©929: 4 法然聖人御夢想記 善導御事
©929: 5 或夜夢にみらく、一の大山あり、その峯きわめて高、南北ながくとおし、西方にむかへり。山の根に大河あり、傍の山より出たり、北に流たり。南の河原眇眇としてその辺際をしらず、林樹滋滋としてそのかぎりをしらず。
©929: 7 こゝに源空、たちまちに山腹に登てはるかに西方をみれば、地より已上五十尺ばかり上に昇て、空中にひとむらの紫雲あり。以為、何所に往生人のあるぞ哉。こゝに紫雲とびきたりて、わがところにいたる。
©929:10 希有のおもひをなすところに、すなわち紫雲の中より孔雀・鸚鵡等の衆鳥とびいでゝ、河原に遊戯す、沙をほり浜に戯。これらの鳥をみれば、凡鳥にあらず、身より光をはなちて、照曜きはまりなし。そののちとび昇て、本のごとく紫雲の中に入了。
©929:13 こゝにこの紫雲、このところに住せず、このところをすぎて北にむかふて、山河にかくれ了。また以為、山の東に往生人のあるに哉。かくのごとく思惟するあひだ、須臾にかへりきたりてわがまへに住す。
©930: 1 この紫雲の中より、くろくそめたる衣著僧一人とびくだりて、わがたちたるところの下に住立す。われすなわち恭敬のためにあゆみおりて、僧の足のしもにたちたり。この僧を瞻仰すれば、身上半は肉身、すなわち僧形也。身よりしも半は金色なり、仏身のごとく也。
©930: 4 こゝに源空、合掌低頭して問てまふさく、これ誰人の来たまふぞ哉と。答曰、われはこれ善導也と。
©930: 5 また問てまふさく、なにのゆへに来たまふぞ哉。また答曰、餘不肖なりといゑども、よく専修念仏のことを言。はなはだもて貴とす。ためのゆへにもて来也。
©930: 7 また問言、専修念仏の人、みなもて為往生哉。いまだその答をうけたまはらざるあひだに、忽然として夢覚了。