常楽寺蔵存覚上人書写本は、 一般に最も流布している系統の本である。 奥書によると、 存覚上人五十一歳、 暦応三 (1340) 年十二月二十五日にまず下巻が書写され、 五十三歳、 康永元 (1342) 年九月十一日に上巻が書写されたものであることがわかる。 また両巻共に 「建長七歳乙卯八月廿七日書之/愚禿親鸞 八十二歳」 との根本奥書を持っている。 この書写の底本となったものは、 存覚上人が巻尾に 「写本者以右御真筆所書写之本也」 と記していることから宗祖真筆の転写本であったようであるが、 「展転書写之間非無其誤歟但本失錯歟」 等と述べていることから、 すでにかなりの誤記があったと見られる。 なお、 この存覚上人書写本の上巻には、 明らかに二種の筆跡が認められるが、 これは上人が奥書に記しているように、 負傷により筆写に堪えなかったため、 他人に代筆させたものであろうといわれている。 上巻の 「二双樹林下往生」 から 「証不証対」 までがその別筆箇所である。
体裁は半葉六行、 一行十七字である。