この ¬選択集¼ の諸本について、 古来より二本説と四本説がある。
 二本説は、 源智や良忠が述べているもので、 略本は兼実高欄の本で、 広本は執筆にあたった門弟が初学者のために名目を加えたものであるという。 また長西の新旧二本説は、 旧本は標宗の文が 「念仏為先」 であり、 新本は 「念仏為本」 となっていると記すが、 これをまとめると旧本は略本で、 新本は広本にあたると考えられる。 現在ではこの略本から広本へという順ではなく、 「三部経釈」 を選略した草稿本の広本があって、 これを整備したのが略本であるとし、 盧山寺本から往生院本建暦本となっていったとするのである。 この広本は 「念仏為本」 であったと思われる。
 次に四本説とは、 義山が元禄版の跋文に述べているもので、 稿本・冊本、 正本、 広本の四本をいう。 稿本は盧山寺本、 もしくはそれに先行する草稿本にあたり、 冊本は兼実所覧本で往生院本延応元年刊本に連なるもの、 正本とは建暦本、 広本は存覚相伝本の真名原本が相当すると考えられる。