本鈔は、 覚如上人の撰述である。 覚如上人については ¬慕帰絵¼・¬最須敬重絵詞¼ を参照されたい。 本鈔は 「本願鈔」 という題号が示しているように、 第十八願の意味を解釈したものである。
 本鈔の内容は、 引用した経釈の要文に沿って、 覚如上人自身の私釈を加え、 浄土真宗の要義である一念業成・住正定聚・不来迎義・信心正因・称名報恩について簡潔に述べられている。
 まず、 冒頭より複数の文が連引される。 ¬大経¼ から本願成就文・往覲偈の 「其仏本願力……自致不退転」・流通分の弥勒付属の文・往覲偈の 「設満世界火……広済生死流」 の四文、 続いて ¬往生礼讃¼ から 「設満大千火……皆当得生彼」 「弥陀智願海……皆悉到彼国」 の二文、 合わせて計六文が引用されている。 これらの文に基づいて、 阿弥陀仏の名号を聞信する一念に往生が定まり、 摂取不捨の利益にあずかることが明かされる(一念業成)。 また、 臨終来迎と対比して現生正定聚の教えが説き示され (住正定業・不来迎義)、 源空 (法然) 聖人と宗祖との教えが経釈の文に合致したものであることが述べられている。
 次に、 ¬選択集¼ の 「当知生死之家……以信為能入」、 「正信偈」 の 「憶念弥陀仏本願……応報大悲弘誓恩」 の四句一偈が列挙される。 これらの文について、 本願を聞信し、 往生決成した後には念仏を称えて仏恩に報いるべきことが述べられている (信心正因・称名報恩)。
 最後に、 ¬教行信証¼ 「信文類」 の 「真実信心必具名号」 の文を引いてその内容を解説し、 信心と称名の関係を明らかにして、 他力回向の教えを丁寧に説示され、 全体を結んでいる。
 本鈔では、 第十八願文を引用していないが、 ¬慕帰絵¼ 第十巻第一段によると、 「或は ¬最要鈔¼ とて小帖あり、 先年法印風痾に侵しとき目良寂円房道源 関東駿河法印栄海舎兄、 訪来れりし次に臥ながらしめしゝ法語を口筆す。 第十八の願意を釈する文なり。 ……又 ¬本願鈔¼ と名て自筆を染るは、 名字各別なれども、 義理大旨さきの ¬最要¼ に同じき物歟」 とあり、 第十八願の願意を解釈した ¬最要鈔¼ と同様の意図から撰述されたものであると言われている。 そのことからも第十八願の意趣を端的に述べられたものであることが知られる。
 本鈔の撰述年時については、 常楽寺蔵本の奥書に、 「本云 建武第四歳 丁丑 八月一日抄之」 とあることから、 建武四 (1337) 年八月一日、 覚如上人六十八歳のときに書かれたものと考えられる。 ¬浄典目録¼ には、 覚如上人の著作として ¬報恩講私記¼ や ¬口伝鈔¼ とともにその名が列挙され、 制作の由来については ¬最須敬重絵詞¼ 第七巻第二十六段に、 「たまたま津を問たてまつる者には西方の通津をしめし給とき、 後日の廃忘をたすけんとてしるし給べきよし申請ける輩には、 一紙のうち片時の程などに、 いと思案にもおよばず、 たゞ率爾に筆をそめらるゝ事、 著述あまたあり。 後にその名を題せられて ¬執持鈔¼・¬願々鈔¼・¬最要鈔¼・¬本願鈔¼ など号せらる。 これみな所被の輩のつたなきをさきとして、 漢字の筆体のまよひやすきをさしをき、 所望の族のをろかなるを本として、 和字の制作のこゝろえやすきをもちゐらるゝ所なり」 と、 ¬執持鈔¼・¬願願鈔¼・¬最要鈔¼ と並べて、 西方浄土へ往生する正しい因を示し、 理解しやすいように和文をもって制作された著作のうちの一つであることが記されている。