう文類もんるい) に対して ¬りゃく文類もんるい¼ (りゃくでん) とも呼ばれる。 それは、 ¬教行信証¼ が、 仏典だけでなく他の典籍までも引用して、 教・行・信・証・しんぶつしんの六巻に分けて、 浄土真宗の教義体系を広く明かしているのに対して、 本書は、 浄土三部経とりゅうじゅさつ天親てんじん菩薩・曇鸞どんらんだい善導ぜんどう大師の四師の論釈を引くのみで、 真仏土・化身土の内容がなく、 簡略化されていることによる。 しかし内容は、 教・行・証の三法を中心にその基本的な意味を明らかにし、 また往相おうそう還相げんそうについても要点を示し、 さらに三心一心を論じて、 浄土三部経の教説は一致して本願ほんがんりきこうの信心を勧めていると述べられて、 いわば ¬教行信証¼ と同じく浄土真宗の要義が記されている。
 製作年代は明らかでなく、 とくに ¬教行信証¼ との前後関係について、 広前略後、 略前広後の両説があって、 容易に決しがたいが、 おそらく ¬教行信証¼ の推敲すいこうが重ねられるなかで、 その大綱を別な観点から構成して作られたのではないかと考えられる。
 ¬教行信証¼ が、 親鸞聖人の教えをあらわす根本聖典であることは言うまでもないが、 本書は ¬教行信証¼ の構成や内容の重点を知り、 その理解を助けるものとして極めて大きな意義を持つ聖教しょうぎょうである。