◗◗17: 2 法然上人御消息
◗◗17: 4 御文よろこびてうけたまはり候ぬ。まことにそのゝちおぼつかなく候つるに、うれしくおほせられて候。たんねんぶつのもん、かきてまいらせ候、ごらん候べし。
◗◗17: 6 念仏の行は、かの仏の本願の行にて候。持戒・誦経・誦呪・理観等の行は、かの仏の本願にあらぬをこなひにて候へば、極らくをねがはむ人は、まづかならず本願の念仏の行をつとめてのうへに、もし⊂⊃おこなひをも⊂⊃しくはへ候はむとおもひ候はゞ、さもつかまつり候。
◗◗17: 9 又たゞ本願の念仏ばかりにても候べし。念仏をつかまつり候はで、たゞことおこなひばかりをして極楽をねがひ候人は、極楽へもえむまれ候はぬことにて候よし、善導和尚のおほせられて候へば、たん念仏が決定往生の業にては候也。善導和尚は阿弥陀化身にておはしまし候へば、それこそは一定にて候へと申候に候。
◗◗17:13 又女犯と候は、不婬戒のことにこそ候なれ。又御きうだちどものかんだうと候は、不瞋戒のことにこそ候なれ。されば持戒の行は、仏の本願にあらぬ行なれば、たへたらんにしたがひて、たもたせたまふべく候。けうやうの行も仏の本願にあらず、たへんにしたがひて、つとめさせおはしますべく候。又あかゞねの阿字のことも、おなじことに候。
◗◗18: 3 又さくぢやうのことも、仏の本願にあらぬつとめにて候。とてもかくても候なん。又かうせうのまんだらは、たいせちにおはしまし候。それもつぎのことに候。たゞ念仏を三万、もしは五万、もしは六万、一心にまうさせおはしまし候はむぞ、決定往生のおこなひにては候。こと善根は、念仏のいとまあらばのことに候。
◗◗18: 7 六万べんをだに一心に申せたまはゞ、そのほかにはなにごとおかはせさせおはしますべき。まめやかに一心に、三万・五万、念仏をつとめさせたまはゞ、せうせう戒行やぶれさせおはしまし候とも、往生はそれにはより候まじきことに候。
◗◗18:10 たゞしこのなかにけうやうの行は、仏の本願にては候はねども、八十九にておはしまし候なり。あひかまへてことしなんどをば、まちまいらせさせおはしませかしとおぼえ候。あなかしこ、あなかしこ。
◗◗18:12 ことごとは、いかでもおはしまし候はむに、くるしく候はず。たゞひとりたのみまいらせておはしまし候なるに、かならずかならず、まちまいらせさせおはしますべく候。謹言。
◗◗18:15 五月二日 源空 拝
◗◗19: 1 武蔵国熊谷入道殿御返事