本書の 「憲法」 という語は、 現在用いられているような法制上の用語ではなく、 本書は聖徳太子の政治理念・政治哲学が表明されたものである。 その内容は、 例えば 「和らかなるをもつて貴しとなし」 (第一条)、 「篤く三宝を敬ふ。 三宝は仏・法・僧なり」 (第二条)、 「われかならず聖なるにあらず、 かれかならず愚かなるにあらず、 ともにこれ凡夫ならくのみ」 (第十条) など、 仏教理念を根本としたものである。 特に第十条は、 ¬歎異抄¼ (後序) の 「聖人の仰せには、 善悪のふたつ、 総じてもつて存知せざるなり」 というものへの影響も考えられよう。
親鸞聖人は太子を観音菩薩の化身と崇められ、 ¬正像末和讃¼ のなかに 「皇太子聖徳奉讃」 十一首、 その他 ¬皇太子聖徳奉讃¼ 七十五首、 ¬大日本国粟散王聖徳太子奉讃¼ 百十四首を製作されている。 また、 ¬尊号真像銘文¼ には 「皇太子聖徳御銘文」 を挙げておられ、 門弟たちに太子の真像の讃銘を書き与えられたことが知られ、 聖人の太子に対する讃仰の念の深さをうかがうことができる。