©967: 2 和尚の御釈によるに、決定往生の行相に、三機のすぢわかれたるべし。第一に信心決定せる、第二に信行ともにかねたる、第三にたゞ行相ばかりなるべし。
©967: 4 第一に信心決定せる機といふは、これにつきて又二機あり。
©967: 4 一にはまづ精進の機といふ者、又これについて二機あり。
©967: 5 一には弥陀の本願を縁ずるに、一声に決定しぬと、こゝろのそこより真実に、うらうらと一念も疑心なくして、決定心をえてのうへに一声に不足なしとおもへども、仏恩を報ぜむとおもひて、精進に念仏のせらるゝなり。また信えての上には、はげまざるに念仏はまふさるべき也。
©967: 9 この行者の中には、信心えたりとおもふて、その上によろこぶ念仏とおもへども、いまだ信心決定せぬ人もあるべし。それおばわがこゝろに勘しられぬべき事也。たとひ信心はとづかずとも、念仏ひまなきかたより往生はすべし。
©967:12 二には上にいふがごとく、決定心をえての上に本願によて往生すべき道理おばあおいでのち、わがかたよりわが信心をさしゆるがして、かく信心をえたりとおもひしらず、われ凡夫なり、仏の知見のまへにはとづかずもあるらむと、こゝろかしこくおもふて、なほ信心を決定せむがために念仏をはげむなり。
©967:15 決定心をえふせての上にわがこゝろをうたがふは、またく疑心とはなるべからざる也。
©968: 2 精進の二類の機、かくのごとし。これおば第二の信行ならべる行相の機としるべし。
©968: 4 次に懈怠の機といふは、決定心をえての上によろこびて、仏恩を報ぜむがために常念仏せむとおもへども、あるいは世業衆務にもさえられ、また地体懈怠のものなるがゆへに、おほかた念仏のせられぬ也。この行者は一向信心をはげむべき也。
©968: 7 はげむ機につきて、また精進・懈怠のものあるべし。
©968: 7 精進といふは、常本願の縁ぜらるべき也。縁ずれば、また自然にいさぎよき念仏も申さるべし。この念仏は最上の念仏也。
©968: 9 これをあしくこゝろえて、この念仏の最上におぼゆれば、この念仏ぞ往生おもし、また願にも乗ずらむとおもはむはわるし。そのゆへは、仏の御約束、一声もわが名をとなえむものをむかえむといふ御ちかひにてあれば、最初の一念こそ願には乗ずることにてあるべけれ。また常に本願の縁ぜらるれば、たのもしきこゝろもいでくべき也。その時このこゝろのよく相続のせらるればとて、それをもて往生すべしとおもふべからず。
©968:14 かくのごとくおもはゞ、疑惑になるべきなり。
©968:15 こゝろのゆがむときは、往生の不定におぼゆべきがゆへに、たゞおもふべきやうは、我かたより一分の功徳もなく、本願の御約束にそなえしところの念仏の功徳も瞋恚のほむらにやけぬれども、かの願力の不取正覚の本誓のあやまりなきかたよりすくわれまいらせて往生はすべしと、返々もおもふべき也。
©969: 4 懈怠のものといふは、衆務にさまたげられもせよ、本願を縁ずる事のまれにあるべきなり。まれにはありといふとも、いさゝかも一念にとるところの信心のゆるがずして、その時は又決定心のおこるべきなり。
©969: 6 信心決定の中の二類の機、かくのごとし。これは第一の信心決定せる機としるべし。
©969: 8 今上にあぐるところの四人、真実に決定心をだにもえたらば、精進にてもあれ懈怠の機にてもあれ、本願を縁ずるこゝろねは、たとへば黒雲のひまより、まれにてもつねにても、いでむところの満月の光をみむがごとくなるべし。信心の得不得をば、おのおのわがこゝろにてしりぬべし。事にふれて一念にとるところの信心ゆるがずは、仮令よき信心としるべし。
©969:12 これもことわりばかりにて信心あり、こゝろゆるぐべからずと、まじなひつけむ事は要あるべからず。散心につけても、いさゝかにてもゆるぐこゝろあらば、信心よはしとしるべし。
©969:14 信心よはしとおぼえば、懈怠の機はなほ信をはげむで本願を縁ずべき也。それになほかなはずは、かまへて行相におもむきてはげむべきなり。
©970: 1 精進の機は、一向恒所造の行相におもむきてはげむべきなり。行相は正助二行を、一向正行にてもまた助業をならべむとも、おのおの意楽にまかすべきなり。
©970: 4 第三に行相をはげむ機といふは、上にあぐるところの信精進懈怠の機の、我信心決定せるやうを、こゝろによくよくあむじほどく時、我信心決定せず。やゝもすれば行業のおこるにつけ、信心の間断するにつけて、往生の不定におぼゆるまではなけれども、また決定往生すべしともおぼえぬは、信心の決定せざるなりと勘えて、一向行におもむきてはげむをいふなり。
©970: 8 この機は懈怠のいでき、念仏のものうからむ時は、おどろきて行をはげむべきなり。信心もよはく念仏もおろそかならば、往生不定のものなり。この人またあしくこゝろえて行をはげむは、この行業をもて往生すべしとおもはゞ疑惑になるべきなり。
©970:11 今念仏の行をはげむこゝろは、つねに念仏あざやかに申せば、念仏よりして信心のひかれていでくる也。信心いできぬれば、本願を縁ずる也。本願を縁ずれば、たのもしきこゝろのいでくる也。このこゝろいできぬれば、信心の守護せられて決定往生をとぐべしとこゝろうべし。
©971: 1 これにつきて、人うたがひていはく、念仏をはげみて信心を守護して往生をとぐべきならば、はげむところの念仏は自力往生とこそなるべけれ。いかゞ他力往生といふべきや。今自力といふは、聖道自力にすべからず、いさゝかあたえていえるなるべし。
©971: 4 答いはく、念仏を相続して、相続より往生をするは、またく自力往生にはあらず。そのゆへは、もとより三心は本願にあらず、これ自力なり。三心は自力なりといふは、本願のつなにおびかれて、信心の手をのべてとりつぐ分をさすなりとこゝろうべし。
©971: 7 今念仏を相続して信心を守護せむとするに、三心の中の深心をはげむ行者也。相続の念仏の功徳をもちて、廻向して往生を期せば、まことに自力往生をのぞむものといはるべきなり。
©971: 9 また念仏はすれども、常に信心もおこらず、願を縁ずる事のつねにもなければとて、往生を不定におもふべからず。そのこゝろなけれども、たゞ自力を存ぜず、すべて疑惑のこゝろなくして常に念仏すれば、我こゝろにはおぼえねども、信心のいろのしたひかりて相続するあひだ、決定往生をうるなり。
©971:13 しるべし、そのこゝろは、たとへば月のひかりのうすぐもにおほはれて、満月の体はまさしくみえずといゑども、月のひかりによるがゆへに、世間くらからざるがごとし。
©972: 1 行相の三機のやう、かくのごとし。詮ずるところ、信心よはしとおもはゞ、念仏をはげむべし。決定心えたりとおもふての上になほこゝろかしこからむ人は、よくよく念仏すべし。
©972: 3 また信心いさぎよくえたりとおもひてのちの念仏おば、別進奉公とおもはむにつけても、別進奉公はよくすべき道理あれば、念仏をはげむべし。地体は我こゝろをよくよく按じほどいて、行にても信にても、機にしたがひてたえむにまかせてはげむべき也。
©972: 6 かくのごとくこゝろをえてはげまば、往生は決定はづるべからざる也。