1033蓮如上人御遺言

 

蓮如れんによしやうにん遺言ゆいごんむねをもて、 きやうだいちう仏法ぶつぽうけんまん同心どうしんきやう田舎いなかともにべきまふし談↡だんずよしすでに ぜんにをひておんへんまうしあげさうらううへいさゝか可↠べからあるはひさふらふ

-万一ばんいちこん已後いごにをひて、 うち人等にんとう中事なかことまふすやからあらこれよら仁体↡じんたいにいだしきゝいだしいそぎせうべくまふすさふらふ其時そのときかたくべくある糺明きうめいさふらふこん已後いごにをひては、 をのをの先非せひをあらためて、 老少らうせう男女なんによともに仏法ぶちぽうにこゝろをいれて、 このときよりいよいよ安心あんじんけちぢやうせしめて、 あひたあがひに談合だんがう肝要かんようこと

 べきちやう条々 でうでうのこと

(1)

一 本尊ほんぞんならびにえいとうこと、 わたくしとしてあんまふすべからず、 またかきまふすべからざること

(2)

一 過分 くわぶんの振舞ふるまひ過分 くわぶんのしやうとう可↢すべきちやうこと

(3)

一 於↢おゐてきやうだいちう↡、 きやう田舎ゐなか年始ねんしの御礼おんれゐちやうこと

(4)

一 きやうだいちうとくとき御礼おんれいおんぢうばかりべくまふすさふらふ各々おのおのえはちやうおなじくによしようしゆつとき同前どうぜん

(5)

一 よりもんちう心ざし御時おんときこと代物だいもつだい可↢すべきよう↡事。

1034(6)

一 直参ぢきさん ならびに もんちうたがひ引取ひきとるだいかたく可↢停止↡事。

(7)

一 於↢おゐて に↡、 中陰ちうゐんぶつ、 又はいさゝか心ざしときれんぎやう停止之事。

(8)

一 付↢つゐてぶつじに為↠ためにこのぐわつことに於↢ おいては幼少 ようせうの者↡ものにねん不↠可↠然事。

(9)

一 いつちう御門徒中へきよじやうちやう事。

(10)

一 より↢御門徒中↡、 御飯おんめし可↠申次第、 いつゝさいふたつじるつぎべきたる三菜みつさい↡事。

(11)

一 おん留守るすことこうともに停止之事。

(12)

一 太刀たちかたな金作こがねづくり、 停止之事。

(13)

一 よろづもちだう以下いげ過分くわぶんに用意、 可↢停止↡事。

(14)

一 きやうだいちうおんきやうのぼりとき御樽おんたるられまいらせさふらふ事、 こうともに可↢停止↡事。

(15)

一 きやうだいちうじやうらくときわたくし御宮おんみやかたく停止之事。 おなじく於↢おいて田舎いなかに↡も、 あひたがひそのおんこゝろべき被↠成なさる事。

(16)

一 就↢つゐて所縁しよえんぎに↡、 しやうもちそくとう奔走ほんそう可↠べから然。しかる こう共にかたく可↢停止↡事。

(17)

一 髪置かみをきをびなをし眉金まいかねとうとき別而べっしてイワヰ奔走ほんそう可↠べから然。しかる 已後いごようしやあり、 可↢停止↡事、 いづれにゐなか1035やくなり。

(18)

一 さんときおん太刀たち御礼おんれいまいやくなりたゞしべきある用捨ようしや然者しかれば脇々わきわき田舎いなかかたく可↢停止↡事。

(19)

一 づくりこん已後いござう可↢ すべから結構けつこう↡事。

(20)

一 一切いつさいぜにしよう、 堅可↢停止↡事。

(21)

一 九月九日いわゐ秋あわせ停止之事。 よりときに依↠よつて にべきあるようしかれども脇々わきわき田舎いなかやくなり

(22)

一 すゝはきのいわゐ停止之事。 これ脇々わきわき田舎いなか事。

(23)

一 ねんいわゐもち一種いちしゆべきしかる事。 これ脇々わきわき・又は田舎いなかかく也。

(24)

一 五月五日にかたびら以下いげときさだめよう可↠べから然。しかる たゞし依↠よりて少々せうせうべきあるよう総てそうじては可↢停止↡事。

(25)

一 正月せつ之事、 丹後御申之事者なく余儀よぎ↡、 それ如↢ごとく前々↡ぜんぜんのたい奔走ほんそうやく暮々くれぐれ於↠おゐてわたくしに近代きんだい号↢ ごうして例↡れゐとさんくわい返々かへすがへす可↠べから然。しかる より此時このときあるちやう者也ものなりたゞし不時ふじさんくわい不↠からずくるし歟。 然者しかれば三菜さんさいべし然。しかる いづれに結構けつこうにをひては、 自他じた可↢停止↡事。

(26)

一 せつ ならびに 朔日ついたち明月めいげつ猪子いのことう、 可↢停止↡事。 たゞし1036依↠よりてところにべきある用捨ようしや↡、 総別そうべつ脇々わきわき田舎いなかやく也。

(27)

一 かん仁体じんたい以↢もつて人↡にんを侘言わびごと申事、 前々ぜんぜんありこれごん道断だうだんだいなりもつとも於↢おいて一流いちりう背↢そむく法↡ほうに者也ものなり所詮しよせん於↢おいて已後いごかたく可↢停止↡事。

(28)

一 hai之事、 ばうたちうへに、 又若党わかたうぶんじやうをしむる事、 近年きんねんみだれがわしき次第也。 以後いご堅可↢停止↡事。

(29)

一 にんゆふにすることいちきずなり。 こん已後いごおのおのなしそのこゝろえを↡、 こうともに如↠ごとくかくの次第、 堅可↢停止↡事。

(30)

一 於↢おいて一流 いちりうの中↡なかに為↢ためにびやう人↡にんの加持かぢたふとうざる可↠べからあるだひ也。 堅可↢停止↡事。

(31)

一 きやうだいちうきやうのぼりとき御礼おんれいもつのだひおんぢうへ百疋、 其外そのほか五十疋・三十疋・二十疋、 此うへ過分くわぶん可↢停止↡事。於↢おいて田舎↡いなかに強てしゐて 五十疋・三十疋・二十疋之あひだべし然。しかる 殊にことに それ随↢ したがつて分斉↡ぶんざいにべき振舞ふるまふ↡事。

(32)

一 女方によかた調てう犯↢おかす妻↡さいを事、 堅可↢停止↡事。

(33)

一 うへとして免許めんきよなきことを、 わたくしとしてみだれがはしくけんのごとく、 ほしゐまゝに、 いさゝかのちがひもあれば、 たやすくたうアタツテトキニさいべつすることこれあり。 あさましあさまし。 これしかしながら一向ゐちかう栄耀ゑいようのあまり所詮しよせんきやうこうにをいては、 かたく停止すべき事。

(34)

一 ばう召仕めしつかはれさふらふおんにようばうしゆことにおん乳人ちのひとををかし申す仁体じんたいこれあり。 ごん道断だうだん狼藉らうぜきなり。 あまつさへにようばうに申しうくる事、 一段いちだんくわんたいなり。 如↠ごとくかくの条々でうでう於↢おいて已後いご、 堅可↢停止↡事。

1037(35)

一 国々 くにぐにのばうしゆ就↢つゐて宿々やどやどへ御申之ぎに↡、 御出をんいでとき御飯おんめしようだひべしたる内人うちじんばかり↡、 其外そのほかことごとくべきある↢停止↡事。 就↠ついてそれにさいていべきしかる事。

(36)

一 於↢おいてりうの中↡なかに仏法ぶつぽうおもてとすべき事勿論もちろんなり雖↠ いへどもしかりとけんじゆんじて王法わうぼうをまもる事は、 仏法ぶつぽうてられんがためなり。 しかる仏法ぶつぽうをば次につぎに して王法わうぼうほんこゝろうる事、 たうこれ多しおほし もつとも可↠べからしかる次第也。

(37)

一 ばうさうときもんとしてだうぢやう退たいしゆつさせ、 あまつさへ在所ざいしよ追放ついはうし、 とうりやうしゆつけ既にすでに しやうがひおよぶべきざう、 これまたもつてのほかあやまり邪見じやけんの次第也。 堅可↢停止↡事。

(38)

一 一流いちりうほうにをひて、 一心いちしんけつぢやううへには、 いかやうのあくをもおもひのまゝに振舞ふるまふともざる苦 くるしからよしたう沙汰さたするともがらこれおほし、 もつてのほかあやまりなり。 もつとも一宗いちしゆきんかつうはう招くまねく もとひなり。 こん已後いごかたくこれおもむき可↢停止↡事。

(39)

一 うへ就↧つゐて可↠べきにらる↢申いれぎに↥、 たん為↢として内人うちにん↡、 毎々まいまいきやうだいちうまたもんしゆぜんおつあらこれきうめいせ実否じつぴをすみやかに被↠らるゝいれ御耳↡おんみゝに前々まへまへありこれ可↠べから然。しかる おのおの雖↠ いへども存、 ぞんずるといまところ堪忍↡ かんにんする也。 こん已後いごは、 さいりやうはうともにられ聞分きゝわけ↡、 涯分がいぶんべしある教訓けうくん↡。 なをもつてなくしようゐん其時そのとき自他じたされいた談合だんがうべしあるろう↡。 如↢ごとく前々↡まへまへのれう申事、 より此時このとき↡堅可↠有↢停止↡者也。

1038(40)

一 蓮如れんによしやうにんぞんしやうときすでにまひぎよきやうだいちうあはする事を為↠としてわたくし及↢およぶ是非ぜひ題目だいもく前々ぜんぜんありこれごん道断だんだんだひなり如↠ごときかくの自他じたくわいもとゐなり所詮しよせん於↢おいて已後いご者、 たんおなじく内人うちにん被↠成 なされ その心得こゝろえ就↢ついて仏法ぶっぽう間↡けんに聊爾れうじにかべしよう沙汰さたもつとも可↠べから然。しかる 雖↠ いへどもしかりとあら存分ぞうぶんむねいそぎきこし召分めしわけきやう田舎 ゐなか 有↢あつておん談合だんがう↡、 はん↡候。 暮々くれづれ雖↠ いふとも為↢たりときやうだいちういち↡、 内人うちにん致↢いたさ中事なかごとかならず於↢おいて已後いごくわいよしかたく御懇ねんごろに、 三月九日於↢おいて八時たしかに対↢たいしきやうだい中↡ちうにところ遺言ゆひごん歴然れきぜんなりもし万一ばんいち於↣おいてあひ背 そむくに此旨このむねながくみやう蒙↢かふむるばち者也ものなり

みぎ条々でうでう任↢まかせ遺言ゆいごん旨↡むねにきやうだいちう談合だんがう被↢らるゝ定↡さだめうへ於↢おゐて末代まつだい子々しし孫々そんそん可↠べからはひ↡。 もしこのおもむきしよういん仁体じんたいこれ幾重いくゑも自他じた預↢あづかる南↡なんにところたのみてぞんずるなり就↠つゐて其、それに たん一類いちるい内人うちにんおなじく於↢おゐてもん中↡ちうにあひまもる此旨↡このむねを者也ものなりよつてところさだむる如↠件。くだんのごとし

*明応八年 つちのとひつじ 四月廿五日

実如じちによ
 蓮綱れんかう
 蓮誓れんせい
 れんじゆん
 れん
  蓮応れんおう

 

底本は龍谷大学蔵万治元年書写本。