◎一枚起請文
*源空述
もろこし (中国)・わが朝に、 もろもろの智者達の*沙汰しまうさるる*観念の念にもあらず。 また、 学文をして*念の心を悟りて申す念仏にもあらず。 ただ*往生*極楽のためには*南無阿弥陀仏と申して、 疑なく往生するぞと*思ひとりて申すほかには別の子細候はず。 ただし*三心・*四修と申すことの候ふは、 みな決定して南無阿弥陀仏にて往生するぞと思ふうちに篭り候ふなり。 *このほかにおくふかきことを存ぜば、 *二尊のあはれみにはづれ、 本願にもれ候ふべし。
念仏を信ぜん人は、 たとひ*一代の法をよくよく学すとも、 *一文不知の愚鈍の身になして、 *尼入道の無智のともがらにおなじくして、 智者のふるまひをせずして、 ただ一向に念仏すべし。 *為証以両手印
沙汰 議論すること。
観念の念 観念の念仏、 すなわち阿弥陀仏の相好功徳を観ずること。 口称念仏に対する。
念の心を悟りて 念仏の功徳や意味を詳しく知って。
思ひとりて 思いさだめて。
このほかに… 念仏して往生すると信じること以外に、 奥深いことを存知するなら。
一代の法 釈尊が一生の間に説いた教法。
尼入道 尼とは女性の出家者を指すが、 ここでは在俗生活のまま髪をおろして仏門に入った女性をいう。 入道は在俗生活のまま剃髪して仏門に入った男性をいう。
為証以両手印 大事の証文であるから両手の印を押したという意。 原本には本文の上に両手の印が押してある。
*浄土宗の*安心・*起行、 この一紙に至極せり。 源空が所存、 このほかにまつたく別義を存ぜず。 滅後の邪義をふせがんがために、 所存を記しをはりぬ。
*建暦二年正月二十三日
源空 (花押)
建暦二年 1212年。 法然上人八十歳。