本書は、 法然上人の門弟である隆寛律師の著作といわれている。
法然上人在世の頃より、 その門下の間において、 往生の行業について、 いわゆる一念・多念の異説が生じ、 その諍論は上人滅後にも及んだ。 その諍論とは、 往生は一念の信心あるいは一声の称名によって決定するから、 その後の称名は不必要であると偏執する一念義の主張と、 往生は臨終のときまで決定しないから、 一生涯をかけて称名にはげまねばならないと偏執する多念義の主張との諍論である。
本書にはこの諍論に対して、 一念に偏執したり多念に偏執したりしてはならないということを、 経釈の要文を引証して教え諭すものである。
親鸞聖人は、 本書をもととして ¬一念多念証文¼ (¬一念多念文意¼) を著され、 さらに本書の意義を明らかにされた。