本書の編者は、 表紙右下に 「実悟」 とあることや本文中に 「天正三年八月四日 実悟(花押)」 とあり、 また内容に他の者では記録することができない点が多いことから実悟とみられている。 本書は蓮如上人の行実やその後の歴史事項を内容とした、 比較的新しい時期に発見された言行録である。 表紙右上から 「蓮如上人塵拾鈔/信証院殿大谷殿砌事/加賀国諸末寺事/越中国寺事/本泉寺事/安芸法眼事 加賀国錯乱事/応仁乱事 願成就院殿事/本泉寺与和田蓮恵申事/八ヶ条記」 と本書の構成が示されているが、 これらの文言は、 本文中の表題と必ずしも一致するものではない。 また、 「八ヶ条記」 とはあるが、 最初の 「蓮如上人塵拾鈔」 は表題であり、 内容は七分割される。 すなわち、 第一項 「信証院殿大谷殿砌事」 は、 末尾に 「天正三年八月四日 実悟(花押)」 の奥書があり、 文言に若干の相違が見られるものの、 「蓮如上人御若年砌事」 とほぼ同文である。 ただし、 「此壹巻計、 蓮淳の尋、 龍玄御かき候書也」 との奥書は、 「御若年砌事」 の成立事情とは異なる要素を含んでいる (¬天正三年記¼ 解説参照)。 第二項 「加賀国諸末寺事」・第三項 「越中国寺事」 は、 ¬拾塵記¼ ¬反古裏書¼ と共通する内容であるが、 第二項の記事は本書が最も詳細で、 第三項の瑞泉寺・勝興寺に関する記事のうち、 前者には多少の異同がある。 第四項 「本泉寺事」 は、 ¬拾塵記¼ 等と共通する内容ながら、 本書においてはより詳細に記されている。 第五項 「安芸法眼事 加賀国錯乱事」、 第六項 「応仁乱事 願成就院殿事」 は ¬天正三年記¼ と大筋で一致するが、 細かい点に脱漏や挿入などの相違がみられる。 第七項 「本泉寺与和田蓮恵申事」 は従来見られない内容をもっており、 重要視されるところである。 また、 成立は ¬拾塵記¼ や ¬天正三年記¼ との比較から天正三 (1575) 年から同八 (1580) 年頃と考えられている。