本書は親鸞聖人が、 同じ法然上人門下の隆寛律師が著された ¬一念多念分別事¼ に引証された経釈の要文、 および関連する諸文を、 一念・多念の問題に関する証文としてあげ、 それに註釈を施されたものである。 本書の親鸞聖人真筆本の表紙には 「一念多念文意」 と題されており、 ¬一念多念文意¼ 、 ¬一多文意¼ とも称され、 また ¬一多証文¼、 ¬証文¼ とも称される。
全体を二段にわけ、 前段を 「一念をひがごととおもふまじき事」 として、 一念に関する要文を十三文引証し、 また後段は 「多念をひがごととおもふまじき事」 として、 多念に関する要文を八文引証されている。 そして専修念仏は一念・多念のいずれも偏執しない念仏往生の義であることを明らかにされている。
法然上人門下におこった一念・多念の諍論に対して、 一念や多念に偏執してはならないことを諭されたのが隆寛律師の ¬一念多念分別事¼ であり、 その意をうけて成ったのが本書であるが、 前段に引かれる十三文の証文のうち、 ¬一念多念分別事¼ からの引文はわずかに三文であり、 また、 後段では八文のうちの五文ほどが同書からの引文であることなどからも、 本書が単なる ¬一念多念分別事¼ の註釈書ではないことが知られるのである。