大谷大学蔵本は恵空による書写本であり、 ¬一念多念分別事¼ と合綴されている。 表紙に付された題箋には 「二部 一念多念分別/自力他力分別」 とあり、 本書を 「自力他力分別」 としているが、 内題には 「自力他力事 長楽寺隆寛律師作」 とある。
体裁は半葉六行、 一行十八字内外であり、 本文中の漢字には全て右仮名が付されている。
また、 奥書からは大谷大学蔵本の転写の過程が次のように知られる。 奥書にはまず始めに 「寛元四歳 丙午 三月十五日書之/愚禿釈親鸞 七十四歳」 との書写奥書があることから、 寛元四 (1246) 年の宗祖書写本の存在が知られる。 次いで 「本云/文保二歳 戊午 十一月廿六日奉書写之/本者御自筆也 宗昭 四十九歳」 との書写奥書があり、 宗昭とは第三代覚如上人の諱で、 文保二 (1318) 年に覚如上人によって宗祖真筆本から書写されたことが分かる。 さらに、 「貞享四年 丁卯 五月三日以河州古橋/願得寺之本書写之 西福寺恵空」 との書写奥書があることから、 大谷大学蔵本は貞享四 (1687) 年、 願得寺にあった書写本を恵空が書写したものであることが知られ、 かつて願得寺に古写本があったことが窺われる。 これについては、 願得寺実悟が永正十七 (1520) 年に著した ¬聖教目録聞書¼ に 「自力他力分別事一巻」 との名は見えるものの、 これが奥書に見える古写本を指しているかは明らかではない。 また、 ¬下野流高田聖教目録¼ には、 宗祖真筆本が高田派専修寺にあったとされる。