文明本は、 ¬正像末和讃¼ 奥書に 「右斯三帖和讃 正信偈四帖一部者末代為興際板木開之者也而已 文明五年癸巳三月 日 (蓮如花押)」 と四帖一部にして開版したものであり、 これが本願寺から聖教が出版された最初である。 この本は大阪府顕証寺蔵御草稿和讃や、 あるいはそこから展開した本が伝承されたものを底本としており、 福井県吉崎において開版されたと考えられていたが、 明確なことは今も分かっていない。 しかし ¬正像末和讃¼ に 「親鸞八十八歳御筆」 とあることから、 宗祖の著述等の最後の年である文応元 (1260) 年、 すなわち宗祖示寂の前々年まで修訂が加えられたものと考えられ、 内容が最も豊富に整備されたものとなっている。
 文明本の特徴としては、 国宝本や顕智本に比して、 和讃の順序を示す首番号がないことや左訓が著しく少ないこと、 軸が改変されていること等が挙げられる。 この内、 左訓については対校本である存如上人書写本に 「コノ和讃ヲバヒクベカラズ」 「コノ和讃モヒクベカラズ」 等とあることから、 諷誦を第一に考え省略されたものと考えられる。
 構成について、 ¬浄土和讃¼ では、 国宝本にある ¬称讃浄土経¼ や ¬首楞厳経¼ の文はないが、 「現世利益和讃」 「勢至讃」 の順序をとる点は国宝本に等しい。 また冠頭に置かれた二種の和讃は、 国宝本では ¬正像末和讃¼ に含まれ、 顕智本では巻首の別和讃一首と 「大経讃」 の中の一首とがこれに当たる。
 ¬高僧和讃¼ は、 構成は国宝本に等しいが、 「法治」 の奥書は消え、 代わりに七高僧と聖徳太子の列名とその前後に二首の和讃が置かれている。 この二首の和讃は顕智本にある ¬浄土和讃¼ 巻尾の別和讃である。
 ¬正像末和讃¼ は、 顕智本にある ¬般舟讃¼ の文はない。 また 「夢告讃」 から始まる構成は顕智本に等しいが、 和讃に増加が見られる他、 新たに 「聖徳奉讃」 「善光寺和讃」 「自然法爾章」 と二首の和讃が加わっている。