1005: 8 しやう如ばうの御事こそ、返々あさましく候へ。そのゝちは、こゝろならずうときやうになりまいらせ候て、念仏の御信もいかゞと、ゆかしくはおもひまいらせ候つれども、さしたる事候はず。
1005:10 また申べきたよりも候はぬやうにて、おもひながら、なにとなくて、むなしくまかりすぎ候つるに、たゞれいならぬ御事大事になどばかりうけたまはり候はむ。
1005:12 いま一どはみまいらせたく、おはりまでの御念仏の事も、おぼつかなくこそおもひまいらせ候べきに、まして御こゝろにかけて、つねに御たづね候らむこそ、まことにあはれにもこゝろぐるしくも、おもひまいらせ候へ。
1005:15 さうなくうけたまはり候まゝに、まいり候てみまいらせたく候へども、おもひきりてしばしいでありき候はで、念仏申候ばやとおもひはじめたる事の候を、やうにこそよる事にて候へ。
1006: 2 これおば退してもまいるべきにて候にまたおもひ候へば、せむじては、このよの見参はとてもかくても候なむ。かばねをしよするまどひにもなり候ぬべし。たれとてもとまりはつべきみちも候はず、われも人もたゞおくれさきだつかはりめばかりにてこそ候へ。
1006: 5 そのたえまをおもひ候も、またいつまでかとさだめなきうえに、たとひひさしと申とも、ゆめまぼろしいくほどかは候べきなれば、たゞかまへておなじ仏のくににまいりあひて、はちすのうえにてこのよのいぶせさおもはるけ、ともに過去の因縁おもかたり、たがひに未来の化道おもたすけむことこそ、返々も詮にて候べきと、はじめより申おき候しが、
1006:10 返々も本願をとりつめまいらせて、一念もうたがふ御こゝろなく、一こゑも南无阿弥陀仏と申せば、わがみはたとひいかにつみふかくとも、仏の願力によりて一定往生するぞとおぼしめして、よくよくひとすぢに御念仏の候べきなり。
1006:13 われらが往生はゆめゆめわがみのよきあしきにはより候まじ。ひとへに仏の御ちからばかりにて候べきなり。
1006:14 わがちからばかりにてはいかにめでたくたうとき人と申とも、末法のこのごろ、たゞちに浄土にむまるゝほどの事はありがたくぞ候べき。
1007: 1 また仏の御ちからにて候はむに、いかにつみふかくおろかにつたなきみなりとも、それにはより候まじ。たゞ仏の願力を信じ信ぜぬにぞより候べき。
1007: 3 されば観无量寿経にとかれて候。むまれてよりこのかた、念仏一遍も申さず、それならぬ善根もつやつやとなくて、あさゆふものをころしぬすみし、かくのごときのもろもろのつみをのみつくりて、とし月をゆけども、一念も懺悔のこゝろもなくて、あかしくらしたるものゝ、
1007: 6 おはりの時に善知識のすゝむるにあひて、たゞひとこゑ南无阿弥陀仏と申たるによりて、五十億劫のあひだ生死にめぐるべきつみを滅して、化仏・菩薩三尊の来迎にあづかりて、汝仏のみなをとなふるがゆへにつみ滅せり、われきたりてなむぢをむかふとほめられまいらせて、すなわちかのくにに往生すと候。
1007:10 また五逆罪と申候て、現身にちゝをころし、はゝをころし、悪心をもて仏をころしめ、諸僧を破し、かくのごとくおもきつみをつくり、一念懺悔のこゝろもなからむ、そのつみによりて无間地獄におちて、おほくの劫をおくりて苦をうくべからむものゝ、おわりの時に、善知識のすゝめによりて、南无阿弥陀仏と十声となふるに、一こゑごとにおのおの八十億劫のあひだ生死にめぐるべきつみを滅して、往生すととかれて候めれ。
1007:15 さほどの罪人だにも十声・一声の念仏にて往生はし候へば、まことに仏の本願のちからならでは、いかでかさること候べきとおぼへ候て、本願むなしからずといふことは、これにても信じつべくこそ候へ。
1008: 3 これまさしき仏説にて候。仏ののたまふみことばは、一言もあやまたずと申候へば、たゞあふぎて信ずべきにて候。
1008: 4 これをうたがはば、仏の御そらごとゝ申にもなりぬべく、かへりてはまたそのつみ候ぬべしとこそおぼえ候へ。ふかく信ぜさせたまふべく候。
1008: 6 さて往生はせさせおはしますまじきやうにのみ申きかせまいらする人々の候らむこそ、返々あさましくこゝろぐるしく候へ。
1008: 8 いかなる智者めでたき人とおほせらるとも、それになほおどろかされおはしまし候ぞ。おのおののみちにはめでたくたうとき人なりとも、さとりあらず行ことなる人の申候ことは、往生浄土のためは、中々ゆゝしき退縁・悪知識とも申候ぬべき事どもにて候。
1008:11 たゞ凡夫のはからひおばきゝいれさせおはしまさで、ひとすぢに仏の御ちかひをたのみまいらせさせたまふべく候。
1008:13 さとりことなる人の往生いひさまたげむによりて、一念もうたがふこころあるべからずといふことわりは、善導和尚のよくよくこまかにおほせられおきたることにて候也。
1008:15 たとひおほくの仏、そらの中にみちみちて、ひかりをはなち御したをのべて、悪をつくりたる凡夫なりとも、一念してかならず往生すといふことはひが事ぞ、信ずべからずとのたまふとも、それによりて一念もうたがふこゝろあるべからず。
1009: 3 そのゆへは、阿弥陀仏のいまだ仏になりたまはざりしむかし、はじめて道心をおこしたまひし時、われ仏になりたらむに、わが名号をとなふること十声・一声までせむもの、わがくにゝむまれずは、われ仏にならじとちかひたまひたりしその願むなしからず、すでに仏になりたまへり。
1009: 6 また釈迦仏、この娑婆世界にいでゝ、一切衆生のために、かの本願をとき、念仏往生をすゝめたまへり。
1009: 8 また六方恒沙の諸仏、この念仏して一定往生すと釈迦仏のときたまへるは決定なり、もろもろの衆生一念もうたがふべからず。ことごとく一仏ものこらず、あらゆる諸仏みなことごとく証誠したまへり。
1009:10 すでに阿弥陀仏は願にたて、釈迦仏その願をとき、六方の諸仏その説を証誠したまへるうえに、このほかにはなに仏の、またこれらの諸仏にたがひて、凡夫往生せずとはのたまふべきぞといふことわりをもて、仏現じてのたまふとも、それにおどろきて信心をやぶりうたがふこゝろあるべからず。
1009:14 いはむや菩薩達ののたまはむおや、上辟支仏おやと、こまごまと善導釈したまひて候也。
1009:15 ましてこのごろの凡夫のいかにも申候はむによりて、げにいかゞあらむずらむなど、不定におぼしめす御こゝろ、ゆめゆめあるまじく候。よにめでたき人と申とも、善導和尚にまさりて往生のみちをしりたらむこともかたく候。
1010: 3 善導また凡夫にはあらず、阿弥陀仏の化身なり。阿弥陀仏のわが本願ひろく衆生に往生せさせむれうに、かりに人にむまれて善導とは申候なり。そのおしへ申せば仏説にてこそ候へ。
1010: 5 あなかしこ、あなかしこ。うたがひおぼしめすまじく候。
1010: 6 またはじめより仏の本願に信をおこさせおはしまして候し御こゝろのほど、みまいらせ候しに、なにしにかは往生はうたがひおぼしめし候べき。経にとかれて候ごとく、いまだ往生のみちもしらぬ人にとりてのことに候。
1010: 9 もとよりよくよくきこしめししたゝめて、そのうへ御念仏功つもりたることにて候はむには、かならずまた臨終の善知識にあはせおはしまさずとも、往生は一定せさせおはしますべきことにてこそ候へ。
1010:11 中々あらぬすぢなる人は、あしく候なむ。たゞいかならむ人にても、あま女房なりとも、つねに御まへに候はむ人に、念仏まうさせて、きかせおはしまして、御こゝろひとつをつよくおぼしめして、たゞ中々一向に、凡夫の善知識をおぼしめしすてゝ、仏を善知識にたのみまいらせさせたまふべく候。
1010:15 もとより仏の来迎は、臨終正念のためにて候也。それを人の、みなわが臨終正念にして念仏申たるに、仏はむかへたまふとのみこゝろえて候は、仏の願を信ぜず、経の文を信ぜぬにて候也。称讃浄土経の文を信ぜぬにて候也。
1011: 3 称讃浄土経には慈悲をもてくわへたすけて、こゝろをしてみだらしめたまはずととかれて候也。
1011: 4 たゞのときによくよく申おきたる念仏によりて、仏は来迎したまふときに、正念には住すと申べきにて候也。
1011: 6 たれも仏をたのむこゝろははすくなくして、よしなき凡夫の善知識をたのみて、さきの念仏おばむなしくおもひなして、臨終正念をのみいのることどもにてのみ候が、ゆゝしきひがゐむのことにて候也。
1011: 8 これをよくよく御こゝろえて、つねに御めをふさぎ、たなごゝろをあはせて、御こゝろをしづめておぼしめすべく候。
1011: 9 ねがわくは阿弥陀仏の本願あやまたず、臨終の時かならずわがまへに現じて、慈悲をくわえたすけて、正念に住せしめたまへと、御こゝろにもおぼしめして、くちにも念仏申させたまふべく候。これにすぎたる事候まじ。こゝろよわくおぼしめすことの、ゆめゆめ候まじきなり。
1011:13 かやうに念仏をかきこもりて申候はむなどおもひ候も、ひとへにわがみ一のためとのみは、もとよりおもひ候はず。
1011:14 おりしもこの御ことをかくうけたまはり候ぬれば、いまよりは一念ものこさす、ことごとくその往生の御たすけになさむと廻向しまいらせ候はむずれば、かまへてかまへておぼしめすさまにとげさせまいらせ候はゞやとこそは、ふかく念じまいらせ候へ。
1012: 3 もしこのこゝろざしまことならば、いかでか御たすけにもならで候べき、たのみおぼしめさるべきにて候。
1012: 4 おほかたは申いで候しひとことばに御こゝろをとゞめさせおはしますことも、このよひとつのことにては候はじと、さきのよもゆかしくあはれにこそおもひしらるゝことにて候へば、うけたまはり候ごとく、このたびまことにさきだゝせおはしますにても、またおもはずにさきだちまいらせ候事になるさだめなさにて候とも、ついに一仏浄土にまいりあひまいらせ候はむことは、うたがひなくおぼえ候。
1012: 9 ゆめまぼろしのこのよにて、いま一どなどおもひ申候事は、とてもかくても候なむ。これおばひとすぢにおぼしめしすてゝ、いよいよもふかくねがふ御こゝろおもまし、御念仏おもはげませおはしまして、かしこにてまたむとおぼしめすべく候。
1012:12 返々もなほなほ往生をうたがふ御こゝろ候まじきなり。五逆・十悪のおもきつみつくりたる悪人、なを十声・一声の念仏によりて、往生をし候はむに、ましてつみつくらせおはします御事は、なにごとにかは候べき。たとひ候べきにても、いくほどのことかは候べき。この経にとかれて候罪人には、いひくらぶべくやは候。
1013: 1 それにまづこゝろをおこし、出家をとげさせおはしまして、めでたきみのりにも縁をむすび、ときにしたがひ日にそえて、善根のみこそはつもらせおはしますことにて候はめ。
1013: 3 そのうへふかく決定往生の法文を信じて、一向専修の念仏にいりて、ひとすぢに弥陀の本願をたのみて、ひさしくならせおはしまして候。なに事にかは、ひとことも往生をうたがひおぼしめし候べき。
1013: 6 専修の人は百人は百人ながら、十人は十人ながら往生すと善導のたまひて候へば、ひとりそのかずにもれさせおはしますべきかはとこそはおぼえ候へ。善導おもかこち、仏の本願おもせめまいらせさせたまふべく候。こゝろよはくは、ゆめゆめおぼしめすまじく候。
1013: 9 あなかしこ、あなかしこ。
1013:11 ことわりをや申ひらき候とおもひ候ほどに、よくおほくなり候ぬる。さやうのおりふし、こちなくやとおぼえ候へども、もしさすがのびたる御ことにてもまた候らむ。えしり候はねば、このたび申候はでは、いつおかはまち候べき。
1013:13 もしのどかにきかせおはしまして、一念も御こゝろをすゝむるたよりにやなり候と、おもひ候ばかりに、とゞめえ候はで、これほどもこまかになり候ぬ。
1013:15 機嫌をしり候はぬは、はからひがたくてわびしくこそ候へ。もしむげによはくならせおはしましたる御事にて候はゞ、これはことながく候べきなり。要をとりてつたえまいらせさせおはしますべく候。
1014: 3 うけたまはり候ままに、なにとなくあはれにおぼえ候て、おしかへしまた申候也。