1041: 6 九条殿北政所御返事。
1041: 7 かしこまりて申上候。さては御念仏申させおはしまし候なるこそ、よにうれしく候へ。
1041: 8 まことに往生の行は、念仏がめでたきことにて候也。そのゆへは、念仏は弥陀の本願の行なればなり。余の行は、それ真言・止観のたかき行法なりといゑども、弥陀の本願にあらず。
1041:10 また念仏は、釈迦の付属の行なり。余行は、まことに定散両門のめでたき行なりといゑども、釈尊これを付嘱したまはず。
1041:11 また念仏は、六方の諸仏の証誠の行也。余の行は、たとひ顕密事理のやむごとなき行也と申せども、諸仏これを証誠したまはず。
1041:13 このゆへに、やうやうの行おほく候へども、往生のみちにはひとえに念仏すぐれたることにて候也。
1041:14 しかるに往生のみちにうとき人の申やうは、余の真言・止観の行にたへざる人の、やすきままのつとめにてこそ念仏はあれと申は、きわめたるひがごとに候。
1042: 1 そのゆへは、弥陀の本願にあらざる余行をきらひすてゝ、また釈尊の付属にあらざる行おばえらびとゞめ、また諸仏の証誠にあらざる行おばやめおさめて、いまはたゞ弥陀の本願にまかせ、釈尊の付属により、諸仏の証誠にしたがひて、おろかなるわたくしのはからひをやめて、これらのゆへ、つよき念仏の行をつとめて、往生おばいのるべしと申にて候也。
1042: 6 これは恵心の僧都の往生要集に、往生の業、念仏を本とすと申たる、このこゝろ也。いまはたゞ余行をとゞめて、一向に念仏にならせたまふべし。
1042: 8 念仏にとりても、一向専修の念仏也。そのむね三昧発得の善導の観経の疏にみえたり。
1042: 9 また双巻経に、一向専念无量寿仏といへり。一向の言は、二向・三向に対して、ひとへに余の行をえらびて、きらひのぞくこゝろなり。
1042:11 御いのりのれうにも、念仏がめでたく候。往生要集にも、余行の中に念仏すぐれたるよしみえたり。
1042:12 また伝教大師の七難消滅の法にも、念仏をつとむべしとみえて候。おほよそ十方の諸仏、三界の天衆、妄語したまはぬ行にて候へば、現世・後生の御つとめ、なに事かこれにすぎ候べきや。
1042:14 いまたゞ一向専修の但念仏者にならせおはしますべく候。