1425◎横川法語
◎まづ三悪道をはなれて人間に生るること、 おほきなるよろこびなり。 身はいやしくとも畜生におとらんや。 家はまづしくとも餓鬼にまさるべし。 心におもふことかなはずとも地獄の苦に*くらぶべからず。 世の住み憂きは*いとふたよりなり。 このゆゑに人間に生れたることをよろこぶべし。
信心あさけれども本願ふかきゆゑに、 *たのめばかならず往生す。 念仏*ものうけれども、 となふればさだめて*来迎にあづかる。 功徳莫大なるゆゑに、 本願にあふことをよろこぶべし。
またいはく、 妄念はもとより凡夫の*地体なり。 妄念のほかに別に心はなきなり。 臨終の時までは一向妄念の凡夫にてあるべきぞとこころえて念仏すれば、 来迎にあづかりて*蓮台に乗ずるときこそ、 妄念をひるがへしてさとりの心とはなれ。 妄念のうちより申しいだしたる念仏は、 濁りに染まぬ*蓮のごとくにて、 決定往生疑あるべからず。
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底本は¬真宗法要拾遺¼巻一(出拠未詳)。
くらぶべからず くらべものにならない。
いとふたより 世を厭うよい機縁。
ものうけれども 大儀で気が進まないけれども。
来迎にあづかる 臨終の時仏のお迎えをいただくという意。 ここでは仏の救いにあずかることをいう。
地体 本来の姿。 本性。