常楽寺蔵本は、 旧表紙左上に 「銘文⊂⊃」 とあり、 本尊・影像類の銘文等を記す目的で書き始められたと考えられる。 紙数は九十八であるが、 その料紙や体裁は一様ではなく、 古い記事の書かれた紙面に、 後に関連する項目を書き足された箇所もある。
 当本は、 存覚上人の自筆本ではあるが、 現状では失逸あるいは前後が錯簡した箇所が多くあり、 本書が成立した当初の状態を保持していないと考えられている。 また、 本書の書写本としては、 龍谷大学に江戸時代とみられる書写本があり、 書写当時の原本の状態を模写しているが、 原状を伝えているわけではない。 そこで、 原状を求めるには当本に依るほかはなく、 これまでも復元が試みられてきた。
 当本の現状は、 本文が記された料紙がいくつかの束になっており、 記載された年序に従い、 存覚上人六十歳から六十七歳までと、 七十二歳から八十二歳までの箇所は確定することができる。 しかし、 それ以外は判定が困難な状態で、 これまでの研究や諸翻刻においては必ずしも一定していない。
 そこで、 本聖典では、 錯簡箇所について改めて年紀や料紙の束、 筆跡の連続性等を総合的に判断し、 おおよそ原状に復して翻刻した。